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1997年の夏休み(34)

2017.04.24(23:35) 293


前回のお話でいつもよりたくさん拍手をいただいて、あんな立ち回りでも良かったのかしらとちょっとほっとしております(((^^;)
気をよくした勢いで週一アップを目指したのだけど、結局月曜日にずれ込みました………f(^^;






※※※※※※※※※※※※※






「………だいぶ青くなってるな」

直樹はベッドの上で琴子のパジャマのズボンの裾を捲って、青紫の皮下出血のある左足の膝下を優しく触れていた。

「大丈夫だよ、これくらい。ちっちゃい頃なんてこんな青タン、しょっちゅう作ってたし」

確かに、そそっかしい琴子は知らぬうちによくぶつけることが多く、夜ベッドの上でじっくり(隅から隅まで微に入り細にわたり)検分していると、直樹が付けた覚えのない痣が膝だの肘だのにあったりする。付けたのが人間でないとしてもいまひとつ不愉快な気分になる直樹である。
ましてや今回は人間で、しかも男だ。



「もう痛みもなくて普通に歩けるなら骨がどうこうってことはないだろうが」

「これくらいで病院は大袈裟だよ。退院したばっかで今度は整形外科なんて」

琴子が上目遣いで訴える。

ーーーこれくらい?

冗談じゃない。こんな鬱血を琴子の身体につけていいのは自分だけである。
はっきりいってあれくらいの制裁では気がすまないくらいだ。
あの時は命の危険や逼迫した状況から琴子を守るために必死で、無我夢中で男を投げ飛ばしていた。
今改めてこの痛々しい痣を見ると、怒りが新たに沸々と沸き起こってくる。


「警察から診断書は求められると思うからな。傷害に関しては起訴されるかどうかはわからないし、裁判とかにおまえを
出廷させるのも面倒だから、告訴しなくてもいいとは思ってる。ただ広大くんを誘拐しようとした略取未遂や他にも余罪があれこれありそうだしな。厄介なのはあいつが名の知れた企業の経営者だってことだ。今日以上のマスコミが明日から病院に押し掛ける可能性がある」

「え? そうなの?」

そーいえば、テレビ局の車がいっぱい駐車場にあったよねー、と呑気に琴子は思い出していた。

「……入江くん……今日はもう病院戻らなくていいの?」

「ああ。さすがに呼び出されないだろ。今夜は傍に付いててやれとみんなに云われたからな」

くるみからの内線を受け取ったのは偶然直樹本人で、「はい、私ですが…」と云った後、みるみる顔色が変わる様を見た周囲のものたちは、「……また嫁か……!!」と鋭く察してしまったようであった。

その後の騒ぎも耳に入ったのか、一度荷物を取りに医局に戻った時も、立て続けに起きるトラブル三昧に対して、驚嘆やら憐れみやら気遣いやら苦笑やらーーどう反応していいのか戸惑っているのが明らかな、微妙な空気が漂っていたのは確かだ。

「ファイトだ、入江先生。神は耐えられない試練は与えたりしないものなのだよ」という、姫子からの意味不明なエールを背に医局を後にしたのだが、とりあえず呼び出ししないでいてくれたらありがたいものだと思う。


「……やん……くすぐったい……」

直樹が琴子の膝下の鬱血痕にキスをした。
半径三センチくらいの赤黒い濃淡のある痣となり、少し腫れもあり痛々しい。

「いっい……いりえくんっ/////」

消毒のつもりでキスをしているのかな、と思ったらかなり執拗に舐めるように口づけてくる。
さらにパジャマの裾をたくしあげ、白い大腿の方に直樹の唇が移動していた。手もさわさわと琴子の脚を撫で回している。 医師の手技というよりは完全に下心満載の妖しい手の動きであった。
琴子の細くて白い脚は神戸に来たばかりの夜にはそれこそ直樹の付けた鬱血痕だらけであったのに。
痛ましくも忌々しい打撲の痣以外はすでに全てが消えて真っ白になっている。それだけ琴子に触れていないという事実に、神はなんでこんな試練をあたえるのだと天を恨みたくなる。

とはいえ、病み上がりの琴子にこれ以上のことは今夜はまだするつもりはないのだがーー触れていると抑えが効かなくなりそうだった。

ひとしきり脚にキスをしたあと「今日は疲れたろ、もう寝な」と身体を離すと、真っ赤な顔の琴子が、少し拍子抜けしたように「え? い、いいの?」と直樹を見つめた。
高揚して潤んだ瞳を見ると、箍が外れそうになるが、最近大活躍の理性を総動員させてグッと堪える。
意識を反らす為に、ベッドから離れて室内を見回した時、ふと目に入った、ヴィトンのキャリーバッグ。

