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彼女は美しい夢を見る。 (12)

2015.01.26(00:11) 93




もしかしたら石やら槍やら降って来るのではないかとヘルメットを被って身構えておりましたが(ウソです笑)皆さま心優しくて感動しております(^^)
拍手、増えてるし!(あ、ありがとうございます~)
これも琴子ちゃんの健気さ、強さのおかげですよね! ほんと、いいこやなー(^^)

そして、ヤツは。
彼なりにがんばっているのですよ、これでも……(遠い目)







※※※※※※※※※※※※※※







花束を抱えて病院のロビーを横切ると、直樹は患者や職員がちらりと視線を自分に向けてくるのを感じた。
普段は夜間の入口からしか出入りしていないから、夕方遅いとはいえ外来の受付時間内にここを通るのは久しぶりかもしれない。

もう少し早く駆けつけたかったが、完成披露記者会見の後のパーティも最初の挨拶くらいはしなくては、さすがに責任ある立場では抜け出すには無理があった。
出資者でもある大泉会長に掴まり、「どうやらわしの目に狂いはなかったようだな。融資を不安視していたうちの役員たちも絶賛していたぞ」と、肩をばしばしと叩かれた。
婚約破談の遺恨もなく、打ち込んだ仕事に一定の評価を得られたことに安堵するとともに、元婚約者に対する罪悪感が少し薄らいだ気がした。


入院病棟に渡り、エレベーターの最上階のボタンを押す。
琴子の部屋は、5日ほど前に最上階のVIPルームに移されていた。前から紀子が部屋の変更を頼んでいたのだが、どこぞの政治家がこっそりと退院し、ようやく部屋が空いたらしい。
重雄は「いつまでこの状況かわからないから」と固辞をしたが、私の大事な娘をいつまでも狭い部屋に閉じ込めておくなんてできません、と紀子が譲らなかった。前の特別室も重雄にすれば十分過ぎる立派な部屋だったのだが、やはり隣室の気配が感じられる一般病棟より、店が終わった後でも気兼ねなく訪れることができるフロアに一室しかないVIPルームはありがたく、最後には紀子の申し出を受け入れた。


ちん、という音と共に最上階に到着した直樹は、誰もいない静かな絨毯敷のホテルの廊下のような空間を見つめる。

あの奇妙な少女の夢を見た夜から、仕事はさらに多忙を極め、琴子の傍らで仮眠を取ることすら出来なくなっていたが、それでも僅かな時間でも琴子の顔を見るためにこの部屋を訪れていた。

頬を触ったり。
髪をすいたり。
汗を拭いて、身体を少し動かしてやって。
寝返りは自分で打っているので、床擦れ防止のために看護師が身体を動かしにくる頻度は普通の寝たきり患者より多くはないだろう。病院のケアに不安を感じている訳ではないが、それでもここに来たときには必ず身体を動かしマッサージをしてやる。
そして少しぽつぽつと話しかけ、キスをひとつしてまた会社に戻る、といった日々だった。
だが、それも今日で終わりだーー。


直樹が部屋に入ると、ベッド回りのカーテンが閉めきられていた。
広々とした部屋の片隅に大きなクリクマスツリーが飾られ、パーティーでも始まるかのように折り紙でつくられた色とりどりのぺーパーチェーンが天井からぶらさがっていた。
クリクマスオーナメントも壁にペタペタと貼り付けられていた。
そういえば裕樹が琴子の部屋にツリーを飾ろうって言っていたのを思い出す。

