FC2ブログ

Snow Blossom

イタズラなkissの二次創作ブログです。

Entries

19960928~Happy Happy Birthday(後)



すぐにアップできるかと思っていたのに、結局二週間も経ってしまいました。
ようやく琴子ちゃんの誕生日が終結です。

皆さんのところは台風の被害は大丈夫でしょうか。
うちは身構えていたわりにはあっさり通過しましたが、甚大な浸水被害が出ている地域も多いようで心配です。

今のところ仲のよいサイトマスターの皆さまのところも無事のようでほっとしていますが。

せめてこれを読んでいる読者の皆さまの地域がご無事でありますように。
そして、もし被災されている方がいらっしゃいましたら、1日も早く日常に戻れることをお祈りいたします。



 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

それは、9月27日、23時55分のことだった。


「すみません、ちょっと一服してきます」


「入江くん、すまないねぇ。こんな時間まで……」


試験を終えて帰宅しようとした直樹に泣きついてきたのは麻酔学教室の助教授烏丸だった。直樹の専攻とは関わりはないが、無論講義は受けたことがある。


明日の学会で使う資料の入ったデータを全消去してしまったと泣きつく烏丸助教授に請われて(元理工学部でパソコンとか強いよねっねっ!?とすがるように訴えられたのだ)、仕方なくデータの復元作業を手伝い、そしてそれは程なく復元できたのだがーーチェックしていた直樹はつい添付資料の不備に気がついてしまったのだ。指摘すると、再び助教授に泣きつかれーー何故か論文修正まで手伝う羽目になりーー今に至る。


彼にも指導している学生がいるだろうに、何故オレが?  と思わずにはいられなかったが、学会に同行予定の学生は昨日から発熱で当てにできないのだという。


なんだかこのままなし崩しに付き合わされそうな予感はひしひしとしたが、これはもう、乗り掛かった船というヤツだ。

それに小児外科を志す身としては麻酔科には世話になることも多い。さらに論文のテーマが小児の周術期における麻酔管理であった為、無下にすることも出来なかった。


結局拘るととことん気になりだした直樹によって論文は深く精査されることとなり、さらに時間はかかりーーようやく目処がついたのは天辺を越す僅か数分前。


そしてチラチラと時計を窺いつつ0時5分前になった瞬間に、教授の部屋から出ていったのだ。


この医学部棟の一階玄関ホールに公衆電話がある。

直樹は受話器をとって、10円玉を三枚ほど入れた。


そろそろ0時を回る頃だ。


特に何かしてあげるとか、プレゼントをあげるとかーープランがあったわけではないがーーそれでも、今年はきちんと琴子の傍にいてあげたいと思ったのだーーとりあえずは。


去年の罪滅ぼしの想いもあった。

試験で忙しいことに託(かこ)つけて、誕生日を覚えていても琴子と全く向き合おうとしなかった、最低な自分。それが嫉妬というものだと気がつくこともなく、悶々とした苛立ちを全く罪のない琴子にぶつけていた愚かな自分。

一年前の出来事をなかったことには出来なくとも、せめて今年は、ずっと傍らにいて琴子が生まれたその日のことを共に祝いたいとーー密かに思っていたわけなのだがーー。


無論、わざとらしく延々と耳元で聴かせられる謎の3曲ループのせいではなく、ちゃんと午前0時には自分の腕の中で、艶やかな表情を見せる琴子に、誕生日おめでとうと囁くつもりだったのだ。


プライスレスの誕生日プレゼント。

いやーー全くプレゼントがないわけではないのだが、おそらく琴子の趣味じゃないだろうし、プレゼントとという認識もしてもらえないだろう。完全な自己満だ。

でもきっと琴子は笑って受け取ってくれるにちがいないーー


けれど、結局ーー。


想定外の出来事に予定はかなり狂った。

どうにもこのどんくさい教授が琴子に似ていて、棄てられた子犬のようで見捨てることが出来なかったのだ。


紀子が仕切る誕生パーティに頭から参加するつもりはなかったが、バースデイイブには一緒に過ごすつもりだったのに。

せめて電話くらいはしてやろうと、つい時計にばかり目がいっていた。

そしてーー


ツーツーツー


(話し中……?  誰と?)


