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個別記事の管理2016-07-06 (Wed)

梅雨祭り始めた途端に晴天続きの猛暑続き。
ありゃ……まあ、そんなもんですよね笑

妄想してた時はずっと雨だったのになー



※※※※※※※※※





19960704 ~傘はひとつだけでいい。



暦は文月となった。
1年も半分が過ぎて、季節はすっかり夏模様だ。
今年はどうも空梅雨らしく、梅雨模様の日が少ないものの、時折来る不意打ちの雨はゲリラ豪雨などと呼ばれ、この時期の空の気まぐれさを恨みがましく見つめるだけ。

そしてーー。
ぽつりぽつりと降ってきた雨を掌に受けとめながら、彼女は呟くーー。

「傘、忘れちゃった…………」






ぱらぱらと降りだした雨に、看護科棟のの玄関口から一歩踏み出した琴子は、このまま走り出すべきか雨宿りしようか空を見上げて少し迷う。

今年の梅雨は雨が少なくついうっかり折り畳み傘を携行することを忘れていた。
朝はそこそこ晴れていたのだ。
今朝は寝坊した為に、天気予報も見ずに家から飛び出した。
無論、目が覚めた時には隣に寝ている筈のマイダーリンは既にいなくて、とっくに大学に向かっていた。

「………起こしてくれてもいいじゃないねぇ?」

今日、琴子が1限目に講義があると分かっているくせに。
しかも寝坊してしまった原因は直樹のせいといっても過言ではないのだ。

翌日に1限目がある夜はダメって、何度もお願いしてるのに。

何処にスイッチがあるのかさっぱりわからないけれど、触れてこない時は全く関心なさげなのに、普通に寝ようと眠りモードに入った途端、直樹の手が琴子のパジャマの中に潜り込んで悪戯を始める、なんてことはよくあることで。

一応「明日授業が~~!」とささやかな抗議を試みるが、直樹から誘われて断れる訳がないではないか。
何となく昨晩もなし崩しにそんな雰囲気になってしまったけれど、来週からまた新しい科への臨床実習が始まるせいなのか、ここ数日はほぼ毎晩コースなような気もする。

うん、まあいいのよ、それは。
去年みたいに全然構ってくれない方がずっとずっとイヤだもん。
こんな風に毎晩構い倒してくれるのは、ちょっと嬉しい。(腰はつらいけど)

でも、せめて朝起こしてくれたって……

だから、だから、傘忘れちゃったんじゃない~~!!

と、傘を忘れたのは直樹のせい、というところに思考が帰着して、だったら直樹の傘に入れてもらいましょう! というとっても明快な大義名分を手に入れて、琴子は意気揚々と直樹のいる医学科棟に向かった。

看護科棟と医学科棟は隣同士だ。
そんなに濡れることなく、医学科棟の玄関口まで駆け抜ける。

直樹のいるのは研究室の居並ぶ4階フロアだ。
5年生になってからはずっとこの田沢ゼミの研究室に入っていて、小児再生医療の研究をしているらしい。
遺伝子がどーの、細胞がどーのと、琴子にはさっぱりわからない世界の話だ。
ただ研究室はなんとなく敷居が高くて、入るのは少し躊躇する。
とはいいつつも、すでに幾度となく訪れて、すっかりゼミ研のメンバーとも顔馴染みになっているのが実に琴子らしい。

「………入江くん、います……?」

琴子がドアをノックして、そおっと顔を覗かせる。
極秘研究や実験の真っ最中の時もあるから絶対に勝手に入るなと、直樹には幾度も叱られているのが、敷居が高く感じる理由である。


