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個別記事の管理2018-05-20 (Sun)








琴子が三ヶ月間の記憶を失った。

まるで、おれとのまだたった三ヶ月の結婚生活をすっぱり忘れてしまいたかったかのように。

ーー琴子の様子がおかしい、と気がついたのは4日前からだった。
少なくともその前夜ーー5日前の夜まではいつもと変わらなかったーーハズだ。

ここ最近の琴子の脳内は、結婚して初めてむかえるバレンタインのことで花畑状態だったのは間違いないと思われた。
入籍後初めてのイベントということで後期試験前から気もそぞろだったのだ。結婚しても学生なんだから試験勉強に集中しろと注意を促すと、
「ねぇねぇ、単位1つも落とさなかったら、バレンタインにデートしたいなー。結婚してから一度も二人で出掛けたことないもん」とおねだりされた。

「おまえ、ハードル低すぎ。単位ひとつも落とさないって、それ、学生として当たり前だろ。せめて、オールAとか」

「オールAは……絶対無理~~せめてオールBくらいで……」

「だめ。最低でもAは5個」

「ええ~っ」

結局、Aが4個、他はオールBということで交渉成立したのだが、結果としてはA4つは達成したもののCが2つあったため、バレンタインデートはお預けとなった。
おれとデートしたいならもっとがむしゃらになれよと突っ込みたかったが、ただ、琴子も親父が倒れて以来のおれの家のゴタゴタに巻き込まれて、まともに大学に行けない日もあったから、追試ゼロで進級できただけでも上等なのだろう。余計なフォローをするとつけあがるので、何も云わないが。
どのみち、忙しくてデートどころじゃなかったけどな。
流石のおれでも転科したばかりの医学部の専門教科の単位は出席日数不足で取得できてない。本来なら進級できる筈もないのだが、ほほ超法規的措置でそれを補うためのレポートや実験、個別実習と、さらには単位と引き換えの教授の論文書きのアシスト、学会の補佐など(つまりは裏取引)ーーとにかく春休みはびっしり予定が組み込まれているくらい忙しいのだ。
とはいえ数ヵ月前までの親父の会社を建て直すために忙殺されていたことを思えば百倍マシだった。
なんといっても、自分のため、自分で選んだ道のための忙しさだ。何千人もの社員の人生を背負うストレスから解放された今、医学の勉強の為の忙しさなど苦にもならない。
しかも傍らに常に琴子がいるのだから………

公約を守れずデートが出来なくて意気消沈していたものの、まずは進級できて良かったよとすぐに思考を切り替え、やっぱりバレンタインのメインはチョコだよねーと疲れを癒すチョコレートレシピを探求していたようだった。内緒のサプライズなつもりでも、相変わらず思ったことはしっかり呟いてるし、台所に充満している甘ったるい匂いでバレないはずはなかった。
だが、その甘い薫りがキッチンに漂っていたのは5日前までだった。


新婚の妻を放置しすぎるとおふくろに嫌みを云われるが、とりあえず琴子は入籍したことで漸く名実ともに本当の妻になれたと、1ヶ月以上たった今でもあれこれ回想しては幸せに浸っていたようだった。

だいたい、放置してるって、人聞きの悪い!
たしかに大学ではあまり接することはないが、家では常におれのそばに貼り付いていたし、少なくとも夜はかなり念入りに可愛がっていたつもりだった。

とくに春休みが始まったこともあって最近はかなり激しくそして際限なく求めてしまった自覚はある。
けれど、琴子は類い稀なる包容力でおれの要求をすべて寛容に柔軟に受け入れてくれーー


ーーそう。
結婚してから琴子はおれからの誘いを断ったことは1度もなかった。
なのにーー4日前の夜、初めて琴子はおれを拒絶した。

「……ごめんね。ちょっと調子悪くて……」

そう弱々しい声で謝る琴子は確かにひどく顔色が悪くて、たった1日でひどく窶れきっているように見えた。
さすがに前夜に激しくしすぎたのかと多少反省モードになったおれは、「大丈夫か?」と、医師の卵らしく妻を診ようとしたのだが(別にお医者さんごっこをしようと思ったわけではない……断じて)

「大丈夫だからっ……」とおれの手をはね除け、背中を向けてしまった琴子。
おれは、琴子らしからぬそんな様子に訝しさを感じたものの、きっと体調が回復すればまた元の琴子に戻るだろうと疑わなかった。
しかし、その翌日もその次の日も明らかに琴子の様子はおかしかった。おれと目を合わせようとしなくなり。夜もなんだか避けるように背中を向けて先に眠っている。いやーー寝たふりをしていた。

さすがに何かあったのだろうと察しはつく。
また何かくだらない誤解をしているのだろうか。
それとも誰かになにかを言われたのだろうか。
あまりキャンパスで一緒にいることはないし、未入籍の件をやたら騒ぎたてられていたこともあって、相変わらずおれたちが仮面夫婦だの噂され、いつ離婚するか賭けの対象になっているらしい、という戯れ言は日常的に耳にする。
だいたい高校時代から噂の中心にいた俺たちだ。今さらそんなことで凹んだり落ち込んだりするとは思えない。
いったい何があったのか見当もつかなくて、おれは少々苛ついていたこともあり、さらには課題の実験が忙しいこともあって、しばらく放っておくことにしていた。

ーーそしてーー今日。

琴子はおれに突然、離婚届けを突きつけたのだ。

………心当たりはーーそれこそ、全くなかった。






「あたしが、離婚届けを? うそ……逆ならともかく、あたしの方からそんなこというなんて、信じられない」

ーー入江くんと結婚できたことも信じられないけどさ…………

そういって困惑気味に呟く琴子は、三ヶ月前の琴子だ。
まだ片思いだと信じていて、おれがおまえのことを想っていたなんて、これっぽっちも考えていなかったに違いない。
結婚したことも信じられないだろうに、さらに離婚しようとしてたと聞かされても思考が追い付かないのも無理はない。

おれだって未だにあの時の言葉が信じられない。
理由を問いただしても、「あたしは入江くんにはふさわしくないの。それがよーくわかったの!」の一点張りで、それ以上は頑なに話そうとしない。
この数日夜の誘いを拒否られていた苛つきもあって、久しぶりに理解不能な問題を提示されたような感覚に、頭の中に段々血が上って来るのを感じた。
要領を得ない琴子の答えについカッとして、
「そんなにおれのことがイヤになったのなら、出ていけば? 」と冷たく言い放ってしまった。
「わかった。出てくよ!」と琴子はぼたぼたと大粒の涙を流しながらクローゼットの扉を開けて、棚の上部にあったキャリーバックを降ろそうとしてーー

それが頭に落ちて琴子は失神した。
そして、目が覚めた琴子は、それまでののこともーーいや、結婚したことすらすっかり忘れてしまっていた。

琴子が記憶を失ったと分かった時ーーおれは少しだけ安堵のような感覚を感じていた。
これで琴子はおれから離れていかないと。

何故琴子がおれと別れようとしたのか全くわからないが、琴子をベッドの上に押し倒した時、このままこいつを犯してそして妊娠でもしてくれたらーーなどと邪なことを一瞬でも考えてしまった。
もう一度記憶が戻っても、おれから離れるなんて言えないように。

そんな卑怯極まりないことを考えてしまった自分に少々自己嫌悪を感じて、琴子にあの離婚届を見せた。忘れてしまったならいっそ素知らぬふりをして、破いて棄ててしまいたかったのだが。

ただ、婚姻届と同じく、気が早く相原琴子で記載してるから元々無効な離婚届けではあったのだが。

だが何も知らないふりしてもう一度琴子との結婚生活を継続していくのは、やはり記憶を失うまでの琴子の意思を踏みにじるようで、結局できなかった。


「……いったいあたしは何を考えてたんだろ……?」

呆然と呟く琴子。
無理もない。

「おれが知りたい」

「そうだよね……でも入江くん、ショックだった? 愛する妻から別れを切り出されて……」

結婚したことすら半信半疑だったくせに、妙に自信ありげな発言に少々イラッとする。

ショックというより、まずおまえは何をどう誤解しているかということを模索したね。おまえが本心からおれと別れたいなんて100%あり得ないという自負がおれにはあった。

「もしかして……結婚したとたんに、意地悪全開であたしのこと苛めてたとか?」

思い出したのは、きちんと琴子に説明せず、入籍しないでいたこと。
会社を建て直すために不眠不休で新しいゲームの開発を急いでいたが、新婚だというのに全く家に帰らず放置していた。琴子が不安に思っていることがわかっていても何も対処しなかった。
結婚早々琴子を泣かせてしまったが、そのことについては琴子をモデルに開発したゲームが大ヒットし、無事入籍も済ませたことですっかり上書きされ、琴子の中でも蟠りはない筈だった。
だいたいそんなことをぐずぐずと恨みがましく想っているほど琴子は粘着質ではない。

そんなことを考えながら書斎で毛布をひっかぶって寝ようとしたが、寒くてなかなか寝付けない。いやーそれ以上に琴子から離婚届けを突きつけられてからの記憶喪失というあまりに想定外の怒濤の出来事に、流石のおれも動揺しまくっていたのかもしれない。
エアコンのスイッチをいれてもうんともすんともいわず、風邪を引くわけにはいかないと、結局夫婦の寝室に戻り、遠慮がちに琴子が占拠していたベッドの片隅に身を置いたのだ。






「うそっ……2回目!!」

手を出さない宣言したのに、ついうっかり目覚めのキスをしてしまったらしい。
どうも夢見がよかったのか、悪かったのか。
試験が終わってから、かなりの頻度で琴子を抱いていたので、その流れのままでしてしまったが、戸惑う琴子に(しまった)と思いつつも、なんとか平然を装った。

それなのに、こいつときたら!