「ほうら、琴子ちゃん気持ちいいでしょう?」

紀子が琴子の身体を拭いているらしい。

「おふくろ、入るぞ」

「駄目よ!  まだ着替え中!」

「別にいいだろう、夫婦なんだから」

「あら、駄目よ。琴子ちゃんの性格考えてご覧なさい。お兄ちゃんに見られてたって知ったら恥ずかしくて死んでしまうわ」

カーテンから顔だけ出して睨みつける紀子。

「それにあなたたち、夫婦らしい時間をまともに過ごしてないでしょう?」

だから余計に琴子は恥ずかしがるだろうという紀子の予想は恐らく間違いないだろう。

――でも、おれ、もう何度か清拭も着替えもさせてるんだけどな。

夜半に来たとき、ひどく汗をかいていて着替えさせたことは何度かある。

「あら、その花」

紀子が、直樹の持っていた花束に気が付いた。息子が花束を抱えているという構図が妙に新鮮だった。

「今日、完成披露会の後のパーティーで使われた花を少し貰ってきた」

部屋には常に紀子が生けた花が飾られていたが、これだけあれば華やかさも増すだろう。それに香りの強い蘭の花は、眠り姫の鼻腔をくすぐり眠りの国から呼び覚ますかも知れない。

「そう」

紀子は直樹から花を受け取った。

「今日、無事終わったのね」

「ああ」

「もう、琴子ちゃんの傍に居られるのね?」

「ああ。会社も辞めてきた」

「じゃあ大学に戻れるのね?」

「ああ。残務処理してから年明けには復学するつもり」

「よかった。琴子ちゃんもきっと喜ぶわ」

花瓶に生ける為に隣の給湯室に向かった紀子を見送り、直樹は琴子の傍に座る。

琴子が事故にあってからそろそろ二週間近く経つ。街はクリスマス一色に彩られていた。パンダイの新作ゲームもなんとかクリスマス商戦にギリギリ滑り込んだというところだ。
他社に出遅れはしたが、それをものともせず勝ち抜くだろうという大きな自信が直樹にはあった。

「今日は本当はおまえを連れてくつもりだったんだ。おまえをモデルにした新作ゲームだったからな」

直樹は琴子の手を取り、自分の口元に持っていく。

「その公の場でおまえを妻だと紹介したかった」

そうするつもりだった。始めから。言葉を尽くして説明すれば、あんな喧嘩をすることもなく、そしてこんな処で眠っているなどという事態には陥ってなかっただろう。

あれから多種多様の検査が施されたが、原因は解明されないままだ。
眠っているだけならいつか必ず目覚める筈という周囲の期待を裏切って、琴子は目覚めようとはしない。
脳内の覚醒維持機能の異常による睡眠障害の一種だと思われる、という曖昧な医師の診断に、最近は重雄も不安を隠しきれないようで、何度も主治医に詰めよっていた。
注射の嫌いな琴子が、注射よりも痛い筈の骨髄穿刺を受けても何の反応も示さなかったことが不思議だった。
声かけやボディータッチには微かに反応するのに、痛覚がなくなったかのように痛みや電気刺激には反応しないのだ。
まるで琴子が外界からの刺激の種類を選り分けているのかとさえ思う。


確かに世の中にはまだ原因不明の病が溢れかえっている。
どれだけ論文や学術雑誌を読み漁っても、なんの経験値もない直樹には、可能性を当て嵌め推測して、主治医に確認するしかない。主治医自身も直樹の意見に耳を傾けているが、相変わらず確定診断はされないままだった。

「眠り姫病」と言われる反復性過眠症のひとつクライン・レビン症候群では、何ヵ月も眠り続ける例もあるというが、夢遊状態でトイレや食事には起きるという点で当てはまらない。そしてその病も原因は不明で明確な治療法はまだないが、自然治癒の事例もあるし、試みられている薬物療法もあるようだ。検証する価値はあるかもしれないーー明日はそのことを主治医に提案してみよう。
そんなことをあれこれ思い巡らせていた。
とにかく仕事が一段落ついた今、やっと自分の手で本格的に調べることができる。既に海外の大学病院に幾つか問い合わせもしている。
もう少し専門的な検査が出来る施設や専門医のいる病院を探して転院することも視野に入れなければ、と思う。