「どうした?」

白衣を身に付けた直樹の姿が真っ先に目に入って、思わずほっとする。
しかも直樹一人しかいないようだ。
よかったーと密かに思う。

実験台の上で顕微鏡を覗きこんでいた顔をあげ、琴子の方に視線を向けた直樹としっかり瞳が合う。

やん、かっこいいなー。顕微鏡を覗く入江くん。どこぞの博士みたいー♪

などと、内心テンション高めつつも、「……入っていい?」
ーーと、恐る恐る訊ねる。
すると、愛する夫が軽くため息をついて、「いいよ」と答えてくれたので、喜び勇んで部屋に一歩を踏み入れた。

「あのね、入江くん、いつ頃帰れそう? あたし、傘忘れちゃって……一緒に帰れないかなーって」

足取り軽く喋りながら直樹に近寄ると、彼は軽く眉間に皺を寄せ、
「この時期に折り畳みも持ってないのかよ」と呆れたように呟く。

「今日は午後から70%、夜は豪雨かも、って予報だったのに」

「 ……知らないわよ。天気予報見る暇もなく家から出たんだもん。誰かさんのせいで寝坊しちゃって」

「一応、朝、鼻つまんで起こしたのに人の脛を蹴り倒して起きなかったのは誰だよ。それにおふくろにも頼んでおいてやったんだぜ? 」

「お義母さんには、ごめんね、ゴミだし行って近所の人と立ち話しちゃってたの~~って散々謝られたわよ」

「その前に三回くらい目覚ましも鳴ってる筈」

「う………」

結局寝坊の大元の罪状は追求できないまま終わるのだ。

「そして、最初の質問に戻るけど、多分後2時間は帰れない」

「えー」

直樹の答えにがっかりするものの、やっぱり、とも思う。
期待はいつだって半分くらいにしておかないと身が持たないのだ。

「おれの傘を貸すから、先に帰ってな」

「え? でも、そしたら入江くんは?」

夜はもっと雨が酷くなるということなのに。

「まあ、なんとかするよ」

「なんとかって…………」

「あら、じゃあ私が帰り駅まで送ってくわ。なんなら自宅まで送っていってもいいけど」

琴子はぎょっとした。
直樹一人しかいないと思ってたのに、奥の給湯室から一人の女性が出てきたのだ。

誰?

ゼミ研のメンバーではない。全員顔を知っている。
特に女子は二人だけだが、直樹に興味のない数少ない奇特な女子をチョイスしたと田沢教授が吹聴していたのを聞き及び、ナイス、教授~~! と心のなかで喝采を送ったものだ。
なんにせよ、直樹がいることで変な色恋やら不倫騒動やらで殺傷沙汰にでもなっては困ると思ったらしく、この学年のゼミの振り分けは大変苦慮したとのもっぱらの噂だ。
その二人の女子のうちの一人は結婚している三十代元看護師の医学生で、もう一人はやっぱり彼氏のいる彼一途な女の子だ。琴子とも普通に恋ばなをしたことがある。

だが今目の前のこの女性には全く見覚えがない。
白衣を着てるが、学生なのだろうかーー?

「曽田先生」

ーー先生?

「入江くんもどうぞ」

彼女は2つカップを持っていて、1つを直樹の前に差し出した。

「ありがとうございます」

「えーと、彼女も飲む? ……入江くんの奥さんだよね? ……噂の」

「噂? え? え……あ、いえ、要りません!」

少し焦ってつっけんどんにコーヒーを断ってしまった。

「はじめまして。私、田沢教授の助手の曽田です。4月から着任したのだけど、こっちには中々顔を出せなくて」

「臨床の方が忙しかったんでしょう」

「まあね」

び、美人………。

琴子はその整った顔立ちと、理想的なナイスバディについ一歩引いてしまう。
松本裕子のような華やかさはないけれど、ナチュラルで涼やかな美貌だ。
助手ということは、いずれは講師、そして教授を目指すなのだろう。
才色兼備とかいうやつね、と琴子は思わず身構える。