「……な、なんか、このベッドの上でプロレスしてた……よーな?」

お笑いタレントよろしくマジで転けそうになった。

なんで、そこから真っ先に思い出すんだ?
まずはプロポーズとか、結婚式とかハネムーンだろうが!?
よりによってネクタイで手首を拘束したシーンから思い出すんじゃねぇ!


朝からモヤモヤした気分のまま階下に降りると、既に裕樹は学校に出掛けたようで、おふくろが裕樹の席の朝食を片付けているところだった。


「あら、おはよう、おにいちゃん。琴子ちゃんの様子はどう? 少しは思い出したのかしら」

「いや、まだだ」

さすがに最後に抱いた夜の情事の光景だけ思い出したとはいえない。

「………そうなのね」

困惑気味にため息をついたおふくろ。

「本当のところ、琴子ちゃんが記憶を失う前、何があったの?」

きたな、と思わず身構える。

「ここ数日、琴子ちゃんの様子、おかしかったでしょう? まともにご飯も食べてなかったし、口数も少なくて顔色も悪かったし。もしかしたら赤ちゃんかしら? とは思ったけど、でもちょっと前に生理終わったばかりですもんね」

たしかに一週間前に終わったばかりだが、なんで、おふくろがそこまで把握してるんだよ、と内心毒づく。
もっとも生理痛が酷いらしい琴子は、十代の頃から端からみても分かりやすかったのだが。

「………喧嘩でもしたの?」

「してねぇよ。おれにもさっぱりわからない」

「琴子ちゃんが元気がなくなるのはたいていお兄ちゃんが原因なのよ。実は浮気とかしてるんじゃないでしょうね?」

「するかよ!」

2ヶ月前まで会社と家の往復で、今は大学と家の往復で、それ以外の自分の時間など欠片もない。浮気なんてする暇あるか。

「まあね……あなたがそっち方面でそんなに器用とは思えないけど」

器用不器用の問題ではなく、琴子以外の女を抱きたいと思ったことはない。

「だったら、琴子ちゃんを悩ませていたのはきっとアレしかないわね…」

「アレって、なんだよ」

自分でも全く思い当たる節がないのに、おふくろがいったいなんでわかるんだよ。

「……おにいちゃん……その……琴子ちゃんに……無理な要求してない? その…夜…ベッドの上で……

は?

おふくろの不躾な問いに思わず絶句する。

「そりゃ、若いし、新婚だし、琴子ちゃんの魅力にどっぷり溺れてしまう気持ちもわかるけど……でもね、実は気になってはいたのよ。休みの朝とか、琴子ちゃん起き上がることもできなかったり、1日腰がつらそうだったり。
それなのに、朝、家事ができないこと、それは申し訳なさそうに謝ってくれて。
もしかしたら、あなたが加減がわからなくて随分無体なことをしているんじゃないかしらと……
あたしはね、赤ちゃんが早くできるならそれに越したことはないと思ってはいたけれど、あなた避妊してるとかいうじゃない。自分の欲望の為だけに琴子ちゃんに無理をさせているのだとしたら許しませんからね!」

「……おふくろ! 」

一瞬、ネクタイで緊縛したことバレたのかと思ったじゃねぇか。ーーいや、先にネクタイ取り出したの琴子だし!(←そこ重要)
それにしても、親に夫婦の営みについてあれこれ干渉されることほど居心地の悪いものはない。
しかも朝っぱらから!
軽く睨み付けるものの、若干脱力気味だ。なんといっても真っ先に思い出したのはソコだったし……
確かにおふくろの言うとおり、生まれて初めて知った愛する女を抱くというこの行為に耽溺してしまったのは事実だ。
特にあのハネムーンの最後の夜以来、思いもかけない琴子の女の顔を知ってしまい、そして琴子がどんなおれの要求も受け入れ容認してくれる懐の深さに甘え、おれの尽きない探求心や好奇心も相まって、その頻度にしろ時間にしろ行為そのものにしろーーかなり無体なことを強いてきた自覚は確かにあった。
ーーあったが……琴子は絶対嫌がってなかったぞーー勉強は苦手なくせしてそっち方面の学習能力は物凄く高ーーいや……実は……イヤだったのか?
あんなに歓喜の声を上げて柔軟におれを受け止めていたのに……実は全部演技だったのか?
まさか耐えきれなくなって……? それでここ最近拒否られてた?(←地味にショックな模様)
いや、まて。そんなことはない。ネクタイはあいつが先に……(←しつこい)だいたい小道具はこの間が初めてだし!
それにあいつはそんな演技ができるほど器用じゃない。

考え込んでしまったおれを呆れたように見つめてから、「記憶を失ったのが三ヶ月間でまだよかったわよ。三ヶ月前からやり直せばいいだけのことですもの。なんならプロポーズからやり直してもう一度式を挙げてもいいのよ?」と飛んでもないことを簡単に言ってのける。この人はやりかねないから怖い。

「……とにかくね、女の子はとっても繊細なのよ。身体的にも精神的にもね。あなたは琴子ちゃんがあなたのことを決して嫌いにならないと知っているから、いつだって上から目線で支配しているけれど、それは琴子ちゃんの太平洋より広くマリアナ海溝より深い愛情で成り立っているものなのよ? とにかく、もう一回やり直せるのなら今度はもっと大切にしてあげてちょうだい」

ーーもう一回ーーやり直していいのだろうか?
大切に硝子細工を扱うように……慎重にやり直せば琴子は別れるなどと言い出さないのだろうか。

ーーいや。
まだ琴子が離婚を切り出した理由ははっきりとわからない。
そして、ほんの一場面でも思い出せたようにふいに何もかも思い出して唐突におれの前から去ってしまう可能性がある以上、忘れたなら最初からやり直せばいいなんて呑気なことは言っていられないだろう。おれだってこんなざわついた気持ちのまま、素知らぬふりではいられない。

それにーー記憶を失ったのも心理的な要因である可能性もある。
CT検査の結果、特に脳へのダメージは見当たらなかった。
琴子の話から推定すると、どうやらおれがプロポーズする前日までの記憶しかないようだった。
あの雨の日の前夜。
つまりは潜在的にこの結婚を最初からなかったものにしたいという意識があったというのだろうか。

けれど、やはり行き着くのは琴子が何か大きな誤解をしているということだ。
おれはあいつがそこまで思い詰めるほどのことはした覚えはない。
少なくとも入籍以来、ちょっとした口喧嘩はしても大きなトラブルはなかった。

そんなに悩み苦しむほど、一体何があったのかーー

どうせくだらない勘違いに違いない、とは思う。おれが同棲していたと勝手に思い込んでたように。だがーー今の琴子に問い質したくてもわからない以上、自分で突き止めるしかない。



ーーぐだぐた考えていても埒があかない。
琴子のこの4日間の行動を追跡して、何が起きたのかーー探るしかないだろう。
どうせ黙ってはいられない琴子のことだし、おせっかいな友人たちが放っておく筈もない。きっとあいつらには何か話しているだろう。
おれは頭の中で、今日のスケジュールの合間に小森や石川に会える時間はあるだろうかと色々と算段を組みはじめていたのだった。











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NoTitle * by なおちゃん
確かに、入江君は琴子ちゃんは絶対入江君を、嫌いにならないと思い過ぎ?ここは、紀子ママと、同じ意見です、あまりにも、上から目線の、入江君をちょっとこらしめたい気分だは、たまには琴子ちゃん、入江君に離婚届けの1まいや、2枚いい薬だはv-82

