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19991111 ~今日は何の日?

2014.11.11(00:00) 45




「琴子、今日は何の日か知ってる?」

着替え終わって更衣室から出てきた途端、男子更衣室から追いかけるように出てきた幹に声をかけられる。

たまたま通りかかった他の科の職員が、ぎょっとした顔をして、幹の顔と男子更衣室、と表示されたプレートをガン見していた。

無理もない。
男子ロッカールームから出てきたのは、スタイリッシュなパンツスーツに身を包んだ美女なのだから。

「何の日って……決まってるじゃない、入江くんのバースデーイヴよ」

「え? 明日、入江先生誕生日だっけ?」

驚く幹に琴子はふふふっと見下すような瞳で言い募る。

「そうよ。モトちゃんたらファンクラブ会長のくせして覚えてないの?」

「何よ、あたしがキッチリ覚えてて、毎年プレゼント攻勢していいわけ?」

「ダメーっ! 入江くんにプレゼントしていいのはあたしだけなんだから!」

はいはい、プレゼントしたってあんた以外からは絶対なんにも受け取らないわよ、あんたの旦那は。

幹は無駄なことはしない主義である。
普段は嫁のことなんか歯牙にもかけないという雰囲気を醸し出している入江直樹が、嫁以外の女を女と認めていないことくらい、長年の付き合いで熟知している。
ましてや性別上男だというだけで、嫁と戯れにじゃれあっただけで実にいやあな顔をされるのである。追っかけるのも虚しくなるというというものだ。

「で、今年は何をプレゼントするの?」

一応訊いてみる。
だって、琴子の瞳が、訊いて! 訊いて! と、訴えているのだから。

「ふふっ時計よ時計! なんといっても今年のあたしの誕生日にはとーっても素敵で高価なもの貰っちゃったでしょ? それに見合うものあげなきゃって、すごーく悩んだのよ?」

自分の誕生日からずっと悩んで、考えついたのが腕時計。
直樹はかつて自分がクリスマスにプレゼントした腕時計を長年愛用してくれている。何度もバンドを変え、修理に出して、それでも使い続けている。
もっと年齢や立場に相応しい物を身につけて欲しいとは思うが、本人がこれが一番腕にしっくり合うから他のは要らないと言われては、嬉しすぎて何も言えない。
だが研修医も卒業し、一人前の医者として勤務している今、やはりそれ相応のものをと思い、同じメーカーでランクアップした製品を探していたのだ。
学生の頃と違い、自分だって少しは高価なものを買えるだけの給料を貰っている。

そして漸く見つけたそれをーー今はクローゼットの奥深くに隠してある。そして今夜0時を回ったら、「Happy Birthday!」のクラッカーとともにささっと渡すのだ。
その情景を想い描いてすっかり妄想モードに突入した琴子を呆れた目で見つめながら、幹はふと思い出したようにカバンからお菓子の箱を取り出す。

「じゃあ、これ、入江さんに誕生日プレゼント」

「えー? 要らないわよ。入江くん甘いもの食べないもの」

差し出された赤い箱は、〇ッキー。細長くスティック状に焼いたプレッツェルにチョコをコーティングした、昔からある定番のお菓子。

「コマーシャルで散々やってるの観なかった? 今日は〇ッキー、〇リッツの日、だって」

「ああ、そう言えば」

なんでも細長いその菓子の形状から、本日、平成11年11月11日より『〇ッキー、〇リッツの日』が制定されたらしい。

「だから二人で仲良くこれで〇ッキーゲームでもやってちょうだい」

「へっ何? 〇ッキーゲームって」

「やだっ知らないの? まあ、あんた合コンなんて行かないからね~。大丈夫、きっと入江先生が知ってるわよ」

そう言ってからからと笑う幹。

「実はあたしも今日は合コンなのよ~♪ ふふっ素敵な男性と〇ッキーゲームしたいわーっ」

そうしてうっとりと目を閉じて、やはり妄想している幹を今度は琴子が呆れたように眺める。
どっちもどっちのいいコンビであることに、お互い気付いていない。

そうして二人とも互いの妄想を一方的に語り合いながら帰路に着いたのであった。





さて、その夜のこと。
お風呂に入っている直樹の着替えを持って行った後、既に入浴を済ませた琴子は、ベッドに入って幹のくれた〇ッキーをムシャムシャ食べていた。
どうせ、直樹はこんなもの、ましてや寝しなに食べはしないだろう。

