声を聴かせて…… (1)



1997年の神戸シリーズです。
神戸時代の隙間を埋め尽くしたいという野望達成のためにも、イタキス期間をこの時期のお話で書こうかなーと、『夏休み』が終わった後から考えてました(^_^)

話としては随分前からあったんですが、二番煎じというか、どっかで読んだことあるよーなとか……神戸ネタでよくある黄金パターンな気がしてアップするの若干迷ったんですが(なんか、タイトルもありがちな……)……… ま、いっか、二次だしf(^_^;





と、前置き長くなりましたが、ぬるい目で許していただけそうな方は、続きからどうぞ♪




※※※※※※※※※※※※※※※※






『あたし、今日から入江くん断ちするからっ!』

琴子から唐突にそう宣言をされたのは、10月も半ばのことだった。

「……………は?」

意味がわからず思わず受話器を見つめてしまう。

NICUの研修も予定通り終わり、元の配属の小児外科に戻ったばかりだった。
だがどの科に行っても研修医の忙しさはやはり半端なかった。
特に戻ってすぐに難易度の高い心臓病の新生児のオペチームに研修医ながらも参加することになり、その準備に忙殺される日々だ。
その夜、偶々着替えを取りに帰った瞬間に琴子の電話に出ることが出来たのは、互いにとってかなり幸運な出来事といえよう。

『もうすぐ、入江くんの誕生日でしょ?』

もうすぐ、といってもまだ1ヶ月ほど先だった。

『実は11月の頭に国家試験対応模試がまたあってね。前回の模試の合格判定がBだったから、今度こそ絶対Aを取ろうと思って』

Bでも琴子にしてみれば頑張っている方だとは思ったが、自分以外全員A判定だったと落ち込んでいた琴子に、今やれることをやるしかない、と励ましたのは自分である。

「ちょうど、入江くんの誕生日の少し前くらいにその模試の判定結果が出るのね。もし、A判定取れたら入江くんとこに直接誕生日おめでとうってプレゼント持っていくから! だから、そのためにもそれまで入江くんに電話するのもぐっと我慢して一心不乱に勉強しようって思ってるの! あたし、馬鹿だから自分に厳しくしないときっと怠けてしまうからっ」

おそらく電話の向こうではスポ根もののキャラクターの如く、ぎゅっと拳を握りしめ、瞳に炎を携えて空に向かって誓っているであろう琴子の姿が想像できた。

「…………で? もし、A判定取れなかったら、どうすんの?」

『うーんとね……会いにいくのは諦める。プレゼントは直接あげられないけど、入江くんには静かで心穏やかな誕生日を提供してあげるわ……』

「………それはありがたいな……」

ひどく素っ気ない直樹の言い方に、受話器の向こうの声が一瞬怯んだのがわかった。

『う……やっぱり、行くの迷惑だよね……あたしが行くと変なことばっかし呼び寄せちゃって……』

夏休みに起きた色々なことが思い出されたのか、自分の計画を一気に否定する方向に舵を切り出した。

「………ったく。夏休みの時にも言ったろうが。迷惑なんかじゃないよ。迷惑込みでおまえの全存在を受け入れてるんだから、今さらなことゆーなよ」

『い、入江くんっっ~!! じゃ、じゃあそっちに行っていいんだよね~~? A判定取れたら!!』

「……ああ。とりあえず今回は今のところこっちを離れる予定ないから。まあ、出勤なのは確実だから、来ても相変わらず構ってやれないけどな」

『いいの。プレゼントを直接渡せるだけで。おめでとうって直接云えるだけで!! あたし、絶対頑張って必ず神戸に行くから~~~待っててねっっ!』



そういって電話を切ったのが1週間前。
そして、琴子の予告通り、神戸に来て以来ーー琴子がこちらに来ていた時以外は決して1日も欠かすことのなかった電話攻撃が一切なくなったのだ。

『ーー用件は録音されていません』

夜遅く帰宅して真っ先に点滅ランプを確認して再生ボタンを押していた日々が懐かしく感じる。

ーーもしもし、入江くん? あのね、今日ね………

流れてきた甘ったるい琴子の声に、とりとめのない日々の話題に、疲れた心がどれだけ癒されていたのか、改めて思い知る。

ーー勉強に集中するために入江くん断ちするの!

