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君のいる、午后の教室 8

2015.07.17(23:41) 153

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Snow Blossom


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君のいる、午后の教室 7

2015.07.12(23:43) 152




「入江、おまえは今日、北高との練習試合行かないのかよ?」

「なんでおれが?」

午後3時半ーーA組教室。
帰りのHRの連絡の後、琴子は渡辺が直樹に話しかけているのを、教壇の上からついつい耳をダンボにして聴いていた。

「だって、テニス部のエースだろ?」

「おれ公式戦しか出ないって約束で入ってるし」

「入江くん行かないなら、あたしも行きたくないんだけど」

松本裕子が鞄に教科書を詰め込みながら少し剥れたように直樹に訴える。

「だいたい授業終わってから他校に行くのって面倒じゃない。そーゆーの土曜か日曜にしてほしいわよね。須藤キャプテンが交渉してきた試合でしょ? ったく、向こうの都合で押しきられたのありありなのよ」

随分鬱積しているようだ。

「松本が行かねーと須藤キャプテンがぐれて、一年たちがむやみやたらに当たられるぞ」

「松本さんが行かないと、女子部は他に強い人いないからすぐに負けちゃうでしょ」

「松本、北高の杉谷と戦いたいって云ってたじゃん」

渡辺と直樹が二人してあれこれとなだめ透かして松本の機嫌回復を試みる。
渡辺は素直に思ったことを口にしているだけだが、直樹の思惑は別なところにあった。
1年生も補欠も全員応援で参加しろと云われているから、今日テニス部員は全員揃って隣町の高校へお出掛けだ。それを分かっていて琴子を部室に誘ったのだ。一人松本に残られては困る。

「……そうなのよ、去年の新人戦で、杉谷さん故障なんてしちゃうから結局対戦出来なくて……」

なんでも中学以来の因縁のライバルらしい。

「せっかくのチャンスじゃん。頑張って。 早くしないと集合時間に間に合わないぜ」

忌々しいくらいにこやかに手を振っている直樹に、微かに顔をしかめて、松本はばたばたと教室を去っていく。

声をかけてくる生徒たちととりとめもない会話をしながらも、直樹たちのやり取りをついぞ聞き入ってる琴子である。

ーーなんか、いいな……クラスメイトって。

絶対割り込めない空気感がそこにあるように思えた。清里では高校生なんて思いもよらなかった直樹が、ちゃんと高校生に見えてくる。

「先生? 聴いてる?」

「 え、あ、ごめん」

琴子に話かけていた生徒がムッとした顔で問いかけた。

「先生、斗南大の国文科なんでしょ? 偏差値どれくらいなんですか?」

「えーと、どれくらいだっけ?」

偏差値など既に覚えていない。そんな3年以上も前のこと。

「何だよ、小早川、おまえ斗南の国文行く気かよ」

「まさか! いくらA組の底辺のおれだってそこまでハードル下げねーぞ」

し、失礼ね! と内心思いつつ「誰か斗南の国文科狙ってるの?」とにこやかに訊いてみる。

「おれの彼女がF組なんだけど……国文くらいしか行けないって云ってたから」

「げーっ小早川、おまえいつの間に彼女なんて! しかもF組?」

「馬鹿、大声出すなよ、佐竹!」

そんな会話をしていたせいか、いつの間にか琴子の回りには生徒が集まってきていた。

お堅いA組といえど恋バナには興味があるらしい。

琴子はちょっと微笑ましく思いながら、話を聴いていた。

「彼女って誰だよ」

「三沢恵梨だよ」

「えーうちの学年一番の巨乳じゃん。馬鹿だけど」

「馬鹿だけど可愛いだろーが」

「でも、F組の女なんて話合わねーだろ?」

「いや、意外とそうでもないぞ。実は吹奏楽部で一緒なんだけど、フルートめっちゃ上手いし。音楽の好みも一緒だし」

「そう! そうなのよ! 頭の良さなんて関係ないの。ようは相性なのよ。趣味や好みや性格が合うかとか、あとはハートなの。そこに愛があるか、なのよ」

琴子が力説を始めた。

「AとかFとかどうでもいいことよ。愛さえあれば乗り越えられる距離なのよ」

4部屋分、50メートルほどの距離だけどね。
誰かが小声で突っ込んだ。

「先生、カレシいるの?」

周りにいた女子が唐突に訊いてきた。

キターー!
絶対訊かれるというこの質問!

「それは、もちろん ……ヒ・ミ・ツ」

指を一本立てて、ふふっと笑ってウィンクしたつもりだが、
「先生、両目つぶってる」と上から声が降ってきた。

「い、い、入江くん!」

「先生、早いとこ職員室に行って明日の授業の指導案を作成しないと行けないんじゃないの?」

「 あ、あーーそうだった!」

教室の時計を仰ぎ見た拍子に、教壇の上のファイルをばさばさと落として、直樹に拾われる。

「どんくせぇ」

「うっ……うるさいわねー」

そう言い返している時、直樹がファイルに何か小さなメモを滑り込ませるのが見えた。

……どきっ。

「じゃ、じゃあ、みんなっまた明日!」

妙にぎこちなく、手を振って琴子はそそくさと教室から出ていく。

「……なんか、可愛いよなー琴子先生」

佐竹の呟きに、「まあ、確かに」と渡辺が同調する。ちらりと横目で直樹の様子を窺いながら。
親友の眉間は明らかに皺が寄っている。
そして、微かな冷気が………

「たいした趣味だな、おまえら」

ふっと鼻で笑って、直樹は鞄を持って教室を出ていこうとした。

「なんか彼女、F組でも相当人気らしいぜ。今日の号泣授業が可愛くてかなりインパクトあったらしい」

「ふーん。おまえ、やけに情報通なんだな」

ふっと笑って渡辺を見る直樹の眼に微かに剣呑な光を感じたが、何も云わずに親友が出ていくのを見送った。

「ま、入江は興味ないよな、教生なんて」

佐竹と小早川が肩を竦める。

「当たり前じゃない。入江くんが、あんな頭悪そうな年上女に……」

女子生徒の一人が辛辣な口調で舌打ちする。

「それはどうかな……?」

「なんだよ? 渡辺」

「いや……」

少し楽しそうな笑みを浮かべて、渡辺は親友が出ていった教室の戸口を見ていた。










琴子が職員室に戻って、直樹の差し込んだメモを確認すると、それにはテニス部の部室への行き方を書いた地図だった。
なるほど広大な斗南高校の敷地である。部室に来いと言われた時点で、部室の場所など全く把握はしてなかった。
琴子の方向音痴を十分認知したうえの完璧なフォローである。(おそらく、出会った清里で思い知ることが多々あったと思われる)

第2運動場の北側に立ち並んでいるクラブハウスは、2階建てのアパートのような造りになっていて、8つ程の屋外スポーツクラブの部室となっていた。主に一階が男子部で二階が女子部。更衣室としても使っているので、着替えなどを覗かれないためにだ。
男子テニス部は、A棟の一番左端、一階だった。

ーー来いって……ことよね?

生徒会室で、視聴覚室で、印刷室でーー遠慮なく押し倒されかかった身としては、そんな誰も部員のいないという部室に二人きりなんて、危険極まりないであろうことは予想できた。
印刷室ではかなりヤバイ状況だった。
次にあんなことされたら、確実に流されてしまう。
間違いなく。
あんな風に触れられたら拒否なんて出来ない。

…………………いやーん。

思い出して一人で赤くなる。
まずい。
それはすっごくまずい。
知らなかった時はともかく、今は先生と生徒なんだし!

