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個別記事の管理2017-10-31 (Tue)


Happy Halloween & Happy Birthday!(emaさま、3日遅れで申し訳ないのです~~^_^;勝手に捧げますっ)




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

~19901031



「もう、そろそろハロウィンの季節ね~今年は何の仮装をしようかしら?」

夕食後、リビングで寛ぐ入江家の面々に、紀子が食後の林檎を差し出しながら楽しげに話し掛ける。

「ハロウィンって……子どもが『トリックオアトリートメント』ってお菓子をねだって周る奴ですよね? パーティーって……何やるんですか?」

「なんだよ、トリートメントって……」

幼い裕樹に呆れ顔で突っ込まれたが気にすることなく、紀子の答えを待つ琴子。
それは入江家で暮らし始めてすでに半年近く経った秋のことだった。

「そうね、仮装の他にはゲームしたりとか……ほら、うちは玩具メーカーでしょ? こうした季節行事は販促活動に外せないのよね」

「毎年、ハロウィンは会社でちょっとしたパーティーをやるんだ。
社員やそのご家族を招いてね。よかったら琴子ちゃん、来るかい?」

紀子と重樹に誘われて、琴子は嬉しそうに手を組んでこくこくと頷く。

「行く! 行きます! 何をするのかいまいちわかんないけどっ」

この頃はまだハロウィンは世間一般に浸透していなかった。
ホラー映画のタイトルとかホラー漫画雑誌のタイトルとかで、なんとなくホラーな感じとカボチャのランタンだけは薄ぼんやりとイメージにあった。
お菓子をもらうためにご近所周りしてい
いなんて、なんでそんな素敵な行事が日本にはないのかと、子供の頃羨ましく思ったこともある。
板前の父をもち、英会話教室も教会も出入りしたことのない琴子にとって、それまでの人生、全く縁のないイベントだったことには間違いない。

「仮装ってどんな?」

「そうねぇ。本場はみんな、魔女とかガイコツとかゾンビとか……ホラーチックなコスプレが多いわね。でも、なんでも好きな格好すればよいのよ」

「へぇーーー」

なんか、楽しそう‼ と琴子の瞳が輝く。

「入江くんも行くの?」

ソファで本を読んでいた直樹の方を振り返り問いかけると、
「まさか」と、そっけない一言。

「おにいちゃん、昔は一緒に行ってちゃんと仮装もしてくれたのに、今は全然来てくれないのよ」

何年前の話だよ、と軽く舌打ちする直樹。

「ええっ~~行こうよ。あたし、入江くんの仮装みたーい」

「絶対いかねー」

「ちゃんとうちの子会社の作ったコスプレ衣装、色々と揃ってるのよー」

そういってカタログリストを見せてくれた。

「きゃーこのドラキュラとか、入江くんに合いそう~~」

「だから、そんなん着ねえよっ」

「琴子ちゃんにはこっちの魔女っ子がいいわよね」

「ええっでも、これ、魔女の割には露出多くないですか?」

胸元は蝙蝠の形になって豊満なモデルの胸の谷間がくっきりと露に見え、さらにはへそだし超ミニスカート、網タイツは蜘蛛の巣柄だ。
どうみてもお色気系のコスチュームだと思える。

そして直樹はそれをみて思いっきり鼻で笑い、裕樹は呆れていた。

「私、どっちかっていうとこっちの普通の魔女の方が……」

「こっちのキャットウーマンもいいわよー。ヒョウ柄のミニワンピに、猫耳が可愛いじゃない」

それもお色気系だ。

「どうしてオフクロは琴子にそんなん着せようとするんだよ。似合わねぇってこいつには」

「わからないわよー。琴子ちゃんに悩殺されちゃうかもよー、おにいちゃん。ほら、琴子ちゃんの足、とってもすらっとして綺麗なんだもの。出さなきゃ勿体ないわ。それに若いうちよ~~こーゆーの着れるのも」

女の子っていいわよーねぇとはしゃぐ紀子に、琴子も少々困惑ぎみに苦笑している。
流石に露出の多いコスチュームは躊躇しているようだ。

「好きなの着れば? おれは関係ないしね。ただうちの会社のイベントであんまり恥ずかしい真似はしてほしくないけどな」

直樹の冷ややかな物言いに、琴子は悲しげに顔を曇らせる。
先日の体育大会で怪我をした時におんぶして保健室まで運んでもらった。
直樹の素っ気ない優しさを感じたし随分と距離が縮まったような気がしたのは、本当に気のせいだったのか、と思えるくらいその後も変わらず琴子に対して冷淡だ。

「……まったく、お兄ちゃんってば……」

紀子に愚痴ぐちと云われる前にさっさと兄弟二人で自室に逃げ帰ってしまった後で、琴子は紀子と二人でコスプレ衣装を選び、結局無難な黒とオレンジの魔女ドレスを選んだ。スカートの長さも膝下丈で、袖も七分丈。露出は少ないがオレンジのアクセントが効いて可愛らしい。

そして予告通り当日、直樹は来ることなく(兄に倣って行かないと言い放っていた裕樹は結局鬼太郎の格好で参戦)ーー琴子にとっての生まれて初めてのハロウィンパーティは、社員の子どもたちと童心にかえって遊び回りあっという間に終わったのである。



「……どう? 楽しかったかしら? 琴子ちゃんには子供達の相手ばっかりさせちゃって申し訳なかったわ」

「大丈夫です! すっごく楽しかったし!」

帰りの車で紀子に申し訳なさそうに謝られたが、琴子は力を込めて答えた。
直樹は来なかったが、生まれて初めての本格的なハロウィンパーティーは本当に楽しかった。
裕樹は母に甘えるように凭れかかって爆睡していた。

