123456789101112131415161718192021222324252627282930
個別記事の管理2014-12-19 (Fri)




ーーと、いうわけで本編突入。
いよいよ『世にも奇妙な世界へようこそ』な、感じになってきますが、いいでしょうか……(^^;




※※※※※※※※※※※※※※








ーーじゃあ、やめれば?

ーー運よくまだ籍も入ってないぜ






ああ、もうおしまいだ。


琴子はパンダイを飛び出した後、何処をどう歩いたかわからないまま、ただ街を彷徨っていた。


神様、どうして入江くんはあたしのことを好きになってくれないの?

あたしはいつまでも片想いのままなの?


琴子の耳にはいつまでも、直樹が最後に放った言葉が谺していた。

――じゃあやめれば?


ーーほんの1週間前だったのに。
やっと結ばれたハネムーンの最終夜。
「もう平気じゃない」
そう言って抱き締めてくれて、漸く身も心もひとつになれた。……そう…思ってた。
ーー思ってたのはあたしだけ…?
ーーそれとも…やっぱり全部夢だったの?


琴子の思考はぐるぐるとそんなことばかり考え続けていた。考えながら歩いているから周囲を一切見ていないし、自分が何処に向かっているのかまるで意識していない。
季節は既に師走となり、夕刻も近づいて随分と気温が下がっている。丸の内のビジネス街を行き交う人々は、皆コートの襟を立てて忙しなく早歩きをしていた。

「……寒っ」

そんな中、琴子はデニムの開襟シャツ一枚で、コートも何も羽織っていないことに初めて気が付いた。彼女は大学の食堂にカバンもジャケットも何もかも置いてきて全くの手ぶらだった。

「ええっと、ここ何処だろう?」

ビルが立ち並んでいて、まだ丸の内の一角だろうとは思うのだが。いつの間にか表通りから外れていて、自分がどの辺りにいるのかさっぱりわからない。

ーーどうしよう……?
ーーあたし、何処に行けばいいの?

ぼんやりと立ち尽くす。
冷たい風がざわりと頬を撫でた。

ーーなんでこんなことになっちゃったんだろう?


ほんの数時間前、琴子は大学の食堂にいた。
親友の石川理美と小森じんこと共に、午後イチの講義終わりにカップコーヒーで安上がりなお茶をしながら、盛大なため息をついていたのだ。

長年の片想いを実らせ、周囲が仰天するような電撃結婚をしたばかりの幸せ絶頂な新妻とは思えないようなげっそりとしたやつれ顔を見た二人は、初めはにやにや笑ってからかってきた。
さっすが新婚ならではねー、意外に入江くんってば激しいのね、等々とすっかり虚しい勘違いした二人に、琴子は「実はね………」と、ここ数日の出来事を話し始める。
入籍を拒まれ上に帰って来ないという話を聞いて、流石にそれはヤバイんじゃないかと親友たちは顔を見合わせて驚愕した。