「………そういえば」

すっかり忘れていた。

「………おふくろって、どこ行った?」

「あーーっ ほんとだっ!!」

琴子もすっかり忘れていたらしい。

「こっちにいるお友達に会ってくるって……まさかこんな時間まで帰ってこないなんて……」

琴子が少し青ざめる。

「……留守電、点滅してるな」

「あ、ホントだ」

電話機の留守電機能のランプが点滅していた。琴子が神戸に来て以来、殆ど点滅することのなかった赤いランプである。
再生ボタンを押すと、甲高い紀子の声が響き渡った。

『あらー、琴子ちゃんいないのかしら。だめよーちゃんと寝てなきゃ。あ、あたしねぇ、今夜はお友だちのところに泊まるから、心配しなくていいわよー。明日の朝にはそっちに顔出すわね。
お兄ちゃんも帰ってるわよね? よもや病み上がりの嫁を放って赤の他人のケアをしてるんじゃないわよね?
ちゃんと琴子ちゃんを労ってあげなきゃダメよ。とはいえ、可愛がりすぎてもダメよ。ほどほどにね。お兄ちゃんたら加減を知らないものねぇ。
じゃ、ま、今夜は二人でまったりしてちょうだいな。おやすみー』

「……なんなんだ、このひとは」

思わず呆れ返る直樹とは逆に、「お義母さん、本当に神戸にお友だちいるのかしら。もしかして、あたしたちに気を使って……」と、琴子は申し訳無さげな表情をする。

「 あのひと、顔は広いから恐らく日本中に友だちいるんじゃねぇの?」

「そ、そう?」

「そう。だから気にせず今夜はしっかり休め。色々有りすぎて疲れたろ」

「うん……。なんか、ほんと、あたしって入江くんに迷惑かけてばっかで ……」

しゅんと打ちひしがれる琴子に、「なんだよ、またもういっぺんその話に巻き戻る?」苦笑して、琴子の顔を引き寄せて、唇を塞ぐ。

この部屋で、このベッドの上で久しぶりのキス。
啄むようなキスからゆっくりと絡めあうものにかわり、やがて食らいつくようなキスに変わっていきーー

「じゃあ、ちゃんと寝ろよ」

ひとしきり濡れそぼった唇やら美味しそうな首筋やらを堪能したあと、唐突に離れてベッドから降りる。

「え……あ、入江くんはまだ寝ないの?」

「少し調べることがあるから。おまえはしっかり身体を休めろよ」

昨夜と同じで、身体を労ってくれているのだなーと、琴子も察する。
その優しさがすごく嬉しいが、すこしばかり悶々としている琴子であった。無論、直樹はその10倍くらい悶々としているわけなのだが。

「入江くん、おやすみ」

「ああ、おやすみ」

寝室の隣のリビングで直樹がパソコンを操作する音を聞きながら、いつの間にか琴子はぐっすりと寝入ってしまっていた。




8月21日(木)




「いっ、入江くんごめんねーーっまた寝坊しちゃって」

翌朝、琴子が目覚めると、既に直樹が朝食の準備をしていて、慌てて跳ね起きる。

「別にいいよ。おまえはまだ寝てて。昨日退院したばっかだし」

「も、もう、大丈夫だよっ。あ、コーヒーあたし淹れるねっ」

バタバタとパジャマのままキッチンに駆け寄って、豆の準備を始める。

「トーストと目玉焼きしかねーぞ」

「うん、全然大丈夫。それより入江くん、ちゃんと寝たの?」

豆を曳きながら琴子は心配になる。
しっかり熟睡していたようで直樹がベッドに入ってきたかどうか全く気がつかなかった。

「寝たよ。ど真ん中占領してるおまえをどかすの苦心したが、なんとかね」

「う。ご、ごめん……」

「いいよ。慣れてる。蹴られるのも」

「ええー!? また蹴っちゃった~~?」

「いつものことじゃん」

昨日の非日常が嘘のような日常感に、琴子は得も言えぬ幸福を感じつつ二人で久しぶりの朝食をとる。

「………美味しい」

直樹の焼いたトーストもサニーサイドアップの半熟加減も絶妙である。琴子が作るとたかがトーストが何故あんなに真っ黒になり、目玉焼きもカチカチになるのだろう。

「コーヒーも美味いよ」

「……ありがと」

な、なんか、やっと二人っきりの新婚生活ちっくな感じじゃない? と琴子は新聞を読みながらコーヒーカップを片手に持つ直樹をうっとりと眺める。
随分しかめっ面で新聞を読んでいるが……

