タイトル画像

君のいる、午后の教室 10

2016.04.29(23:35) 224




前回、久しぶりの『キミゴゴ』にたくさんのコメントありがとうございます。待っていて下さった方がたくさんいらして嬉しかったです~~(^_^)更新停滞していてスミマセンでしたf(^^;
とはいえ、さくさく続けられるか自信はないですが、頑張りますね(^w^)



そして、長くなりましたので、2話に分けますね(^_^;)







※※※※※※※※※※※




ーー絶対に流されない!
…………と、固く決意して図書室(ここ)にやって来たのだった。


そう、あたしは先生よ。
先生なのよ。

いっくら甘い言葉を囁かれたって、学校で生徒とどうのこうのはやっぱり有り得ない!
そんなアンモラルな!
ぜぇーーったいNGだってば!


何がなんでもちゃんと説得して彼に納得してもらわないと。
きちんとした道徳心や一般常識というものを教えるのも教師の務め、あたしに与えられた使命なのだわ!

ーーそう、握りこぶしをつくって天に向かって誓ったのだ。

ーーいい? 入江くん? 学校ではこんなことしてはダメなのよ。
一時の情欲に飲まれては駄目よ。
それを律する精神力と理性を身に付けましょう。
それが大人というものなのよ。
まだ16歳のあなたには難しいかも知れないけれど、感情と本能の赴くままに行動するのはケダモノと同じよ?
学校では一生徒と一教生という立場を越えてはいけないの。
わかるわよね? ね? 入江くんは天才なんだもの!


「何をぐだぐだと。琴子のくせして小難しいこと云おうたって説得力ねぇんだよ」


ぐだぐだと(一応小声で)云ってる琴子の横で琴子の指導案を猛然と書いているのは直樹だった。
差し出された教師用の赤字入り教科書と大学の教職指導用テキストを参考に、淀みない筆運びでさくさくと指導案を埋めているのだ。


ここは図書室の読書用閲覧室。
斗南高校の図書室は地方の図書館並みの蔵書を誇り、閲覧室も自習用、読書用、グループミーティング用と三室ある。

自習用は明るい窓際で、席は半分ほど埋まっていたが、読書用は開架図書の棚の奥まったところにあり、殆ど生徒はいなかった。

隣同士はガラスのパーテーションで仕切られているが、1つの机に無理矢理椅子を2つ入れて、ほぼ直樹が机に向かっていて、琴子は後ろから覗きこんでいる様相だ。



……そりゃ、先生と生徒になる前にあたしたちはこういう関係になってしまって、思いも寄らない事態なわけだけど、2週間だけなんとか隠しとおせば、問題はないと思うのよ。そ、そりゃ、未成年と、っていうのはやっぱり問題なのかもしれないけれど、先生と生徒というよりは百万倍ましなわけで………
とにかくね?
バレたらおしまいなの。
あなたもあたしも……


「だから、バレなきゃいいだろ? はい、できた。明日のA組の現国用の指導案」

「ええっはやっ うわー凄い! 入江くんって指導案書いたことあるの?」

完璧な指導案に思わず感嘆の声を上げる琴子である。

「……… んな、わけねぇだろ。教師用のテキストなんて初めてみたぞ」

「A組は進むの早すぎるのよね~~他のクラスはまだ賢治くんの詩をやってるのに、A組だけ次の単元に入っちゃうんだもん」

「悪いがA組は冬休み前には教科書全部終わるぞ」

「ひえ~~」

驚きつつも、とりあえずはこのA組の指導案だ。来週にはこの単元で研究授業をせねばならない……A組相手に………

「『舞姫』ってキライ」

次の単元は鴎外の『舞姫』だった。

「 アンハッピー過ぎる………っていうか、漱石の『こころ』にしろ、なんで教科書に載ってる小説って暗い救いようのない展開な話ばっかなの~~? もっと胸ときめくきゅんきゅんなハッピーな話載せれば、みんな読書好きになるのにねぇ」

現役文学部生によって文豪の名作はばっさりと切り捨てられた。
名作だからといって、恋敵の親友自殺に追いやったり、身籠った彼女捨てて精神破壊させたりとか、鬱々とした内容に全く共感できない琴子である。


