19970928~1997年のHappy Birthday 4



すみません。
琴子ちゃんの誕生日のお話、まだ終わってません………orz







※※※※※※※※※※※※※





直樹が浜松駅に着いたのは12時前だった。上りのホームに移り、琴子の乗っている(だろう)新幹線が着くまで30分ほど待った。

長い30分だった。
見知らぬ土地の、東京と比べたら行き交う乗客も疎らなホームである。止まる新幹線よりも、轟音をたてて素通りしていく本数の方が多いのだ。

「え? うっそー芸能人? こんなトコに?」

「やーん、イケメンじゃん」

「モデルだら? 雑誌とかで見たことあるに……」

遠巻きにボソボソと呟く声をひと睨みして追い払う。

雑誌なんて病院広報誌の研修医紹介記事にしか載ったことない!

(もっとも院内に置いてあり無料配布のその雑誌があっという間になくなったというのも神戸医大始まって以来初めてのことらしいが)

通過するのぞみを見送ったあと、ようやく琴子の乗っているだろうひかりが到着した。
すぐに駆けおりて直樹に向かって突撃してくる琴子を想像して、身構える。

しかしーー。

幾人かの降りる波が終わり、停車して暫く経ったのに肝心の琴子の姿が見えないとに少し焦りを感じる。

乗りそびれたのか。
降り間違えたのか。
それとも車内で思わぬトラブルに巻き込まれたのかーー

琴子ばりの想像力で、およそ考えられるトラブルのバリエーションを想定し、あれこれ思考を巡らせているとーー

グリーン車の方がにわかに慌ただしく、何やら騒然としている。
そして、鉄道警察官が何人かバタバタと駆けつけてきた。

どきりとする。

……まさかーーー!

取り押さえられた中年の男が扉から降りてきて、鉄道警察隊に引き渡されていた。
何が起きたのかさっぱりわからないが、瞳を凝らして共に降りてきている客の姿を確認するが琴子の姿は見つからないーー

すると。

「あーー! 入江くーーーんっっ!!」

直樹がその騒ぎに気をとられている間に、ひとつ前の自由車から降りてきたらしい琴子が、直樹に突進してきた。

「うわっ」

あまりの不意打ちに、ぐらりとよろけそうになるが、なんとか琴子を抱き抱えたまま踏みとどまった直樹である。

「おま………」

「あーん、入江くん、やっと会えたよー! 」

直樹の胸に顔を押し付けてしがみつく琴子をひっぺがし、「おい、おまえ何もやらかしてないだろうな?」と、未だに鉄道警察隊が数名うろうろして、剣呑な雰囲気の中でざわめいている一群を指差す。

「へ? 何? 何かあったの?」

目を丸くして不思議そうにキョロキョロと見つめる琴子に、どうやら何も琴子には関係ないらしいと、密かに安堵する。

「スリだって~~」

「グリーン車で寝てる乗客の荷物から財布を抜きとってたらしいよーー」

降りてきた乗客の声からようやく状況がわかり、琴子も驚いていたようだ。

「へぇーーそんな事件があったんだ!」

「みたいだな。おれとしてはおまえが巻き込まれてなかったことが逆に新鮮な驚き」

「大丈夫だよーグリーン車なんて乗らないし……それより」

琴子は直樹を見上げにっこりと極上の笑みを投げ掛ける。

「……ほんとは遠くから眺めるだけで会うつもりはなかったのに、思いもかけずこうして至近距離で会えるなんて!………めっちゃ嬉しいよーっっ」

どうしたら、そんなくだらないことを思いつくんだ? 交通費が無駄なだけだろうが。会いたきゃ堂々と会いにくりゃいいものをーー

「おまえは、全く………」

口から零れ落ちそうになった嫌味な言葉を辛うじて飲み込む。
琴子に内緒で東京へ帰った自分も同罪だ。
それに今日は誕生日なのだーー。

「……琴子、誕………」

ぎゅるるるる~~~

直樹の言葉を、琴子の腸内運動の音が盛大に鳴り響いて遮った。

「入江く~~~ん………おなか空いた……」

へなへなと琴子が崩れ落ちそうになり、咄嗟に支える。

「朝から何も食べてないの~~死にそう……」



* * *




「おいしーーっ 浜松の名物って鰻なんだねーーっ」

駅ビルのレストランフロアにでも行こうかと思ったが、新幹線のホームからも見えた『うなぎ』の暖簾に琴子の目が釘付けになっていたのがあまりにわかりやすくて、駅から降りてすぐのその老舗らしい鰻店に入った。
近付いた途端に漂う芳ばしい香りに、大して空腹感のなかった直樹も、さすがに食欲が沸き上がってきた。

