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さすがに2019年になっても2018年のバナーをつけっぱなしはどうかなーと思い、外しました(((^^;)


そして、ようやくラストです。
長くなってしまったので、2話にわけますね。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※




サイテーだ……

あたしって、本当サイテーだ。



式場を飛び出したあたしは、目の前のビーチをとぼとぼと歩いていた。

どうやらここは式場のプライベートビーチらしく、人影は全くなかった。
真っ白い砂浜、抜けるような青空、太陽が目映いくらいに反射するエメラルドグリーンの海。
揺れるヤシの木。
木陰にはハンモックやテーブルがあり、そういえばロビーにここを背景にしたウェディングフォトが何枚も飾ってあったなーと思い出した。
こんな楽園のような風景の中で、あたしは、奈落の底に落ち込んだような真っ黒な心を抱え込んでいて、それを重石にこのまま海に飛び込んでしまいたい気分になっていた。


ーーおまえは医者になる資格はない!


おとうさんの冷たい言葉が心をえぐる。


ほんとうに、そう。
あたし、医者になる資格なんてない。
恥ずかしくて死にそうだ。


あの子が仮病かどうかなんて関係ない。
主訴があれば、たとえ詐欺師だろうが殺人犯だろうが、まずは予断なく診ること。

それが医師というものーー

そんな話をお父さんから聞かされていたのに。

あたしは怒りですっかりそんなこと考えもしなかった。

今でもまだ、心の何処かで、なんであんな嘘つき女の仮病、信じるの!? って感情が黒々と渦巻いている。

でもーーでも。あの子の青ざめた顔色。
額に滲んだ脂汗。
苦悶の表情。
もしーーもし、本当に病気だったらーー?

ううん、本当とか、嘘とか関係ない。
それなのに、それなのに。

あたしの心のなかはぐるぐると同じところを永遠にループしていた。

波打ち際にあった朽ちたような流木に腰をかけて、膝をたて顔を埋める。

ああーーもうサイアクだ、あたし。




「あー、いたいた! よかったぁーーなーんだ、こんなに近くにいたんだぁ!」


え?


背後で耳慣れた声がして、あたしは思わず顔を上げる。涙で濡れた頬を手の平で拭いながら。


「お、おかあさん……」

おかあさんがハァハァ云いながら、砂浜に駆けおりてきた。
……って、その虹色ドレス着たまんまで!

「ひゃあぁ~~」

そして、思った通り、ヒールが砂浜にすっぽりとはまり、そしてそのまま見事に転けた。

「いやーん、借り物のドレス……」

せっかくのドレスが砂にまみれてしまっていた。

「隣、座っていい?」

立ち上がってパンパンと砂を払いながら、流木のベンチの隣を指差す。

「え……い、いいけど。汚いよ。野ざらしの流木だから」

「ま、どうせ汚れたしね!」

と、にまっと笑って、ふんわりとドレスの裾を押さえてあたしの横に平然と腰かける。

「みーちゃん、凹んでたでしょ? 地の底に沈みこむくらい」

ふふふ、とあたしの顔を覗きこむ。
えーと、なんでそんなに楽しそう!?

「わかるなー。おかあさんもそうだったもの。25年前にお父さんがね、腹痛訴える麻里さんを触ろうとして、思わず『他の女のひとなんて触らないで!』って叫んじゃって。『おまえのヤキモチなんかにつきあってられるか、医者の妻になる自覚しろ、そんなんじゃ一緒にはなれない』って、きつーく叱責されてーー初めはショックで飛び出したけど、あとから恥ずかしくてたまらなくなっちゃったもん。確かにその通りなんだよね。いちいちヤキモチ妬いてたら患者さん診るなってことだもん。自分が情けないわ、お父さんに嫌われたと思って悲しいわ……ああもうほんとに成田離婚だーー!!って、もうこの世の終わりみたいな気分でハワイの町の中さまよってたら迷子になっちゃって……」