そのあと、三回ほどかけ直しに行った。

しかし、何度かけても、受話器からは話し中の電子音が単調に響くだけだったのだ。


ーーあのやろう……。


電話をかければコール音すらしないうちソッコー受話器を取ると思っていたのにーー

最初は友人たちと長話でもしているのかと思った。

しかし、キャッチホンがついている。直樹からのバースデーコールを待ちかまえているのに、0時前にキャッチが入って出ない筈がない。それは家族もしかりでー。


あいつ、もしかしてーー。


ひとつのシチュエーションが想像できた。


二人の部屋に、子機がある。

もし、その子機を枕元に置いて眠ってしまったとしたら?

何かの拍子で充電器から外れ、通話ボタンを押してしまったとしたら?


琴子の行動は手に取るようにわかる。

そして、得てして直樹の想像は当たることが多いのだ。


結局、そこで仮眠をとった翌朝ーー


どたばたと烏丸教授が部屋に入ってきた。


「い、入江くん~今日、君、暇?  どうせならこのまま学会つきあってくれない?」


「はあ……」


イヤな予感は的中した。


「やっぱり、彼、熱が下がらないから無理って」


うるうると……ポチのような瞳で訴える麻酔科助教授の様子に脱力して、がっくり項垂れる直樹であった。


*         * *


「まわれ~まーわーれメリーゴーランド♪」


「イエーイ♪  ばんざーい君に会えてよかった~♪♪」


琴子の誕生日パーティーはほぼカラオケ大会と化していた。

きらめくミラーボール、タンバリンとカスタネット。

宴もたけなわ、賑やかなノリノリの曲で誕生日を祝うというより、それぞれのストレスを解消するように歌いまくっていた。



「あーなたーにー遇いたくて~♪」


「きゃー琴子ちゃん、すてきよ~」


プロデューサー紀子は曲に合わせてさっと照明を落とし、涙ながらに切々と唄いあげる琴子をしっとりとした青紫の光を照らす。

どこから準備したのか舞台用のライトだ。

招かれた客たちは、あまりにも本格的な様子にこれはステージ衣装でも準備した方がよかったのかと戸惑ったくらいである。

もっとも当の琴子がほぼ普段着に近いワンピースだったので、ま、いいかとカラオケ大会ーーもとい、誕生日会を大いに盛り上げる。


「なんだか、琴子のせーこちゃん、染みるわ~~」


面白がって参加した看護科メンバー女子?3人の他に、理美やじんこもいる。


「もう、子供生まれたばっかでカラオケするの久々よ~」


授乳があるので夕希をリビングの片隅に置いたバウンサーに寝かせてノリノリで歌って踊っていたのは理美。


「というか、個人宅のカラオケで新作がこんなに揃ってるって……」


「さすがよね」


………あなたに遇いたくて……眠れぬ夜は……そのぬくもりをぬくもりを


「ってか、この曲、思いっきり別れの曲よね……」


「そして、この時間まで入江さん、帰ってこないのね」


「もう8時よね……」


急遽学会にも参加することになり、帰りが遅くなると連絡があったのは今朝9時過ぎのこと。

電話を受けたのは裕樹で、「なんか、夕べ誰か長電話してたか確認されたけど、誰も電話なんてしてないよね?」と言われて、真っ青になったのは琴子である。

寝室の子機を握りしめて寝ていて、ツーツーツーという受話器の外れていた音は確かにしていたのだ。


直樹は電話をくれたのだ。

それに気がつかなかったーー。だから怒って出掛けてしまったに違いない。


がっくりした琴子の今日の選曲はプリプリのMだの中島み◯きの『泣きたい夜に』だのーーテンション下がりまくる曲ばかりだ。


「どんまい、琴子……」


「ま、確かに全く関係ない麻酔科の学会に参加なんて白々しい嘘つかれちゃうなんてね」