「三面記事だけど、載ってるな」

「え?」

直樹が新聞を机の上に広げて指さした。

『Kコーポレーション取締役逮捕』
と、大きな見出しで半面くらいスペースを割いて記事が書かれてあった。
しっかり顔写真も載っている。

「わー……あのひと本当に社長さんだったんだー」

「支度できたら出掛けるぞ」

新聞記事を斜め読みしていた琴子に、皿を片付けながら直樹が声をかけた。

「え? 何処に?」

「病院。おまえも整形受診しろっていっただろ?」

「もう、なんともないよー」

「診断書もらうだけでも診察は必要だからな。予約してねーから初診は待ち時間がかかるが、おれと同じ時間に行けば一時間待ちくらいですむだろ?」

「……うん」

診断書なんて大袈裟だと思うし、昨日はドキドキしたけれど喉元過ぎればなんとやらで、みんな無事だったんだし、ま、いいじゃん? という気分なのだが、警察が介入している以上そうもいかないのだろう。





出掛ける仕度が済んで二人して玄関から出ると、丁度隣の扉も開いた。

「あ、おはようございます。琴子さん、ちゃんと眠れた?」

「かをる子さん、昨日は色々ありがとうございました~~」

事務員の制服である白のブラウスに黒のタイトスカートを身につけたかをる子にペコリと頭を下げる。

「いえいえ。それより朝からすごい騒ぎになってるわね。病院、大丈夫かしら」

「え?」

「あら。テレビ観てない? ーーあ、テレビなかったっけ。朝から情報番組やらニュースやらでうちの病院がバンバン撮されちゃってるわよ。それとあの男の会社とーー」



かをる子の言う通り、病院の前には昨夜以上の報道陣が周囲を彷徨いていた。
何やらマイクを向けられている職員もいる。
琴子も直樹も彼らを避けるように職員通用口へ足早に駆け込んだ。朝から面倒なことを訊かれたくはない。

かをる子の話によると、朝のワイドショーでセンセーショナルに騒ぎ立てられていた要因は、昨夜病院で子供を連れ去ろうと騒ぎを起こした男が、Kコーポーションの社長であったことが大きいようだ。
しかも粉飾に脱税に不正取引の嫌疑をもたれて大阪地検の特捜から内偵を受けていたこと、そして、今朝会社に強制捜査が行われるということが大きく取り上げられていたようだ。
新聞記事よりも随分と詳細な情報が放送されていたらしい。

「ふ、ふんしょく?」

「赤字なのに儲かってるように誤魔化してること」

「ふ、ふーん。???」

なんだかよくわかっていない琴子にざっくりと説明して、直樹は難しい顔をしてかをる子と話をしている。

「圭子さんが心配ね。マスコミはもう色々嗅ぎ付けてるみたい。あの男が拐おうとした少年が、震災で亡くなった兄の子で、高額な遺産を相続していること。そして、遺産管理をしている弁護士とグルになってどうやらその甥の遺産を横領していたこと。今回の事件は特捜のガサ入れが入ることを予感して、甥を引き取って後見人として遺産を正当に手に入れようと焦って暴走したみたいね」

