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個別記事の管理2018-10-08 (Mon)



更新空いてしまいましたが、琴子ちゃんの誕生日パーティ、まだ続いております^_^;


※※※※※※※※※※※※※※※※





「あらー、やっと帰って来たのね。もう、食事は片付けちゃったわよ」

琴梨を抱っこしたまま、おかあさんと並んでリビングに入ってきたおとうさんに、おばあちゃんは嫌みっぽっく言いつつも、お母さんが抱えた華やかな薔薇の花束をじっくり値踏みするように見つめてから、にやりと満足気に微笑む。

とりあえずおかあさんの28歳の誕生日から(この年はおばあちゃんが準備したらしいケド)毎年、年の数の薔薇の花束を贈っているのだから、その点は感心するわ。(割りと律儀なのよ、おとうさんってば)
あたしが生まれる前までのおとうさんは全く誕生日とかアニバーサリーに無関心だったというのが嘘のよう。結婚して6年、プレゼントすらあげたことなかったというのだから!
(それってどーなのー? 普通なら一番あれこれしてもらえる時期だよね? おかあさん、それまでよく文句も云わずに我慢したもんだわ!)

ーー自分にとってかけがえのないパートナーを得ることができて、そして自分の血を分けた子供を生んでくれて。
大切な人がこの世に生を受けたその日が歴史的史実にも勝る、最も重要で聖なる1日だってことにようやく気がついたのよ。生まれて30年近く経ってね! ほんと、自覚するのが遅いわよね~!
ーーとおばあちゃんは笑ってたけど。

20年近くプレゼントされ続けた花束は大切にドライフラワーにされて、部屋のあちこちにナチュラルインテリアの素材となってぶら下がっている。(埃とるの大変なんだけど……)

おかあさんは花束をいそいそと台所の方に持っていき、おとうさんの食事の準備を始めた。

「いいよ、別に。テキトーにあっためるから」

「あ、ちゃんと入江くんの分、取り分けてあるから」

「あ、おかあさん。主役は座ってて。あたしがチンするよ」

「兄貴、飲むだろ?」

座った二人に、裕樹おにいちゃんがキッチンにある小型のワインセラーからボトルを取り出す。1972年もののシャトー・ギロー。
うちはおとうさんもその年に生まれたせいか1972年産のワインがたくさんある。

「ああ。少しだけ」

ワイングラスに注がれる黄金色の甘口貴腐ワイン。
おかあさんの誕生日には大抵甘くて飲みやすいワインがセレクトされている。たいして飲まないんだけどねー。(おかあさんはすぐに酔うのでアルコール度数の高いワインは一杯だけと厳命されている)
あたしもあと二年で飲めるようになるんだよね……。そーいえばあたしも来週誕生日だったわ。
無論、2000年、ミレニアムイヤーのワインも何本も地下のワインセラーに眠っている。ちょっと楽しみなんだ。

「では改めて」

結局、大人たちは全員グラスを手に「誕生日おめでとう」と今日何度目かのお祝いコールをおかあさんに告げて、乾杯した。

「こうして、毎年お祝いしてもらって、あたしって本当に幸せものだわ」

と、毎年幸せそうにおんなじことをいって皆に感謝する。
そんな風に来年も再来年もあたりまえにお祝いできる日常が続けばいいなー、なんてことを思ってしまうのは、今年は猛暑だの地震だの台風だの豪雨だのとやたらとあちこちで自然災害が多かったせいかもしれない。ニュースを見るたびに胸がしめつけられ、いてもたってもいられない気分になったり、いつ自分の身に非日常が訪れるかもしれないという不安に怯えることも多々あった。
ほら、今週末もとんでもなく大きな台風が日本を縦断するって予報だし(何事もありませんように!)。
備えあれば愁いなし、というけれど、備えてたってどうにもならないこともある。
とはいえ愁いてばかりでも仕方ないので、落ち込んでもすぐ立ち直るおかあさんのように、あたしも今できることを精一杯しようとは思ってる。(とにかく、受験だよ! 大学合格しなきゃ何も始まらないもん)


「そうそう。おにいちゃんが帰ってきたら言おうと思って忘れてたわ。あたしとおじいちゃんからの、琴子ちゃんへの誕生日プレゼント」

おばあちゃんがいそいそと持ってきていた鞄から封筒を取り出す。

え?
何?