ああ、でも、でも。

忘れてなかった。
ちゃんと覚えてて、会いたいと思ってくれていた。
会いに来ようともしてくれていた。

そのことが例えようもなく、心を温かくさせてくれる。
思い出すだけで自然に顔がにやけてしまう。

「何、一人で赤くなったりニヤついたり薄気味悪い百面相をしているのよ?」

教室から戻ってきた幹にばしっとバインダーで頭をはたかれた。

「いたーい」

「あんた、部活は行かないの?」

幹に問われ、部活……部室……とすぐに連想して顔が赤くなる。

「また顔、赤いわよ。熱でもあるんじゃない?」

「だ、だ、だ、大丈夫よっ」

焦りつつも、それを誤魔化すように「モトちゃんはどの部に行くの?」と訊ねる。

「アタシ~~? 入江直樹が居るならテニスにしようと思ったけど、居ないならどうでもいいやって感じなのよね。真里奈はNo.2のイケメンがサッカー部にいるからそっちに行くっていってたけど。智子は生物部だそうよ。外に出るのも日焼けしちゃうし、暑苦しいから、いっそ美術部にでも行こうかしら? あたしこれでも芸術的センスはあるのよー」

「そ、そうなんだ」

「で、あんたはどうするの? 部活」

「えーと。清水先生、意外なことに水泳部の顧問してるの。そっちに行ってみようかな……」

最初聴いたとき、余りにもイメージとかけ離れていて驚いた。現国だし、書道部あたりの顧問かと思っていた。
実は自由形で全国三位になったことがあるらしい。確かに完璧なフォームできりっと泳いでいる姿、想像出来なくもない。

「まあー水泳部! それいいわね! 若いぴちぴちした肉体美を拝み放題じゃない。アタシも行こうかな」

斗南のプールは屋内温水プールである。水泳部はインターハイ常連で、OBには全日本の強化選手も輩出している。もっとも、こうしてスポーツで突出しているのは元々スポーツ推薦で入学しているF組の生徒が多い。

「施設も最新だし。高飛び込みも出来るのよね」

さすが私立だねーと感心する。
琴子のいた都立高校は更衣室が薄汚い残念な感じの屋外プールしかなかった。

「今から行く?」

幹の問いかけに、「あ、今日はちょっと……」と、慌てて断る琴子である。

「また、今日も指導案書かなきゃ、だから……」

「そうなの? じゃあ、一人で行ってこようかなー屋内プール」

そう言ってにんまりと妖しい笑顔を見せてから、いそいそと職員室を出ていく幹の背中を見送って、琴子も周りをキョロキョロ見渡して立ち上がった。

ーー入江くん、待ってる……かな?

とりあえず行かないという選択は琴子の中にはない。

会いたいものは会いたいし。

そう、そういう関係じゃなけりゃ、いいのよ。

兎に角、なんとしてでも直樹と話し合って、ここは上手く2週間乗りきりましょうと提案しなくては!
そう、2週間なんてあっという間なんだから。
入江くんにはぐっと我慢してもらって……危険な行動は慎んでもらうよう説得せねば………。

そうよ、だってあたしは先生なんだもん!



琴子は直樹の書いてくれた地図を頼りに、校舎を出るとクラブハウスの方に向かっていった。





『男子テニス部』とプレートの掲げられた部室の扉を開けると、微かに運動部特有の汗臭さを感じた。
室内は意外と整然と片付けられている。
鍵付きの灰色のロッカーと、ラケットやボールなど備品が置かれた棚が壁の殆どを埋めていた。
その部屋の真ん中に革の表面が剥げ落ちた古びた黒いソファがあり、その肘掛けに長い足をのせて横たわっているのはーー。

「入江くん……?」

「おせぇよ」

直樹はソファに寝そべってペーパーバックを読んでいた。
栞を挟んでガラス張りのサイドテーブルの上にその洋書を置く。

入ってきた琴子が入口あたりに突っ立っていると、「ちゃんと鍵閉めろよ」と立ち上がって、すたすた琴子の方に歩いてくると、かちゃりと扉の鍵を締めた。

「あーーダメよっ! 鍵なんてかけちゃ!
疑われるでしょっ」

慌てて琴子が鍵を開ける。

「は? 疑われるって何が?」

また、直樹が鍵をかける。

「こんな密室に、教師と生徒が鍵をかけたまま居たなんて知れたら、それだけで有らぬ噂をたてられてしまうじゃない」

もう1度琴子が鍵を開ける。

「鍵をかけようがかけまいが、この部屋に二人でいることを見られた時点であらぬ噂は立つわけだろ?」

直樹がまた鍵をかける。

「たとえば、ここで二人仲良くトランプをしていたところに、鍵がかかってなかった故に誰かが突然入ってきたとする。トランプをしていただけ、とにっこり笑って答えたって、もう、明日には有らぬ噂が学校中走り回っているよ。なんといってもおまえとおれが二人で居ることが余りにも不自然すぎる」

「そ、そう?」

「おまえがもうこの部屋に入っちゃった時点でアウトなの。だったら、誰にも部屋に入られないように鍵をかけておくべき」

何だか言いくるめられたような気がするが、ちらりと鍵のかかったドアを眺めてから諦めてそのままにしておく。

すると。

「あれ? 今日テニス部みんな居ないんだよね?」

「ああ、確か練習試合って……」

扉の外で誰かが歩いている。その足音も話し声も丸聞こえだった。

「いつも窓、こんなにしっかりカーテン閉めてたっけ?」

「女子が怒るから着替えてる時はカーテン閉めてたと思うけど、普段全開だったような」

「……だよなー。珍しく閉まってる。誰かいたりして………」

「……誰かと誰か……?」

「ぷぷっ……何想像してんだよ」

「……いや、使ってる奴多いって話じゃん……」

だんだん声が遠退いていく。

「……丸聞こえじゃないっ……しかも既に怪しまれてて!」

直樹の耳元に顔を近付けて、琴子が小声で訴える。

「大丈夫、声を押さえれば。鍵さえかけときゃ、絶対入れないわけだし、バレない」

「ダメよっ! 絶対盛り上がったら声でちゃうもん!」

「へぇーー」

意外とちゃんと自分のこと分かってるじゃん、と直樹は琴子をまじまじと見る。

「……で、どこにあるの? トランプ。二人だとやれるの限られちゃうわよね」

「は?」

きょろきょろと棚やら引き出しのあるラックなどを探し始める。

「……誰がトランプをやると……」

「え? さっき言ってなかった?」

「物の例えだ!」

「そ、そうなの? ーーでもいいじゃない。トランプ! あたし、スピード得意なのよ!」

再び探そうと引き出しの中を開けようとする琴子を、背後から抱き締めようと直樹が後ろにたった瞬間ーー

「あーーっ こ、こ、こんなものがっ」

「琴子っ声でかっ」

口を押さえようとした直樹の前に突き出されたものーー

『女教師と生徒! 危ない放課後ーー淫靡なスクールラブパニック』

「何? このDVD……」

差し出されたDVDをため息混じりに受けとると、「須藤先輩のコレクションだよ。男子部の部室なんて何処でもこれくらい転がってる」といって、元のところに戻した。

「……入江くんも観たの?」

「ここで上映会やってたからね」

「観たんだ……」

何故だかガックリしている琴子に、「観たけど何にも感じなかった。他のやつらがあんな演技になんで興奮してんのか意味わかんなかったし」と言って抱きすくめながら、耳元で「琴子にはすぐ欲情するけど」と、囁く。

「え………」

顔をあげた瞬間に唇を塞がれる。

「……う……ん」

直樹の唇と侵入してくる舌の熱さに危うく溺れそうになりながらも、辛うじて顔を背けて理性を呼び戻させる。

「ま、待って……入江くん。ちゃんと話そ」

「やだ。待てない」

「そんなー」

眉尻を下げて至極困った顔をする琴子が可愛くて、思わず鼻の頭にキスをする。

「……何、話すの?」

直樹が話をする気になったことにほっとした琴子は、気が変わらないうちにと焦って話し出す。

「あのね、あのね、あのね! 」

教師が生徒に話す口調じゃねーな、と内心笑いつつ。

「あたしたち、あと2週間は健全に過ごしましょう! お互い、教師と生徒になるなんて知らなかった訳だし、清里でのことは仕方ないと思うのね。でも、今はやっぱりいけないと思うのよ。道徳的に。純真な高校生を大人の色香で惑わしてしまって申し訳ないとは思うけど、ここは一つ入江くんも理性的になって欲しいの」

一気に捲し立てる琴子の台詞に、思わず直樹は吹き出す。

「お、大人の色香……ウケる……何処にあるんだよ、そんなもん」

声を出さないように必死に笑いをこらえているようだが、肩を震わせ笑い噛み殺していた。

「……ない?」

「ないよ、そんなもん」

「 じゃあ、なんでそんなにヤりたいのよー」

「だって、琴子だから」

「へ?」

「琴子が欲しいから」

「///////※●$%#!!!」

あまりなストレートな物言いにずるずるっと床にへたりこんでしまう。

「ちなみにおまえの提案する健全な付き合いってのはどうするの? 2週間、お互い無視しろと?」

「 そ、そうじゃなくて。例えば学校終わった後、家に帰ってからゆっくり電話するとか………」

「却下。おれケータイ持ってないし、持つ気もないし。家の電話だと滅多に電話なんてしないおれが長電話してた日には、おふくろに怪しまれる」

「……そうなの……?」

「おふくろにばれたら一番面倒」

「え? でも、清里で会った時はとっても気さくで優しそうなお母さんで……」

でも、そりゃ5つも年上の教師となんて誰でも反対するよね、と思い直す。

「違う、逆。おふくろ、おまえのこと気に入ってたから。関係がばれたらソッコー結婚することになる」

「ええっ?」

「まあ、おれはまだ1年ちょっとたたないと入籍は出来ないけど。事実婚はさせられるかも。しかも同居確定。それはそれでいいけど、おれとしては嫁を扶養できないうちは結婚する気はないから」

「け、け、け、けっこんっ?」

「おふくろが入ってくるとそうなるってこと。でもまだそーゆーの考える気ないから」

「う、うん。当然よ……まだ高校生なんだし」

「でも……一応いろいろ考えてるから」

「いろいろ?」

「そう、いろいろ」

出来ればその『いろいろ』を具体的に上げて欲しい……そう思っているところに。
突然ふわっと、身体を抱き上げられた。

「えっ?」

抱き抱えられたまま、ぽんっとソファの上に横たえられて。

「ーーということで」

「……へ?」

琴子の上に直樹が覆い被さる。

ーーどういうことでしょう?

