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声を聴かせて……(終)



すぐに更新できると思いきや、結局一週間かかりました。
ようやく最終話です!







※※※※※※※※※※※※※※※





11月27日 P.m.2:05


わーホントにもう着いちゃったよ……

琴子は神戸医大付属病院のエレベーターの中で、ぼんやりと階数を示す表示がひとつひとつ上がっていくのを見つめながら、初めてここを訪れた時の緊張と高揚を思い出していた。

ほんの数時間前には斗南付属病院の診察室にいたのに、今は直樹のいる神戸にいる。本当にひとっ飛びで着いてしまった。

な、なんか緊張するな~~


直樹の誕生日にサプライズでここを訪れて、結局会わずに帰ってしまったのは二週間前のことだ。なんだかあっという間のような、物凄く遠い昔のような……この二週間の間にあまりに色々なことが有りすぎて、時間の感覚がおかしくなっている。


……入江くん……明日は難しいオペで、今日はその準備でほぼ医局にいるって云ってたよね………医局に行けば会えるのかなぁ?


昨夜は『明日、いよいよ術後一週間! 先生からOKもらえたら話せるようになるよー。いつ電話したらいいかなぁ?』というファックスを送ったら、珍しくすぐ電話がかかってきた。
紀子から替わってもらい、直樹の声を久しぶりに聴いた。聴くだけで話せない、一方通行の電話であったが直樹が電話をしてくれただけで幸せな気分になる。
ただ淡々と明日の予定を教えてくれただけではあるけれど、わざわざそんな電話をくれるなんて極めて稀なことなので、それだけでも嬉しくて笑みがこぼれ落ちてしまう。

『ーー手術前日はしっかり休養とらないとマズいから、なるべく明日は早めに帰って、おれから電話するよ。もっともおれは単なる助手だから、なんだかんだ緊急事態が起きて駆り出される可能性は限りなく高いけどな。もし夜10時過ぎても電話なかったら、留守電に声をいれといてくれよな』

そんな直樹のリクエストに、(ああ、入江くん、ほんとにあたしの声を早く聴きたいのね~~待ってて、待ってて、待っててね~~!!)とひそかに最速で声を届けたいという野望が生まれたのであった。

そして、その野望を叶えるべく、今琴子は直樹に刻々と近づきつつあるーー。









「じゃあ、入江先生、明日はたのんだよ」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

直樹は部屋から出ていく執刀医の教授に頭を下げる。小児心臓外科医の中でも年間オペ数は院内随一だ。今回は循環器外科との合同チームで、明日の手術の為の入念な打ち合わせを行っていた。
症例数の少ない難治性の心臓病を抱える乳児のオペはいよいよ明日行われる。
まだ経験の浅い研修医の直樹がチームに選ばれ、第1助手として前立ちを行うのだ。簡単なオペなら早々に前立ちを任され、その手際の良さはすでに伝説になりつつある直樹であったが、新生児の先天性心疾患のオペは初めてであった。ずっとあらゆる事態を想定してシミュレーションを重ねてきた。まだ胡桃の大きさくらいの小さな心臓にメスをいれるのだ。医師になり初めて『生きている』患者の皮膚にメスを入れたあの日以上の緊張を強いられるだろう。
手術前に少し患児の容態が不安定になったが、とりあえず持ち直し、明日は漸く手術の運びとなる。



ーーもうこんな時間か……

直樹は時計を見て既に午後となっていたことに気がついた。
同じチームの器械だしのオペ室のナースに昼食に誘われたが断って(優秀だが少々馴れ馴れしく閉口気味)今まで執刀医と明日のオペプランについて議論を交わしていたのだ。

ーー琴子は……どうだったろうか?

仕事に向き合っている時はすっかり忘れていたことを、時計をみた瞬間に思い出した。
琴子の診察はもう終わっているだろう。朝一番で診療予約してあるとファックスに書いてあった。
おそらく沈黙期間が終わり、もう発声の許可が出ている筈だ。

今、家にいるだろうか?
電話をしてみようかーー

直樹がそう思って医局の受話器に手を伸ばしかけた時である。


がしゃがしゃっがしゃーーん

「きゃーっ」

「ご、ごめんなさい! だ、大丈夫ですか?」


(…………!)

