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個別記事の管理2018-09-01 (Sat)
お待たせしました後編です。

拍手オマケもついてるよー

※※※※※※※※※※※※※※※※※



「み、みーちゃん!!」

真っ青な顔の琴子が池に駆け寄ると、近くにいた数人が同じように何事かと集まっていた。
そして、琴美が欄干からのぞきこんで泣き叫んでいる。

「ママ!」

「みーちゃん! あなたが落ちたんじゃ……」

「違う、翔くんが……」

池の水面を指差した。
水面から顔を出してばしゃばしゃともがいているのは確かに翔くんだった。

「ーーママ!?」

翔くんの姿を見たとたん、琴子は何も考えずに池に飛び込んでいたーー。

以前池に落ちた時はあまり覚えてないが、岸辺に近いほど緑の藻が多いことに気がついた。
藻に囚われて上手く泳げないが、なんとか沈みかけていた幼児の身体に近づき、抱えることができた。
川と違って流れがないのであまり岸から離れていないのが幸いした。池の周囲で心配そうに成り行きを見ている人に手伝ってもらい、引き上げてもらう。
幼稚園児ながら身体が大きいせいか、二人がかりで引っ張りあげた。
必死にしがみついていたから大丈夫だとは思うが、引き上げられた時少しぐったりしていたので、すぐに意識レベルを確認して救命措置をしなくては、とーー岸を見上げる。

「ママ! 大丈夫!?」

琴美が心配そうに声をかける。

「うん、ママは大丈夫だから……翔くんパパを呼んできて」

池の中から顔を出し、岸に上がろうと思ったが、藻に絡まりさらに衣服が水を吸って思いの外動きにくい。そのうえ繁みに覆われた岸辺も手をかける場所ない。
えーと……
どうしよう、と思った瞬間、猫を鷲掴みするように、襟首を捕まれてずずっと岸に引っ張り上げられた。

「パパ!」

「何やってんだ! おまえは! どんだけこの池で泳ぐのが好きなんだ?」

「い、いりえくぅん……」

自分をひっぱりあげたのはスーツ姿の直樹だった。ただし、ズボンの裾とワイシャツの袖口は今琴子を引き上げたせいで濡れていた。

「………ったく。着いた途端にこれかよ」

顔をしかめ、不安と怒りと呆れかえった心情を封じ込めたような実に複雑な表情をして、直樹は琴子の頬を両手で包むように挟み、軽く睨んだ。

「2度あることは3度あるというがまさか、本当に落ちるとは……」

「落ちてないよーー飛び込んだんだもん」

直樹の姿を見て安心したものの、すぐにアスファルトの上に横たえられた少年に駆け寄った。

「翔くん……!」

「大丈夫。息はしているし覚醒もしている」

翔はむくっと起き上がって、激しく泣き出した。

「翔!」

やっと翔くんパパが駆けつけてくる。

「しょう~~よかった!無事で……入江さんが助けてくれたんですね!……ありがとうございます。なんとお礼をいったらいいか」

「いいえ。無事でよかった……でも、なんでこんなとこに子供だけできたの?」

琴子の問いに「翔くんが鳥さんの赤ちゃんがいるからおいでって」と琴美が答える。
どうやら翔くんパパの推察通り、翔くんは気を利かしたつもりだったかもしれない。

「そしたらほんとに可愛いヒナがいたんだよ」

確かに岸辺近くの藻や枯草で作った巣の中にヒナが三羽いた。

「それでね、翔くん、風で飛ばされたあたしの帽子を取ろうとしてくれたのー」

橋の上から身を乗り出して、枝で一生懸命引き寄せようとして、池に落ちてしまったのだという。

「……そうだったの。ありがとね」

琴子はにっこりと翔くん頭を撫でる。

「ほんとに、入江さん、ありがとうございました! ぜひこのあとお礼にどこかで食事でも……」

がしっと琴子の手を取る翔くんパパの手を軽くはね除け、直樹は真面目な顔をして告げる。

「とりあえず異常はないと思いますが、念のためすぐに病院を受診することお勧めします。池の水は決して綺麗じゃありませんからね。大人にはなんともなくても免疫力の弱い子供には危険な菌を飲んでしまったり、肺に入ってしまっている可能性もある。十分気をつけてあげてください」