「ふっくら~~ふわふわ~~」

なかなか決められない琴子に業を煮やし、さっさとうな重と肝吸いを注文した。
幸せそうに頬張る琴子を見ているだけで自然と口角が上がってくる。

ーーしかし、昼間っからしっかり精力つけてどうしろと?

「あー美味しかったね~~」

「ああ」

「ほんとにね、どうして、神戸にいっちゃったんだろ。大人しく東京にいたらもっとゆっくり長い時間入江くんと過ごせたのに、ってそーゆーこと考え始めたら、もうあたしってバカバカバカってエンドレスで落ち込んじゃうんだけど…….」

自分の頭をポカポカと叩きながら、愚痴が止まらない。

「過ぎたことは仕方ないだろ」

直樹が一言東京に帰るかもと告げていれば、琴子が神戸に向かうことなどなかっただろうが、それについては一言も直樹を責めたりはしない。

「うん、そうだね。もう恨み節はやめるよ。それに、あたしが神戸にいかなきゃ、こんな来たこともないところでデートなんてできないもんね!」

あくまで前向きに捉える琴子であるが、直樹が少し眉根を寄せたことには気がつかない。

デート?

「で、何処にいく? 浜松って初めて来たよ。何があるの?」

何処に?
一緒に居られる時間は短い。
そんなもん、一択だろう、と言いたくなる。
なのに琴子は、駅に置いてあった観光パンフレットをぱらぱらと見始めている。

いや、観光なんてしてる暇ないから!
あと一緒に居られる時間は残り4時間程度だ。

「へーーうなぎパイファクトリーだって。うなぎパイって『夜のお菓子』っていうんだよー。前にじんこからお土産でもらって吹き出しちゃったわよ」

夜のお菓子はどうでもいいのである。

「でも、やっぱりちょっと離れてるとこは無理だよねー」

あたりまえだ……
とりあえず、駅近辺にいくつかラブホがあるのはチェックした。
せっかくの誕生日なのだから、もう少しいいホテルで……と思ったが、こんな時間にチェックインは無理だろう……

「あ、この駅の隣にあるタワー、展望台とかあるんだね~~今日、お天気いいから富士山とか見えるかな~」

うきうきとした表情でパンフレットを眺める琴子の様子に軽くため息をついて、「じゃあ、行くぞ」と腰を上げた。

「え?」

「行きたいんだろ? 展望台」

「う、うんっ」

とりあえず、まだ4時間もあるーー。







「え、あれ、もしかして富士山?」

琴子が微かに見える白い稜線を指差した。
地上212メートル、45階建ての展望回廊は都庁と同じくらいの高さがあるが、やはり見える景色は随分違う。
静岡県の中では面積と人口は県内最大で、地方都市としては活気に満ち溢れてるが、高層ビルが立ち並ぶコンクリートジャングル東京とは違う長閑さが、眼下の町並みに漂っている。

