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声を聴かせて……(3)


めっきり寒くなりました。
秋は何処に消えたんだろう……

でも、このお話は入江くんの誕生日の日付のままです………^_^;




※※※※※※※※※※※※※※※※※※

11月12日 P.m.1:40




「入江先生、お疲れ様でした。今日はこれで終了ですよ」

「お疲れ様です。木下さん」

外来の診療が漸く全て終わった。
ほぼ予約診療なのに、最後の11時45分の予約の患者が終了した時は既に13時半を回っていた。
具合の悪い子供達を長時間待たせるのは心苦しいが、大学病院の診察というのは高度な治療を要する患者も多い。どうしても一人一人に時間がかかる。

小児外科は午前診察のみだが、外来担当の日は大抵いつもこんな時間だ。

「入江先生、ずいぶんとお子さんの扱いに慣れてきはりましたねぇ」

母親と変わらぬ年齢くらいのナースは、手際よく備品を片付けながら、にこやかに話し掛けてきた。寡黙で仕事熱心なあまり私語をしないタイプのナースという認識だったので、珍しいなとパソコンの手を止めて顔を向ける。

「そうですか?」

「ええ。ほんま、はじめの頃とはもう、雲泥の差です。救命やNICUで大分鍛えられはったようですね。はなっから、えらい優秀な研修医さんや思うてましたけど、なんや病気はきっちり診れても患者さんとは上手いことコミュニケーションとれてないような気ぃしてましたから。まあ大学病院の先生なんて、そんなんが多いですし、大学病院やからそんな先生の方がええのかもしれへんですけどね。みてくれようても、また頭でっかちな先生来はったんやなー、思うてたんですよ」

ベテランナースとなると、その辺りは忌憚ない。
妙に媚を売ってくる常勤の若いナースたちより、非常勤だが経験値の高い年配のナースと組む方が遥かにやりやすい。

「そんなに初めはダメダメでしたか? 手厳しいですね」

「子ども相手にそんなに理詰めで諭さなくても、って、よう思うてましたから。お母さん受けは良かったですけどね。ほら、奈美ちゃんなんかいい例。よく手術承諾したもんやと……あとから聞いたら東京からきた奥さんが説得しはったって……」

「よくご存知で……」

外来まで噂が届いているのかーーとナースたちの情報伝達能力に少々呆れる。
尤も正確ならまだしも、伝言ゲームが少しずつ変化していく場合は目も当てられない。

「救命行ったりNICUに行ったりしてずいぶん患者さんとの接し方学ばれたんやと思うてましたけど……夏休みに奥さんが来られはったせいかしらね」

「どうでしょう……?」

苦笑ぎみに言葉を濁す。
何がどう変わったという訳ではないが、患児の目線で語りかけ話を聴くことは心がけていた。
琴子が夏休みに知り合った少年との関わり方に、特に影響を受けたつもりはないのだがーーー

「ほら、最後の患者の由輝くん。前回の定期検診の時は全然お話してくれへんかったのに、今日は随分ゴッドレンジャーで盛り上がって」

由輝くんは、三歳の時に先天性心疾患であるファロー四微症の根治手術を受けて、今日は半年に一回の定期検診を受けに来ていた五歳の少年である。
この病気は根治手術後の生存率も高く、過激な運動は無理でも普通に生活するのに支障はない。
予後は良好で今回も特に問題はなかった。
だが成人後に心不全など発症する可能性もあるので定期的な検診が必要とされている。
指導医が執刀医であった為、半年前の検診と今回とで直樹が担当し診察した。

半年前はろくに口も聞いてもらえなかったし、聴診器を当てたり心エコーを行ったりする度に睨み付けられたのだが、今日は着ていたゴッドペガサスのTシャツを切っ掛けに随分と打ち解けてくれた。