「じゃーん!」

おばあちゃんが出したのは旅行会社のパンフレットに旅行企画書……へ?

ハ、ハワイーーー!?


「今年は二人の銀婚式でしょ? だからハネムーンに行った思い出のハワイ旅行プレゼントしようと思って!
あ、みーちゃんやハルくんも一緒に! ついでにあたしたちも行くから!もちろん裕樹のとこもね!」

「えええーーー!?」

「というわけで、みんな、11月17日から11月24日、空けておいてね~~」

おばあちゃん!
あたしたち、フツーに学校ありますけど!

ってか、11月17日って……

「お、お義母さん……嬉しいですけど、あたしも入江くんもお仕事そんなに休めないし……子供たちは学校があるし……」

おばあちゃんの爆弾ーーもとい、プレゼントーーきいた瞬間、目を丸くしていたおかあさん、すぐにぱあっと嬉しそうな表情をしたくせに一瞬で現実を思い出したみたい。

「あら、二人とも有休はたまってるでしょ? なんだかんだ夏休みや冬休み、まともにとってないし。ここ数年ちゃんとした家族旅行なんてしてないじゃない。
1ヶ月以上前から調整すればなんとかなるでしょ?
それに学校もね、17日は土曜日だし、23日の金曜日は祝日。実質4日お休みするだけだから大丈夫よね? みんな期末試験にも被ってないでしょ?」

そういって、ハルやみっきいまっきいの顔を見る。
中坊たちは、もう瞳をきらきらさせてうんうん、と首を縦に大きく振る。

いや、あんたたちはいいでしょうけどね。
あたし、受験生なんですけど!
それに、まずおとうさんが承諾する筈がない。おとうさんのオペを待っている子供たちがたくさんいるというのにーー患者を置いて呑気にハワイなんてーー!

と、思ったら、おとうさんがグラスを置いておもむろにおかあさんに話しかける。

「琴子。仕事はある程度任せられるように今、色々段取りとってるから。しかもいいタイミングで麻酔科学会がこの時期重なって、緊急オペ以外は出来ないから予約オペを取ってないんだ。麻酔科医が当直以外いなくなるからな」

「ええ? そうなの? って……もしかして、入江くん知ってた……?」

おとうさんの意外な言葉におかあさんもあたしも思わず口をあんぐりさせてしまう。

「半年も前からあれこれ言われて、承知しなかったら病院長に直談判して勝手にスケジュール調整されそうな勢いだったからな……お陰で今、ハチャメチャに忙しいんだ。うちの学会の準備はなんとか済ませたが」

え? そうなの? 最近あまり家に帰って来ないの、あたしを避けてた訳じゃなくて?

うん、そりゃ大学教授ともあろう人が母親に仕事のことであれこれ口だされるの……イヤだろうな~~
おばあちゃんならやりかねないから、ちょっと同情しちゃうかも……

「だって、おにいちゃんが一番難攻不落なんだもの。おにいちゃんさえ仕事がなんとかなれば、琴子ちゃんだって安心して行けるでしょ?」

「え、え、そりゃ……」

おかあさんがおとうさんをちらちら見ながら頬を染め、そして嬉しそうに「ほ、ほんとにいいのかな……」と両手を合わせてみんなの顔を見つめる。

「もう相原のおじいちゃんには了解取ってるのよ~。これからふぐのシーズンで繁忙期になるものね。でも、もうお店はお弟子さんに任せて大丈夫って! 」

アイじいちゃんにまで……さすが。(この時間、お店に行ってて不在。未だに現役で包丁ふるってます)
でも、たしか、アイじいちゃん、繁忙期にも関わらず、25年前のおかあさんたちのハネムーンにくっついていっちゃったって話だよね? おばあちゃんに乗せられて。