「誕生日の前夜から帰ってこないなんてちょっと酷いわよね」


「さすがに哀れだわ……」


みんなに憐憫の瞳で見つめられつつも明るく振る舞ってはいたものの、今日の選曲では心情は推し量られるというものだ。


そして、立て続けに琴子の選曲のイントロが……悲壮感たっぷりに始まる。


「♪う~らみま~す……」


「うわー暗い中島み◯きシリーズ、また出たよ……」


「意外とこんなどんよりな曲知ってるのね」


元気印の琴子にはミスマッチな気がして少し驚く真里奈に、理美が説明する。


「あ、あたしが昔、入江くんが同棲してると勘違いして凹んでるあの娘にあげたのよ。『暗い中島◯ゆき』ばっかしテープに編集して。『あばよ』だの『わかれうた』だの部屋の片隅でどんよりさめざめと泣きながら聴くと意外とスッキリするもんなのよ」


「あーわかるー。泣くだけ泣いてストレス解消できるもんね」


「だよねー」


割と気が合う二人であった。



「♪うらみまーす  うらみまーす あんたのことしぬまで……」


「すげぇ歌だな。おれ、死ぬまで恨まれるようなことしたっけ?」


その時、暗めに照明を落とされた部屋の片隅で、唐突に聞き慣れたバリトンの声が響き、琴子の歌がピタッと止まる。


「い、入江くーーん!!  おかえりなさいっっ」


マイクを放り投げ、ステージの上から飛び降りて直樹に抱き付く。


「ただいま琴子。誕生日おめでとう」


「びぇーん、入江くん、会いたかったよー」


一年くらい離ればなれになっていたかのような喜びように直樹も苦笑しつつも満更ではない。


「ごめんね?  もしかして午前0時に電話してくれた?  あたし受話器を外したまま寝ちゃってたみたいで」


「電話なんてしてねーよ。そんな暇なんかないし」


内心、ふん、やっぱりそうかと思いつつもそんな表情は一ミリも見せずにしれっと嘘をつく。


「な、なーんだ。ま、そーだよね~」


残念なようなホッとしたような。複雑な表情を見せる琴子。


「そろそろお開きにしようかと思ったけど……間に合ってよかったわ、おにいちゃん。結婚記念日パーティはすっぽかしても琴子ちゃんの誕生日パーティばっくれるなんて絶対に許しませんからね!  さああなたは琴子ちゃんに何をプレゼントするのかしら?」


ふふふ、と高飛車に物申す母を不機嫌そうに一瞥すると、「プレゼントなんてなんもねーよ。形あるもんだけがプレゼントじゃねえだろ?  な、琴子?」


「うん、なんにもいらなーい。入江くんが帰って来てくれただけで十分だよ!」

と、予想通りの健気な言葉に、にやっとプライスレスの笑みを返す。


「なによ、またテスト勉強?  もう試験は終わったわよ」


「それは内緒」と、にんまりと笑う直樹に、

きゃー、なになに!?

とギャラリーが興奮の声を上げる。


そのときーー。


ピンポーン、とインターホンが鳴った。


「あら、何かしら、こんな時間に」


紀子がインターホンに出ると、「◯◯宅急便でーす」との声が聴こえた。


「はーい、今いきまーす」と、紀子が玄関に向かう。


しばらくして、紀子が大きな花束を抱えて戻ってきた。


「まあ、可愛い花束! 」


それはカスミ草やスターチスに彩られたオレンジの薔薇の花束だった。薔薇の数は少なめだが、清楚で愛らしいアレンジだ。


「もう、おにいちゃんってば~プレゼントはないなんていいながら、こんな可愛い花束を用意するなんて憎いわね~」


「え?  入江くんが?」

「は?  おれじゃねぇし」


二人同時に叫ぶ。


「またまた。ほら、ちゃんと花束の中にカードも」


そうして紀子が差し出した花柄のバースデイカードには『最愛の妻、琴子へ。君がこの世に生を受けたことに心より感謝を込めて  Happy Birthday !! 』と印字されてある。