そんなの一種の願掛けみたいなものだろう。5分や10分電話をする時間を惜しんだところでどうなるものでもあるまい。
そう思いつつも、勉強するからと張り切ってる琴子に文句も云えない。
こっちから電話をかけることなど滅多にないくせに電話を寄越さないことにクレームをつけることなど出来るわけもない。

「………せめて前の留守電を消去しなければよかったな……」

思わず誰も居ない部屋で独り呟いてしまった。独り言のクセはない筈だが。
毎回琴子は長々と喋り倒すので、留守電の容量がオーバーしてしまうため、前日の留守電は聴いたあとで消去していたのだ。
残しておけば良かったと思っても後の祭りである。

ーーおまえ、これでもしA判定取れなかったら、承知しねぇぞ。

いや、絶対大丈夫であると信じてはいる。
いざという時に信じられないような力を発揮することは、出会ったばかりの高三の中間テストで保証済みだ。斗南高校に受かったことや、看護科の転科試験に合格したことを鑑みても、琴子が一発で看護婦国家試験に受かることは疑ってもいない。

たとえ今回またB判定だとしても、きっと本番では合格になるに違いないのだ。

とはいえ、もしもB判定だとーー

…………誕生日なのに、おれはお預けくらうってことか?

琴子の声も日々聴くことができず、そのうえーー?

琴子本人が自分を律するために決めたこととはいえ、なんだか微妙に納得できない気分の直樹であったーーー。













「ちょっと待ってぇーーおいてかないでよー」

ーーー琴子!?

何処かで琴子の声が聴こえた気がして、思わず振り向いた。

「入江先生? どうしました?」

小児外科の医局で、指導医と担当患児の治療方針について打ち合わせをしている最中のことだった。

「いえ、すみません」

琴子の声を聴かなくなって1ヶ月近くたった。
たしか模試も先日終わったはずである。
模試が終わったら電話攻撃は再開されるのかと思っていたのに、その予想は外れた。
どうやら結果がわかるまでぐっと耐えているらしい。

「もう、琴子ちゃんってば健気で……それにね、本当にこっちが心配になるくらい一生懸命勉強してたのよ。だから模擬試験終わったらお兄ちゃんに電話したら?っていったんだけど。A判定取れるまで電話しないし会わないって……やつれて耐え忍んだ顔でそーゆーのよっ! なんてエライのっ
もう、こんなときこそお兄ちゃんから電話してあげなさいよ!」

してやりたいのは山々だが、帰宅するのは毎日深夜だ。
みんなが起きている時間に帰れないので電話もできない。

いや……時間は作ろうと思えばどうとでもなるのだろう。
だが琴子が色々考えて折角決意したことなのだ。それを直樹が簡単に覆してはいけないと思っていた。

「………なんだかんだ二人とも頑固なのよね。お互い禁断症状出てるくせして」

母、紀子が神戸にわざわざやってきてそう言ってため息をついたのは11月に入ったばかりのことである。
因みに、紀子は友人と宝塚に観劇に来たついでに直樹の処に立ち寄ったのだ。
母親が来たからと構っていられる時間もないので、少し食堂で琴子の近況について聴いただけだった。

「どうせ家事なんてする暇ないんでしょ? 部屋の掃除くらいしてあげるわよ」、という紀子の申し出に、「冗談じゃない。丁重にお断りするよ」と顔をしかめて断言したら、偶然通りかかった救命の鬼姫が背中越しにボソッと「そういうのありがたーくお願いして甘えてあげるのが親孝行ってものなのだよ。ま、まだまだ青い君にはそんなことわからないか」と含み笑いをして去っていったので、苦虫を噛み潰したような表情で、無言で母にマンションの鍵を渡したのであった。

その後、母に寝室に置いておいた琴子の写真やら夏休みの置き土産やらを見られて「もう~~そんなに寂しいならなんで一人で神戸なんかに来ちゃうのよー」と後から電話でネチネチと云われたので、やはり二度と頼むのは止めようと心に誓ったのである。


まったく、母親に会う時間を作るくらいなら琴子に電話する時間をなんとか捻出できただろうと、後から忌々しく思ったりもした。
それくらい、琴子に飢えていた。
一ヶ月も琴子の声を聞かないなんて、知り合って以来初めてではないだろうか。
結婚前、相原親子が一度家を出ていった後も、自分が一人暮らしを始めた時もーーー琴子のたゆまぬ努力のお陰で、その姿を見ず、声を聴かなかった時期はかなり少ない筈だった。
いやーーそういえば唐突に琴子が姿を見せなくなった時があったなーーと、ふと一人暮らしを始めたばかりの学生時代を思い出していた。妙に落ち着かなくて裕樹を呼び出して琴子のことを探らせたりした青かったあの頃。ーー結局琴子が勘違いしていたのだと琴子の親友たちのおかげで知ることが出来て、琴子の誤解を解くためにわざわざ松本綾子を大学に来るように仕向けた。
あの頃から琴子は自分にとって欠かせない存在だったのだと今更ながら思う。


「ちょっと、みんな待ってよ~~」

また琴子の声がした。

禁断症状もかなり重症化しているな……そんな幻聴が度々聞こえるなんて……

疲れもピークなのだろう。
今置かれている状況は、救命にいる頃より、NICUにいる頃よりハードだ。
直樹は自嘲気味に苦笑し、しっかり覚醒しなければとコーヒーを淹れるために席をたったーーその瞬間。

「すみませーん。ご挨拶が遅くなりまして……」


ーーーーえ?