「子どもが成長してくれたってことでしょう。五歳の子の半年は大きいですよ」

「そうですかねぇ?」

「先日検診に来ていた椎名奈美ちゃんも随分大きくなってましたよ。たった五ヶ月なのに。それに私の弟と結婚すると言っていたのにもう心変わりしていたし」

奈美ちゃんにしろ、今日の由輝くんにしろ、根治手術が成功し、日常生活に戻れた子供達の近況を伺えるのは、現在辛い日常と闘っている患児たちや医師にとっても励みとなる。

とりあえず今日、最後の患者が深刻な状態ではなく良かったとーー直樹はパソコンを閉じた。

「………なんや、いいことでもあるんですか? やっぱり、今日の入江先生いつもと違う気ぃがします」

「いえ、とくに何もないですけど」

わざわざ誕生日だと公言することもない。
そして誕生日に浮かれているわけだもない。いや、自分の誕生日なんてどうでもいいことだ。
ただーー。

ーーーさて、琴子はそろそろ来ているはずだーー。


一ヶ月全く連絡を取ってこなかった。
昨日も、行くとも行けないとも電話はなかった。
だが、間違いなく琴子は来るだろう。
直樹は信じて疑わなかった。


ーー案外、この外来診察の待ち合いで待ってたりしてな。

ちょこんと待合室に据わって直樹を待っている琴子を想像して、かすかに頬が緩む。

そして、一呼吸してから扉を開けたがーー。

そこには誰もいなかった。







「おれのこと、訪ねてきた人はいませんでしたか?」

病棟の医局に戻って、その場にいたスタッフに訊ねたが、誰も知らないという。
直樹は隣のナースステーションに行き、何人かのナースにも確認してみる。

「どなたかご訪問の予定でもあったんですか?」

「いや……」

琴子の顔は救命ではそれなりに有名になったが、小児科ではつぼみルームに関わっていた数人しか知らないかもしれない。行状だけ悪目立ちして妙な噂だけ知れ渡っているきらいはあるが。
真正面から問われれば弁明することもできるが、こそこそと人のいないところで噂は囁かれているようで、かをる子から聞かされなければ寝耳に水の話も多い。

ーーそういえばかをる子は大丈夫なのだろうか?
5日ほど前に、「入江先生、ちょっと待って! 今、とんでもないウワサ聞いたけど、本当なのーー?」と鬼の形相で掴みかかられた。
ーーなんのことだ……?と訝しんだ途端に院内放送でかをる子は呼び出され、「ごめん、話は後でーー」と云い置いて走り去っていき、そしてそのまま会っていない。
事務局で訊ねたところ、どうやら母親が倒れたと連絡が入り、慌てて実家に帰ったという。
詳しい状況は分からないが、暫く休むとのことだった。

かをる子のことも心配だが、云いかけていた『とんでもない噂』とはなんのことか。

いやーーひとつだけ思い当たることはあるのだが。



一週間ほど前のことだ。

8時間に渡るオペが無事に終わり、疲れきって仮眠室に行くことすら億劫で医局のソファに身を横たえるとどうやらそのまま眠ってしまっていたようだ。

ーー夢を見ていた。

東京の自宅の寝室で、琴子が耳元で囁いている。

入江くん、入江くん、朝だよ、起きて………

珍しい。おまえがおれを起こすなんて。
もしかしたら、外は雹でも降ってるんじゃないか?

そしてどうしておれは瞳が開かないのだろう。瞼が恐ろしく重い…………

(入江くん………)

久しぶりに聴く琴子の柔らかな声……
砂糖菓子のように甘やかでふわふわとして、くすぐったく……心地よい。

「琴子……」

瞳は開けられないまでも、思わず琴子の腕を掴み、引き寄せて抱き締める。
折角ならキスで起こしてくれ。
どうせおまえのことだから、にまにまとおれの顔を眺めてるだけなんだろうけど。

琴子の声。
長い髪がさらさらと頬をくすぐり……あれ? おまえ、シャンプー変えたか?
それにーーなんだか随分と腕も身体もふくよかに……なんだ? この胸……!?