何か倒れる凄まじい音がして、その場にいたスタッフ全員が何事かと腰を浮かせて音のした方を振り返る。

「今の声、城所さんじゃない? 騒がしいわね。なにかやらかしたのかしら?」

「あれ? でも彼女、もう実習、眼科に変わった筈じゃーー」

(違うーー城所じゃない。あの声はーー)

直樹は反射的に立ち上がり、医局から飛び出して、音のした方へと駆け出していった。

「こちらこそごめんなさいっ だめでしょ! たぁくん。廊下を走っちゃ。ほらお姉さんと看護婦さんにごめんなさいして!」

そこには半べその幼い少年とその母親らしき女性、そしてひっくり返ったナーシングカート、散らばったカルテや医療道具を拾い集める看護婦とーー琴子がいた。
どうやら走って突進してきた少年を避けた琴子がナーシングカートとぶつかり倒してしまったようだ。

「琴子!」

直樹が駆け寄り、倒れたカートを起こした。

「え? 入江くん……!」

「まあ、入江先生!」

床に這いつくばっていた琴子と看護婦が共に驚きの声をあげた。

「………ったく、おまえは何してんだ……」

「へへへ……しまった。入江くんに聴かせる第一声決めてたのになー」

ぺろっと舌を出しながら、琴子が立ち上がり、母親に叱られて半べその少年に声をかけた。

「君も大丈夫? 元気なのはいいけど、もう病院の中、走っちゃだめだよ」

「うん、ごめんなさい……明日退院できるってきいて嬉しくって」

「たあくん、がんばったもんね」

顔見知りらしい看護婦も少年の頭を優しく撫でた。

少年と母親は、琴子とナースに何度も謝って、母親に連れられて病室に入っていった。

「入江先生の奧さまなんですねぇ。ほんと、城所さんと声、似てますね。はじめ彼女が戻ってきたかと思いましたよ」

ふふふ、と笑ってナーシングカートを点検しながらナースが話しかける。直樹もよく知っている小児外科病棟のナースであった。

「よく聴くと全然違うんですけどね」

「あら、そうですかぁ? ま、お顔は全然似てませんよね」

顔といいつつ、胸をちらりと見て笑ったのは気のせいかしらと、琴子は軽く口元をひきつらせた。

「………ったく。留守電に声を入れときゃいいのに。なんでわざわざ来たんだよ……」

ナースが去ってから、直樹は琴子の頭にぽんと手を置いて、呆れ返って呟いた。

「へへ。だって電話の声ってちょっと違うでしょ? やっぱり生声届けたくって~~」

「それにしたって……」

まったく予想外の琴子の行動に、呆れる以上に胸に熱いものが込み上げてくる。しかし言葉にすると出てくるのはいつもの憎まれ口になりそうで、すんでのところで留めることに成功した。

「……迷惑だった? ……あ、ごめん、そうだよね。仕事中なのに……。明日大変なオペがあるんだよね? そのためにずっと忙しかったんだもんね。あ、いいの、いいの。とりあえず、ちゃんと声が出るようになったこと伝えられたらすぐに帰るつもりだったから! ってことで! じゃ、帰るね! 入江くん、明日のオペ、頑張ってねーー! あたし東京からずっと応援してるから!」

琴子は一気にまくしたて、手を振るとそのままくるりと踵を返して立ち去ろうとする。

「おい、まてよ!」

直樹は琴子の肩を掴んで自分の方に振り向かせた。
顔から零れ落ちそうな大きな瞳が少し赤く潤んで、そしてさらに大きく見開いた。

「入江くん……?」

「ったく。そんなに一気にわーっと話すの、喉に良くないだろうが。ちゃんと発声トレーニング受けたのか? それに、まだ、肝心な言葉、聴いてないんだけど……?」

振り向かせた身体をそのまま抱き寄せ、頬に手をかけその指でやさしく輪郭をなぞる。そして囁くように琴子の耳元にリクエストをした。

「入江くん……入江くん……大好き! 大好きだよ~~!!」

そう言いながら、直樹の腰に手を巻き付けてぎゅっとしがみつく。

「知ってる。……知ってるけど……もういっぺん……」

しがみついていないと腰砕けになりそうな直樹の低音ボイス。耳元に優しく振動する。

「……入江くん……だいすき!」

力いっぱい叫ぶ琴子を、直樹はそのままきつく抱きしめた。
ここは医局前の廊下で、いつの間にかギャラリーが遠巻きにこの二人を見つめていたけれど、そんなことはどうでもよかった。
今はただ 、聴覚だけでなく、視覚、触覚ーー全ての感覚で琴子を感じていたかったのだったーー。


















