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19970612 ~6月の嵐のあとは

2014.11.08(01:08) 42



なんだかとっても好評なのでまた出してしまいました。かをる子さん。
琴子が帰ってからの、かをる子さん回想録です(^^;


※※※※※※※※※※※※※※※



「ねぇねぇ、森村さん、入江先生の奥さん来てはったって本当?」

事務局に文房具の備品を取りにきた消化器内科のナースが、まるでついでのようにあたしに訊いてきた。

「ええ、そうみたいね」

あたしは興味のない顔で答える。

「どんなんか見た?」

「いいえ。こんなところに日がな1日いるんだもの、会うわけないでしょう? 外科の子に訊いたら?」

ま、嘘だけど。しっかり会っちゃったけど。説明するのも面倒だから適当にあしらう。まさか隣人ですから、とは云えない。

「……そやけど……外科のナースら、いまひとつ言葉を濁すとゆうか、きちっと教えてくれへんくって」

そりゃ、彼女たちが認めたくないだけね。
あんな娘が入江先生の奥さんなんて。
まあ、『あんな』ってのが偏見に満ちた言い方ってのは分かってるわよ。
ただナースたちにとっては、入江先生の隣に並ぶべく女、ってのは自分も含めて容姿容貌頭脳がハイスペックの持ち主で有るべき、という勝手な思い込みがあったんだと想像できるのよ。まあそれ以前に妻がいるって事実も容認したくなかったみたいだし。
だって奥さんがここに来る前からある程度噂はあったのよ。なにしろ別に本人隠してないし、教授たちの話題になってたみたいだから。
でも、みんな噂よ噂! って感じで聞こえないふりしてたのよね。本人に面と向かって訊けなくて、何故だかあたしの所に訊きにきたわね。
どうもあたしがこの病院の個人情報を全て握ってるてところで、病院一の情報通と思われているみたい。

訊きにきた人にははっきり言ってやったわよ。

「入江先生に奥さん? いるわよ。東京に」

とりあえず本人も教授たちも話してるならあたしが隠す必要もない。
これだけはっきり『いる』と宣言したのに、どうにも噂は『いるらしい』と曖昧なまま。
明確にしたくない、認めたくない、っていう意図が働いているとしか思えなかったわ。

そして一週間前。嵐のように唐突にやって来た入江さんの奥さんは、なかなか手術を受け入れなかった患者さんを説得して、嵐のように去っていった。
外科病棟をちょこまかちょこまか出現していたから、外科の看護婦たちはみんな一度は顔を見たはず。
それでもどこか信じきれないのか、実は妹が来てるらしいなんて噂もあったわね。今でも病院中には広まってない。奥さんの存在は認めたくない人たちによって封殺されている……って、大袈裟かしら。

………まあ、外見的に入江先生に釣り合うかどうかって見地だけ見れば周囲の困惑もわからない訳でもないけど。でも人の好みって好き好きじゃない?
それに、彼女決して不細工じゃないわよ。どっちかっていうと、可愛いわね。年のわりに童顔で。保護欲そそるタイプね。

………そうね、随分可愛がってたわね……特に夜…。


……いかんいかん、仕事中に変なことを思い出してしまった。



そう、入江先生の部屋とあたしの部屋は隣同志。しかもあたしが作り付けのクローゼットの扉を外してちょっとした部屋の改造を行ってたばかりに、隣の音が丸聞こえで。

で、しっかり聴いてしまったわけよ。
………二人の愛の営みのさえずりを……///
いや、さえずりなんて可愛いもんじゃなかったわね。結構激しかったわ。……咆哮とでも……?
わー聴かせてやりてー入江先生追っかけのナースたちに。どんだけ入江先生が嫁に執着してるか。

も、勿論そんなしっかり聴いちゃったのは初日だけよ。すぐ東京に帰るとか言ってた奥さんが、結局暫く居るって聞いて、慌ててクローゼットの扉を戻して、洋服をかけておいたわ。そしたらそこそこ防音できて、ベッドの軋みとか、話し声とかは流石に聴こえなくなったわね。

微かな電話の音とか。
床の上に物を落とした音とか。

……アノ時の絶叫とか。
それくらいね、聴こえたのは。

よくよく考えると、そんな音すら聴こえるのって問題よね? 立派なマンションの割にどっか手抜き工事してるのかしら。少なくとも壁は標準より薄いわ。

因みに。一週間いる間、入江先生が部屋に泊まれたのは3日程。あとは当直やら呼び出しやらで病院に詰めっぱなしだったけれど、少なくともその3日、しっかり可愛がってたわ。
特に最後の夜は………念入りな感じだったわね。朝までしっかり……だったわよ。
いやね、別に一晩中聴いていたわけじゃないのよ。一応あたしも翌日仕事だから寝てたわよ。でも微かな声でふっと目を覚ましてしまって。あら、もう明け方なのに、まだ? とちょっと思っただけよ。
いや、別に夫婦だからいいじゃない。
いいけれど……聴かされる身になって欲しいわね。
とはいえ、スミマセン、声もう少し落としてください、なんて云えないし。

それにね、この一週間の間に奥さんとしっかりお知り合いになっちゃって。
と、いうのも。
やっぱりここの安普請のせいね。
入江先生のいない夜に、がしゃんっとかぎゃーっとかやったら聴こえて。
あたし焦って隣まで走ること2回。

一回目は揚げ物やってて、近くに置いていたペーパーナプキンにコンロの火が燃え移ったみたいで、パニクって大騒ぎしてたわね。
あたしが、駆けつけてきた時にはもう消えてたけど、菜箸の端が黒焦げになってた。なんでそんなとこに置くかなぁ?
でもって、作っていたらしい唐揚げは見事にまっくろくろすけになっていわね。
少なくとも料理が出来る奥さんじゃないようだったわ。それに飛んでもなくうっかりさん。

