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らぶららら(終)

※※※※※※※※※※※




沙穂子さんたちと別れたあと、地下鉄の駅まで二人で並んで歩いていく。平日の昼間だけど車の通行量も、行き交う人の波もそれなりに多い。さすが大都会の狭間だ。
早く一緒に家に帰って、二人でゆっくり話したいなーと思ってたのに入江くんはまた大学に戻らなきゃ行けないんだって。
うん、仕方ないよね……遅れた時間を取り戻すのは流石の入江くんでも大変なんだよね。それなのに、あたしの為に今日は朝一番でわざわざ病院にーー(しかも産婦人科に!)来てくれたのだと思うと、申し訳ない気持ちと飛び上がりたいくらいの嬉しい気持ちが混在して、胸の動悸が激しくなっちゃう。
黙々といつも通りに足早に歩く入江くんと並んで歩くのはかなり大変だ。あたしは必死に早歩きをしてその隣をキープする。

どんよりとした灰色の空から、いつの間にかちらちらとと粉雪が舞い落ちる。

「うわー寒いと思ったら雪だ……」

つい立ち止まって空からの冷たいひとひらを掌で受け止める。
けれど、入江くんがすたすたと行ってしまうので慌てて追いかけた。
すると、珍しく入江くんが立ち止まってあたしのことを待ってくれる。
思わず嬉しくなって、追い付いた途端にその腕に巻き付いた。
振り払われるかと思ったけれど、特に表情を変えることもなくあたしを一瞥し、そのまま歩き出す。
あ、いいのね? このまま腕に巻き付いててもーーその沈黙を了解と受け止めて、再び歩き出す。なんだかこのままいくつも駅を素通りしてしばらく歩いてもいいかも、なんてちょっと思ったりして。

「予報じゃ積もらないらしいな」

入江くんが空を見上げてぽつりと呟く。
そっか。ちょっと残念。子供の頃のように手放しでわくわくするわけじゃないけれど。

「前みたいにたくさん積もって身動きとれなくなってもね……」

ホント、大都会は雪に弱いものね。
前の大雪もバレンタインの頃だっけ。
懐かしいな……雪で帰れなくなって、入江くんの部屋に泊まったんだよね……
あの夜はなーにもなくて、落ち込んだりしたけれど、まさかその2年後に結婚して夫婦になってるなんて思いもしなかった………

「全部ちゃんと思い出したのか?」

「うん。何から何まで……ぜーんぶ思い出せたよ」

あの雨の夜のプロポーズからたった2週間で結婚式を挙げて……そしてハワイのハネムーン……初めて結ばれた夜も……全部思い出せたよ。入籍するまで色々あったけど、年が明けてようやくあたしたち、名実ともに本当の夫婦になれたよね。
ささやかな日常の何気ないワンシーンが、アルバムを捲るように、今は鮮やかに思い出すことができた。
ーーよかった。記憶を取り戻せて。
悲しかったこともあったけれど、どれも大切な二人の思い出だから。



「入江くん、ごめんね。色々心配かけて……」

「だよな。おまえがすぐ事態を説明してくれたら、こんな誤解、すぐに解けたのにな」

「う……たしかにそうだけど……」

でもあまりの衝撃に入江くんに話せなかったんだもの。
沙穂子さんが入江くんの子供を妊娠してるーーそれを入江くんが知ったら……すぐに教えてあげなければいけないことなのに、あたしは自分からとうとう言い出せなかった。うん、話してりゃすぐに間違いだってわかったのにね。

「……おまえが離婚を切り出したのが、子供が出来ないとか、何か病気を抱えているとかそういう結論に辿り着いた時ーー」

入江くんが淡々と話し出す。

「おれも怖かったーーすごく」

「入江くん?」

「子供が出来ないくらいならまだいい。これから医療も発達するし、何か手はあるに違いないと。養子をもらうとか子供のいない生涯でもかまわない。ーーけれど、もし子宮癌とか卵巣癌とかだったら……この年齢だと進行も早い。おまえが離婚を切り出したんだ、余程の事態なんだろうとーー最悪のことばかり考えて怖くてたまらなかった」