「きゃー、素敵!」


「素敵だけど……やっぱり入江くんじゃないよね……?」


琴子はバースデイカードを手にとって、直樹のしかめっ面と見比べる。


「だって、入江くんがこんなロマンチックなカードまで添えて、なんて……」


「…たしかに」


「だから、俺じゃねぇっていってるだろ?」


「じゃあ、いったい誰がお兄ちゃんの名前を騙って琴子ちゃんに花束を贈るというの?」


「な、なんか、気持ちわるくない?」


「入江さんのストーカーが……琴子に害を為す為に花に毒を仕込んで、とか」


「カッターの刃とか入ってない?」


思わず琴子は「ひえーっ」と叫んで抱えていた花束を放り投げる。


その花束を直樹が拾って、じっくり検分する。


「特に問題はないようだが……『フラワーショップ花月』ここに電話すればわかるかな?」


包装の中に店名のタグがついていたらしい。


「あら、その花屋さん、大学の近くの花屋よ。こんな、時間じゃお店はもう閉まっていると思うし、アタシ店長と知り合いだから電話してみるわね」


「え?  花屋の店長と友達なの?」


「彼女も入江直樹ファンクラブの会員だったのよ」


「ええーっ」


そして、おもむろに携帯を取り出し、電話をかける。


「こんばんはー。アタシ。桔梗よ。元気~? ところでさぁ。あなた、今日、入江さん宅に花束を贈ったでしょ。入江さん名義で入江琴子あてに。頼んだのは入江さんじゃないわよね。いったい誰が……ええ、ええ。へ?  ええ~~誰それ? へ? まあ! なんで? え?え? ふーーん」


後半、感嘆符しか発していない幹が、さらに不可解そうな顔をして電話を切った。

その様子を固唾を飲んで見守っていたギャラリーは、幹の言葉を待つ。


「……どうも、この花束を頼んだの、斗南の先生らしいんだけど。望月泰蔵って人が、入江直樹の名前で、入江琴子宛に注文したって。しかも何ヵ月も前に」


「望月泰蔵……???」


「だ、だれよ、それ?」


「琴子ちゃん、知り合い?」


「全然知らないです……」


「お兄ちゃんは……?」


直樹は黙ってなにやら考えている。大容量の記憶のアルバムから物凄い勢いでページをめくっているようだ。


望月ーー斗南の先生……もしかして。


直樹は、半年以上前、琴子の戴帽式の夜の花屋での出来事を思い出した。

名古屋から学会の帰りに、花束を買えないかと飛び込んだ、大学近くの商店街の花屋ーー。

そこで出会った老紳士。

元々その老紳士が注文したラストひとつの花束をキャンセルかと思って購入したのだが、結局ギリギリ間に合った老紳士に譲ったのだった。

それを随分恐縮して有り難がっていた。

ぜひ、お礼を、とは確かに何度も何度もいっていたがーー。

心理学教室の教授と名乗っていた彼は確か望月という名前だった。そしてその後大学で会うことは一度もなかった。

キャンパスは広いし、教員も数多にいる。学部が違えば会うことなど殆どない。特に思い出すこともなく、すっかり忘れていた。


何故、琴子の誕生日を知っているのだ?  いや、大学の教授なら学籍名簿を見れば調べることは簡単かーー。

しかしあの日の礼のつもりなら律儀なことだと、穏やかで品の良さげな好好爺の顔を思い浮かべて感心する。


「望月泰蔵って……どっかで聞いたことある名前だと思ったら……思い出したわ」


「だれ?  モトちゃん」


「斗南大学の学長よ!  去年の5月に学長選挙で出来レースと云われた当選確実の現学長を大差で破った人。確か、心理学者としては名の知れた人で心理学会の重鎮らしいわよ。斗南でも名誉教授だし」


「詳しいわね。あたし、学長が誰かなんて全然知らなかったわ」


「アタシも学祭実行委員で、何度も事務所いって書類に学長の判子をもらったから覚えていたのよ」


「へぇーー」


学長だったのかーー!

