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らぶららら (8)


本日二話更新しています。
未読の方は(7)を先にお読みください。

※※※※※※※※※※※※※※※※※




突然見知らぬ女性にひっぱたかれたあたしは、事態が全く把握できずに、思わず叩かれた頬を押さえて呆然としてしまった。

と、通り魔?
それとも、入江くんのストーカー?
唐突に降って湧いた災いに頭が真っ白になる。

「い、いったい、なんなのよっ! あ、あ、あなた誰っ」

あたしのことをあからさまに睨み付けるこの女にあたしも負けじと食い付く。

「は? 私のこと、もう忘れたの? さすが蚤の脳ミソね。そうやって人の心を踏みにじって傷つけても綺麗さっぱり忘れてお気楽に生きていくのね。いいわよね」

明らかな敵意。あたしを傷つける為に選ばれた言葉に心臓がぎゅっと押し潰されそうな感覚に襲われる。
どうして見も知らぬ人からそんな酷いこと言われるの?
あたしーーこの人に何かしたの? 傷つけるようなひどいことをーー記憶を失う前に。
なんだかとても怖くなってきた。背筋がぞわっとする。

「あ、あたしがあなたを傷つけたっていうんですか? あたしが何をしたの? あたし、三カ月間の記憶がないんです。もし、何かしたのなら、教えてください!」

「はあ? 記憶喪失……? 何見え透いた言い訳を…」

その人は綺麗な眉を潜めてあたしを睨みつける。

「言い訳じゃ……本当なんです! ちょっと頭ぶつけて……」

確かに記憶ソーシツって……ウソ臭いけどね。でも、本当なんだから仕方ない。

「じゃあ結婚したことも忘れたってわけ?」

「えーと、そうです……」

「え? マジで!?」

あたしの悲哀と困惑の入り交じったな雰囲気に、真実だと受け入れてもらえたのか、呆気にとられたような表情でまじまじと見つめられる。

「ふーん……」

何か考えあぐねるようにあたしをじろじろとねめつけている。

「忘却って都合がいいわよね。あの娘は忘れることもできずにショックで部屋に閉じこもってるっていうのに」

「えーー?」

あの娘?
あのこって……誰ーー?
一瞬にして浮かび上がったあるひとの上品で整った綺麗な顔。

「誰……のことですか?」

あたしの問いかけに、
「教えてあげない」と素っ気なく言う。

「自分で、きちんと思い出して。そしてもっと苦しんでよ。自分の幸せが他人の不幸を踏み台にして成り立ってるって」

鍵はこの人だ、と一瞬で理解してしまった。
あたしが離婚届けを書いた理由を、きっとこの目の前にいる女性が知っているーー。
そして、それはーーー。

「お願い! 待って!」

言うだけ言ってさっさと踵を返して立ち去ろうとする女性を引き留める。

「もしかして……あの娘って……あの娘って」

あたしの幸せは人の不幸を踏み台にして成り立ってるーー

「沙穂子さん……? あなた、もしかして、沙穂子さんの知り合いなんですか……?」

彼女の目がすぅっと細くなる。

「思い出した?」

答えにはなっていないけれど、彼女の表情からそれが正解なのだとわかった。
「思い出してはないけれど……でも、一番傷つけたのは間違いないだろうから……」

入江くんから、きちんと謝罪して婚約破棄には納得してもらったとは聞いている。でもそんなに簡単に割りきれたんだろうかーーと実は少しーーううん、かなり気になっていた。
あたしがそうだったように。
入江くんが彼女と婚約して、忘れなきゃ、諦めなきゃ、と自分に言い聞かせ続け、金ちゃんとの時間を楽しもうとしてもーー入江くんへの想いを簡単に忘れることなんてできなかった。