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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなって申し訳ないです。

この時期の直樹はまだまだ青いですからねー。(そして何故かうちのブログの直樹さんはいつも多忙だ)………未入籍事件のあとはがっつり琴子に溺れてる筈、と踏んでますがきっと世間にはそんな素振りも見せてないツンデレ野郎です。
琴子も一瞬一瞬が幸せならちょっと前のイヤなことはすぐに上書きされるので、それなりに新婚生活を楽しんでいるのかなぁと。でも、やっぱり不憫ですよねぇ琴子ちゃん……
直樹は琴子からの離婚通告は結構堪えているはず。絶対何かの勘違い、と高を括ってますけどね。これから、琴子と直樹それぞれに離婚届けの謎を追ってもらいます。しばしお待ち下さいませ。

Re.なおちゃん様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなってすみません。

そう、入江くん、ものすごーくその点に関しては自信がありますよね。琴子ちゃんからの離婚届けは地味にショックなはず。でも殆ど信じてないですけどねー。
入江くん凝らしめるにはちょっと琴子ちゃんには辛い想いを味あわせちゃいますが、最後はハッピーなはずですので、しばしお待ち下さいませ。

Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなって申し訳ないです。

この時期の入江くんはほんと、まだまだ青い。しかも、初めて知った蜜の味に目一杯はまってるのはヤツのほうだ〜
そのくせ上から目線ですからね。何したって琴子ちゃんが全て受け入れてくれると高を括ってますからね。
そんな琴子ちゃんからの離婚届け。
さてさて紀子ママさんの予想は……どうでしょう(ふふふ)
ええ、金ちゃんはわたしもビジュアル的にちょっと……(うちでの出演数はかなり少ない)

はい、少し更新が鈍るとは思いますが気長にお待ち下さいませ。

個別記事の管理2018-05-13 (Sun)





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※







………へえーーこれが離婚届けかぁーー

ドラマとかではよく見るけど実物見るのは初めてだわー

………って感心してる場合じゃない!

婚姻届も見たことないのに、なんで離婚届を先に見なきゃならないのよ~~!!

でも……名前はあたしの名前だけが書いてある。間違いなくあたしの字だ。そして、夫の欄は空欄のまんま。
よかった~~入江くんはサインしてないんだ。

「ーーあたし…から?」

とはいえ、どうにも事態を理解できない。
結婚したことすら冗談みたいな感覚なのに、そのうえ離婚なんて、もうこの状況、意味不明過ぎる。

「そう。おまえが唐突に、これをおれに突きつけた」

「うそだよ……」

いっくら記憶をなくしても、あたしから入江くんに別れを告げる筈がない。

「ちょっとした冗談とか」

2月……だよね。エイプリルフールには早いな。

「随分、深刻な面持ちだったけどな。この数日やけに悩んでるようだったし」

「………そ、そうなの?」

信じらんない! 入江くんと結婚できて、何を悩んでるとゆーのよ、あたし!

確かに昨日までのあたしは悩んでたよ。
金ちゃんにプロポーズされて。入江家も出なきゃならなくて。入江くんを諦めなきゃいけないのに、諦めきれなくて……辛くて。毎日、息ができないくらい苦しかった。
これ以上の悩みが何処にあるっていうの!?

「いったい、何を悩んで……」

「こっちが訊きたい。おれはおまえから三行半突きつけられる覚えは全くないし」

みくだり……何?
何だかわからないけど……あたし、せっかく入江くんと結婚できたのに、本当に離婚しようとしてたの?

「もしかして……結婚したとたんに、意地悪全開であたしのこと苛めてたとか?」

「………………身に覚えはないね」

……何気に間があいたよね。
もしかして、ちょっとは苛めてた?
でも、あたし入江くんの意地悪には耐性出来てる筈なんだけどなー。

「とにかく、おまえは、おれに離婚を申し出た。理由を訊ねてもはっきりしねぇ。ただ、一緒にはもう居られない、家を出るからと、棚の上のキャリーバックを降ろそうとしてそれが頭の上に激突、挙げ句の果ての記憶喪失。事情を確かめる隙もありゃしねぇ」

そして忌々しそうに肩を竦める。
ご、ごめんね。我ながら訳わかんなくて……

「……いったいあたしは何を考えてたんだろ……?」

「おれが知りたい」

「そうだよね……でも入江くん、ショックだった? 愛する妻から別れを切り出されて……」

そーゆーことなんだよね?

「は? ショックというより呆れたね。どうせ、おまえ、また下らない勘違いか誤解でもしてるんだろうと」

うう。
確かに、一番あり得る。
入江くんが浮気したとか……思いこんで?
何か証拠を発見して、それでずっと悩んでて……とか?

そういえば松本姉と同棲してるって勘違いしてた時も、ご飯も食べれなくなるくらいショックだったもんなー。

勘違いしてたの?
あたし……。
いや、勘違いかどうかなんてわかんない……
結婚したことも覚えてないのにいきなり離婚なんて~~あたしの頭、キャパオーバーでショートしそうだよ~~

「とにかく、おまえが思い出さない限り、この件は保留だよな。話し合うことすらできない。とりあえず今日はさっさと休めよ。さっきもいった通り、おまえが結婚してたことを思い出せない上に、さらには離婚の意志があった訳で、そんな状況でおまえに手を出すほど飢えちゃいないんでね」

「う、うん……」

そういって、入江くんは部屋から出ていき、あたしはこの新婚感たっぷりの部屋に一人取り残された。
ほっとしたような、残念なような。
手を出さない宣言は、複雑な感情だけ心の奥底にふつふつと沸き起こさせる。

で、でもさっき押し倒した時の入江くん、結構飢えた狼っぽかったよーな……?
それに、高三の夏休み最後の夜を思い出しちゃった。そーゆー意地悪平気でできる人なんだって改めて思う。

「……それでも、少なくとも3ヶ月、この部屋で……このベッドで……新婚生活送ってたんだよね……」

あたしの身体についていた、どうやらキスマークというものらしいうっすらとした痣をなぞりながら、独り呟く。

これ……入江くんが付けたんだよね……?

ラブリーでエレガンスなお部屋は入江くんにはさぞ居心地悪いんじゃないのかと想像できる。まあベッドに天蓋付いてないだけマシってもんね。あたしは思いっきり好みだけど。
それに壁一面に貼られた、幸せで甘々な写真の数々。
新婚夫婦の寝室以外何物でもない部屋!

ああ、思い出したい。
結婚式やハネムーン…ううん、それより入江くんのプロポーズよ。
みんなの前でお父さんに琴子さんを下さいって云ったなんて……夢みたいよね。わー、そこは是が非でも思い出したいっ!でも、あたしには何て云ってプロポーズしたんだろ? さすがにそれは誰も知らないし。入江くんは教えてくれないよね………。

でも。
思い出したら、離婚したいほどショッキングな出来事も思い出しちゃうのかしら?

いったい何があったというの! あたしっ

……考えてもわかんないけどね。
迷宮の中に迷いこんだみたいだ……
ぐるぐるぐると同じところを歩き回っているみたい。

あたし、どうすればいいのかなぁ。
このまま一緒に此処で暮らしてていいのかな……
入江くん、離婚届けにサインしてないってことは、入江くんはその意思はないって思っていいんだよね?

入江くん、呆れてたよね……
ああ、あたしって、あたしって………
ほんっと、バカだよ…………。

枕をぎゅっと抱き締めてベッドにどさりと身を横たえる。
身体にフィットして実に寝心地のいマットレス。スプリングも全然軋まないし……。
そして広い……。これ、真横になっても大丈夫なくらい横幅広いよね。クイーンじゃなくてキングサイズ……寝相の悪いあたしでも落ちなさそう。
あたし、ここで入江くんと一緒に寝てたのかな………そして……そして……シたんだよね?
あんなことや、こんなことや……きゃ~~~//////// ( 理美から借りた『an・an』のセックス特集の知識しかないけどねっ)
なんか、すっごいとこまでキスマークついてたけどぉっ
ひやぁぁーー///////////

思わず恥ずかしくなって布団をひっかぶってしまった。
そしてそのままあたしは妄想の海へと游いでゆきーーー







ーーいーっいたいっ! 痛いよ入江くん……

ーーあっ琴子ーーわりぃ……大丈夫か?
おまえ、いつの間にか上にずりあがって……

ーーだって、入江くんが……あんまり激しく……ねぇ、それよりこのネクタイ、とってよ……

ーーダメ。お仕置きっていったろ……

ーーい、入江くんのイジワルぅ……






…………イタっ! そして、何? いまのっ!!