なんで入江くんの周りにはこんな美人で賢い人ばっかり………

琴子の心の声に関係なく、二人はにこやかに談笑している。

「……ということでいいわよね?」

「え?」

「だから、私が入江くんを送って帰るから、あなたは先に帰って………」

そう言って、車のキーを見せる曽田に、琴子は思わず「ダメです!」と叫んでしまった。

「 きょ、今日は一緒に買い物して帰る約束してますから! あたし、2時間くらい平気で待てるんで、そんな気を遣っていただかなくても全然大丈夫ですから!」

思わず直樹をガードするように二人の間に割って入り、つい大声で宣言してしまった。

一瞬虚をつかれたような顔をした曽田だったが、すぐにくすっと笑い、「あら? ヤキモチ? 可愛いわね。大丈夫よ。私、年下趣味じゃないから」
と、楽しげに琴子を見つめる。

いや、そんな自己申告信用なるものか。
直樹を見て惚れない女子なんて殆どいないのだ。
琴子の中の危険予知センサーがさっきから煩いくらいに警報を鳴らしている。

「学生を車で送ってあげることはよくあるのよ。入江くんに限らず」

そうなのかもしれない。
何も邪な思惑はないのかもしれない。
でも、イヤなものはイヤなのだ。
直樹が彼女の車の助手席に座っていることを想像するのも耐えられない。

「先生。送ってもらえるなら琴子も一緒に、駅までお願いできますか?」

「ごめんなさい。私の車、2シートなの」

「だったら、琴子と一緒に歩いて帰りますよ。………何か『買い物』があるらしいので……」

「入江くん……!」

「あら、そう?」

曽田は肩を竦めて、苦笑いをした。

「2時間以上、何処で待つつもりだ?」

「とりあえず図書館! 図書館追い出されたら玄関で待ってるよ。ずっとずっと待ってるよ! 一晩中だって待ってるから」

直樹にそう言うと、「さすがに一晩はかからないよ」 と、くしゃっと琴子の髪を掻き回すように撫でる。

「じゃあ、待ってるからね~」

琴子は曽田の前で、直樹がそんな仕草をしてくれたことにちょっと気をよくして、にこやかに研究室を後にしたのだった。



そして、すでに2時間半が過ぎた。

図書館は6時閉館で、1時間ほど前に追い出された。
その後は直樹のいる研究室のある棟の玄関口でずっと待っている。
座る場所もないので、立ちっぱだ。
そして、雨はどんどん本格的に降りだしてーー

今はバケツをひっくり返すような勢いの土砂降りだ。


「…………これは…… 待ってない方が良かった……?」

どう見ても2時間半前に帰った方がまだ小降りで安全に帰れた気がする。

いや、自分の選択に間違いはない筈だ。
待つと琴子がごねなければ、もしかしたら直樹はあの助手の車に乗って帰っていたかもしれない。

ああ、そしたら、きっと駅なんかじゃなくて駅裏のラブホに到着してしまっていたかもしれないじゃない!

ーー先生、ここは? 駅じゃないですよね?

ーーまあ、駅よ。あたしたちの物語の始まりの駅なのよ! 二人で旅立ちましょう! あんな学生Bみたいな嫁との日々はこの雨の中、側溝にでも流してしまいなさい!

琴子はぶるんぶるんと首を振って湧き出す怪しい妄想を打ち払う。

…… 大丈夫。
入江くんはそんな誘惑には絶対乗らないんだから。

ほら、雨よ雨。
雨といったら、あたしたちの始まりの日じゃないの。
思い返すならあの日をリフレインよ。
ね、今思い出してもとーってもロマンチックじゃないのぉーー

あの雨の中、入江くんあたしを迎えに来てくれたのよ! もう驚いたのなんのって!
そして二人で相合傘で、歩いて帰って、そして突然のキーーッス!!

あれ? ちょっと待って? あの時、入江くん傘を一本しか持ってなかったよね?
迎えに来てくれた割に一本だけって、最初から相合傘狙い?
やーん、入江くんってばーー!