ーーああ、今日は何事もなく普通に帰って来てくれて良かった。

術後の患者がいるものの、容態は安定したので、9時前には帰ってきた。いつもと思えばずっと早い方だ。あとは急な呼び出しがないことを祈るだけ。

なんといっても直樹の誕生日を東京で祝うのは久しぶりなのだ。
去年は学会で仙台だったし、一昨年は神戸に単身赴任だった。

やっと二人きりのこの部屋で、あたしと同い年になった入江くんに「おめでとう」って言えるのね……

ちらりとクローゼットの扉を見つめる。どのタイミングで渡そう。
そろそろ出しておいて、ベッドの下に隠して置いたほうがいいわね。
琴子は〇ッキーを頬張りながら思案する。

「何食ってんだよ、ベッドの中で」

「ひゃああ」

あれこれ考えていて、直樹が部屋に戻ったのに気が付かなかったらしい。
慌てて口から菓子を落としてしまった。

「あー布団の上にぽろぽろ落としてっ! アリが隊列組んでやってくるぞ!」

「え? えー? だっ大丈夫だよっ ここ2階だし。もう秋だし」

と焦っている間に手の箱の中からバラバラと〇ッキーが落ちてベッドの上に散乱する。

「きゃああ」

「何やってんだよ!」





「…ごめんね、入江くん」

二人して菓子を拾い集めたが、ハンドクリーナーで丁寧にベッドの上を掃除してくれたのは直樹である。

「…ったく子供かよ」

暫くしゅんとしていた琴子だが、ふと思い出して直樹に訊いてみる。

「ねぇねぇ、入江くん。〇ッキーゲームって知ってる?」

「はあ?」

唐突な琴子の言葉に一瞬怯む。
実を云うと、ほんの一週間ほど前、そのゲームとやらに厭な気分を味合わされた
ばかりだった。


ーー一週間前。
教授に付き合わされて行った銀座の高級クラブ。
医者や大学教授御用達のバーだから、運がよければあの研究の某教授やこの研究の某博士と遭遇するかも……そして色々と有益な話を聴くことができるなどと云われ、何度か同席したが、結局自分はこの席に店のトップクラスのホステスたちを呼び寄せる為に誘われたに過ぎないのだとすぐに認識する。
それでも三回に一回くらいは誘いに応じているのは、教授たちの弱味を握れば、今後色々と、病院内でちょっとした無理ならゴリ押しすることも可能だろうと思ったからだった。
ちなみにこんな時の為に常に普段は身に付けない結婚指環を持ち歩き、左手の薬指にはめているーーいるのだが。

「やだーっ入江先生、結婚してるのぉ?」

「あら、残念。でも奥さんにナイショならいいわよね?」

「ね? ここに来たときくらい、奥さんのこと忘れて楽しみましょ」

そう言ってしなだれかかってくる女たちの香水と脂粉の臭いに吐き気がしてきて、たいてい一時間もしないうちに「急患のようです」と言ってさっさと退席してしまうのだ。

その日は誰が頼んだのか、テーブルの上にグラスに入った〇ッキーが置かれた瞬間に、ホステスの一人が、
「ねえ入江先生、〇ッキーゲームやりましょう!」
と、直樹の答えも聞かないうちに彼の口に一本突っ込んで、反対側からぱくりと〇ッキーをくわえると猛然と食べ始め、直樹の唇に向かって突進してきたのだ。

直樹は咄嗟に自分の口元でへし折り、吐き捨てた。高級クラブのホステスとは思えない傍若無人な振舞いに、流石に直樹はぶちきれた。

「あ~ん」と嘆くホステスを尻目に、
「このゲームって、確か罰ゲームですよね? おれ、何の勝負もしてませんけど、何故罰ゲームしなくちゃならないんでしょう?」

「ば、罰ゲーム?」
ナンバーワンを自負する彼女は、直樹の氷のような冷たい瞳に自尊心をボロボロにされて撃沈した。
「まあまあ、入江くん」
横で同じように〇ッキーゲームに興じていた教授と外科部長が取りなしたものの、直樹は聴こえない振りをしーー。「あ、失礼。手が滑って」と、わざとらしく〇ッキーの入ったグラスをテーブルの上で倒す。テーブルの上には氷と〇ッキーが散乱する。更にはテーブルから落ちた〇ッキーを靴で思いっきりぎりぎりと踏みにじった。
市販のおよそ20倍の値段はするだろう〇ッキーは、哀れ見事に粉砕されたのだった。
琴子にはそういう店に行ったことは伝えてはいない。伝えていれば店に乗り込むぐらいはやりかねない。
帰って直ぐにシャワーを浴びて、アルコールと香水と脂粉と煙草の臭いを全て消し去って、そして琴子を抱く。琴子を抱けば全てが浄化されるから。


