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1997年の夏休み(39)

2017.07.16(08:48) 302



前回の拍手お礼ページにたくさんの拍手ありがとうございました~~(//∇//)

びっくりするくらいの拍手数に、モチベーション、かなりアップしました。

さあ、最終回に向けて頑張ろう~~(^^)v
(………といいつつ、更新空いて申し訳ないっっ)

絶倫直樹さん、今回もまだ引き続き頑張ってますよ……(どんだけ~~?という叫び声が聴こえてきそうだ(((^^;)






※※※※※※※※※※※※※


8月26日(火)





目覚めた時、既に太陽は随分と高い位置にあった。ブラインドの隙間から漏れる光によっておおよその時刻は見当がついた。
そろそろ天候が崩れるという話だが、まだ雲は空を覆っていないようだ。
腕の中の琴子は死んだように眠っている。本当に息をしているか不安になるくらいだ。
何せ、全然寝返りを打たない。グーパンチも膝蹴りも飛んで来ない。

ーー相当疲れさせたらしいな………

わりぃな。
箍がハズレた。

くるくるとその長い髪を指に絡み付け弄びながら、直樹は心の中で謝る。

こいつが神戸にやってきた夜もこんなだったよな。

結局、あれ以来琴子を可愛がることができなかったのだ。
多忙なせいもあったが、何よりもこれでもかというトラブルの連続だったせいだ。
脳震盪に熱中症に………
不可抗力な出来事も多かったが、どうしてこうも次から次へと………

でも、ま。

直樹は優しげに熟睡している妻の寝顔を眺め、その額にキスをする。

ーー今こうしてこの腕に抱けることに感謝しないとな………








「い、いりえくーーんっ! どーして起こしてくれなかったのぉ~?」

せっかくのお休みがすでに半日潰れてしまったと、半泣きで抗議する琴子であるが、目が覚めてもベッドからなかなか起き上がれないのだから仕方ない。

結局、朝食兼昼食のサンドイッチを寝室に運んでもらってベッドの上で食べた。 動けない琴子の代わりに、コンビニで買い出しをしてきたのだ。(サンドイッチの他にもおにぎりやら避妊具やらその他モロモロも一緒に)
ようやく動けるようになった途端にまた一戦、と際限なく挑んでくるので、拒む術を知らない琴子はつい受けてたって撃沈して、の繰り返しである。

直樹の要望通り、ほぼ引きこもってベッドの住人と化した二人揃っての夏休み一日目が終わりを告げようとしていた。

「……不満そうだな……」

因みに夕食もベッドの中である。
せ、せめて晩御飯くらい作らせて~~と懇願した琴子だったが、やはりトイレにいくのにも直樹に抱き抱えられないと動けない状態なのだから、キッチンに立てよう筈もない。

「ま、せっかくやっと休めたわけだし。こーゆー一日も有りじゃない?」

随分とすっきりとした顔の直樹がにやりと笑って枕を抱きかかえて拗ねる琴子に糖分補給のコンビニスイーツを差し出す。

こんなんで誤魔化されないからねっ! といいつつもしっかり口元にクリームをたっぷりつけてカップのパフェを食べていた。

「………で、今日はこのまま日がな一日ここで過ごすとして」

「もう、日が暮れる時間だよね……」

閉じられたブラインドを指で押し下げて、ちらりと窓の外を窺う。

「あれ? 雨降ってる?」

窓にポツポツと水滴が張り付いていた。

「みたいだな。さっき買い物行ったときは怪しげな空模様だったが降ってはなかったんだが」

「水不足だから、雨はありがたいんだろうけど………このタイミングで降らなくても……あ、台風来るってきいたけど、いつくるんだろ?」

テレビがないから、一日中自宅に引き込もっていると天気予報がわからない。

「パソコンで調べたら、明日か明後日くらいかな」

「ええっ?? なんで~~~」

腹立たしいくらい太陽は空を席巻し続けて、地上を灼きつくしてきたのに、何故今この時になって雨だけではなく台風まで引き連れてやってくるのか。
琴子は恨めしげにもう一度ブラインドの隙間から真っ黒な雲に覆われた空を見つめた。

「………で、明日、どっちにする? 温泉か、ホテルかーー」

二人してベッドに寝そべって、ようやく明日の計画を相談し始めた。直樹としては、台風がきていることだし明日も明後日も部屋に引き込もっていても全然構わないのだが。

「………やっぱり、せっかく頂いた宿泊券、無駄にするのはよくないよね……」

「ま、お袋からのはこの際、今回はパスさせてもらうか。公共交通機関使っても、車でも、有馬温泉なら一時間程度で行けるんだが………台風来ること考えたら移動距離は少しでも短いほうがいいし」

