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彼女は美しい夢を見る。プロローグ (1)

2014.12.15(00:00) 65





ーー王子様って本当にいるんだーー

それは、まさしく一目惚れだった。
容姿端麗、眉目秀麗、頭脳明晰、スポーツ万能。完全無欠のスーパーボーイ。
世の中にこんな少女漫画の中から抜け出てきたような人が実在するんだ。

新入生代表として壇上に立ち、堂々と挨拶を述べる彼にあたしは釘付けだった。
その日からあたしの毎日は彼一色となり、彼だけを追い掛ける日々の始まりとなったのだ。
彼ーー入江直樹の。



「完全無欠の男なんていないわよ」

斗南大学附属高校に入学してすぐに仲良くなった理美が云った。

「……え~だって入江くん………」

「琴子ってば表面的なものに騙されてるよ」

「そうそう。完璧な人間なんてこの世にいないって」

一緒にお弁当を食べていたじん子までもが理美に加勢した。この二人は同じ中学出身で元々仲が良かったよう。知り合いが一人もいなくて教室でぽつねんとしていたあたしに声をかけてくれたのが始まり。今ではすっかり気があって、よく三人でつるんでいる。

「入江と同じ附属中出身の子に訊いたんだけどさ。アイツ、相当な女嫌いで、性格も冷たくて、女の振り方なんて容赦なくってサイアクだって話だよ」
`
「どんなにイイ男でも血の通ってない冷血人間とかヤでしよ? 言葉の暴力とか立派にDVだよ」

それはそうだけど。
でも。
あたしには彼がそんな酷い人とは思えなかった。
そりゃ、彼のこと何も知らないし、A組の彼とF組のあたしが正攻法で知り合う可能性も殆どないことは分かっている。
でもね。漫画みたいな王子さまがこの世に存在するなら、漫画みたいな運命的な出逢いだってあるかもしれないじゃない?
そしたら噂だけじゃ分からない彼のことを知ることだって出来るかもしれない。
あたしは信じたい。
彼がそんな冷たい人じゃないってこと。
運命はきっと少しくらいはあたしにも微笑んでくれるってこと。

そして、あたしは運命を微笑ませる為にかなりな努力をした。
A組の時間割りを全て把握して、移動教室の時には必ずすれ遠うようにした。
体育の授業を盗み見る為に、窓側の席はどんな手をつかっても死守した。ラッキーなコトに三棟ある校舎のうちの一番グラウンド寄りの第一校舎だったのよ! とはいえ、雨が続いたりインドアスポーツの単元だったりした時はテンション下がりまくりだったけど。
夏の水泳授業もそう。斗南には屋内プールがあって、こればかりは覗くことが出来ない。普段は男女別々の単元種目でやってるのに水泳だけは離れたところでやってるとはいえ、男女同じプール。
A組の女子たちが濡れ髪を拭きながら、顔
を高揚させて教室に戻ってきた時の、すれ違い様の会話一ー。

「入江くんの上半身見たぁ? 細いのにあの腹筋!」

ああ、入江くんの水着姿………見たい!

「……クロールめっちゃ綺麗だったよね~! オリンピックに出られるんじゃない? ってくらい速かったしね~」

ああ、泳いでる姿も……水面から顔を出して濡れた髪を掬い上げる仕草なんてカッコいいだろうなぁ……

「オリンピックっていえば陸上でしょう! 春のスポーツテストで短距離も長距離も高校新?ってくらいなタイムで、陸上部の顧問が土下座して勧誘したの断ったらしいわよ」

ああ、そうそう。スポーツテストは窓から見てたのよねーー全部クラストップだったわね。うん、あの長い足で一瞬のうちに50M走り抜けて。あたしのとこに駆けて来て~って叫びたくなったわね。

「テニス部だって、面倒がってあんまり出てないのに掛け持ちなんてやるわけないじゃない」

テニス部……あたしも入りたかったな~

「どうせなら陸上よりバスケ部の方がいいわよね!」

バスケ……うっ体育館の授業は見られないのよーー!