直樹も知らなかった事実に、表情は出さずとも内心はかなり驚いている。

学生にとって、学長選や教授選などはまったく別世界で関わりあいのない出来事だ。

直樹も前学長の顔なぞ入学式の日に見たきりだ。四年任期らしいがその後替わったことすら知らなかった。


「でも、なんで学長が………?」


「琴子、知り合い?」


理美の問いかけに首をぶるんぶるん振る琴子。


「……多分、おれへのお礼のつもりだろう……」


しきりに妻の誕生日には花束を贈った方がいいと力説していた。


「なにかしてあげたの?  学長に?」


「何ってほどでもないが……」


戴帽式の夜に琴子に花束を贈ろうとした顛末を話すのも面倒なので適当に言葉を濁す。


「でも、その学長さんに親切にしてあげたことで回り回ってあたしにお花が届いたってことは、これは入江くんからの花束ってことでいいのよねーー?  やったぁ! ありがとう、入江くん!!」


あまり深く追及することなく、素直に受け止め単純に喜ぶ琴子に、直樹もまあいいか、と苦笑いした。


「ま、怪しい花束じゃなくてよかったわ。後でお部屋に飾りましょうね、琴子ちゃん」


「はいっ」


「じゃあ、お兄ちゃん帰ってきたことだし。もう一回あれやりましょうか」


「あれ?」


「実はケーキもう一個焼いてあったのよ。お兄ちゃんと琴子ちゃん二人でお祝いする用に」


そしてそそくさとキッチンに向かった紀子が、10センチくらいの小さなチーズタルトをもって戻ってきた。『24』というキャンドルが飾ってあるだけのシンプルなケーキは甘いものが苦手な直樹でも食べられる仕様である。


ちなみにきちんと24本の蝋燭が飾られていた30センチ角特大バースデイケーキは既にみんなに切り分けられて跡形もない。


「さあ、おにいちゃん、琴子ちゃんに歌ってあげて! ハッピーバースデーの歌を!」


「は?  もうみんなとやったんだろ?  わざわざいいよ」


「ええ~?」


「二人でお祝い用に準備したんだろ?  お言葉に甘えて、二人っきりの時に食べるよ」


ろうそくをつけようとライターを持って構えていた紀子は、「ったくもう!  バースデイソングくらい歌ってあげたっていいじゃない! へるもんじゃなし」と憤慨する。


「そんなどうでもいい期待には答えたくない天邪鬼なもんで」


「ああ、昔は天使のように可愛かったのに。弟のためにバースデイソングを歌ってあげて……」


「ええ?  そうなんですかー? 」


琴子が手を合わせてきらきらと瞳を輝かせる。


「そうよー!  そして、琴子ちゃん!  いよいよ私のバースデイプレゼント、お披露目の瞬間よ!  おにいちゃんがちゃんと歌ってあげればこれを晒すつもりはなかったのだけど!」


「え?  え?」


そういえば珍しく紀子から誕プレもらってなかったっけーーと思った瞬間、部屋の電気がぱっと消され真っ暗になる。


そして、リビングの壁に真っ白いスクリーンが降りてきた。


さらにはいつの間にか、ダイニングテーブルの上に映写機が……


ジ……ジ……とフィルムを回す音とともに映し出されたのは、少し染みや汚れの目立つ映像だった。


「うちはお兄ちゃんが小さな頃は八ミリで子供の成長を記録してきたんだけど……いつの間にかお兄ちゃんに勝手に処分されてて、全部なくなっちゃったのよね~」


恨みがましくいう紀子。


当たり前だ、幼少時の黒歴史を映像なんかで残されてたまるかと、小学生高学年の頃に見つけたときに腹いせに全部捨てたつもりだった。


「でも、これは裕樹が生まれたときの記録なのよ。途中でビデオに変わっちゃったけど、裕樹が一歳くらいまでのは少しだけ残ってたの。そして、これに唯一おにいちゃんも映ってて……」