「健全な付き合いは無理」

にっこり微笑む。
滅多に見せない極上の笑み。しかもぼうっとなるほど綺麗な顔が、どんどん迫ってきてーー。

重なる。

唇が触れ合って、息が混じりあって。

「大丈夫。おれの理性は十分保たれてる。おまえに声を出させないようにとか」

直樹はポケットから小さな包みを出してテーブルに置く。

「こんな準備も怠りないから、安心しろ」

びっくり眼で口をはぐはぐさせている琴子の顎をしっかりと捉え、唇をもう1度深く塞いで。
直樹の手はゆっくりと琴子の身体をまさぐりはじめていたーー。








※※※※※※※※※※※※



いやーこんなところで止めちゃってごめんなさい!
一応次回は限定のつもりなんですが(^^;



私信
むじかく様! 日曜には後追いコラボで部室えろアップしますっ! とメールで語ってしまいましたが、えろまで行きませんでしたぁーー(T.T)

次、がんばります。
………って、また寸止めだったりして?


いろいろ教室えろのシチュエーションを語りあって楽しかったです。同時には難しいですが、あちらの『秘蜜』とひっそり追っかけコラボしてるかもしれません(^w^)
教室の布石はあれこれ置いてみましたが、どれだけ拾えるでしょうか……^-^;

……しかし……次回限定じゃなかったら、やっぱり部室えろはハードル高かったんだな、と笑って下さいf(^_^)













Snow Blossom


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君のいる、午后の教室 6

2015.07.04(01:51) 149



4 実習2日目


「相原先生! 授業中に教師が号泣してどうするんですか!」

琴子の初めての授業は、1限目の
2のFにて行われた。
その緊張と緊張と緊張に終始した、生まれて初めての授業を終えたばかりの琴子の上には指導教諭の清水の叱責が降り注がれていた。

「だって……だって……」

琴子の目は真っ赤である。鼻はぐずぐずで、握りしめたハンカチはグショグショだ。

「この『永訣の朝』、反則ですぅ~~! 泣かずして解釈できる筈ないじゃないですかぁ~~」

『永訣の朝』ーー詩人にして、童話作家、宮沢賢治の処女詩集『春と修羅』に収められたその一編の詩は、病床に臥していた妹とし子が天に召された日の朝を詩ったものである。
もう、そのシチュエーションだけで十分琴子の涙を誘ってくれる。

「もう、『あめゆじゅ とてちて けんじゃ』のところで条件反射的に涙が出てきてしまって~~」

再び泣き出す琴子に、清水はため息をついた。

ーー昨日はこの詩の意味もろくにわかっていなかったクセに。

国文学部のくせして宮沢賢治の詩といえば『雨ニモ負ケズ……』くらいしか知らないという呆れた知識だった。
昨日の放課後、指導案を書くために、色々資料を紐解いて、ようやくその内容を知り、そして指導案を書く前に既に涙をポロポロ溢れさせていたのだ。
呆れかえる清水の指導を受けて、なんとか指導案を完成させ、今日初めての授業をするために教壇にたったわけだがーー。


『あめゆじゅ とてちて けんじゃ』

雨雪をとってきてちょうだいーー

「だって、とし子は、死に行く妹に何もしてやれなくて無力感にうちひしがれている兄の為に、最期の仕事として、降ってくる雪を取ってきてって頼むんですよね……
兄は外に飛び出して必死になって欠けたお椀に雪を入れて……兄は妹のために……妹は兄のために……うっうっ……なんて健気で切ない兄妹愛……」

視聴覚資料の中にあった岩手の農家の写真や、プロが読んだ正しい方言イントネーションの朗読テープを聞かせながら、その光景を生徒たちに思い浮かばせていた琴子だったが、妄想力たくましい琴子は、生徒たちにこの情景を読み解かせている間に自分がとっぷりと感情移入してしまい、後半は殆ど授業にならなかったのである。

「………まあ、視聴覚資料を使っての授業はなかなかいいアイディアね。特に読解能力の弱いF組の子達にとっては、かなり解りやすい導入だったと思うわ」

「ほ、本当ですか?」

初めて清水に誉められた。

「他にも資料が欲しいなら図書室も探すといいわ。視聴覚ライブラリーは資料室より充実していると思うから」

「は、はい!」

「次はC組よ。今度は泣かないように」

「…………はい」










「で、C組の授業は何とか持ちこたえたわけね」

さて、恒例のランチタイム。
教生仲間とゆっくり話せるのはこの時間しかない。

「うん、まあね。……泣かずにはすんだの。ただだんだんC組ともなってくるとみんな賢くって。けっこーあれこれ突っ込まれちゃって……」

お弁当をつつきながら若干凹み気味の琴子である。

「あんたA組の授業はもっと怖いわよー多分」

意地悪く笑う真里奈に「うっ………」と、机に突っ伏す。

午後1の授業がA組である。

「A組はもう大分先に進んでて導入部は終わってるから、視聴覚資料も使えないし。もう、淡々と進めてくしかないみたいで」

ドキドキする。
A組相手に授業をするのも、直樹に会うのも。

「そういえば………昨日何時までやってたの? 指導案作り」

幹が訊ねた。

「えっと……結局10時は過ぎてたかも」

「わー初日から頑張ったわね」

「お前、そんな遅い時間に一人で帰ったのか? 大丈夫か? 俺も残ってやろうか?」

啓太の言葉に慌てて、「大丈夫! 昨日は清水先生に車で駅まで送ってもらったの。遅くなるときは清水先生も一緒だし」と、きっちりお断りする。

「 はあ……でも先生ってやっぱハードワークだよね」

「そうだね。昨日もあたしたちより遅い先生何人もいたもの」

「アタシの指導教諭なんて、五時過ぎたらいつの間にか消えてたわよ」

「ガッキーね。あたし、誘われちゃったわよ」

真里奈の言葉に、琴子は慌てて、「ダメよ、絶対誘いにのっちゃ!」と訴える。

「乗らないわよー教師なんてもう、対象外」

「あんた、自分の指導教諭にも言い寄られてたわね」

「船津? さらにナイナイ」

「うちの指導教諭も有り得ないんですけど」

智子の参入に、「あの、爬虫類?」と琴子は思わず声を出してしまう。

「何だか格好いい男の子にばかり丁寧に指導してるようで……気持ち悪くって」

「そ、そっち系?」

「やたら2Aの入江くんの話題を振ってきて。授業でもすぐ生徒を入江くんと比較するようなこと言うんです」

「わーそれ、教師としてもどうなのかなー?」

「大丈夫かしら、あたしたち……」

「……とりあえず、単位さえもらえればいいんだけどね」

「おまえら、そんな単位のためだけなんて、なんて言い草だっ! 時間を割いてくれる先生や生徒に申し訳ないと思わないのか!」

「啓太! 暑苦しい!」

そんな風にみんなと和気藹々と過ごしていると、午後からのことを考えずにすんで少し一心地ついた。

すると。

コンコン、とノックの音が。

ここは教生の食事場所としてお昼だけ使用を許可されている応接室である。
誰だろうとみんなが振り返った時、がちゃりと扉が開いてーー。

「相原先生いますか?」

直樹だった。

「きゃー入江直樹?」

「わっ、噂に違わずイケメン!」

「ねえねえ、なんで昨日テニス部来なかったの? アタシ部活テニス担当しようと思ってるのよ」

がしっと直樹に飛びつかんばかりの勢いで幹がその手をとった。

軽く払い除けながら「おれ、部活は試合しか出ないんで」と、にっこり笑う。

「きゃー、クール」

「い、入江くん、何?」

琴子が戸惑いつつも立ち上がると、直樹は琴子の手をぱっと掴む。そして、
「5限目の現国の準備、手伝うように云われてますので」とぐいぐい引っ張って行く。

「え? え? え?」

みんな何事かと目を丸くしている間に、琴子は連れ去られていってしまった。





「な、何? 授業の準備って……特に頼んだことなかったと思うけど……」

応接室から手を引かれて廊下を引っ張られている琴子は、思わず直樹に問い掛ける。

「あれ? なかったっけ? 例えば資料を印刷するとか」

「……あるけど、それは昨日のうちに……」

昨夜、清水に印刷機の使い方を教えてもらって必要なプリントは全て準備してある。

なのに、職員室の近くの印刷室の扉を開けて、引っ張り込まれた。
そして鍵をかける。

印刷室は四畳くらいの狭い倉庫のような部屋だ。
形状はコピー機と変わらないデジタル印刷機が隅に置かれてある。
職員室には普通のコピー機も置いてあるが、何十枚も印刷する場合は昔の謄写版をデジタル化した印刷機の方が高速で安価なのである。
その印刷機がどんと鎮座しているだけで、あとは何やらファイルが沢山詰め込まれた棚が殆どの壁を覆っていた。空いたスペースは電気ストーブとか置かれほぼ物置きのようだ。
とにかくここは狭い。押し倒されるスペースはない、と内心ほっとする琴子である。
というか、引き戸にはガラス窓がついているから、廊下から狭い室内は丸見えだ。ここなら何も出来ないだろう。