うちらってやっぱ親子ねぇ、って、とっても嬉しそうに話す。
同じことやらかしたからって喜ばないでよね。そんなDNAありがたくないもん。

「……あの子……大丈夫なの?」

「麻帆さん? 大丈夫じゃないかなー? 式場のスタッフの方が車に乗せて近くの病院に連れてってくれて」

「……仮病じゃ、なかったんだね」

ーーああ。ホントにサイテーだ、あたし。

「そうだねぇ。仮病ではなかったわね。あれ、仮病だったら女優になれるわ」

うん、そうかも………。

「何の病気……?」

「詳しく検査してみないと断定はできないけど、入江くんの見立てによると卵巣嚢腫……なんとか?かも、って」

「え………」

卵巣ってーーー

「産婦人科医目指そうと思ってたみーちゃんにはちょっとキツいかな?」

「……うん。余計へこんだ……あたし、産婦人科医になる資格全然ないじゃん……」

生命の誕生に立ち会い、女性のライフサイクルに関われる幸せな仕事だと単純に思ってた。そりゃ、全てが幸せな出産じゃないことも、ガンなどの病気にも立ち向かわなければならないことも頭では分かっていたけれどーーー

「そんな、素人が婦人科系か消化器系かかなんてそうそうわかんないわよ。卵巣とはいえ、場合によっては吐き気や下痢や消化器系に影響あることもあるし」

「おかあさんは……わかってた? 少なくとも仮病とは思わなかった?」

病名をちゃんと云えなくてもそこは看護師歴も20年以上だし……

「下っぱら押さえてたから、生理痛かなー?とも思ったけど、触った時少し熱っぽかったから……」

そうだったんだ。

「実際、病院にはいろんな患者さん来るから。毎回テキトーに病名つくってお喋りにくるだけのおばあちゃんとかいるけどねー。でも疑わずにまずちゃんと話を聞くのは医療従事者の基本中の基本かな」

そういって、にこっと笑う。

「………痛みを訴える以上、何か必ず原因はあるんだよ。それが詐病であってもね。身体であったり心であったり。全てに寄り添うのは難しくても、頭っから否定しまくるのは、ダメかな」

「………はい」

「ま、あたしもそう達観できるようになったの、だいぶ経ってからよ。やっぱりキレイな患者さんがわざとらしく入江先生指名で来るのに、ヤキモキしっぱなしだったもん。ホントに病気なの?って心のなかで疑ってたこともあったわよ。狙ってる女医さんやナースもいっぱいいたしね。って、今でもだけど!」

既婚者なのにね、お父さん。
確かにストーカーまがいの事件もあったりして、もてる旦那さん持つ大変だなーとおかあさん見て思う。

「でも、やっぱり入江くんの言い方は端的過ぎてキツいよねー。もうちょっと言葉を選べばいいのに。娘なのに容赦ないんだから。そこんとこは全く変わらないというか……天才のクセして言葉選びのスキルは低いのよねー」

おかあさんも普段はとってもお父さんを尊敬してる感じなのに、意外と言うんだよね。そこは、同級生夫婦って感じ。

「仕方ないよ。医者になりたいっていったくせに、あんな自覚のないこと言っちゃったんだもん……あたし、ほんと医者になる資格ないよ」

「そんなことないわよ。みーちゃん、すぐに自分の失言、気がついたでしょ? よかった。みーちゃんがちゃんと反省してくれて。ただ反発して拗ねたまんまじゃなくて」

よしよし、と子供にするように頭を撫でてくれるおかあさん。

「医者になる心構えとか自覚とか……そんなの、追々身についていくものよ。今はやりたいことが見つかったなら、それに向かってひたすら前進あるのみ! みーちゃんなら努力の過程できちんと身についていくから。あたし、親バカかもしれないけれどみーちゃんは立派なお医者さんになれると確信してるもの!」

自信満々に胸張って断言するおかあさん。

「あたしはいつだってみーちゃんのこと応援してるから! 安心して夢に向かって走ってて!」

そして青春映画のように空をバーンと指差す。

「お、おがーざぁん………」

あたしはおかあさんの肩に頭を乗っけて、幼い頃に戻ったようにさめざめと泣き出した。

「あ、いっけなーい。入江くんに、みーちゃんが見つかったって連絡するの、忘れてた。入江くん、街の方に捜しにいってるの。多分、おばあちゃんたちも一緒に捜してくれてるわ」

ええーー
それは申し訳ない~~!

