20131121 ~20th anniversary (6)







「………と、いうわけで二人の20年のうちの4分の3以上を私は見守ってきたわけでして……」


宴もたけなわ。

細井元看護師長の長々と続くお祝いの詞に耳を傾ける人は少なく、皆が思い思いに飲み食いしてお喋りに興じている。

そりゃまあ、パパとママは神妙に聴いてるけど。

先年定年退職した細井元師長は、今は大学の非常勤講師としてナースの育成に務めているらしい。何度か病院で会ったことがあるけれど、相変わらずの恰幅の良さだ。


「……今後も是非琴子さんには公私ともに入江教授の支えとなってあげて欲しいと思っています」




パパの恩師である名誉教授の乾杯の音頭で始まったパーティは、皆さまからのお祝いコメントをBGMに、自由に食べて飲んでさくさくと進行している。
結婚記念のパーティというよりは懇親会とか同窓会チックな感じかも。

あたしは乾杯が終わってから、ハルとみっきいまっきぃを迎えに行き、その後はほぼアンジーと二人で保育士さん状態。
キッズメンバーで中学生なのは私とアンジーだけで、あとはみんな小学生以下ばっかり。
夕希ちゃんは隅っこでずうっとノブヒロと話してるし。恋する乙女は当てにならないったら。

「ほら、綿菓子持ったまま走らないで」

「あークレープ頼んだの誰やねん? ほら、はよ取りに来んと!」

「はい、オムレツ食べたい子!」


なんだかいつの間にやら、ちびっこたちの面倒を一手に引き受けてるよ、あたしたち。

「えらいやんけ、琴美。でも、自分、ちゃんと食うとるか?」

和食のブースで特製おむすびを握っていた金ちゃんが、あたしに一つ寄越してくれた。

「わーありがとう、金ちゃん! うん美味しい。でもアンジーも頑張ってるよ、褒めてあげて」

アンジーは、喧嘩を始めたみっきいまっきぃと金太郎、金之丞を仲裁している。

「それに、大丈夫、せっかくのお料理だから、一応あちこちでつまみ食いしてるよ」

「ほら、こっちのふぐの唐揚げも食いな」

「うん、アイじーちゃんもありがとう。今日は準備大変だったでしょう」

「紋付きやらスーツやらを着てかしこまってるよりは、こっちの方がずっと気楽でいいさ」

確かにイリじーちゃんもおばあちゃんも、パパとママの横で、祝辞を下さった皆さまに頭を下げている。
特に雛壇を設けているわけでもなく、決まった席もないから、さっきから立ちっぱだ。


「それでは引き続きまして、お祝い電報が届いておりますので読み上げてまいりたいと思います」

司会のお姉さんの流暢な滑舌で、電報の文面が読み上げられていく。
殆どが企業関係だね。パンダイの取引先やら、医療機器メーカーや製薬会社。あとは全国各地の大学の先生方。
神戸も多い。一年だけの研修だったけれど、今も学会やら研究やらで交流はあるらしい。

『直樹さん、琴子さん、磁器婚式、おめでとうございます。20年前、直樹さんに振って頂いたお蔭で私も良き縁に恵まれました。お二人に習って私も幸せな家庭を築いて行きたいと思います。大泉沙穂子』

軽く周囲がざわついた。

「沙穂子さんって、婿養子貰ったんだっけ?」
けれどママは皆が一瞬反応したところには意に介さず、不思議そうにパパに訊ねていた。

「確か大泉会長の秘書をしていた人と結婚したって聞いてるな。
会長には息子は一人しかいないし、孫は女ばかりらしいから彼女が婿を取るしかなかったんだろ?」

「えー! じゃあ入江くん、もしかしたら婿養子になってたのかも?」

「なんねーよ。あんときはそんな話欠片も出なかったし。俺がパンダイの後継だったせいだろうけど」

「大泉直樹! ああ、ダメダメ! 全然合わないわ! 大泉くんなんてー」
ママ、そこ?