「ハロウィンって『カボチャ』ってイメージだったんですけど、『リンゴ』なんですね。知らなかった~~」

「もともと海外からの出向社員の要望で始まったイベントなの。だからなるべく本場の体裁でやってるのよ」

万聖節の前夜であるハロウィンは収穫祭ともいわれ、悪霊払いとともに実りの秋を祝う豊穣の祭りでもある。
特に収穫期であるリンゴは、必須アイテムで、お菓子やゲームの主役となっているのだ。

ビニールプールの中に浮かべたリンゴを口で加えて収穫するゲームーー『ダックアップル』は、思う存分仮装の衣装をびちゃびちゃに濡らしながら、子どもたちははしゃぎまくっていた。

アップルパイや、欧米風リンゴ飴の『キャラメルアップル』など、リンゴのお菓子がメインでもある。

「本当はカボチャは食べるものでなく、飾るものなのよね」

ふふっと笑ってから紀子が赤く艶やかな林檎をひとつ袋から取り出して、琴子に渡した。

「知ってる? ハロウィンにやると未来がわかるという占いの言い伝えも色々あってね。
特に有名なのが、ハロウィンの真夜中に、鏡の前で髪をとかしながら林檎を食べると未来の旦那様の姿が鏡に映るって云われてるの」

「ええーっ? それって合わせ鏡みたいなもの?」

「うーん、合わせ鏡はホラーな都市伝説よね。死後の自分が見えるとかいうやつでしょ? こっちはもうちょっとロマンチックよ。よかったら試してみてちょうだい」








ーーというわけで。真夜中の洗面所に林檎を持ったまま佇む琴子がいた。

いや、そんなの迷信だってわかっているけど。
わかってるけど、占いときくとなんとなく試してみたくなる乙女心なのだ。

帰ったあと、着替えてお風呂に行くときに直樹とすれ違ったが、「何も恥ずかしい真似はしてないだろうな?」と随分冷淡に云われて、少し楽しかった気分がずずんっとクールダウンしてしまった。

ーーそれなのに、変な期待をして、こうして鏡の前に立っているあたしって………

艶やかな赤い林檎を見つめて、自嘲する。

そして、洗面所の鏡の前で右手でヘアブラシを持ち、左手で林檎を持ちーー恐る恐る一口かじるとーー。

ーーーええっ
入江くんっっ!?


鏡の中にはしっかりパジャマを着た直樹の姿がーーー。


「………おまえ、こんな夜中に何やってんだよ……」

「ーーー※*!*#%**※♪!!!?」

唐突に声を掛けられ、思わず手から林檎が転がり落ちた。

「い、い、入江くんっっ な、なんでっ」

慌てふためいてテンパる琴子を尻目に「歯を磨きに来ただけだけど?」と呆れたような顔つきで答えて、歯ブラシと歯磨き粉を取った。

「ったく、こんな夜中に洗面所で林檎食うって………おまえ、大丈夫かよ?」

「ええっと……ちょっとしたハロウィンの余興の続きよっ! 入江くんには関係ないからっ じゃあね! おやすみっっ」

上手い言い訳も思いつかず、琴子は落とした林檎を拾うと、真っ赤になってバタバタと洗面所を飛び出し、自室に戻っていった。




ーーはぁびっくりした。
一瞬入江くんが未来の旦那様として鏡の中に映ったのかと………


「そんなわけないかぁ……」

今日はいつになく冷たかった。
何か機嫌を損ねるようなことをしただろうか。
琴子は軽くため息をつくと、机の上に食べかけの林檎を置いたのだったーー。










* * *



~19941031


「ふふっ楽しかったね~~ハロウィンパーティ」

その夜はパンダイ恒例のハロウィンパーティが、ホテルを貸しきってとりおこなわれた。

実に数年ぶりのパーティーである。ここ数年は業績の低迷でそのようなイベントを催している余力はなかった。
特に去年の今ごろはそれどころではなかった。
一年前のこの時期のことを考えると、今こうして直樹と一緒に過ごせることが奇跡に思えてならない。

いつもならハロウィンパーティーで仮装など絶対参加しない直樹だったが、昨年会社のために身を呈して尽力し、現在の経営の安定を築いた元社長代理にもぜひ夫婦揃って参加を、と請われ仕方なく参加したのである。

そして、帰りのタクシーの中。
ドラキュラ直樹は猫耳魔女の琴子のとりとめのないおしゃべりに延々と付き合っていた。

「せっかくコトリンのコスチューム用意してくれたのに、なんで着ちゃダメだったの?」

「露出が多い。夜中に冷えるだろ?」

「そ、そう……? テニス部のウェアと大して変わらないと思うけど」

初めて参加した高校生の頃と違って、今は取締役の家族の一員として夫婦で参加したため、どちらかというときちんと応対しないとと少し気負っていた琴子であるが、最後にはやはり子どもたちとはっちゃけてゲームに参加していた。

そして、今は少しほろ酔いで直樹に頭を凭れさせていた。
直樹もそのままで肩を貸し、琴子の指に自らの指を絡ませている。

………ふふっ恋人繋ぎ~~~

夫婦なのだけど、今夜は直樹が優しいのがとても嬉しい。

「コトリンよりもさ。オフクロが用意した、あの衣装……ちょっと帰ってから着てみない?」

「え? 入江くんが却下したやつ?」

かつて紀子が琴子の為に準備したお色気系の魔女コスチュームだ。
今夜も、実は紀子はコトリン衣装の他にもそのお色気魔女を推していたのだが、直樹にあっさり反対され、安定の猫耳魔女を着ている琴子だ。

