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個別記事の管理2015-07-07 (Tue)


七夕、ギリギリセーフでしょうか? 昨日出来て0時にアップしようと思ってたのに、読み返して、思うところ有って保留にしてしまいました……。
ま、いいやと開き直ってのアップです^-^;
長くなってしまったので二話に分けます。





※※※※※※※※※※※※





「あ、雨」

ぽつりと一滴が空から降ってきて、あたしはぼうっと灰色の空を見上げた。

この分じゃ……織姫と彦星のランデブーは雨天中止になりそうね。
ーー可哀想。
でも、あたしだって入江くんと会えないんだし。

うん、そりゃね。
織姫と彦星の逢瀬のチャンスは1年に1回なわけだけどさ。
あたしは夏休みまで会わないって約束やぶっちゃって、先月会いに行っちゃったし。それにもうすぐ夏休みだし。夏休みには会えるわけだし。ええ、ええ、年1の彼らに比べたら全然マシなわけよ。
そのうえ日本じゃ梅雨で会えない年の方が多いかも……と思うと、かなり可哀想よね。
でもちょっと待って。宇宙なんて天気は関係ないじゃない? 雲の上は晴れてるんだよね?
それに入江くんいわく、本場の中国じゃ旧暦の行事だから、実際は8月なんだって………ってこんなこと言い出したらキリないわよね。
うん、でもきっと雨だって雲の上でランデブー出来るのよ、彼らは!
見えなくったって、天の川は頭上に存在してるんだもん。

あたしは、空を恨めしげに睨み付ける。

あたしだって……入江くんに会いたいのに。


そりゃ……もうすぐ夏休みだけどさ。
待ちに待った夏休みがもうあと2週間程で訪れるというのに。
あたしは昨夜から憂鬱な気分が拭いきれないでいる。
夏休みになったら神戸に行く…そう、休みに入ったら何が何でも誰が止めようともソッコー行くつもりだった。
20日の夏休み初日にしっかりカレンダーに花丸つけてて。
なのに、なのに、25日から、5日間も卒論合宿ゼミがあるなんてーー!
聞いてないわよ!(同じゼミの子からはもう5月には聞いてるといわれたけど……)
モトちゃんからは「あんたが川嶋ゼミなんて選ぶからよ」って言われたけどさ。
だって、川嶋先生は小児看護のスペシャリストじゃない。卒論、そっち方面でやりたかったんだもん。
でもね? スゴい偶然なのよ。
あたし、入江くんが小児外科希望なんて思いもしなかったの。多分外科だとばっかり。知ったのはこの前6月に神戸に行った時。なのに、その時あたしは既に卒論ゼミ、小児科関係を選んでたのよーー!
もう、これはあたしたち夫婦、離れていても繋がってるとしか思えないわよねっ

って、自分の選択を喜んでいたのはゼミが本格的に始動し始める前まで。
川嶋教授は、20年近く現場でナースとして働いてきてから教職についた人らしく、とても厳しいし、求められることも難易度が高かったりする。
卒論の進行ペースも速いし、課題も多い。
既に夏休みにやらなければならない課題が山盛りだし、モトちゃんや真里奈たちとはゼミが違うから手伝ってはもらえない。

幾つかの予定を組み立てていったらどう考えても、夏休み始まってすぐに神戸に行くのは無理で……。
6月に神戸から戻った後、ずっとカウントダウンしていたあたしの気持ちは何処へ行けばいいの?ってくらいテンションが下がってた。
それでも色々足掻いてあれこれ調整して、神戸に行けるのはやっぱり8月に入ってからと諦めて、昨日ようやくそれを入江くんに報告した。
そして受話器の向こうの入江くんは、ただ一言。

「ーーま、しょうがないんじゃない?」

ーーそれだけ?
それだけなの?
もうちょっとがっかりしてよっ
………って思うのはあたしの我儘なのかなぁ?