頭を擦りながら目が覚めたーー頭がアイアンのヘッドボードに挟まって身動きとれなくなってる。
どうもずりずりと上にあがって、ヘッドボードに激突してしまったみたい。これ、子供だと首が挟まって危険な感じだよね。
でも。あたしってば、記憶を失っても寝相の悪いのは相変わらずのようで。

ーーって、それより、なんなの? 今の夢はっ!!

あたし……ハダカだったような。
そして、手首になんかネクタイ縛られて、その端がこのヘッドボードに括られていたような。
あたしいつもヘッドボードに頭をぶつけていた?
しかも………入江くんがあたしの上に覆い被さっていて……なんか……あたしアクロバティックな凄い格好してたような……???
やだーーっ!!
変なこと考えて寝てたから……あたしったら! あたしったら!

えーと……夢だよね?
あたしの上にのしかかっていた入江くんもハダカで………妙に色っぽくて少し息切れして……汗かいてたのも生々しく覚えてるんだけど………

やーん、あたしってばなんでこんなえっちな夢を!! 何? 欲求不満ってやつ?

あたしは朝っぱらから顔を真っ赤に染めて自分で頬をぺしぺし叩いた。
そして、ふと横を見たらーー

ええっ?

何故か、あたしの傍らーーというか、広いキングサイズのベッドの端っこで、入江くんが背中を向けて眠っていた。

うーん、これはまだ夢の続きかな……? (パジャマは着てるけど)

入江くん、書斎で寝るとかいってたよね?
でも夢にしてはやけにリアルだわ。
入江くんの睫毛の一本一本まで数えられそう。
そして、寝顔もキレイ。
ああ、なんて格好いいのかしら。
さ、触っていいのかな?
なんかさっきのエロい夢のせいで妙にどぎまぎして、この綺麗な顔を見てるだけで心拍数上がってきそう。

あたしがうっとりと眺めているとーー

入江くんの睫毛がふわふわと揺れーーそして、目がうっすらと開いた。

「……琴子……今何時……?」

寝惚けたような、掠れた声。やだ、なんか、可愛いっ

「えーと、7時過ぎ……え?」

あたしは傍らの目覚まし時計を見て答えーーたとおもったら、入江くんに腕を引っ張られ、そしてくいっと頭を大きな手で押さえつけられ……唇が……唇がぁーーー!!
今度は寸止めじゃなく、しっかり触れあって……

「うそっ……2回目!!」

思わず顔を真っ赤にして、あたしは逃げるように跳ね起きた。

「え? ああ………」

入江くんがあたしの大声でしっかり覚醒したようで、軽く欠伸をしながらむくりと起き上がる。

「な、な、なんで……」

動揺しまくりのあたしを横目に、入江くんは悠然と腕を伸ばし、軽くストレッチをしながらベッドから降りた。

「悪い、寝惚けた。それと2回目じゃないぞ」

そ、そりゃ、そうなんだろうけど。でもあたしの今の認識の中では2回目なのよぉーー!

「入江くん、なんで……」

「書斎で寝るつもりだったけど、あの部屋のエアコン壊れてて……毛布一枚じゃ寒すぎた。風邪ひきそうだったんで、悪いが潜り込ませてもらった」と、平然と説明される。

「そ、そう。別に、入江くんのベッドでもあるんだし……遠慮することなんて……しかもそんな端に寝なくても」

「おまえが大の字で寝てたせいで、端っこしか居場所なかったもんで」

「う……ご、ごめんね」

はぁーでも、目覚めのキスなんて! 寝惚けてキスするなんて! ま、毎朝こんな風に日常的にキスしてたの? あたしたちってば! やーん、ほんと、新婚さんみたいじゃないのぉっ

「随分真っ赤な顔してるけど……熱でもあるのか?」

入江くんが少し心配そうに覗きこんで、あたしの額に手を当てた。

「えっと、えっと……大丈夫。ちょっと変な夢を……」

「夢? どんな?」

そう問われて、現実のキスの感触とさっきみた生々しい夢の光景と交互に思い出されて、余計に顔が沸騰する。湯気でもでてるんじゃないかしら。

「なんか、思い出したのか?」

「え? あ、ん? えーと………」

明らかに挙動不審なあたしの態度。

「もしかして、やらしー夢でも見たのかよ」

にやりと笑う入江くんの言葉に、
「や、や、や、や、やらしい夢なんて、そんなっ!」
思わず全力で首を振って、ふらっと倒れそうになった。

「おい、何やってんだよ! ……ったく図星かよ」

「図星って……な、なんか、このベッドの上でプロレスしてた……よーな?」

「は?」

「あたし、手首をネクタイで縛られてお仕置きがどーとか。挙げ句にヘッドボードに頭ぶつけてめちゃ痛かったし……」

あ、つい言っちゃった。

「…………」

入江くんがものすごーーく不快そうな顔をして眉を潜める。しまった。ドン引きされたかも……。

「なんで、そんなシーンから思い出すんだ……」

え?
ってことは夢ではなくて?

「多分、それ、5日前の夜の情景」

ええええーーーっ!!

「まあ、ある意味一番近い記憶ではあるけれど……」

「い、い、入江くんっ! なんでネクタイ……」

入江くんって……そーゆー趣味の人!?

「おまえが酔っぱらってネクタイで遊びだしたんだろうが」

「え?」

「あの夜、テニス部の追いコンがあったんだよ。飲むな、っていったのに、おまえ須藤さんに注がれてビール飲んじまって。挙げ句にみんなで先輩たちに贈ったネクタイーーそれも須藤さんにあげたやつにビールこぼして。おまえが替わりの買うからーって、それ持って帰って。でもって、夜ベッドの上で、ネクタイはやっぱり入江くんの方が似合うわーってその濡れたネクタイをおれの首に巻き付けてリボン結びして」

「え……?」

「だからお仕置きで縛ったんだけど?」

「………うそ……」

「まあ、そのあとはたしかに肉と肉のぶつかり合う格闘技に雪崩れ込んだわけだがーーどっちかっていうと誘ったのお前だぞ?」

「うそ…………」

「精神的にはヴァージンな今のおまえには刺激強すぎるか」

思わず今度は縦に首をぶんぶんと振る。

「ほんと、その夜まではおまえ、めっちゃご機嫌だったのにな。どうせなら、その翌日以降に、離婚を決意させるようなどんな出来事があったのかを思い出してくれ」

そんなこといったって~~

そ、それにもしかして……離婚決意したのは……ネクタイ!?

「いっとくが。緊縛くらいでおまえは離婚なんて言い出さねーぞ。それより凄いあれこれをおまえは鷹揚と受け入れてくれてたんだ」

それより凄いあれこれ……って?
いったい何~~~!?

「……でも………記憶は徐々に思い出す可能性はあるってことだな」

真っ赤になってテンパってるあたしをちらりと横目で見て「……とりあえず今日は1日大人しくしてろよ。下手に出掛けて途中で思い出して混乱されてもな」といって、クローゼットの中から自分の着替えを取り出していた。

「入江くんはーー?」

「おれは大学。春休み中に実験レポート色々まとめてる」

「……そ、そっか。あーーあたし、朝ごはんつくらなきゃ!」

「いいよ。この時間ならもうおふくろが作ってる。おまえ、週に2、3回起きれればいい方だったし。おまえが作ると色々焦げてるし」

う……ダメ嫁……

「あ、そうだ。夕べ、お義父さんが帰ってきた時に、おまえが頭打って記憶を無くしたことは説明しといたから。おまえもお義父さんが起きたら顔を見せてやれよ」

「う、うん。ありがとう」

ああ、お父さん。びっくりしたろうなぁ。いきなり記憶喪失なんて。

「あーーお父さんに、離婚のことは……」

「言ってない。おまえが何考えてたのかわからない限り、ちゃんと説明できないし」

「そ、そっか」

「そう。じゃあ行ってくる」

「うん……いってらっしゃい」

ちなみに話している間に、入江くんは平然とあたしの前で生着替えをしていて、パジャマからジーンズとトレーナー姿に変わっていた。
目のやり場に困ったあたしは思わずずっと背中を向けていたんだけどね。

ーーはあ。

出ていった入江くんの残像を追うように扉を見つめていたあたしは大きくため息をつく。
夢ーーというか、思い出した妙に生々しい夜の記憶の欠片より、さっきされたキスの方が遥かにリアルだ。
あたしはまだ少し残っていた感触を思い出すように唇に指先を添わす。

あたしたち……ちゃんと夫婦、してたってことだよね……?


