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1997年の夏休み(26)

2017.01.29(21:00) 283


更新ペースがどんどん遅くなって申し訳ないです。
風邪を引きかけては治りと、とりあえずまあまあ元気なんですが(((^^;)

ほぼ週末しか書けないのに週末用事があるともうダメですね~~( ´△`)

でも今回は二話まとめてアップなのでご勘弁を。










※※※※※※※※※※※






ICUに戻った直樹は、梨本圭子のベッドに向かった。
ICUナースが点滴の滴下速度をチェックしているところだった。

「バイタルは安定してます。先程少し覚醒しましたが、朦朧としていて眠ってしまったようです。まだちょっと話せる状況じゃないです」

「わかりました。各務先生は?」

「会議があるとかで呼ばれてました。術後の管理は入江先生に任せると」

「はい」

「あ、入江先生。それと、やはり梨本さん、身内の方と連絡が取れないようなんですけど」

救急搬送されてくる患者のネックは身元保証人がいない場合だ。基本オペも入院も保証人がいないと受け入れられないものだが、救急搬送の場合は例外も多い。

「確か兄がいると聞いています。明日になったらソーシャルワーカーに対応してもらいましょう。お子さんの処遇も相談しなくてはならないし」

今朝、朝帰りの琴子が語っていた梨本母子の複雑な家庭事情を思い出す。確か広大にとって叔父にあたる義弟もいる筈だがーー。
その身内に連絡することは本人にとっては本意ではないだろう。琴子の話によると金を無心にくるような兄に遺産絡みで揉めている義弟だという。だが、病院側としては唯一の身内なら連絡を取らないわけにはいかない。