「そうよ。あなたは……入江直樹と二人して沙穂子の心を残酷なまでに傷つけた。ずたずたにね。
幸せの絶頂だったあの娘に婚約破棄を言い渡し、その上たった二週間で別の女と結婚って、何? 傷口に塩塗り込むような真似してくれて非常識にも程があるわ。本来なら婚約不履行で訴えてもいいような状況なのに、あの娘はあっさり身を引いてあげた。その好意を踏みにじるような馬鹿みたいに大袈裟で派手な披露宴をしたんですってね」

一気に捲し立てられて、返す言葉がない。
記憶にないこととはいえ、もし自分がその立場だったらどんなに辛いだろうと想像は簡単につく。

「あなたは沙穂子さんとは……」

「はとこよ。大泉のおじいさまは私の大伯父にあたるのよ。私は兄弟がいなかったから、沙穂子のこと妹のように可愛がってきたわ」

はとこ……。いまひとつ家系図かぴんとこないけど。おじいさん同士が兄弟ってことかな。確かにほんの少し、目元とか似ているかもしれない。性格は随分と沙穂子さんとは違ってキツそうではっきりした感じだけど。

「あの娘が婚約した時、私は海外赴任の主人についていってて傍にいなかったから、詳しい状況は帰国した今年になって初めて知ったの。聞いて腹がたって仕方なかった。あの娘は優しいからあっさり身を引いたけれど、私なら絶対訴訟おこすわね。こんな人をバカにしてる話、ある?」

「……沙穂子さんには、本当に申し訳ないって思ってます。そして感謝してます」

沙穂子さんがあっさりと破談を了承してくれたからーーそしてそのうえパンダイの融資まで継続してくれたからーー
おそらくあたしたちは結婚できたのだ。

記憶にはないことだけど、あたしと入江くんが結婚していたと聞かされた時、ずっと沙穂子さんのことは心の片隅にひっかかっていたような気がする。

「沙穂子さん……引きこもってるって……」

「ええ。あなたとここで先週ばったり会ったでしょ。それからよ。それまでは前向きに色々この先のこと考えていたみたいなのに……」

えーー?
ここで?

ここで………


ーー琴子さん……どうして……ここに?
あ………もしかして! お、おめでとうございます! じゃ、あたし…これで……

ーーあ、待って! 沙穂子さん! 違うの!


「そうだ……あたし、ここで沙穂子さんに会った……」

この病院の…レディスクリニックの、このロビーで……
ブライダルチェックの検査結果をききに行った帰りにーー。

「今度こそ思い出した?」

「どうしよう! 沙穂子さん、あたしに赤ちゃんが出来たって誤解してーーもしかして、それでショックを受けて引きこもってるの?」

あたしの姿を見て茫然と立ちすくみ、みるみる青ざめる沙穂子さんの顔がフラッシュバックのように脳裏に浮かんだ。

「誤解……? じゃああなた、妊娠してなかったの?」

「はい。ただブライダルチェックの結果を聞きにきただけでーー」

ーー待って、沙穂子さん!

追いかけようとしたあたし。そして沙穂子さんが持ってたトートバックを落として、中のものが散らばって……

リノリウムの真っ白い床に散らばったものを拾うのを手伝いながら、「沙穂子さん、誤解よ。あたし、赤ちゃんは……」と言いかけて……そして偶然見てしまったモノ。

今度はあたしが言葉を無くしフリーズしてしてしまっている間に沙穂子さんはそれを奪い取りばたばたと走り去っていた。

そうだ。
彼女のバックから出てきたものーー母子手帳と、一枚のモノクロのエコー写真。赤ちゃんらしき小さな影。
母子手帳には『大泉沙…』という名前が一瞬だけちらりと見えた。

ーー思い出した……!!