「い、い、い、入江先生! は、離してくださいっ!!」

ばっと瞳を開けた時、目の前には、琴子とは似ても似つかない女が、顔を真っ赤にして狼狽えていて、「誰だ!」と、思わず女性を強く押し退けてしまった。

「ああーー。城所くん。悪い……」

女は、先日から小児外科に実習に来ていた医学生だった。
琴子にあまりに声が似ていたので、つい反射的にその声のする方に顔を向けてしまうことが度々あった。

「入江先生もやっぱり男ですねぇ。あの胸にはつい目がいっちゃいますよね?」

同僚のドクターにからかわれ、思わず眉を潜めてしまうことが何度かあった。
確かに、胸はデカイ。申し訳ないがあまり顔の造作を認識出来ないくらい、胸の大きさが目立ってしまう。
琴子にはCカップくらいないとな、などとかつて云ってみたものの、実際これだけ大きいと日常生活に不自由だろうとか、外科医になるには術野が狭くなるんじゃないだろうかとか、変な方向で同情してしまっていた。
それに現実に直樹にそんなことを言ってくる同僚もいるわけだ。患者からも余計な色眼鏡で見られることも多くなるだろう。
ーー琴子が貧乳でよかったのかもなーー
頭の片隅でちらりとそんなことを思う。

何にしろ性的な意味で彼女の方を見てしまっている訳ではないので、その辺りはきっちり説明する。変な誤解を持たれるのは不愉快である。

「ーー妻と、声がそっくりなんですよ。一瞬、妻が押し掛けてきたのかと、振り返ってしまうだけです」

そう、それだけだ。それ以外には一切の興味もない。

翌日には実習生城所茜の声は入江先生の奥さんの声とそっくりだ、という噂は既に一周回って直樹の元に届いたので、話したドクターの口の軽さに少々呆れたものの、別に自ら話したことだし、枝葉もついていなかったので、気にしてはいなかった。後から付け足された余計な枝葉は、直樹の耳には届いていなかっただけとは思いもよらなかった。



「ーー悪い、城所くん。うたた寝してて、妻と間違えた」

直樹に押し退けられ、よろけて床にひざまづいてしまった城所に、直樹は手を差し伸べて正直に話して謝罪した。

「あー、大丈夫です。私の声、奥さまとそっくりなんですよね? 昨日そう聞いてびっくりしちゃいました。でも、ちょっと光栄です。入江先生の奥さまならさぞ素敵な方でしょうし。声だけでも似てるところがあるなんて……」

「素敵かどうかは主観的なものなので、なんともいえませんが、ま、それ以外共通点は一切ありませんね」

髪の長さは同じくらいだが、黒くしっかりした髪質で全然違う。
実際実習の様子を伺うとグループリーダーをしているだけあってかなりのしっかりもので、医学部に入ってるのだから頭の中身も琴子とは比べ物にならないだろう。
顔はあっさりとした眼の細いタイプで、印象が薄い。
胸は云わずもがな。
体型も琴子より背も高く、痩せすぎの琴子よりは標準体型で、恐らく10キロは重そうだ、と失礼なことを考える。(抱き寄せた時の感じで体感)

「………でも、寝惚けて間違うなんて……なんかとっても意外です。奥さまのこと愛してるんですね。めっちゃ羨ましいです!」

「……疲れていただけですよ」

寝惚けるなどという失態は、あまり口言してもらいたくなかったが。
それだけ琴子に飢えていたのかと自分自身に驚いていた。

「私も遠距離で彼氏いるんですよ。高校の同級生なんですけど、地元に置いて来ちゃったんで。あいつ、あたしとここ受けたのに落っこちちゃって、結局医大諦めて医科専に行って……」

「へえ」

彼氏がいるという言葉に少し安心する。
変に親近感を持たれても困るだけだ。

「悪かったな、彼氏に」

「いーんですよ。最近電話もくれないし。さすがにもう五年離れてるんで。やっぱり遠距離ってダメかなーーって」

「……………」

「入江先生は奥さんと遠距離なんですよね。大丈夫ですか?」

「まだ離れて半年だが、妻はしょっちゅう電話をくれるし、夏休みは暫くこっちにいたし。それにどのみち来年に此処にくる予定だからね」

「看護学生でしたっけ。じゃあ来年は一緒にこっちで働くんですね。いいなぁ。私も卒業したら地元で研修しようかなー。彼、臨床工学技士で地元の病院に就職してるんです。できれば一緒に働きたいんですけどね」

「ドクターとMEのカップルか。いいんじゃないか?」

「私、心臓外科医志望なんで、一緒にオペ出来ればいいなーって」

どうやら遠距離の彼に心は残ってるらしい。
少し安心したせいと、声の心地よさとで暫く彼女の恋愛相談をついうっかり聞いてしまった。

だが、少し話してわかったことはーー声質は似ているが、愛媛出身ということで、微妙に地元の言葉と神戸に長く住んだせいで移った関西訛りとが混在して標準語を話していてもアクセントが随分違って、結局、琴子の声とはやはり違う、ということだった。