あたりまえだ。
あんな格好、他の男たちにみせてたまるか。

直樹の心の内など気づくこともなく、琴子は少し不思議そうに直樹を見た。

「部屋で着る分には構わないから。せっかくオフクロが用意したんだし」

「う、うん。流石に人前は恥ずかしいなーーと思ってたの。入江くんだけにならいいよ……」

ちょっと恥ずかしそうに呟く琴子に、しめしめと思う。




かつてーーまだ高校生だった頃。
初めて琴子がハロウィンパーティーに参加した夜。
てっきりあのお色気衣装を着て、出掛けたのだと思い、なんとなく理由もなく苛ついていた。
いや理由はあったのだ。
ただその感情に名前をつけることが出来なかっただけで。

帰宅したあと、母紀子から、「琴子ちゃんって、ほんとモテモテだったのよー」
と言われ、さらにイラっとした。
後からよく聞けばモテモテだったのは今夜と同じく子どもにだったようなのだが。
いや、今夜は実は琴子に妙に眼を向けるオタクちっくな男たちは確かにいた。
だが横に直樹がいるだけでかなりの牽制になって、近づくことも出来ないでいたのだが。
当たり前だ。
俺の女においそれと近づくんじゃねぇ、と心の奥で毒づいていたことなど誰も知るまい。


そういえば。
あの夜、琴子は随分と頓狂なことをしていた。
洗面所の前で髪をとかしながら、林檎を食べるというーー。
全く理解不能、意味不明の奇行に、初めてのハロウィンパーティーで精神的ダメージを受けるような事件でもあったのかと心配になるくらいだった。
だが、すぐに自分で調べて、ハロウィンの迷信ともいえる占いのことを知り、納得したのだった。
(何故自室のドレッサーの姿見で試さなかったんだよ? という突っ込みどころはあるものの………)

アホくさ……

あのときはそう思った。
そう思ったが、少なくとも鏡は確かに真実を映し出していたということだ。


ーーまあったく。

おまえのパワーは計り知れないよな。

いつの間にか寝息をたてている琴子の髪に軽くキスをする。


とにかく。
今夜は思う存分魔女琴子を可愛がろう。
吸血鬼直樹はタクシーが家に着くのを待ちわびながら、ハロウィンの月夜に誓うのだったーー。







※※※※※※※※※※※※


つまりは下心満載な直樹さんのお話でしたf(^_^;










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* Category : 1日で終わらない西暦シリーズ
* Comment : (7) * Trackback : (-) |

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* by なおちゃん
露出どの高いふくいりえくんが着せるわけないですよね、きるなら入江君が限定(*´・ω・`)bよ昔から独占欲丸出しです。愛する琴子ちゃんのことになると。

管理人のみ閲覧できます * by -

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

そうそう、20数年前はハロウィン、こんなに浸透していなかったですよねー。
商魂たくましい日本人として入江家は先取りしてたに違いありませんよね(笑)
呆れかえってはいるものの、この頃には結構琴子に落ちてるに違いない(人の気持ちなんて変わる発言とか)直樹さんなので、ちょっと琴子が着てるところを想像してザワザワしてるであろうかと……(青いっすね)
ええ、その反動で結婚後のハロウィンは、そりゃたっぷり堪能してることでしょう。この二人の寝室のクローゼット、八畳くらいあるかも^_^;選り取りみどりのコスチュームたち……
とりあえず、ハロウィンの夜はドラキュラなのか狼男なのか……食われるのは必至です!


Re.ねーさん様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました♪

ふふっえろ待ってますよ(//∇//)
イラスト、週末頑張ってみますが……最近めっきり描いてないからな〜〜(LINEでお見せした参考写真だけで終わるかも……)

なんだかんだきっちり日付変わる前にアップ、流石です(^-^)v

Re.なおちゃん様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

そうですよね。お色気衣装は沢山あるものの(?)無論自室限定です。外でなんか着させません笑 高校生の頃から独占欲の片鱗は見えていたのです(^-^)v

Re.ちびぞう様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

何度も読んでいただけて嬉しいです(^_^)
もう、ハロウィンといったらコスプレなんですけど、お色気コスプレで検索したら出るわ出るわ、琴子ちゃんに着せてみせたい衣装の数々……ええ、胸はどうするんだ?どうやって谷間を作るんだ?という突っ込みはきっと紀子さんの補正の腕前できっとなんとか……f(^_^;
妄想膨らませつつ直樹さんはもんもんと4年過ごしたことでしょう笑
なので晴れて琴子ちゃんのコスプレを独占できるこの夜はきっとあれやこれや楽しんだに違いない〜〜笑

ふふ、ちびぞうさん、色々ハロウィン経験されてますね。楽しそう。私、まったくハロウィンのイベント参加したことないんです。また体験談お願いしますね〜〜♪

個別記事の管理2017-10-22 (Sun)
お待たせしました。やっと終われました~~(((^^;)











※※※※※※※※※※※※



「きゃあっっ」

衝撃と灯りの点滅に驚いた琴子が直樹にしがみついた。

「な、な………何? どーしちゃったの?」

突然照明がダウンし、エレベーターも何処かの階に停止したものの扉も開かれることなく、ウンともスンとも云わない。鳥目の琴子は怯えたようにキョロキョロとしながら直樹に抱きついた。
直樹は琴子を抱き締めながら冷静に思考を働かせて、状況を見つめる。