「え? あなたは?」

不審気にじろじろと直樹を見つめる翔くんパパに「みーちゃんのパパだよーお医者さんなの」と琴美が説明する。

「娘がお世話になっています。琴美の父の入江です。今日は幼稚園の先生方に説明して、いったん帰宅された方がいい。服もびしょ濡れだし。うちも妻がこの状態なので連れて帰ります」

「えー? 帰っちゃうの? 昔みたいに少し乾かしたら大丈夫だよ!」

せっかく入江くんもきたのに!
お弁当食べてないし!
ボートにも乗ってないし!

「その緑の服のまま?」

「え?」

直樹に訊ねられて自分を見回すと、藻が絡み付いて全身緑まるけである。乾かしたからといって着られる感じではない。髪も生臭い池の匂いが染み付いていた。

「うーん、昔は乾かしたらすぐに着れたのに」

「あのときは運よく藻の少ないとこに落ちたからだろ」

「そうなのかー……」

そのあと、幼稚園の引率の先生やら、公園の管理者やらが子供が落ちたことを聞き付けて、今ごろになってわしゃわしゃと人が集まってきた。
誰かが救急車も呼んだのか、サイレンの音も近づいてくる。

「ちょうどいい。そのまま念のため診てもらってください」

「え、あ、そんな、大げさな」

「子供は大袈裟くらいがちょうどいいですよ」

「入江くんは小児外科のお医者さんなので……」

「お医者さん……なんですか……こんなイケメンで……」

なんだか茫然としていた翔くんパパが、ちらりと琴子を見つめてがっくりとしたように肩を落とす。

「そういえばこの間も川遊びの子供がレジオネラ菌に感染して、高熱で搬送されてきたものね」

「まあ滅多にないけど、レプストピラ菌とか劇症型A群溶血性連鎖球菌とか……怖い病気もある。1日はきちんと様子を見ていた方がいい」

「わ、わかりました。色々ありがとうございました」

深々と頭を下げたあと、翔くんパパは翔くんを担架に乗せて運ぶ救急隊員の人とともに公園を後にした。

心配する必要は殆どないと思っていたが、さっさと追い払いたかっただけの直樹である。

「……で、やっぱりあたしたちも帰るの…?」

残念そうな琴子と琴美の顔を見てひとつため息をつくと、「おふくろに連絡すれば、着替えなんか20分で持ってきてくるるだろう」と携帯を取り出した。




その後。
フットワークの軽い姑は、ソッコー琴子の着替えを持ってきてくれた。幼稚園の遠足なので近場で助かった。
軽く水洗い場で手やら髪やらを洗い、トイレの中で持ってきてもらった衣服に着替えた。
結局、そのあと四人で弁当を食べ、紀子はカメラマンとしてしばし付き添ってくれた。
念願のスワンボートに3人で乗る姿もばっちり連写である。
琴美の楽しそうな様子に、二人も自然と顔が綻ぶ。
そして「みーちゃん見てるから二人で手漕ぎボートに乗ってくれば?」という母の勧めに従って今度は夫婦だけでローボートに乗ることにした。

「大丈夫! もう一着、着替えを持ってきてるから! お兄ちゃんの分も!」
用意万端な母である。





「三度目だね。このボート乗るの。でも、ほんとジンクスってあてになんないよね」

ボートを漕ぐ直樹をうっとりと見つめながら琴子が呟く。

「まだわかんないぞ。この先長いからな」

「もー。またそーゆーこと云うんだから!」

二人でボートに乗ると別れる、二人でそこに訪れると別れる……そんなスポットは全国何処にもあるだろう。一生添い遂げる夫婦以外は別れることになるのだから、確率的に多くなるのは当たり前だ。
くだらない都市伝説だ、と内心直樹は思っている。