なのに……なんで、あたしは………入江くんと別れたかったんだろう?
ううん。そんなの本心なわけない。
いったい何がーー別れなくてはならない、何があったというの?

記憶を取り戻すには……やっぱりそれを探さなきゃ………

とにかく、5日前まであたしたちはラブラブだった。どうやらそれは確かなようだ。その後何があったのか。理美たちは何か知ってるのかな。

何処にも出掛けるな、とは云われたけど、何か思い出せるかもと友人たちに会いに行こうとあたしも着替えるためにクローゼットを物色し始めたのだった。






※※※※※※※※※※※※※※※※※

なんだろう……書き直していくうちに変なことを思い出させてしまったぞ(予定外な緊縛プレイ……いったい他にどんなことしてたんだ……f(^_^;)


元ネタにもあったまっちーのうっかり寝惚けキッスは採用しないとね~~(^w^)
でも本家イタキスの方の原作の新婚あたりを読み返すと……入江くん、ほんっと、全然甘くないんだもんな~~ハネムーンから帰って来て二人であのベッドに寝てても、入江くん思いっきり琴子に背中向けてるしさ……(-_-)ツレナイ男だよ………




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NoTitle * by なおなお
またまた?ありゃ!v-31

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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

LINEでお知らせしなかったのに(更新してすぐ寝ちゃった笑)、すぐに気がついてくれて流石マロンさんだわ〜
結婚?離婚?もう琴子の頭の中、ワケわかんなくなってますよね〜
そして、私も、「え?ここを一番初めに思い出すの?」と自分で突っ込んじゃいましたー。あの新婚感満載のベッドでどんな夢をみるんだろうと思ったら、何故かえろスイッチ入りましたf(^_^;
新婚なので、探求心の強い直樹さんはあれこれ試しているかと。絶賛調教中でしょう。きっとすでに48手は制覇しているのでは……

いつもこんな朝であってほしいというささやかな願望……原作の入江くん、新婚のくせして背中向けて寝てるし〜〜その合間はがっつりラブラブだと思いたいですよね。

フラグはまだ半旗ですが(かなり行き当たりばったり)どうなることやら笑

Re.なおなお様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

ほんと、ありゃりゃ、ですよね〜〜(^w^)

Re.ルミ様 * by ののの
拍手コメントありがとうございます‼️

大丈夫ですよー。ええ、わたしアンハッピーは書けないので。安心していてくださいませ
f(^_^;

Re.ちょこましゅまろ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

お久しぶりです!お引っ越しとかあってお忙しそうでしたね。もう同じケンミンではなくなってしまったのかしら。
でも、まだうちのブログ訪問してくださっててうれしいです。
はい、原作知らなくても大丈夫です。そして、今回のお話、面白いといっていただけて良かった〜(^-^)v
そうそう、すでにいろんなことをイタシテルのに、気持ちはまだセカンドキスのままなんですよね〜。萌えてくださって嬉しい(^w^)
はーい、続き、お待ち下さいませね。

個別記事の管理2018-05-05 (Sat)


さーて、GWもあっという間ですね……(-_-)
特に予定はなかったものの、やろうと思ったことは半分もこなせなかった気が……orz
でも今年は夏休みまでにひとつお楽しみがあるので、それを糧に頑張るぞー。


そして、お話の方は唐突に思い付いたヤツで新連載です(^w^)

実は今期、絶賛?放映中の某ドラマのパロディ……というか、イリコト変換です。

いえ、元々漫画原作ですが。その漫画をたまたまイタキス仲間のRさんから借りてまして(^w^)ドラマ始まる前からちょっと妄想して書きはじめてはいたのですが。
既にドラマは4話目終わってます……f(^_^;
………ま、タイトルでバレバレですね(笑)
(元のタイトルがなかなか覚えられなかったという……)

とりあえず元ネタ知らなくてもただのIFものと思って読んでいただければ大丈夫ですー♪
よろしければ続きからどうぞ。






※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








「あ、金ちゃん、どーしたの? え? 明日? え、『ふぐ吉』に? ーーあれ? 明日って『ふぐ吉』定休日じゃあなかったっけ? えーー? ごちそうしてくれるの? いくいくっ じゃあ明日テニス部さぼるね。うん、じゃあね!」


がちゃりと受話器を置いて、あたしは楽しげに喋っていた表情からは想像できないだろう憂鬱そうなため息を一つついた。

明日ーーか。

いい加減そろそろプロポーズの返事をしなきゃいけないよね……

金ちゃんがわざわざ定休日の日に、新作の試食をしてほしいとあたしを誘ったのは、きっとその答えが欲しいのだろうと、鈍いあたしでも流石にわかる。

金ちゃんとデートして思いの外楽しくて。その一瞬はもやもやした思いをほんの少し忘れることができた。
そりゃいきなりプロポーズされた時はただびっくりしただけだったけど。

ーーあんなに琴子のこと想ってくれる人、いないよー
ハッキリいってあたし琴子には入江くんより金ちゃんの方が似合ってるって思うよーー

理美の言うとおりかもしれない。

あたしのことをずっと好きでいてくれた金ちゃん。
あたしのことを思い続けてくれていた金ちゃん。
きっと金ちゃんと結婚して二人で『ふぐ吉』を継ぐのがみんなが幸せになる一番の方法なんだよね……


入江くんは沙穂子さんと着々と結婚する準備をすすめている。
あたしも前に進まなきゃ。
入江くんのことはきっぱり諦めてーー


そう思いながらも、あたしは明日金ちゃんになんて答えるべきか、色々考えて、考えて、考えあぐねてーーなかなか寝付けない夜を過ごしていた。
例えば仲良く二人で『ふぐ吉』を切り盛りしている光景は思い浮かべることは出来ても、夫婦として過ごすシーンが全く想像できない。
例えば金ちゃんと手を繋いで歩いたりとか、キスしたりとか……そ、それ以上のこととか? うーん、全然ぴんとこない……
考えてるうちにいつの間にか入江くんと一緒に過ごしてきた3年間の切ないような、いとおしいようなーー決して一生忘れないだろう様々な出来事ばかり思い返してしまう。
試験勉強を見てもらったこと。体育祭でおんぶしてもらったこと。
初めてのイジワルなキスや。
井の頭公園のデートとか。
大雪のバレンタインに泊めてもらったこと……
それについこの間の火傷した時手当てしてくれたこととか。
いろんなあったかい思い出たちがくるくると頭の中を駆け巡る。
ほんとに、あたしって未練たらたらだなぁ……

入江くんとなら、甘い新婚生活をいっぱい妄想できるのに。
毎朝入江くんのためにコーヒー淹れて、おはよう、琴子ってモーニングキスしてくれて。………なんてね。
でもそれは妄想だけだ。あたしの手には一生届かない、空しい妄想。
一緒に暮らした三年の間、冷たくされたり意地悪されたりした方が遥かに多い筈なのに、優しくしてくれたり、笑いかけてくれたりした温かな情景ばかりが思い出されて胸が苦しくなる。

「ああ、もう……ダメだな~~忘れなきゃ……」

いつの間にか頬を伝っていた涙をごしごしとパジャマの袖で拭う。
枕をいっぱい涙で濡らして。
こんなーー苦しくて切ない夜があったことも、ほろ苦い青春の記憶としていつか思い出に変わる日がくるのかな……。















「おいっ琴子! 琴子!」

え? 入江くん?

「琴子ちゃんっ大丈夫?」

おばさん?

二人の声が頭の上に降り注がれて、あたしはゆっくりと目を開いた。

なんだか眩しい。
そして、頭が重い。
鈍い痛みが後頭部に走り、あたしは思わず顔をしかめた。

「頭が痛いのか? 琴子! 大丈夫か?」

ど、どうしたの? 入江くん?
そんな心配そうな瞳であたしを見て……

「ん……ちょっと痛いけど……大丈夫……」

そしてゆっくり身体を起こす。

「無理して起きるなよ。おまえ、棚の上のキャリーバッグ降ろそうとして、それが頭に落ちて昏倒したんだ」

え?

キャリーバッグ?
昏倒?
何? それ。全然思い出せない。
だって昨日は泣きながらいつの間にか寝っちゃってて………
今、何時だろう。金ちゃんとの約束の時間は……大丈夫かな?

「ったく、ドジだよなー。何やってんだよ」

ん? 裕樹くん? 裕樹くんまであたしの部屋に?

