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1997年の夏休み(23)

2016.12.23(00:35) 276

二話同時にアップしてます。短いですが……(((^^;)
未読のかたは(22)からお読みください。



※※※※※※※※※※※※※







「あづ~~東京もクソ暑かったけど、神戸もアホみたいに暑いったら……」

あたしはつい、云ってもどうしようもないと思いつつも独りでブツブツ呟いてしまう。
夕方近い時間なのに、まだまだ暑さは収まる様子はない。
涼しいバスを降りたとたんに押し寄せる灼熱の大気に、思わずうんざりしてしまう。
バス停からマンションまでほんの僅かな距離なのに、キャリーバッグをがらがら引きながら歩く道のりは妙に長く感じた。息苦しい熱気にじわじわ体力を奪われてぐったりだ。

化粧は汗ですっかり落ちて、首にタオルを巻いて、見てくれなんて最早気にするべくもない。

イベント会場でも死にそーにあっつかったけどねー。
熱中症で何人倒れたっていってたっけ。
ま、ある種の風物詩なんだけどね。
好きなことして倒れりゃ本望ってもんじゃない?
とりあえずあたしは熱中症対策は万全にしてたお陰で無事に3日間乗りきったけど。


本当は今日は実家に寄って、夜になってから帰ろうかと思ってた。
でも何となく一刻も早く帰りたいって思っちゃったのよね。
一人だけの城だけど、すでにあの部屋はあたしの一部で、実家よりも何処よりも落ち着くんだもの。

まあ、明日からまた仕事だし。
行列並んでやっと手にした戦利品のあれこれを整理して、にまにまと眺めながらちょっとまったりとしよう。

そして、やっと部屋の前に辿り着くとーー。


「琴子ーーっことこーー!! どーしたんだよーっ返事しろよーーっ」

お隣の部屋の前で、小さな男の子が、玄関ドアをバンバン叩きながら泣き叫んでいる。

ーーな、な、なにごとーーっ!?

あたしは思わず駆け寄った。

「ど、どうしたの? 琴子さんに用事があるの?」

「ことこ、さっきまで返事があったんや……なのに、出てきてくれへんし……なんか、様子が変やったし……どうしよう……お母ちゃんも血を吐いて死にそうなのに……」

「え? え? え? おかーさんが血を……? えーと、琴子さん、部屋にいるの? お留守じゃなくて?」

えーと……??? 頭にハテナマークがいっぱい浮かぶ。

「おるで。最初に返事、あったんや」

子供の云うことでどうにも要領が得ない。
いったい何が起きたの?

「ことこ死んでないやろか……」

「何いってんの、縁起でもないっ」

あたしは思わず子供相手にキツい口調で嗜めてしまう。

「琴子さーん。いるのー?」

インターホンの下にあたしがたまに利用している宅配の保冷ボックスが置いたままで、どうやらその子はそれに上ってインターホンを押したらしい。割りと賢い子だな。

インターホンからは確かに返事がない。でも、平日だし。留守と考えるのが普通だよね?


あたしはそれでも泣きじゃくるその謎な少年を100%戯言だと決めつけることもできず、急いで自分の部屋に入ると、隣の部屋に電話をかける。

呼び出し音が耳元で響く。
何度がコールを繰り返して留守電に変わった。

やっぱり留守かしら?

そう思った時、隣から、ガシャガシャーンと何かが落ちて砕け散るような音がした。

…………え?

ドキッとした。

以前の薄っぺらい壁の時は叫べばすぐに声が聞こえたけれど、隣のイケメンドクターが、嫁の来る前に完璧な防音を施したせいで、殆ど隣から物音が聴こえることはなくなってしまった。

けれどーー震動を伴う音は多少は響く。

やっぱりいるの……?
琴子さん?

あたしは一瞬にしてイヤな予感が押し寄せてくるのを感じた。
慌てて窓を開けてベランダに飛び出す。

隣との境にある隔て板の隙間から隣を覗くと、窓はきっちり閉められ、そしてエアコンの室外機は動いていないようだった。

「琴子さん、琴子さんっ」

あたしは何度か声をかけたが、隣からはさっきの物音以外、何の気配もない。

イヤな感じはどんどん増幅する。

えーと、この境界の隔て板って、確か火事の時に蹴破るように簡単に壊れるんだよね?