「豊太郎、優柔不断過ぎる。愛してるなら地位も名誉もかなぐり捨てて、エリスを守らないと。エリスがあまりに可哀想! 最低! 最悪!」

「……一応、話は知ってるんだ」

文語調で読みづらいが、ちゃんと読んだのか、と感心する。

「うん、〇ィキや〇フー知恵袋であらすじ検索した。今って便利よね~~」

………おい。

「あらすじ読んだら腹立って原作読む気なくなっちゃって」

秀才でエリートの主人公がドイツに留学して、そこで知り合った踊り子の美少女と恋に落ち、同棲して孕ませるが、日本での出世の為に結局捨てて日本に帰ろうとして、それを彼の親友から聞かされた彼女は精神を病んでしまうという話だ。ちなみにそんな彼女を置いて帰国した彼は、勝手に彼女に話をした友人を恨んでる。恨んでるからには彼女を愛していたんだろう。その割りには彼女も子供も置いて日本に帰るのだ。
どうにも琴子はすっきりしない。後味悪すぎる。

「エリスは可哀想だけどあまり共感できないかも。………あたしだったら、赤ちゃんがお腹にいて、心なんて病んでいられないよ。だって、まずちゃんと赤ちゃん産んで育てなきゃ! それが何よりも一番大切じゃないのかな? 赤ちゃんがいれば前向きに育てることだけ考えて生きていけそう」

琴子ならそうだろうな、と直樹も思う。
そして、琴子は、それが恋人の為ならばあっさりと身を引いて、一人で子供を育てる道を凛として選ぶだろう。
長い時間をともに過ごした訳ではないが、まず相手の状況を一番に考えるところが、彼女に惹かれた理由かもしれない。
とにかく自己犠牲を全くいとわないから、放っておけない気がする。


「……これは鴎外の自伝的小説なんだ。実際はエリスのモデルとなった恋人は鴎外を追っ掛けて日本にやってきた」

「まあ、情熱的!」

「でも親類縁者に説得されて恋人はドイツに追い返された」

「酷い……いったい、鴎外は何やってるんのよ! つまり、現実も悲恋で終わったってこと?」

「ま、その当時の国際結婚はなかなか難しいだろうな」

「あ~~やっぱり腹立つわ~~あたし、こんな話に冷静に授業できるかしら?」

ぷんぷん憤っている琴子に、直樹は肩をすくめた。

「教科書は抜粋だけだろ。ちゃんと原作読めよ。あっちにある筈だぜ」

生徒にたしなめられている教師というのもどうかと思うが。

だがまあそれが琴子なのだと、直樹は気にもせず、琴子の手をとって、開架図書の書棚の奥に連れていく。





そして。

「だ、ダメってば…………」

書棚に押し付けられて身動きの取れない状況に陥っている琴子であったーー。


たがらーー流されないって!
絶対に流されないって、固く決意したのに~~~


『舞姫』を探しに森鴎外の全集本の棚に行くのかと思いきや、ずっとずっと奥の方である。
図書分類法で0~1の辺り。総記や哲学、宗教といった分厚く難解な言葉のタイトルの本が棚を席巻していた。
人の気配の欠片もない静謐な空間だ。
古びた背表紙で埋め尽くされた書棚に突然ドンと押し付けられた。

…………棚ドン?

考えてみれば文学は一番入口寄りで人が常に行き来している書棚だ。最初からスルーするつもりだったに違いない。


「ん……ん、だめ……」

押し付けられたまま深く口付けられる。
小声で喘ぐように呟いて、なんとか直樹を押し退けようともがくが、どうにも動けない。

この辺りには誰もいないが、自習机には何人か生徒がいた。
司書教諭も確かカウンターに居た筈だ。
それなのに、それなのに、まさかこのようなコトに及ぶとは!