「ふふ、じゃあ、決定でいいわねー? あ、裕樹たちもOKでしょ?」

「まるで、おれたちが暇みたいにいうなよ。これでも取締役なんだけど」

「重役なんて、一番融通きくポジションじゃない! それとも何か予定が?」

「……ないです」

「じゃあ、決まりね~~」

「え、でもお義母さん、うちの家族まで……せっかくのお義兄さんたちの結婚記念日なのに」

好美ちゃんが戸惑ったように訊ねる。

「なにいってるのよ! これはもう琴子ちゃんの誕生日や銀婚式にかこつけた入江家、家族旅行一大プロジェクトなのよ! こんな機会めったにないわ! 遠慮することないのよ。みんなで一緒にいきましょ!」

「ありがとうございます……!」

「今まで裏でひそかに動いてたけど、これから本格的に詰めて行くわよー」

と、おばあちゃんがパンフレットを抱きしめて嬉しそうにVサインを出す。

いや、待って……

「ちょっと! おばあちゃん! あたしは無理だから~~絶対無理! 受験生なんだよ? あたし!」

「あら、一週間くらい羽根を伸ばしたってあなたなら大丈夫よ」

それ、全国の受験生きいたら撃沈しそうなセリフだわ、おばあちゃん!

「無理よ! だって11月17日はあたしの推薦入試の日なんだもん!」

そう。
その日は神戸医大の推薦入試の日なのだ。
校内推薦はほぼ確定だから、とりあえず願書を取り寄せるところでーー。

おとうさんの眉間がぴくりとしたのが横目で見えた。

「あらー。推薦もらえるの? センター受けるんじゃないの?」

おかあさんが呑気に訊ねる。
一学期の懇談会で担任から説明されなかったっけ?

「推薦で合格したら、センター受けなくてもいいけど、落ちる可能性もあるから申し込んでおかないと」

「あらーみーちゃんなら合格するわよー」

「そうそう」

嫁姑コンビは屈託なく笑う。なんなの、その自信。あたしにはそんなこと云える余裕なんて全然ない。おとうさんみたいな天才じゃないもの。
成績にムラがあって、学年1位から30位まで、振り幅が大きいのよね、あたしって。

「じゃあ、みーちゃんとあたしは1日ずらして18日出発にしましょう。飛行機はもう押さえてあるから、人数も多いことだし基本は17日をずらせないのよね。二人分くらいならなんとかなるから」

おばあちゃんが事も無げにあっさりいう。

「あ、だったらあたしが琴美と残ってあとから行きます。娘が受験なのに……」

おかあさんが慌てて提案する。

「何いってるのよ。今回の主役は琴子ちゃんとおにいちゃんなのよ。二人そろって行かないと!
みーちゃんの受験は私がしっかり見届けるから安心して!」

えーー?

なんか、あたしを抜きにしてしっかり話は纏まりつつある。

「斗南大医学部なら学校推薦と自己推薦論文だけでわざわざ受験しなくていいだろう」

おとうさんがあたしの方をようやく見た。

「神戸がいいの。神戸医大にどうしても行きたいの」

あたしもきっちりおとうさんの瞳を見返す。妙に眼力強いけど、負けないんだから!

「ーー琴美」

しばしの沈黙のあと、おとうさんがおもむろに立ち上がった。

「え? あ、はい」

「書斎に来なさい。きちんと話そう」

「うん」

きちんと話をするつもりではあったけど……真正面から来られるとちょっとビビるなぁ。我が父ながら……

「い、入江くんっ! お、落ち着いてねっ! みーちゃんにはみーちゃんの考えがあって……自分の進路は自分の好きなように決めさせてあげてね?」

おかあさんが慌てておとうさんの腕を掴んで懇願する。

入江くん、ちょっとびっくりして拗ねてるだけだからーーみーちゃんが家から出てくなんて想像もしてなくてまだ心の準備が出来てないのよ。
大丈夫よ、少ししたらちゃんと話ができるわ。きっと反対なんてしないわ。
だって自分だって親の思う通りに生きてこなかったし、突然家を出ちゃうしーー子供にあれこれなんて言えないと思うのよね~~
ーーって、あたしにクスクス笑いながら話してくれたおかあさんだけど、案外一番不安に思ってたみたいね………。