あたしは一瞬躊躇したものの、えーい、やっちゃえとばかりにその境界板を蹴破った。

そして、思いの外、簡単に外れた板を乗り越えて、隣のベランダに降り立った。

ブラインドがかかっていて暗ぼったい室内はよく見えない。

けれど、微かな隙間を見つけて覗きこむとーー

「琴子さんっ」

リビングの壁際に倒れている琴子さんを見つけたーー。

焦ったあたしは窓ガラスを割ろうと、ベランダに何かないかキョロキョロと物色する。

うーん、なにもない………と思ったら、なんだ、鍵開いてるじゃん。
もう、三階だからって無用心なんだから。
でもお陰でひとさまの家の窓ガラスを割らずにすんだ。


「琴子さんっ」

あたしは窓を開けて部屋に入ると、室内は外と同じくらいに熱が充満していた。
そしてリビングの壁際にぐったりと倒れている琴子さんに駆け寄る。

壁際にあった電話台も倒れていて、電話機が落ちていた。さっきの激しい音はどうやらこれが倒れた音だったらしい。
なんとか電話を取ろうとしたのだろうか。

「琴子さんっ琴子さんっ」

あたしは彼女の横に膝をついて、身体に触れる。
熱い。
尋常なく、熱い。

「う……ん………」

よかった。
完全に意識を失っているわけではないようだ。

「琴子さん、しっかりして! すぐ救急車呼ぶから!」

あたしは倒れている電話が、ちゃんと繋がるかどうか確認する。

「……かをる子……さん………まって」

琴子さんが苦痛に歪んだ顔でうっすらと瞳を開けた。

「琴子さんっ」

「救急車………先に広大くんの……お母さんのところに……血を吐いて倒れてる……って………」

「何いってんの! 倒れてるのあなたの方よ!」

「あたし……大丈夫だから……早く広大くんの……」

そういってぱたりとまた目を閉じた。

「琴子さんっ! 琴子さんっ!!」

あたしは彼女を抱えあげて何度も声を掛けるのに、それからもう全く意識が戻らない。ぐったりと身体に力が入っていないのが分かる。
身体が燃えるように熱い。

「琴子さーーんっ」


病院に勤めながらも自分が医療者でないのが、もどかしい。
何をすればよいのだろう?

脈をとってみるけれど、標準がわからないので素人がやっても無意味だ。
でもなんとなく脈拍が遅い気がする。
気のせい?

ドアの外では相変わらず少年が「ことこー」と泣き叫んでいる。
あたしは慌てて玄関に走り、ドアを開けてあげる。

「琴子は? 琴子は? 死んでない?」

「琴子さん、大丈夫だから! 落ち着いて。君のおうちは? お母さん、倒れてるって本当?」

「ほんとう……」

少年の不安げな顔に嘘はないと思えて、あたしは到着した救急隊員たちに事情を説明し、自分の住所が話せなかった少年に案内するよう頼んで先に救急車を回してもらった。

次の救急車が来るのを待っているうちに、琴子さんの脈がだんだんか細くなっていくような気がして不安になる。
心臓が動いているのか息をしているのか心配になって、あたしは何度も口元に手をやって呼気があるか確認したり脈を確認したりした。
少しでも身体を冷やそうと冷凍庫から保冷剤や氷を出して、脇に充てる。


そして、漸く2台目の救急車が到着したーー。

あたしは半泣きで叫んだ。

「神戸医大の救命センターに運んでください‼ 早くーー!!」







※※※※※※※※※※※※






やっと、最初に思いついたあたりのシーンに近づいて参りました~~(^_^;)




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コメント
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【2016/12/23 01:14】 | # | [edit]
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【2016/12/23 13:38】 | # | [edit]
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【2016/12/23 21:59】 | # | [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2016/12/24 09:02】 | # | [edit]
コメントありがとうございました♪

次から次へと波乱だらけで、琴子ちゃんすまぬ、といった感じですf(^^;

広大くんちの事情も複雑で、琴子には無論解決は無理ですが、私も解決してあげれるか不安です……(←おい)

はい、ダブルで大変なことになってしまいました。そして、次の救命シーンに手こずるのでした……(マジでマロンさんお願いっ、と思いましたよ~~)

かをる子さん、ナイスタイミングでした。ほんと、危機一髪なので! これをご都合主義ととるか琴子の超能力ととるかは……皆様次第と言うことで(笑)
【2016/12/31 00:27】 | ののの #- | [edit]
拍手コメントありがとうございました♪

とんでもないところで続きで申し訳なかったですっf(^^;とにかくここで年越しはないだろうと、頑張って続き書きましたよ~~(笑)
【2016/12/31 00:31】 | ののの #- | [edit]
コメントありがとうございました♪

はい、どんどん大変なことに~~
そして、広大くんの問題は琴子の手に余るし、誘拐っていわれてもピンときません。さて、私も法律には詳しくないので、IQ200の天才がなんとかしてくれるかな……(((^^;)(力業とご都合主義で寄りきったら苦笑いしてください)

もう圭子さんの背景は大変過ぎてそりゃ胃も壊れるだろうって、感じです。そして、すぐに人のために動いちゃう琴子は自分も大変なことになってるのに気づきませんでした。そこが琴子なんだけどねー。
そうそう、かをる子さん、このタイミングでご帰宅で、ほんとラッキーでした。伏線覚えていてくれてありがとうございます。コ〇ケは3日間でしたが、どうしてもかをる子さんには月曜日に帰って貰わなくてはと四連休を取らせた裏事情……(((^^;)

確かに神戸にいるときでよかったですよね。でもきっと琴子は離れている時に自分がピンチになっても直樹さんには隠すだろうなー(と、いう妄想は別にあったりしますが笑)

そう、琴子の周りには悪人っていないですよね。琴子ちゃんの人徳です(^_^)
【2016/12/31 01:13】 | ののの #- | [edit]
コメントありがとうございました♪

そうなんですよねー。二日酔いの上にこのお得意の巻き込まれ症候群で、とうとうヤバイ状況に。
確かに遅すぎました。看護師の卵なのにね。その点は後で本人も猛省するでしょう。
かをる子さんも帰った途端にまさかの出来事。でもこれも琴子の隣人になった彼女の運命に違いない(……巻き込まれ症候群は伝播するらしい笑)のです。

はい、次回、直樹さんには真っ青になっていただきますよー(^w^)
【2016/12/31 01:23】 | ののの #- | [edit]
コメントありがとうございました♪

そう、夏本の番外編ではすっかり丸く収まってますので、収まってる筈です笑(少なくとも琴子は死なないのでご安心を♪ネタバレでもいいですよね、これは)
救命チーム、活躍予定ですよ!(^_^)彼らのこと気に入っていただけて嬉しいです。重い話のちょっとした息抜きに、書いてて楽しい愉快な仲間たち(^_^)vだったりします♪
【2016/12/31 01:29】 | ののの #- | [edit]
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