ーーという、つい先日の厭な記憶を一瞬のうちに甦らせた直樹は、不穏な目つきで妻を見る。

「〇ッキーゲームって、やっぱりこう〇ッキー使って二人でチャンバラやるとか?」

右手と左手にそれぞれ一本持って、剣と剣を闘わせるようにビシバシと当てる。

「……で、折れた方が負けなの」

無邪気に笑う妻にため息ひとつ。

「折れたらまた、屑が落ちるだろ」

「あ、ゴメン」

素直に謝る琴子の手から〇ッキーを一本取ると、その愛らしい唇に差し込む。

「むぐっ?」

「教えてやるよ、〇ッキーゲーム」

にやっと笑うと反対側から直樹がくわえて、そして食べ進み始める。

「……………!」

だんだん近付いて来る直樹の綺麗な顔に、琴子はゲームの意味を一瞬に理解し、一瞬に顔を沸騰させる。
直樹が半分まで食べ進めたところで一旦止まり、目で「おまえも食え」と訴えているのを察して、琴子ももぐもぐと食べ始めーー
少しずつ少しずつ距離が縮まりーー。


そして。
唇が、重なるーー。


「あ……ん」

貪るようなキスに翻弄されて、唇が離れたほんの一瞬、琴子の唇から甘い吐息が漏れる。
チョコとプレッツェルの残滓がいつまでも咥内に残っていたが、互いが互いのものを奪うように吸い付くし、いつの間にか唾液だけが二人の間を行ったり来たりしている。

「甘いな、やっぱり」

それでもいつまでも互いの咥内には甘いチョコの薫りが残っている。

「知ってるか?」

酸素欠乏で目を潤ませてぼおっとしたままの琴子の耳元で直樹が囁く。
その長い指はいつの間にかパジャマの釦を外し始めていた。

「〇ッキーは、和製英語なんだが、英語だと『男性器の隠語』を意味する言葉の同綴異義語になるため、ヨーロッパじゃ別の名前で売られているんだ」

「ええっ」
真っ赤になる琴子。

「じゃあ琴子に食ってもらおうかな?」

意地悪な顔が再び琴子の顔に迫ってくる。

視界が塞がれる前に琴子はちらりとベッドサイドのデジタル時計を見た。

……0時に、ジャスト0時にプレゼントと、おめでとうをーー。

時計の文字は丁度パタンと変わり、P.m.11:11を表示した。

平成11年11月11日午後11時11分。



直樹の誕生日まであと49分。

捩じ込まれて絡めとられた舌の感触の甘美さに酔い始め、やがて琴子は何も考えられなくなる。


あと49分。
まさか0時ジャストにフィニッシュを迎える為に散々焦らされ翻弄される羽目になるとはーーー彼女はまだ知らない。






※※※※※※※※※※※※※※

はい、記念日には必ず0時ジャストを狙ううちの直樹さんでした(^^;
可哀想な琴子ちゃん………ゴメンよ。


因みにヨーロッパでは〇ッキーのことを『Mikado』というそうです。細長い棒を使って遊ぶゲームから取ったそうですが、元々は日本の帝から。
帝ーー王?
やっぱり直樹は王様ですね、ということで(^^)v
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Snow Blossom


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コメント
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【2014/11/11 08:38】 | # | [edit]
ヨーロッパでは、、、そういう意味なんですね。勉強になります。
そして、直樹のそのウンチクからの誘いに大笑いしてしまった。
私も今日は、ポッキー食べようっと。
あっ、もちろん○リコのホンマもんのほうですが。
【2014/11/11 13:33】 | aki #- | [edit]
コメントありがとうございます♪

濃厚なバースデーをお求めでしょうか?
19991111の翌日の妄想を試みましたが、どうもえろはハードル高いです(^^;とりあえず翌年のバースデーの話をアップする予定なので、琴子ちゃん産後で入江くんも控え目の予定……m(__)mとりあえず誕生日中にアップできれば………(^^;
【2014/11/11 17:36】 | ののの #- | [edit]
コメントありがとうございます♪

ポッキーの日がいつから制定されたのか調べていたら、意外な豆知識(^^;に出会いました。しかし入江くんなんでこんなしょーもないこと知っていたんでしょう?謎ですね(^^;
【2014/11/11 17:44】 | ののの #- | [edit]
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