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個別記事の管理2015-06-02 (Tue)



本日、2話分アップしてます。未読の方は前話からお読みくださいませ。






※※※※※※※※※※※※※



さて。こちらは琴子の方である。
じんこに連れられて、ビンゴのグッズを控え室に探しに行き、それらを持って会場に入った途端ーーー


きゃああああーーーっ


女たちの耳をつんざくような悲鳴が聴こえた。

「な、何!?」

琴子とじんこがお互いしがみつくように抱き合って、きょろきょろと辺りを見回す。

「琴子、あれ……」

じんこが先に気がついて、正面ステージのスクリーンを指差した。
スクリーンには、ずっと高校時代のアルバムが編集されてエンドレスに流されていた筈だか、いつのまにか今日の会場の様子の写真に変わっていたらしい。
そういえば、プロのカメラマンをしているというE組の富樫が、みんなの写真を撮影していた。最後に各クラスで集合写真を撮るとか云っていたっけーー
いや、そんなことより。

何が映っていたのか。
スクリーンの写真は数秒毎に変わっていくから、みんなが楽しく歓談したりふざけたりしている写真が流れているだけだ。

なのに、たくさんの女たちが腑抜けたようにスクリーンを見つめたままフリーズしている。

「琴子…………あんた、さっきロビーで入江くんとキスしてたでしょ」

「え? えええーっ?」

琴子の素頓狂な声が辺りに響いて、スクリーンを見つめていたみんなの視線が琴子に集まった。

「どうもばっちり撮られてたみたいで今、流れてたみたいね。変わる瞬間、ちらっと見えたんだけれど」

と、じんこはスクリーンを指す。

「な、な、な、なんでっ! 今撮ったばかりのをそんなすぐに見せられるの!?」

「そりぁもう。時代は進化しているのよ」

達観したようなじんこのセリフも上の空で、琴子はただ口をぱくぱくしながら、どうやら一身に注目を集めているらしい我が身をどこぞに隠そうかと視線をあちこちに泳がせる。

「あ、また映った」

「え……」

きゃああああーーー

再び、阿鼻叫喚。

どうやら、たまたま男子トイレから出てきたところを見かけて、ばっちり撮ってしまいました、という感じのアングルだった。

ソファに腰掛けている琴子に覆い被さるようにキスをしている直樹ーー二人の横顔がしっかり映っていた。

「ちょっとおおーー」

琴子は慌てて投影している所を探して見つけると、そちらに向かって駆け出す。

「何映してんのよーー!」

投影機にタックルしようとしたが「入江さん!」と、日比野に手を掴まえられ止められる。

「こ、これ、ここの備品だから壊さないで~~」

「日比野くんっ! 何であんな写真!」

真っ赤になって強烈な剣幕で怒る琴子にびびりながら、「ごめん、富樫が勝手に……」と、後ろでパソコンを弄っているエディターをにらんだ。

「えー、だっていい写真じゃん。めっちゃ綺麗で。二人ともすごくいい感じだし。なあ?」

と、一眼レフのデジカメを抱えて、日比野に同意を求める。

「うん、まあ。でも流石に、前もって知ってたら……」

日比野は困ったように言い淀む。

「でも、まあ相手が違ってたらマズイけど、夫婦なんだからいーじゃん。あんなとこで大胆にキスしてたんだから、別に見られてもいいってことじゃ………」

よくなーい!

そう叫びたかったが後の祭りである。
とりあえず直樹は見てないだろうか、と会場を見回すが、まだ中に入っていないようだ。ほっとする。絶対機嫌が悪くなる。
写真のデータは後で富樫から返してもらう約束を取り付けた。
見せてもらったけれど確かに抹消するには惜しいくらいいい写真だ。……いやいや。

背中に……視線がーー。
視線が痛い…。

何だかあっちこちで、ひそひそ囁かれているような気がする。

入江直樹と結婚したというだけで嫉妬と羨望を常に集める注目の我が身なのに、余計な視線をさらに集めてしまったと、琴子はこめかみを押さえながらふらふらと理美たちの方に戻ろうとしていた。