ああ、そういえばあの時の傘は何処に行ってしまったのかしら。
あの後傘も差さずに2人土砂降りの雨の中帰ったのよねーー。
もう全身ずぶ濡れで……
うん、でも今の方が雨、酷いかも。

琴子は激しい音をたてて地面に降り注ぐ雨をぼんやりと見つめる。

夏至を過ぎてまだ2週間。日も随分と長い。今は厚い雨雲に覆われて薄暗いものの、本当ならまだ微かに明るい時間帯だ。
だが、そろそろお腹もきゅるきゅると空腹を切なく訴える時間でもある。

ーーああ、でも、お腹すいたよー
いりえくーーん………まだあ?

もう、もう、せっかくここまで待ったのだから一緒に夕飯食べて帰りたいなー
ああ、でも夕飯用意してあるんだよねー。お義母さん、今夜お出掛けするって、先に作っておくから温めて食べてねーって……
何かなー今日のご飯……
確か冷蔵庫の中には鯖があったわね……味噌煮かしら……お義母さんのサバミソ、お父さんのと違った味わいがあって美味しいんだよね……味噌が違うせいかな……?


「乙女チックに待ってると思いきや、色気ねーな。何がサバミソだよ」

「へ?」

琴子の真後ろに直樹が傘を持って立っていた。

「い、入江くんっ」

「あら、本当にずっと待ってたのね。忠犬ハチ公みたいで可愛いわ。じゃあね、本当に送らないでいいのね? 雨、すごいことになってるけど」

曽田も一緒のようだった。
二人だけで2時間半もあの部屋にいたのかと思うと少し妬ける。

「2人だけじゃねーぞ。時任も風間も一緒に実験してた。一足先に帰ったからここ少し前に通った筈だ」

まるで琴子の心の声を読んだように答える直樹に微かに安心する。
そして、直樹は曽田の方を見て、
「ここで琴子置いておれだけ車に乗って帰ったら鬼畜でしょう」と肩を大袈裟に竦めてみせた。