「何、安心してんの?」

ーーすっかり見抜かれている。

「こんなとこにも、ちゃんと死角ってあるんだよね」

引き戸の横に棚があり、その棚の横に丁度人が一人くらい入り込めるスペースがあった。その空間の壁に押し付けられる。

「ここなら棚が死角になって、廊下からは見えない」

「い、入江くんっ」

背中にあたっている壁が妙にひんやりする。窓がなく日の入らない部屋のせいだろうか。
そんなことを思っている隙に唇が重なる。
直樹の身体が密着して、壁にきつく押し付けられ、少し苦しい。
押し退けようともがいてもびくとも動かない。
抗う手を簡単に掴まれて壁に縫い付けられた。
キスはどんどん激しくなり、絡めとられる舌の感覚に酔いしれて、琴子の身体もどんどん弛緩していく。
掴まれた手が解かれると、そのまましがみつくように直樹の背中に廻っていく。
直樹の手は琴子の胸の辺りをさまよいはじめた。
ブラウスの釦の上から3つをあっという間に外すと、そのまま手が差し込まれた。

「……ダメ……って、云ってるでしょ?」

唇が僅かに離れた瞬間に、懸命に言葉を紡ぐ。

直樹の手はブラの中に入り込んで、琴子の小さな胸を直接揉みしだいていた。
胸の頂を指の腹で捏ねられて、「やあ……ん」と小さく喘いだ。

こんなところでーー

職員室のほぼ真ん前の部屋。
大胆にもほどがある。

「昨日……何時まで学校にいた?」

首筋にキスを落としながら直樹が訊ねた。

「え……?」

五感という五感が全て直樹の指先が施す快楽に向けられて、一瞬質問の意味が分からなかった。

「……せっかく待っててやったのに、中々出てこないんだもんなー」

「え? ええー!」

琴子が驚いて、思わず身をよじった。

「待ってたって、何時まで? あたし、学校出たの10時くらいだよ?」

「ああ、なんだ。あと一時間くらい待っててやればよかったな」

「え? じゃあ9時? ダメだよ、高校生がそんな時間までふらふらしてちゃ」

「ぶっどんな健全な高校生だったんだよ、おまえ」

A組の連中はみんなまだ塾にいる時間だし、F組の連中は友だちと遊び歩いている時間だ。

「高校生の頃は夜はお父さんの店でバイトしてたもん」

クラブやらカラオケやら誘惑はいっぱいあったけど、父一人娘一人で心配させることなど出来なかった。傍にいることが安心を与えているのだと分かっていたから、9時までという約束で父の店を手伝っていたのだ。

「今は手伝ってないのかよ? いっぺん、おれ、店に行ったんだけど。おまえいなかったし」

「えっえっえーー!!いっいつー?」

「5月のゴールデンウィーク明けくらいかな。親父と二人で話がしたくて、おまえの店選んだ。もしかしているかな? と思ったけどいなかったし」

父親と少し進路の話をしたかったのは本当。やんわりと会社は継がないと伝えたがはぐらかされた。
それよりは店に琴子がいるかどうかの方が気になっていたので、特に深い話はしなかった。
そしていつの間にか自分の父と琴子の父が同郷だと分かって意気投合。多分あれから父親は何度も琴子の父の店に行ってる筈だ。接待にも使うと云っていた。

「だいたい、おまえだって、家電の番号教えたのに、全然連絡してこねーし」

「え……あー実はあの時の携帯なくしちゃって……」

「……んなこったろうとは思ったけどさ」

呆れたように琴子の頬を引っ張る。

「え、じゃあ……会いに来ようとしてくれてたの? あたしのこと、忘れてた訳じゃ……」

「忘れるか。こんな面白い顔」

今度は両頬をぎゅっと押し潰して琴子の顔をひょっとこ顔にする。

「……大学にも一度覗きにいったかな? ジロジロ見られたからさっさと帰ったけど」

「うそ………」

「嘘ついてどーする?」

「あたし、てっきり、春休みだけ、遊ばれたのかな……と」

「ひでーな。おれ、そんなに軽いヤツに思われてたんだ」

「だって……だって……!」

涙が唐突に溢れてきた。

その涙を掬うように頬にキスをされる。

「流石にその顔じゃ、授業できないな」

くすっと直樹が笑った。

「え……?」

「トイレで化粧直してこいよ。放課後にまた多分、崩すけど」

「へっ?」

目を真っ赤にしてキョトンとした琴子の、乱れた胸元をばっと開いて、ブラからはみ出ていた胸の果実を一瞬ぱくっと口に含んで強く吸うと「ひゃーん」と叫んだ琴子の鼻を摘まみ、「放課後、テニス部の部室に来いよ」と一言告げて、自分はさっさと部屋から出ていってしまった。

琴子はそのままずるずるっと胸を押さえて床に座りこむ。


「な……な……なんなのよー!」

腰砕けになってしまったが、午後の授業開始まであと10分だと気付き、ブラウスの釦をとめて、軽く身だしなみを整えた後で慌てて職員トイレに駆け込んだ。

口紅はすっかり落ちて、涙の痕がくっきりファンデーションの上に残っている。
もう誰もいない応接室に、放置しておいた鞄を取りに行き、こそっとポーチを取り出して化粧を直した。
そして授業開始5分前。
琴子は大慌てで職員室に教科書やプリントを取りに行って、なんとか午後の授業に間に合うことが出来たのである。


無論ーーA組相手に散々な授業ではあったが。
そして琴子を翻弄しまくった張本人は何食わぬ顔をして授業を聴いているのが、妙に小面憎い。

ちょうどA組は『永訣の朝』の単元が今日終わるところで、最後の感想文を書かせるだけだった。
書かせている間は颯爽と机間巡回を、と思っていたのについ直樹の横をすり抜けるのを躊躇ってしまう。
なのでその列を避けていたら、次から次へと生徒から質問を受ける。
どれもコアな質問で、琴子はしどろもどろになってしまっていた。
特に松本裕子。
何度も何度もしつこく質問を繰り返す。
琴子が絶対に答えられない、深く難解な質問を。

琴子が答えに窮していると、結局清水が助け船を出してくれた。

凹む琴子に、ふふんと蔑んだ表情を見せる松本裕子。
直樹は相変わらず素知らぬ顔である。

何だかだんだんムカついてきた琴子は、授業の終わりにこの詩を何人かに振り分けて音読させるつもりだったのだが、出席番号関係なく突然「入江くん、ではこの詩を音読して下さい」と指名して、割りと長めのこの詩を最初から最後まで読ませてしまった。
しかし、方言が多用されかなり読みづらいこの詩を、直樹は一度も噛むことなくすらすらと情感込めて読んでいく。
その低音ボイスに琴子を始めとしてクラス全員うっとりしてしまった。

「……読み終わりましたけど?」

教科書をぱたりとおいた直樹の方を見て、琴子は思い付いてふふっと笑い、
「入江くん、とても素敵な音読だったので、ぜひこっちの次回からやる新しい詩の方も読んでください」と、用意したプリントを配布する。

「はあ? まだ読ませる気ですか?」

「えーみんな、聴きたいよね?」

琴子の問いかけに、これにはみんな頷いてしまっていた。

「では、みんなのアンコールにおこたえして、引き続きどうぞ! 中原中也の『汚れっちまった悲しみに』!」

そして、その後直樹は琴子の用意した副教材の詩を三篇も読まされる羽目になってのであったーー。








※※※※※※※※※※※※


別に賢治フェチでも中也フェチでもないので、解釈は相変わらずぐーぐる先生頼みです^-^;詩人ならC様宅の愛のポエマー直樹さんが一番好きですね(^w^)
いや、高校の現国の授業って何やったっけ?と思い出そうとして、この詩と漱石と鴎外などの文豪くらいしか出てこなかった……古典の方がネタ出しやすかったなーと少し後悔……^-^;


あ、『汚れっちまった悲しみに』にはぜひ、CV平川さんで妄想してみて下さい(^w^)

3つ目の部屋を印刷室にしてしまったのは、小学校のPTAで広報委員をやって、PTA新聞作成する為に学校の印刷室に何度か出入りしてたから^-^;高速プリントにおお、はやーっと感動してました。でも10年近く前だから今はもっといいの使ってるかもね。




流石に毎回寸止めだとネタが尽きてくる気もします。さーて、次、どーしよーかなー?