ーーが。

「相原さーん」

彼女らのところに辿り着く前に、再び琴子の方にも障害が立ちふさがる。
唐突に声を掛けてきた女を見て、一瞬身構えた。

「ちょっとこっち来ない? 医療関係者グループで集まってんのー」

そう云って琴子一人を連れ去っていったのは元C組の塩谷芽衣子だった。
斗南の看護科卒の先輩でもある。実習時代は内科にいて、結構きっつく虐められたのを思い出していた。
外科病棟に正式に配属されたあとは、一度も芽衣子と仕事上の接点はなかったが、院内ですれ違うことは何度か会った。同期でもある元同級生たちとヒソヒソ何やらこちらをみて囁かれてイヤな気分になったこともある。

そして、彼女に引っ張られて行った先には10人程の同級生たちが輪を作って話し込んでいた。

「でさードラマみたいに放送が入ったわけだよ。『お客様の中に、医師もしくは看護婦の方はお見えになりませんか?』ーーって奴」

「 えーマジ? あたし、1度も飛行機や新幹線でそんなアナウンス聞いたことないよ」

「で、池沢くん、結局どうしたの? ちゃんと私は医者です、って、手を挙げたの?」

「そんなの当たり前だよ。まあ、ただの過呼吸でたいしたことなくてね。飛行機引き返すとかしなくて済んで良かったよ。……っていうか、そんな判断おれに任されても困るし……」

そんな自信なさげな医者でどうすんのよーーと呆れながらも、どうやら真面目に仕事について語っているようだと少しほっとする。
悪いけど、突然救急患者にぶち当たるのはあたしの得意技よーーと妙な自慢を心の中で思ったりする。


「ほらーみんな。相原さん、連れてきたわよ。斗南の看護婦の中でもっとも有名なナースなんだから」

芽衣子がにやにやと笑いながら琴子を前に押し出す。

「相原さんじゃなくて、入江さんでしょ? 芽衣子、わざとらしく間違えないでよ」

そう云ったのは、やはり斗南の看護科卒の同級生だ。確か、皮膚科。

「ああ、ごめんなさい。あんなに入江くんと仲がいいなんて、本当に羨ましいわー」

「おかしいわよね。病院じゃ入江くん奥さんに冷たいって評判なのに」

「えーそうなのー?」

驚いたように訊ねたのは、確かにA組の女子。

「陽子は、薬学部を出て、製薬会社の研究員をしてるのよ」

ぽそっと芽衣子が琴子に耳打ちする。
そうそう、後藤陽子! 毎年高校時代の同級生からの直樹宛の年賀状は減ってきているのに、10年欠かさず送り続けてる女だ。
どうやら彼女に病院での夫婦の様子を説明しているらしい。

「奥さんがどじばっかりで、迷惑かけられっぱなしで、本当入江くん可哀想って話……」

「もう、注射はまともにできない、点滴のルート確保も失敗ばかり、病院の中でしょっちゅう迷子になっては患者さんを変なところに連れていき……もう、彼女の噂は内科まで響き渡っていたわよね」

「やだっそんなんでよく看護婦やってるわねー」

うーん、これは……。
つるし上げ?
流石に鈍い琴子でも分かる。
さっきの衝撃スライド上映のショックから、琴子にあれこれ云いたくなってしまったってヤツだろう。
ちょっとした鬱憤の捌け口だ。