「確かに」

「 駐車場、離れてるでしょう。車に辿り着くまでにびしょ濡れじゃないですか?」

「まあ、帰るだけだからいいけどね。教授たちは近いとこに停めてるのにねー腹立つわー」

「先生の車、2シートじゃなければ琴子と乗せてもらったのに。もっと実利的な車にしてください」

「やなこった。私の愛車はイケメンの男しか乗せないのよー」

そして、曽田は土砂降りの雨の中、傘を差して玄関を出ていった。

「ひやーーっ! もう、傘、意味ないじゃないっ」
と、叫びながら。



「…………どうする? お袋、呼ぶか?」

見事に予報的中と、誉めるべきなのかーー。
豪雨などという言葉では可愛いくらいのけたたましい土砂降りの雨だ。

これは……相合傘なんて無理だ……

さすがに琴子も諦める。
歩き出しただけで遭難しそうな気がする。

「お義母さん、今日お出掛けでいないのよ」

「……肝心な時に役に立たない人だな……」

忌々しげにそう言う直樹に、「そんなこと言わないの」と、嗜める琴子。

「タクシー呼ぶか……それとも雨足弱まるまで、少し時間を潰すか……」

「うーん、どっちでもいいけど、あたしお腹すいた……」

「そのようだな……」

琴子のさっきから煩いお腹の音に、直樹もくすくすと笑う。

「じゃあ、研究室で少し止むのを待つか……部屋にはカップ麺くらいあったし」

「あーん、もう何でもいいよー」

「サバミソないけどな」

「あったら驚きだよ」

そして、結局2人は研究室に逆戻りとなった。



「なんか、入江くんがカップ麺食べてるの、初めて見る気がする」

2人で研究室に備蓄していたカップ麺を啜りながら、琴子は滅多にないシチュエーションにちょっとわくわくしていた。

「そうか? 一人暮らしの時にはたまに食ってたよ」

「へえ、そうなんだー。入江くん一人でもきっちりちゃんとしたもの作って食べてたと思ってた」

入江家では非常持ち出し袋にカップ麺が入っているのを見たことはあったが、家族が揃っていてカップ麺が出されたことなど一度もない。

「でも、たまに食べると美味しいのよねー、こーゆージャンクな食べ物」

「まあな」

琴子はシーフード味で、直樹はキムチ味。学生たちの備蓄の箱の中には色々多彩な種類があって、選ぶときもちょっと楽しかった。

「お茶もらっていい? 冷蔵庫にある?」

「水ならあるよ」

食べ終わった後、琴子は研究室の冷蔵庫を開けると、ペットボトルやプリンやヨーグルト一つ一つに名前が書いてあるのを見て思わずくすっと笑ってしまう。
そして、『イリエ』とマジックで書かれた水のペットボトルを取り出した。

「なんか、変なものも入ってたよ」

冷蔵庫の一番上の棚にはシャーレが沢山並んでいた。

「ああ、実験用の細胞」

「ええっそんなのと一緒にプリン~~?」

「温度が丁度いいんだよ」

「なんか、笑えるーー」

琴子の知らない直樹の日常がここにあるのだなあと、そしてそれを垣間見ることが出来て少し嬉しい。

「雨、まだ止まないね」

食べ終わったカップ麺の器を片付けた後、窓際によって、ブラインドの隙間から窓の外を眺めた。

先程よりは雨足は弱まったが、止む気配はない。

「ねぇ、入江くん、訊いてもいい?」

雨を見ているうちに思い出したのか、琴子が直樹の方を振り返る。

「あの日ーーなんで傘ひとつだけだったの?」

あのプロポーズの夜。
迎えにきた直樹は、何故か傘を一本だけしか持っていなくて、途中までは相合傘で帰った。

「大学から直接駅に行ったから」

言葉足らずな琴子の問い掛けだったのに、直樹はすぐに分かったようだ。

「テニス部に行って、そこでおまえの友だちたちから、おまえが金之助からプロポーズされたって聞いて……そしたら雨が降ってきて。おれは部室に傘が置いてあったから、それを持ってそのまま駅に向かって、おまえを待ってた」

「………待ってたって……どれくらい?」

部活をやっているのはだいたいあの時期なら5時くらいまでで……
駅に着いたのは何時だった?
確か8時とかそんな時間だったような……

「さあな。あまり覚えてない。すごく長い時間待ってたような気もするし、短かかった気もするし」

いつ帰ってくるかわからないあたしを……
もしかしたら金ちゃんのところからそのまま戻らなかったかもしれないあたしを……
しかも、この時期と違ってもっと寒かっただろう。

「………雨の中、ずっと待っててくれたんだよね?」

「………まあね」

あまり突っ込むな、といいたげな少し不機嫌な顔。
でも琴子はあの時の直樹がどんな想いで雨の中、自分のことを待っていたのだろうということに初めて思い至り、胸がきゅうんっとする。
自然に瞳が潤んでくる。