じょ、じょーだんでしょ?
からかってるだけだよね?
流石に此処じゃーー

焦ってる琴子を尻目に直樹はキスを首筋に落としながら平然と胸やら尻やら触ってくる。
スカートの裾から手が侵入してきて、思わず声を出しそうになり、飲み込む。
涙目で睨み付けるが、どこか楽しげに薄く微笑む様はいたずらっ子のようだ。

「……指導案の礼はきっちりもらうからな」

耳元に小声で囁くついでに耳朶を軽く甘噛みされて、「ひゃ……あん」と妙な声が漏れてしまう。

「声、出すなよ」

だったら、声の出そうなこと、するな~~! と大声で叫びたいのをぐっと堪えて唇を噛み締める。

その唇を舌でなぞるように触れてきて、思わず開いた唇の隙間からあっさりと侵入を許してしまう。
声を出させない為か、長い長いキスをした。

絡まり合った舌が痺れるくらいに追い求める。深く繋がった唇の隙間から漏れる湿った水音が、琴子の頭にダイレクトに響いて、この静かな図書室内にも響きわたっているのではと、舌を逃れさそうとしても、すぐに直樹の舌に掴まる。掴まって、捉えられて、溶け合って、離れられない。

熱いキスにくらくらして何が何だかわからなくて、段々どうでもよくなってくる。

ーーそして、あっさり流されてしまうーー。

いつの間にか琴子の方から直樹の首に腕を巻き付かせて、積極的にキスを受け入れていた。
もっと深く触れあいたくて、身体を密着させる。


ーーかつかつかつ。

足音が近付いてきて、思わず互いの身体がぴくりと跳ねたのが分かった。

唇は少し離れたが、何故か直樹は琴子を離さない。書棚に押し付けたままだ。

足音は二人のいる書棚の真裏で止まった。
幾つかの本を物色しているようだった。
右へ左へウロウロし、一冊手にとってはぱらぱら捲って、そして棚に返している。

そして、琴子の背中の真後ろの本を一冊取った。

琴子は心臓がばくばく音をたてて、その音が聴こえないかと不安になる。

ーーもう! どうして離れてくれないの?

多分、このしっかりと抱き合っているような状態を見られても適当に言い訳をでっち上げることなど簡単だと思っているのだろう。
琴子が爆発しそうな心音を響かせているのとはうらはらに、直樹は全くしれっとしているのが少し小憎らしい。

そのうち、その本を持ったまま足音は去っていった。

「はぁぁ~~~」

大きく嘆息した琴子に、「ため息がデカイ」と唇をムギュッと摘ままれる。

そして「やっぱり此処じゃ、やりにくいな」とちらりと横の方を見た。

そうよ、そうなのよ。
すぐ向こうには人がいるところで、こんなことをやろうってのがそもそもの間違いなのよ。
………何、スリルとサスペンスを求めてるのよ~~~

と、瞳で訴えていたら、「あっちに行こう」と、再び琴子の手を引っ張っていく。

「ここは?」

書棚と書棚の間の1枚の扉の前に立った。書棚は事典や学術書などの禁帯出本だ。赤いシールが同じ位置に貼られていた。

「閉架図書室」

そして、何故か鍵をひとつ取り出して、ドアノブの下の鍵穴に差し込む。

「な、なんで鍵……」

「カウンターの処に置いてあったからちょっと拝借してきた」

「……勝手に?」

目を丸くする琴子を無視して、さっさと扉を開け、中に押し込む。
いや、つまり最初から此処に引っ張り込むつもりだったということだ。

ぱたんと音がして、内側から鍵を閉めた。


ここの閉架図書室はいわゆる資料室みたいなものらしい。
貸し出し禁止の古い本や、修理の必要な本などが雑然と棚に積まれていた。
室内は書棚が林立する森のようだった。

その中央に大きな作業机があり、修復途中の本が幾つか積まれていた。
もう読まれることのないだろう古いボロボロの雑誌も片隅に置かれてある。
古い本の独特な湿った紙とインクの匂いが充満していた。
そして締め切っていた部屋なので少し暑苦しい。

勝手に換気のスイッチとエアコンのスイッチをいれる。
こんな部屋まで空調完備なのが流石私立だな、と状況を忘れて感心する琴子である。

しかしそんな琴子の腕を引っ張ってーー再び書棚に押し付けられた。

「…………入江くぅん………」

眉根を下げて懇願するような瞳をうるうるさせている琴子を無視して再び口付ける。


ーーいただきます。

直樹の心の声が聴こえた気がしたーー。






※※※※※※※

すぐに後半アップします。
限定です………f(^^;



関連記事
スポンサーサイト


Snow Blossom


君のいる、午后の教室 トラックバック(-) | コメント(-) | [EDIT]