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彼女は美しい夢を見る。 (20)

2015.02.11(21:10) 104












ーーあれ?  ここは何処だろう?

あたしは今自分が居る場所がどうしても分からなくて途方に暮れた。

変だな。あたしさっきまで駅にいなかったっけ?
速川さんと口論になって、そして足を踏み外して階段から落ちて。

そして……どういうわけか入江くんが助けてくれたような。
……まさかね。
あんな処に都合よく入江くんが現れる訳ないよね?

落ちていくあたしの視界に、階段の下で手を広げてあたしを受けとめようとしてくれている入江くんの姿がはっきりと映ったような………それはやっぱり夢?

でも確かにしっかりと入江くんの華奢なようでいて実は逞しくて大きな身体に、まるごと受け止められ包まれたような感触……まだはっきりと身体が覚えてる。

あたしを庇うように身体を覆ってくれて……危ないっ入江くんが怪我しちゃうっ!って思わず目を瞑ってしまったことまで……なんだかとってもリアルなんだけれど……
でも、そこからの記憶が全然ない。
それに、身体だって別に何ともないし。

……あれもあたしの妄想かなぁ?

だって大好きな王子様に助けられるなんて、夢のようなシチュじゃない?
な、なんか少女漫画みたいっ

あたしは頭の中でもう一度あの時のシーンを再現し、一人できゃあと赤くなって目の前にあったシーツに顔を埋める。

あれ……シーツ?

そう、あたしの周りには何枚ものシーツの波が、風に煽られはたはたと揺らめいていた。

そして頭上には洗濯日和の青空。
けれど少し強めの風は、冬の凍てついた北風で、今、自分が凄く寒いってことに気がついた。

沢山の物干し台が並べられ、沢山のシーツが干されたその狭間にあたしはひとりでぽつねんと立っていた。
ここは……ここは…もしかして。

病院の屋上?

なんかドラマで見たことがあるような場所じゃない?
ほら、医療ドラマのワンシーン。
難しいオペを模索しているイケメン天才医師が煙草を燻らせながら、屋上のフェンスにもたれていると、ヒロインの看護師が彼の処に駆け付けるのよ。

『先生!  大変です!  〇〇ちゃんがいないんです!』

『なんだって?』

すると少年〇〇ちゃんは今まさにフェンスを乗り越えようとして……
美人看護師とイケメン医師は二人で必死で〇〇ちゃんを説得するの………って!?


え~!!?

本当に誰かフェンスの向こうにいる!!
やだっ落ちちゃうっ!

「ダメーっ!」

あたしは思わず叫んでいた。
するとフェンスの向こうの――人影がこちらを向いた。

「速川さん!」

どうして速川さんが?
彼女も目を見開いてあたしを見ている。
さっきまであたしと一緒に駅にいた速川さん。
なのに今の彼女はパジャマを着て、裸足で……そして長く延ばしていた髪をばっさりと…しかも自分で切ったようなザンバラ髪になっていてびっくりする。
そして左手首には白い包帯……

「来ないで!」

「速川さん、危ないよ、そんなところ !  こっちに来て!」

「危なくないよ!  だってこれ、あなたの夢の中だもの!」

「え?」

「何故目を覚まさないの?  どうして眠ったままなの?  あたしのせい?  あたしがあなたを傷付けたから?   あたしがあなたを見捨てて逃げ出したから?」

「速川さん……?」

「もう、いいでしょ?  入江さんがあなたのこと待ってるから、戻ってあげれば?  そのかわりあたしが消えるから」

「消えるって……?  まさか本当に飛び降りるつもりじゃ……馬鹿なことやめて!」

「ほっておいて!  あなたには関係ない」

「関係あるとかないとかじゃなくて、目の前に飛び降りようとしてる人がいたらとめるよっ普通!」

速川さんはすっと目を細めてクスッと笑った。

「あたしは止めない。自分に関係ない人がどうなろうと知ったこっちゃないわ。……あたしはそういう身勝手な人間なの」

凄く寂しそうな顔でそんな悲しいことを云う速川さん。

「あたし、入江さんもあたしと同じ人種だと思ってた。入江さんも他人に関心も興味もなく、冷たくて自分本位な人だって……」

「違うわ!  入江くんは優しいし、思いやりもあるよ。照れ屋で自分の思ってること表すのが下手なだけで、人のことどうでもいいって思ってる訳じゃないよ!  目の前に命を絶とうという人がいたら自分の命を引き換えにしても助けようとするよ!  そうでなきゃお医者さんになろうなんて思うわけないよ」

「……そうだね。入江さんは変わった。ううん、元々そういう本質だったのかもしれないけれど、それを一切外に出す人じゃなかった。でも……あなたが現れて入江さんは変わった。分かりやすい訳じゃないけど……でもあたしはずっと昔から見ていたから…」