少女の格好から男の子の姿に戻ってのち、ビデオも写真も一切嫌がるようになり、あまり直樹の映像は残っていない。けれど、紀子は見つけたのだ。唯一直樹が映っていた映像をーー。


『ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデーディアゆうきーバースデートゥーユー   ゆうき、一歳のお誕生日おめでとう!』


今の面影を残している美少年が、ベビーチェアに座る小さな弟のためにバースデーソングを歌っている様子だったーー。


「だーーっ止めろよ!  こんなもの!」


直樹が慌てて映写機をストップさせ、その一瞬で映像は途絶えた。


「うわー可愛い……」


「出来上がった小学生よね……」


「わーほんとにキレイなボーイソプラノ。確かに天使の歌声だわ……」


「この短い曲でも…とりあえず音痴ではないこと、わかるわね」


「よかったわね、琴子、疑惑払拭よ…あれ?  琴子泣いてるの?」


「かわいい……嬉しい…………お義母さん、ありがとうございます!  あたし、もし入江くんに一生歌ってもらうことなくても、この映像だけで毎年誕生日が幸せになれそう…」


そして、直樹にむかって「弟思いの入江くん、ステキ過ぎるよ~」と涙に濡れた笑顔を向けた。


「そりゃどうも」


直樹は観念したようにため息をついた。


「じゃあ、この勢いで琴子ちゃんにもハッピーバースデーを……」


「歌わねぇよ!」


母の策略に乗るものかとばかりに睨み付ける。


「頑固ねぇ。  相変わらずノリ悪いんだから」


決してぶれない息子に、母は大きく嘆息する。


「とにかく、おれの誕生日プレゼントは、琴子と二人きりのときにやるから。琴子、部屋に行くぞ」と、琴子の肩を抱えて促す。


「え?  あ、うん……/////」


「なんといっても、誕生日プレゼントは形あるものばかりじゃないからな」


おおーっ!  と、どよめく外野たち。


「なんか、二十歳の誕生日の時と展開似てるわね……」


「でも、もう結婚してるわけだから、ナニしたって別にプレゼントにはならないんじゃ……」


理美とじんこがぼそぼそと囁く。


「きっと誕生日特別バージョンでオプションが色々あるのかもよ?」


「あのときあたしたちが渡したプレゼントが活躍したりしてね……」


「あー透け透けの……」


顔を赤らめてひそひそと話す二人に看護科メンバーも「なになに?」と加わる。


「あ、じゃあ、みなさんテキトーに好きなだけ歌っててくださーい。今日はどうもありがとう」


琴子がみなにぺこりと挨拶すると、「さすがにうちらももう帰るよ~。」

みんなバタバタとお開きの準備を始めた。


「あたしたちも楽しかったよ。ありがとうございました」


「うん、歌いまくったあげくにいいもん見せてもらったしね」


「じゃあ、おやすみなさーい」


そして、主賓を二階に連れ去られた誕生日会はなし崩しに散会となった。







「え?  また家庭教師じゃないの?」


部屋にはいったとたん、慌てて文房具が散らかっていた勉強机の上を片付けようとした琴子に、直樹は思わず呆れてしまう。


「試験終わったのに、今さらそんなことしねぇよ」


「え、あ、そう?  やっぱり……よかったぁ。再来年の国家試験に向けてもう勉強かと」


「おまえの場合今からやっても端から忘れそうだよな。そんなムダなことはしない」


「へへへっーよくわかってる……」


「ってことで。誕生日の奥さんを特別に可愛がるから覚悟しろよ」


「へ?」


そして、おもむろにベッドの下から大きな箱を取り出す。


「これ、実は誕生日プレゼントな」


「ええー?  なになに?」


箱から出てきたのはーー


「これってーー」


チューブトップのミニ丈のワンピースだ。