「そうだね……ハーバーランドのホテルなら近いし……台風来ても泊まる分なら大丈夫だよね。丸山さんからの宿泊券を無駄にしてしまうの申し訳ないし」

「台風の最中にクルージングディナーは無理だろうが、もし来るのが遅れたり進路がずれたりすれば、クルージングの後にホテルに泊まって、翌日は映画を観てーーというコースが一番、みんなの厚意を無下にせずに済むパターンかな?」

「うん、うん、そうだよね! あたしもそれが一番いいかな、と思ってたの。それでいこう!」

空を見つめて少しテンション下げていた琴子の表情が、ぱっと明るくなる。

「でも、有馬温泉、露天風呂付き離れの客室らしいが……」

「ええっ! それ聞くと惜しい気持ちが……」

琴子の顔がくるくると変わる。
だから面白がって直樹はわざと迷わせるような情報を伝える。

いや、本音を言えば離れの露天風呂付き個室、というのは直樹的にも琴子を可愛がるのに絶好なシチュエーションだな、とは思うのだ。
だが状況を鑑みても今回は近場のホテルを選択するのがベストだろう。

「………ま、もしおまえが来年こっちに来れたら、いつでも行けるさ」

「う、うん! そうだね! じゃあ、約束だよ! あたしが国家試験受かって、無事神戸に来て、一番最初の二人揃っての休日は有馬温泉にいこーね!」

「ああ。いいよ」

ーー結局、その約束は果たされることはなかったのだが。
(ちなみに数年後の医局の慰安旅行まで、二人で露天風呂に入る機会はなかったのである……)


「で、無事、明日の計画も決まり、もし天気が大丈夫だったとしてもクルージングは夕方だからそれまで時間は空いてるわけだし………」

直樹がにやりと笑いーー琴子は「へ?」と頓狂な声をあげて、振り向くとーー
あっさりと唇を捉えられ、再びベッドの上に縫い付けられた。

……う、うそでしょ………またぁ?

琴子の心の声は、発せられる前にあっさりとその濃厚なキスの嵐に飲まれていったのだった。










8月27日(水)

PM5:30


「入江くんの意地悪………」

ディナークルーズの発着場でもある波止場へと向かう途中であった。
タクシーでそのまま中突堤へ向かうつもりだったが、ポートタワーやメリケンパークが見えてきて、時間もまだ早いことから公園内を散歩したいと云ったのは琴子である。

「どうして? 歩きづらそうな妻を支えてやってる優しい旦那をつかまえて」

こんなに歩くのも辛いくらいよろよろしてるのは誰のせいよーと叫びたくなる。
一昨日の夜から今日の昼過ぎまで、殆どベッドの住人となっていた琴子であった。しかもその間殆ど服を身に付けていない。(いや、何種類かのBDや、謎のシースルーカッパはいつの間にか着せられていたりしたのだが)直樹にお世話されながらのほぼ軟禁生活であった。
違う、あたしが入江くんのお世話をしたかったのよーーちゃんと主婦したかったのよー! と恨み言を呟いても、動けないのでお世話をされるがままだったのだ。

救命チームの愛なのか、たまたま人手が足りているだけなのか、珍しくもまだ一度も呼び出しはかからない。
そして、台風はどうやら進路を変更したらしく本州直撃は免れそうである。
とは言いつつ波が高ければ当然クルージングは中止であるが、九州方面は多少の影響が出ているものの、こちらは特に波風は強くなっていない。
クルージングは殆ど諦めていたのだが、問い合わせたら航行予定だというので、せっかくだからと琴子もバタバタと仕度をして、こちらに来て初めてのオフショルダーのワンピースを身に付けた。もっともしっかりレースのカーディガンを羽織って露出を抑えねば、肌のあちこちに付けられた鬱血痕が丸見えだった。

「しかし、おまえの執念は凄いな。雨雲をはねのけ、台風の進路をねじ曲げて」

直樹が面白そうに空を指差す。
昼過ぎまでは降ったり止んだりだった雨は、出掛ける間際にぴたりと止んだ。台風の影響で久々にやってきた低気圧も、琴子の祈りによってあっさり撃退されたらしい。
空は少し雲間が晴れて、沈みかけた太陽がオレンジ色に光っていた。生ぬるい潮風が頬を軽く撫でる。

「別に、あたしのせいじゃないでしょー! まるで、すんごい超能力者みたいじゃないっ」

そんな技があったら苦労しないわよっとぶつぶつ云う琴子の手をとって、直樹は
雨で濡れていたベンチをティッシュで拭いて、ゆっくりと腰掛けさせる。
腰砕けでよろよろしていた上に久々に履いたハイヒールのせいでかなり辛そうに歩いていたのだ。

