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彼女は美しい夢を見る。 プロローグ(3)

2014.12.17(00:12) 67

                  



「ファンクラブ?  会長? 何それ?  あんたそんなの受けたの?」

理美とじん子が眉を潜めてあたしににじりよる。

「ううん、受けてないって! あたしもよくわからなかったし」

お弁当を突つきながらあたしは昨日の速川さんとの会話を思い出していた。




「ファンクラブって…何するの?」

「え~? そりゃ、会員同士集まってお茶しながら入江さんの話をするんですよ。入江さんのどこが好きーとか語りあって盛り上がったり、新たに知った情報交換しあったりとか」

……それは楽しそうかも。

「会報作ったり、ホームページ立ち上げたり」

「え? どんな内容の?」

「もちろん入江さんのことばっかりですよ。入江さんの好きなものとか、苦手なものとか、休みの日には何してるとか。今日1日の入江さんの行動、とか……。
ほら、新聞に載ってる首相の1日、みたいに」

「…それ、どうやって調べるの?」

――アイドルのファンクラブなら、アイドル本人や事務所が色々情報を発信するのだろうけれど、入江くんがいちいち教えてくれるとは思えない。

「センパイくらい根性があれば、きっと聞き出せますよ」

……あたしに調べろと? 誕生日もろくに知らなかったあたしに?

「なんといっても、センパイ、筋金入りの一番の追っかけだし!」

誉められてるのかなぁ、それ。

「後は、色々ルールを作って、会員同士抜け駆けしないようにするとか」

「抜け駆け?」

「そう、抜け駆けして告白するのは無しってこと。会員はみんな平等じゃないと」

「ええっ?」

あたしは真剣に驚いた。ファンクラブって人のことあれこれ調べたり、束縛し合う仲間なのかな?

「それはおかしいよ。告白するのなんて本人の自由だし……応援し合うのならわかるけど」

「やだあ、センパイ!  応援し合うって!  恋のライバル応援しちゃっていいんですか?  自分以外の誰かが入江さんの彼女になっても平気なんですか?」

彼女は心底不思議そうだった。

「平気じゃないけど……それは仕方のないことだと思うよ。選ぶのは入江くんだし。そして、あたしたちだって、告白するかしないかは自分で選べるんだよ」

あたしは思った通りのことを云った。すると速川さんは、柔らかかった表情を微かに違うものに変えた。少し侮蔑の色を含んだ薄い笑み――。

「相原センパイって……すっごくいい子ちゃんですね」

「え?え?え?」

「なんか偽善っぽい」

「…………?」

正直、偽善の意味がはっきりとは解らなかったけど、良い意味ではないということは分かった。

「えっと……とりあえず、あたしはファンクラブとか作らないし、会長にもならないから」

きっぱりと言い切った。

「……わかりました」

彼女は軽く目を伏せてそのまま立ち去った。




「ーーというわけなの」

「ふうん、結構くわせ者だったのね、その娘」

「くわせ者とまではは言わないけど……ただそのファンクラブってなんか違うかなぁって」

「まあそれが正解だと思うよ。ホームページ立ちあげるとなりゃ絶対写真とか載せるよね?
それって間違いなく盗撮ってことにならない?」

じんこの指摘はあたしも思ったことだった。
そんなこと、元々写真嫌いの入江くんが承知するとは思えない。修学旅行の写真だってまともになかったくらいなのに。彼が嫌がるであろうことをするのがファンとは思えない。

「まあ、これからはあんましその速川って娘に関わらない方がいいんじゃない?」

理美の言葉に頷くまでもなく。あの日からぱったりと彼女の方からあたしに近づいて来ることはなかった。






「そういや、あの娘、ファンクラブ立ち上げたらしいわよ」

それから1ヶ月程した放課後に、そんな情報をもたらしてくれたのは理美だった。

「速川さん?」

「そう」

「彼女が会長で?」

「まさか。あの娘は自分が表にでるタイプじゃないもの。裏から操る策士って感じね」

さくし? 意外と難しい言葉知ってるじゃない、理美。さすが足切りギリギリセーフで中学から上がってきただけはあるわね。


「よくは知らないけど、1年の誰かを担ぎ上げたらしいよ。まあ、ファンクラブの構成員も1年ばっからしいし。いいんじゃない?」

「……ふうん」

「なんかさ、中学ん時のクラスメイトの妹が、速川って子と同級生だったらしいけど。中学の時から相当な入江ファンでね。休み時間とか、体育とか部活とか常に張り付いていてストーカーみたいって、A組の女子たちに騒がれて……」

「え? それでストーカーってあたし、どうなるの?」

あたしもまるで同じことしてるんですけど。

「中学の頃は入江のクラスの女子たちも結構親衛隊気取りで、纏わりつくミーハー女たちにきっつい対応してたみたい。体育館の裏に呼び出すとか……」

「やだ、なんかドラマみたいっ」

「入江の預かり知らぬ話ではあるけれど、いじめっぽいこともあったみたいでさ。わりと問題になっていっそのこと男子クラスと女子クラスと分けるかなんて話まででて」

「えーーっ」

「まあ、女子たちもそうなるのはイヤだったから、少し大人しくなったみたい。入江もそれから余計に媚びてくる女子に対して手厳しいというか、冷たい態度をとるようになったみたいで」