「別に、おれは反対してないぞ。ただしっかり話をきいてなかったから聴くだけ」

聞く耳持たなかったの、そっちじゃん!
それに、わざわざ神戸に行かなくったって医者はどこでもなれるっ!って、つめたーく、いったよね? それ、神戸行くこと反対って意味だよね? ーーーと、内心あれこれ思ったけど、とにかくお互い思ってること言い合うの、いい機会だわ。
あとは言い負かされないよう、理論武装しなくっちゃ!(おとうさんに口で敵う自信はないけどさ)


そして、あたしたちはみんなに見守られながら、リビングを出て、書斎に向かったのだったーー。





* * *



「あ、あのね! そ、そりゃ、お金を出してもらうのお父さんなのに勝手に決めて悪いとは思うのよ。神戸は遠いし一人暮らしすればお金もかかるし。
でも、あたしどうしても神戸医大の産科と小児科と救命の連携が整った……」

先手を打って、書斎の椅子に座るやいなや口火を切ったあたしを制するように、
「待てよ、琴美。おれはさっきもいったようにおまえの進路に反対するつもりはない。金のことなんか一切気にする必要もない。だが、まずいろんなこと、何もきいてないから。最初っから説明してくれないか?
おまえ、いったいーーいつから医者になろうなんて決めたんだ?」
ーーと訊ねてきた。

え? そこから?
あ、あたし、医者になりたいっていってなかったっけ?

「おまえはどっちかっていうと工学系に進むかと思ってた」

「ーーああ。ロボットとか……」

たしかに、一時期介護用ロボットの情報工学や義足や義手制作の技術工学に興味があった。
それも弟のハルが生後まもなくの片足欠損で義足をつけているせいだけれど。その関係で障害児施設のボランティアや福祉施設のボランティアにおかあさんやおばあちゃんと行くことが多かった。
ハルより全然大変で、それでも健気に、必死に生きている障害や病気を抱えた子供たちの役に立ちたいと思うようになっていた。
実際、高校のインターシップも選んだ職場は介護ロボット分野の開発をしている技術研究所だったし。
それでも本当は寸前まで病院に行こうかどうしようか迷っていたんだけどね。
ーー親のいる世界に行くのはなんとなく抵抗があったのだ。でも本当は両親ともに携わっている医療の世界が一番身近だったのは確かでーー。
そして、あたしは両親がどれだけ自分の仕事に誇りを持ち、どれだけ患者に対して真摯に向き合っているかを知っていた。
だからちょこちょこお母さんには相談してて、お母さんもあたしが医療の道に行くこと、少なからず察していたのだと思うの。


「……決めたのは、ほら、今年の夏休み、アンジーとUSJ行ったついでにボランティアに行ったり、神戸のかをる子さんちに遊びにいったりしたじゃない。あの時に、神戸医大見学させてもらって、たまたま周産期医療センターで実習してた医学生の人に話をきいて、ちょっと色々感銘をうけたのよ」

「……医学生って……男か!?」

やだ、やっぱり、そこに食い付く?

「え? あ、女子だよ! 女子! 彼女ね、おかあさんが自分を産んですぐに亡くなったの。それで出産で命を落とす妊婦をゼロにしたいって産婦人科医師を目指してて。あと、あそこの周産期医療センターは小児科や救命と連携してて、出産時の妊婦の死亡、0を更新してるの。それでーー」

「わかった。琴美がそれなりの考えがあって神戸医大で産婦人科医を目指したいというのなら、別に反対はしない」

あ、よかった。
意外とあっさり。

「……でも、ちゃんと覚悟はできてるんだよな? 今、色々社会問題になっている通り、医師の労働環境は決していいとはいえない。とくに、女性。そして産婦人科医にはかなり厳しい状況だ」