あれから警察は一度訪れたきりだ。
ただ、速川萌未の行方が琴子の事故の日から不明であるという経過報告を持ってきただけだった。

琴子が自分と同居し始めてから、そんな理不尽な嫌がらせを受けていたということも、それに全く気付かなかったということも直樹にとっては衝撃的なことだった。決して周りに気付かせないようにしていたのも、琴子の気遣いだろう。
もし彼が気付いていたら、手紙を送りつけた連中を必ず割り出して容赦なくそれ相応の返礼をしただろう。

速川萌未という女が関わっているがどうかは分からないが、仕事が落ち着いた今、自分でも少しその女について調べてみようか思っていた。

警察がどれだけ真剣に捜査しているのかどうかは分からないし、当てにするつもりもなかった。

事故なのか事件なのか――琴子の昏睡が転落によるものか病気によるものなのか――すべてが曖昧なままだ。しかし琴子本人が目覚めればすべてが解ることだった。

「早く起きろ…琴子…」

優しく頬を撫で、耳元で囁く。

「……う…」

呼応するように琴子が呻く。
ひどく苦しげな表情をしていた。
目尻からは涙がこぼれ落ちる。

「琴子!  琴子?」

いつもこんな風に囁くと、うっとりと幸せそうな貌をしていたのに。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

花瓶を持った紀子が部屋に入って来た。息子の声に、花瓶を棚の上に置いて慌てて近寄る。

「琴子が苦しそう」

ああ、と紀子が承知したように頷いた。

「昨日から、何だか辛そうな表情をしているのよね。今までとても幸せそうによく笑っていたのに……怖い夢を見ているみたい」

脳波計を見るとレム睡眠を示していた。
24時間装着したままの睡眠ポリグラフィーによって、脳波だけでなく、眼電図や筋電図などいくつもの生理学的変数は記録されている。

「…入江くん………」

何度も何度も首を振る。

「琴子、琴子!  おれはここにいる!  ちゃんと傍にいるから」

何故だ?
今まで幸せな夢ばかり見ていたんじゃないのか?
もう現実には戻りたくないと思ってしまうような幸せな夢を。

奈落の底にでも墜ちていくような苦悶の貌を見せる琴子を、引き留めるように抱き締める。

そんなに辛い夢なら、早く目覚めるんだーー琴子……。








「ねえ…入江くん…クリクマスはどっか行こーよぉ」

琴子が甘ったるい声で腕にしがみついて、仔犬のように期待する眼差しでおれを見る。

「どこも行かない」

冷たい声で返すおれ。
人混みは嫌いだし、クリスチャンでもないのにキリストの生誕を祝う意味も意義も分からない。しかしもっと言い様があるだろうと自分に突っ込みたくなる。
ほらみろ、琴子はあからさまに意気消沈している。

「ねえ、イルミネーションくらい見に行こうよ―っ」

「電飾の道を数十メートル歩いて通り過ぎるだけだろう。何が楽しい?」

「えーっ綺麗じゃない!  見てるだけで幸せな気持ちにならない?
ちょっとおしゃれして、二人でクリクマスディナー食べて……そう、ジャズの生演奏なんかがあるお店でね。それから飲み過ぎちゃったシャンパンの酔いを醒ます為にイルミネーションの路を二人で歩くの~勿論、しっかり腕を組んでね」

うっとりと話す琴子。
おまえ、本当に俺がそんなとこ行くと思ってんの?
だいたいジャズがどんな音楽なのか知ってるのかよ?
その数十メートルの間にどんだけ人が犇めいていることやら。

「じゃあ、あのねあのねあの………
去年みたいに、チビと3人で家でチキンとケーキ食べるだけでもいいよ……」

少し寂しそうに琴子が笑う。
おまえ、簡単にハードル下げすぎ。しかもチビと3人って……

「だって…あたし、クリクマスに入江くんが傍にいるだけで幸せだから…」

琴子……

「入江くん、大好き」




「琴子…!」

はっとして、飛び起きた。
直樹は自分が琴子の傍らの椅子に座ったまま琴子の手を握り、ベッドに突っ伏して眠っていたことに気が付いた。
さすがに5日程仮眠すらとって居なかった為に限界越えているな、と自分でも思う。