「わかりました。さっきお子さんと事務の森村さんと一緒に来てましたけど、何かご関係でも……?」

森村かをる子は事務室という地味な僻地にいるものの、職員全員がお世話になっているせいである意味この病院で、最も顔と名前を知られている職員のようだ。

「……二人とも妻を介しての知り合いですよ」

関係、と問われてもかをる子も今日広大と知り合ったばかりだろう。説明するのも面倒で適当に誤魔化す。

「奥さまはもう大丈夫なんですか? CPA(心肺停止)になったって……」

ICU付きの聡明なナースだが、瞳には微かに好奇の色が浮かんでいる。

「ICUにまで噂が? 大丈夫ですよ。鬼頭先生や佛円先生のお陰でちゃんと蘇生して意識も戻りました」

ICUナースのさらにもっと詳しく話を聴きたいという無言の要求を感じたものの、気がつかないふりをして、業務の会話を交わしたあとその場を任せて医局へ向かう。






「あ、入江先生、奥さん、意識戻りはったって?」

医局の扉を開けると、肩をぐりぐり回しながら、佛円がパソコンから目を離して直樹に話し掛けてきた。

「ききましたよー。奥さん熱射病で運ばれたんだって?」

その場にいなかった神谷も、救急外来の当番が終わったようでコーヒーを飲んでいた。

「今日は外来も熱中症多かったよ。ほんと、くそ暑かったもんなー」

ようやく一息ついたらしい神谷の横をすり抜け、直樹は佛円の横につかつかと歩みより、そして頭を下げた。

「今日は、琴子を助けてくれてありがとう………迷惑かけて申し訳なかった」

「へ? 患者として来たんやから処置するのは当然で、頭下げられる謂れはないやろ」

佛円が直樹の反応に思わず驚いてのけ反る。

「そりゃ……まあ、身内が運ばれるとびびるよなー」

「………ってか、琴子さん、この短期間に三回目やったしね~~入江先生の心臓、悪くなりそうやな」

「…………重ね重ね、すまない……」

「まあ、どれも不可抗力の事情があってのことなんやし。そういうトラブルって続くときは続くもんなんやろ」

「そうそう、二度あることは三度あるっての実証した感じ? ま、巻き込まれ体質ってあるんだよねー」

事情をある程度知っている彼らは、琴子を責めたりはしなかった。驚いてはいるだろうが。

「……いや、あいつの場合は根っからのトラブルメーカーなだけで。人のお節介ばかりやいて全く自分を省みずしょっちゅう壁に激突して」

「絵にかいたような猪突猛進!! でもまっすぐないい娘や。見てて飽きないタイプやね」

「……でも振り回さるの分かってて結婚したんだろ? 意外とMなんだね、入江先生」

そんなことはプロポーズした夜に自覚している。
だが他人に云われるのは気にくわない。とはいえ、今はそんなことはどうでもいい。

「とにかく、迷惑ばっかりかけてすみません。本当に今回ばかりは……」

「さすがの入江先生も一瞬真っ青やったもんなー」

「普通身内がCPAになりゃ当然っちゃ当然だけどね」

患者が身内だからといって一瞬でも冷静さを欠いたのはプロとして失格だという忸怩たる思いに駆られる。

「入江先生って感情を表に出さないアンドロイドみたいな人やと思うてたけど、嫁ちゃん来てからえらい印象変わったわ」

「……どんなイメージですか……俺だって感情はありますよ」

「うん。嫁ちゃんに振り回されてる入江先生、いいわー人間っぽくて」


なんだかんだ一回目も二回目も結構焦ってたよね?

そーいやーそーやった

神仏コンビかニマニマ笑う。
琴子が無事だったから、こんな軽口も投げかけられたりするのだ。
それはそれで良しとしよう。

「そういえば各務先生が入江先生に怒鳴ったの、初めて見たかも」

「わー見たかった。そのレアな光景。きっともうないだろうなー」

神谷が悔しがる。

「あの場合、熱中症の処置は俺や姫子先生でもできるけど、胃穿孔の緊急オペは一番入江先生がつくのが適任やったし。当然の判断っちゃ判断やけど……でも、どっちも緊迫した状況やったし狼狽えるのは人としてあたりまえや」

「おまえがオペ入れば良かったんじゃねぇの?」

「えーおれ? 各務先生の前立ちにつくのはちょっと……」

佛円は救命医志望ではあるが、医者になって4ヶ月、まだまだ経験値の少ない発展途上のも研修医なのだ。やっと皮膚にメスを入れることに慣れてきたくらいだ。外科結びの練習に日々いそしんでも直樹の手際には敵わない。直樹のように自信満々にオペ室に入れる方が珍しい。

「でも、おれの心マは完璧やったろ? やっぱりここで恩を売っとかないと」

ふっふっふっとほくそ笑む佛円に、

「だから、感謝してるーーでもまあ、確かに医者としては当然だよな。よくよく考えればやはり礼なんていう必要なかったな」

軽口で返してくる同僚たちに合わせて、直樹も皮肉っぽくいつものように切り返す。

「わーやっぱりもっと感謝してやー!」

できればメシ奢ってくれるとか、女の子紹介してくれるとかっ

医者が見返り請求してどーする?

えー? 入江先生の感謝したいゆー気持ちをきっちり受け止めてるだけやん


常に張りつめている処置室や初療室とは隔絶したのどかな日常が医局にはあった。
直樹も久しぶりにコーヒーを飲もうと、オフィスコーヒーのカップを手にする。
琴子のコーヒーとはくらぶるべくもないが、缶コーヒーよりはマシだ。

そのときーーコンコン、と医局のドアがノックされた。

「えーと、入江先生、いますか?」

「森村さん」

かをる子が、広大を伴って訪ねてきたのだった。

「今、つぼみルームにこの子を引き取りに行ったんです」

「どうも色々とすみません。片瀬主任には、後でおれも挨拶にいきます。明日からのボランティア行けなくなったので」

確かボランティアは今週いっぱいを予定していたはずだ。

「それで、入江先生。今夜だけ、あたしこの子を預かりましょうか? やっぱり医局で預かるのは無理があるでしょう?」

「え? しかし……それはいくらなんでも」

独身女性が知り合って間もない赤の他人の子供を預かるのは無理だろうと、直樹も諾とはいえない。

「うん、まあ、一晩だけだけどね。片瀬さんには今からソーシャルワーカーに連絡して対処しまーすとかいって、預かって来ちゃったけど、実は連れ帰るつもりだったの。この子とちょっと話してみて、わりとアニメとか特撮の趣味が合いそうだし。ねー、広大くん?」