「……入江くん……」

「少なくともこの一晩で、婦人科医療の論文をかき集め読みあさり、婦人科医師になる決意が固まりつつあったかな…」

「入江くん……! ご、ごめんね! そんなに心配してくれてたなんて……」

そして、あたしは病院でもらってきたブライダルチェックの検査結果を鞄から取り出してみせる。

「ほら、この通り何の問題もないから。排卵もきちんとしてるし、 赤ちゃんバンバン産めるって! 子宮も卵巣も健康だよ!」

入江くんはさっと検査結果に目を通すと「ホントだな……よかった」と少し笑った。

「ただバンバン赤ん坊を産むのはもう少し先だな。おれたちはまだ学生の身だし」

「う、うん。それはわかってるよ! 」

「きちんとこうした話をせずに来てしまったけど、帰ってから一度ちゃんと話し合おう」

「………はい」

ほどなくして地下鉄の入口にたどり着いた。銀座から日比谷ってほんと、近いんだよね。もっと二人で歩きたかったし、たくさん話もしたかったな。
大学に戻る入江くんは都営三田線で世田谷に帰るあたしは千代田線だ。それぞれ違う方向に向かうだけなのに、しばしの別れが少し寂しく感じてしまう。
でも、また夜に会えるものね。
だってあたしたちは帰る場所が同じなんだもの。

あたしは改札口で入江くんを見送ろうとしたら、「おれが見送る。おまえ構内で迷子になりそうだ」と逆に見送られてしまった。
もう! 一応これでも生まれた時から都民なんですけどね!
そりゃ、未だに鉄道路線図把握しきれてないし、幾つも路線が混在する駅構内はしょっちゅう迷子になるけどね……

「おふくろに電話しておいたから。駅まで迎えにきてくれる。それと、親父さんにも。今日はおまえ、店には戻らないって。記憶も戻ったって伝えておいたから」

もう、いつの間に! 手回しの早さに感心しちゃう。
それに色々有りすぎて、あたしはもうすっかりお父さんのぎっくり腰のこと忘れてたよ。そっか、しばらくお父さんと店に泊まるつもりだったっけ。

「ありがとう……」

「おまえの記憶が戻ったって言ったらお袋、今夜はパーティ!って張り切ってた」

「お義母さんにも心配かけちゃったな」

「おれにも早く帰ってこいって云われたし」

「帰れる?」

「まあ努力するよ。ほら、そろそろ行けよ」

「……うん。じゃあね」

違う場所に向かっても、帰る場所は同じ。そりゃただの同居人の時もそうだったわけだけどーー今は帰る部屋も一緒だものね。その1日の終わりに共に過ごす処へーー
あたしたちはーー夫婦なんだものね……。

夫婦になれてよかったという幸せを改めて感じることができて、寒い大気の中でも心はほんわかと温かかった。






* * *





「はぁー食べ過ぎちゃった……」

その夜、予告通りお義母さんがご馳走を準備してくれて、ささやかな快気祝いをしてくれた。
入江くんもちゃんと早目に帰って来てくれたし、お義父さんもお義母さんに早く帰るよう厳命されたみたい。久しぶりにみんなに笑顔が戻る。
お父さんも腰の痛みが落ち着いて、大分動けるようになったから今夜から入江家に戻ると連絡があった。

「よかったな。琴子」
お父さんは特に何も訊かなくて、ただそう言ってくれた。

いろんなことが丸く収まって、安心したのか、あたしの食欲もばっちりと戻った。
食べ物が美味しく感じられるって本当に幸せ。お義母さんの料理の何もかもが美味しくて久しぶりにお腹いっぱいになるまで食べちゃった。
おまえ、食い過ぎ、って裕樹くんに呆れられちゃったけどね。
ことの顛末はみんなにもあまり詳しく話さなかったけれどーー沙穂子さんのことを話すのも躊躇われたし、結局ただの勘違い劇場だったわけだものねーーあたしの晴れやかな顔をみて、何もかもすっきり解決したのだとみんな悟ってくれたよう。

そして、食事の終わりに、入江くんがみんなの前であたしたちの家族計画について話してくれたのはびっくりしたなぁ。
そりゃ、たしかに一番のネックはお義母さんだもんね。すぐにでも赤ちゃん産んでいいのに! って不満そうだったけど、学生生活を中断して一番困るのは琴子だからと熱弁してくれて、お義母さんも渋々納得してくれた。
もっとも、こうしたことは計画通りにいかないこともあるし、万が一の時には協力をお願いしますとお義母さんに頭を下げて。入江くんに限って万が一なんて有り得ない気もするけど、きちんと頭を下げる入江くん、ちょっと格好よかったよ。(少し不満そうなお義母さんも、そうね、授かり物なんだから何がどうなるかわからないわよね、万が一でも十でも百でもどんとこいよー!とにやりと笑ってたな……)