と、いいつつ。多分、次の更新は西暦シリーズ、七夕ネタです……^-^;





Snow Blossom


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君のいる、午后の教室 5

2015.06.29(23:56) 148



お待たせしました。
おひさしぶりの『キミゴゴ』です(^w^)
あちゃーもう、6月も終わりじゃありませんかっ(°Д°)早いなーっ夏休みもすぐそこですね……^-^;

細かい設定忘れていたので、読み返したら色々ミスを見つけて密かに書き直したりして。きっと他の話もそんなんばっかかも……^-^;




※※※※※※※※※※※※※※※







六限目終了のチャイムが鳴った。

琴子ははっとして顔をあげる。
六限目の空き時間を使って、今日の観察記録をまとめる作業を、職員室の机を借りて行っていた。
隣で指導教諭の清水はノートパソコンで自分の仕事を片付けている。教師は授業の空き時間があっても資料作りや雑用で忙しい。それなのに横でブツブツ頭を抱えて呻いているだけで、余り進んでいる様子のない琴子に、叱責しつつもあれこれアドバイスを与えてくれている。
そんな指導教諭に少し申し訳なく思う。
何といっても本日実習1日目にして、殆どの授業をまともに観察していなかった(直樹の顔がちらついたり、あれこれ思い悩んだり、恋する乙女はそれどころではなかったのだ)ので、観察記録用紙は余白の方が多い。隣から雷が落ちても返す言葉もない。
因みに明日からの授業の指導案も放課後に作成するように云われている。四コマ分の指導案ーー今日中に作るなんて絶対無理だーーっと内心叫びながらも、やるしかない。
終わるまで帰れない……んだろうなぁ、多分ーー。琴子はふうっとため息をついた。

「相原さん。帰りのHR行きますよ」

清水に促されて「は、はいっ」と慌てて立ち上がった。

はーまたA組に行かなきゃなんないんだよね……

自分の担任クラスだから、最低朝と帰りの一度ずつは訪れなければならないのは当たり前なのだが。


直樹の顔をまともに見れるだろうか?

ほんの数時間前の生徒会室での出来事が脳裏を掠め、それだけで顔がかあっと熱くなる。

ーー続きは放課後に……

冗談だよね。
からかってるだけよね。
だいたいここは学校だしっ
そうなの、学校なのよ。お勉強するところなのよ。
恋のレッスンABCなんて……! (←古いっ)ああーそういえばあたし、もうCまで修得済みなのよねっ……ちょっと自慢……って……?

「相原さんっ あなた何処行くの?」

そして、思考に集中するとお約束のように道を間違える。
軌道修正して、やっとA組に辿り着いた。
引き戸を開ける清水に続くと、ざわめいていた教室内が少しだけ静まった。
もうあとは帰るだけという気楽さからか、さすがのA組をも少し高校生らしい無邪気な気配を醸していた。
教室に入るとつい真っ先に直樹のいる席の方に目が向いてしまう。

直樹の横にはまたもやあの美人ーー松本裕子が楽しげに話し掛けていた。

……いつも一緒にいるみたい……
やっぱり……彼女?

少しきゅうっと胸が締め付けられるような感覚を感じた。
全然知らない高校生の彼。
ずっと彼からの連絡を待ち続けていたこの数ヵ月間、彼の隣にはあの松本裕子がいたのだ。

「…………連絡は以上です。あ、渡辺くん」

連絡事項を伝えるだけの簡素なHRの終わりに、清水が声をかけた。

「はい?」

「臨時の体育委員会が今日、4時から視聴覚室であるそうです。来週のクラスマッチのことね。突然の召集で申し訳ないけれど、渡辺くん、体育委員だったわね。よろしくお願いします」

「……げ、おれ塾が………」

渡辺が困ったような顔をして呻いた。

「出られなかったら、誰か代理をたててね」

クラスから一人ずつ選出される各委員を決めるときも毎年のことだが中々決まらなかった。大体A組は行事ごとには無関心だし、余計な仕事が増えるのは勉強に差し障るので、役決めの度に丁々発止の押し付けあいか始まる。
最終的にはクジで選出、何故か運動が苦手なのに体育委員を引き当ててしまった渡辺である。

「………誰も代理なんて引き受けてくれないだろ……?」

殆どの者が塾に行っている。
行っていないのは、多分あいつだけ。
渡辺はちらりと親友の顔を窺ったが、彼は冷たく舌を出していた。
生徒会長をイヤイヤ引き受けた彼がこれ以上別の役割を引き受ける筈がない。
渡辺は塾に行くことは諦めかけていた。

「………あ、相原先生、あなたも体育委員会に参加してくださいね」

「え? 」

「私はクラスマッチの担当係で、梅岡先生が体育委員顧問なの。だから必然的にあなたと鴨狩先生には関わってもらいます。実習中の唯一の学校行事ですしね」

清水が当たり前でしょ?と云わんばかりに琴子の方を向く。

「ーー渡辺。やっぱ、おれ、代わりに出ていいぜ」

「えー? マジ? どうしたんだよ、いったい?」

突然の直樹の申し出にクラス内がざわめいた。

「……どうしたの? 入江くん」

松本裕子も不思議そうに直樹を窺う。

「いえ。今年のクラスマッチは委員会が既存の方針を変更しようとして、紛糾していると。来週の実施なのに未だにルールが確定していないと聴いていたことを思い出したので、ここは生徒会長としてさくっと決めてさっさとケリつけた方がいいかと」

「頼もしいわね。よろしくね」

清水の言葉に、軽く頷いてから、ちらっと琴子の方を見た。
琴子の頬が軽く赤く染まるのを見てにやっと笑う。







そして午後4時、視聴覚室。
直樹の宣言通り、委員会は開始後30分で直樹の助言やフォローによってあっさりと話し合いがついて決着したのである。

「クラスマッチ、来週の金曜日かぁ……おれたちの実習最終日だよなー。なんか、感動的な締めくくりになりそうだ」

まだ始まったばかりだというのに、最終日の感動を予想してふっふっふっと、鴨狩啓太は楽しげに呟く。

「……そうだね」

琴子も直樹の件がなければ、一緒に生徒たちと声を枯らして応援する熱い青春のクラスマッチを妄想していたかもしれない。

突然今日から参加したクラスマッチについての話し合いも、なんのことやらだが。
サッカー、バスケ、バレーボールなどの球技をクラス対抗でやるという、何処の学校でも大抵はあるであろう行事で、何か変わった学校独自のルールがあると言うわけでも無さそうだ。
ただ、毎回毎回成績と反比例した順位結果が出て(つまりどの学年もF組が1位でA組が最下位)分かりきってつまらないという意見もあり、AからCに限って運動部員はその競技に参加出来ないというルールを撤廃しよう(サッカー部員はサッカーを選択できないというのが一般的なルールだが)などと言い出した者がいて、少し揉めていたらしい、ということはだいたい分かった。

そして、直樹の「AからC組にいる運動部員なんて、大して役にはたたないだろ? ハンディにはなんないぜ」の一言であっさり通例通りのままということでカタはついた。実際A組は運動部に属している者の割合が少ないし、2年でレギュラーはテニス部の直樹と松本くらいだった。だが二人ともインターハイ出場レベル。
「おまえが出る競技は予測不能だ」と3年生たちにつつかれて、
「じゃあ、おれと松本は前半しか出ないということで」
共にバスケに出るらしいという二人はあっさりその特例ルールを受け入れて終了。
どのみちクラスの人間はたいしてクラスマッチに興味もないから何も文句は云わないだろう。


「よーし、これから昼休みは生徒たちと汗と涙のクラスマッチ特訓だなっ」

あっさり会議が終わり、がたがたと席を立ち始めた生徒たちを横目に、啓太は瞳に炎を燃え上がらせて随分と楽しそうだ。

琴子もこれがA組でなかったらもっと盛り上がるかも、と少しため息をつく。

「あー、相原。みんなで帰り、飯食ってこうぜ、って話だけど、お前も行くだろ?」

啓太の問いに「うーん、行きたいけど、無理かも」と少し残念そうに断る琴子。

「なんで?」

「だって、あたし、明日から授業だよー? 指導案書くまで帰るなって云われてるの。クラス毎に授業の進捗状況が違うから全部で4コマ分の指導案」

「厳しいなー清水先生。おれも授業あるけど体育だしな。指導案もそんなに時間かからないから空き時間で全部で終わらせたぜ」

「いいなー」

「でも、おまえが終わるまで清水先生も帰れないってことだろ? 頑張らねーとな」

「う、うん。そうだね」

指導教諭の印がなければ完了にならない。自分が早く仕上げねは迷惑かけるともなれば、一刻も早く取りかからなくては、と焦ってくる。


「相原先生」

啓太と話していたところに、声がかけられる。
後ろからの声だったが、誰の声かはすぐに分かった。

「いっいっいっ入江くん、何?」

不自然なまでに動揺している琴子に、一瞬啓太は怪訝な顔をした。
そして、声をかけてきた生徒の顔を見る。

「ああ……君が入江直樹くん?」

「え? 啓太知ってるの?」

「うちのクラスの女子も騒いでたからな。2Aに超絶イケメンがいるって」

鴨狩センセーかっこいい!
彼女いるのー?