「………停電なのか、故障なのかーー。大丈夫。すぐ復旧するはずだ。大地震の時とは違って何時間も閉じ込められることはないよ」

そして、躊躇なく非常用のボタンを押した。

しばらく押し続け、ようやく繋がったのは2分くらい経った頃だ。こうした状況下の2分は、10分くらいに感じるということを保守センターはわかっているのだろうか。

『申し訳ありません。停電ではないようです。故障の可能性がありますので、今から作業員をそちらに向かわせます』

「……どれくらいかかりますか?」

『ええと……1時間くらい……』

「ここに来るのに……1時間?」

『はい。すみません、今、すぐに直行できる作業員が近くにいなくて……』

「ええっ 1時間も?」

琴子も驚いたようで不安げに周囲を見回し、インターホンに向かって話す。

「もし、具合とか悪くなったらどーするんですかっっ?」

『具合、悪いんですか?』

「いえ、いまのとこ、至って健康ですけど」

『すみません、では、しばらくお待ち下さい』

そうして、あっさりインターホンは切られた。
異常な状況下の割には随分と素っ気ない。

「………ひぇーーほんとにあるんだね、こんなこと」

直樹が居ることで落ち着いたのか、琴子は床にペタりと体操座りで腰を下ろした。
直樹も隣に座る。

…………ったく、貴重な時間を……。

時計を見ると14時半だった。
琴子と居られる時間はあとわずか2時間半しかないというのに。


「…でも、1時間は入江くんと二人っきりで居られるってことだよね。ちょっと幸せかも……」

「おまえって………すげぇな」

とことんポジティブに捉える琴子に思わず感嘆する。

「ま、防犯カメラさえなければ、おれもこの密室を堪能するだけどな」

「堪能? 何………え、防犯カメラとかあるのーー? どこっどこっ?」

扉とは対角にある天井あたりを指差す。たしかに監視カメラが付いていた。

「ふーん、こんなとこに……」

「でも、こっちの壁際にぴったり寄っていればそこそこ死角だよな……」

カメラの位置を見て、何やら算段している直樹に気がつかず、「でも、あたし一人の時じゃなくてよかった。別に閉所恐怖症じゃないけど、さすがにこんなとこにひとりぼっちは辛いよ……」と、自分の身体をぎゅっとかき抱く。

「………そうだな」

琴子ひとりとか。
琴子とだれか見知らぬ男と二人きりとか。
どちらの状況も、想像しただけで胃がキリキリしそうだ。

「エレベーターの閉じ込め事故は結構多いって聞くが……まさか自分が遭遇するとはな」

保守センターのあっさりした対応から日常的なことなのかと疑いたくもなる。

「へぇ、そうなんだ~~」

「救命にいたときも、エレベーターに閉じ込められた女性が過呼吸起こして運び込まれたな。ほんの10分ほどだったらしいが」

「うん、でも、やっぱり突然止まっちゃうとドキドキするよー。ひとりだと怖くてたまらないかも。落ちちゃったらどうしようとか」

「三本のロープが全部切れても安全装置で落下することはないって聞いたことあるぞ」

「そうなんだ。ほら、最悪の場合は脱出とかさ。ドラマでよく見ない? 肩車してもらってさ、天井の蓋を開けて、カゴの上に登って……」

「何故わざわざそんなハードボイルドな展開にしなくちゃならないんだ。それに実際は内側からは開けられないらしいぞ」

「ええっそうなのーー!?」

「…おまえ、実は結構わくわくしてるだろ」

「へへっバレた? なんか入江くんと一緒なら大丈夫かなーって」

あくまで能天気な琴子に少し安堵する。
まあ絶大なる信頼を得ているということだろうか。

そしてしばらくミッションインポッシブルな琴子の妄想に付き合うこととなる。(奇想天外過ぎるので割愛)

ーーそんな、とりとめのない話をしながら、救出が来るのをただひたすら待っていた。
直樹は琴子の肩を抱き寄せて自分の肩に凭れかからせている。
そして指は琴子の髪を絡ませてくるくると弄びーー
くすぐったいと思いつつ、なんだか構われているようで、ちょっと嬉しい。

「ーーでね、保健所実習であった保健婦さんが、細井婦長そっくりな体型でね~~でも名前がなんと細江さんだったのーー思わず親戚ですかーー?って訊きそうになっちゃって……げほっげほっ」

「おい、琴子。おまえ喋りすぎ」

20分ちかくひたすら一人でべらべら喋り倒していた琴子が、喉が渇いたようで少しむせっていた。

「ははっ大丈夫。たしか鞄の中にのど飴あったような………」

少しかすれ気味の声で、あー、あーと発声練習をしてから、ごそごそと鞄をさばくっていた。

「あー、あったあった。ほら、関西行くときはアメちゃん用意してかないとねー」

薄荷ののど飴を口に含んで「じゃあ、入江くんも何か話してよ」と、少しモゴモゴとしながらねだってみる。

「話してよって………そんなに面白い話はないし」

NICUでの研修が始まって日は浅い。どちらかというと重い話の方が多い。それに患者の話をやすやすと漏らしてはいけないのだ。つい琴子には話してしまっているがーー

「面白くなくってもいいよー。入江くんが思ってることとか………そうそう、悩みとかあったらなんでも云って! 愚痴でもなんでもあたし、入江くんのバケツになって受け止めるから‼ 上司の悪口に日頃の鬱憤、なんでもぶちまけてちょーだいっ」

「……別に愚痴とか鬱憤とかねぇし」

「うそーっ ストレスフリーなの? すごいっっ」

上司にもまあ今のところ恵まれている。煩わしい人間関係もないことはないが(既婚者と知っていながら言い寄ってくる鬱陶しい女たちとか)、とりあえず上手く立ち回っている自信はある。
ーーーいや、ストレスはある。
人間だから当然。
一番のストレスは琴子が傍にいないことだが、選んだのは自分だから、そんなことを琴子に愚痴れるハズもない。

仕事に関しては……

「ーー無論、仕事で不条理を感じたり……自分の無力さに打ちのめされたりはあるけどな」

「うん、そうだよねー。そりゃそうだよ。大切な命を預かってるんだものっ! だから、あたしになんでもいってみてよ!」

「云わない」

「えーなんで!? いったらスッキリするよー」

「おまえには絶対云わない」

「どうして? ここは密室よ! ここで話したことは誰にも聞かれないのよ! ……って、防犯カメラ、音は入らないよね?」

「ああ。音声は録られてないはず」

「だったら、何も気にすることなく、思いの丈をぶちまけて!」

ほらほらーーっと両手を広げてみせる。

「いやだね」

「なんで~~~?」

「おまえに話すと、おまえ、ただ話を聞くだけじゃすまないだろ。絶対、大学ほっぽいてまた変なお節介始めるに違いない」

「えー、この時期に、あたしもそんなに暇じゃないよー。そりゃ、あたしにでも出来ることがあるのなら、なんでもお手伝いしたいけどさぁーー」

「ないな」

きっぱり云われてちぇーっと頬を膨らませる。

そんな琴子の頬をつっつきながら、少し考えてみる。
琴子に話したらすっきりするのだろうか?