「おー。おれ、このねーちゃんちにいく。戦隊シリーズのビデオ揃ってるゆーし」

………戦隊ものも押さえてたのか、彼女は。

直樹が呆気に取られているところに佛円が、どんっと駆け寄ってかをる子の手をとる。

「も、森村さん! あなたもアニメとか特撮好きなんですかっ?」

「へ? え、えーと、まあ………」

かをる子は明らかに『しまった』 という顔をしていた。職場では決して知られたくなかったオタクな趣味のことを口にしてしまったのだ。

「ぼ、僕もなんです! 奇遇ですねぇ。戦隊シリーズや仮面戦士ものは全部ビデオ持ってるんですよー。アニメも結構チェックしてますよ」

「そ、そうなの? えーと……」

「佛円です! 一番好きなのはやっぱり永遠のゴッドペガサスですっ」

「あ、おれもやー」

同意する広大の方をちらっと見たがすぐにかをる子の方に視線を向ける。

「そう、佛円先生。でも、多分好きなポイントとか方向性はかなり違うのではないかと………あたしかなりマニアックなんで」

困ったように笑みを浮かべるかをる子に、「大丈夫です! ぼくもマニアです!」と無理矢理標準語で話し掛ける。

ーーいや、あたしオタクですから……腐ってますから……

かをる子の内心の声が聞こえた気がした。

「いやーぼくは特撮よくわかんないけど、鉄オタなんですよ」

何故か、神谷までひしっとかをる子に近づき、意味不明なアピールをして参戦する。

「あ、そーなんですか」

だから、なんなのよ。
理系男子は結構オタク系多いの、知ってるわよ。

苦笑気味の表情から、かをる子の内心はやはり想像がつく。

「でも、森村さんなんで入江先生と……」

「あたし、隣に住んでるんですよ。あ、これは他の人には内密に! 入江先生ファンの女子にバレたらヤバイので」

「ええーそうなんですか!?」

あれこれ食いついてきそうな二人を振り切るように、「じゃ、ちょっと琴子さんとこ寄ってから帰りますね。広大くん、いこ」とそそくさと扉の方に向かう。

「森村さん、本当にありがとうございます。でも大丈夫ですか?」

「子供は嫌いじゃないから。無理そうならここに連れてくるわ。だからそんなに恐縮しないでねー。あたしも大概あなたの奥さんに感化されてるかも」

そういって軽く手を振ってして医局を後にした。








直樹が琴子の元を訪れたのは、かをる子が琴子を見舞った一時間位あとだった。

「起きてたのか?」

「うん。かをる子さんが来てくれたの。やっとお礼を云うことができたよ」

「そうか」

「そのうえ、広大くんまで預かってくれるって……ほんとに良かった」

「一晩だけだぞ。そんなに甘えられない。………ってか、本当なら赤の他人に任せるのは何かあった時に問題があって不味いんだが………」

「うん。わかってる……でも、広大くんも、お母さんがあんなことになって不安だろうけど……かをる子さんなら安心よね。なんか、命を助けてもらった上に、そんなことまでしてもらっちゃって……申し訳ないなぁ」