「医者の旦那さん掴まえてるんだから、もう看護婦やめちゃえば?」

「あーあたしも早く医者をゲットしたーい」

「あ、おれはどう? まだフリーだけど」

「えー池沢くん、病理でしょ? ずっと大学病院だよね? 出世コース乗れるのー?」

「いーじゃん。おれ、T大理Ⅲだぜ? 入江より格は上だろ?」

「格はともかく、顔はねー」

ぎゃはははと笑いが起きる。

「久瀬くんはナースと結婚したんだよねー?」

「親の病院継いで安泰だよな」

「小さな耳鼻咽喉科クリニックだぜ? まあ今、アレルギー患者が多くてそこそこ儲かっているけど」

「えー? 儲かってるってどれくらいー?」


みんな、酒が入っているにしろ、明け透けに本音を吐露しすぎている。
琴子は話を聴いてるだけで胸焼けしそうにだった。

「あ、あたし……理美たちの方へ」

こそっと立ち去ろうとした琴子の腕を、芽衣子ががしっと掴まえる。

「いいじゃない、同じ医療者同志なんだしー。病院じゃ滅多に会わないんだから。ゆっくり話しましょ」

「そうそう、彼女、オペで先生の手を傷つけたって凄い武勇伝があるのよねー」

「やだあ、先生の手をオペしちゃったのー?」

いったいいつの話を持ち出してんだか……
弁解する気力も沸き起こらない。
けらけら笑っている人たちの前で深くため息をつく。
斗南に勤めている者もいれば、他所の病院にいる者もいる。事情を知らない者たちに面白可笑しく琴子の失敗列伝を語ってくれている。
皆事実だから否定はできないが、殆どナース1年目の出来事だ。
ストレスが溜まる仕事だと分かっているけれど、人を話の肴にされては堪らない。


「なーんで、そんな人が入江くんの奥さんやってられるのかしら。彼は入局4年目にして年間手術回数は外科のトップなのよ。学会から注目される難易度の高いオペも成功させてるの。なのに、彼女は……」

はいはい、どうせ入江くんに相応しいビシバシ出来るナースじゃありませんよ。

余計なことは云うまい、どうせ酔っ払いだーーと琴子は耳に栓をしてやりすごそうと決めた。ーーが。

「塩谷さん、情報古い。琴子さんの失敗話、それかなり昔の話でしょ。ナースになりたての頃の。みんな、1年目2年目は色んな失敗するのは当たり前よ」

そう云ったのはーー誰だろう。
琴子の知らない女性だった。

「ああ、あたし元C組の北見です。斗南大学医学部の作業療法科を出て、斗南のリハビリテーション科で言語聴覚士をしているの」

「あ、そうなんだ。ごめんなさい、知らなかった」

「何度か会ったことはあるのよ? 外科の患者さんが、うちにリハビリに来ることもあったから」

「あーそういえば、何となく。あ、でも、なんで同級生って教えてくれなかったんですか?」

病院で出会う元同級生の看護婦たちは必ずそれをアピールして直樹のことをあれこれ訊いてきたのに。

「別に、同級生とかどうとかなんて仕事にはなんの関係もないでしょ?」

眼鏡をかけて少しキツそうな顔立ちはしているが、きっぱりした言い方は妙に清々しい。

「産休とるまでの琴子さんの評判、そんなに悪くないわよ。どちらかというと、患者さんにはとっても人気があるわ。
注射や点滴のミスなんて最近訊いたこともないし。いったいいつの時代の話よ、って云ってやれば?」

北見の言葉に、琴子を馬鹿にしていた看護婦たちは、少しバツが悪そうな顔をして唇を噛む。

「北見さん、ありがとう」

にこっと微笑む琴子に、特に表情も変えることもなく「別に。あなたを庇ったわけではないわよ。事実を歪曲した話を目の前で展開されるのがイヤなだけ」と、あっさり言う。

そういえば、と思い出した。
事故のショックで失声症となった琴子の担当の患者を彼女に預けたことがあった。
一見無愛想で怖いと感じたが、面と向かって話始めると、真っ直ぐ目を見て優しく語りかけてくると、言葉を取り戻した患者が嬉しそうに話していたっけ。

「外科の清水主任は、私の中学の時からの先輩で、尊敬してるの。その彼女があなたのこと、誉めてたから」

「えー? そうなの? 知らなかった。うれしい」

「……病院に働いていれば、入江先生が奥さんのこと溺愛してるのはみんなわかっているよのね。ただ認めたくないだけ。あなたが妊娠したこと知ってショックで早退した職員、うちの科にもいるのよ」

「ははは………」

「だいたい、あなたたち、割と病院で平気でいちゃいちゃしてるでしょ。キスの目撃談なんて、今更って気がするんだけど」

平気でいちゃいちゃ………
そうか、そう見られていたのか。
いや、確かに直樹は、全く見られていることに無頓着なキライはあるけれど……
琴子は思わず引きつった笑いを返す。