あたしは憎まれ口をたたく裕樹くんを睨み付けようとして、ふと、周囲を見る。

え? ここ、何処?
あたしの部屋じゃないよね?

あたしの部屋もファンシーでメルヘンでリリカルな部屋だったけど、この部屋はさらにグレードアップしてる。なんだろ、英国王室風? 花柄が溢れかえって……華やかでゴージャスでお姫さまのお部屋みたい。

それにあたしの寝てるこのベッド……なんでダブルベッド? ううん、キングサイズってやつ? かなりおっきい。

不思議そうにキョロキョロ部屋を見回しているあたしを、入江くんが怪訝な顔をして見つめる。

「ちょっと頭みせてみろ。……コブができるな。軽い脳震盪起こしただけだと思うが……一応病院に行った方がいいな」

入江くんに頭を触られる。
いやーーん、近ーーい。
やっぱりかっこいいよーー。

「え? 病院? 病院はいいよー。大丈夫だよ……それより、ここ、どこ?」

あたしの言葉に入江くんが微かに眉をひそめた。

「琴子ちゃん? 何いってるの? ここはあなたたちの寝室でしょ?」

へ?

あなたーーたち?

よっぽど間の抜けた顔をしてたのだろうか?
入江くんに睨まれた。

「頭打って余計馬鹿になったか?」

うわーきたー。相変わらずのドS発言!

「……琴子。指とか動かせるか? 」

と訊かれて、両手を入江くんの前に差し出してグーパーして見せる。真面目な顔をして変なこと訊くのね。

「吐き気とか目眩は?」

「……だ、大丈夫だよ」

頭はなんとなくズキズキするけど。

「あと、ちゃんと自分の名前と生年月日言えるか?」

「失礼ねっ! それっくらい、言えるわよっ。相原琴子、21歳! 1972年9月28日生まれよ」

あたしが叫んだ途端に、みんなの表情が少し驚いたような困惑したようなものに変わった。
えーと、なんで?

「こ、琴子ちゃん……?」

おばさんが恐る恐るあたしの頬に触れる。

「……おばさん?」

「琴子、あれだけ大騒ぎして入籍入籍言ってたくせに、結局名前間違えてるのかよ」

裕樹くんだけが、驚く、というよりは呆れたように肩をすくめていた。

……なんのこと?

入籍って?

「琴子。今日は何年何月何日だ? 倒れる前に何してたか思い出せるか?」

入江くんがあたしの顔をじっと見つめてそう訊ねた。
なんでそんなこと訊くの?
とはいいつつ、ぱっと日にちが出てこない。

「えーと。1993年の11月……何日だっけ?……うーん……昨日金ちゃんから電話あって今日お店定休日で試食においでって……ってことは水曜日? あ、そうだ! 今日は3日だよ。文化の日!」

テニス部の練習はあるけど、さぼっちゃおうーーって、ここんとこサボってばっかだけど。

「何言ってるの? 琴子ちゃん……今はもう2月よ。今日は1994年の2月8日。どうしちゃったの? 琴子ちゃん……」

はい?ーー2月…?

ウソ。嘘でしょ?!
一晩寝たら3ヶ月も経ってるなんて~~!
そんなバカな!

「それに…琴子ちゃん……あなたの名前はもう入江琴子でしょう? そりゃ、お兄ちゃんがぐずぐずしてたせいで入籍したのはほんの1ヶ月前だけど……」

「へ?」

あたしは何を云われたのかさっぱり理解できずにフリーズしてしまう。

あまりにあたしがきょとんとした表情をしていたせいなのか、周りにいたみんなの顔が強ばるのがわかった。

えーと?
入江琴子? 入江? な、なんで?

「まさか……本当に覚えてないの?」

おばさんがひどくおろおろして、入江くんに助けを求めるようにあたしの顔と交互に見つめる。

「琴子。おまえはおれと結婚したんだ。去年の11月21日に」

入江くんが、あたしの目を真っ直ぐ見つめて淡々と告げる。

へぇーー
そうなんだーーへーえ?

………って?

うっそっっーーーっ!!!!!!

「やだぁ……入江くん、何の冗談を……」

ううん、冗談にしても性質(たち)が悪い。
ずっと入江くんのこと忘れよう諦めようって頑張ってきたのに、そんなこと言うなんて……

「冗談なんかじゃないわよ! 琴子ちゃん! ほら、これ見てちょうだい!」

おばさんがベッドの横のサイドボードの上にあったフォトスタンドを手にとってあたしの前に差し出した。
そこには、ウェディングドレスのあたしと、タキシードの入江くんのツーショット…………

きゃーーーっ!!なに、これっ!

「どーやって加工したの? こんな……こんな素敵な写真!!」

あたしは興奮してまじまじと見つめてしまう。ああ夢のような写真。こんなの作ってもらっちゃったら一生の宝物だわー!

「加工じゃないのよ。ちゃんとお式を挙げて、ハワイにハネムーンにもいって……
ほらこっちも見て!」

うわー壁一面に写真が!
それも全部あたしと入江くん!
ほんとに……ハワイ……?
ええーーっ!! ハネムーン!? ハネムーンって、新婚旅行ってこと?

「待っててね。披露宴のビデオもあるし、写真だってもっとたくさん……」

そういっておばさんが部屋から出ようとするのを入江くんが「おふくろ!」と止めた。

「先に病院に連れてった方がいいだろう。頭打ったし……脳に何らかのダメージを負って一時的に記憶が欠損した可能性もある」

えーと記憶が……欠損?

「それって、記憶喪失ってこと?」

おばさんが真っ青になって震えながらあたしの手を取る。

キオクソーシツ……?

あの漫画やドラマにでてくる?
いやいやいや。そんな、バカな……と笑い飛ばそうとしたけれど、みんなの顔があまりにも真剣で、あたしの言葉は空に消えた。

「そんな……アタマ打って3ヶ月だけの記憶喪失なんてあるの……?」

「脳に損傷を負ったことで機能性乖離を引き起こし、逆向性健忘または前向性健忘になる可能性はある。数時間、もしくは数日間……あるいは数ヵ月、数年の過去記憶を失ったり、もしくは今後未来の記憶の維持が短い間しかできなくなったり」

入江くんは何やら考えながら話している。さすが少しの間でも医学部に通っていただけのことはある。すらすらと難しい病名を……
えーと、あたし、ほんとにキオクソーシツ?

あたしはみんなの不安そうな表情からようやくこれがどっきりでも何でもなく、本当に現実なのかも、と思い始めていた。
とはいいつつ半信半疑な気持ちも否めない。


ーーだってーーあたし、ほんとに入江くんと結婚したのーー?
そんなの、絶対信じられない。信じられる筈がない。
そんな素敵な大どんでん返しがあったのなら、いっくら頭打ったからって簡単に忘れてしまうわけないじゃない!
それに、そもそもーー入江くんには、あのひとがーー。



呆然としているあたしに、「ほら、琴子。動けるか? この時間ならまだ診察時間に間に合うな。さっさと病院行くぞ」と手を差しのべる。
自然に差し出された手を、少しドキドキしながら取った。
最後にこの手に触れたのはいつだっけ?
あたしはあの足に火傷をした夜を思い出していた。あの日のことはちゃんと思い出せるのに……入江くんと結婚したという超絶エピソードを忘れるなんて……有り得ないでしょ?





「わ……寒……」

外に出た途端、思いもかけない寒さにあたしは首を竦めた。おばさんが、「コート着てきなさい」ってクローゼットから出してくれたのはアッシュブラウンのムートンコート。こんなの持ってたっけ?と思ったら、去年、おばさんからのクリスマスプレゼントに買ってもらったらしいの。ごめんなさい、全然覚えてない……。そして、こんなあったかいコートが必要な季節なんだ、と白い息を吐きながら、しっかりと体感してしまった。
肌を突き刺すような空気の冷たさ。
赤く色づきかけていた筈の庭の樹木も、いつの間にかすっかり葉が落ちて、寂しく枝だけが冷たい風に煽られてゆらゆら揺れている。
おばさんの自慢のプランターもハボタンやシクラメンや冬の花しか咲いていなかった。
そして今にも雪が降りだしそうなどんよりとした灰色の空。
秋だった筈の季節が確かに移り変わっていったのだと思い知らされる。

ーーあたし、ほんとに、3ヶ月もの間の記憶がなくなっちゃったの?