「そうそう、あのシュートする姿、うっとりしちゃう!」

だろうなぁ~想像するだけでうっとりだよ。身長高いし、ダンクとか決めれそう。うっうっ見たい……入江くんのシュート………


そんなA組女子たちの会話を小耳に挟んだ日には、自分がA組じゃないことに身悶えして、来年こそA組に入ってやるって、固く心に誓ったわね。そんな決意を口にする度に理美とじん子に爆笑されたけど。まあ実際、頑張らなきゃって思ってもいざ勉強しようとすると何故だか眠くなっちゃうんだよね。

F組からA組は、遠い。
物理的にも遥か彼方、一番端と端同士の教室。長い廊下の距離以外にも、深い深い溝がある。
にも関わらず。そんなことでめげる私じゃないしっ! あたしは頻繁にA組教室前をウロウロとした。彼が休憩時間に廊下に出てくることなんか滅多になかったけどね。でも、そこにいたら会える確率だって倍増じゃない?
てっきりあたしと同じ帰宅部だと思っていた彼が、実はテニス部だったと知ったのは、夏の地区大会が始まる少し前。何でも試合の直前しか練習に出なくていいんだとか。あたしも慌ててテニス部に入部しようとしたけど、今年は入江くん目当ての女子が殺到して(附属中出身の子たちはみんな入江くんがテニスやってるって知ってたのよね…あたしってば本当に出遅れてる)、入部テス卜にパスした人しか入れないし、もう今年は締め切って途中入部もなしと知って凄くがっかりした。でも、フェンスの外側から、それはそれは流麗な彼のプレイを見ることが出来て、至福の一時を過ごせる時間を手に入れた。大会が始まるまでのほんの一時だけだったけど。
試合も応援行きたかったなぁ……まるで申し合わせたように、試合場所と時間を誰も教えてくれなかった。何でも中学の大会の時、入江くん目あての女の子たちの間でトラブルがあって大騒ぎになったらしい。以来うちの学校はたとえ全国大会に行っても積極的に応援団を結成したりせずに、吹奏楽部とチア部しか応援に行けないんだって!(あ、入江くんの出る試合限定の暗黙のルールらしい)
うう~応援行きたかったよ~。
フェンスの外にはあたしと同じ思いをしたものすごい数の女の子たちが、びっしりとその金網に手をかけて黄色い声をあげている。
フェンスの内側の彼からは、あたしたちはどんな風に見えているのだろう?
いや、見てもいないか………
彼が噂通りの女嫌いで、告白する女子に容赦ない対応をするというのは、この数ヵ月の追っかけで十分思い知ってしまった。
下駄箱のラブレタ一は、速攻ゴミ箱行き。
女子の呼び出しには絶対応じない。
先生の名前を騙って呼び出した女子が、凍りつくような言葉を浴びせられ不登校に陥ったという話も聞いたことがある。
待ち伏せも然り。彼は絶対立ち止まらないし、目もくれない。
学校一の美女と名高い二年生の先輩の呼び出しすらずっと無視し続け、その先輩がわざわざ一年の教室に入ってきて入江くんの前に立って『君と付き合ってあげてもいいけど?』と告白し、即、『あんたみたいな女は趣味じゃない』と云って目の前の美女を顔面蒼白にさせたというのは、入学式から僅か一週間たらずのことだった。(噂はその日のうちに全校中を駆け巡ったわね)
平気で女の子の傷つく言葉を投げつける究極の女嫌い。
どうやら噂はある程度の真実を突いているというのは、こうして彼のことを追っかけていれば徐々に理解ってきた。

「ほらね、やっばり冷たい男じゃない」

「あんな奴のどこがいいの?」

理美とじん子は相変わらず入江くんに容赦ない。

「……でも、女たらしよりいいじゃない? 硬派なほうが……」

「どっちもどっちでしょ?」

「もしかしたらあたしが初めての彼女になるかもしれないし」

ぶひゃひゃひゃひゃ!

「そんなに爆笑しなくていいじゃない………女嫌いになったのも何か過去にトラウマがあるのかも……あたしがそれを癒してあげるの」

ぎゃははははは!!

