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声を聴かせて……(5)


前回は少しネガティブモードで申し訳なかったですm(__)m
お気遣いのコメント、ありがとうございました^_^;

読んでくださる方が1人でもいる限りは頑張りますよー。とりあえずこの話を終わらせなきゃっっ(((^^;)



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





11月12日 P.m.3:35




「血圧 100/65 脈拍はーー 」

救命センターに入った途端に、緊迫した指示や報告が怒号のように飛び交っていた。
何度か子供の搬送の度に応援要請があり、駆けつけたことはあったが、この救命独特の死と隣あわせの張り詰めた雰囲気は、一瞬であの夏の緊張感に満ちた激務の日々を思い出させた。

「入江! この子は小児外科の患者だな?」

救命の各務に問われ、直樹はストレッチャーに青ざめ横たわる少年を見つめる。

「はい。神尾由輝くん5歳です。3歳の時にファロー四微症の根治手術を受けて、今日外来で定期検診に来ていました。私が担当しましたが、心エコーも心電図も問題は……なかった筈です」

直樹は受診の時の様子を思い出していた。
心雑音もなかった。画像診断も問題はなかった。………いったい何を見逃したのだろう。
直樹は唇を噛みしめぎゅっと拳を握りしめた。

「母親の話によると、病院から帰宅して1時間後に、トイレの中でぐったりしていたらしいです。それで慌てて救急車を」

「血圧低下してます!」

「入江! この腹部の痣はーー今日の受診時にはあったのか?」

各務の怒号にはっとして服をたくしあげられた身体を見つめる。
少年の右腹部に微かな痣があった。

「ああーーはい。本人と母親に確認したら4日前に幼稚園でジャングルジムから落下して打撲したと。すぐに掛かり付けの整形外科で受診してレントゲンを撮ったけれど問題はなく、ただの打撲だったとーー」

幼稚園でレンジャーごっこが流行ってるんだと得意気に話してくれた。

僕がペガサスレンジャーなんだ。
ジャングルジムから跳べるんだよ!

「まさかーー」

直樹は茫然と少年の蒼白な顔を見る。

「すぐに腹部CTの準備を! その前にエコーで確認だ!」

慌ただしくスタッフたちが動き始める。

「外傷性腹腔内出血だな。造影CTで出血点を確認後、すぐに開腹だ。緊急オペの準備を!」

「……4日も経っているのに……」

直樹が喘ぐように呟く。
どうしてーーどうして、あの時もっとしっかりと痣を確認しなかった……? 打撲の状況をしっかり訊かなかった?

「受傷時に異常所見がなくても、部位によっては食事や排便によって刺激を受けて裂傷に繋がることもある。とにかく出血部位を確認してからだ」

「はい」

「先生! CPAです!」

端子をつけたばかりの心電図のモニター波形にその場の視線が集中した。

「Vfだ! DC(除細動器)チャージを!」

救命センターは逼迫した空気に包まれていったーー。





* * *









11月12日 P.m.3:20



ーー入江先生の奥さましか知らない腕の中の感触を思い出して………


彼女の声が耳の中で谺していて、離れない。


どうやってここまで来たのか覚えていなかった。
いなかったが、琴子が気がついた時には直樹のマンションの玄関前にぼんやりと立っていた。
病院にいて、これ以上不安を煽る声を耳にすることに耐えられなかったのだ。

合鍵は持っていた。
部屋に入って待っていようかどうしようかーー少し逡巡した。
待っていても忙しい直樹が帰ってくる保証はない。

それに、もし部屋の中で、直樹の浮気の証拠があったらどうしようーー
そんな不安が微かに頭の中を過ったのも事実だったがーー

な、なによ、あたしってば!
入江くんのこと信じるんでしょ?
そうよ、さっきの話は何か聞き間違いか勘違いだよ。
入江くんに限ってーーう、う、浮気なんてっ
あるわけ、な…………

必死で自分に言い聞かせるが、嫌な妄想だけが頭の中にどんどん膨れ上がっていく気がする。

直樹を信じようと思っているのに、あの自分と同じ声を持つ彼女の言葉が耳から離れない。


大丈夫。
大丈夫……

奈美ちゃんのお母さんのこともあたしの誤解だったじゃない。
絶対、何か理由(わけ)があるんだよ。
だからーー大丈夫!
信じろ、琴子!