こうやって様々な証拠を突きつけられても、なんとなく絵空事のように思える。
あの結婚式やハネムーンの写真のように、何だか全てがつくりものめいて感じてしまう。


病院へはおばさんの運転で向かった。
後部座席で入江くんの隣に座る。
入江くんは労るようにずっとあたしの手を引いて歩いてくれて、そして今もその手を離さない。
ドキドキする。
胸キュンでドキドキしているのか、この異常な状況にドキドキしているのか、なんだかよくわからないけれど。

入江くんはただあたしの手を握りしめているだけで、一言も喋らない。とっても難しい顔をしている。

そして、おばさんだけがハンドルを操作しながらもあれこれ話し掛けてくれた。
その内容はどれも驚くことばかりで。
「えー、うそっ信じられない!」、とあたしは何度も叫んでしまい、いちいち入江くんの顔を覗きこみ、確認してしまう。

あたし……ほんとに入江くんと結婚したんだね……

入江くんからプロポーズされ、それからたった二週間で式を挙げたって……!
あのひととの婚約は解消し、でも北英社からの融資はそのままで……そして入江くんが作ったゲームが大ヒットして、あっという間に会社の業績は回復したらしい。
しかも、あたしをモデルにしたゲーム?ナニソレ!? やーん、早く見てみたい!
そのうえ、入江くんは無事に大学の医学部に復学したって……ああ、よかった!

はぁーーでも、ほんと、信じられないよ!
何? その短い間の奇跡的な逆転劇は。
そんな、そんな小説みたいな幸せな状況になっていたなんて!
そしてーーそして、なんであたしはそんな素敵な大切な思い出を忘れちゃったわけ? ほんと、あたしっておバカ過ぎるよっ!







病院に着くと、入江くんがさっさと予診票に記入してくれた。

そこはうちから一番近い脳神経外科だった。あまり縁のない診療科だから、来るのは初めてなのだけれど。
そして保険証も確かに『入江琴子』だ……思わずまじまじと見つめてしまった。

「今から頭のCT取りますね。えーと結婚されてるんですね。奥さまですか 妊娠の可能性は……」

看護婦さんが予診票を眺めながら入江くんに訊ねていた。なんで入江くんの方ばっかみてんのよー……って……待って?
奥さま……奥さま……っていってたわよね?なんて素敵な響き。
いや、それより!

「いえ、妊娠なんて!」ーーと、あたしが慌てて否定しようとした矢先に、入江くんが飛んでもないことを冷静に告げる。

「基本的に避妊はしてますが、ゼロとは言い切れないので念のため検査をお願いします」

へ?

「わかりました。じゃあ、最初に尿検査お願いしますね」

紙コップを渡されたけど、あたしはそのままフリーズしてしまった。

「おい、琴子」

「あ、はい」

あたしは呆然としたままよろよろとトイレに向かう。

へーそっかー。
結婚してるんだもんね。
そーなんだー。
してるんだ……。
……『避妊はしてる』けど、あたしたち、赤ちゃんできるようなことしてるんだ。へぇええぇっ………………!!!!!
……ってことは、あたし、もうヴァージンじゃない?

入江くんと……?
入江くんと……あんなことやこんなこと……してるの? うそーーー!!
わわわわーーーっ
するの? 入江くんがあたしに? 想像できないっ!!
なんか頭が沸騰しそう!
うぎゃあーーっ

すると背後でおばさんが入江くんに詰問している声が聞こえた。

「避妊って、どういうことよ。結婚してるんだから安心して赤ちゃん作っていいのよ? 育児なんて私が手伝うし」

「学生なのに、安易に作れるわけないだろ?」

「だから私が手伝うって……」

「そんな簡単に親に甘えられるかよ。琴子だってもうすぐ四年生になって就活とかあるだろうし」

「あら、そんなの。別に働かなくてもいいじゃない」

「おふくろが決める事じゃないだろ。琴子が決めることだ……」

「それより……あなたたち、最近、うまくいってたの……?」

おばさんの言葉にドキッとして思わず振り向いてしまったせいか、おばさんは慌てて口元に手を当てていた。

「早く行けよ」

入江くんに促され、あたしは慌ててトイレに走った。

ーーあたしたち……うまくいってたの?






「脳に損傷はないですね。脳震盪による一時的な逆向性健忘と思われます。生活に支障の出る前向性健忘と違って、周囲のサポートで日常生活は送れると思うので、特に治療はしません。自然に記憶が戻ることが多いですし。まれに戻らないこともありますが………。
もし、記憶がないことで不安やストレスが増すようでしたら向精神薬を処方しますよ」

「……大丈夫です」

自然に治るのなら何もしなくてもいいと思って断った。

結局、妊娠はしてなくて、普通に頭部CTを検査して、今お医者さんの説明を入江くんと二人で受けているところだ。(おばさんは入江くんについてくるなと追い出された)

妊娠してないと聞いた時、ほっとしたと同時に、何か得体のしれないモヤモヤした感覚が胸の辺りでざわついていた。

そりゃ……結婚した実感もなく、えっちの記憶もないのにいきなり妊娠なんて……あんまりだよね。突然大好きな人の赤ちゃんがお腹に宿ったとしたら……それはそれで嬉しい気もするけれど……複雑だわ。

はぁーーでも……あたしなんでそんな大切な記憶を忘れてしまったんだろ……?
自分がほんっとに信じられないよー!!
思い出したい。
早く思い出したいよ!







そしてーー夜。
頭の痛みはすっかり収まって、普通にご飯食べて。そしてそのあと結婚式のビデオの鑑賞会となった。……もう、超感動!! あたしってば教会で自分からキスしてるよー。なんて大胆な女なの?
ハネムーンも……うそ。おばさんたち付いて来たんだ。お陰で写真もビデオも沢山あって。わぁーーいいなぁ、ハワイ。 きゃーなんて素敵。夜の浜辺でキスなんて……!
いいなあ、あたし。うっとりと眺めつつ羨望の吐息をもらす。
今のあたしには高校卒業の日のキスしか記憶がない。
あたしたち、すでに何回キスしたのかしら?
こうして記録に残っていても、なんだかドラマでも観ているようで、どこかまだ他人事のような感覚は抜けない。
この3ヶ月間のあたしが羨ましく、忘れてしまったことが酷く勿体ないし、入江くんにとても申し訳ない気がする。
入江くんは何も言わないけれど……
そして、相変わらずの無表情で、何を考えているのかよくわからない。

「今日は早く風呂入ってさっさと寝ろよ」

ぶっきらぼうだけどそういって気遣ってくれるのは、凄く嬉しい。うん、入江くんってそうなんだよね。冷たいようだけど、ほんとはとっても優しいの。

普通にお風呂に入って(何気に身体を念入りに洗う)ちょっとドキドキしながらあたしたち(!)の寝室に向かう。いや、お風呂の前に寝室のチェストからパジャマと下着出したんだけど……ちょ、ナニコレ!? な透け透けネグリジェとか、ちょっと色っぽい下着とかあって、かなりびっくりしちゃったわよ。ほんとにこんなの着てたの? あたし……
えーと、あたしご愛用の動物パンツ、どこ行った?
そ、それに上の引き出し、入江くんの下着が入ってるの~~きゃあ、なんか、恥ずかしい。
とりあえず無難な下着とパジャマをチョイスして、再び部屋に戻ってきた訳だけど。
改めて眺めても素敵なお部屋だなぁ。
ハネムーン行ってる間に改装したっていうのだから、おばさんってすっごい。しかもおばさんの趣味全開だし。
掃き出し窓はものすごく大きく高くなってるし、窓を縁取る小花柄のカーテンはローラアシュレイかしら?
ほんとうにプリンセスにでもなった気分。
それに壁一面の写真……もう一度まじまじと見ちゃうよね。
幸せそうな二人。(仏頂面の入江くんが多いような気もするけれど)

あたしはヨーロピアンでお洒落なドレッサーの前で髪をときながら、入江くんを待った。
夫婦の寝室ってことは、入江くんもここで寝るんだよね? こ、このベッドで……?
うわー心臓ばくばくしてきた。

「ん? ここにもある……」

あたしは鏡に映った自分の首筋にうっすらと赤茶けた痣があるのを見つけてた。
実はお風呂の中でもいっぱいこんな痕があったんだよねー。ぶつけたにしろ、二の腕の裏とか、太腿の内側とか……絶対ぶつけないよね? というとこまで痣があって不思議だった。
虫刺されかなー? こんな真冬に?