「沙穂子さん……母子手帳持ってた……」

思い出すと同時に、膝ががくがくと震えてくる。
全身の血の気が引いてくる。
あの日と同じようにーー。

「そう。やっと思い出したんだ」

そうだ。そしてその後に、このひとに会ったのだーー。





* * *



ーーあの日。


「沙穂子ーー?やだ、どこ行っちゃったの?」

化粧室から出て来て沙穂子さんを探してロビーをキョロキョロしていた女性の前にあたしはばっと立ちはだかり、思わず訊ねたのだ。

「あなた、沙穂子さんの知り合いですか?! 沙穂子さん……妊娠してるの? 入江くんの赤ちゃんをーー!」

そう。沙穂子さんが妊娠してるのなら、父親はきっと入江くんだ。
きっと破談になった時にはすでに妊娠してたのに、気がつかなくて……
ああ、なんてこと!
なんてことなの!
沙穂子さん、一人で産むつもりなの?
あたし、どうしたらいいの?
ただでさえ、不安の中、あたしも妊娠してると誤解してーー
どうしよう! どうしようーー!

「あなた、もしかして入江直樹の奥さん?」

突然あたしに詰め寄られ質問された彼女は逆に怖い顔をして詰問してきたのだった。

「そうです……」

「ふうん」

そうだ。あのときも、この女性はあたしをじろじろと不躾に見つめていた。あからさまな敵意をもって。
そして冷然とあたしの一番聞きたくない言葉を突きつけたーー。

「そうよ。沙穂子、妊娠してるのよ。入江直樹の子供よ」

あたしの足元は突然ガラガラと崩れおち、奈落の底に落ちていくような感覚に襲われた。
世界が闇に覆われていくような感覚。
そして、再び、思い出した途端にあの日と同じ感覚に苛まされていくーー。


「………だから、早く別れてちょうだい。沙穂子をシングルマザーにしないでよ。あの娘にたった一人で子供を育てることなんて無理だわ。でも、産むって言い張ってるの。愛した人の子供だから産みたいって」

その後のことは思い出せない。どうやってそこから帰ったのか。
ただずっと思ってたーー。
ごめんなさい、ごめんなさい、沙穂子さん!
心の中で謝り続けて。
やっぱり沙穂子さんが入江くんと結婚すべきだったんだ。
あたしが奪った。横取りした。
あたしが沙穂子さんから何もかも略奪したんだ。
赤ちゃんの父親を。幸せな家庭を。
そして、ずっとずっと悩んでーー
入江くんと別れるしかないって……あたしは決断して、離婚届けをもらいにいったのだ。







「ちょっと! 聞いてるの? あなたーー!」


ぼうっとしていたらしいあたしの肩をぐいっと掴み揺さぶられ、あたしは漸く顔を上げる。

「……聞いてます。そして、全部思い出しました……」

そうーー何もかも。
あたしは三ヶ月の出来事をすっかり思い出していた。

「それで? あなたはどうするのかしら?」

「別れます……入江くんと……」

それしか道はない。
沙穂子さんが妊娠しているのなら、入江くんは沙穂子さんのもとに戻るだろう。それが一番あるべき形なのだから。

「当然ね」

そうだ。
あたし、ずっと悩んで考えてーーううん、答えは1つしかなかったのに、あたしはなかなか踏ん切りがつかなかったのだ。
例えば沙穂子さんの子供をあたしが引き取って育てるとかそんな酷いことまで考えてしまった。母親から子供を取り上げるなんて極悪すぎる。側室の子供を奪い取る意地悪な正室みたいじゃない!
そんな風にのたうちまわって、あたしが出ていくしかないって覚悟してーー。
やっと離婚届けをもらってきて名前を書くのに3日近くにかかってしまった。

「別れるから……沙穂子さんに、元気な赤ちゃんを産んでくださいって……入江くんをよろしくって……」

声が震える。
涙が溢れてくる。
いろんな映像が溢れかえってきて、いっきに記憶が蘇ってくる。
三ヶ月の間にあった様々な出来事がゆっくりと浮かび上がり、頭の中で確かな色を成していく。たった三ヶ月の夢のような日々ーー悲しかったこともあったけれど、総じて一生分の幸せを感じた時間だった。そして、それと同時に記憶をなくす直前の、苦しくて辛くて心が引き裂かれそうな感覚が、その幸せな時間を真っ黒に塗り潰していく。

全部思い出した今ーーあたしの取るべき行動はひとつしかない。



「りりこちゃん! どうしたの?」

病院の自動扉が開いたとたんに、優しげな声が耳に届いた。

「沙穂子さん……!」

「琴子さん!?」

白いカシミアのコートに身を包んだ沙穂子さんが、瞳を大きく見開いて、あたしと、自分のハトコを見比べる。

そのうえーー。

「琴子!」

さらにはもう一人、息を切らして駆け込んできた来たのはーー

「入江くん!」
「直樹さん!」

えええーーーーっっ!!