「そりゃ……小児科や産婦人科は、訴訟リスク高いし少子化で不採算事業とかで切り捨てられて、どんどん少なくなって。けれど、絶対必要な科だよね。誰かがやらなきゃいけないと思うの。それに産婦人科医は女性が多い方が妊婦さんも安心だと思うしーー多ければ多いほど、産休や育休のフォローがしあえるし」

斗南医大は女性産婦人科医ばかりというのは父さんの策略だという噂があるらしいけれど(都市伝説よね、ただの)。

「女性の方がいいとは限らないがーー。案外、女医の方が同性に厳しいと不評な一面もある。男性婦人科医は自分が経験することは一生ないから、常に客観的に患者に寄り添えるってね」

あ、なるほど。そういう見方もあるのか。
でも、多分男性医師はイヤだって子宮がん検診とか受けにいかない女性も多いんだよね。

「少し前に世間を騒がせた某医大の女子学生不正入試問題の根本もそこだ。絶対的な医師不足。大学病院の医師の疲弊は、おれが研修医だった時代と変わらず激しい。結婚出産でブランクが生じる女性医師を取り巻く環境はかなりきついぞ。
産婦人科医になったらそれこそ自分は子供を産む暇がなくなる。24時間体制の職場、人手不足で替わりはなかなか来ない。産休育休とった日には残されたスタッフが過労死寸前に陥り、結局みんな辞めていく。そしてまた人員不足。負のスパイラルだ」

「……知ってるけど……お父さん、ネガティブな話ばっかりね。
産婦人科は唯一生命が生まれる喜びもあるじゃない。一番やりがいを感じる現場だと思うの」

「そうだな。悪かった。実際問題、そういう労働環境を改善しなくてはならないのは父さんたち世代の仕事なんだが。斗南医大はスタッフの人員確保に成功して、出産した女性医師のための保育園や職場復帰の支援もかなり整ってる。だがそれはレアなケースだ。神戸医大もまあマシな方ではあるが。
父親としては、女性の生涯未婚率3分の1、離婚率3分の1、という職業に娘がつくのに少々の不安があるだけだ」

う。それって、きいたことあるけど……

「そのデータって本当なの?」

「ただの都市伝説だ」

そういってやっと父さんがくすっと笑った。


「推薦を受けるのなら、小論文と面接のためにももう少ししっかりした志望動機を捏造しろよ。別にブラックジャックを読んで医者になったって奴もいるわけだし、漫画やドラマの影響で志望するのは全然悪くない。
それをひとつの切っ掛けとしてそこからどうやって現実のものとするか、もう少し説得力のあるアプローチが必要だな。俺が試験官なら不合格だ」

え?

「どーせ、かをる子さんとこでコ◯ノトリ全巻読んではまりまくったんだろ?
去年の今頃、ドラマでも琴子と盛り上がってたもんな」

ば、バレてた!?

いやー産婦人科医になりたい! しかも救命や小児科と連携したスキルを身に付けたい!と思ってかをる子さんに周産期医療センター見学させてもらったのは、実は漫画が切っ掛けーーなんて、ほんと、お父さんには言いにくくってーー

「別に切っ掛けなんてたいした問題じゃないんだ。おれだって医師を目指したの、琴子のささいな一言だったからな。
それに、そのドラマは普段医療ドラマを見ない医師たちにも評判らしい。
そういうのが切っ掛けで産婦人科医を目指すものがいるのなら大いに結構だ」

「へへ。どうにも動機が不純な気がして……あ、でもね、神戸医大の医学生の子に話をきいて余計にやる気になったのは、本当なの」

「もしかして、その女学生の名前……」

「え?」

「………いや。ま、おれの高3の時なんて親に反発してただけで全然やりたいことなんてなかったからな。それをもう見つけてるだけでおまえはすごいよ」

「そ、そっかなぁー」

そういわれるとちょっと照れる……

「おまえは医者に向いてると思うよ。琴子に似て根性もあるしな。女性が働き辛い社会であるのは、日本のどの職場でも似たようなもんだ。でも、きっと乗り越えられると信じてる」