「?」

遠い目を虚空に向ける速川さんの言いたいことが今一つあたしには理解できない。でも入江くんがそんな身勝手な人じゃないってことは分かっているみたいでホッとする。

「……と…とにかくっ!  こっちに来て!  危ないからっ」

速川さんはフェンスに背を向けて両腕を柵に絡ませているけれど、一歩踏み出せばまっ逆さまだ。

「お願い……やめて!」

あたしは怖くてただ叫ぶことしか出来なかった。早く彼女に駆け寄らなければと思うのに、少しも足が動かない。

「…そんなにやめて欲しい?」

彼女はちらっとあたしを見る。

「…だったら……入江さん、連れて来てよ」

「え…?」

「入江さんが、王子様みたいにあたしを抱き抱えてここから救い出してくれたら……死ぬの、やめてもいいわ」

くすっと楽しげに笑う速川さん。

「…無理だよね?   あなたも大好きな旦那様が他の女に触れるのイヤでしょ?    それに入江さんだって、妻を傷付けた女を助けようと思わないわ」

「そんなことないっ!  そんなことないよ!  入江くんは人を助けるのにその人がどうとかで差別したりしたない!  助ける相手を選んだりしない!  そして――あたしもそんなことでヤキモチ妬いたりしない!  あたしはお医者さんになる人の妻なんだからっ!」

そう……もう、ハネムーンの時みたいな間違いはしない。
だから、大丈夫!
あたしは入江直樹の妻なんだから!

「待ってて!  すぐに入江くんを連れてくるから!」

あたしはくるっと踵を返して走り出そうとして、
――あれ?  入江くん何処にいるの?
と、いう根本的なことに気付いた。

「こっち!」

すると見知らぬ小さな女の子が、突然現れて手招きをした。

「え…?」

目のくりっとした子栗鼠のような女の子……誰かに似ているような…?

「早くっこっちだよ!」

あたしは女の子に導かれて、暗い細長いトンネルのような道を走っていく。
辺りは真っ暗で、何も見えないのに、女の子の姿だけがはっきりと見える

「入江くん、入江くん、助けて!」

暗闇の果てに光が一筋射し込んでいるのがはっきりと見えた。

――あそこだ!

「入江くん!  入江くん!」

光の中に飛び込んだ瞬間、目映い光が全身を包み込むのを感じた。


















「琴子!   琴子!」

目を開いたら、目の前に入江くんがいた。
不安そうな驚いたような…どうしてそんな表情(かお)してるの?

「琴子……」

そして、一瞬にして表情が歪み、半泣きのような顔になって………びっくりした。こんな顔の入江くん、初めてみる。

「……いりえ…くん?」

やだ、口がカラカラで上手く話せない。身体を起こそうと身を捩っても、酷く身体が重い。

でもいつの間にかあたしの手はしっかりと入江くんの腕を掴んでいた。入江くんがあたしの背に腕を回し身体を起こさせて自分の胸に凭れさせる。

「琴子…琴子…」

入江くん、さっきから琴子、としか言ってないよ。

入江くんの背中にぎゅっと手を回す。入江くんの胸に顔を押し付ける。入江くんの匂いだ。汗臭い訳でもなく、整髪剤とか、シャンプーやソープの人工的な香りでもない、独特の爽やかな風のような薫り。

――夢じゃない。

これは、夢じゃない。今まで夢と現実の区別が全然ついてなくて、あまりにリアルな夢なのか、もしかしたら現実なのかもと何度も思ってた。でも今こうして本物の入江くんを前にしてみれば、今までのは全部夢だったと――全部夢の世界の入江くんだったんだと、はっきりと分かる。

「琴子、顔見せて」

そう言われて顔をあげると、両頬を入江くんの大きな手に包まれた。

「琴子、おはよう」

優しい入江くんの顔。ほんと、こんな入江くん、初めて。瞳のふちに少し光るものがあった。
あたしの為に泣いてくれたの?
あたしのこと心配してくれてたの?
あたしは……どうなっていたの?

「入江くん……あたし…いったい…」

云いかけて唇が塞がれる。

ああ――入江くんのキスだ。
あたしはうっとりとその感触を味わう。お互い唇がかさかさに乾いていたのが、融け合うようなキスで少し濡れそぼっていくのが分かる。

「入江くん、あたし何処にいるの?  何故こんなとこに……」

唇が離れた時あたしはやっと途切れ途切れに問うことが出来た。

「おまえ、ずっと眠ってたんだ。駅の階段から落ちたのは覚えているか?  それから2週間以上眠ってた。ここは病院だ」

2週間も……?
だって、階段ってさっき落ちたばかりじゃ……?
なんだか不思議なカンジ。
2週間も眠っていたなんて……でも、夢を繰り返していた時間は、もっと長いような気もする。

それに……。
ここは病院……?