6ヶ月で生まれた手のひらに乗るくらいの超未熟児の赤ん坊やーー
お腹の中で先天性の疾患がわかって、すぐに手術しなくてはならない赤ん坊。
なんとか乗り切った子もいれば、どんなに手を尽くしても救えなかった子もいる。
号泣する母親にかける言葉もみつからない。
もしくは大病に侵された子供を訪ねもせず、現実から目を反らし、その存在を認めようとしない親もいる。

まだNICUに来て2週間足らずではあるが、極限状態にいる家族の姿に、何処まで踏み込み、寄り添うべきなのか、悩むことは多い。

「入江くん……?」

唐突に黙ってしまった直樹を怪訝そうに覗きこんだ後、何を思ったのか直樹の背中に腕を回して、その身体をぎゅっと抱き締めた。

「いいよ。云わなくて。あたしがこうして入江くんのストレス吸いとってあげるよ」

そうして暫くの間、直樹はただ黙って琴子に抱き締められたままでいた。
二人っきりの狭い箱の中で、静かな時間が流れる。
そして、いつの間にか逆転して琴子が直樹に抱きすくめられていた。

「せっかく二人きりなのに……しゃべくり倒して時間を潰すのもな」

直樹が琴子の顔をのぞきこんでにやりと笑った。

「え……?」

琴子が不思議そうに顔をあげた一瞬のうちに唇が塞がれていた。

「ん……んーー」

思わずうっとり瞳を閉じそうになったが、はたりとカメラの存在を思い出し、直樹の背中をポンポン叩き頭上を指差した。

「なんだよ……?」

「入江くん、カメラ……」

潤んだ瞳を少しカメラに向けてから、思わず手で覆って顔を隠す。
しかし直樹は軽くにやっと笑うと、「大丈夫。ちゃんと死角は考えてるから」といって、再び琴子の唇をーー今度は噛みつくように覆いつくして、薄荷の味のする口内を飴玉ごと激しく貪り始めたーー。











がくん、と揺れると唐突にエレベーターの機械音が復活し、そして僅かに下がった。

「ひやっ」

琴子は驚いて、直樹から身体を離す。
そしてその途端に扉が開いて、目の前には工具箱を持った作業員が二人ーー

「大変申し訳ありません! 大丈夫ですか? ーーあれ……なんか具合悪いですか? 随分と腰くだけみたいな……」

「ええ、妻は少し閉所恐怖症気味のところがありまして。でももう大丈夫ですよ」

よろよろとした琴子の腰を抱き抱えながら「歩けるか?」と優しく訊ね、二人してようやく箱の外に出ることができた。


結局閉じ込められていたのは正味40分ほどだった。その後ビルの管理事務所の職員が謝罪に来て、顔が赤く足元がふらついている琴子の様子を見て、「救急車を呼びましょうか?」と声をかけてくれたのだが、丁重にお断りする。
代わりに何処かで暫く休めるところを、と頼んでみたら、このタワーに併設しているホテルの一室を提供してもらえた。





「い、いいのかな……? こんないいお部屋で休ませてもらっちゃって」

まだ開業して数年のこの高層タワーホテルのかなり上層階の一室であった。
ヨーロピアンテイストのツインルームの一室は重厚で趣のあるインテリアだ。

「さっき、展望回廊から見たのと変わらないくらいの景色だよ……もしかしたら、こっち側って富士山見える方向?」

「……だな。南アルプスは微かに見えるな」

流石に夕方近い時刻では遠景は朧にしか見えない。

「ま、日曜の夜だから空いてるだろう。エレベーターの閉じ込め事故なんて外聞悪いから、口止め料として、ってことだろうしね」

どちらかというと観光よりはビジネスで訪れる客の方が多い地域だ。

「でも、わざわさこんないいお部屋用意してもらうほど、具合悪い訳じゃ……ちょっとくらくらしてただけなのに……い、入江くんが……あんな……あんなキスするから………」

「あんなって……どんな?」

「え……な、なんかとっても……えっちなキス……?」

「何? もっとしたい?」

意地悪く耳許で囁かれて、琴子の顔は再びぼんっと赤くなる。

「……だめだよ……」

耳朶にキスされ、軽く抗いながら潤んだ瞳で直樹を見つめる。

「……だって……止まらなくなる……」

「だな……」

エレベーターのなかでは監視カメラがあるとわかっていたから理性が本能を制御できたが、こんなベッドを用意されてブレーキをかける自信はない。いや、元々展望回廊のあとはラブホに直行するつもりだったのだ。
だが、エレベーター事故やらのトラブルのせいで時間はすっかりなくなった。