そのあと、お風呂にはいって二人の寝室に戻ったのはまだそんなに遅い時間ではなかったけど、ここ数日の睡眠不足と満腹感からすでに生欠伸を何度もして激しい眠気が訪れている。

いやいや、でも寝てる場合じゃないんだよねー。
そうよ。記憶が戻って、とにかくヤバっと思ったのは、もうバレンタインがあと5日後だということ!
なのに、なのに、セーターは全くできていない!
こればっかりは凛々子さん恨むなー。あたしの時間を返して~~~
こりゃ、もう毎晩徹夜しないと無理だ……


「琴子……」

お風呂上がりの入江くんがタオルを首にかけたまま部屋に入ってきて、あたしは慌てて編みかけセーターの入っていた篭を隠す。

「そんなもん、今更隠してもバレバレだよ」

「へへへ」

あたしは頭をかく。やっぱバレてたか。

「そんなことより、琴子。これ、破いてもいいんだよな?」

入江くんが引き出しから出したのは、あたしが書いた離婚届けだった。

「あー、もちろん! そんなの早く破いちゃって!」

「いや……それともこの先必要になるかもしれないからとっておくか?」

ニヤリ、と意地悪く入江くんがその薄っぺらな紙をひらひらさせる。

「えー! いや!取っておかないで~~破いて~~燃やして~~この世から抹消しちゃってくださいっ」

あたしは懇願しながら思わずそれを奪いとろうとする。入江くんがそれを持って手を高いところにあげたりして、あたしに奪われまいとする。もう、イジワルして遊んでるでしょー!!

そして、ひとしきりあたしをからかったあと、机の上の入江くんの灰皿に(部屋では吸わないけど、ベランダ用に置いてあるの)その紙を置いて、ボっとライターで火を点けた。
薄っぺらな離婚届けは一瞬のうちにふわりと燃え上がり、あっという間に黒い燃えカスだけがガラスの皿の上に残った。


「よかった……」

少し涙目でそう呟くあたしを入江くんがそっと抱き寄せてくれた。

「もう、一人で抱え込むなよ。おれたち夫婦だろうが」

「うん。これから、何でも話すね。入江くんもだよ?」

「さあ。おれはどうかな? おれはおまえと違って口下手なんでね」

またそんなイタズラっこな目をするー!

「誰が口下手よー! もう入江くんってば……」

そう抗議しようとした唇が、ふいに塞がれる。
ちゃんと記憶を取り戻してから初めてのキス。
あたしたち、この3ヶ月の間に、本当にたくさんキスをしたよね。
数えきれないくらいのたくさんのキス。
そして、これからももっともっとたくさんのキスをするんだよね……?

そのまま入江くんに抱えあげられ、ベッドにそっと下ろされる。
額、瞼、鼻ーー順番に入江くんの冷たい唇が落とされて胸がきゅんっと熱くなる。
融け合うようなキスを繰り返す。
何度も、何度もーー

ーーああ、セーター……どうしよう。ちらりと思ったのはほんの一瞬だけ。
あっという間に激しい波にさらわれて、息すらできないくらい翻弄される。触れる入江くんの唇や指先がもたらす快楽の海にどんどん飲み込まれて溺れていく。

「入江くん……大好き……」

「知ってるよ」

キスされた数だけその言葉を耳元で囁く。

入江くんーーほんとにほんとにーー大好きだよ……






そして、結局。バレンタインが来るまで毎晩お仕置きと称して可愛がられたあたしは、予想通りセーターを完成させることは叶わなかったわけで。

でも、まーーいっか。
記憶を失う前に頑張って特訓していたそれなりに美味しいガトーショコラは無事に進呈することができたしーーとはいっても、当日に一番美味しくいただかれたのは、やっぱりあたしなんだけどね。








※※※※※※※※※※※※※※


終わりましたf(^_^;
結局、元ネタとは全く違うお話でしたが。

もう少し早くアップするつもりだったのにいつもと変わらずf(^_^;
ラストのいちゃこらシーンだけを残して一週間放置しておりました……


ラブラブな二人はバレンタインまで5夜連戦だったようで(^w^)
お仕置きの詳細は、鍵付きで……書くかも?