あたしが首をかしげてると、ガチャっとドアが開いた。

「なんだ。まだ寝てなかったのか?」

「え、あ、うん」

入江くんはパジャマ姿で肩にタオルをかけていた。以前から着ているごく普通のストライプのパジャマだ。

「早く寝ろっていっただろ? 脳震盪起こして少しの間、意識喪失してたわけだし」

「大丈夫だよ。もう、頭も痛くないよ」

「お義父さんには店から帰ったらおれから説明しておくから」

「え、あ………うん」

夜遅く帰ってくるお父さんとはまだ会ってない。
3ヶ月間の記憶がないっていったらびっくりするだろうなー。心配かけちゃうかな……

「それと、おれはしばらく書斎で寝るから」

「え? そ、そうなの? だってここは入江くんのベッドでもあるんだよね?」

「そうだけど……おまえ、おれと結婚してる認識、まだちゃんとないだろ? 突然夫婦になったって言われても戸惑うだけだろうし」

「え、あ、うん。まあ……ね……」

確かに戸惑いはあるけれど、でも嬉しい気持ちの方が大きいよ。
入江くんの奥さんになれたなんて……
なんだかふわふわと空の上を彷徨ってるみたいに現実感がないだけなの。

「じゃあ、おやすみ」

「あ、待って!」

部屋から出ていこうとする入江くんを思わず引き留める。

「……何?」

「えーと、えーと、あのね……」

しまった、特に何も思い付かない。ただもう少し傍にいて欲しいだけで。

「お父さんによろしく……」

「ぷ。何だよ、それ。一応おれから説明しとくけど、明日、ちゃんとおまえからも話せよ。元気な顔見せないと心配するだろ」

「う、うん。あ、大学……明日って」

2月って……もしかしてもうそろそろ後期試験の頃じゃ……

「今年度からうちも他大学に合わせて2月から春休みだ。後期試験も先週終わってる」

ああ、そういえばそんなこと掲示してあったっけ。
他の大学並みに春休みが二ヶ月もあるーーっと理美たちと抱き合って喜んだものね。(というか、バレンタインシーズンに後期試験なんて、あり得ないよね、うちの大学)

「じゃあもう春休みなんだ……」

「テニス部の練習はあるけど、しばらくは休めよ。それと、安心しろ。おまえ、なんとか単位とれて進級できるから」

「へー、そうなの!?」

やるじゃん、あたし。夏からこっち、色んなことが有りすぎて大学も休みがちだったのに……
でも目が覚めたら試験終わって春休みなんて、ちょっと得した気分かも。

「え? 入江くんは?」

ずっと休学してた入江くんは……?

「レポートと特別補講でなんとか進学できるよ。まあ、おかげで春休みは殆どないけどな」

「そーなんだ。でも……良かったね。お医者さんになれるんだ……夢を諦めなくていいんだね」

真夜中のリビングで一人ぽつりと座っていた寂しそうな入江くんの背中を思い出して、あたしは心から安堵した。

「ああ」

入江くんの表情が初めて優しくほころんで、かすかな笑みを浮かべる。

「じゃ……」

「あ、あのねっ」

また入江くんのパジャマの裾を掴んでしまう。

「今度は、何?」

「あ、あのね。こんな季節なのに、この部屋、ダニとかノミがいるみたいなの。暖房効きすぎなのかな? ほら、見て。入江くんは大丈夫?」

そういってあたしはパジャマの袖をまくって、うっすらと残る赤茶けた痣を見せた。

「………………」

入江くんが眉をぴくりと動かして軽く睨む。

え?

「おまえーー」

呆れたようにため息をついた。

「最後につけたの、もう5日前なのに、まだ残ってたのかよ……」

え? 何が? 何をつけたーー? ええっ?

「え……も、もしかして、これって噂の……」

キスマークとかゆーやつ? 漫画でしか、見たことなかった、あれ?

一瞬にして理解ってしまったあたしは、ぽんっと顔が沸騰するように火照るのを感じた。
ーーと思ったら唐突にーー。

「え? ええっっ?」

腕を掴まれ、そしてそのままベッドに押し倒されていた。
ぎしっとスプリングが弾む。

「おまえさ、人が我慢してんのに、誘ってんの?」

「さ、さ、さ、誘ってるなんて、そんな……」

ひゃーーあ。
顔が近い、近いよーー!!

入江くんの綺麗な顔がどんどん接近してくる。
ま、睫毛ながっ
息がかかるくらいに近づいて……唇が……迫って……

きゃーいよいよ二回目(?)のキス!?

思わず目を瞑って身構えていたらーーあれ? 何も起きない?………と思ったら、鼻を摘ままれた………。

「ひ、ひどっ! からかったのね!」

なんか昔もこんなことなかったっけ?

「………しないよ。キスだけじゃ、止まらなくなる」

でも、返ってきた言葉はあの日とは確かに違ってて……やだ、なんか、キュンってときめいちゃった。顔がかあっと熱くなる。
うわー……今までの入江くんの態度から、ラブラブな新婚カップル感は全くなかったけれど、ようやくあたしたち、やっぱりーーと少し思えてきた。

「い、いいよ。だって……夫婦なんでしょ? あたしたち……」

心臓の鼓動はフルマラソンの後のように飛び跳ねている。
怖いけど。
気持ち的にはヴァージンだけど、身体はもうしっかり経験済みなんだよね?
もう健全なお付き合いから……なんて段階は過ぎてるんだよね?
だからーーきっと大丈夫。
それに、もしかしたら色々思い出せるかもしれないし!!

そう思って、覚悟を決めて待っていたのに、入江くんはそのまま触れてくることはなかった。
何だか少し苦しげな表情であたしを見つめている。

「入江くん……?」

「………やっぱ、言わないのはフェアじゃないから、言っとく」

何をーー?

「おまえ、おれと別れるつもりだったんだぜ?」

「……え?」

何……?

「倒れる少し前、おれに離婚届けを突きつけたんた。別れて欲しいって」

ーーはい?

入江くんの云ってる言葉の意味を全く理解できないでいるあたしを横目に、入江くんはデスクの引き出しの中から一枚の紙を取り出してあたしの前に差し出した。
ーーそれは、あたしの名前だけが記入された離婚届だった。









※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


はい、もう元ネタはおわかりですね?
どうしてもヒロインの相手役がちょっと大人になった入江くんにしか見えない……というあのドラマですよf(^_^;


イリコト変換といいつつ採用しているのは「三ヶ月間の記憶喪失(原作は1ヶ月ですが)」「いつの間にか深い関係 でも別れる直前」ってところだけです( °∇^)]






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NoTitle * by なおなお
ありゃ!記憶喪失はわかるけど?幸せにいくのくのかと思えば、琴子ちゃんが入江君にいきなり、離婚!v-12

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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

そうなんですよね。ネタとしては何本か記憶喪失の話があるのですが、何故か突発的に思い付いた話をアップしちゃいました。
ラブリ◯ンのように、短期間での状況の激変という面白さを鑑みるとやっぱりこの時期ですよね〜〜。
ついでに元ネタのいつの間にか付き合ってすでに破局してるという設定もお借りするとなると、三ヶ月でもう離婚騒動勃発という展開を妄想しちゃいました。
ちょっとハラハラドキドキさせてみたいと思ってます。

はーい、ありがとうございます♪ 続き、頑張って書きますね〜〜(^w^)

Re.heorakim様 * by ののの
拍手コメントありがとうございます♪

連休過ぎたらすっかり暑くなりました。連休中もっと頑張るつもりが、結局いつものペースです。
そうですねー入江くんきっと動揺してるでしょうねー。はーい、頑張って続き書きますね(^-^)v


Re.ルミ様 * by ののの
拍手コメントありがとうございます♪

ふふ、さあどうなることでしょう。でも、わたし、基本ハッピーエンドしか書かないので安心してもらっていいですよー(^w^)続きは、しばしお待ちを!

Re.なおなお様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

はい、二次にはよくありがちな記憶喪失ですが、琴子ちゃん、幸せな記憶以外にもなにかとんでもないことまで忘れてしまってます。
ちょっと一波乱ありますが、更新までしばしお待ちを!

Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

あれ、原作2巻しかないのでさくさくっ読めます笑 だからドラマはあれこれ膨らませてオリジナル要素が強いだろうなーとおもったら、私の二次とおなじで設定とキャラが同じだけでほぼオリジナルな感じで。でもまっちーは、やっぱり入江くんを彷彿させて、いいですねぇ。(入江くんの方が冷たい…)アンちゃん、意外といいじゃん、って感じですね(^w^)
ふふ、今回は琴子ちゃんから離婚の申し出ってとこがポイントで……いやー流石紀子ママさんのお嬢アンテナが察知しましたね……(^w^)
ふふ、私も入江くんを困らせるの大好きなので〜〜頑張りまーす(頑張らせます笑)