「しまった、携帯もってくるの、忘れた!!」

といっておかあさんが立ち上がった時に、びりっと流木の枝に引っ掛かってドレスの裾が破れた。

「きゃー! どーしよー!」

「………買い取りだな、仕方ない」

唐突に、背後から耳慣れた低い声。

「え?」

いつの間にかお父さんが立っていた。
その後ろにはヨーコさんも……。

「………できればそうしていただけると有り難いです。よろしくおねがいします……」

少し微笑みをひきつらせてヨーコさんがぺこりと頭を下げる。

「お、お父さん……ま、麻帆さんはーー?」

「さっき、病院に付き添っていったスタッフから連絡あって、検査の結果、直樹さんのお見立て通り卵巣茎捻転だったそうよ。これから緊急オペとなるみたいね」

ヨーコさんの言葉に、おかあさんも心配そうに「せっかくのハワイなのに、大変ね」と呟いた。

「ま、大丈夫だろう。余程のヤブ医者じゃない限り、失敗するようなオペじゃない」

「………お父さん……ごめんなさい…あたし……あたし……」

あたしは立ち上がって、頭を深く下げた。恥ずかしくて目を合わせることもできない。

「さっきは言い過ぎた。おれはどうやら言葉選びのスキルが低いらしいからな」

う……どこから聞いてたのかな…?

「あの時、おまえと彼女たちの間に何があったのかは知らない。目の前に苦しむ人間がいて、医者は放置することなんてできない。それはわかるな?」

あたしは頷く。

「モンスターペイシェントなんて言葉も生まれるくらい、今はなかなか厄介な患者さんも多い。無論、嘘をつく患者もいる。でも医者はまず疑わずに診ることから始めなくてはならない。医者は患者を選んじゃいけないんだ。患者は医者を選んでもいいけどな」

両親から職場での具体的な愚痴は一切聞いたことはなかったけれど、ドラマや小説で、そんなことがあるのだと知ってはいた。
医者は人間相手の仕事で、病気と戦うだけじゃなく、毎日毎日いろんな人たちと向き合わなくてはならない。

あたしみたいに感情的な人間が医者になっていいのかしらーー?

「……琴子のような感情だけで動いてるやつが立派に看護師やってるんだから、そこは問題ないだろう。えらそうなことをいったが、高校時代のおれはおよそ医師の資質なんてなかったと思うし。それこそ人間に興味なかったからな。まさか人間相手の仕事をするとは当時は思ってもみなかった」

そうなんだ。
ま、お母さんの何気ない一言で医者になろうと思ったって聞いたことある気がするけど。

「おれも琴子も途中で進路変更してるし、おまえだって気が変わるかもしれない。先のことはわからない。ただ今やるべきこと、考えなくてはならないことをひとつひとつクリアしていけばいい。気がつけば経験値がアップして、選択肢も無限に増えていくからな」

「………うん」

何となく、不埒な動機から産婦人科医になりたいだの神戸医大に行きたいだの言っていた自分が恥ずかしくてたまらない。

ダメだなぁ。
この時期に今さらだけど、あたしはもっと考えないといけないのかも。







「えーと、入江さま。お式の方はいかがいたしましょうか? お嬢様の進路はあとでごゆっくりと相談されては? 」


重苦しい雰囲気のなか、ヨーコさんがにこやかに話しかける。

「せっかく、お嬢様たちが段取りされた銀婚式ですもの。このままキャンセルは勿体ないですよ?」

「でも……時間がーー」

式の時間はとうに過ぎてる。
あたしが飛び出したばっかりに今日の予定を全部滅茶苦茶にしてしまった。

「どのみち、このあとの予定は何もございませんから、少し繰り下がりましたが、入江さまが宜しければこのまま進行いたしましょう。まあ、ドレスがそのままでよければ、ですが……」

少々裾が破れたり薄汚れたりしているけれど、一見はなんとかなりそう。

「ええ、このドレス、気に入ってるの。このままでいいわ。どうせ身内しかいなんいんだし」

「ここは、うちの式場のプライベートビーチです。この時間だともうすぐ日没になります。海に沈むハワイの夕日は格別ですよ。ここで挙式とパーティするのはいかがでしょう?」

パーティーというか、お食事会的なものは隣接するレストランを予約していた。
それをこんな綺麗なビーチでやってもらえるなんて!