「それにね、また来たの」

琴子はカバンから赤い封筒を出した。

「これ、例の?」

「うん……」

「読んだの?」

「うん……『夢から醒めた気分はいかが?』みたいなことが書いてあった…」

「何、それ? どーゆーこと?」

「………よくわからないけと……」

「そろそろ、ちゃんと入江くんに相談した方がいいよ!  手紙も燃やしたりせずに取っておきなって! ストーカーの証拠になるから!」

「そうだよ。この手のは段々エスカレートしてくるかもよ!」

二人の剣幕に驚きながらも、琴子は目を伏せて答える。

「相談したくても帰って来ないし……会社に差し入れ届けても会ってもくれないし……」

だんだん声が細くなり、目を伏せて溜め息をつく親友の様子に、二人は再び顔を見合わせた。

「……ねぇ、里美、じんこ。あたし、ほんとに入江君と結婚したのかな…? もしかして、全部あたしの夢? いつもの妄想? 今のこの現実は、夢から醒めただけ?」

「何言ってんの! じゃあ何? あの入江くんの衝撃の過去の女装写真を、あたしはあんたの夢の中で見たの?」

「そうだよ! あたしがあんたからのブーケ受け取ったのも夢ってこと?」

二人は琴子の肩をがしっと掴み正面から見据えた。

「あんな変な手紙に影響されないでよ! あんたは間違いなく入江くんと結婚式挙げたんだよ!」

「そうだよ! あたしたちが証人だよ」

「ありがとう……二人とも……」
  
大きな瞳に今にも零れんばかりの涙を浮かべ始めた琴子に、友人二人はついイライラと言葉を荒げた。

「しかしどーゆーことなのっ入江くんは!」

「新婚ホヤホヤの新妻をほったらかして!」

「琴子がこんなに悩んでるのに!」

「だいたい仕事、仕事って、妙に怪しい……あっ」

「…まさか、もう他に女が……あわわっ」

徐々にヒートアップして、口を滑らせ、さらに琴子の涙の量を増幅させる。

「なーんてねっそんな事ないわよ、仕事って言ってんだから、仕事よ! 信じなさいって」

「そ、そーよ。琴子とは長い付き合いなんだから急に捨てられることないわ!」

「今の話、ほんまけ」

三人の話に唐突に割って入ってきたのは金之助だった。

「入江の奴が、琴子を悲しませとんのか」

その顔は静かな怒りに満ちていた。

「ひぇー…き、金ちゃ……」

三人は焦って立ち上がる。

「入江の野郎、ぶちのめしたる!」

金之助は、琴子たちの制止も聞かずそのまま食堂を飛び出した。
琴子も金之助が何処に向かおうとしているのか察知して、慌てて追いかけた。

「金ちゃん、まさか、入江くんとこに殴り込み…?」

「うーん、ややこしいことにならなきゃいいけど……」

取り残された二人は、琴子が忘れていった鞄とジャケットを手にしたまま、しばらくどうするべきか、所在なげに立ち尽くしていた。

「金ちゃんっ待って!」

大学前の大通りですぐにタクシーを拾い乗り込もうとしていた金之助に、やっとの思いで追い付いた琴子は、滑りこむように同乗した。

「パンダイ本社ビルまで」

そう運転手に告げた金之助は、怒りの形相を面に貼り付けたまま、進行方向を睨み付けている。

「ねぇ、金ちゃん、落ち着いて……」

おろおろする琴子に金之助は絞り出すような声を出して、

「琴子…おまえ幸せやないんか…?」

「……やだ、金ちゃん…あたし…新婚よ…? 幸せに……」

幸せに決まってる。大好きな入江くんと結婚できたんだもの。
金ちゃんや、沙穂子さんや、いろんな人を傷つけて、それでも二人でそれを乗り越えて、幸せになろうって……

少しも幸せそうには見えない顔を俯かせて押し黙ってしまった琴子の様子を見て、金之助は膝の上の拳をきつく握りしめた。

ほどなくしてタクシーは目的地に着いた。
先に降りた琴子を制するように、金之助は五千円札を押し付けると、
「悪い、これで払っといてくれや」と、さっさと建物に続くアプローチを駆け抜けている。

「えっえっえっ? 金ちゃん、待って!」

琴子がモタモタと料金を支払い、お釣を貰っている間に、金之助の姿はとうにパンダイ本社の中に消えていた。

琴子が直樹がいるであろう企画室の前に辿り着いた時には、金之助は直樹の襟首を掴んで、フロア中に響き渡る声を張り上げていた。

「なんで琴子と籍いれへんねん! 琴子のことイヤになったらいつでも別れれるための下準備かいな!」

息切れする呼吸を落ち着かせながら、廊下の片隅で二人の会話を聞いていた琴子の顔は、少し怯えていた。

「おれは、琴子さえ幸せなら黙ってるつもりだったんや! けど、おまえは琴子をもお泣かせとるやないか!
おまえが何考えてんのかちいっともわからへんけど、てめえの身勝手で琴子をもてあそぶな!」

しかし、その後の直樹の言葉に琴子は茫然とする。

「……言いたいこと終わった? おれ、仕事残ってるから」

――入江くん…!

「おれと琴子の問題なんだよ!」

――おれと琴子の問題? 本当にそうなの? その中にあたしはいるの? 入江くんだけしかわからない問題じゃないの?

「いっつも首突っ込んで来やがって……何が幸せなら黙ってるだ?」

――もう、やめて!

「どうせおれと琴子が別れるのウロウロして待ってるんだろ?」

「やめてよ!」

気がついたら、飛び出していた。

「金ちゃんは悪くない! 悪いのは入江くんじゃない!」

「琴子……」

「入江くんはあたしのこと奥サンなんて思ってないもん」

入江くん…なんで…?

「あたしばっかりウキウキしちゃって、あたしばっかり不安になっちゃって」

……なんであたしと結婚したの?

「こんなの結婚したっていえる!?」

わからなくてわからなくて、全然わからなくて、つい口走ってしまった言葉……。

そして返って来たのは――。氷のように冷たい、抑揚のないたった一言の声。

「……じゃあやめれば」

その後のことをあまり覚えていない。捨て台詞のように、
「何よバカっ!そうすればいいじゃない」と叫んだこと以外は。

追い掛けてくる金之助を振り切って、ただひたすら走った。直樹の放ったあの凍てついた言葉から逃げるように。

――冷たい…

冬の日没は早い。あっという間にあたりは黄昏色に染まり始め、切るように冷たい空気が琴子の頬を掠めた。歩道に並ぶ街路樹は、葉がはらはらと落ちて琴子の足下で舞い上がる。
結婚式をあげた頃は、鮮やかな紅葉を誇っていた街路樹たち。あれからほんの二週間程しか経っていないのに、季節も、自分の置かれている情況もすっかり変わってしまった。