「……彼が今年就職してから、ほんと忙しいみたいで」

「MEはある意味オペ中の患者の命を一手に握ってるから」

人工心肺装置など医療機器を操作する技士がいなければ出来ないオペも多い。

「あー、彼、オペ室希望してるけど、今は透析センターなんですよ」

「………それも重要な仕事だ」

「そうなんですよね。でも希望が叶わなかったせいか、腐っちゃって、前に大喧嘩しちゃって、それからちょっと疎遠気味なんです。あたしも実習始まっちゃったし」

「でも、愛媛と神戸なら行き来するのに躊躇う距離じゃないだろう。うちの奥さんならどんなに時間がなくっても周りが驚くような根性で時間を作り出しひねり出し、這いつくばっても会いにくるかな」

「……這いつくばっても……ですか? なんか、イメージと違うけど、パワフルな奥さまなんですね。うーん、でも仕事と遠距離恋愛成立させるにはそれくらいパワーが必要なんですね。うん、見習おう!」

その時、扉の向こうでがたっと音がして、人影が一瞬、すりガラス越しに見えた気がした。

「ふふ。でも、やっぱり入江先生が奥さまをとっても愛してらっしゃることはよーくわかりました。このアクシデント、ちょっとラッキー、ってほんのちょびっと思っちゃいましたけど、事故として記憶から抹消しますね」

「………よろしく頼むよ」

彼女がよく彼の周りに出没する勘違い女の系列でなくて良かったーーとホッとしたのもつかの間ーー。

「入江先生が実は巨乳好きとか、あたしのことえろい瞳で見てるとかーー変な噂が流れてたけど、ぜーんぶデマってことですねっ? よかったぁ~~」

「はあっ!?」

直樹が思わず腰を上げて問い糺そうとした時、他の実習生たちも部屋に入ってきて話は頓挫してしまった。
くだらない噂が流れているらしい、ということに憤慨したものの、半分くらいどうでもいい気分だった。高校時代にも琴子と同居してからは根も葉もない噂の中で過ごしてきた。もう、今さらである。
ーーだが。
翌日には直樹の耳に、看過できない新しい噂が届けられたのである。

「入江先生と実習生の城所茜が誰も居ない医局のソファの上で抱き合っていた」
ーーーという。

勿論直樹は噂を届けてくれた親切な同僚に、はっきりと寝ぼけて彼女の手を引き寄せただけと、かなり正直に状況説明をした。そして、そういう関係では一切ないと。
もっとも、その正直な話が実に空々しい言い訳に聴こえるなどとは思いもしなかったのだ。
城所にも皆のいる前で謝罪し、わざわざ大きな声で「彼氏に悪かったな」などと言ったりした。
楡崎教授に呼ばれ事実関係を問われたが、これにもきっちりあったことをそのまま伝えた。琴子を知っていた教授は、「相当疲れているようだな。奥さんに来てもらってはどうだね?」とにんまりと笑い、直樹の肩を二回叩いた。


翌日には、一旦は沈静化し、直樹の耳には噂は届かなくなったし、すっかりそんな些末なことは忘れ去っていた。実は誰も直樹の周りで話さなくなっただけのことで、二人の不倫話は、かなり沢山の尾ひれやら枝葉やらが付きまくって、院内を瞬く間に駆け巡っていたのであるーー。




ーー恐らくーーかをる子が直樹に問い糺そうとしていたのは、その噂のことだろう、と思い返していた。
きっと根も葉もないことだとかをる子は分かっていただろうが、何故そんな話が沸いて出たのか確かめたかったのだろう。彼女は琴子と常にやり取りしていたようだった。事情を先に聞いておいて、こちらに来てから驚かないよう琴子に話すつもりだったかもしれない。





その後、直樹は医局のスタッフ何人かに訊ねたが、結局琴子に会ったという者はいなかった。

ーー来ていないのか? こっちに。
いや、そんなばかな。
来られないなら、ちゃんとA判定取れなかったと一言謝罪の電話を寄越すだろう。

直樹は段々自分の顔がイライラとひきつってきているのが分かっていた。

14時近くになるのに、昼メシも食えていない。
せっかくランチくらい一緒にとる余裕はありそうだと思ったのにーー

もしやーー。
実はもう病院に来ていて、あのくだらない噂を聞いたのか………?