現在16時…懇親会まであと1時間……無論、速攻で一戦くらいできないことはない……ない……ないが。

頭の中で色々と計算を巡らせる。

「ああーーーっ!」

直樹の腕の中にいた筈の琴子がいつの間にやら抜け出して、ベッドの上の自分のバッグの中を見て驚愕していた。

「なんだよ、一体……」

「ほら、さっきエレベーターの中で
のど飴探してたじゃん。その時、あれ?って思ったんだよねー。暗かったからしっかり見えなくて、後で探そうって」

「……何が……?」

「財布………ない……」

「……………………は?」

直樹の眉間の皺がこれ以上ないというくらい寄った。

「………もしかして………」

「もしかして……」

新幹線を降りた時に隣の車両で起きていたトラブルを思い出していた。

「……おまえ、なんで今まで気がつかなかったんだよ……?」

「えー、だって新幹線降りてから1度もお財布出さなかったし……切符はずっとバッグのサイドポケットに入ってたし………」

おろおろする琴子の頭をぽんと叩くと、直樹は立ち上がりジャケットを手に取った。

「いくぞ。警察に……」

これで、ソッコー一戦コースもおじゃんだ。
警察に行って、無事財布が見つかればいいが……


「ああ、もう全然気がつかなかったよーーバッグを席に置いてトイレ行った時かなー」

「……バッグ置いて行くな……不用心にもほどがある!」

ピクピクとこめかみをひくつかせながら、叱責する直樹に、ごめんなさーいと首を竦める。

「あ、入江くん、もう時間なんだよね? ご、ごめんね。大丈夫だよ、あたし一人で警察に行ってくるし……」

「警察に行く時間くらいはある。それより………」

「へ?」

「おまえ、明日は大学あるんだよな?」

「え? うん。一週間試験休みがあるけど、卒論がいよいよ佳境で。とりあえず午後からゼミがあってーー」

「え? 午後なのか? じゃあ、おまえは今夜無理して帰らなくて大丈夫なのか……」

「うん、まあね……え? もしかして、入江くんお休み?」

一瞬琴子の顔がぱあっと明るくなる。

「いや。普通に出勤だけど」

「はは、そうだよね」

「…………でも、始発で新幹線に乗れば、9時前にはギリ、間に合うかな……」

「え?」

がっくりと陰を落とした琴子の表情が再び明るくなった。

「警察に行く前に、フロント寄って、この部屋に一泊できるよう交渉しよう……」

「きゃあぁぁぁーーっやったあー。どうしよう、めっちゃ嬉しい!」

はしゃぐ琴子に盛大に飛び付かれ、がっちりと受け止めながら、「朝からのドタバタ劇は結局、こうなるための運命だという気がしてきたよ……」と、苦笑交じりに呟いて、琴子の唇にキスを落とす。

「ふふ。予想外の素敵な誕生日になったかも……」

「そーいえば、ちゃんと言ってなかったな。誕生日おめでとう、琴子……」

「ありがとう、入江くん。一緒に過ごせるだけで最高に幸せだよ、あたし」


ーーそして、もう一度キスをーー。












* * *




「別に、おまえは午後からなら急いで帰らなくてもいいのに。ホテルでゆっくりしてれば」

浜松駅の改札で、始発の新幹線を待つ二人は、上りと下りが分かれるコンコンースで離れがたく壁際に寄り添って話していた。

「だって…一人であんな素敵な部屋にいてもつまんないもの。朝食だって一人で食べたって美味しくないし。入江くんが帰るならあたしも東京にもどるよ」

当たり前でしょ? といいたげに琴子がふふっと笑う。

もう間もなく始発の新幹線が来る頃だ。
下りの方が少し早い。

「……あまり寝てないよね。乗り過ごさないようにね」

琴子も睡眠不足ではあるが、とりあえず肌艶の潤いは直樹不足の補充により完璧である。
足腰はよろよろではあるが……東京まで立ちっぱなしということはないだろう。

「名古屋でひかりに乗り換える。でないと、さすがに出勤ギリギリだからな。寝てる暇はないよ」

自宅に戻る時間もない。駅から病院に直行だ。

「そっか。なんか、バタバタになっちゃったね」

「……それがもう通常運転だろ」

琴子と結婚してから毎日がそんな感じだ。

「誕生日の翌朝に入江くんと富士山眺められるなんて、すごく幸せ。なんだかご利益あるかも。一年間いいことありそう」

早朝の澄みわたった大気は、くっきりと彼方にある美しい姿を映し出していた。
神秘的な神々しい稜線に思わず感動して、日本人で良かったーーとつい思ってしまう。

「きっと霊験あらたかな富士の力で国家試験一発合格だろうな」

「………がんばります………」

『まもなく6時10分発大阪行きこだま◯◯号が到着します……』

「じゃあ、そろそろ行くな」

「うん……」

会えるのは嬉しいけれど、別れる時間が毎回必ず来るのがツラいなーと例えようもなく切なくなる瞬間である。
ほんの一月前にタイムトリップしたような妙な感覚に陥る。
何回も何回も同じ時間を繰り返す……
そんな物語がなかったっけ……

直樹は悲しげな顔をする琴子の髪をくしゃりと撫で付け、「じゃあな」と手を振った。


直樹が下りのホームに行くと、琴子も上りのホームに立っていた。走ってきたのか、少し肩で息をしているようだった。

「入江くーーん! また電話するねーー」

向かいのホームから大きな声を張り上げて手をふる。

「入江くんもNICU頑張ってねー! 赤ちゃんたち助けてあげてねー」

新幹線がホームに近付いてきた。
そして、あっという間に琴子の姿も声も長い車両と轟音にかき消される。

開いたドアから車内に入り、琴子のいる側のシートの窓際に座る。
もう声は聞こえないが、一生懸命手を振って声を張り上げているさまはよくわかった。

ーーー馬鹿、朝っぱらからそんな声出して……ほら、周りがドン引きしてるぞ

そう思いながらも、そんな琴子から目が離せない。
ゆっくりと車窓が動きだし、琴子の姿が見えなくなるまで、ずっと視線をホームから外せなかった。

琴子の誕生日といいつつ、しっかり自分も充電できてしまった。
幸せそうな琴子を堪能できたので、昨日のドタバタは全て帳消しである。




さあて、次に会うのは11月かーー?

