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個別記事の管理2015-06-02 (Tue)
更新遅くなってすみません。切りどころを見失ってだらだらと書き綴っておりました。長くなってしまったので2話にわけます。





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「……二学期の前半、おれの席の前にそういう名前の人が居た記憶はあるが、目の前の君とはどうも合致しないな」

「覚えてる?」と少しばかり顔を赤らめて訊いてきた女に対する直樹の返答は、実に歯に衣きせぬストレートな物云いだった。
佐藤美智子はぐっと言葉に詰まる。

「お、女の子は変わるのよ。化粧とかで全然……!」

実のところ目元は弄っているが、これくらいは許容範囲だろう。

「まあ、確かに。元A組と称する女たちが次から次へと挨拶に来たけど、半分近く記憶の顔と合致しなかった。女性ってのはそういうもんなんだろうな」


恐らくはみんな、綺麗になったなーとか、変われば変わるもんだなーとなどと、感嘆の想いを込めた言葉を期待して彼に近付いたに違いない。だが、綺麗になったとか美しくなったとか主観的で曖昧な言葉が彼の口から出ることはただの一度もなくーー。
勉強一筋でオシャレとか全く気にしなかったA組女子はきっとどのクラスの女子より容姿の変化率が高いだろう。特にこの同窓会に向けてどれ程多くの女子が気合いを入れて自分を磨いてきたことか!
ーーー自分も含めて。
彼の嫁のように、高校時代とほぼ変わらぬ容姿をしているなんて、妻の座を手に入れたことによって女磨きを怠っているとしか思えない。

そう、一体今日、あたしが何人の同級生の男子たちに驚嘆されたと思ってるのよ。

ーーびっくりしたよ、こんな美人になってるなんて。

ーーテレビ見たよ、佐藤さんとは気がつかなかった。あまりに見違えちゃって……

ーーよかったらアドレス教えてよ……

教えてあげるわけないじゃない、入江くんに比べてあんたたち、劣化率半端ないんですけど! いい大学、いい会社に就職したからって安穏な生活に溺れきっていたでしょう? 何? 30前にしてその腹は? って奴ばっか!
けれど、目の前の憧れの王子はーー高校時代よりもさらにグレードアップして大人の色気も感じさせる美しさと風格! 想像通りの進化具合だったーーのに。

「それで? 用がないなら行くけど」

まるで興味無さげに云われて、美智子は焦って話し始める。

「え、えーとね。知ってるかしら? 私、今、トーキョーテレビで経済番組のMCやってて」

経済番組、と言い切るには若干語弊のあるバラエティー要素の強いプログラムだが、その辺はさらっと誤魔化す。

「ああ、そういえば琴子がそんなこと云ってたな。一度見せられた気がする」

「み、見てくれたの?」

思いもかけない直樹の言葉に、美智子の顔はぱっと輝いた。

「ああ、悪い。子供あやしながら見せられてたんであまり覚えてない」

そしてやはりあまりに正直すぎる答えに、美智子は思わず脱力する。
しかもーー子供あやしながら……?
あの入江直樹が!?
なんて、所帯じみた……

「い、入江くんが赤ちゃんあやしてる姿、何だか想像出来ないな……」

「そうか? 別に無理して想像してもらう必要もないがーーで、話って?」

用があるならさっさと言えーーと、鋭い目つきで訴えられている気がして、美智子は怯んで少し後ずさる。

「えーと、その番組で、色々な業界の人たちに出演してもらってるの。最近医療関係者のコメンテーターも多いでしょ? 医療と経済についてぜひ入江くんに語ってもらいたいと……」

嘘ではない。
とにかく直樹と今後接点を結ぶために、この企画を通したのだ。いや、企画というより、医療雑誌に載っていた直樹の写真をプロデューサーに見せただけで「いいねえ、華があるよ」と一発OKだったのだが。