「だから、今さらそんな想像すんな!」

ごちゃごちゃ揉め始めた二人を置いて、電報の読み上げは続く。

『入江先生、琴子ねーちゃん、20周年おめでとう! 入江先生に手術してもろたお蔭でうちは今や神戸一の超絶美人ナースや。うそつき琴子よりは腕もいいんやで。琴子ねーちゃんに嘘つかれたせいでうちはいまだに独身や。どないしてくれるん? 椎名奈美』

「うっ………奈美ちゃん」

「そういやお前、あの娘に大嘘ついたもんな」

「も、もう時効よ!」

からかいながらも、立ちっぱなしのママに椅子をすすめて座らせている。
今日はやけに優しいじゃん、パパ。
時折お酒を注ぎに来る人たちの盃は全部パパが請け負っている。ま、この人ザルだしね。
ママは乾杯からジュースしか飲ませてもらってない。ま、酔うとこの人大虎だもんね。
今夜は二人でこのホテルのスイートにお泊まりだというから、そりゃ酔っぱらって撃沈して欲しくないわよね、パパ。



「さて、引き続き、お祝いのビデオレターが届いておりますので………」



ステージ上のスクリーンに映像が映しだされる。


『直樹ー、琴子さん、20周年おめでとうございます』

あ、理加ちゃん。

『ほんっと、まさかこんなに長く直樹が飽きずに連れ添うなんて思いもよりませんでした。せっかくあわよくば、と独身貫いているのにーー!』

り、理加ちゃん、ママ、引きつってるから!

パパの従妹の理加ちゃんは、現在アメリカはボストン在住。高校で一度日本に帰ったけれど、卒業後はアメリカのM工科大に留学、結局そのままアメリカの医療機器メーカーに就職し、医療ロボットの開発をしているらしい。
パパもボストンの大学に何度も共同研究で訪れてるから、会う機会もあるらしくて、ママをヤキモキさせてるみたい。
尤も訪米する度に違う男と暮らしてるってパパ苦笑してたわ。
あたしもパパが半年近くアメリカにいた時があって、ママやハルと夏休みに遊びに行ったことがあったの。一週間くらいだったけど。その時、理加ちゃんちに行ったら、金髪の超イケメン白人男性と一緒に棲んでたわ。結局その人とも一年近くで破局したっていうから、どうにも一人の人と続かないみたい。
それが初恋のトラウマのせいかどうかは知らないけど。



「………もう、結婚しないなら子供の一人くらい産んでくれればいいのに」
理加ちゃんのパパとママがイリじーちゃんの横でため息をついている。一人娘が海外に行ったまま結婚もせずに帰ってこないんだもんね。とりあえず孫には恵まれたおじいちゃんに愚痴りたくもなるわね。



『直樹ぐん、琴子、めでてぇごっだなー』

お、秋田の鶴三大叔父さん。
今年の冬休みは、「カマクラ見たーい」というアンジーを連れて秋田に行こうと思ってるんだ。ロンドンのお礼がわりに。
パパは来ないように行っとかないと。何故かパパが来ると雪深い秋田に雪が降らなくなるという、不可思議現象が起きるのよ。
ママは悦子おばーちゃんが守護についているからよ、と力説してたけど、あたしは常にブリザードを抱えているから、本当の寒気団がパパを避けているんじゃないかと思うわ。

さて、半分くらい何を云ってるのか分からなかった鶴三大叔父さんのコメントが終った。どうにも方言が強くって。
後ろでは誤字だらけの横断幕持って走り回ってる子達がいるし、クラッカーやら、ジャグリングしている子供らが大騒ぎしてるし。相変わらず賑やか。でも、絶対アンジーにはウケると思うのよね、この大阪ちっくなハイテンションさ!


『直樹、琴子さん、めでたかねー』


お、今度は佐賀のひいじいちゃだ。
方言祭りだね。実はひいじいちゃんも、電話だと何云ってるのかわからなくて困ってしまう。
御年88歳、めでたく米寿を迎えたひいじいちゃんも、二つ下のひいばあちゃんも、たいそう元気だ。二人してちょこんと座り、緊張した面持ちでカメラに向かって話している。
その後ろには紀子おばあちゃんの弟や妹にあたる大叔父、大叔母が控え、その周りにはその子供たち(つまりパパの従妹弟たち)と、その配偶者たちが並び、そしてさらにその子供たち………ネズミ算式に一族が増え、画面に収まりきれない数の人間がひいじいちゃんばあちゃんの後ろで大騒ぎしていて、ただでさえ何云ってるのかわからないのに煩くて余計にわからない。