* * *






11月27日 P.m9:10


「やっと帰って来た……」

あたしは懐かしいマンションの前に漸く降り立って、ひとつため息をついた。
長かった怒濤の数週間。
一時はここを引き払わなきゃならないかしらと真剣に思ったわよ。
さよなら神戸。さよならオタク生活。さよなら同人誌。さよなら可愛いフィギュアたち。
頑なに関西弁に染まらずに生きてきたけど(なんちゃって関西弁、と揶揄されるのがイヤでねー)、10年近く暮らしてるこの街はもうすでに第2の故郷のようなもの。
何故、大学、神戸にしたかって?(と、質問があったから答えるわね)それはね、当時大ファンだったとあるサークルの主催の作家さんがその大学にいたからよ! そしてあたしの行きたかった学部もあったからなのね(ちなみにメディア芸術学部。就活の役には立たない学部だったわね……全く学んだこととは無縁の病院事務員)。そして、同じ大学のデザインコースで、そのサークルで売り子してたB子との運命的な出会いをして、そのまま神戸に住み着いて同人活動してきたというーーそんな神戸での(オタクな)日々を走馬灯のように反芻しながら、趣味に生きたあたしの青春に別れを告げる覚悟をしてたのよね。

でも兄夫婦の協力のお陰でなんとかあたしは神戸に戻れる見通しがついたのよ。
とにもかくにも母は斗南大病院に転院ができ、バイパス手術の日取りも決まった。
まだ何度か東京に戻らなければならないけど、とりあえず手術までは兄と義姉に任せて、今日、漸く神戸に帰ることができたのだ。

久しぶりのマンション。
あたしは自分の家の扉を開ける前にちらりと隣のドアを見つめる。
玄関の小窓から、かすかな灯り。あら、入江先生いるのかしら……


斗南大学の学食で謎な情報を耳にして以来、すごく琴子さんのことが気になってたものの、やはり転院して落ち着くまで東京と埼玉の実家を行ったりきたりしていて、なかなか連絡とることもできなかった。
明日、病院に行って入江先生に問い質さなければーーと思っていたけど、ご在宅なら今から訪問しちゃおうかしら? 埼玉土産の草加煎餅持って……九時過ぎだからまだ大丈夫よねーーーなんて、思いながら、玄関の鍵を探そうとごそごそとしていたらーー

がちゃっと唐突に隣の扉が開き。

「入江くん! 戻ってきたのーー?」

「ええっ?」

「わーかをる子さん!?」

「琴子さん!?」

「「大丈夫なのっ!?」」

あたしたちは同時に叫びーー
そしてがしっと抱き合った。






結局、その後、あたしは隣人の部屋に転がり込み、お互いの数週間の怒濤の日々について語り合った。
って、かなり琴子さんの話はぶっ飛びまくって何度か質問を繰り返さないと要領を得なかったけど。
けれど行きつ戻りつしつつも概ねのことは理解できて、やっと状況が把握できた。

あららー入江先生の不倫騒動にそんな顛末が。ふーん、その実習生、琴子さんと声がそっくりだったのねー。会ったことないから知らなかった。
そのうえ、琴子さんが声帯結節で声を出せなくなってたなんて。不思議な因果ね。今の琴子さんの声はいつもの少し高めの可愛らしい少女のような声で、そんな山姥のような嗄れ声だったなんて想像もできない。
「多分『ボヘミアン』を良い感じで歌えたかも……」
そう振り返る琴子さん。ちょっと想像できて、思わず笑ってしまう。でもきっと病気になった時はしんどかったんだろうなぁ。