「夢か……」

そういえば琴子の傍でうたた寝をすると何故だか琴子の夢を見てしまうようだ。

「おまえがおれの夢の中に入ってきたんじゃないのか?」

直樹が琴子の頬を突っついた。

「…う…ん」

相変わらず表情は苦しげだ。

部屋が変わったせいか座敷わらしと称される妙な少女も謎の足音も聴こえない。
この部屋に入ってからはまともにここでは寝ていないせいかもしれない。
だいたいあの座敷わらし説も妙だった。
別の看護師に、「この部屋に座敷わらしがいるって本当?」と訊ねたら、キョトンとした顔をして、そして吹き出していた。ほんとうにそんな噂は知らないと云っていた顔に嘘はなさそうだった。
「だいたい患者さんの家族にそんな変な話をした看護師は誰ですか?」と逆に質問され、名前を思いだそうとしたがどうしても出てこない。というか、顔すら思い出せない。直樹は常に琴子の部屋を訪れる看護師の名前はチェックしていた。処置にミスがあるかもと疑っているわけではないが、念のため、というヤツだった。なのに、あの時はネームプレートを付けていたかどうかさえ思い出せない。
そういえば。
妙なことだけ思い出す。
看護師のくせして指輪をしていると思ったこと。その指輪が翠色の七宝のリングだったこと。
自分が顔も名前も覚えていないことに妙な違和感を感じていた。
そしてあの日の朝の検温担当の看護師を確認してもらったら、直樹のいる時間には来ていなかったことが分かった。彼女は五年目ではなかったし、ころころ笑うような感じの娘でもなかった。無論、座敷わらしなどという妙な話は聴いたこともなければ話したこともないという。

ーー何かに化かされたのか?
怖いというより、背中がざわざわするような変な感じだった。

琴子の事故にしろ、病室での不思議な夢にしろ、座敷わらしに謎の看護師にしろ。直樹の持っていた今までの常識とはかけ離れた出来事ばかりが起きている。

ーーこれがおまえを不安にさせた報いということなのか?


直樹はポケットの中から一枚の薄っぺらな紙を取り出した。
婚姻届だった。自分の名前は記入済みだ。
実は今日の完成披露会見の前に父、重樹に頭を下げて一つのことを頼んだ。

「例えこのまま暫く目が覚めなくても、入籍をしてしまいたいんだ。これは琴子の意志でもあると思うし……」

直樹の言葉に重樹はひどく驚いた。

「目が覚めなくってもって……琴子ちゃんの署名を勝手に捏造するつもりか? 馬鹿なことを考えるな! それは立派な犯罪だぞ」

「分かってる……でも琴子が望んでいたことだ」

「そうだ。琴子ちゃんは望んでいた。だが、何故その時に叶えてあげなかった? 今さらこの状態でおまえがそれをいう権利はない! 」

重樹の叱責に返す言葉もない。始めから受け入れられるとは思っていなかったが……。

「だいたいアイちゃんは絶対認めないだろう」

確かにその通りだ。だが、認めてもらえるまで頭を下げるつもりではいた。

「いいか、このことは決してアイちゃんに頼むんじゃない。今はまだおまえを責めるようなことはしないが、時間がたっても状況か改善されなければおまえを恨むこともあるかもしれん。
この間話した時も、逆に入籍をしていなくて良かったくらいのことを云っていたんだ」

「……え?」

心臓が跳ね上がるようなイヤな感覚が身体に走る。

「結婚してすぐ寝たきり状態になった娘を任せるのは申し訳ないということだろう。もし何ヵ月もこのままなら、恐らくアイちゃんは全部自分で背負うつもりだ。……無論わしも紀ちゃんも決して琴子ちゃんを見捨てるつもりなぞ欠片もない。入籍してなくたって大切な家族だ。だから、おまえも早まったことは考えるな。それに明日にだって目を覚ますかも知れないんだろう? 目を覚ました時に琴子ちゃんに文句を云われるぞ。自分でちゃんとサインして、一緒に区役所行きたかったってな」