「ふーん………」

よくわかったわ。
………入江くんが中学からモテモテだってことが。

「でもいいなぁー理美」

「は? 何が?」

「中学から一緒って、中学生の入江くん知ってるてことだよねー。あたしも中学生の入江くんに会ってみたかったなあ」

心底羨ましげに云うあたしに、理美が呆れたような眼差しを向けて、ため息を1つ。

「あたしもじんこも、ずっとF組なの!
あんたみたいに気合いを入れて追っかけなきゃ滅多に会わないわよ」

「よかった~」

「だから、何が!」

「二人が面食いじゃなくって……」

つくづくそう思うよ。

「とにかくさ、あの速川って子には関わらないことね」

「多分あっちから関わってこないよ」

「うん、あんた利用価値なし、って見限られたってことよね」

「う……」

そーゆーことだよね、つまり。
ちょっと先輩気分で楽しかったけど。
でも入江くんのこと好き歴は彼女の方が長かったのね。
あの娘も中学時代の入江くん知ってるんだ……。

「ファンクラブにもね。関わらない方がいいよ。中学の時のトラブルから、学校も入江がらみの集まりはチェックしてると思うし」

「それは大丈夫」

どうでもいいことではあるけれど。願わくば入江くんに迷惑がかかりませんように。あたしは心密かに祈ってた。




それから2ヶ月程経ったある日。ちょっとした事件が校内を騒がせた。

「ねぇ、聞いた? 琴子!」

「ファンクラブのこと?」

「そうそう!」

どうやら入江ファンクラブのメンバーが、付属小に在籍している彼の弟の所に押し掛けて、写真を撮ろうとしているところを小学校の先生に捕まったらしい。
入江くんはその話を聞いて激怒して、ファンクラブの解散と責任者への厳重な処罰を要求したという。でもそれは仕方のないことだと思う。
ただ入江くんの親御さんが、随分さっぱりした方らしくて、憤る彼を取りなして、余りことを大きくしないように学校と掛け合ったらしい。なんでも、
「たかだか写真ごときで大騒ぎするんじゃないの! 減るもんじゃなし!」
……だそうである。随分寛容な方なんだろうなぁ、入江くんのお母様……。

結局、ファンクラブは解散させられ、会長をしていた1年女子の娘が厳重注意を受けただけで事件は終わった。その1年女子は、全然知らない名前の娘だった。

その後も時折速川さんの姿を見掛けることはあったけれど、彼女から近づいて来ることはなかった。
あたしがにっこりと声を掛けようとしても、つんとあからさまにそっぽを向いて行ってしまうのが常だった。

それからは特にこれといった事件もなく2年生も終わりに近づいていった。
入江くんに恋して二度目のバレンタインも、やはり作っただけで渡すことなく終わった。
クラス分けの選定基準となる期末考査もあたしなりに頑張ったけど、「惜しいな、相原、お前F組の中じゃ1番だったぞ」の一言で、ラスト1年も入江くんに近づけないことが決定した。

そして、春。
高校生活最後の春。
あたしは勝負に出た。
このままじゃ、卒業するまで決して入江くんの傍に居ることなんて出来ない。それどころか、顔や名前すら覚えてもらえないのだ。
高校時代に「相原琴子」という彼のことを好きだった女の存在なんて、彼の世界にはなかったことになってしまう。
運命の女神は、何の努力もしないあたしに微笑むことなんか、永遠にないのだと悟った。

だから。
あたしはラブレターを書いた。
校門の前で彼に渡した。

そしてものの見事に振られた。
「いらない」
の、一言とともに。

ただ――。
その日を境にあたしの運命は、あり得ない程大きく動き始めたのだ――。

                                             






※※※※※※※※※※※※※


ーーと、いうわけでやっと原作の冒頭のところにやってきました。プロローグ、あと1話です。

理美とじんこを付属中学出身という設定にしたら、後から何故この二人、足切りにならなかったんだー? などと考え始めてしまいました……まあ、それを云ったら何故小学生の算数も解けない琴子ちゃんが斗南高校に入れたんだ! という原作の謎にまで至ってしまいそうなので、深く拘るのはやめておきましょう……(^^;




爆弾低気圧……ホワイトアウト……なんかお天気が大変そうです。

温暖なうちの地域は……降るのかなぁ?雪……(-.-) 丘の上の家なので、積もると怖くて車運転したくないのですよ……(^^;

皆様、気を付けてお過ごしくださいね。



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コメント
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【2014/12/17 08:38】 | # | [edit]
コメントありがとうございます♪

富士山が見える日もあるんですねー羨ましい!
はい、入江くんの回りは多分幼稚園からずっと賑やかでしょう。ファンクラブもモトちゃんはファンクラブ会長って何やってたんだろう、嫁の名前も知らずに、と思いつつそこは突けずに(^^;ちょっとIFで扱ってみました(^^)手直し始めるとどうなるかわかりませんが、なるべく毎日アップ目指していきたいと思ってます(^^)v
【2014/12/17 20:24】 | ののの #- | [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2014/12/17 20:29】 | # | [edit]
コメントありがとうございます♪

そうなんです。速川さん、かなりイッちゃってるキャラです。琴子ちゃんと対極ですね。今後本編で彼女の存在が色々事件を引き起こす予定(^^;今日アップしたプロローグでその前兆が現れております………
じんこと理美もこれからも琴子を守る重要な役割があります。頑張ってもらわねば(^^)v
入江くん……まあもてるヤツは昔から大変だろうなーと。なんか、『愛してナイト』の剛さんの親衛隊を思い出しながら書いていました……。あまり存在感のなかった入江くん、本編では頑張ります(^^)
続き、お待ちいただければ嬉しいです♪
【2014/12/18 00:10】 | ののの #- | [edit]
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