琴子は意を決して鍵を開けて部屋に入る。

会えなくても……せめて、プレゼントくらい置いておこう。
誕生日おめでとうのメッセージも添えて。

琴子は部屋に入り、久しぶりの室内を見回す。
この夏、1ヶ月ほど過ごした懐かしい部屋だ。相変わらず琴子が居ても居なくても、部屋は整然と整えられている。

ほらーー何も変わってない。
変わったのは季節だけ。足を踏み入れた途端に感じてたあの狂おしいくらいの熱気と蒸し暑さはもう欠片もなく、静まりかえった室内はひんやりとして無機質に感じられた。


琴子はバッグをテーブルに置き、上着を脱ぐこともなくダイニングに座って、メモ書きに手紙を書いていた。

『入江くん、誕生日おめでとう♪
会いたかったな。
でも仕事忙しいみたいから、しょうがないね。
無理しないで、身体に気をつけて頑張ってね。
あのね、ちゃんとA判定とれたから。
絶対国家試験も合格してみせるから。
だから、入江くん、待っててね


ーー浮気なんてしちゃいやだよ。
書きかけて躊躇ってーー
結局、書かずに消してしまった。

『浮気』という二文字を書いただけで事実になってしまいそうで怖かった。


結局、『大好きだよ、入江くん。琴子』と、いつもの言葉で締めて、ペンを置いた。ネクタイピンの小箱を手紙の横に置く。


自分の声を録音した目覚まし時計の箱をどうしようか少し悩んだ。
なんとなく声を残して、彼女の声と比べられるのが嫌だった。それに声を残していくというのも何だか当て付けがましいような気もしたのだ。
それでも、せっかく一生懸命録り直して作った目覚ましボイスを無駄にするのも残念でーー琴子は箱からだして、リビングの本棚の片隅に置いた。おまけで貰った目覚まし時計だから、デザインもシンプルな黒一色で、5センチ四方の小さなものだ。気がつくかな。気がつかないかな……


そして、ふとあることを思い出して、キッチンの冷蔵庫の方をみる。自分が夏休みに帰る前に、冷蔵庫にぺたりとマグネットで張り付けた二人のツーショット写真はそこにはなかった。

ーーないよね、やっぱり。


少しがっかりして、それでも時間までは部屋の片付けでもして帰ろうかと、少し丁寧に周囲に目を配らせる。
とはいえ、部屋はたいして汚れてもいないし、散らかってもいない。

ーーーあれ? これ……なに?

ふと、サイドボードの片隅にきらりと光るものがあり、手にとって見てみた。

ーーーピアス……?

心臓がーー跳ねあがった。そして、そのまま止まるかと思えた。

シンプルなプラチナとエメラルドのピアスだった。しかも片方だけ。

無論、琴子のものではない。

ーーーあの娘の?

琴子と違って漆黒の髪にこのグリーンが随分似合っているように思われた。

ーー彼女、この部屋に……?
やっぱり……二人は……

ぐるぐるする。
信じようと思うのに、どす黒い感情だけが一気に胸の奥からせりあがって、頭の中まで掻き回すようだ。

この部屋に来てるの?
この部屋でーーー

琴子は、まだ部屋に来てから1度も開けていない寝室への扉を開けようかどうしようかーー取っ手に手を掛ける。

………こわい。

これ以上、疑いを否定できないような何かが見つかったら……
そう思うと、琴子は寝室に入ることがとてつもなく恐ろしく感じた。

ーーなんか、息苦しい。
どうしよう……

気がついたらぽろぽろと涙がこぼれていた。

琴子は結局、寝室に入ることができないまま、ばたばたと部屋を飛び出した。


気がついたら新神戸駅に向かい、早々に東京行きの新幹線に乗り込んでしまっていた。
まさか、ウキウキと神戸に向かっていた数時間後にはこんな陰鬱な気持ちを抱えて東京に戻るなんて。直樹に1度も会わないままーー

東京に向かう新幹線の中で、琴子はずっと窓の外を見つめてため息をつく。
そして懸命に、あのピアスがあの部屋に落ちていた理由を推理しようとしていた。

ちょっと動揺してあの娘のだと思い込んじゃったけど、別にあの娘のとは限らないよね。
だれかの落とし物……とか?
えー、でも病院で拾ったなら病院の受付に届けるよね?
随分高価そうだから、道で拾ったって警察に届けるだろうし。

や、やっぱりあの部屋に来た誰かのものだよね………
で、でも部屋に来たからって、即浮気とか決めつけちゃうなんて、あたし、あんまりだったかな………?
入江くんだって同僚の人とか職場の人を招きいれることだって……
で、でも殆ど職場の人は自宅の場所を知らないしこれからも教えないって言ってなかったっけ? 面倒だから絶対、他人を入れるつもりはないって。
かをる子さんも隣に来客なんて来たことないって言ってたし。
でもーーでもーー