「は?」

直樹は思いっきり眉間に皺を寄せて美智子を凝視した。

「医療と経済? おれはただの外科医だが。そういうのは病院の経営者にでも訊いてくれ」

まるで興味も関心の欠片も無いようで、すっと背中を見せて会場へと顔を向ける。

「あ、待って! 入江くん。外科手術にもやっぱり医療格差って存在するでしょう? 富裕層は高度な先端医療を受けられるけれど、一般庶民や貧困層は選択の余地がなかったりとか。新薬の開発でも日本では承認に時間がかかったり、研究費の助成も各大学の序列や厚労省との関係性が絡んでたりーーお金にまつわる問題点は常に存在しているわよね? うちの番組ではそういうことを解りやすく視聴者に伝えていくのをベースとしていて……」

必死で食らいついて説明する美智子を暫く見ていた直樹だが、ふっと軽く鼻で笑い、
「確かに医療業界も幾つかの問題が内在しているのは事実だが、それをおれがメディアに出て語る必然性は何処にもないな。もっと専門家は沢山いる筈だ。きっちりリサーチして相応しい人選をしてくれ。じゃあ頑張って」と軽く手を挙げて踵を反す。

「入江くん、待って……」

美智子の声に立ち止まることなく、直樹はさっさと歩き去る。


「……あん、もう……」

「何やってんのよ」

全く彼を留めて置くことができず、軽く舌打ちをしていた美智子の肩をぽんと叩いて、後ろから唐突に現れたのは高階優梨子だった。

「入江くん、あんたに全然興味の欠片もないじゃない」

「うるさいわね」

「あんたのことだから、ちょっとテレビに出て自信過剰になっちゃって馬鹿みたいに突進して、告白でもするんじゃないかと思ったわ」

「優梨子! い、いくらなんでも妻帯者に告白なんかしないわよ」

あんたが隠してた衝撃の事実を知るまではね!
一体あたしが夕べ何時まで告白のシュミレーションしてきたと思ってんのよ!
心の中で毒を吐く。

「そうなの? つまんない」

「あんたねー。人のことばっか面白がってないで自分はどうなのよ」

「あんたに堕ちるくらいなら、次はあたしも行けるかなーとかは思ったけど自分からわざわざ玉砕しに行かないわよ」

しれっという優梨子に「はあ?」と睨み付ける。

「あんた、ほんとにサイテーね。あたしのものになったら奪い取るつもりだったってこと? ほんと、昔っから人のもの欲しがるし、真似するし……ああ、思い出したら頭きた!」

「いつも真似してるのそっちでしょ? そのクセいつだってあたしより上に行こうと馬鹿みたいに努力しちゃってさ。相原さんもそうだけど、努力や根性ウリにする人って大嫌いなの。あんたってそんなにあたしに勝ちたいわけ?」

「はー? あんたが何もせずにいいとこ取りだけしようとするから、こっちはあんたよりはマシな人生を歩もうと努力してきたのよ。それの何処が悪いのよ」

「別に。だからそーゆー頑張る人間がウザいだけよ。入江くんみたいに努力せずにさらっと何でも出来る人が一番カッコいいわよね、スマートでクールで。だいたいあんた頑張ってアナウンサーになったって云っても、実際今日、あんたのこと知ってる人なんて大していないじゃない。テレビに出てるからって有名人になれたと思うのはあんたの大いなる勘違いみたいね」

「う、う、うるさいわねー」

それはかなり美智子にはキツい一言だった。今日此処にきて、自分はもっと周りから取り囲まれるのではと少々期待してたのだがーー声を掛けてくる男たちはいるにはいるが、入江直樹ほど視線を集めているわけではない。
所詮芸能人名鑑にすら載っていない自分の知名度なんてこんなものなのか、と思い知ったりもしたのだがーーこいつに云われると腹が立つ。

「口だけ達者で、結局、丸の内のOLやってんのよとか言いながらずっといつ切られるかびくびくしてる派遣社員のあんたに云われたくないないわよ」

「はー? あんたそのセリフ自分の番組で云ってごらんなさいよ! 全国の派遣の女を敵に回すわよー!」

「何よ……」

取っ組みあいでも始まるかのような険悪な雰囲気が二人の間に漂う。優梨子が美智子のジャケットの襟を掴んでキッと睨みつける。これがマンガなら二人のバックにキングギドラとゴジラでも火を吹きあっていることだろうーー。