女子生徒に囲まれてちょっと鼻の下を伸ばしかかった啓太だったが、「でも、やっぱり入江くんの方がかっこいいよね」「やだ、入江くんと比べちゃダメだよー」「もう、人種が違うもん」という洗礼を朝から何度も受けてきたのだった。


「……で、入江くん……何?」

引きつった笑みを返す琴子に「明日の授業の視聴覚資料を探すんでしょう? 清水先生に一緒に手伝うように頼まれたので」と妙に優しげな爽やかな笑みを返す直樹。

「え? え? ……清水先生は……?」

話が見えずに、清水の姿を捜す。

「清水先生も梅岡先生も部活指導があるからととっくに出ていきましたが? 相原先生は明日の準備をしておくようにと」

「あー、おれも今日から部活指導参加させてもらうんだった! おれ、ラグビー部行こうと思って。おまえどの部活みるんだ?」

啓太がくしゃっと琴子の頭に手のせて顔を覗く。

「うーん、清水先生は好きなとこに行けばいいっていうから……まだ決めてないけど」

直樹が居るならテニス部行こうかなーと思ってたけれど、幹も真里奈もテニス部に行くと云ってたのでやはり実習生がゾロゾロとあからさまにテニス部行くのはどうかと思い、悩んでいたのだ。

「……とりあえず、指導案出来るまでは部活指導しなくていいって云われたから……」

「ふーん、まあ、頑張れよ。やっぱ部活担当するといろんな生徒と知り合えるし、これぞ教師の醍醐味だよなー」

バンバンと琴子の肩を叩き、夕陽に向かってラグビーボールを持って駆け抜ける姿を妄想していた啓太に、
「鴨狩先生。行かなくていいんですか?」と、直樹が冷ややかに問い掛けた。

「お、そーだな。じゃあな、相原」

そういって啓太は慌てて視聴覚室を飛び出していった。
気がついたら、視聴覚室には直樹と琴子の二人きりしかいなかった。

「あ、入江くん……さっき云ってた視聴覚資料って何のこと?」

振り返った時、直樹はどういうわけか全ての窓のカーテンを引き始めていた。
視聴覚室のカーテンは遮光カーテンだ。あっという間に室内は真っ暗になる。

「……入江くん…?」

「あ、さっきのは口から出任せ。でも現国だって補助教材にDVDとか使ってもいいんじゃね?」

「あー、そうね……!」

それ、ちょっといいアイデアかも!
一瞬顔をぱっと輝かせた琴子の身体が、あっという間に視聴覚室の床に押し倒された。

「えーー!?」

カーテンを引かれていたが、隙間からほんのりと光か漏れて、完全な暗闇ではない。とはいえ、鳥目の琴子には真っ暗と同じであった。あまりに唐突に、机と机の狭間に隠れるように押し倒されて、思わず琴子は手探りで机の足を掴んだ。

「この部屋、いいだろ? 床にカーペット敷いてあって、冷たくない。防音も完璧。絶対図書館よりオススメだぜ」

外から埃を持ち込まないよう土足禁止の部屋だ。お陰で押し倒すのには最適なチョイスだな、とにんまり思う直樹である。

「なんといってもAVルームだしな、ここ」

「エーブイ…?」

顔は見えないが、随分間近に愉しげな声が降ってくる。
アダルトなあれこれを思い起こして真っ赤になる琴子だったが、正式にはAudio-Visual Roomである。

「ちょ……ちょっと待って……」

迫ってくる顔から逃れようと、身を捩る琴子の腕が強く押さえつけられる。

「待てない……もう散々待ったし」

いやいや、ちょっと待て。待ったのはーーずっと待ってたのはあたしの方だってば‼

そう噛みつこうとした唇は、言葉を発する前に塞がれた。
そのまま琴子の唇から意味をなす単語が紡がれることはなくーー。

甘い吐息と絡み合う舌と唇から零れ落ちる水音がーーしんと静まり返った部屋の中に響きあっていたーー。




ブラウスの釦が一つずつ外されて。
露になる胸のささやかな谷間に優しく唇がなぞられてーー

ーーダメ。絶対に、ダメ………

そう思う片隅で、流されて行くことに躊躇いのない自分もいる。

だって……薄闇の中で琴子には全く直樹の姿は見えないのに、何故だかとても琴子を欲している狂おしい程の熱を感じてしまっているから。

ーーこのまま流されても……。

そう思って目を閉じるーーと。


入口の方で、ガチャガチャと音がした。


「……ほら、先生、鍵がかかってるわよ」

「大丈夫。僕は今日、鍵の当番でマスターを持ってきてるんだ」

「……もう、ガッキーたら。用意周到なんだから」

ガチャっと解錠する音がして、琴子は思わず声をあげそうになり、直樹に手を押し付けられ口を塞がれる。

「……あら? 真っ暗よ」

「本当だ。スライド上映でもしてそのままなのかな? 」

「そうね」

二人の人間が入ってきた気配に、琴子の心臓はばくばくと早鐘を打ち、極力音を立てないように必死に直樹にしがみつく。
こんな状況、ばれたらおしまいだーー

灯りを点けられたら全ては終わるーーそう思っていたが、何故だか蛍光灯のスイッチは入らなかった。


灯りを点けないまま、人の気配は部屋の奥へと移動していく。


「……本当にここでするの?」

「ここは一番いい部屋なんだぜ。なんといってもカーペットが敷いてあるし、防音も効いてる」

何だか何処かで聞いたフレーズである。
多分、直樹はいやーな顔をしている。
そんな気がする。

そして、あろうことか。
新たな闖入者たちは机と机の狭間にもう一組のカップルがいることなど気がつかないまま。

ーーおっぱじめたのである。



「いやん……先生、ダメ」

「さくらくん……ああ、いいよ」

「あん、あん……」



とにかく直樹達は、気付かれないよう必死で息を押し殺して、身動ぎ一つしないようにしていた。ただ体勢としては琴子は直樹に組み敷かれた状態のままである。
直樹は目が慣れてきているので、入ってきた客が誰なのかはわかっていた。
位置的には死角になっていて、行為そのものは見えないが、とにかく甘い声がずっと響き渡り、薄闇の中ですら琴子が真っ赤になって耳を押さえ目をぎゅっと、瞑っているのがわかる。

とはいえ。
他人のあれこれを覗き見する趣味もないので、二人にとってはある意味苦痛の数十分であった。


「……あらやだ、先生、もう終わり?」

「あ、早すぎた? ま、場所が場所だし」

「でも、まあよかったわよ。自慢するだけあってこっちは中々の逸品ね、西垣センセ」

「はははは………それはどうも……」

「いつもこんなことしてるの? 確かに学校ってスリルがあっていつもと違うテンションだけど」

「 いやいや、いつもなんて」

「もしかして、今日きた実習生も口説こうとか思ってる?」

「さあ ……どうかな?」

「ま、イケナイ先生……」

身支度が終わったらしく、会話をしながら声が入口の方に遠のいていくのがわかった。





「………だ、誰だったの!?」

突然やって来て桃色劇場を繰り広げられ、風のように去っていった二人が消えた扉を茫然と見送りながら、琴子は呟いた。

「多分、2Bの西垣先生と、女は事務員の中田さんじゃないか?」

「ええっ西垣先生って隣のクラスの……? 中田さんって……朝あたしたちに出勤簿の書き方教えてくれた……?」

学校事務の中田さくらは確か高卒で、二十歳そこそこの娘だった気がする。
自分より年下ではないかっ!
朝、自己紹介を受けた時はとても清純そうな真面目なお嬢さんに見えたのに!