「あの二人、また来たよって弁財天も呆れてるかも」

どうせならと池の中央にある井の頭弁財天をお詣りしてきた。

「なんといっても最強の弁天様、二人でお詣りすると確実に別れるそうだ」

「えーうそっ!!」

またボートから立ち上がりそうになる琴子の両手をがっちり掴み、
「ボートと同じ程度の都市伝説だよ」と呆れ返る。

「それに、伝説をものともしないカップルが結構増えたな」

確かに、かつてはあまり見かけなかった手漕ぎボートのカップルが意外と多いことに気がついた。
家族連れのスワンボートもサイクルボートもかなりの数が行き交っているが、その隙間を縫うように男女のカップルがローボートを漕いでいる。

「え? あそこ 男同士? 」

「何、へんな妄想してんだよ……」

「え……別にっ」

最近モトちゃんからBLとかいうジャンルの漫画を押し付けられて読んだせいだ。

「でも、平日なのに意外と多いね~」

「桜の季節ほどじゃねぇが……」

「うん、桜の頃、綺麗だったよねー」

うっとりと瞳を閉じてあの頃に想いを馳せる。

「営業時間外の夜桜だったけどな」

平然とルール違反をした直樹の意外な一面を知った日でもあった。
ボートの上での熱いKISSもふいに思い出される。周囲に誰もいない営業時間外だから出来たことだった。

「そういえば……あの怪しげな旅館って……まだあるのかなぁ……?」

「ああーーあれね……」

直樹が苦笑まじりに思い出す。
合格祝いデートの後日談だ。
こっそりとボートに乗って、桜降る池の上でキスを交わし、幸せの余韻に浸っていたあとーー実は事件が起きたのだ。
少し腰砕けになってボートから降りようとした時に、琴子が体勢を崩しーー鞄を落としてしまい、そしてそれを取ろうとして再び池に落ちるというーーちょっとした事件がーー。

ーーまたかよ!
ここで、またかよ!
いいムードの中のその顛末に、さすが琴子だな、と思わずにはいられなかった。
無論、琴子をひっぱり上げた直樹も少し濡れてしまった。

今回また琴子が池から顔を出しているのを見たとき、(一瞬血の気か引いたが)直樹は都市伝説と一蹴しつつも、弁財天の呪いを思わず信じかけてしまったものだ。
3度も井の頭公園の池を泳ぐやつはそうそういないだろう。
そして、あの日はまだ春先でしかも日の落ちた夜だった。濡れ鼠で電車に乗るわけにも行かず、とりあえず服をどこかで乾かそうと、公園の北西側出口を出てすぐにある、昭和レトロというには妙に怪しげな旅館に飛び込んだのだ。
雅な名前だったが、そこに昭和初期からあるといううらぶれた外観に、一瞬中躊躇したものの、とにかくこのままだと風邪をひくと思い、結局そこに泊まることにしたのだった。
旅荘とあったが、いわゆる昔ながらの『連れ込み宿』というものだ。

そして、中も随分ホラー映画の撮影にでも使われそうなーーレトロな内装にレトロな調度ーーといった今どきのラブホではお目にかかったことのない不思議なムードの中で熱い一夜を過ごしたわけだった。

「扇形のお風呂って珍しかったよね」

琴子はそれが一番インパクトがあったようだ。

「ノックがあっても決して開けるな」という初老の女性従業員の言葉の方が余程か無気味でインパクトあったが。
とりあえず怪奇現象もノックもなく一晩が過ぎた。琴子の設定した、『昭和初期ーー出征直前、良家の商家の嫡男と他家に嫁がされた奉公人の娘の密会』の気分でめくるめく熱い夜を過ごしたのも懐かしい思い出だ。

「ふふ、色々懐かしいよね……」

「今日のこの日を懐かしむ日もあるだろうな」
(3度目の池ポチャ記念日として……)

「うん」
(家族3人でこの思い出のボートに乗った日として……)

「ねぇねぇ入江くん、『思い出ベンチ』見た? あたしたちも結婚25年くらいしたら思い出ベンチに寄付しようか。『何度池に落ちても、永遠に愛してる。25年ありがとう』ってプレートに刻んでこの公園に置いてもらうの~~」

東京都が昨年から募集している思いでベンチ事業で、様々な人々の想いが刻まれたベンチがこの公園のあちこちに置いてあった。なかなかじーんとくる言葉もあり、琴子は感動しまくりである。