それと、コメントの返信がすっかり滞って申し訳ないです。お盆休みにのんびりと返しますのでしばしお待ちを~~m(__)m




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Comment

ずっと続きを楽しみにしていました。
全11話お疲れ様でした。
そんでいてとても楽しかったです
こんなお話かけるなんてすごいなと思いました、
次は2人のイチャイチャ楽しみにしています。

2018/08/06 | みか[URL] | Edit

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2018/08/06 | [] | Edit

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2018/08/06 | [] | Edit

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2018/08/06 | [] | Edit

めでたしめでたしv-10

2018/08/06 | なおちゃん[URL] | Edit

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2018/08/07 | [] | Edit

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2018/08/07 | [] | Edit

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2018/08/14 | [] | Edit

Re.みか様

コメントありがとうございました♪

最後までお付き合いありがとうございました!楽しんでいただけたようでよかったです。

ふふ、イチャイチャ……頑張りまーす笑


2018/08/15 | ののの[URL] | Edit

Re.マロン様

コメントありがとうございました♪

ほんと、全ては凛々子さんの嘘から始まったというドタバタ劇場でした。
ええ、もっとお互い何でも話せる環境ならここまで琴子が悩むことはなかったかも。
でも直樹さんは新婚早々琴子の必要性再認識ですね!
とりあえず最終回に離婚届けを灰にするシーンは入れたかった!
ええ、バレンタインまで(いや、それ以降も)お仕置きと称するイチャコラはとまらなーい(笑)に違いないのです!

2018/08/15 | ののの[URL] | Edit

Re.ちゃみ様

コメントありがとうございました♪

最後までお付き合いありがとうございました♪
ほんと、今年の夏は暑いですね〜〜ちゃみさんもどうぞご自愛くださいませ。
はい、なるべくコンスタントに話をお届けできるよう日々妄想します(^-^)

2018/08/15 | ののの[URL] | Edit

Re.なおちゃん様

コメントありがとうございました♪

はい、無事に終わりました。最後までお付き合いくださってありがとうございました♪

2018/08/15 | ののの[URL] | Edit

Re.るなたま様

コメントありがとうございました♪

そうですよね、あんなに辛い日々を味あわされたのに許せてしまうのが琴子ちゃんなんですよね。
でもお陰で沙穂子さんも入江くんへの未練は微塵もなくなったことでしょう(^w^)

はい、ほんとに暑い夏ですね〜るなたまさんもお気をつけくださいね。
ふふ、次の話、これ書いてる最中はまだ色々迷ってますが、また近い内になにか更新しますね!

2018/08/15 | ののの[URL] | Edit

Re.ちょこましゅまろ様

コメントありがとうございます♪
お久しぶりですね〜楽しんでいただけたようで嬉しいです。
ふふ、一体琴子ちゃんの身に何があったのか、謎解きなところもあったお話なので、その過程を楽しんでいただけてよかったです。
ひやひやさせちゃいましたね。でも、入江くんは琴子にしか◯たない男ですから……f(^_^;
最後までお付き合いありがとうございました♪

2018/08/15 | ののの[URL] | Edit

Re.ゆき様

コメントありがとうございました♪

おお、三日間でそんなに読んでいただけたのですね。気に入ってくださって嬉しいです!
最終回ってちょっと寂しいですね。でもうちはハッピーエンドばかりなので!
また次のお話をお待ちくださいませ。
はは、キミゴゴですねーー何故かリクエストが多いのです。いつかは続き書かねばなのですがf(^_^;
かをるこさんもお気に入りキャラなので、好きといってもらえて嬉しいです(^-^)v
色々、終わらせられるよう頑張りまーす♪

2018/08/15 | ののの[URL] | Edit

Re.shroko様

コメントありがとうございます♪

うちのお話からドラマ観られたのですね〜記憶喪失以外、全然被ってませんがf(^_^; ちなみに私は原作の方が好きです。これを二巻で終わらせたのかとちょっと感動。
はい、琴子の記憶喪失の理由を思い付いたとき、この話を書こうと踏み切りました。
そうですねー琴子の結婚生活は波瀾万丈。きっとドタバタとラブラブがエンドレスに繰り返されることでしょう(^w^)

2018/08/15 | ののの[URL] | Edit

        

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