病院内を駆け巡る噂。
胸の大きな琴子と同じ声の実習生。
ーー入江先生の腕の中の感触………
エメラルドのピアス……

直樹を信じようとする気持ちと疑いの気持ちが行きつ戻りつして、息が詰まりそうだ。頭がパンクする。
ぐるぐるぐるぐる。
吐きそう。気持ち悪い。
誰か助けて……




東京駅に着いてもひどく気分が悪くなり、そのままタクシーで帰ろうと少し並んでタクシーを待った。
ようやく順番が来て、後部座席に乗り込んで、運転手に行き先を告げようとした。


「……世田谷の◯◯◯まで……」

「え? 何て言った? お客さん、風邪酷いね。声がガラガラだよ」

ーー喉が。
喉がひりひりする。
何………この声……!?

「えーと……何? 世田谷ね……はいはい」

何度か言い直してやっと聞き取って貰った。

「すっかり寒くなったからねー。お客さんも早く帰ってあったまりなよ。喉には大根のハチミツ漬けが効くよ。蓮根のスープとかね。あ、ミントのど飴あるけどなめるかい?」

親切な運転手さんが色々気を使って話し掛けてくれる。
しかし琴子は殆ど耳に入っていなかった。

ーーあたしの声………

お婆さんの声になっちゃった………。

ガラガラで嗄れて自分の声ではないような。
そして、喉が詰まって上手く発声できない。

まるであの娘に声を盗られてしまったような。
そんな感覚に陥って、琴子はタクシーの中で、茫然とシートに身を預けていたーー。






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2017/12/05 | [] | Edit

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2017/12/06 | [] | Edit

Re.みく様

コメントありがとうございます♪

はじめまして、ですよね? いつも楽しみにしてくださって嬉しいです。みくさん、学生さんなのですね。テストはもう終わったのかなー。すこしはやる気の素となれたならよかったです。よい結果だといいですねー!

2017/12/10 | ののの[URL] | Edit

Re.マロン様

コメントありがとうございました。

そうなんですよ。相も変わらず仕事に忙殺され、琴子を気にしつつも構えない直樹。琴子は琴子で迷宮に突入です……(((^^;)ワンパターンながら、いっつもすれ違ってしまううちの二人…すまぬのだよ。
ええ。声が………
今回のお話のポイントは『声』と『噂』……だったりして^_^;

2017/12/10 | ののの[URL] | Edit

Re.ちびぞう様

コメントありがとうございます♪

波立ちまくってます。しかも高浪ばかりで……(((^^;)琴子ちゃん、溺れそうですね……とりあえずワクワクしてもらえたならよかったです。

私もストレス喉というか気管支に来て、咳が止まらなくなっちゃうタイプです。いやー過呼吸とか経験ないんで、きっとそこまでストレス溜め込まないのかな、私。苦手意識……なくすのむずかしいなあ。苦手ばっかりだわー(-_-)

2017/12/10 | ののの[URL] | Edit

Re.紀子ママ様

コメントありがとうございました♪

そう、入江くんも医者として日々戦い悩んでます。お医者さんの家族って大変だなーと医療ドラマを見て思う……(いや、ドク◯ーXは思わんけど笑)
ふふ、ピアスの件は見事です。そう、プラチナとエメラルドと来たら、もうピンといちゃいますよね……^_^;
わざわざ夏休みまで遡っていただいてありがとうございました。でも伏線は別のとこでした〜f(^_^;
さあ、落ち込む琴子ちゃんです。
泣いて立ち去る神戸〜〜演歌の世界になっちゃいますねぇ……^_^;

2017/12/10 | ののの[URL] | Edit

Re.絢さま

コメントありがとうございました♪

いやーいつも気になるところでぶった切って申し訳ないです。その辺どSなわたしですが、読者さまが楽しみにしていただけるのがとっても嬉しいのです♪

2017/12/10 | ののの[URL] | Edit

Re.さあちゃん様

コメントありがとうございました♪

ふふ、ウズウズさせちゃって申し訳ないです。そしてウズウズはまだ止まらないかも。ええ、私もどSなものでf(^_^;まだしばらくあれこれ引きずるのです。
限界までの抱擁……はーい、そこを目指してがんばります♪


2017/12/10 | ののの[URL] | Edit

        

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