「「はぁぁーほんっと、大変だったわね~~~」」

そして、もう一度がっしり抱きあい、お互いを慰めあって労りあった。


「で、入江先生は?」

肝心の部屋の主はお留守のようだ。

「えっとね。今日は定時で上がれたから、一緒に帰って来て、ごはん食べに行ってね……」

お部屋に戻ってから、二人で久しぶりにまったりして……
明日の手術のためにしっかり充電できそう、っていってたのに、一時間くらい前に病院から呼び出しがあって……

少し残念そうに琴子さんが呟く。一瞬、ぽおっと頬を染めたのは何を思い出したのかしら?
あたしは琴子さんのうなじに紅い花が散っているのを目敏く見つけていた。
外食の後、おうちに帰ってデザートですか? ふっ……しっかり食べられたわね。

おい、大事なオペ前は自重しろよ! (……って天才には関係ない突っ込みかしら)

「琴子さんはいつまでこっちに?」

「ほんとは今日は、入江くんに会ったらすぐに東京に戻るつもりではあったのよ。でも、明日は大学、午後からしか授業ないって話したら、泊まってけば?って云ってくれて。明日の朝の新幹線で余裕で間に合うし」

泊まってけば?って云うあたり、だいぶ素直になったわね。
この時期それどころじゃないだろうって嫌味っぽく云いそうなんだけど……

「今夜は明日のために多分呼び出しはないだろうって言ってたのになー。せっかく甘い雰囲気になって……」

と、言いかけてあわあわと口を抑える。
あら、未遂だったのね。
キスマークつけただけで呼び出しかーーどんまいっ入江先生!

「結局もう今夜は帰ってこないのかなぁ? 明日は難しいオペのある日なのに……大丈夫かなぁ」

何度も時計の針を見つめてはため息をつく琴子さん。
せっかくお泊まりすることになったのに、残念ね。夏に来たときもそんなパターンばっかりだったもんね。

「でも。それがお医者さんの仕事なんだものね。たくさんの患者さんが入江くんを必要としているんだもの。妻として支えないと!」と、健気にガッツポーズを取る琴子さん。

うん、まだ研修医だけどね。心の中で突っ込む。でも確かに2年後には多くの患者さんが入江先生を必要とするようになってることだろう。

ーーでも、よかった………。
幸せそうな琴子さん。
どうやらかなり辛い数週間を過ごしたようなのに、(傍にいてあげられなくてごめん! あたしがいたらそんな誤解さっさと解いてあげれたのに!)そんな翳りは微塵も感じられない。
ま、入江先生にキスされたら一発でそれまでの不安なんて簡単に消えちゃうんだよね。

「それにねー見て見て、かをる子さん!
入江くんってばねー」

そういって琴子さんは寝室の扉をそーっと開ける。
ええっと!
夫婦の寝室そんなに簡単に見せていいのかなぁ?

あらまあ。ベッドの枕元には琴子さんの写真が飾られていた。
へえー多分夏休みの時の写真だね~~うん、意外だよ。入江先生が枕元に妻の写真なんて(えーと、まさかオカズ……? あ、ごめん、発想えろくて)……いやー病院中に広めてやりたーーい(でも瞳で殺されそうだからやめとく)!!
よかったわねー、琴子さん。

「なんだかんだいって入江くん、あたしにメロメロなのよね~~」

ふっふっふっと不敵な笑みを浮かべ自慢気に語る琴子さん。
知ってるけどね。めっちゃ知ってますけどね!
(ただこの奥さん、すぐに自信なくすんだもんなー)

でも、あたしはその寝乱れた感じのベッドが気になって……いかにもさっきまでここで……って感じの。(未遂のわりには……結構惜しいとこまでいった感じ?)
あのー琴子さん………独り身にはちょいと刺激的なんですけど……。


結局ーーその後。夜中11時前くらいまで琴子さんと長々とお喋りしていたら、もう今夜は戻らないかと半分諦めてた入江先生が帰宅してきた。

「入江くん、おかえりなさーい。帰って来れたんだね! よかった!」

ウサギのようにぴょんぴょん跳ねて入江先生に飛びつく。

「ああ。明日のオペに備えてさっさと帰ってちゃんと休めと言われた。人を呼びつけといて……」

「大丈夫だったの?」

「とりあえずヤマは越したかな。おれの担当じゃなかったんだが、当直の医者が、急変対応で手が離せなかったせいで、すぐに駆けつけられるおれが呼び出されたんだ。病院に近すぎるのも考えもんだな」