「うん。ありがとう、おとうさん」

「本当は、神戸じゃなくてもいいだろう、って内心まだ思ってる。おれを納得させるような自己PR、推薦入試まで考えとけよ。面接の模擬試験してやるよ」

「う、うん」

だよねーー。
まだ神戸を選んだ動機としては薄いかな~~





「おい、そろそろ入っていいぞ」

「へ?」

おとうさんが扉の向こうに声をかける。

すると、がちゃりとドアがあいて、おかあさんがコーヒーを持って立っていた。そして、その後ろにみんな並んでいて、決まり悪そうに首をすくめていた。明らかに聞き耳たててた様子だ。

「あーよかった。昔の入江くんとお義父さんみたいに大喧嘩してなくて」

そういって安心したようにおかあさんがテーブルにコーヒーを置く。
もう冷めてるってば、おかあさん。

「自分のこと棚にあげて娘に好きな道を選ばせないわけないだろ?」

「うん。だから大丈夫って信じてたよ。『男と女とは違うだろう!』ーーみたいな、理不尽なこと言い出すなんて疑いもしなかったから!」

ふふふ、と嬉しそうに笑う。
ーーおかあさん、疑ってたでしょ?

「おまえの誕生日に水を差すような真似しない」

少しむっとした顔をしておとうさんが冷めたコーヒーを一口飲んだ。

「ありがとう、入江くん」

はーい、二人ラブラブモードだね。
そうそう、今日はおかあさんの誕生日だもんね。
じゃあ、あたしはそろそろ退散ということで! あとはおふたりでごゆっくり!


おかあさんの一言で医者になったおとうさん。
おとうさんを助けたくて傍にいたくて看護師になったおかあさん。

動機なんて、本当にささいなこと。たいした問題じゃないのかもしれない。
ーーでも、神戸に行きたい本当の動機は、やっぱり父さんにはいえない。
どうしても神戸がいい。何がなんでも神戸医大に行きたいーーその理由。
おかあさんにも言ってない(父さんにすぐバレるから)。
知ってるのはかをる子さんと親友のアンジーだけなんだよなー。

本当はーー。
神戸医大で出会ったドクターにーー一目惚れしたから、なんて!!


おかあさん………あたし、やっぱり、おかあさんの娘だわ!





※※※※※※※※※※※※※※※※




ちなみに麻酔科学会の日程は捏造です……f(^_^;(でも、麻酔科学会の日はオペが出来ないというのは本当らしいです。某お医者さんブログ、参考にしてます……笑)


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* Category : イタkiss期間 2018
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No Title * by なおなお
のんきな、入江君のママ普通の仕事でも、ひと月開けるのはまずないし、まして受験生もいることだしね?でも、さすが琴子ちゃんの娘だね、もちろん入江君の子でもある、琴美ちゃんしっかり未来を見据えてる、しかしほんとに今年の夏から災害が、各地多かった年だね、あと残り今年もあと3か月。v-306

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
大変リコメが遅くなりましてすみません。

そうそう、全く誕生日に興味のなかった直樹さんも随分変わったものです。やっと大人になったのね笑
きっとこの25年間、直樹さんは海外飛び回っているけれど、お仕事している琴子ちゃんはおそらく付いていったことはないし、きっと大きな家族旅行も(佐賀と秋田で法事くらいとか)なかっただろうかと。
多少のうしろめたさもあったでしょうが、やっぱり新婚旅行のリベンジでしょうね(^-^)v
そうですよ! 医学部勝手に転科、って親の脛かじりのくせしてなんちゅーことを!私立の医学部の学費がどんだけすると思ってるんだーと受験生の母は思います……^_^;
さーて、琴美ちゃんの恋愛事情……どうしようかなーと模索しながら書いてますので、遅くなるかもですが……f(^_^;
ふふ、真琴ちゃん、ピンポーンです♪

Re.なおなお様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

琴美ちゃん、顔は琴子で中味は入江くんのクールでしっかりものですけど、やっぱり琴子の娘です。初恋遅いけど、琴子に似て一直線かなー?
ほんと、災害の多い年でした。そして返信お待たせしてる間にもう残り2ヶ月になっちゃいました〜〜

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