「いいわあ、琴子、その前向きさ! 大好きよ!」

ええ、ありがとう……
あたしもあなたたちが大好きよ。
言葉は辛辣だけど、ちゃんとあたしの話を聞いてくれて、あたしが先走って行き過ぎた追っかけにならないようにストッバ一をかけてくれる。
ある意味、理美たちが入江くんに興味がないのは良かったかも。そりゃ、一緒にきゃぴきゃぴしながら入江くんの話をするのも楽しいだろうけど、親友同士恋のライバルになるのはちょっと面倒かも、って思ってしまう。
例えばほら。入江くんの追っかけをずっとしてると、周りにいる女の子たちはある程度顔馴染みになってくる。
あたしレベルの熱心な追っかけは、十数人ってとこだ。
遠巻きに見てる娘たちは多いけど、彼のあの冷たくて綺麗な眼差しでギロリと睨まれて、尻込みして諦めちゃう娘たちも多いよう。
それでもめげない筋金入りの入江ファン同士、ちょっと情報交換なんかしたいなぁ、と話し掛けたりするんだけど、結構あからさまにスル一されることが多い。
ーーなんで、あんたみたいなのと?
ーーいっしょにしないでよね。
なんか、暗にそんな風に思われてるような気がするのだけれど、気にしすぎかなぁ。
何にせよお互い牽制しあってる感じは否めない。
まあ、仕方ないか。みんなライバルだもんね。
だから、やっばり理美とじん子の存在は凄く大きい。
どんなに入江くんのことを悪く云っても、あたしの想いを否定したりは絶対しない。
彼女たちと出逢えただけでも、斗南に無理してでも入学して良かったな、と思うんだ。
まあ、入学して良かったことの一番は入江くんに会えたことだけどね。




あっという間に季節は過ぎ、運命があたしに微笑むこともなく、一年が過ぎていく。
頑張って彼の周辺をウロウロしてみても、あたしの存在が彼に知られることもなく。
ただ救いなのは彼も相変わらずの女嫌いで、特定の女子が彼の傍らにいることがなかった、ということだ。

その学年も終わりに近付いた2月ーーバレンタイン。
彼の下駄箱や机の上は軒並み想いの詰まったたチョコで溢れかえっていたけれど、それらはあっさりとゴミ箱に直行した。どれひとつとして、その包装を解かれることなく一ー。
勿論あたしもチョコを持ってきていた。昨日徹夜で作ったトリュフチョコ。なんかトリュフってよりは岩石みたいな出来映えだったけどね。
でも結局渡せなかった。
いくら岩石でもゴミ箱に棄てられてしまうのはあまりにあたしの想いが可哀想な気がして、どうしても渡せなかった。

驚いたのは、その日は校門の前に出待ちの他校の女の子たちがうじゃうじゃいたことだ。
ラッピングされた可愛いチョコの箱を手に、校門の外でウロウロするいろんな制服の女の子たち。
けれども入江くんは彼女らを避けるように体育館の裏の生け垣の隙間から帰って行ったらしい。
そんなことも知らずずっと待ち続ける彼女たち。
……あの娘たちはどこで彼を知って恋をしたのかな?
通学の電車の中?
中学は一緒だったけど高校は離れたとか?
いろんなドラマがあるんだろうな、あの娘たちの胸の中に一ー。
でも。
あなたたちは校門の外。
あたしは校門の内側にいる。
それだけは、あたしが彼女たちより優位に立っていること。
ふふんっと自分が入江くんと同じ学校に通っていることに優越感を感じながら、出待ちの子たちを尻目に校門を出た。
そして自分の鞄の中に結局渡せなかったチョコがあることを思いだしーー堪らなく自己嫌悪に陥ってしまった。
……馬鹿みたい。
あたしはあの娘たちと何ら変わりないじゃない。
校門の内側にいるというだけで、教室の外、フェンスの外の人間だってことは変わりない。
さっきまでのあたしは、きっと部外者は入って来ないでと、入江くんの追っかけをシャットアウトするA組女子や、テニス部女子と同じ蔑んだ顔をしていたのだろうか?
……サイテ一だ、あたしって……
憂鬱な気分を増幅させることがもうひとつ。
その頃には学年末考査の結果も出て、あたしのF組残留は決定となっていた。学年末だけ慌てて勉強したって、A組なんて行ける筈もない。
…あたしってばなんて馬鹿なんだろう……
そんなこんなで凄まじく凹んだ気分のまま迎えた春休み。
そして再びの新学期一ー。

あたしは2年F組となり、彼は2年A組となった。







※※※※※※※※※※※※※


……と、プロローグはこんな感じでございます。まあ、ありがちな場面からのスタートですね(^^;


言い忘れてましたが、これ、パラレルというかIFものです。ある地点から原作とは違う世界に行ってしまいます。それでもよい方は続きをお待ちくださいませ(^^;


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コメント
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【2014/12/15 00:32】 | # | [edit]
コメントありがとうございます♪

ふふふっにゃんこ様ならついてきていただけると思ってましたとも♪こんなんですが宜しくお願いしますっ(*^_^*)
【2014/12/15 19:56】 | ののの #- | [edit]
拍手コメントありがとうございます♪
いつも読んでいただいて嬉しいです(*^_^*)
【2014/12/15 20:49】 | ののの #- | [edit]
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