そして白地に印刷されているのはーー


「バドワイザー……?」


いわゆるビアガーデンなどで給仕するバドガールの衣装である。

超ミニ丈なのでお色気コスプレ感が強い。


「ど、どうしたの?  これ?」


「医学部の飲み会のビンゴで当たった」


一応事実である。ただ当たったのは友人の方で、面白がって押し付けられのが正解だが。


「へぇーー」


貰い物だし、下心満載なので声高らかに誕生日プレゼントとは云えないが、ベッドの上では別だ。

結局着せ替えさせてもすぐに脱がせるわけなのだが。


ちなみに二十歳のときに理美たちからもらった透け透けベビードールはとっくに消費?され、破れたので廃棄されていた。

琴子のクローゼットには7色のベビードールが揃っているが、たまには毛色の違ったものもいいだろう、と、しれっとした顔でこのバドスーツを受け取った。


「ど、どう?」


メリハリのない琴子の身体には、やはりぴったりしたチューブトップの衣装は残念な感じは否めない。だが、露出の多いその格好に恥じらって顔を赤らめている様子は、想像以上にそそられるのだ。


「凄く可愛いよ、琴子」


誕生日だから出血大サービス、というわけではないがーーまあ、なんだかんだどんなモノを身に付けても可愛いのだ。普段は滅多に口にはしないだけで。


「入江くん」


幸せそうに微笑む琴子に口づけをしてーー目眩くバースデイナイトは漸く始まったのだった。


三戦目を終えて、ようやく解放された琴子は喉の渇きを覚えて(啼きすぎ)、なんとかパジャマを身につけ、よろよろと起きて一階のキッチンへ行き、ついでに花を生けるための硝子の花瓶を持って、眠っている直樹を起こさないよう、そおっと寝室に戻る。

そして、サイドボードの上に薔薇を生けた花瓶を置いた。


「ふふ……綺麗なお花……」


「薔薇の花、11本……やっぱりあのじーさん、凄いロマンチストだな。おれには真似できねぇわ」


「え?」


眠っていると思った直樹が、じっと琴子の置いた花瓶を見つめていたのだ。


「11本の薔薇って何か意味あるの?」


「薔薇は色ごとに花言葉があるし、本数ごとにも意味があるらしい」


「へーー」


そう感心しながらも、直樹の横に滑り込む。


「オレンジの薔薇の花言葉は『情熱』『絆』『誇り』『無邪気』『幸多かれ』……いろんな言葉があってどんなシーンにも有効だよな……なんか都合がいいっていうか」


「へぇーそんなにいっぱいあるんだ」


と感心しつつもそんな花言葉にまで精通している直樹の知識量にも感心する。


「そして、薔薇の花11本は、『最愛』」


間近でーーそしてコトを終えたばかりの艶やかな瞳で、そんな言葉をささやかれたらーー胸キュンでまた身体の奥が疼いてくるじゃないのーー!!!  と、琴子は真っ赤になって直樹の胸に顔を埋める。


「ま、おれが選んだわけじゃないけどね」


「でも、入江くんの善行の賜物だから……」


「善行ってほどのことはしてないけど……ま、戴帽式のリベンジってことで」


「??」


首を傾げる琴子をもう一度引き寄せて耳元やらうなじやらにキスをする。


「朝までいい?  もう誕生日は過ぎちゃったけど」


「え?  朝まで!?」


そういって、今度はストライプの普通のパジャマを脱がしにかかる直樹。

結局中身が重要なのであって着てるものはなんでもいいのだ。


「そう、朝まで。最愛の妻を全力で可愛がるから」


そんなことを云われて断れるはずもない。

琴子は瞳を閉じて、第二部開始のベルか鳴り響くのを感じたーー。






ちなみに。

あれほど歌うのを嫌がった直樹が、娘のためには惜しげもなくその美声を披露して(主に子守唄、童謡、てあそび歌など)、横でちゃっかりビデオを録る琴子ーーという構図が出来あがるのはーーまだまだずっと先のお話である。