「入江くんが病院の近くに住んでたからその患者さんは無事だったんだよ。患者さんにとってはチョーラッキーだよ。よかったよねー!!」

そういって琴子さんは誰より嬉しそうに彼を見上げてそう云った。

「だな……」

そういって優しく微笑むと入江先生は琴子さんに顔を近づけーー

こほんっ

思わず咳払いしてしまうわよ、お二人さん。

「森村さん!?」

おい! あたしのこと、目に入ってなかったんかーい!

「いつ神戸に? 大丈夫なんですか? ご家族はーー」

「はい、まあなんとか。その辺はゆっくり琴子さんに聞いてくださいな。あたしも色々入江先生からも訊きたいことあるけど、それはまた後日に」

あたしはそういってから「じゃ、琴子さん、またね。では邪魔モノは退散しまーす。あ、入江先生。もう遅いですからね、オペに差し支えない程度に程々に~~」と手を振ってお隣から速やかに辞去したのだった。






さて、その夜。久々の自分の城のベッドで眠ったあたしは、隣室の気配を感じることもなくあっさり爆睡してしまった。

そして翌朝。
少し寝坊してしまって慌ててバタバタと身支度をして玄関を飛び出した。久しぶりのお仕事に遅刻なんて最悪だわ! ただでさえ月末で、あたしがいないことで事務局内は相当混乱していることだろう。

玄関を出たら、丁度隣の扉から出てきた琴子さんと会った。
今から東京に帰るらしい。
おおーお肌が艶っツヤだね。
しっかり充電しましたって感じで……

「入江先生は?」

「今朝はもうとっくに。オペの準備あるからって」

あたしが休みになる前から話題になってた例のオペね。
かなり稀有な症例で日本中の医師会が注目してオペもライヴで全国の病院に中継するとか。
そんなオペに一年目の研修医が第一助手が入るなんて、通常なら考えられないことだ。
いやーそんな大事なオペの前日にえっちしちゃっていいのかなー。
ほら、プロ野球選手なんて試合前日はセックス禁止っていうじゃない? 禁欲は体力温存と集中力を高めるって。
………って、あの入江先生にそんな一般概念は当てはまらないか~~
逆に充電できてエネルギーに満ち溢れてるって感じかしら?
まあ、無理はさせてないみたいね。琴子さんの腰も普通のようだし。(夏休みに腰砕けでバンビちゃんな琴子さんを何度か目撃)
声も……昨日と変わらずね。特に掠れもなく。
そりゃ、さすがに声は抑えさせるわよねー(笑)


「なんとか朝御飯も無事作れて、食べてもらえたし! 入江くん、オペも無事成功するといいなぁ……」

あたしの朝っぱらからの邪な想像など思いもよらないだろう琴子さんは、病院の方を向いて祈るように手を合わせる。

「じゃあ、そろそろ東京に戻るね」

「そっかぁ。あたしもまた来週東京に行くけどね」

「ああ、お母さんの手術? もし東京に来たら是非連絡してね!」

「うん。都合がつけばね」

とはいいつつ、色んなことに忙殺されそうで絶対に、とは云えないけれど。

「琴子さんは次に神戸に来るのはクリスマス?」

そう訊ねた途端に微かに表情が曇る。

「うーん、来たいのはヤマヤマだけど。さすがに国家試験も追い込みだし……入江くんにもクリスマスや正月も仕事だって釘刺されたし」

ただでさえ、こんな病気になっちゃって最近は落ち着いて勉強できなかったし……

ため息をつきながら首を竦める。

「そっか。でも試験まであとちょっとだもんね。頑張って!」

「うん!」

にこっと笑って軽くガッツポーズをとる。しんどい時期だった筈なのにあくまでポジティブ。
彼女のパワフルさをもってすればきっと間違いなく合格することだろう。
神戸で就職できるかどうかは……これはもう運次第だけどね。前情報だと今のところうちの大学の付属の看護学生が4人くらい落ちないと外部からの採用はないようだ。今年は定年退職者が少ないのだ。

「じゃあね!」

そして琴子さんは東京に戻りーーあたしは久しぶりに病院へと足早に向かう。(やばっマジ遅刻だわーー!)
月末月初の繁忙期、なんとか乗り越えねばね。職場に持ってく草加煎餅と東京ばな奈(知ってる?東京ばな奈は埼玉の工場で作られてるのよ)を携えて、いざ出陣!