「みんな何度池に落ちたんだよ、って心の中にで突っ込むだろうな……」



「ママ~~パパ~」

橋の上から琴美がカメラを抱えて手を振っている。

琴子も大きく手を振り返した。

「………なんか、ギャラリー多くね?」

カメラを抱えているのはどうも幼稚園のママたちに見える。知った顔がいくつか並んでいた。
ランチ会に一度行った時に、「どうやってご主人と知り合ったの?」とか根掘り葉堀り聞いてきたグループの奥様方のような気がする。
羨ましそうな顔をしつつ直樹をこっそり撮っている?と琴子は軽く顔をしかめる。

「レアな希少動物がいるのかしらね……」

「カイツブリくらいしか見えねぇな」

「あ、あの可愛い鳥?」


のどかな梅雨の晴れ間の1日。折り畳み傘の携帯を推奨した気象予報士の予測は見事に外れ、爽やかな晴天は1日中保たれた。
幸せな家族を祝福するかのようにーー。






ちなみに。
その後、翔くんパパは、今度は10こも年下の幼稚園の担任の先生(遠足のあと病院まで来てあれこれ心配して気をつかってくれたのを誤解したらしいーー担任なら当たり前のことなのだが)をロックオンし、暫く追いかけていたようであった。(でも彼女に婚約者がいてすぐに撃沈)


そして、他人の子供を助けるために躊躇なく池に飛び込める琴子は、しばらく称賛の嵐を浴び、「そんなあなただからこそご主人は選ばれたのね」という最上級の誉め言葉に気を良くしたのは云うまでもない。






※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



なんだか後半、幼稚園の遠足感の全くない井の頭公園探訪記になってしまいました……💦


そして、おまけの拍手は二度目の池ポチャ事件のあとの某連れ込み宿でのエロです。(全部書き終えていたのに、拍手のために一週間かかってしまった……)えろといっても控えめですf(^_^;多分……

18歳以上の方で読んでやろうかという寛大な読者さま、よろしければ拍手をポチっとお願いします。






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* Category : とある1日のお話(西暦シリーズ)
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Re.無記名様 * by ののの
拍手コメント&ねぎらいのお言葉、ありがとうございました♪
楽しんでもらえたようでよかったです。これからもよろしくです(^^)

Re.無記名様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました♪

面白いと言っていただいて嬉しいです。はーい、頑張って可愛い琴子ちゃんのお話を紡いでいきますね(^^)



* by ののの
コメントありがとうございました♪

そう、おそらく皆さんの予想通り落ちたのは翔くんでした。
そして、琴子が池に突入もお約束なのですf(^_^;
なんといっても実際に井の頭公園の池を見て、藻だらけでこれ絶対乾かしただけじゃ緑べったりで着れないよね〜〜と語り合ったのが懐かしい思い出。どうやって池からあがったのかとか何処からあがったのかとか……変な視点で池を眺める集団でしたねぇ^_^;
ええ、直樹さんはかっこよく登場、ウザイ翔くんパパは救急車で情けなく退場してもらいました(^w^)

はい、合格デートにそんなオマケをつけてみました。さすがにみーちゃんいるのにあの旅館に連れてけないので笑笑(あの旅館に連れ込むために二度目の池ポチャ捏造しました〜)

そういえば、「みーちゃんは連れて帰るから二人でゆっくりしてきたら?」という紀子さんの言葉をいれようと思ってたのに忘れてました。マロンさんのコメントでおもいだしたわーf(^_^;

Re.マロン様 * by ののの
オマケにも拍手コメントありがとうございました♪

ふふ、何故選んだって? 一番近い旅館だからです!そして私が連れ込み宿えろが書きたかったからです!笑
すでにソッコーで書いてらっしゃったmさまには先に送りつけて許可をいただきました^_^;
Rさまの妄想シリーズにフィーチャリングして、戦後ぼっちゃま妄想主体に書こうと思ったけど挫折して……あとから取って付けたような妄想に……

まあ何処にいたってめくるめく熱い夜を過ごせる二人なのです(^-^)v




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