「……ありがとね」

「何が?」

「あの時、あたしを待っててくれて」

そのままぎゅっと直樹にしがみつく。

「やっと思考が乙女ちっくになった?」

そして直樹も琴子を優しく抱き締める。

「本当に……よかったよ」

そして、聴こえるか聴こえないかくらいの小さな声で囁く。

「あの日おまえにちゃんと会えて……」




外は相変わらずの雨。
未だ止む気配はない。

二人だけの研究室の窓際で、長い長いキスを交わした後、直樹は少し楽し気に琴子に問い掛けた。

「……どうする? まだ止みそうにないな」

「え……うん。どうしよう……でもそろそろ帰らないと」

「プランが3つあるんだけど……」

「え? なになに?」

『プラン』という言葉に食い付く琴子に、にやりと直樹は己の提案を掲げる。

「ひとつ。タクシーを呼んで、そのまま真っ直ぐ普通に帰宅」

「う、うん。まあ、普通だよね」

一番当たり前のコースである。というか、他に道があるのだろうか、という気もする。

「そして、そのまま寝室へ直行」

「へ?」

「ふたつ。あえて土砂降りの中、1つの傘で帰り、二人して濡れ鼠になってそのまま風呂場へ直行。無論そのあとは寝室へ」

「…………………」

「もしくは、自宅に帰らず駅裏のラブホに寄るというコースもあるな」

じゃあ、4つだな、プランはーー
と、直樹がにやりとほくそ笑む。

「い……入江くんっ」

「そして、ラストプラン。このまま、ここで夜明かしする」

「へぇっっ?」

「あのソファ、ベッドになるから……」

直樹が指差したのはさっきまで座ってカップ麺を啜っていた、ラクダ色のソファ。

「おれのおススメは、ラストプランかな。なんといっても、琴子への最短コース」

「えーと………それは……」

何処でスイッチを入れてしまったのだろう?
琴子は一瞬悩んだ。
悩んだが、あっという間に降り注がれた嵐のような激しいキスに思考を奪われる。
そして、そのままソファに押し倒されてーー





この後、二時間ほどで雨は止んだ。
結局二人は流石にこの部屋に泊まることはなく、止んでから歩いて駅まで行き、そして終電ギリギリの電車に乗って帰った。
タクシー拾う?
という直樹の提案を断って、歩いて帰ると言い張ったのは琴子だ。

だって、二人で歩きたいんだもん。

ひとつしかなかった傘は使われることがなかったが、月が雲間からわずかに見え隠れする雨上がりの夜空を頭上に、少し湿った夜気の中を二人で歩いた時間は、何だかとても幸せだった。

……ちょっと歩くのが辛かったのは、まあお約束なのだが。





※※※※※※※※※



m様おすすめの土砂降りラブホコースも、e様リクエストの土砂降り風呂場へGOコースも、結局使えませんでした~~m(__)m






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Re.ねーさん様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました♪

もう最近ほぼ毎日お喋りしてますもんねー(^w^)いや、えろばっかじゃないですよねぇ?えろも語りあっちゃうけど♪♪
第4景に行く前に納涼祭り始まりそうなので、ラブホで雨宿りは9月の長雨の時期とか、11月のプロポーズ時とかで妄想してみますねー♪

Re.りょうママ様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

本当に何処でスイッチ入ったんでしょうね。忠犬ハチ公のようにひたすら待ってる琴子がかわゆかったんでしょう笑
その時にはプランを練りつつあると見た(^w^)
確かに琴子が絡むと意外な行動に……何をもってそんな研究室で………なんて。
あの青い時代の彼には考えられないですよね。

Re.ちょこましゅまろ様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

そうですよね。あの雨の日に来るか来ないかわからない琴子をずっと待っていたのかと思うと切ないです。
この年は嫉妬事件の翌年なので、大分琴子に甘くなってます。うちのブログでは特に(笑 ) 曽田先生の存在に琴子がドキッとしたのは間違いないので、一応見せつける頭くしゃ。確かに丸くなりました♪

ええ、もちろん、夫婦でぼそぼそ話してたことは給湯室の曽田先生には聞こえてましたよー。きっとそうですね♪

コースを色々考えたものの、直樹さんの方が我慢できなかったようです。神聖な研究室で何やってんでしょう笑
その他のコースは、もしかしたら別の機会に書くことがあるかもしれませんので、お楽しみに(^_^)


Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

ソウ様納涼祭り開催決定してくれて、嬉しいです。背中押した甲斐がありました♪
まだ一行も書けてませんが、頑張ります!