「おまえと知り合った以上、巻き込まれるのは自然の摂理なんだと笑ってたよ」

「へ?」

「ほんとに感謝しても感謝しきれない。退院したら修羅場用のユ〇ケルと肩揉みよろしくと言ってたぞ」

「はは……原稿のページ打ちとネーム貼りもよろしくとか云われたけど、何やるんだろ……?」

「さあ?」

ふふふっと笑い合う。

「広大くん、ちゃんと眠れてるかな……」

「子供は順応力高いだろ?」

「そうだね。広大くんは特に……。でも、さっき、ここに来たときはーー」

広大は琴子の顔を見たとたんに顔を歪ませてポロポロと泣き出した。

「琴子、琴子、ごめんな」

幼い心のうちはどれだけ今の状況をわかっているのか。だが、元凶は自分のせいなのだとうっすらと感じているらしい。

「広大くんのせいじゃないよー。だから謝らなくていいんだよ」

琴子が優しく頭を撫でるとやっと少し泣き止んだのだ。
とはいえ、自分までこんなことになってしまって何もしてやれないことに心が痛む。

「………おまえはせめて入院中だけでも余計なこと考えるなよ」

遠い瞳をしていた琴子に不穏なものを感じたのか、きっちり釘を差す。

「……だ、大丈夫だよ……ここじゃ、何もできないし」

「当たり前だ」

「………入江くんも……本当にごめんなさい。心配ばっかりかけて」

ほんとに、ほんとにごめんなさい。
あたしってなんでこーなっちゃうんだろ。

何度も何度も謝る琴子に、「おまえが海の底より深く反省しているのはよくわかったから、もう謝らなくていい」とひとつため息をついてからそう云った。

「それよりも、梨本圭子さんのこと、少し聞きたいんだが話せるか? 手続き上、知っておきたいんだ」

「う、うん……」

「まだ体調がつらいなら無理しなくていいから」

「だ、大丈夫だよ。あたしも色々頭の中はっきりしてきて、朝からのこと、思い出せてきたの」


圭子が慌てて病院に来たこと、広大がいなくなったことーーそして、その原因ののこと……。

直樹に誘拐のことを話したら、思った以上に複雑な状況に、さすがに眉をひそめつつも神妙な面持ちで聴いてくれていた。

圭子さん、身体がよくなっても逮捕されたりとかしないよね?

不安そうに訊ねる琴子に、「詳しくはわからないけど、実母でも親権者の許可ない連れ去りは誘拐だからな」と無駄に安心させてはくれなかった。

「でも、仮に逮捕されても現実には不起訴になる場合が多い筈だ。ただその後親権が取れるかどうかは別問題だが」

そんな話をぽつぽつと話ながら、「一番考えなくてはならないのは広大くんの幸せだ。それにはまずお母さんに早く良くなってもらうこと。そして、おまえもまず他人のことより自分のことだ。何度も云ってるけどな。早く良くなれよ……」

「うん………」

くしゃっと髪を撫でられる。

「汗でベタベタだよ、きっと。シャワー浴びてないもん」

「シャワーは明日以降だな。清拭で我慢しろ。おまえの着替えや入院に必要なものを取りに一度マンションに帰るが、何か他に必要なものはあるか?」

「えーっ 入江くんに下着とか持ってきてもらうの? 恥ずかしいーーっっ」

何をいまさら、と苦笑しつつ、

「くまは持ってこねーからな」

「そんなの、こっちに持ってきてないよー。お母さんのチョイスでちょっと恥ずかしいのばっかり……あーーっあたし救急で運ばれた時に他のお医者さんに、あの下着見られたのかしら~~~どーしよーっっ」

「緊急事態にそんなことはどうでもいいっ! ………それに、姫子先生になら別にいいだろ?」

「う……うん……」

ーー佛円……見たのか?

直樹の顔が若干ぴくりと歪んだように見えたのは決して気のせいではないだろう。






そしてその後マンションに戻ったのは夜10時近かった。
隣の部屋の電気は消えていた。
広大は大人しく眠ったのだろうか。

直樹は部屋に入った途端、真冬のような冷気に驚く。
そういえばエアコンつけっぱなしといってたな、と苦笑する。
窓を開けて少し温めの空気を入れてから、パソコンの電源をいれた。

「さてと」

入院準備をする前に、いくつかしなくてはならないことがある。

引き出しの中からポストーカードホルダーを出して、一枚一枚チェックすると、直樹は受話器を手に取った。










※※※※※※※※※※※



どーにも、救命の愉快な仲間たちと喋り出すと会話文だけに終始してしまいます………f(^^;
なかなか進展しないなー。



進展させるためにも続けてもう1話更新しております。





















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