「な、なんかホテルのスイートルームみたいなんだけど……」

豪華なシャンデリアにクラシカルなインテリア。重厚なアンティークソファにテーブルに……奥にはキッチンカウンターまであるけれど! 部屋は何畳あるの? ってくらい広くて……めっちゃ大きなクリスマスツリーが飾ってあって……

「VIPルームだからな」

「えっ? な、なんで」

あたし、いつの間にVIPになったの!?

はー本当に病院なのかな?
ベッドは広くてマットレスもしっかりしてる。でも、枕元にはナースコールがあって、あたしの腕には点滴が刺さってているし、なんか色んな線が身体中に貼り付いて、謎の機械に繋がってるし。

病院――病院?
あたし、何か大切なことを忘れているような……?

そう、病院の屋上!

「入江くん、入江くん!  急いで!  早く屋上に連れてって!」

あたしは入江くんの腕をぎゅっと強く掴んで必死の形相で訴えた。

「琴子!?」

「早くしないと、速川さんが死んじゃう!」

                                             










※※※※※※※※※※※※




うちの琴子ちゃんもしっかり目覚めましたよーA様(^^)v
ふふふ……なんか……繋がってますね^-^;







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コメント
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【2015/02/11 22:20】 | # | [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2015/02/11 22:50】 | # | [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2015/02/11 22:55】 | # | [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2015/02/11 23:29】 | # | [edit]
コメントありがとうございます♪

メール返信いたしましたっ!ちゃんと届いておりますでしょうか?一度届いてなかったようなので心配でなりません(..)
放置していたのはこちらもおなじなので気になさらないでくださいね~^-^;
読んでくださっていたなんて感激しております\(^o^)/
【2015/02/12 20:22】 | ののの #- | [edit]
はは、そうなんです、とってもA様と気が合っております(^^)v
そうですね、速川さん、自分で大きな行動起こせない分、意識下の世界で妙な力を発揮してしまう、マイナスオーラ全開のお嬢さんです。
はい、直樹さん………泣いたんでしょうか…?泣くのはイメージじゃないなーと思いつつ、私も泣けよっと思ってあの一文入れてしまいました^-^;
そうそう、とりあえずどんな輩でも助けないとね。
助けたい……そんな真摯な気持ちが琴子ちゃんを目覚めさせたのだから。
【2015/02/12 20:31】 | ののの #- | [edit]
コメントありがとうございます♪

はい、身勝手で臆病で小心な女です。命を盾にとって琴子に無茶な要求……琴子ちゃんが断っても断らなくてもどうでもいいんです。両方琴子ちゃんは苦しむと信じてるから。
でも琴子ちゃんは絶対断らないし、何が何でも彼女を救うでしょう。
そうそう、ハネムーンの時の直樹も冷たかった……貴方の気持ちは分かるけれど琴子ちゃんの気持ちも少しは汲んであげてくれっと思わずにはいられない……あのときも謝ったのは琴子ちゃんの方……いじらしい(T.T)
さていよいよ直樹さんには最後のミッションが……コンプリートできるでしょうか?
お待ちくださいね♪
【2015/02/12 21:14】 | ののの #- | [edit]
コメントありがとうございます♪

はじめまして(^^)
開設当初からうちに訪問してくださっているんですね! わーっ凄くうれしいです♪
私の妄想に嵌まっていただけて光栄です。こんな変なパラレル物ですが、楽しんでいただけて嬉しいです。
ふふっ何度も更新確認しなくて大丈夫ですよー!基本、昼間に更新することないですので。たいてい更新は夜9時から12時過ぎの間です。休前日は夜中2時くらいにアップというのもよくあります。
フルタイムで仕事をしているので中々時間が取れませんが、書きたいものは色々あるので、頑張りますね♪

未入籍事件の怒り、共に共感していただいて嬉しいです(^^)
続き、お待ちくださいね♪
【2015/02/12 21:30】 | ののの #- | [edit]
拍手コメントありがとうございます♪

はい、やっと目覚めてラブラブ~と、入江くんは行きたいでしょうが、速川さんが……!!
楽しみにしていただいて嬉しいです♪お待ちくださいね(^^)
【2015/02/13 20:31】 | ののの #- | [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2015/02/14 13:17】 | # | [edit]
コメントありがとうございます♪

連載お疲れさまでした。
いえいえ、訪問していただけるだけで嬉しいです(^^)

本当に琴子ちゃんは健気です。うちのお話は直樹がへたれな分、琴子ちゃんの頑張りだけで持っているようなもんです(^^)

続きを気にしていただいて嬉しいです(^^)
もう少しお待ち下さいね♪
【2015/02/14 21:37】 | ののの #- | [edit]
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