『……来れないわけじゃないんだし。8月になったら来るんだろ?』

そりゃそうだけどね。
でも、1日でも、1時間でも長く一緒に過ごしたいって思うのはあたしだけ……?

『ちょうど、おれも来週からERに2ヶ月研修に行くことになっているから……忙しさが今以上になるのは目に見えてるんだ。あんまり構ってやれないから……』

……構ってやれないから、丁度良かった?
あたし、もしかして、行ったら邪魔なの?

『ーーあ、それからおれ、明日から3日間九州で学会だから。七夕だから会いにこよーなんて間違っても思うなよ』

まさかのダメ押し。

「お……思わないわよ、そんなこと……!」

思ってた。
実は思ってたのよ、密かに。
この数日間のあたしの妄想全開の計画があっさり打ち砕かれた瞬間だった。

題して『琴子の七夕エクスプレス』。
ほんとに入江くんに一瞬会うためだけのサプライズ計画。
朝、大学に行くって家を出て、新幹線に飛び乗って、神戸に行って、病院に着いて入江くんを見つけてーー見つけたら駆け寄ってキッスして、呆気に取られてる入江くんを尻目に、じゃあねっ!ってあっさりすぐに帰っちゃうって計画。そんでもって、いつもの大学から帰る時間には家に戻ってるってわけ。
……って計画をここ数日、時刻表眺めながら、ニヤニヤ一人で考えてて、どうする? マジ、行っちゃう? なんて気になってたけどーー

まあ、聞いてよかったよね、九州行くってこと。
知らなかったらあたし、神戸で延々入江くん捜してたかも。
でもいいのよ。この計画を妄想している間、あたし、とっても幸せだったから。

でも、九州ってーー!
本来なら普段別れ別れの恋人同士が会える日だってのに!
さらに遠くに引き離されちゃってるわよ? あたしたち!


『じゃあな。明日早いからもう切るぞ』

随分あっさりした入江くんの言葉に追い打ちをかけられたあたし。
ああ、やっぱり。
入江くんはあたしが来ることなんて、あたしが思うほど待ち遠しいわけじゃないんだよね。

ーーそんなことを鬱々と考えていたせいで、昨日からなんだかスッキリしない気分が胸のあたりに居座っている。
楽しみな筈の夏休みが目の前に来ているというのにーー。


ねえ入江くん?
あたし、いいんだよね? 夏休みの間そっちで一緒に暮らしても………
邪魔じゃ、ないんだよね?

晴れない想いを抱えたまま、2限目だけあった講義を受けて、モトちゃんたちと食堂でランチを食べて馬鹿な話を色々してーー少し笑ったらちょっとだけスッキリしてーーそのあと一人でぶらぶらと買い物に出掛けてた。

特にあてはなかったのに、気が付くと入江くんとよく行った場所についつい向かっていた。
入江くんと行った場所って……つまるところ本屋とか図書館。
そりゃね、二人の歴史に燦然と輝く井の頭公園とか映画館デートとかもあるけどさ。
『デート』と称して出掛けたのはその看護科合格祝いデートの1回きりかも。
二人でお出掛けは買い物か、本屋か図書館ーーあ、たまに神田の古書店巡りってのもあったわね。
まるで健全な中学生みたいって笑っちゃう。(中学生は古書店街には行かないか~)
しかも出掛けるという入江くんにあたしが用もないのに慌ててくっついていくってお決まりなパターン。

そして今ーーつい何となく足を向けてしまったのがーーーここ、一緒にお出掛け率1、2位を争う最寄りの図書館だった。

……傘は持っていたのだけれど。ほら、梅雨だし、降水確率50%だったし。
それでも、今さら鞄から折り畳み傘を出すのは少し面倒で。
あたしはぽつりぽつりと降ってきた雨から逃れるように、慌てて目の前の図書館に駆け込んだ。