ーーなんとか遅刻を免れて、久しぶりにバタバタと仕事をしているうちに1日があっという間に過ぎ去ってしまった。
結局今日は一度も入江先生に遭遇することなかったけれど、手術の成功の朗報は事務局にも届いた。
ーーよかったね。琴子さん。入江先生が執刀したわけではなくても、多分あなたの祈りが叶えられたのよ。


あたしは休憩時間に屋上庭園の喫煙スペースで煙草を燻らせる。晴れやかな秋空が神戸の街を見下ろしていた。
なんだかんだこの街が好きなんだよねーあたし。
来年もこの街で平穏な日常を過ごしていられたらそれだけで幸せだなと数日間の非日常を振り返り、そう思う。そして琴子さんもこの病院で働いていたら尚、楽しいだろうなぁ。
さすがに師走も近いこの時期、上着なしで外でタバコはちょっと寒くて、あたしは思わず身震いした。
それでも心はほんのりあったかいのは琴子さんが幸せそうに笑っていたからだろう。

入江先生に会えるかなーとわざわざここに煙草を吸いに来たけれど、流石に今日は無理なようだ。
ま、またじっくり話を話を聴かせてもらいましょう。
今回は蚊帳の外だったけど、これからはがっちり琴子さんをフォローするわよっ!(もう、気分は神戸の母ね……って、せめて姉よね?!)










ーーそして、蛇足ながら後日談を少々。


入江先生が助手に入った件(くだん)の手術の大成功はさらに彼の評価を上昇させた。そしてできる人間はどんどん仕事を押し付けられるという定石通り、相変わらず激務にさらされてる模様。
医療雑誌にも載って、その容姿も知られることとなり注目度もさらにアップ!
これはまたまたあわよくばと下心を持った邪な女子たちが小児外科に殺到するのでは、と思いきや。
院内にはまた新たな彼に関する噂が駆け巡り、ざわつかせ、そのせいなのか思いの外彼の周囲は妙に静かだった。
少し前に院内を席巻していた不倫の噂をあっという間に沈静化させ、どうやらアレはデマだったと院内にあっさり認知させた新たな噂。

入江直樹は公衆の面前で嫁にキスを5分以上するくらい、嫁を溺愛しているって!!

どうやら琴子さんに再会した時に、周囲の目を全く気にすることなくかなり長々とディープなヤツをいたしてたらしい。(病棟にも近い医局の前で……)
ギャラリーも随分多くて、入江ファンのナースや患者が卒倒しそうになったとか。いや殆どが当てられた上に、ドン引きしまくったんだろうけど。

夏休みの時に結構悪目立ちしてしまった琴子さんの武勇伝と嫁溺愛はかなり院内に浸透してるのかと思いきや(夏休みの時も結構、人前でイチャコラしてたよね?)、みんな目の当たりにしたことしか信じられなかったようなのね。
そして例の不倫の噂で『入江先生も男よね、やっぱり。あんな学生で落とせるなら私にもチャンスが……』と希望を持った女子たちを一瞬にして撃沈させたようだ。
計算なのかなんなのか、すごい牽制効果よね。


そんなあたしは最近その実習生の城所茜をよく見かける。
たまたま眼科の医局に資料を届けにいった時に、やっばり彼女の声が琴子さんに似ててびっくりして振り返ってしまったの。「琴子さん!?」と叫んだせいで
彼女から、「もしかして入江先生の奥さまご存知なんですか?」と声を掛けられたってわけ。

まあ。ほんとそっくりねぇ。
電話とかだったら区別つかないかも。
なんとなくそれが切っ掛けで少し仲良くなって遠距離の恋の相談受けたりして。
いや、あたしまともに恋したことないオタク処女なんですけどね。妄想だけは場数踏んでるのでつい知ったかぶりしちゃうけど。どうもそんな役回りばっかよねー。