「離しなさいよ!」

ジャケットの襟を掴む優梨子の胸をどんとついて叫ぶ。
優梨子は一瞬顔をしかめて胸を押さえると、そのまま美智子の腕を掴み、バランスを失って二人して近くのソファの上に倒れ込んだ。

「「きゃあ……」」

美智子の上に優梨子がのし掛かるような体勢でソファに収まってしまった二人を、トイレから出てきた人がぎょっとしたような顔になり、あわてて目を反らして足早に立ち去っていく。

「あー待って~~誤解~~」

美智子の叫びに慌てて優梨子が上から退く。

「はあーまったく、どーしてくれるのよ、妙な噂がたったら……」

嘆く美智子に、優梨子は「は?」という顔をして、
「全力で否定して回ってちょうだい!」と、訴える。

それには答えず、美智子はふっと自分の座っているソファを見た。

「さっき……見ちゃったのよね。このソファで」

「え?」

何を唐突に言い出すのかと、優梨子は幼馴染みの顔を覗きこむ。

「入江くんと、あの相原琴子がキスしてるとこ」

「はー?! こんなとこで?」

「そーよ! こんなとこでよ!トイレから出たら思いっきり目に入ってしまうここでよ? 一体なんなのよ、あの二人!」

「……夫婦でしょ」

「そうね。夫婦だから別にキスなんてたいしたこっちゃないのかもしれないけど……ここ日本よね? 公衆の場でそうそう、しないわよね? 夫婦だからって!」

「……まあ……普通はね」

「あたしのショーゲキがどんなもんだったか……そうよ、あわよくば告白してやろうかとか思ってたわよ。それっくらいの自信今のあたしにはあったわよ。それが、目の前のいちゃこらで木っ端微塵でぶっ飛んだわ。
お陰で告白ぶっ飛ばして仕事の話にもってくしかなかったのよー」

嘆き始めた美智子を見下ろしたままで、「ふーん。妻一筋なんて、つまらない男になったもんね、入江直樹も」そう言い捨てる優梨子。

「また、そーやって、自分の思い通りにならない人は『つまらない奴』でばっさり捨てて、自分を守るのよね、あんたは」

呆れたように美智子はソファから立ち上がり、優梨子を蔑むように一瞥する。

「何よ?」

「あんたこそ、つまらない女だわ。もう付き合ってられない。今度こそもう、縁を切るから。あーだこーだ云うくらいなら自分で入江くん落としてみたら? じゃあね」

「美智子! あんたもう、入江くんのこと諦めたの?」

「あんたには関係ない!」

そうキッパリ言い切ると、美智子は会場の中へ入っていく。
後に残された優梨子は「ふんっ!」と顔を歪ませるとトイレの方に消えていった。






さて、一方直樹は。
美智子から解放された後、とにかく琴子の方へ戻らねばと、会場へ入る扉に手を掛けた瞬間に、また新たな障害が待ち受けていた。

「入江くん。君が斗南大病院の外科のエース、入江直樹くんだね?」

そう、声を掛けてきたのは40歳前後の妙ににやけた顔のおっさんだった。

「はい。あなたは?」

そう問うと同時に彼の手に名刺が押し付けられた。

「僕はT大医学部精神科助教授の恒松と言います。斗南高校の15回生でね、この君たちの隣の会場、高砂の間て僕たちも同窓会をやってるんだよ。いやー、良かった。ぜひ、君に会いたいと思っていたんだ。君の噂は我がT大医学部にも届いているんでね。特に先月の『医療ジャーナル』見たよ! まだ生後半年の赤ん坊の生体肝移植のオペは素晴らしかったと聞き及んでいるよ」

直樹の肩を叩いて、親しげに話しかけてくるこの男に思わず胡散臭さを感じたが、同業で先輩ともなると無下には出来ない。
ちらりと自分たちの会場の中に視線をやったが琴子の姿は死角になっているのか見えなかった。
直樹は軽くため息をつくと、「それで、何か私に話でも?」と、T大助教授の顔を真っ直ぐに見つめた。






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続けて6をアップします。





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