ーー確かにそうだろう。琴子は勝手に入籍しても喜びはしても怒ったりはしまい。ただきっと頬を膨らまして拗ねるかもしれない。

「……すべての発端はわしが不甲斐なかったせいだと分かってる。会社をあんな状態にさせた挙げ句の戦線離脱でおまえに迷惑をかけた。おまえに好きでもない女性と結婚させる決意をさせ、おまえも琴子ちゃんも苦しめた。全部わしの責任だ。だから、おまえが琴子ちゃんと結婚を決めてくれて本当によかったと思ったよ」

重樹は苦し気に息子を見つめていた。

「……おまえが会社の為に無理をして新しい製品を開発してくれたことも感謝している。そこまで会社のことを考えていてくれたのかと………」

「それはただのケジメだよ。おれのせいで会社の安定の道が崩れたんだから、ある程度業績回復の目処を付けてから辞めたかったんだ」

「ケジメをつけるまでは入籍はしないつもりだったということか?」

「………ああ」

「それについて琴子ちゃんとは話し合おうとは思わなかったのか? 自分がどう思っているのか理解してもらおうとは?」

「…………考えもしなかった。琴子はおれが何をしたって付いてくる筈だから」

重樹は溜め息をついて、
「何故わしはおまえに夫婦のあり方をちゃんと理解させてから結婚を許可しなかったんだろうな。おまえはまだまだ人間としてあまりに未成熟だったのに。それに気がつかなかったわしたちが愚かだったということだな………まったく……アイちゃんに申し訳が立たないよ」そう言うと、
「直樹、おまえの方こそ入籍する資格はまだない。わしがアイちゃんならお断りだ。勝手に入籍なんぞ絶対に許さない。わかったな?」

「…………………」


秘書に呼ばれて重樹との会話はそこで終わった。
これから記者発表だというのに随分重苦しい気分になったものだった。

ーー入籍していなくてよかった……

重雄がそう云っていたということがひどく重苦しく心の中を占有した。
もしこのまま琴子が目覚めなければ……結婚式をしたことも、新婚旅行に行ったこともただの絵空事と同じだということだ。

私文書偽造までして入籍しようと思ったのは、何があっても琴子の傍にいようと望んでも、重雄の決意ひとつで簡単に琴子と関わることが許されない立場、単なる他人に過ぎないのだと、思い知らされるのが怖かったのだ。
それはどんな悪夢よりも、怪異よりも恐ろしいことだった。

そしてほんの少し、あり得ない可能性を心の何処かで思ったのかもしれない。

たとえばキスをすれば目覚めるとか。
たとえば入籍をすれば目覚めるとか。

琴子が望んでいたことを叶えれば、琴子の不安を取り除けば、目が覚めるかもしれないーーなんて、なんの科学的根拠のない可能性をほんのひとかけらでも信じていたのかもしれないーー

「……ったく。何やってんだろうな、おれは」

ーー『天才』が考えついたのがこんな方法なんてな………

自嘲気味に呟いて、直樹は自分の名前だけを書いた婚姻届を、琴子の枕元にあるサイドテーブルの引き出しにしまった。

「……?」

直樹はテーブルの上の琴子の携帯電話の着信の光が点滅していることに気がついた。
琴子の携帯は、個室なのをいいことに電源を入れたまま時折充電して、そのまま枕元に置いている。
携帯には時折理美やじんこ、そして大学の友人たちからのメッセージが届いていた。