「え、いいんですか!?」

「ありがとう、嬉しいわ」

「妻と娘にすべて任せてますから。おれは何も口出ししませんよ」

べたつく潮風なんて少しも気にならない。
さっきの冷たい瞳であたしを見つめていた人とは思えない優しい瞳で、お父さんはお母さんの隣に立ち、肩に手を回した。









* * *



ビーチでの挙式を提案して、大正解だったわ。
うちは海が望めるチャペルがウリではあるけれど、この時間なら実はこの浜辺が一番美しい。

色々ドタバタがあって時間は押してしまったけれど、怪我の巧妙、それは美しいサンセットが波の色をオレンジ色に染め上げていた。
オレンジから紫のグラデーションがゆったりと空を包み、幻想的な光景を作り出している。
パイナップルで作ったランタンの灯りが煌々と砂浜を照らす。

「おとうさん、おかあさん、銀婚式おめでとう」

琴美さんと遥樹くんが二人にリングを渡し、琴梨ちゃんがブーゲンビリアの花束を渡す。

さざめく波の音だけがBGM。
そして、琴美ちゃんが手紙を取り出し、二人に向かって読み始める。

「えーと、おとうさん、おかあさん、25周年おめでとう! 二人は私の理想の夫婦で、憧れのベストカップルです。この先、金婚式、ダイヤモンド婚式、プラチナ婚式までお祝いしたいので、ふたり仲良く長生きしてね! 以上!」

こっぱずかしくなったのか、物凄い勢いで読み上げて。しかも内容もかなりざっくりだわね。

「ねーちゃん、もうちょっと感動的に読めよ」

「うっさいなー。五年前もあたしお祝いの手紙読んだんだから、今度はあんたやってよ、っていったのに」

「えーおれ文才ないもん」

結局、姉弟喧嘩始めてるし。
ま、親に手紙読むのって照れ臭いのわかるけど。大人になればなるほどね。結婚式の時だけで十分よね。

「おまえたち、別にいいけどさ……この琴子の中途半端な涙はどうしてくれる?」

手紙の冒頭ですでに涙目だった琴子さん……(泣けるポイントが何処にあったのかわからないけど)すでに涙は止まったようね。

「ねぇ、入江くん。プラチナ婚って何年目なの?」

「75年目」

「75! あと50年! ひぇー気が遠くなりそうね!」

「人生100年時代だから。有り得ない訳でもないかもな」

「ふふ、お互い96歳かぁ~。どんなおじいちゃんおばあちゃんになってるのかしら」

「おまえ、トヨばーちゃんみたいになってたりして」

「えーうそぉ! 絶対可愛いおばあちゃんになってるよ。入江くんこそ、偏屈なおじいちゃんになって周りを困らせてるかも……」

「はぁ?」

「ほらほら、何いい歳してじゃれあってるのよ! こっちで集合写真とるわよー」

直樹さんのお母さまの一声でみんな集まる。

「お撮りしましょう」

わたしがお母さまの一眼レフを預かろうと手を出すと、

「ヨーコさんも一緒に入りましょう! ほら、カメラはそこのお兄さんに頼んで」

因みに彼はうちのプロのカメラマン。式の様子はきっちり撮らせていた。その彼に、自前の一眼レフを押し付けると、あたしは主賓二人の隣に引っ張られた。

「このような真ん中には……」

あたしが場所を移ろうとすると無理やり中腰にさせられ結局そのままそこで、撮られてしまった。

「はい、チーズ!」






そのあとは、そのまま夕暮れの海辺をバッグにパーティー。
レストランの厨房で作ったハワイアンメニューをビーチガーデンに運ばせた。

途中で、麻帆さんのオペが無事に終わったと連絡が入り、みんな少しほっとしたよう。

うちのカメラマン以上に直樹さんのお母様が二人にポーズを要求して写真を撮りまくっていた。

ちなみに弊社の専属カメラマン、ウェディング写真は乙女チックすぎと妙な定評があるのだけれど(浜辺でお姫様だっことか、海に向かって走るとか)お姫様だっこまでは渋々感はあったもののなんとかポージングしてくれた直樹さんも、さすがに、
「はい、そこのヤシの木の下で海をバッグにキス! 25年前の再現よー」という言葉には、「いい加減にしろ!」と怒鳴ってたわ。


本当にーー
25年たっても素敵な夫婦、素敵な家族。


この仕事をしていて、日々幸せのおすそわけをもらっていると実感しているのだけれど、今日はまた格別ね。

彼らと撮った一枚の写真は後に職場にも自宅にも飾られ、それを眺めるとなんだかほっこり幸せな気分にさせてくれた。
あたしは大好きなハワイで、彼らに再会できたことを心から感謝したのだったーー。





※※※※※※※※※※※※※※※

ラストは短めですが、続けてアップします(^^)



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