何だか呆気に取られるというか愕然としていた琴子のその胸の上に直樹の手が置かれ、やわやわと揉み始めていた。

「い、入江くん……?」

「じゃあ、出遅れたけどおれたちも……」

「ええっ? まだやる気なの!?」

「当たり前。見せつけられただけで終われるかよ」

「で、でも……」

「でも、じゃねーの」

同じ空間でコトが始まって、恥ずかしそうに耳を塞いで震えている琴子が可愛くて、そのままこっちもコトに及んでしまいたかったが、間違いなく琴子が声を抑えきれないと流石に我慢していたのだ。

もうこれ以上待てる筈がないーー。

と、思って再び琴子の首筋に唇を這わした途端に、スピーカーから、チャイムの音がーーさらに哀愁漂う帰宅時間を知らせる『遠き山に日は落ちて』の音楽が………


「きゃー今何時っ?!」

「……6時……かな?」

「だめーっ絶対ダメ! 指導案書かなきゃ! 清水先生、部活から戻ってきちゃうー」

そしてものすごい勢いで琴子は直樹を押し退けた。

「いてっ」

その反動で直樹は机に頭を打ち付けた。

「あ、あ、ご、ごめんっ入江くん!」

「お、おまえっーー!」

怒鳴りかけた直樹の頭を、琴子がふわっと抱え込むように抱いた。

「ごめんね? 痛かった?」

打ち付けたであろうところを撫でながら、優しく頭にキスをする。

「そっちじゃなくて、こっち」

鳥目でいつまでも暗がりに慣れない琴子の手を導いて、自分の唇に触れされる。
琴子はその唇にキスをした。

「……行けよ。今日はこれで許してやるよ」

そういう直樹に、「やっぱ、こーゆーの、学校じゃダメだよ」と少し困ったように呟く琴子。

「ばれないよ。西垣だって、噂はあるけれどバレたことないし。……噂がマジとは思ってなかったけどね」

まあ、淫行教師と同列に思われるのはごめんだが。

「西垣先生はバレたらクビでしょ?」

「……多分ね」

「あたしは……大学を退学させられるかも」

「……大丈夫、絶対バレない」

自信たっぷりに云う直樹に、「ほんと、何から何まで自信あるのね」くすっと笑う。

「…… あたしは、こんなことより、まず入江くんから色々話を聞きたい」

「色々って?」

「色々よ! 私の知らない入江くんのこと、色々!」

「……2週間の間にゆっくり話してやるよ」

カーテンを開けながら話す直樹。突然明るくなって、眩しくて目を細めた琴子だが、何だかとても楽し気な彼の顔をようやく見ることができた。

ーーもう。絶対、面白がってる。

自分だけが振り回されてどぎまぎしているみたい。……先生なのに。

そんなことを考えながら乱れた服を直していた琴子は、突然ふっと思い出したように、「あーーそういえばさっき、現国の視聴覚教材がどうのこうの云ってたよね! それって何処!?」と叫んだ。

「ああ、あっち。資料室の方にDVDとかあると思うけど」

「えーじゃあ、一緒に探して! 宮沢賢治くん!」

ーー賢治くんの、何を?

「岩手の資料とか、朗読CDとか……」

ああ、そういえば現国の単元、今、近代詩やってたんだっけ。

「…………わかったよ」

直樹は肩を竦めて立ち上がると、「 こっちだよ」と資料室を案内して、結局一緒に資料教材を探す羽目になったのだったーー。












※※※※※※※※※※※※



…………どうも寸止めが楽しくなってきています(直樹イジメ?)……おかしい。このシリーズ、全教室制覇で教室エロを展開させようと思ってたのに、全教室で直樹が琴子ちゃんに寸止め食らうシリーズになりかかってます……^-^;
毎度お邪魔虫がわいてくるお約束の黄金パターンが生まれるのだろうか……?
野獣、すまぬm(__)m

とりあえず、正しい視聴覚室の使い方をして、漸く実習1日目が終了です(^w^)








Snow Blossom


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君のいる、午后の教室 4

2015.05.05(01:22) 131





「い……入江くん……?」

突然、何者かに生徒会室に引っ張り込まれて、部屋の片隅の壁際に押し付けられた。
嵐のような一瞬の出来事に、琴子の頭は状況を把握しきれずに茫然として、ただただ流されるままだ。
目の前にはずっと連絡を待ち焦がれていた愛しい顔がある。
ずっと会いたかったひと。

その綺麗な貌が鼻先まで迫っていた。

思わずうっとりと目を閉じそうになって………
ーーはたと気付く。

「ス、ストップ! 待って………」

唇が触れそうになった直前で、我に返った琴子は、がしっと直樹の唇を手で押さえてはねのける。

「なんだよ? 久しぶりに会ったのにつれねーな」

鷲掴みにされた唇を覆いながら、不満げに琴子の顎を長い指で捉える。

「そーよ! すっごい久しぶりね! まっさかこんなトコで会うなんて思いもよらなかったわよ」

精一杯強がって琴子は眼前の直樹を睨み付ける。

ほんの2ヶ月前に最後に会ったときと、少しも変わらないその端麗な容姿。
目の前に存在するその顔は、切れ長の瞳、長い睫毛、高い鼻筋、薄い唇ーーどれをとっても整って美しい。完全な形に完全な配置。初めて見たとき、世の中に芸能人以外でこんな綺麗な容貌が存在するんだと感動したことを思い出した。

そしてその人が自分とーーーあんなことやこんなことやそんなこと………////

「………何ゆでダコになってんの? 色々思い出しちゃった?」

にやっと笑う。そうそう、こんないたずらっ子の笑みをよく見せてくれたっけーーなんて。
でも。
目の前の彼は紛れもなく高校生の制服を着ている。

「……コスプレ……してる訳じゃないよね?」

「何? コスプレして高校に潜入? おれ、いったい何モンだよ?」

「そうよ! いったい何者なの?」

「斗南高校、2年A組、入江直樹」

「………誕生日はいつ?」

睨みつけながら、思わず訊いてしまう。

「11月12日」

「………じゃあ、まだ16……」

「そう。sixteen」

くらくらする。

「……どうして嘘ついたのよ!」

「嘘? ついた覚えなんてないけど。おまえが勝手におれのこと大学生と思い込んでただけで」

再び壁に手をついたままの状態で琴子に顔を近付ける。

「話、合わせてたでしょ! 違うならなんで否定しなかったのよ! 隠してたってことでしょ?」

琴子は顔を反らして必死に食い下がる。目を合わせるとその瞳に吸い込まれそうで怖い。

「だって……高校生って知ったらおまえどうしてた?」

どうしてた? どうしただろう?
5才も年下の男の子だと知っていたら……ちゃんとブレーキかけていられただろうか?

「それは………」

東京から遠く離れた清里でのこと。もしかしたら勢いに流されてしまっていたかもしれないけれど。
でも、自分が実習に行く先の高校生だと知っていたら、確実にーー。絶対にーー。

「それは、勿論……」

「勿論? 好きにならなかった?」

「それは……もう先に好きになっちゃってたし……でも、斗南の高校生って知ってたらとりあえず気持ちを押さえ込むことぐらいは……」

してたと思う。
ーーそう答える前に。

「……なんだ、やっぱり良かったじゃん。バラさなくて」

ふっと笑った顔は意地悪なものではなくて、ちょっとほっとしたような優しい笑顔……ああ、素敵……ーーそう思った瞬間、既に唇は塞がれていた。


「んんっ………」

啄むようなキスがだんだん食らいつくすような激しいものに変わる頃、ついうっかりと久しぶりのキスに酔いしれていた琴子は、侵入してきた舌の感触にはっと我にかえる。

「いてっ」

軽く舌を噛んでやったら、慌てて離れる直樹の顔を睨みつける。

「おまえ……!」

「いったいどーゆーつもりよ!」

とりあえず怒らなければ。
ドキドキしてるけれど。
心臓は爆発しそうなくらい激しく波打ってるけれど!
こいつはーー年下で、生徒なんだから!
琴子は壁に押し付けられて行く手を塞いでいる直樹の腕をくぐり抜けて、窓際の方へと逃げた。

「どーゆーつもりって……」

軽く口元を拭いながらにやりと笑いながら、自分の腕からすり抜けた琴子の腕を簡単に掴み、そして今度は机の上に押し倒しのし掛かる。

生徒会室は他の教室の半分ほどしかない狭い部屋だ。
会議用のためか、机はコの字型に配置されていた。

「こーゆーつもりに決まってるだろう?」

二つ分の机の上に押し倒された状態で、しっかり肩を押さえ込まれて身動きがとれない。
グレーのサマースーツに真っ白なブラウス。スカートは勿論膝までのタイトだ。スーツは量販店の三点セット物だが、2着を着回ししてるので、皺になったら困るなーと頭の片隅でそんなことを思う。
机の上は……背中も痛い。
ってゆーかこの状況は……何なの?