ど、ど、ど、どうして入江くんが、ここに!?

な、なんなのっ? この状況ーー!
あたしたち四人はーーきらびやかでお洒落なレディスクリニックの玄関先で、しばし呆然とお互いの顔を見比べて立ち尽くしていた。





※※※※※※※※※※※※※※※※



セレブなクリニックが出てきた時点で大方の人が予想してたとは思うんですがf(^_^; はーい、正解です笑
まあ、ラストまで予定調和でまいりますよ!(次で終われる……かな?)



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2018/07/15 | [] | Edit

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2018/07/19 | [] | Edit

Re.マロン様

コメントありがとうございました♪ そして果てしなくリコメが遅くなりまして申し訳ないです。

ふふふ、記憶を失った理由を直樹なりに推理していく過程を書きたかったので、名探偵さながら、といっていただいて嬉しいです。そう、でもさすがに離婚の理由の真実まではたどり着けず……勘違いで悶々する直樹も……ふふ、ちょっとザマーミロな気分でございましょう(^w^)

琴子も勘違いといえ、沙穂子さん妊娠!って相当ショッキングですよね。思わず勘違いしたまま一人失踪してしまう琴子の話も書けそうだとちょっと思っちゃいました(書きませんが笑)

さていよいよすべての事実が明かされます。お仕置きは……! えーと……かけるかなー笑(えへっ)

2018/08/08 | ののの[URL] | Edit

Re.ルミ様

コメント2つありがとうございました♪
リコメがはちゃめちゃに遅くなりまして申し訳ないです。

そして、二人のことを色々心配していただいてありがとうございました。
ドラマとは全く関係なく話はすすみ、当然『らぶららら』というふざけたタイトル通り、ららら♪な感じで終われると思ってます(^-^)v だって、直樹が琴子以外に手を出すなんて……考えられませんものね。

他でコメントできなかったのですね。たまにそういうことあるかも。あとはちょっとNGワードにふれると(えっちな単語とか……)投稿できない場合がありますので、お気をつけを!


2018/08/08 | ののの[URL] | Edit

Re.るなたま様

コメントありがとうございました♪
リコメがものすごーく遅くなりまして大変申し訳ないです。

まあ、心配で読めなかったのですね。ここまで一気読み、ありがとうございました。はい、基本私はハッピーエンドしか書かないつもりですのでその点はご安心を!(でもドSなでそれまで相当琴子ちゃん苦しめてしまいますが……ごめんね)
多分琴子ちゃんは入江くん以上に破談になった沙穂子さんのこと気にしてると思うんですよね。
そして妊娠してると思ったら絶対身を引くだろうし。そんな琴子を愛しいと思ってくださってうれしいです。

はい、琴子の笑顔はすぐそこですよー(^^)d

2018/08/08 | ののの[URL] | Edit

Re.紀子ママ様

コメントありがとうございました♪
リコメが超遅くなって大変申し訳なかったです。
ふふ、うちのニューオリキャラ、りりこ様に大変憤っていただいてありがとうございます(^w^)モデルは傍若無人なあの毒舌バイオリニストをイメージしてました笑
一応お嬢様なのに、なんでこんなに手が早く狂暴なんだと思いつつ、きっと大泉の華麗なる一族の中でも相当変わり種なのでしょう。思ってることを口にすぐ出すので、かなり煙たがられてるに違いない(-_-)

さーて、紀子ママさんの予想通りに話は展開したのではないのでしょうか〜〜(^w^)

2018/08/13 | ののの[URL] | Edit

        

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