区立の図書館だけれど、この辺りじゃ一番大きくて蔵書も多くて、入江くんのお気に入りだった場所だ。何より家から割合近い。
とはいえ、大学に入ってからは大学の図書館の利用率の方が断然高くて、昔ほど足繁く通ってた訳じゃないから、少し懐かしいかも。

建物の中に入ると、ぱっと目に入ったのは大きな笹竹。
その横には長机が置いてあって、ペンと短冊が用意されていた。
色とりどりの短冊が既に沢山、笹に括られている。殆どが子供が書いたようで、拙い文字だけれど可愛らしい願い事が、ゆらゆらと揺れていた。
あたしもついついペンを手にとって、短冊に願い事を書く。
もう、うちでも、実習先の病院でも散々書いてきたのだけれど。

『絶対国家試験受かりますように』

『来年は入江くんと七夕を過ごせますように』

願うことは沢山あるけれど、とりあえずその2つに凝縮して短冊を笹に結う。

そう。欲張っちゃいけない。

「入江くんがもっともっとあたしのこと好きになってくれますように」

なーんてね。


あたしは入江くんみたいに本の背表紙を眺めるだけで延々と時間を過ごせるタイプではないので、とりあえず開架図書室に入ったものの、本を眺める訳でもなく、子供たちが絵本を眺めている小上がりの畳スペースに上がり込み、ぼんやりと窓の外を見つめる。
ーー何しにきたんだか。
うん、ただ浸りたかっただけなのよ。
入江くんとの思い出に。

入江くんは難しい学術書を何冊も机に置いて、あたしは漫画を読んでるだけだったけどさ。
お互い全然違うことをしていても、ただ入江くんの傍らにいるだけで幸せだった。そんな穏やかな日々が永遠に続けばいいと思ってた。



「ただいまからキッズスペースで七夕のおはなし会を始めます……」

やけに子供たちや親子連れが集まってきているな、と思ったらどうやら大型絵本や紙芝居を使っての読み聞かせがあるらしい。
あたしは何となくそのまま子供たちと一緒に司書のお姉さんの話す物語を聞き入っていた。


「………というわけで毎年7月7日だけ天帝は織姫と牽牛が出会うことをゆるしました。けれども7月7日に雨が降ると天の川の水かさが増し、織姫は川を渡ることができません。上弦の月を船にして渡してくれる月の舟人も、手を貸してはくれません。この日に降る雨は催涙雨とも呼ばれています。催涙雨は織姫と牽牛が流す涙といわれていわれているのです。
ーー今日は残念ながら催涙雨かしら。夜になったら止むといいわね。二人を哀れんだカササギが沢山沢山連なって翼を広げて橋をつくってあげるという伝説もあるのよ。どうか二人が出会えるように、みんなも空を見て祈ってあげてねーー」

お姉さん七夕の2つの物語を聞かせてくれていた。
1つは子供にもわかりやすい織姫と彦星の物語。
もう1つちょっと高学年向けの中国の伝説を元にした織姫と牽牛の説話。

ーーああ、ごめんなさい。やっぱり雨が降ると大変なのね……

あたしはさっきまで、どうせ雲の上では晴れてるんでしょ?などとやさぐれた突っ込みを入れてたことを反省してしまった。


ざわざわと子供たちが散っていく姿を見ながら、あたしもそろそろ帰らないと、と腰を上げる。

図書室の自動ドアを通り抜けた時、丁度さっきまで一緒に読み聞かせを聴いていた子供たちが、今度は楽しそうに2階の方へ向かっていく姿が目についた。

何だろう?

その理由は階段横の掲示板を見てすぐにわかった。
ここの図書館はプラネタリウムを併設していて、今日は『七夕の物語と星座』と題したプログラムを投影するらしい。
雨が降っていても、ここなら織姫と牽牛も再会できるというわけね。

こじんまりとした区のプラネタリウムだから、値段も安く、並んでいる人も少なさそうだ。
あたしは迷うことなくチケットを買ったーー。







※※※※※※※※※※※※

続けて後編アップします。




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