「わー優しいーーいいなぁ」

通りすぎていったカップルの女性が、羨ましそうに琴子と直樹を見たあと、ちらりと隣の自分の彼を見て嘆息していた。

「ふふっ入江くん、めっちゃフェミニストと誤解されたよね」

「誤解?」

直樹は軽く眉を潜めたが、確かにフェミニストな訳では全くないので否定はしない。
珍しく琴子を労っているのは、せっかく正常な健康状況に戻った琴子を即効歩けなくなるほど耽溺してしまったという後ろめたさがあるからなのだ。

「でも、絶対台風にしろオンコールにしろ、なんらかの邪魔は入ると思ったのに、ここまでは恐ろしいくらい順調だね」

「まだわかんないけどな。確かもう一つ台風発生したって」

「ええっ本当!? あーん、………不吉なことは言わないで~~」

お願い神様、もう台風来させないでくださいっ急患も増やさないでくださいっーーと、目の前のオブジェに向かって祈る。

「ご神体じゃないぞ、これは……」

目の前にあるオブジェは『オルタンシアの鐘』というモザイクで彩られた鐘楼である。その向こうにはポートタワーも聳えていた。

「ふふ、でも、やっと港町神戸に来たーって感じだね」

「そういえば、おれも初めてかも」

神戸に赴任して4ヶ月、病院とマンションの往復しかしていない生活だった。

「このメリケンパーク波止場も震災で大きな被害を受けた。その状況をそのまま保存したメモリアルパークを建設していて、来月竣工するらしい」

「………そうなんだ」

今目の前に広がるのは、雨上がりの夕暮れの紫色の空と、静かな海の見える公園の穏やかな情景。
琴子の目の触れる景色に、震災の傷跡は殆ど見当たらない。それくらい日本の技術力は高く、復興の速度は速い。だが、目に見えぬところでまだまだ多くの傷は残っているのだろう。まだたった1年半なのだ。
そして、心の傷はさらに深く、癒えるにはまだまだ時間がかかるだろう。
この一ヶ月のうちに知り合った人たちはみな『あの日』の記憶を抱えたまま、それでも一生懸命日々を過ごしていた。

「さあ、そろそろ行こうか」

「うん」











「はーー素敵だったねぇ、クルージングディナー。料理も美味しかったし……」

ハーバーランド内のホテルにたどり着いてチェックインしたのは夜10時を過ぎていた。
クルージングの際に甲板から眺めたハーバーランドの美しいイルミネーションの中に、今自分がいるのが少し不思議な感じだ。
29階の窓からは神戸港の夜景が一望できる。宝石箱のような百万ドルの夜景が、眼下に広がり夢の世界にいるようだった。

「ふふ。海は大荒れにもならず船は沈まなかったし、変なトラブルも急患もなかったし、なんか何事もなく、すんなりと終わったね」

「………何かあった方がよかった?」

直樹の問いかけに琴子がぶるんぶるん首を横に振った。
普通はそうそう簡単に事件なんて起きない。この期に及んでまで妙なことが起きてたまるか、とも思う。
台風の影響で船が揺れ、琴子が船酔いするのだけが実は心配だったが、それも杞憂に終わった。

それでも、時折直樹が病院のPHSを確認しているの見ては琴子が不安そうにしているのを、直樹はわかっていた。
もし呼び出しがあったら無論快く送り出してくれるだろう。
ーーいや、そんなことは想像するのは止めよう。
直樹はネクタイを緩めて、ぽいっとソファの上に投げ捨てた。


琴子は窓にぴたりと張り付いていつまでもうっとりと夜景を見続けている。

「………琴子?」

窓の外を見つめていた琴子の表情がガラス窓に写り込んでいた。そして、その幸せそうなうっとりとした顔が、いつのまにか寂しそうな表情に変わっていた。
直樹はこの2日間、ふと琴子がこんな表情を見せることに気がついていた。