「……多分、圭子さんのこともすぐ取り沙汰されるだろうな。警察が震災時の誘拐の件を知っているなら尚更ーー」

「そうね。震災の時、その甥っ子が離婚した母の元にいて無事だった、なんてこともニュースで流れてたから。全く一晩でよくもまあそんなことまで調べるわよね」

「え? 圭子さん、どうなっちゃうの?」

難しくて半分くらい意味不明だった琴子だが、圭子のこととなるとばっと食い付いてくる。

「退院後に警察で事情聴取はされるかもな。彼女が誘拐を認めたら逮捕勾留の可能性は否定できない」

「……遺産も叔父にネコババされてお母さんも逮捕されたら広大くんがかわいそすぎるわ」

「圭子さん、やっぱり捕まっちゃうの?」

琴子が真っ青になる。

「警察にとっちゃ些末な事案だろうが、あの男の罪を暴く過程で避けられないだろうな」

「なんとかしてあげて! 入江くん、なんとかならない?」

「琴子さん、いくら入江先生が天才でも弁護士じゃないんだから………」

かをる子が驚いて諌める。

「おれは弁護士じゃないけど、知り合いに見習いは何人かいるんで紹介することくらいはできるかな」

「あー、渡辺さんとか武人くんとか!!」

琴子の顔がぱっと輝く。

「もっとも、おれよりフットワークの軽い人が何やら暗躍してるかもな……」

「へ…………?」




その後、直樹とかをる子はそれぞれ職場に行き、琴子は整形外科で診察の受付をした。
受付番号からかなりの待ち時間が予想されたので、琴子はその間に圭子の部屋に向かった。
広大は結局一晩圭子の部屋で過ごしたらしい。怖い想いをしたのだから仕方ないだろう。

すこしばかり迷って、漸く辿り着いた圭子の部屋をノックするとーー

「あれ? お義母さん!?」

圭子の傍らで、何故か紀子がころころと笑いながらリンゴを剥いていたのである。








※※※※※※※※※※※


フットワークの軽いひとに全てを任せてしまおう……… (((^^;)さぁご都合主義パワー全開だー(^_^)v


ところで、なんだか琴子ちゃんの身に何かある度に忍の一字でお預けくらってる入江くんが不憫になってきた今日この頃………
待ってて~~もうすぐだよっ(多分)





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コメント
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【2017/04/24 23:58】 | # | [edit]
紀子ママも、ハイライトみたいに出てくるね?でも、琴子ちゃんと入江君二人だけで過ごせて、甘い甘い一夜とはいかないけど?とりあえず、二人で過ごせて、ママはきっとホテルで過ごしたのよね。v-86
【2017/04/26 20:47】 | なおちゃん #- | [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2017/04/26 22:19】 | # | [edit]
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【2017/04/27 12:37】 | # | [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2017/04/29 21:31】 | # | [edit]
コメントありがとうございます♪

そりゃもう、琴子に痕をつける奴は蚊の一匹も許せない直樹さんですから(←そうなのか……?)もうこの男地獄に堕ちろってなもんですよねー。

我慢させ過ぎてだんだん憐れにすら感じておりますので、早いとこ解禁させてあげたいもんです。多分そのうちに(^w^)

ええ、紀子さん、かなりのご活躍ですよー。何やってるのかナゾのままですが………f(^^;
【2017/05/03 01:19】 | ののの #- | [edit]
コメントありがとうございました♪

いざというときの紀子ママです。魔法使いの如く何でもしてくれるハズ?です(((^^;)
一応医者としての立場を優先してじっと我慢の入江くんです。
紀子ママも、なんやかんや若夫婦に気をつかってますねぇ………
【2017/05/04 06:05】 | ののの #- | [edit]
コメントありがとうございました♪

一応心拍停止したので労っております^_^;まだ医師としての経験値浅いので、あまり加減がわかってないかもですね。2年後の慰安旅行では脳震盪起こしてもお風呂誘うし、きっとその後朝までコース……これくらいなら大丈夫というのがわかってきているのでしょう笑

そうそう、琴子の為なら人外?の力を発揮する二人です……似た者親子……^_^;

【2017/05/04 19:59】 | ののの #- | [edit]
コメントありがとうございました♪

なかなか甘い夜を過ごさせてやれなくて直樹さんは忍の一字でございますが、これも彼の試練なのです笑

ふふ、ちょっと新婚っぽい朝を目指してみました(^w^)

紀子ママの采配は………期待に添えたかなー?
【2017/05/05 23:25】 | ののの #- | [edit]
コメントありがとうございました♪

姫子先生のあのセリフに笑っていただけてよかった~突っ込んでいただいたの紀子ママ様だけです!
ほんとに、琴子ちゃん、どんだけ事件を呼び起こすのでしょう。お陰で入江くんは刺激が絶え間ない生活ですよねー。
くるみちゃんもほんの2週間足らずでこの夫婦のことわかったようで、ナイスな選択。
いや、ほんとサイテーな男ですが、もうこの会社までまとめて面倒見る予定の紀子ママです。太っ腹笑
鮮やかに解決……? とは言い難いかもしれないですが(書き手が色々素人なんで)寄りきってなんとかしてしまうスーパー紀子ママなのでした~(((^^;)

【2017/05/06 00:05】 | ののの #- | [edit]
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