実際呑気に神戸に来てるどころの時期ではないだろうがーー琴子のことだ、簡単にスルーしたりはしないだろう。
どうなるかは分からないが、とりあえずサプライズで帰るのは止めておこうと密かに思う直樹であった。


西と東へーーー

今は二人の向かう道は全く真逆だけれど。
必ず同じ方向を向いて歩いていく日がやって来るから。

その日がくるまで………








※※※※※※※※※※※※※※※


はい、やっと琴子ちゃんのバースディ話が終わったのでした(((^^;)
ああ、もう10月も終わりが見えてきたというのに……

初めは一泊させるつもりはなく、直樹さんは不完全燃焼なままそれぞれの場所に帰すつもりだったんですが…… ちょっと憐れになったんでお泊まりさせちゃいました(((^^;)

なお当然フィクションですので、某浜松のホテルでエレベーター事故とかありません~~(と、思う)新幹線の時刻表もテキトーです(一応1997年の時刻表、探したんですけどね)


まもなく直樹さんのバースディもやって来てしまいますよ(((^^;)

さあ、どうする?
なんとなく色々前振りしたけど実はノープランだ!!( ̄▽ ̄;)



あ、あと、本文では思いっきりスルーしたホテルの夜をオマケに付けました(^-^)v
久しぶりだったのでオマケの付け方わすれて、悪戦苦闘~~
後で誤字を見つけたけれど、直す気力がわかないのでそのままです……気がついてもスルーで……f(^_^;

そんなハードなえろではないですが、一応18歳未満お断りでお願いします。
大人の方で気になるかただけ、上の水色の拍手ボタンをポチっとどうぞ~~

(下の黄色い拍手ボタンも押していただくと今後の励みになります……いえ、面白くなければいいですが……f(^_^;)




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* by なおなお
さすが!入江君。

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪ リコメが遅くなって申し訳ありません(((^^;)

ええ、防犯カメラさえなければ一時間もありゃ、しっかり最後までやっちゃったかもですが、流石にカメラを無視できなかったんですねー。(一応自重……)
当初は最後の最後までドタバタでキスしてバイバイくらいのつもりだったんですが、やはりせっかくの誕生日、急遽お泊まりさせてしまいました。ほんと、刺激的なバースディとなりましたね。

どれくらいの大きさの富士山が見えるのか(浜松から見たことない)見当もつきませんが、きっと明け方の富士山はとっても美しかったことでしょう^_^;ジーンとしてもらえたなら良かったです♪

Re.ちびぞう様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

いやーやっぱり期待しちゃいました? うん、せまいエレベーターの中でのえろってちょっとそそられるものがありましたが、やはり防犯カメラの存在が………f(^_^;

たしかにトラブル続きがなければお泊まりはなかったので、結局そういう運命なんでしょう(((^^;)ドタバタだったけど終わりよければ全てよし、ということで(^-^)v
拍手おまけも楽しんでいただけたようで良かったです♪

Re.るなたま様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなって申し訳ないです。
琴子がくる度にトラブル発生ですが、直樹さんも諦念の境地にいるやもしれません。こりゃもう受け入れて最終的には押し倒す!(笑)もうパターン化してますね……(((^^;)
病院本も読んでいただけたのですねー。ありがとうございました♪
はーい、これからも地道に更新してまいります。天候不順やら1日の寒暖差やら身体がついていくのが大変ですが、るなたまさんもご自愛くださいね。

Re.heorakim様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました♪

二人の幸せな時間がくるのが、誕生日からだいぶ過ぎてしまって、申し訳なかったです。ほんとに、明日はどうなるかわからないですが、イリコトは永遠にハッピーなのです‼
お気遣いのお言葉ありがとうございました。二週続けての台風、さしたる被害もなく、干せない洗濯物、できない衣替えにため息をつきながら過ごしておりました。heorakimさまのところも何事もなければよいのですが………

Re.なおなお様 * by ののの
ナイスな一言コメントありがとうございました〜♪
ほんとに、さすがですよね笑

個別記事の管理2017-10-15 (Sun)


すみません。
琴子ちゃんの誕生日のお話、まだ終わってません………orz








※※※※※※※※※※※※※





直樹が浜松駅に着いたのは12時前だった。上りのホームに移り、琴子の乗っている(だろう)新幹線が着くまで30分ほど待った。

長い30分だった。
見知らぬ土地の、東京と比べたら行き交う乗客も疎らなホームである。止まる新幹線よりも、轟音をたてて素通りしていく本数の方が多いのだ。

「え? うっそー芸能人? こんなトコに?」

「やーん、イケメンじゃん」

「モデルだら? 雑誌とかで見たことあるに……」

遠巻きにボソボソと呟く声をひと睨みして追い払う。

雑誌なんて病院広報誌の研修医紹介記事にしか載ったことない!

(もっとも院内に置いてあり無料配布のその雑誌があっという間になくなったというのも神戸医大始まって以来初めてのことらしいが)

通過するのぞみを見送ったあと、ようやく琴子の乗っているだろうひかりが到着した。
すぐに駆けおりて直樹に向かって突撃してくる琴子を想像して、身構える。

しかしーー。

幾人かの降りる波が終わり、停車して暫く経ったのに肝心の琴子の姿が見えないとに少し焦りを感じる。

乗りそびれたのか。
降り間違えたのか。
それとも車内で思わぬトラブルに巻き込まれたのかーー

琴子ばりの想像力で、およそ考えられるトラブルのバリエーションを想定し、あれこれ思考を巡らせているとーー

グリーン車の方がにわかに慌ただしく、何やら騒然としている。
そして、鉄道警察官が何人かバタバタと駆けつけてきた。

どきりとする。

……まさかーーー!