直樹は物凄くいやな予感がざわざわと背筋を走るのを感じた。



とにかく琴子を探そうと、医局を出てあちこちを探し回っていた。
すると、非常階段の近くの廊下の片隅で、「待ってください、なんのことですか?」と、声が聴こえた。

ーー琴子!?

近寄ろうとしたが、すぐに琴子ではなく、城所茜だとわかった。
どうやらナース二人に詰め寄られているようだ。

「ばっくれんといて。あんた入江先生だけやなく、薬剤師の兼平さんにも色目つこうてるゆう話やんか」

「はい……?」

「彼女の恋人なんよ? 兼平さん。そやのに、彼女の胸見て、『ああ、君もあの娘くらい胸あったらな……』ってため息ついたって……そんな屈辱ある? あんまりやわ。いつの間に兼平さんにもちょっかいかけたんや! そんなに人のもん横取りするのが好きなん? ちょっと胸が大きいからって男に媚び売って……」

「えーと………」

「だいたい実習生のクセして入江先生とどうこうなんてだけで生意気なのよ! そんな声が似てるだけなんて、先生の奥さんの身代わりなだけじゃない!」

思わず直樹が三人のところに近寄ろうとした時、城所茜はきっぱりと二人のナースに言い放った。

「えーと、すみません。貴女方は兼平さんのことであたしに文句あるんですか?
それとも入江先生とのことで? どちらにしろ、あたしには関係ないことなので、文句云われても対処できません。
兼平さんとは一度薬剤部にお邪魔した時にお会いしただけですし。別に媚を売った覚えもありません。胸が大きいのは貴女の顔が微妙にエラ張ってるのと同じくらいどうにもできないことですし。
入江先生との変な噂は、先生ご自身がおっしゃった通りです。面白おかしく勝手に妄想されるのは心外です。
それと、あたしが入江先生の奥様の身代わりなんて、入江先生にも奥様にも失礼です」

「なによ、学生のくせして生意気な……!」

ナースの一人が掴みかかろうとしたところに直樹が「君たち何をしてるんだ?」と近づいていく。

「い、入江先生!」

「実習に来ている学生を吊し上げですか? ここのナースたちは。医者不足なのに、評判落ちてどんどん研修医の来てがなくなりますよ。それに随分と暇なんですね。他のナースたちはみんな休む間もなく走り回っているというのに、そんなくだらない話で」

「……う、うちらは別に……」

決まり悪そうにナース二人は慌てて逃げ去っていった。

「大丈夫か?」

直樹が問いかけると、城所茜は「あー大丈夫ですよ、全然。慣れてますから、こーゆーの」と、案外あっさりと答えた。
そういえば震えても青ざめてもなく、かなり平然としている。

「慣れてるって」

「ほら、この胸のお陰で、小学生の時から同性にはいじめられやすくって。でも、あたし結構鈍感なんで、あんまりいじめられてるって実感ないんですよね~~」

「たくましいな」

「そーですか? これくらい感覚鈍い方が外科医に向いてると彼に云われましたよ。解剖実習の後で平気で焼き肉とか食べれちゃうんですよねー。
さっきのナースたちもつい顔色や動脈の具合見て、臓器の色やら骨格やら想像しちゃってました~~」

「しかし、未だに噂が流れてるとは思わなかったな。もしかして今までにもあったのか? こんなこと」

「いやーここまであからさまな呼び出しは初めてで、ある意味新鮮でした。ほら、ちょっとドラマみたいじゃないですかぁ。地味にねちねち注意されたり、陰口あからさまに云われたりとかくらいはありましたけど、ほら、あたしあまり気にしないんで」

にっこりと笑う顔に強がりの色はない。これまでにも色々あって逆に何重もの防御の層を纏わせる術を身につけたのかもしれない。なににせよタフな精神力は医者としては頼もしいな、と感心する。

「……すまなかったな。おれが寝惚けて間違えたばっかりに」

「いいですよ。気になさらなくて。奥さましか知らない入江先生の腕の中の感触を思い出すだけでちょっとお得な気分でしたからーーあ、ごめんなさい、記憶から抹消する約束でしたね。いやーさすがにインパクトのある出来事だったのでなかなか消去できなくって~~」