2回目は電話機を床に落としてた。なんでそんなものを落とすの?って思わずにいられないけど、その電話、ファックス機能付きで、東京の友達に課題をファックスで送ってもらおうとして、紙が詰まって出てこなくて、直そうと持ち上げたら手が滑り、床に落としたらしい。ファックス機能付きだからソコソコの大きさ。
床は完全に瑕が付いたわね。
電話は奇跡的に無事だったけれど。
まあ、その時も殺人事件でも起きたかと思うくらいの叫び声だったから、あたしは焦って飛んでったわよ。
彼女、電話機抱えて泣いてたわ。
ごめんね、ごめんね~って電話に謝って。
電話は彼らにとっては必須アイテムだものね。

まあ、可愛いけど。随分な粗忽ものだと思うわ。

そんなわけであたしは彼女とお知り合いになり、一週間の間に何度か部屋を行き来する間柄になったわ。

まあ……いい娘よね。
会うとずうっと入江先生の話なのには辟易とするけど。
お陰であたし彼女と入江先生の馴れ初め全部暗記したわ。
まあ……俄に信じがたい話ではあったけれど。
高校の入学式で一目惚れした彼が実はお父さんの親友の息子で、家が地震で倒壊(?……そんな地震って東京であったっけ?)した際に、同居することとなったとか。その後なんやかんやあって(以下省略)
プロポーズから二週間後に結婚……まあドラマチック。

二人が東京と神戸で別れ別れに暮らす道を選んだくだりになると、もう涙ながらね。あたしもついもらい泣きしちゃったわ。

「また、夏休みに来ますね! かをる子さん」
彼女はあたしの手をがっしりと握って別れの挨拶を言いに来たわ。
少々寝不足気味で、項とか、腕とかしっかり赤い痕つけてたわね。あたしもよく同人のや〇い小説書いてる時、そう言う表現使ってたけど……それって本当に付くのね。初めてホンモノ見たわよ。

そんなこんなで慌ただしい初夏の台風は去っていったの。




そして、今日仕事の帰りのこと。近くのホームセンターに寄ると、入江先生もいた。そして、何故だかDIYコーナーに。
ベニヤとか断熱シートとか熱心に眺めてたわね。
日曜大工でもするのかしらね。




そして家に帰って。
軽くレトルトのご飯を作って食べてから、食後の一服を吸いにベランダに出たの。ほら、部屋で吸うと部屋がヤニだらけになって退出するときのクリーニング代金半端ないしね。

すると、先客がいた。
紫煙の流れが隣との仕切り板を越えて微かに此方に向かっていたのだ。


「……遅れは取り戻せそうか?」

入江先生の声だった。
タバコ吸いながら電話しているようだった。

相手は言わずもがなね。

「はあ? 月? 見えねーよ。こっちは曇り」

月……月ね。離れても二人が見ている月はおんなじなのよ!ってヤツね。ロマンチックだけど、残念ね、今日はどんよりした雲が空を覆い、月の位置すら分からない。東京は晴れているのね。

あたしもタバコを吸いながら暗い空を見上げる。そうね、もう梅雨だもの。明日は雨だったかしら?

「それくらいでびーびー泣くな。夏休みになったら此方で月だろうが、夏の大三角だろうが一緒に見りゃいいだろうが」

あら、彼も意外とロマンチスト?

「お前がゼミの課題と卒論と渡した問題集三冊全部クリアしたらなんでも付き合ってやるよ」

飴とムチね。


そのあと、ボソボソと話している声を漫然と聴きながら、あたしはベランダの手摺に寄りかかって煙を燻らしながら、ふっと空を見つめた。


「あ……」

あたしが気が付いたと同時に彼も気付いたようだった。

「……琴子」

少し優しい、そして何処か嬉しそうな声。


「今、見えたよ。月が………」



雲間から僅かに覗かせた白い光が、ほんのりとこの狭いベランダを照らしていた--。



※※※※※※※※※※※※※※


と、言うわけでかをる子さん、再び。
今回も彼女の裏設定余り入れられなかったな………(-.-)

少し更新ペースが落ちていますが、流石に毎日は無理だと悟りました。
マイペースでいきます(^^)



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Snow Blossom


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コメント
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【2014/11/08 07:38】 | # | [edit]
コメントありがとうございます♪

はい、無理せず妄想街道まっしぐらです。
そうなんだ、他ジャンルの二次世界、色々あるのですね。イタキス台キス以外は中々時間がなくて読めないので、興味ありつつ広げないでいます。イタキスのサイト様はコメントの返しひとつ見ても、真摯で誠実で大人な対応されてるなーと常々感心しています。見倣わねば(^^)
直樹さん、夏までには防音対策完璧でしょう。現在あれこれリサーチ中です(^^)
【2014/11/08 12:35】 | ののの #- | [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2014/11/08 14:39】 | # | [edit]
コメントありがとうございます♪

そう琴子ちゃんはすぐに周りを巻き込んでお知り合いになれます♪火事にならなくて幸いでした。直樹さんの防音対策もただいま研究中。最良の方法を施工するでしょう(賃貸なのに?)
【2014/11/08 22:05】 | ののの #- | [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2016/05/26 11:48】 | # | [edit]
コメントありがとうございました♪

再読うれしいです♪
かをる子さん頑張ってます(^w^)ああ、早く夏休みの続きを書かねばですf(^^;
【2016/05/26 22:19】 | ののの #- | [edit]
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