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ハネムーン症候群 ~ある大停電の夜の救急外来にて~


すみません、誕生日のお話が完結してないとゆーのに……(((^^;)

実をいうとこのお話は病院本用に書いたものなのですが、手違いやら勘違いやらの、諸事情がありまして、ブログアップすることになりましたf(^_^;






※※※※※※※※※※※※※※※







昨夜は都内で大規模な停電があった。

しかも完全復旧に5時間もかかったというのだから近年には珍しい緊急事態である。

夜の10時という時間帯だったのは、経済活動への影響は日中に比べれば少なかったのかもしれない。

だがやはり不夜城東京から灯りが消え、交通機関も麻痺して、都民の日常が混乱を極めたのは間違いない。

原因は航空事故による送電線の寸断であったが、サイバーテロによる送電ストップではないかというまことしやかな噂が流れたりもした。

幸い多くの病院内は自家発電でなんとか補え、医療行為に大きな支障をきたすことはなかった。

たが停電による事故が多発して、ここ斗南大学病院の救急外来は昨夜から患者が引きも切らなかった。

直樹たち研修医も昨夜から診療科を問わず当直要員として駆り出され、眠る暇はなかった。


「やっと終わった………」

長い夜が明けて、交代の時間となった。隣の診察室からぐったりと疲弊しきった表情で出てきたのは同期の船津だった。


「お疲れ」


ちょうど最後の患者の入院手続きを終え、病棟へと送り出した直樹も診察室から出てきたところだった。


「救急の応援は何度か入ったことあったんですが………意外と単純な外傷だけじゃなくて、驚きましたよ」

「そうか?」

停電が始まったばかりの時は、暗闇で転んだとか頭をぶつけたとか、警察が誘導するまでに起きた交通事故やら、外傷患者が多かったのだが、後半は暗闇が怖くて過呼吸起こしたとか、蝋燭で火事を起こして火傷を負ったとたか、テレビが見れなくてイラついて夫婦喧嘩で怪我をしたとか…………

「暗闇で風呂に入って肛門にペットボトルが突き刺さって取れなくなったって……噂のアレに遭遇しちゃいましたよ」

直腸異物はちょいちょい救命に出現するなかなかコアな症例である。救命にいるとよく話題に出る下ネタトップ1にとうとう当たったらしい。

「なんでペットボトルが風呂にあったのか訊ねても、シャンプー入れてたって……本当ですかね」

「嘘だろ?。確か炭酸飲料だったな……他人の趣味嗜好にけちをつけるつもりはないが」

なんだかよく分からない世界ですねぇ~~と船津が呆れていた。

幸い麻酔ゼリーで肛門を拡げて取り出すことが出来たらしい。時には開腹オペになるし、腸管破裂にでもなれば人工肛門となることもあるから侮れない症例である。

「あと、暗闇でペットが逃げたと大騒ぎ。それが毒蛇で……」

「血清があってよかったな」

ちなみにハムスターに鼻をかじられた、というのもきた。停電中にペットを構うな、と云いたくなる。

「暗闇で薬を間違って飲んだとか。何故か大量に……」

ショック症状で運ばれてきたが、胃を洗浄して事なきを得た。

「明け方になって、あの症状、多くなかったか?」

「ああ。アレね」

「そう、あれ」

「神経麻痺」

腕が麻痺して動かない、という患者が夜が明けてから実に3名ほどいた。

若い男性ばかりだったが、脳梗塞を疑ってパートナーに連れられて慌てて駆け込んできたようだった。

「まあ、脳梗塞なら腕だけじゃなくて足や顔や言語にも麻痺は出るからな」

救急車を呼びつけて、麻痺が腕だけなのを聞いた救急隊員から「脳梗塞の疑いは低い」と云われても信じなかったらしい。

「脳梗塞じゃなくて、橈骨神経麻痺……でしたね」

とりあえず救急では何もできないので改めて整形外科を受診するように助言しただけである。

「でも、外国人が2名でしたね。やっぱ日本人は少ないのかなー?」

「まあ、あんな別名があっても、実際ソレが原因でかかる患者は日本人は少ないっていうな。たいてい電車や車で変な寝かたをして腕を圧迫したとかが主な原因」


正式名称は橈骨神経麻痺ーー別名『ハネムーン症候群』または『サタディーナイト症候群』もしくは『腕枕症候群』ーー。

「停電の夜は、他にすることないってことですかね……」

「1ヶ月くらいしたら産科の来院が増えるかもな」

あの大停電は少子化対策の為の政府の策略か?と一瞬疑ってしまうような症例が余りに多い夜だった。


「そういえばホテルからの心筋梗塞の救急搬送も二件ほどあったらしいです……」

ともに患者は60代男性ということである。ある意味元気である。

「両方とも一命は取りとめたらしいから良かったな」

「………全くです。みんな停電に乗じて何やってんだか」

顔を赤らめて憤慨する船津であるが、別に停電でなくてもパートナーが傍に居れば営まれる自然の摂理だ。他人があれこれ云うことではない。
直樹も当直でなければ間違いなく暗闇を怖がる琴子を抱きすくめ、がっつりいただいていたに違いないだろう。
もっとも、搬送された二人とも相手は若い愛人で正式なパートナーではないようだったが。