「こーゆーつもりって……有り得ない……でしょ? 早く退いてよ」

とにかく、この状況はマズイ! それくらいは琴子にだって分かる。
先生の威厳を持って睨み付けなければーーと、精一杯眼光鋭くしてみる。

「何、百面相してんの?」

ぷぷぷっと妙に楽しげに吹き出す直樹。

「早く退いてって云ってるでしょっ」

「……前はそんな命令口調で話しかけてきたことなんてなかったのに。年下って思うとそうなっちゃうんだ」

少し哀しげな表情を見せる直樹に、琴子も一瞬ぐっと言葉を失う。

「それは………」

そう言いかけて、はっと気づく。

「……もしかして年下って下に見られるのがイヤで隠してたの?」

「はん?」

哀しげな顔から一転不愉快そうな顔に変わる。

「年なんて関係ないじゃん? あんたはおれより馬鹿だし、とろいし」

「はあーー? 何よっそれ!」

「関係なく、おれのこと好きだったんだろ?」

あんなに毎日好きだ好きだと纏わりついてたクセにーー
唐突に真面目な顔して間近に迫る。

「それとも年下だとわかったらーー生徒だとわかったら好きなのやめるのか?」

「そ……それは…」

何と答えていいのかわからない。
年下だろうが生徒だろうが好きなものは好きだし止められないし。
かと云って……ここで……これはマズイでしょう!

「なんだ、やっぱ、好きなの止められないんだ。なら問題ない。安心しろ、ちゃんと鍵はかけた」

どうやら言葉にしてしまっていたらしく、直樹は嬉しそうに微笑むと琴子の首筋に唇を這わせた。
しかし琴子は触れた寸前に顔を背けて、直樹の身体を押し退けようとみじろぐ。

「か、鍵って! そーゆー問題じゃないでしょっ! ここ何処だと思ってるのよ!」

「生徒会室。大丈夫。この時間は誰も来ないよ。あ、おれ生徒会長だから。昼休み、たまにここで昼寝してんの。他の役員が来たことなんてないから安心していいぞ」

首筋からゆっくりと鎖骨の窪みに舌を這わせ、そして胸元に降りていく直樹の唇に、ぞくっとしながらも懸命に抗う。

「だからそーゆー問題じゃなくて! あなたとあたしは生徒と先生なの! ダメでしょう! 少なくとも学校じゃ、絶対!」

「あ、もしかして学校の外ならOK?」

にやっと笑う直樹の言葉に一瞬、えーといいのかなぁ?と迷ったが、いやいやいいわけないだろう、と自分で突っ込む。

「実習期間中は絶対ダメよ」

「ぷ。実習終わればいいってことか?」

「…………………」

まっすぐ見つめられて一瞬悩む琴子である。これが、2年後なら何の問題もないのだろうけれど。
年下っていうより、16才ってのがものすごく問題のような。確か……青少年保護なんちゃら条例……ってあったよね。

そういえばそんなドラマがあった。
愛し合ってしまった女教師と男子生徒。
二人は図書室で愛し合うけれど、男子生徒の親にバレて駆け落ちしてーーでも捕まってしまって、女教師は逮捕。
彼女は警察で屈辱的な尋問を受けて………

「なんだ。図書室でやりたかったんだ。じゃあそれは次回で」

直樹の指がブラウスの釦を器用にはずしていく。

「ち、ちがーうっ」

必死で直樹の胸を押し退けようとする琴子の腕を掴み、ぐっと机の上に押さえつける。

「暴れると釦が外せないんだけど……」

「外さなくていいからー!」

「都の条例なら気にしなくていい。おれの親は訴えたりしないから」

「だからそうじゃなくてぇ~~」

どうして頭がいいクセにこんなに言葉が通じないのだろう?
琴子は泣きたくなる。
通じてるのに敢えて知らんふりを決め込んでいるとは思いもよらない。

外された釦の狭間から少し垣間見える琴子の残念な胸の谷間に顔を埋められ、きつく吸われて「やぁ……ん」と思わず艶めいた声を出してしまう。
もう片方の手がタイトスカートの中に差し込まれ太股を撫で上げた。

「タイトスカート、きっついなー。フレアスカートにしなよ。先週事前説明会に着てたようなヤツ。スッ転ぶとパンツ丸見えだけど、脱がせやすそうだ」

「せ、先週って……?」

「くまぱんつ穿いてた日。で、今日は何パン? 安易に転んでおれ以外のヤツに見せるなよ」

「ええーっ見てたのぉ!」

真っ赤になった琴子が馬鹿力で起き上がろうとして、がんっと直樹の顎に頭を激突させてしまった。

「いてっ!」

「あ、ごめ……」

謝ろうとした寸前に再び机に縫い付けられ、激しく唇を貪りつかれる。
手はブラウスの上から琴子のこじんまりとした胸の上をさまよっていた。
ぎゅっと強く揉みしだかれて「あん」とのけぞる琴子の首に食らいつく。
突っ張って抵抗しようとしている力が、少しずつ弱まって弛緩していくのが分かる。直樹はくすっと笑ってからタイトスカートを無理矢理たくしあげようと裾をまくった。




「あれ? 閉まってる? どうして?」

入口の扉がカタカタと揺れ、磨りガラスの向こうの人影が呟いた。

「おかしいわね。鍵はなかったと思うんだけど」

人影がぶつぶつ言いながら去っていく。

「え?」

琴子の顔が一瞬にして青ざめた。

「ちっ。松本か………」

直樹は舌打ちして、琴子の上から退く。
琴子の手を掴むとぐいっと引っ張りあげると「すぐに服を直せ。職員室のキーボックスを確認したら多分あいつ、また戻ってくる」そういって自分が外したブラウスの釦をさっさと器用に嵌めてやる。早業である。

「な、なに……?」

「……あいつ、副会長なんだ。ったく、今日に限ってなんで……」

忌々しげに舌打ちする直樹を横目に、言われるがまま乱れた衣服を整えると、琴子は直樹に腕を捕まれて、鍵を開けた扉から追い出すように外に出された。
その間際に耳元で「続きは放課後に」と囁かれて、また体温が顔を中心に上昇する。


あれよあれよという間の出来事に、琴子は何が何だかわからないまま、隣の職員トイレに駆け込む。

トイレから覗くと、職員室から出てきた女子生徒が再び生徒会室の扉の前に立ち止まった処だった。

生徒会室の扉がガラッと開く。

「え……? やだ、入江くん居たの?」

「ああ。ちょっと先週の会議の資料置いてきたの思い出してね」

「そうなの? 今、内側から鍵をかけてた?」

「いや? 何で?」

「私も生徒会室に用事があって、職員室に鍵を取りに行ったら無いじゃない。だから誰か先客がいるのかと思ったら扉が開かないから……私が鍵を見間違えたのかと、もう一度職員室に確認しにいったのよ」

「鍵なんてかけてないよ。古くて建て付け悪くて開けヅラくなってただけじゃない?」

「……そうかしら?」

しれっと平然と嘘をついて、彼女を部屋に招き入れていた。

「……ウソつき」

彼は大嘘つきだ。
簡単に嘘をつく。
ーー全部嘘だったのだろうか。あの清里での出来事すべて。
囁いた睦言も、なにもかも。

綺麗な女の子だな……と、トイレの鏡の前で乱れた髪を結い直しながら琴子はぼんやり思う。
確か同じA組の女子だ。彼の隣の席に座っていた娘。授業でも指されたら的確な答えを堂々と答えていた。なんて自信に満ち溢れてるのだろう。自信の欠片もないまま教壇に立とうとしていた自分が恥ずかしくなるくらいだ。才色兼備ってあんな娘のことを云うのだろう……

クラスメイトにあんなにお似合いのガールフレンドがいるのに。
どうして、あたしなんか……。

さっき彼が触れた唇や首筋が未だ痺れたように熱い。

朝、驚愕の再会を果たした時からどう対応すべきか考えあぐねていた。
話をして確認したいという想い。
あるいは2週間、何事もなかったように素知らぬ振りをして、やり過ごしてしまった方がいいのか………そんなことも考えた。

まさかこんな風に彼の方から来るなんて思いもしなかった。

どうしよう。
どうしたらいいのだろう。

琴子は午後の授業の予鈴が鳴るまで、赤くなったり青くなったりしながら、思考能力のあまり高くない頭をフル回転させて悩み続けていた。








※※※※※※※※※※※※※※




野獣寸止め(笑)


そして寸止めの挙げ句、次は別の話をアップするかもです……(^^;このお話の更新を待っているとおっしゃっていただいた奇特な読者の皆様(&入江くん)。ごめんねーと、やはり先に謝っておこうf(^_^)




GW……残すところあと1日……私も旦那も6日から仕事なので。子供らはもう1日ありますが。
予想通りあっという間でした。
何って……してないなー(-.-)
掃除して、ぷちDIYして、病院行って、買い物行って、ランチして。あ、近場で潮干狩り行きました(^^)
家から25キロ以上の移動はしてないかも。
遠出の予定も色々あって取り止めに。旦那、めっちゃ綿密に計画練ってたのにな……


とにかく! 外食三昧だったので体重が恐ろしいですっ……(>_<)





Snow Blossom


君のいる、午后の教室
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