「どうせ、この酔っ払いたち、医療従事者として参考になる話題はたいしてないから、さっさと友達のとこ行けば?」

「ありがとう」

北見に促されて琴子は、そそくさとその輪から抜け出して、ようやく理美たちの方に戻る。
どっと疲れを感じつつ。


「おかえり。大丈夫だった? 変な集団に捕まってたけど」

理美に云われて「まあね」と、琴子は肩を竦めて苦笑いを返す。

「そのうえ、素敵な写真もアップされていたわね」

「…………………」

にやにやと理美に笑われて、返す言葉もない。

「 そろそろ締めのビンゴだね。……あれ? そういえば入江くんは?」

「あれ?……いない……?」

琴子はぐるりと会場中を見渡して、愛する夫の姿を探していた。






その頃直樹は。
いまだに鬱陶しい、T大助教授に掴まったままだったーー。









※※※※※※※※※※※※



何だか同窓会狂想曲……といった様相で、あっちゃこっちゃでドタバタしております(^.^) 何じゃこりゃ……?

えーと、あと1話か2話で終わる予定です……






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* Category : とある1日のお話(西暦シリーズ)
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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

はい、二大妖怪共倒れ……段々この二人が予定外な感じになってきて、扱いかねている今日この頃……^-^;
卒業してから会ってない面々は、もう今日この日をチャンスに思ってたんでしょうねー。見せつけられても、懲りないというか、やさぐれて醜い嫉妬を琴子に直撃。直樹さんは変なのに掴まったまんまだし^-^;ええ、イライラMAXでしょうとも。
あまりに同窓会会場が魑魅魍魎の巣窟になりそうなので、少しはマシな方を登場させました(^.^)
オリキャラうじゃうじゃいすぎて何度も名前確認しにいっている私です……^-^;でもA組の池沢くんと後藤さんは原作にもいるのですよ……(名前だけ)

Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

そうなんですよ、何だかとっても美智子さんがまともな人に見えてきました。当初は美智子さんの方がやな女の予定だったなのに、書いてるうちに何故か優梨子さんの方がかやな女率が高くなってしまいました。さあ、どうしよう^-^;
とりあえず美智子さんはあっさり玉砕していただきましたが、さて、優梨子さんをギャフンと云わせるのは難しいことに気がついて焦ってます。こういう人って自己防衛力が強いから、何を見せつけられても「ふん、別にどうってことないわー」と自分の心に蓋をして自分を護ってしまいそう。
なんとか、蓋をこじ開けさせたいと思います^-^;
看護師仲間や、医療従事者たち……なんか鬱窟してます……普段近くにいない部所だから何も知らないし、こんな時じゃないと言えないから酔った勢いではきだしちゃってるみたいな。みんながみんなこんなんじゃあんまりだ、と北見さん登場。実際の現場は彼女みたいなタイプの方が多い筈です、きっと(^.^)
ただの賑やかしの助教授ももうちょい直樹さんを引き留めてしまうかも……^-^;イライラが止まらないでしょう……
続き、もう少しお待ちくださいね♪

Re.たまち様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

はい、会場外も内側も、うざ女やうざ男が跳梁跋扈しております……^-^;
場外乱闘でとりあえず二人の女は撃沈ですが、まあ美智子さん直樹さんと話せただけマシってもんですね。……優梨子は……何かと面倒な性格です(-.-)
助教授も面倒な人です。さて直樹さんはこの人を振り払って琴子ちゃんの監視に徹することができるのかっ?
会場内の魍魎たちもちくちくと責め立てますが、そんな昔のこと持ち出されてもねえ。もっとも彼女たちの思いも昔の憧れに囚われたまんまで、現実に二人のラブラブっぷり(せっかくの直樹さんの牽制ホームランなのに、ええ間違いなく見られてるの自覚してるでしょう)見せつけられても逆ギレ気味で直視しない、面倒なオリキャラたちです……(-.-)
そうそう、夫婦なんだから何しようと勝手でしょ、ってなもんですよ(^.^)
直樹さんのストレス限界にならないうちに早いとこ同窓会終了させるよう頑張りまーす♪

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