「しかも、男も女もきっちり服着てて……女はばっちり化粧もしてて。準備万端で救急隊員迎えるより、心臓マッサージしてて欲しいですよね」

「………愛人の心得だな」

直樹も苦笑するしかない。

「入江さんはたとえ相手が琴子さんでも心臓マッサージくらいはできるでしょうから安心ですね!」

………できるだろう………多分。おそらく。きっと。………せめて、それくらいは。

いや、その前に年をとってもコトの最中に心筋梗塞なぞならないよう、生活習慣だけは規則正しくしておこう。
例え還暦すぎても相手は琴子しかいないが。

「僕も真里奈さんと結婚できれば、老後も安心ですっ」

「老後のためにナースと結婚したいのかよ」と、呆れたように呟いた直樹の声は耳に届かなかったようで、

「………真里奈さんに会いたいな…………彼女とならハネムーン症候群にだって耐えられる。というか、ぜひなってみたい」と、うっとりと空をみつめる。

「重症化したら腕が動かなくなって日常生活に支障をきたすぞ。メスが握れなくなったら困るだろうが」

「そ、それは困りますけど………」 

「コツがあるんだよ」

「ええっ?  ど、どんなコツが………って、入江さん、いつも琴子さんに腕枕してあげてるんですかっ?」

「さあな」

「ああ、ボクも早く真里奈さんと…………あんなことやこんなことや……」

妄想の世界に旅立った船津をおいて、直樹はさっさと帰り自宅を始めた。

無論、直樹も琴子の顔が見たくなったなどと、微塵にもそんな気配を船津に悟らせることはないのである。





*     *     *






「入江くーん、お帰り~~~」


昨日は日勤で、今日は準夜で夕方出勤の琴子が満面の笑みで出迎えてくれた。

「病院、大丈夫だった?」

昨夜、停電になった時点で家族に安否確認の電話をした。一番心配なのは鳥目の妻である。琴子が救急搬送されてくるのでは、と変な心配が頭をよぎったのも事実だ。

琴子には携帯を持たせてなかったが、両親が持っていて助かった。電話機がデジタルなので停電だと固定電話が繋がらないのだ。

こういう不測の事態を考慮するなら携帯を持たせることも考えなければならないな、と少し悩む。

琴子に持たせてもすぐに失くすし携帯しない予感がひしひしとするので無用の長物と思っているのだが。

「とりあえず問題はなかったよ。救急外来は満員御礼だったけどね」

「そっかぁ。お疲れさま」

ふんわりと微笑む琴子の表情に、疲れも吹っ飛ぶ。そんなことは一言も口には出さないが。

「おまえ、どうしたんだよ、腕」

直樹の鞄を受け取ろうとした左手がぎこちない。
利き手の右はだらんと下がったままだ。

「うん。なんか、朝から右手が痺れて上がらなくって」

「見せてみろ」

「大丈夫。ちょっと変な寝方しちゃっててーー」

「変なって……」

「実はね、昨日ソファで寝ちゃって…」

へへっと舌をだす。
琴子の右手は軽く痺れているが、全く感覚がないわけではないようだ。

「なんで………ソファなんかで?」

「だって。停電になって中々電気復活しないから怖くなっちゃって」

ーーと、呟いたら、紀子が「じゃあ、キャンドル灯してリビングで暗闇パーティしましょう!」などと言い出したらしい。

「暗闇パーティって、おまえ鳥目で見づらいだろ?」

「うん。でもお母さんがあちこちにキャンドルやランタンや置いてくれて、そこそこ明るいし、ちょっとした非日常的な感じがして、なんかわくわくしちゃった」

そして、リビングで夜更けまでみんなで薄明かりの中でボードゲームに興じていたのだがーー

「いつの間にかソファの上で寝ちゃってて……しかもチビを抱えて腕枕にしてたみたいで………」

ーーチビかよっ!