ちなみにその城所さんの彼氏が、彼女に会いにこの病院を訪れた時に、たまたま入江先生に国家試験合格報告をしに来た琴子さんの声を耳にして、彼女と間違えて琴子さんに抱きついてしまい……「あれ? 胸がないっっ」と叫び、琴子さんにひっぱたかれ。そのうえ入江先生にも尻を蹴りあげられ。城所さんにもめっちゃ叱られたという楽しいエピがあったりするんだけど、それはまだまだーーもう少し先のお話。















※※※※※※※※※※※※※※※※



終わりましたー。
結局、話を締める為にかをる子さんを呼び戻したという感が否めませんがf(^_^;



あとがきはまた後日に( °∇^)]



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2018/04/15 | [] | Edit

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2018/04/15 | [] | Edit

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2018/04/15 | [] | Edit

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2018/04/15 | [] | Edit

声を聴かせて

誤解が溶けて良かった‼️
手術も成功でも最後にいつもの琴子の落ち
これからの物語楽しみにしてます。

2018/04/15 | 玉露蜜柑[URL] | Edit

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2018/04/16 | [] | Edit

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2018/04/17 | [] | Edit

アハハ!でも誤解とけて良かったねv-218

2018/04/18 | なおなお[URL] | Edit

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2018/04/18 | [] | Edit

Re.るなたま様

コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなって申し訳ありませんでした。

るなたま様にもそういってもらえて嬉しいです。やっぱりうちの神戸にかをる子さんは必須でした(^-^)v
そうそう、終わり良ければ……ですね。
常に注目の的のわりには、救命メンバー以外にはなかなか嫁ラブを認識されない入江くんですが、今度ばかりは浸透できたかなー?

色々お気遣いありがとうございました。仕事は相変わらずですが、家の方はまあなんとか(笑)マイペースでこれからも頑張っていきます。応援ありがとうございます♪

2018/04/22 | ののの[URL] | Edit

Re.マロン様

コメントありがとうございました♪
リコメ遅くなって申し訳ないです。

無事に最後まで書くことができました。
そして、やっとお約束のセリフを言わせることもできましたよー。
もう、何かある度に反省しまくる→超過保護になるーーを繰り返しているうちの直樹さんですが(笑)でも子供ができる頃まではそれを繰り返していくのでしょう……(大人になるのはまだ三年先かな?笑)
でも神戸ではがっつり嫁ラブを浸透させましたから。……あとわずかの神戸ですけどね(^w^)
マロンさんの疑問を切っ掛けにかをる子さんが神戸に住み着いた訳も明らかになりました笑
ラストのエピ。笑っていただけてよかったです。あのオチを挿入したくて、かをる子さんに帰還していただいたといっても過言ではないので〜〜♪

最後まで読んでいただいてありがとうございました(^^)

2018/04/22 | ののの[URL] | Edit

Re.りん様

コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなって申し訳ありませんでした。

ふふ、琴子の行くところにハプニングありなのですよね。でも今回はしっかり直樹さんに会えましたし。
りんさまにキュン死寸前になってもらえたならちょっとガッツポーズでございますよ! ええ、ハグだけじゃ収まりませんよ〜〜なんたって人の目は全く気にしない男ですから笑
そうなんです。根っからのオタクなかをる子さん。ぶれてませんよー。かをる子さんの今後もたまに考えるのですが、イリコトに感化されオタクを卒業するのか、それともこのまま未婚なオタクとして神戸に骨を埋めるのか模索しておりますが笑
後日談、笑ってもらえてよかったです。私もビジュアル思い浮かべながら書きましたので!
最後までお付き合い、ありがとうございました(^^)

2018/04/22 | ののの[URL] | Edit

Re.ちびぞう様

コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなって申し訳ないです。

わー、ちびぞうさんにめっちゃ面白かったといってもらえてよかったです(^-^)v
そうなんですよ。琴子が大人しく電話で伝えるだけですむ筈がないのです。
琴子の言葉に最終的に素直になる直樹さん。原作よりも素直過ぎるし過保護過ぎるけど、二次ですからねーもうラブラブ全開で参りますよ!
城所さんの彼のエピ、ストーリーとして挿入すると長くなりそうだったのでかをる子さんの後日談として紹介しました。読みごたえあったといってもらえて嬉しいです(^-^)v
最後までお付き合いありがとうございました♪