はい、琴子は常に『傘を忘れる女』なのです笑

おおっと、マロン様っ
私以上にスゴいこと妄想されてますね~~
曽田先生、コーヒーに何か入れたりペットボトルの水、何か混ぜたり……怖い、怖すぎますよー。そりゃうちのブログではアップできない話になりそうですf(^^;
とはいえ、曽田先生どっちの人なのか悩んではっきり決めませんでした。
はっきり直樹狙いなのか、ただからかってるだけの人なのか。
まあ直樹狙いの方が話は面白くなりそうですが笑
でも今回はアマアマ描きたかったので、とりあえず曽田先生はさっさと撤収していただきました。

どうでもいいけど、書いたあと、鯖味噌って、鯖が旬でないかも、とちょっと気になってました。でもごま鯖は年中あるようなので笑

あ、研究室は鍵がかかります。
直樹さん、がっついててもそこはしっかりと(^w^)


Re.とりぴょん様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
幸せ気分になっていただいたようで、良かったです!
そう、なんでキムチ味にしたんだろ?私が食べたかっただけかも笑
確かに、キムチ味のキスですねー。
「あ、入江くん、キムチ味」って入れれば良かったわー
そして室内はカップ麺の二つの香りが混ざりあってスゴいことになっている中での………! まあ、匂いはどうでもいいのでしょう。そこに琴子さえ居れば(^w^)


Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

リコメが遅くなってスミマセン!

おお、如月先生。確かに似てるかも。あそこまでがっつり直樹さんを狙う女にしようかどうしようかまだ迷い中ですが(出るのか曽田先生? 今後も?)とりあえずこの夫婦を冷やかして遊んで見守るタイプがいいかしら笑

入江くんも朝の一蹴りは慣れてるかもですが、この日は抜かったようですね。
ええ、入江くんもお疲れだったのかも笑

あの雨の日どれだけ入江くんが待ったのか。考えると切ないけど、ちょっと焦燥の中待ち続ける彼の話も書いてみたくなります。

ほんと、成長しました。この年は嫉妬事件の後で神戸に経つ前の年。うちではかなりべた甘な時代なんですー。琴子がヤキモチ妬くの分かっててあからさまな意地悪はしないようです、さすがに……。
スイッチは……忠犬ハチ公のように待ってる琴子を見たときから入っていたかと。既に家まで待てない状態(どんだけがっついてんだ)。最短コース一直線でしたf(^^;
鬱陶しい梅雨のひと時、しあわせになってもらえて良かったです(^_^)

Re.shiroko様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました♪

リコメが遅くなってスミマセンでした。

本当に、この前年まで直樹は散々琴子を泣かせてますからね。
あのプロポーズの日の素直な気持ちを思いだし少し琴子を甘やかし気味な直樹さんです。
梅雨の話を書きつつ、次のお話もそうですが、あの秋の雨の日へ繋がっていくのです。あの日があって今の二人がある、みたいな。
日常のささやかな幸せはあの日から。そして、少しずつ成長していく直樹さんを相合傘をテーマに描きましたが、楽しんでいただけたようでよかったです(^_^)

Re.ちびぞう様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました♪

リコメが遅くなってスミマセン!
ほのぼのの後に謎の曽田先生! なんだか皆様色々曽田先生像を妄想していただいて、ちょっとこれは再び登場させた方がいいのかも、という気になっております。
二人をおちょくるアネゴキャラなのか、悪魔のように直樹を狙う女豹キャラなのか……楽しんで妄想できそうです笑
そうそう、でも何があっても直樹さんは靡きませんものね♪

はい、青江くんからはかなりの成長。ホップステップジャンプじゃなくて、ホップジャンプジャンプでしたf(^^;

いやーこの回のアマアマが描きたかっただけなのですよ~~(^w^)


Re.りん様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

ふふふ、りんさんにきゅんとしていただけてよかったです。
雨の日の記憶からあの日を思い出すのは二人とも、なんですよね。
そんな琴子にスイッチオン、プランは目まぐるしく立てたものの、最短コースしか頭になかったのかも……

ツボっていただけてありがとうございます。
何故か土砂降りの日にオーバーフローしている側溝を見て思い付いたセリフです笑

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