「うわーこうやって見るとみんな顔似てるよねー」

タケちゃんやメグちゃんら、パパの従妹たちで東京に出てきてこっちで暮らしている一色一族が勢揃いして、地元の一族勢揃いの様子を眺めてる。
うん、あなたたちもよく似てる。つまりはまあ、みんな揃って美形ってことなんだけど。

「そげなこつ…………けんね。……琴美と遥樹ば連れて………」

わーぎゃーわーぎゃー

登場人物多すぎて聴こえないよーひいじいちゃん!
多分あたしとハル連れて来いってことね? いや、だからこの間米寿のお祝いで一泊二日の弾丸里帰りしたけどね。

「しぇからしか! 静かにするとね!」

しーん。
流石ひいじいちゃんの一喝でみんな静かになった。

「琴子さん、直樹のことば今後も宜しゅう頼みますけんね。またひ孫連れて遊びに来るとよかねー」

ひいばあちゃんの穏やかな笑みでビデオ終了。


今年の夏はロンドン行っちゃって行けなかったから、来年の夏は行くよー




『お久し振りです、入江先生』

げっ。あらたなビデオレターにママの顔がひきつる。

「久しぶりって、一週間前に旅立ったばっかりじゃない!」

ぷんぷん怒りながスクリーンの相手に文句つけてる。

『せっかくお招き頂いたのに、本日は脳外科学会でシドニーにいることでしょう。まことに残念です。いや、入江先生が仮面夫婦であることを秘匿するがためにこのような無意味な宴を催さねばならないこと、心中痛み入ります。その苦悩を分かち合って差し上げられないのは本当に無念でなりません……』

ぶちっ
映像が途中で消えた。

「もうー大蛇森先生、一体何いってんの? さっぱりわからない!」

………とりあえず余りお祝いの言葉ではないらしいってことは、わかるわよ。
流すなよ、こんなの。


「あれで一応脳外学界の権威なんだけどねー」

上から軽薄な声が降ってきた。

「西垣先生!」

「もう来たんですか?」

ママとパパの声が同時に聴こえた。

「あんなオペ、ちょちょいのちょいよ。どんな美女が来るかわからないのに、一刻でも早く到着せねばとタクシーかっ飛ばさせて……」

「俺たちの知り合いに手を出さないで下さい。船津の結婚式の二次会で手を出した医学部時代の同級生にいまだに文句云われてます」

「…誰のことかな?」

「西垣先生、いい加減に身を固めたらどうです?」

ママの言葉に、
「それはムリ!」と、男二人が同時に叫んだ。

「そんな、一人の女性に束縛されたら他の女の子たちが可哀想じゃないか」

「奥さんが泣かされるだけの結婚生活が目に見えているのに、お勧めするのは愚の骨頂」

また、二人同時に話す。

「入江みたいに20年も一人の女としかヤらないなんて……」

云いかけてパパにどつかれる。

「娘が近くにいるんですよ? 下品なこといわないで下さい」

西垣先生は、初めてあたしに気がついたようで、一瞬ぎょっとしたような顔をして、気まずそうに頭をかいた。

お気になさらず。
パパとママの娘に生まれた以上、それっくらいじゃ何とも思いませんので。

「琴美ちゃん、今幾つ? ああ、13歳。じゃああと五年ほどしたらデートしようね」

「遠慮しまーす。パパより年上の人はさすがに圏外です」

あたしがにっこり振り向いた時には、西垣先生、お尻押さえて床にうずくまっていたわーー。





さて一通りビデオレターが終った後は、唯一ママがやりたいと企画した、ファーストバイト。一週間毎日練習して、昨日ママとあたしとおばあちゃんとで焼いたガトーショコラが登場する。
甘いもの嫌いなパパも、少し苦味の利いたビターなガトーショコラなら一口くらいなら食べてくれるだろう。
ファーストバイトってもファーストじゃないけどね。
20年前はあまり一般的なウェディングイベントではなかったらしく、ケーキカットはめっちゃ大きな、二人の背よりも高々なイミテーションに二人でナイフ入れる真似しただけたった。
今は生ケーキを二人でカットした後、スプーンで互いに食べさせ合うのが披露宴の常識らしい。そして新婦は口に入りきれないほどの量の一口を、新郎の口に押し込むのがお約束。
20年前にはなかったその企画を、最近部下の娘の結婚式に招かれて知って、どうにも自分もやりたくなったらしい。