開くと、やはり理美からのようだった。
すぐにいっぱいになってしまうので、琴子の耳元で留守電メッセージを聴かせては消していると、紀子が云っていた。

『琴子~! まだ起きてないの? 早くしないとクリスマスになっちゃうよー………それでね、今日さ、………』

理美のとりとめのない日常生活の報告を、琴子の耳の傍で聴かせてやる。

着信履歴を見ると理美やじんこだけでなく様々な友人からメッセージが来ていた。金之助の名もあるし、他にもテニス部やF組からの同級生だろう男の名前もちらほらあって少し顔をしかめる。須藤の名前もあった。
昼間も毎日のように色々な人がお見舞いに来てくれているのよ、と紀子が云っていた。
松本姉妹や中川も来ていたらしい。
誰にでも好かれる琴子らしく、交友関係の広さは、携帯電話の着歴や、ところ狭しと置いてある見舞いの品の数々が示していた。

「おれだったらこうはいかないな」

周囲に集まってくる人間は多いが、いざという時にどれだけ心から心配してくれるだろうか?

きっと琴子には敵わない、と思いながら携帯をテーブルに置いた瞬間。


トゥルルルルルル………

携帯の着信音が鳴り響いた。

「………?」

琴子のではない。
琴子の携帯はサイレントにしてある。


直樹はポケットから自分の携帯電話を取り出した。
鳴っていたのはマナーモードにし忘れた自分の携帯だった。

直樹は携帯を取り出して画面開き、そして有り得ない発信者の名前を見て愕然としたーー。


『琴子』



                                    








※※※※※※※※※※※※




携帯電話は原作では使われてませんが、実はこの話ではかなり重要なアイテムだったりします。IFということで、普通に使ってます。まだシンプルな機能しかない時代の携帯ですね、多分(^^)


さてさてまた謎な処で続いてしまいましたが……しばしお待ち下さいませ(^^;





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コメント
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【2015/01/26 08:11】 | # | [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2015/01/26 09:10】 | # | [edit]
コメントありがとうございます♪

本当にそうですよね。原作読むとついついムカついてしまう、この時期の直樹と入江家の面々。本当にみんな結婚がなんだかわかってるのかと言いたくなるくらい簡単に紀子ママの勢いに流されて。
琴子の心の中だって複雑ですよね。失恋、結婚、また失望、と短い間に色々有りすぎ。全然心がついていけないと思うのです。
この琴子ちゃんの辛さをわからせるために結局琴子ちゃんをさらに辛い状況に追い込んでしまってますが(……ごめんよ琴子ちゃん……)(^^; 直樹、まだまだ発展途上です……。ここで入籍したって何の解決にもならないけれど、彼なりに足掻いてます。でも彼に頑張ってもらわないと琴子ちゃんは目覚めませんので……もっとジタバタともがいてもらいます(^^;
【2015/01/26 21:37】 | ののの #- | [edit]
コメントありがとうございます♪

そうです、今回は重樹パパにガツンと云ってもらいました。(少しは親父らしいことを云ってくれよ、という密かな願いをこめて)
……まあ、ここに至るまで何故もっとしっかり息子を諌めなかったんだ、という気はしますが(^^;
しかし直樹はこうゆう状況にならないと、自分のしたことの罪深さがわからないのだから、ほんとに未熟なヤツです。
無理矢理入籍したって琴子に届かなければ何の意味もないことにまだ気付いていません。
琴子ちゃんを苦しめてばかりで、ごめんよーっと空を仰いでしまいますが(^^;直樹はここからが踏ん張りどころです。結局の処、琴子ちゃんを救えるのも直樹しかいないのですから。
さてミュータント速川(爆)……彼女は……?もうすぐ現れます(多分……^-^;)
【2015/01/26 22:15】 | ののの #- | [edit]
拍手コメントありがとうございます♪

初コメントありがとうございます(^.^)
涙を流しながら読んでいただいたなんて、嬉しいです。そうですね、琴子を救えるのは入江くんだけです! エールをありがとうございました(^^)
【2015/08/05 22:41】 | ののの #- | [edit]
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