えへへっと笑う彼女に直樹もようやく少し笑みを返した。

「彼氏に悪いだろ」

「はは、今と同じ事、彼に言ってやったんですよー。あ、この不倫騒動、ネタとして話したくて、久々にあたしから電話しちゃったんですけどね。そしたらちょっと心配になったらしくて。次に休みとれたらこっちに遊びにくるって~~」

タフで鈍感でポジティブで随分ぶっとんだ女だな、と思わず彼氏は大変そうだと苦笑する。

「それは……よかったな」

「はい!………あれ?」

「どうかしたか?」

「いえ、今、誰かそこに居たような……」

彼女が廊下の曲がり角の方を少し怪訝そうに眺めた。





その後、城所茜と別れた後、暫く琴子の姿を探し回ったが、結局、院内で見つけることができなかった。
つぼみルームにも立ち寄ったが、琴子と仲のよかった枝元くるみは帰った後で、他のスタッフは知らないといっていた。

ーー病院じゃなく、まずマンションか?

出来ればその方がいい。
直樹は、病院内で琴子がこの馬鹿げた噂を聞いて変な誤解をするのでは、という可能性を思い、忌々しさを覚えた。

マンションに電話をしようか、それとも東京の自宅に電話をしようかーーー直樹は一瞬悩み、とりあえず受話器を手に取った時ーー

「入江先生! 救命からコンサル入ってます! 神尾由輝くん、五歳、意識不明の状態で救急車で運ばれたようです。うちの患者だとーー」








※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

入江くん、君の予想は正解だ!

ごめん、やっぱり散々な誕生日なのです……(もうすぐ結婚記念日だというのに、まだ誕生日から話は進んでないという……)

そして、結婚記念日にも、短いかもですが、続きをアップしたいと思ってます。でも、おそらくhappyにはまだなれてないと思うので、先に謝っときまーすm(__)m
目標、クリスマスまでにはhappyに^_^;


そうそう、結婚記念日にもemaさんちでチャットあるかもしれないので、チェックしててくださいね~~♪


11/20追記 0時アップは無理です、多分~~m(__)m
結婚記念日中か、下手すりゃいい夫婦の日にずれ込むかもですが……
まだ出来てないのに、チャットしてたら書けるわけないやん、と今、気づく計画性のなさ………(-_-)


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2017/11/19 | [] | Edit

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2017/11/20 | [] | Edit

Re.マロン様

コメントありがとうございます♪

そう、直樹は琴子と出会ってなければ、
まともな医者にはなれないのではと思います。昔のコードブルー山Pみたいな尖ったデキルけど冷たいドクター笑
城所さん、キャラ設定めっちゃ悩みましたよ。黒か白かグレーか^_^;最初はポジティブモンスター目指したんだけど難しくて挫折。黒とかグレーにすると無駄に長くなりそうなんで、結局まあまあいい人に落ち着きました……^_^;
ので、そんなに今後でしゃばる予定はないですが、書いてみないとわからないという見切り発車なのです^_^;
そうなんです、声はね。声色だけじゃなく、トーンやアクセントですぐわかりますもんね。なので、今までは冒頭の一声だけで、一瞬、はっ!となったイメージなのです!(強引f(^_^;?)

ふふ、探すと見つからない……相変わらず私の話はスレ違ってばっかです^_^;

2017/11/23 | ののの[URL] | Edit

Re.ちびぞう様

コメントありがとうございます♪

きっと夏前夏後で直樹はぐんと変わったのではないかと笑 それくらい琴子ちゃんの影響は大なのです!
琴子の声が聞けないというのは、直樹にとって物凄いストレスだということを漸く思いしるおバカな奴なのです。琴子置いて神戸に行くからなのだよ、自業自得なのだよ!

さて、茜さんとの会話立ち聞きしてたのは誰でしょう?
うーん、もしかしてちびぞうさんの危惧があたってしまうかもー(そしたらごめんなさい)でもhappyendだから待っててくださいませ。はい、クリスマスまでには終わらせたいのです!(第一希望)

2017/11/23 | ののの[URL] | Edit

        

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