少し甘えたような鈴の鳴る音のような琴子の声。今度ははっきりとーーすぐ後ろから聴こえた。

思わず振り返る。

だがそこには当然琴子がいる筈もなくーー医学生が4名いただけだった。
男子3名女子1名。白衣を着てはいるものの、みんな緊張気味で落ち着かない様子だった。
ーーそういえばもうすぐ実習生が来るとかいってたな……

「ええっと、来週から小児外科でお世話になる実習生です。本日はご挨拶に伺いました。私はグループリーダーの城所茜といいます。よろしくお願いします」

紅一点の女子がぺこりと頭を下げる。

直樹はその声を聴いて愕然とした。
無論、髪の長さが同じくらいのロングだということを除いて、容姿は全く琴子と似ても似つかない。
だが……
あまりにーー琴子の声とそっくりだった………











そして、それから10日ほど経った頃ーー。
研修医の入江直樹と実習生の城所茜が不倫しているらしいという噂が、まことしやかに外科医局内で囁かれるようになっていたーー。








※※※※※※※※※※※※※※※




しかし、直樹さんのbirthday、結婚記念日に向けてこんな話でよいのかと………今も煩悶中………f(^_^;





おそらくbirthdayは直樹さんも琴子ちゃんも悶々としたまんまでしょう……f(^_^;(←ネタバレ予告)
長く引っ張るつもりはないのですが、結婚記念日までにはハッピーエンドになればいいなぁーと……

でも、イタキス期間中に終わらない可能性の方が大かな~~(笑)



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2017/11/07 Tue|00:18||EDIT

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2017/11/07 Tue|01:38||EDIT

のののRe.マロン様

コメントありがとうございました♪

我ながら誕生日に向けて何故こんな話を……と思いつつ、夏休みが終わったら書きたいと思ってた神戸のこの時期の話……いざ書くとなると当日にはハッピーになれないのでちょっと迷いました……(-_-)でもまあ、うちはなんだかんだトラブルだらけのアニバーサリーなのはお約束なので、終わりよければ、ま、いっかf(^_^;

あー、なんか私書き方悪かったですねぇ……。幻聴(と、直樹は思ってる)ではなくて、実はすでに行き来していた城所茜さんの声のつもりだったんです……上手く表現できてなくて申し訳ない……^_^;

ふふふ、つい、いいとこで終わって気になる展開にしてしまいたくなるのですよー。イケずというより単なるどSかも……えへっf(^_^;

2017/11/13 Mon|22:47|URL|EDIT

のののRe.ちびぞう様

コメントありがとうございました♪

そうですよねー普段ならたとえ声が似てようが顔が似てようが、きっと琴子以外には全く気にかけない直樹さんですが、今は禁断症状ピークでした………さて、何があったんだ〜〜?
それは次の次のお楽しみ……なのか!?(未だにそこまで到達しないスローペースで申し訳ない)

ふふ、琴子の判定結果はいかに? それは次のお話で〜〜♪

2017/11/13 Mon|22:54|URL|EDIT

のののRe.シキ様

拍手コメントありがとうございました♪

はじめまして。長文の熱いコメントとってもうれしいです。
「ぴんくりぼん」あげていただいて嬉しいです。まだ二次かきはじめたばかりの頃の話ですが、色々思い入れのあるおはなしなので。
ハルの生まれた時の話は、妄想はあるんですけど、重くてくらーくなりそうで、なかなか書けそうにないかも……^_^;でもリクエスト嬉しいです。心に留めておきますね。
いやー私もシキさんと同じくそんな話か大好物なので、つい琴子ちゃん可哀想な目に遇わせてしまいます。
そう……今回も……
ええ。でもハッピーエンドはお約束しておきますので!

どんどん語ってください!お待ちしてます笑
こんなお話でも日々の癒しになっているのなら幸いです。
お気遣いも色々ありがとうございました〜(^^)d

2017/11/13 Mon|23:12|URL|EDIT

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