――冷たいのは…入江くんか……

そしてふたたび先程のやり取りが思い起こされて、胸の内をえぐるような思いに晒される。
何を今更……。
入江くんが、冷たくてイジワルなのは、今に始まったことじゃない。昔からだ。

そっか……。やっぱりこの数週間が、夢だったんだ。
あの雨の日の突然のプロポーズから、長い長い夢を見てたんだ。
沙穂子さんと入江くんとの結婚が耐えられなくて、自分で勝手に妄想して夢の世界に逃げ込んでただけだったんだ。
そして唐突に夢から醒めて……優しかった王子様は元のイジワル王子に戻っただけ……。

ーーつまりは、そういうことだ。

だったら。
もう一度……。
夢の中に帰りたい。

琴子の思考は常にそこに辿り着いていた。

もう一度、夢の中に。
あの、サイコーに幸せだった、数週間前に。
――戻りたい。

「っくしょんっ!……うーっまじ寒っ」

あまりの寒さに琴子ははっと我にかえった。

「うわっもうこんなに薄暗いんだ……」

ーー早く帰らないと、お義母さんが心配するよね。

正直、あの家あの部屋に帰るのは辛かったが、行くあてがあるわけでもない。

ーーあのおうちしか、あたしの帰る所はないんだもんね。

ふうっと溜め息をつくと、琴子は周りを見回す。

ーーここ、何処なんだろ? 家まで歩いて帰れる? お財布も携帯も鞄の中だし…どうしよう……?

琴子は自分が手ぶらで何も持ってないという事実に、途方に暮れた。

ーー歩いて帰るにしても…家、どっちだろう?

とりあえず、とぼとぼと再び歩きだすと、前方に駅の案内板があるのに気がついた。

駅――でも、お金…。

「あ、ちょっと待って、あたしお金あるかも」

琴子はふと、自分のジーンズのポケットを探る。

「あった!金ちゃん、助かったよ!」

金之助から受け取ったお金でタクシー代を払った、そのお釣をポケットに捩じ込んだことを思い出した。
これくらいあれば、余裕で家まで帰れるだろう。

「急がないと……お夕飯の仕度、手伝えなくなっちゃう」

せめて、それくらいは、主婦らしいことしないと……!

とめどなく迷宮に引きずりこまれそうな負の思考を、バシッと頬っぺたを叩いて現実に引き戻す。
そして琴子は足早に駅を目指した。
夕刻の駅周辺は、そろそろ帰宅ラッシュなのか、人通りが激しくなってきたようだ。
行き交う人々の歩く速度も早い。

漸く駅に到着し、自宅の最寄り駅までの切符を買い、路線図を見て乗り換えを確認する。東京生まれのくせして、普段使わない駅がどの路線を通っているのかさっぱり覚えられない。

改札口を通って、高架上にある駅のホームに向かうための階段を上る。
電車の到着を告げるアナウンスの声がだんだん大きくなってきた。

「……相原センパイ…?」

あと数段で階段を上り切ろうかという瞬間に、ホームから階段を降りようとしていた人影がふっと立ち止まり、琴子に声をかけた。

「え?」

顔をあげた琴子は、目を見開いて相手を見つめた。
そこにいたのは。
何年振りかに見た高校時代の後輩の――。


「………速川さん……」

                                          





※※※※※※※※※※※※※※



ほぼ、原作のノベライズですが(^^;

かなり危ない速川さんとバカヤローな入江くんにムカついていただけていますでしょうか(笑)




ところで爆弾低気圧、大丈夫でしたか?
大都会N市は滅多にない積雪に大騒ぎでしたが、同じ県内でも東よりのうちは、3センチほどの積雪で済みました。でも会社に行くのが怖かったです(T.T)とりあえず家から車で10分足らずの場所なんで、まあなんとか辿り着きました。あっちこっちで事故渋滞、遅刻者多発でしたが。明日は道路の凍結が心配です。雪に慣れないケンミンです(-.-)
皆様もお気をつけてお過ごしください!





関連記事
スポンサーサイト
* Category : 彼女は美しい夢を見る。
* Comment : (2) * Trackback : (0) * |

管理人のみ閲覧できます * by -

Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

そうですよねーこの辺りの入江くんは本当にバカヤローです。
ほんのちょっと前まで互いに別の人と結婚する筈だったのに、急展開なこの結婚。ずっと夢みたいと思ってた琴子ちゃんは、こんな態度をとられたら本当に実は夢だったかも?って思っちゃうよ!と……考えてしまったのが発端のお話です。
琴子ちゃんが入江くんの気持ちを信じられる確たるものが何にもない!
そこに付け入る速川さんですが、彼女が何をしでかすか……はい、怖いですが、少しばかりお待ちくださいませ(^^;

コメント







管理者にだけ表示を許可する