「あ、何? 入江くん」

振り向いた琴子は、そんな翳りは微塵も感じさせない、いつもの琴子らしい笑顔だった。

「いや………」

「ふふ、久しぶりにワイン飲んだら酔っぱらっちゃった。お風呂はいって寝よう。なんか、せっかくの高級ホテル、寝るだけって勿体ないけど」

「ああ、勿体ないよな」

直樹がにっと不穏な笑みを投げ掛ける。

「え? まさか……」

琴子が思わず後ずさる。といっても背後には大きな窓があるだけだが。

「寝るだけなんて、勿体ない。まずはこの夜景をじっくり楽しまなきゃ、な」

そして、直樹は窓に手をついて琴子が逃れられないようがっちりガードする。
夜景をバッグに、降り注がれるキスを受け止めながら、琴子もおずおずとその手を直樹の背中に回した。
これだけこの2日間執拗に求められて、体力も限界だろうに決して直樹を拒否したりはしない。
困ったように眉尻を下げても、決して心の底から嫌がったりはしていないと分かるから、直樹も底なしに溺れていくのだーー。






8月28日(木)



結局、窓辺で一戦、ベッドの上で二戦と、直樹にしては一応琴子を気遣ったほうである。
ホテルの朝食ビュッフェまで、歩いて普通に辿り着いたので、まだまだイけたかな、と変な反省を密かにした直樹とは対照的に、琴子は朝から妙にテンション高く、「どの映画観に行く?」とホテルのフロントにあった映画案内のチラシを見て楽しそうだった。

「どれでも。おまえの好きなのにすればいいよ」

「そ、そう?この『デ〇ラがライバル』って面白そう。原作の漫画好きなんだよねー、あたし。でも、実写化するとイメージ違うの多いからなー。ふーん、このデボ〇役の谷〇章介ってカッコイイよねー」

「カッコイイ?」

「え………うーん、入江くんの方がカッコイイです! モデル出身の俳優さんみたいだけど、入江くんの方が断然モデルみたいだしっ」

軽く眉を潜めただけの直樹に慌てて言い訳する琴子が可愛い。

「うん、やっぱりラブコメより、入江くんも楽しめるのがいいなー。『ス〇ード2 』 なんてどう? 1は面白かったよね。 あーでも、今回キ〇ヌ・リーブスって出てないんだよね~~」

「なんだよ。おまえファンなの?」

またもや直樹の眉がぴくりと反応する。

「普通にカッコイイなーって。あ、でも、ファンってほどじゃないよっ! あたしの一番は入江くんだよ、いつだって!」

拳を振り回して力説する琴子に、直樹は思わず吹き出す。

「とにかく、おまえが観たいやつにすればいいよ」


結局、琴子が選んだのは、1が大変好評だったクライムパニック映画の続編だった。
アメリカでは最低続編賞をとって興行的には失敗とされているらしいが、本編が面白すぎたせいと主演が交代したせいだろう。
物語としては豪華客船がシージャックされ、手に汗にぎるアクションの連続で普通に面白かった。
暗くなるとすぐに寝てしまう琴子も、スクリーンに食いついて場面ごとに百面相をしている。琴子の顔を眺めている方が百倍面白いな、と、にやつく直樹だった。

そして、映画は無事ヒロインが助かりプロポーズされて終幕となった。
エンドロールが流れる中、琴子が「ふふっこれ、昨日クルージングの前に観てたらちょっと心配になっちゃったかもね」と笑う。
笑っていると思った。
笑っているとーー

「琴子……なんで、泣いてるんだ?」

「え……」

エンドロールが流れ終わり、明るくなった館内。
横に座っていた琴子の頬にはポロポロと涙が伝っていた。

そんなに感動的なラストシーンだったろうかと、直樹は映画を思い返す。

「へへ……なんで泣いてるんだろ……あたし……」

泣き笑いのような困惑の表情をしていた琴子の顔が不意に苦しげに歪んだ。

「だって………何か楽しいことがひとつひとつ終わる度に、入江くんと離れ離れになる時間がどんどん近づいてくるんだもん………!」

そういって、顔をくしゃくしゃにして直樹の胸に顔を埋めたのだった。












※※※※※※※※※※※※



ずいぶん駆け抜けた感がありますが……^_^;


2日間琴子をベッドに拘束している直樹さんに思わず「絶倫ヤンデレ大魔人」の称号を与えてあげたくなりました……(((^^;)



1997年の映画を調べたらまさかの『デ〇ラがライバル』が8月に公開でちょいとびっくりでしたf(^^;
ス〇ード2の方はテレビで放映されたの観たけど実はあまり記憶なかったりして。やっぱり1の方が面白かったなー。(実は旦那と初めて観た映画がス〇ード1でした。しかも懐かしのドライブシアター!笑)

ちなみに、ハーバーランドの映画館で当時これらを上映していたかどうかは不明です……今のようなシネコンなんてまだない時期ですよね、多分……(((^^;)あしからず。
無論、台風の発生も進路も捏造です……



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【2017/07/16 21:59】 | # | [edit]
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【2017/07/18 14:48】 | # | [edit]
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