2018/04/22 | ののの[URL] | Edit

Re.玉露蜜柑様

コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなり申し訳なかったです。

はい、誤解もとけ、直樹さんのオペも無事終わり、琴子の声も戻りみんな大団円のハッピーエンドです。
ラストのオチはお約束な感じで( °∇^)]
最後までお付き合いありがとうございました。はーい、次のお話も気長にお待ち下さいませ。

2018/04/22 | ののの[URL] | Edit

Re.heorakim様

拍手コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなり申し訳なかったです。

そう、全く人目を気にしない入江くん。普段ツンツンなくせしていざというときの溺愛っぷりがたまりませんよね(^w^)
最後までお付き合いくださり、そして労いの言葉もありがとうございました。

2018/04/22 | ののの[URL] | Edit

Re.virgo様

拍手コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなり申し訳なかったです。

連載中、色々と感情移入してくださったのですね。ありがとうございます!
はい、懲りずに琴子ちゃんをあれこれ悩ませる直樹さんですが、なんとかハッピーエンドに持ち込めました。
virgoさま同様、何があっても結局全てを許してしまう琴子ちゃんです。ほんと、女神(^^)
かをる子さんの復活も喜んでくださりよかったです。
はい、番外編はこそっと拍手オマケページにつけましたのでよろしかったら覗いてみてください。中途半端なえろですが……f(^_^;

最後までお付き合いありがとうございました。また次も楽しみにしてもらえて嬉しいです♪

2018/04/22 | ののの[URL] | Edit

Re.さち子ママ様

コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなり申し訳ありませんでした。

そうですね。私がイタキス二次にはまって書き始めた当初と思うと随分定期更新されるブログは減ってしまいました。寂しい限りですが、私も愛すべき先輩二次作家のみなさまの作品を時折読み返して浸っております。私のお話もそんな風に読み返せてもらえたら幸せです(^^)
はーい、細く長く、じみーに続けていけたらいいなぁと思ってます(^-^)v

2018/04/22 | ののの[URL] | Edit

Re.のえる様

コメントありがとうございました♪

はい、なんとか完結することができました(^-^)v最後まで応援ありがとうございます!
ふふ、やっぱり神戸にかをる子さん、必要不可欠ですよね。のえる様にもそう思ってもらえて嬉しいです。
いやーかをる子さん、最初の出会いが、まだ防音効いてないころの隣からのアノ声だし、本人もえろ書いてる(BLだけど)二次書きなので、元々妄想過多です笑
はは、ぜーったい入江くんはえろ本なんて持ってないですよね。神戸でひとりえっちはしてると思いますが、当然琴子を思い浮かべながらですよねー!(確定事項)(^w^)

2018/04/22 | ののの[URL] | Edit

Re.なおなお様

コメントありがとうございます♪

ほんと、誤解がとけてハッピーエンドにできてよかったです。
最後まで読んでいただけてありがとうございました♪

2018/04/22 | ののの[URL] | Edit

Re.shroko様

コメントありがとうございました♪

私も神戸の話は色々妄想広がって大好きです。(原作エピが少なすぎるんですよねー。なので妄想しがいがあるというか)
神戸-東京、遠いですよね。でも紀子ママにかかればあっという間。新幹線で日帰りしようと思える琴子ももう距離なんてどうでもいいんでしょうね。
ふふ、私もそんな琴子ちゃん大好きです。
いやーshrokoさまにもそう思ってもらえて嬉しいです。かをる子さん必須の神戸のお話も、またいつか書きたいですね(^-^)v

2018/04/23 | ののの[URL] | Edit

Re.ルミ様

拍手コメントありがとうございました♪

わー無事退院されたのですね。おめでとうございます!
もう身体の方は大丈夫なのでしょうか。
パソコンの方が見やすいですか?
私はスマホオンリーなので慣れてますけどねー入院したときもスマホ三昧でした笑

はーい、少しでも癒しになれるよう頑張ります。ルミ様もご自愛くださいませ。

2018/04/23 | ののの[URL] | Edit

        

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