それでも霊峰富士が見えると少しばかり得した気分になるものだ。

「多分そうだな。こんな時間に見えるなんて珍しい」

朝の澄みきった空気の中でないと遠方からは見えにくい。霞んで見えないことの方が遥かに多いだろう。

「実は行きの新幹線の中でも富士山見えたんだーー。なんか二度も見ちゃってお得な気分~~」

「ああ。おれも見たぞ。今日は朝方は雲ひとつなくて、裾野までくっきり見えて綺麗だったな」

「ええ~~! 入江くんも新幹線の中で?」

「ああ」

「きっとどっかですれ違ってたんだよねー」

「そりゃそうだろ」

「どうせなら同じ場所で一緒に綺麗な富士山見たかったなー」

「今見てるじゃん」

「そうだけど。目を凝らさないと……あれ? 消えた……」

「少し雲が多くなってきたからな」

「あーん、残念……」

こんな時間に僅かでも見えたことこそラッキーだったのだが。
一周するのにそんなに大して時間もかからない回廊を、ぐるりと廻ったが、出会う人影は疎らだった。
たしかに箱庭のような景色は非日常であるが、見飽きないという程でもない。
ハーモニカ型のお洒落なタワーはこの都市のシンボルタワーのようであるが、さすがに東京タワーのような混雑さはない。地方都市のタワーはどこもこんな感じだろう。
だが、琴子にとっては直樹と居られる場所は何処であろうとも特別なところなのだ。
東京タワーより遥かに低くてもシチュエーションだけで天国に近い場所と思えるのだから。

「そろそろ降りるか」

「うん……」

富士山がもう一度見えないかとガラス窓に張り付いていた琴子は、名残り惜しげにその場から離れた。




下りのエレベーターは程なく到着し、乗降客は他には誰も居なかった。
普通のエレベーターよりは少し広めの箱の中で、短い間でも直樹と二人きりなのが嬉しいのか、ぴたりと直樹に張り付いていた。

「今度、神戸にいったらポートタワー上ってみたいなーー」

「こっちの方が高さはあるぞ」

ポートタワーは100メートルそこそこくらいだった。

「でもどうせなら入江くんの住んでる街を見下ろしたい」

「なんだよ、それ」

「考えてみればあたし、東京タワーも上ったことないかも」

「そーいやーおれもないなー」

「ええ? そうなの? うん、でもそーゆーもんだよねぇ」

なんとなく、東京タワーは観光客が行くもの、というイメージがあるせいか、今さら行こうとは誰も言い出さない。

「いつか二人で東京タワー行こうねー」

「…………『いつか』ね。いつまで東京タワーが日本一の電波搭でいられるのかわからんが………」

と、いいかけた時ーー
がくん、とエレベーターが揺れて、照明がぱちぱちと点滅し、そして、がくんと不自然に止まったーーー

「え………?」

「ウソだろ……」

点滅を繰り返していた照明が落ちて常夜灯に替わる。

エレベーターはそのまま扉が開かれることはなく、二人は仄暗い薄闇の箱に閉じ込められたのだったーー。







※※※※※※※※※※※※



一気にラストまで行っちゃう予定でしたけど、続きなかなか書けなくて……(((^^;)

次で終われると思います、はいf(^_^;



あー、浜松、実は全く駅に降りたことないので(車でしか行かない……)、かなり適当な描写です……アクトタワーも……違うぞーーと思った地元の方いらっしゃいましたらこっそり教えてくださいませ……(((^^;)



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2017/10/15 Sun|21:41||EDIT

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2017/10/16 Mon|00:14||EDIT

のののRe.マロン様

コメントありがとうございます♪

夏休みに引き続きどんだけ色々あるんや、と自分で突っ込みつつも、相も変わらずのトラブル尽くしです。
一応誕生日なんで、琴子の願いを叶えてあげてる直樹さん……ちょいと優しすぎかしら(((^^;)
エレベーターって有りがちなんですが、とりあえず二人っきりになれるところってここしか思い付かなかったんですねー。丁度浜松駅の隣に高いビルがあったんでf(^_^;
ウナギ、これ書いてる時は無駄になる予定だったんですが……色々と書きながら変わっていったという……f(^_^;
でも、誕生日ですからねー♪ ついサービスしちゃいました笑

2017/10/22 Sun|23:05|URL|EDIT

のののRe.ちびぞう様

コメントありがとうございました♪

はい、なんとか会えましたよ。琴子はあまり状況は見えてないですね。とりあえず会えただけでもうけもん、みたいな感じでしょうか笑
直樹の方は目まぐるしく算段してますけどね。予定通りに行かないのが琴子なんですがね〜〜
ふふ、スリリングですか? エレベーターネタって有りがちかなーと思いつつ。ま、ちょっとドキドキしてもらえたかしら(^-^)v


2017/10/22 Sun|23:19|URL|EDIT

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