※※※※※※※※


なんか伏線回収とともに、あれこれ書きたいことを詰め込みすぎて散漫な話になってしまいましたが、結局入江くんは音痴ではないということで落ち着きました(((^^;)

やはりカッコいい入江くんじゃなくっちゃね(^-^)v


どうでもいいけど昔、友だちが『暗い中島み◯き』『暗い谷◯浩子』を自分で編集して「これいいよ~一人で部屋真っ暗にして聴くと泣けるよー」とプレゼントしてくれようとしたけど「いらねー」と断ったことを思い出しました笑

あ、谷山さんは好きでよくライブに行ってましたけどね…



ちなみにバドスーツは、ママ友の実話だ……(^w^)







関連記事
スポンサーサイト



コメント

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re.マロン様 

コメントありがとうございました♪

そーなんですよ。実は直樹はバースデイコールしようとしてたんです。ちょっとだけ成長したでしょ?笑 やらかしてたのは琴子の方だったという残念な話で。

ふふ、とても誕生日会とは思えない選曲でf(^_^;いやーきっと開始当初はノリノリイケイケの曲だったに違いない。なかなか帰ってこない入江くんに、だんだん琴子の選曲がおかしくなっていったのね……(単にうらみ・ますを使いたかったのよ笑)

直樹が琴子にプレゼントするにはまだ三年ほどかかるので、今回は学長の計らいということで。大学の学長ってどんな人がなるんだ?と色々調べちゃいましたf(^_^;
音痴疑惑は解消されましたが、まだまだうちの直樹さんは歌いません。というわけで、ご披露したのは子供の頃の直樹さんの歌声でした。(しかし、紀子さん、文化祭とか音楽祭とかはビデオ撮ってないのかなー)

そう! 毎度のことながら、琴子の誕生日でがっつり直樹のプレゼントになってるというお約束のパターンでした笑
  • ののの 
  • URL 
  • 2019年10月17日 23時23分 
  • [編集]
  • [返信]

Re.ちびぞう様 

コメントありがとうございました♪

ふふ、一粒にぎゅっと……そんな風に受け止めて貰えて嬉しいです。あれもこれも詰め込んだ感が否めないわーと思ったので(((^^;)

望月学長、リクエストありがとうございました。機会があれば、もう一度出してあげたいとは思ってます。(ほら、ちゃんと入江くんも琴子ちゃんもお礼言わないとね)
入江くんが中島みゆき知ってるか謎ですが、いきなり帰ってその曲はびっくりだよね。
入江くんのボーイソプラノ……きっとウィーン少年合唱団ばりの美声だったに違いない……(^w^)
  • ののの 
  • URL 
  • 2019年10月17日 23時38分 
  • [編集]
  • [返信]

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re.ルル(ナ)様 

コメント&5周年のお祝いのお言葉、ありがとうございました♪

いえいえ出遅れてなんていないですよ。いつでもOKですので気兼ねなく! もう、コメントいただけるだけで感謝感謝なのです。
労いのお言葉も嬉しいです。

そうそう、とりあえずの花束も、入江くんのボーイソプラノも……総じて良い誕生日になりました(^w^)
ふふ、そうなんですよー。結局すべての記念日は寝技に持ち込まれ一番美味しいのは直樹という毎度のお約束パターンなのです。
でも、ま、入江くんも頑張ってはいますね。少しずつ少しずつ成長してます。

はーい、学長さんのエピもなんとか書けたらな、と思ってます(^.^)

お。そうなんですね。ルルさんもるるさんも同じ方かしら?と思ってました。了解です!
ふふ、わんちゃんネームでしたか。可愛いお名前〜(^^)d


  • ののの 
  • URL 
  • 2019年10月27日 22時21分 
  • [編集]
  • [返信]

コメントの投稿

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

プロフィール

ののの

Author:ののの
管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

最新記事

最新トラックバック

FC2カウンター

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

右サイドメニュー