パパも20と大きくホワイトチョコベンで書かれたガトーショコラが目の前に運ばれた時には、一瞬眉間に皺が寄ったけれど、特に文句は云わなかった。
ただ、
「食えるのか?」と一言。

「だ、大丈夫よっ! 琴美と作ったし」

ちらっと、あたしを見たパパに、あたしは親指をたてて、「大丈夫」のサインを送る。
ため息をひとつついて、
「あまり沢山押し込むなよ」と一言。
そしてまずパパがママの口にひとかけ掬いとって食べさせる。

「うん、美味しい、大丈夫!」
ママが嬉しそうににこっと笑う。


新婦の持たされるスプーンは大きめなんだけれど、パパの云うことをちゃんと聞いた聞き分けのよいママは、大きなスプーンに少しだけしか掬わず、それをパパの口元に持っていった。

新婦から大量のケーキを口に押し込まれてあたふたする新郎を見せるというのがこの企画の見所なのに、さっとスマートに食べきったパパに、イマイチ拍手は疎らね。こーゆー空気は絶対読まないから、うちのパパ。

と、思ったら。
口の回りにチョコを付けているママの口元に指を持っていくと、すっと拭いとってそれを自分で舐めた。

「……………!」

けれどクリームと違ってへばりついたチョコはなかなか取れない。
するとパパは躊躇いなく、ママの唇の周りのチョコをペロッと自分で舐めとった。

「……………!!!!」

真っ赤になって口元を押さえているママと、しれっとしているパパ。
そして今の様子を見ていた人たちから割れんばかりの拍手喝采を受けて、ママの腰に手を回して抱き寄せる。

「ファーストバイトってのは、旦那が嫁に『一生食うに困らせない』って、誓うのと、嫁が旦那に『一生美味しいものを食べさせてあげる』って誓うことらしいが………」

意地悪そうにパパが茹で蛸みたいなママの耳元に囁いている。

「多分このまま、食うに困ることはないだろうし、おまえの料理も昔に比べたら遥かにマシになってきたし、今更誓う必要なんかないとは思うけど」

すっとママのほっぺに手をあてて、
「でも、今日はおまえが綺麗たから、少しは奥さんの望みを叶えてあげなきゃな」
そういってもう一度キス。


ふっ………もう、勝手にやってちょうだい!
ああ、おばあちゃん、いつの間にか一眼レフのデジカメ抱えてカシャカシャ撮ってるわよ!


なんか、例のキス写真一万枚、封印しなくてよかった? もしかして!
あたしは少しばかり後悔したわーー。








※※※※※※※※※※※※※※


ーー方言、てきとーです。
イタキス祭りのチャットでそんな話題が出ましたが、やはり難しい………。
旦那、熊本ケンミンなのに、こっちでは全く九州弁話しません。こっちの方言も移っていない……何故標準語?

「しぇからしか」は「うるさい」らしいです。熊本は「せからしか」。佐賀や福岡は「しぇからしか」だそうで。
でも、うるさい、だけではなくうざいとか、色々な含みがあるらしく、娘が旦那に「せからしか」の意味を訊ねた時、「せからしか」は「せからしか」であって、標準語には当てはまる言葉がない、と言っていました。そんな複雑かつ深いことばなのか、「せからしか」!


さて、あと1話か2話で終わる予定です………多分……(^^;



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§ Re.にゃんこ様

コメントありがとうございます♪

私も旦那の両親とは電話では全く意思の疏通が出来ずに苦労しました。会って話せば、ある程度わかるのですが……に、日本語か通じないっと、九州からの電話に怯えていました(T.T)
ほんと、もう師走ですね(^^;おかしい、結婚記念日の話なのに……(-.-)

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管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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