思わず琴子の後ろで同じく直樹を出迎えて嬉しそうに尻尾を振るチビを、少々眉間に皺寄せて見つめた。

「おまえ、チビは体重、おれと変わらないくらいあるんだぞ?」

そのチビを一晩腕枕したというのなら、そりゃ橈骨神経麻痺にもなるだろう。

「腕はどれくらい上がる?」

琴子をリビングに連れていき、ソファに座らせ、手首を取る。

「手首を上げられるか? げんこつは握れるか?」

「ちょっと痺れてるけど、なんとか……」

とりあえず軽度なようで、直樹はほっとため息をついた。

「おまえ、気を付けろよ。下手すりゃ1ヶ月くらい痺れが取れにくくなるときもあるんだ」

「ええっ」

青ざめる琴子に、「ま、これくらいならわざわざ整形受診しなくても時間薬で治るだろ」と、軽く手首を揉みほぐす。

「よかったー」と、安心したように直樹を見上げる琴子。

停電に怯える琴子の傍にいたと、少し自慢げに横にちょこんと座って尻尾を振って直樹を見上げるチビの頭を撫でつつも、手放しで褒めてやることが出来ない狭量な直樹である。

「でも、入江くん、あたしのことよく一晩中腕枕してくれることあるよね? いつも大丈夫なの? 痺れてない?」

笑ってた顔がすぐに不安そうに翳る。

「この症状は、同一部位が長時間圧迫されて橈骨神経がダメージを負うために起こるんだ。おまえ、寝相悪くてころころ頭を動かしてくれるから、基本、大丈夫」

「え、そ、そうなのーー?」

この病の別名なんて教えてやらない。
病気の名前なのに、きっと琴子は『なんかロマンチック~~』と、テンション高く喜んでしまいそうだから。

(………ハネムーンの時には色々と慣れてなくて……そのうえおまえも緊張と疲れのせいか珍しく寝相がよくって……朝、ちょっと焦ったっけ)

一瞬だけ、あのハワイのハネムーンの朝にーー記憶が翔んだ。

やっと手に入れた宝物を手放したくなくて一晩中抱え込んでいたら、朝、手首に違和感を感じ、腕が自分の腕じゃないような感覚に戸惑ったのを思い出した。

まだ軽い方でよかった。重症化すると手首と腕が上がらなくなり、握力も低下し生活に支障が出るし、治療が長期化することもあるのだ。

「ーーあ、お風呂入るよね?  それともご飯先にする?  みんなの朝御飯の残りだけど……」と、キッチンに向かおうとした琴子の手を掴んで制止する。
とりあえずこれくらい軽症なら、なんやかんやしても支障はないだろう。

「まず風呂でいい。で、そのあとは寝室」

「あ、そうだよね。当直明けだもんね。そりゃ眠いよねーー」

 「いや、どちらかといえば目は冴えてる」

にやっと笑って妻を眺める。

「へ?」

「おまえ、夕方まで暇なんだろ?」

「え。あ、うん………」

「じゃあ、後で寝室に来いよな。時間はたっぷりあるし」

何の時間?  とは言わずもがなでーー。

直樹の『琴子欠乏症』は、琴子の『ハネムーン症候群』よりも重篤なのである。










※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


えーと……病院本のうらあんないをお買いになられた方で、もし私のお話で、んん???と思われた方がいたら、まあ、そーゆーことなのです(((^^;)

まだ手元に届いてない方、読まれてない方、このお話を先に読んでからお読みくださるとありがたいのですf(^_^;




追記 10/9 現在、うらあんないとのセット頒布はあと残り2冊のようです。手に入れるなら今ですよー(^-^)v

追記2 セット販売、完売したようです♪
あとは診療所案内一冊のみの販売になるようなので、emaさんのブログをcheckしてくださいませ(^_^)

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2017/10/08 | [] | Edit

Re.マロン様

コメントありがとうございました♪

色々お騒がせしました(((^^;)
マロンさんには初稿だけお見せして、全年齢向けに書き直したのはお見せしてなかったよなーと……(((^^;)
私も戴いてからなかなか中身を開いてなかったので、マロンさんから裏の感想いただいた時、ちょっと、あれ?と思ったのですよ……

ふふ、そうですね〜〜
もし琴子の腕に支障があったら……ちび、どうなっていたことやらf(^_^;

2017/10/12 | ののの[URL] | Edit

アハハ!やっぱり入江君は心が狭い相手がたとえちびでも!琴子ちゃんに関して肉食系な入江君ですもんね?v-8

2017/10/14 | なおなお[URL] | Edit

Re.なおなお様

コメントありがとうございました♪

ほんと、チビにも焼きもちやく直樹さん、ちっちゃいですよねーー笑

2017/10/15 | ののの[URL] | Edit

        

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