取り押さえられた中年の男が扉から降りてきて、鉄道警察隊に引き渡されていた。
何が起きたのかさっぱりわからないが、瞳を凝らして共に降りてきている客の姿を確認するが琴子の姿は見つからないーー

すると。

「あーー! 入江くーーーんっっ!!」

直樹がその騒ぎに気をとられている間に、ひとつ前の自由車から降りてきたらしい琴子が、直樹に突進してきた。

「うわっ」

あまりの不意打ちに、ぐらりとよろけそうになるが、なんとか琴子を抱き抱えたまま踏みとどまった直樹である。

「おま………」

「あーん、入江くん、やっと会えたよー! 」

直樹の胸に顔を押し付けてしがみつく琴子をひっぺがし、「おい、おまえ何もやらかしてないだろうな?」と、未だに鉄道警察隊が数名うろうろして、剣呑な雰囲気の中でざわめいている一群を指差す。

「へ? 何? 何かあったの?」

目を丸くして不思議そうにキョロキョロと見つめる琴子に、どうやら何も琴子には関係ないらしいと、密かに安堵する。

「スリだって~~」

「グリーン車で寝てる乗客の荷物から財布を抜きとってたらしいよーー」

降りてきた乗客の声からようやく状況がわかり、琴子も驚いていたようだ。

「へぇーーそんな事件があったんだ!」

「みたいだな。おれとしてはおまえが巻き込まれてなかったことが逆に新鮮な驚き」

「大丈夫だよーグリーン車なんて乗らないし……それより」

琴子は直樹を見上げにっこりと極上の笑みを投げ掛ける。

「……ほんとは遠くから眺めるだけで会うつもりはなかったのに、思いもかけずこうして至近距離で会えるなんて!………めっちゃ嬉しいよーっっ」

どうしたら、そんなくだらないことを思いつくんだ? 交通費が無駄なだけだろうが。会いたきゃ堂々と会いにくりゃいいものをーー

「おまえは、全く………」

口から零れ落ちそうになった嫌味な言葉を辛うじて飲み込む。
琴子に内緒で東京へ帰った自分も同罪だ。
それに今日は誕生日なのだーー。

「……琴子、誕………」

ぎゅるるるる~~~

直樹の言葉を、琴子の腸内運動の音が盛大に鳴り響いて遮った。

「入江く~~~ん………おなか空いた……」

へなへなと琴子が崩れ落ちそうになり、咄嗟に支える。

「朝から何も食べてないの~~死にそう……」



* * *




「おいしーーっ 浜松の名物って鰻なんだねーーっ」

駅ビルのレストランフロアにでも行こうかと思ったが、新幹線のホームからも見えた『うなぎ』の暖簾に琴子の目が釘付けになっていたのがあまりにわかりやすくて、駅から降りてすぐのその老舗らしい鰻店に入った。
近付いた途端に漂う芳ばしい香りに、大して空腹感のなかった直樹も、さすがに食欲が沸き上がってきた。

「ふっくら~~ふわふわ~~」

なかなか決められない琴子に業を煮やし、さっさとうな重と肝吸いを注文した。
幸せそうに頬張る琴子を見ているだけで自然と口角が上がってくる。

ーーしかし、昼間っからしっかり精力つけてどうしろと?

「あー美味しかったね~~」

「ああ」

「ほんとにね、どうして、神戸にいっちゃったんだろ。大人しく東京にいたらもっとゆっくり長い時間入江くんと過ごせたのに、ってそーゆーこと考え始めたら、もうあたしってバカバカバカってエンドレスで落ち込んじゃうんだけど…….」

自分の頭をポカポカと叩きながら、愚痴が止まらない。

「過ぎたことは仕方ないだろ」

直樹が一言東京に帰るかもと告げていれば、琴子が神戸に向かうことなどなかっただろうが、それについては一言も直樹を責めたりはしない。

「うん、そうだね。もう恨み節はやめるよ。それに、あたしが神戸にいかなきゃ、こんな来たこともないところでデートなんてできないもんね!」

あくまで前向きに捉える琴子であるが、直樹が少し眉根を寄せたことには気がつかない。

デート?

「で、何処にいく? 浜松って初めて来たよ。何があるの?」

何処に?
一緒に居られる時間は短い。
そんなもん、一択だろう、と言いたくなる。
なのに琴子は、駅に置いてあった観光パンフレットをぱらぱらと見始めている。

いや、観光なんてしてる暇ないから!
あと一緒に居られる時間は残り4時間程度だ。

「へーーうなぎパイファクトリーだって。うなぎパイって『夜のお菓子』っていうんだよー。前にじんこからお土産でもらって吹き出しちゃったわよ」

夜のお菓子はどうでもいいのである。

「でも、やっぱりちょっと離れてるとこは無理だよねー」

あたりまえだ……
とりあえず、駅近辺にいくつかラブホがあるのはチェックした。
せっかくの誕生日なのだから、もう少しいいホテルで……と思ったが、こんな時間にチェックインは無理だろう……

「あ、この駅の隣にあるタワー、展望台とかあるんだね~~今日、お天気いいから富士山とか見えるかな~」

うきうきとした表情でパンフレットを眺める琴子の様子に軽くため息をついて、「じゃあ、行くぞ」と腰を上げた。

「え?」

「行きたいんだろ? 展望台」

「う、うんっ」

とりあえず、まだ4時間もあるーー。







「え、あれ、もしかして富士山?」

琴子が微かに見える白い稜線を指差した。
地上212メートル、45階建ての展望回廊は都庁と同じくらいの高さがあるが、やはり見える景色は随分違う。
静岡県の中では面積と人口は県内最大で、地方都市としては活気に満ち溢れてるが、高層ビルが立ち並ぶコンクリートジャングル東京とは違う長閑さが、眼下の町並みに漂っている。

それでも霊峰富士が見えると少しばかり得した気分になるものだ。

「多分そうだな。こんな時間に見えるなんて珍しい」

朝の澄みきった空気の中でないと遠方からは見えにくい。霞んで見えないことの方が遥かに多いだろう。

「実は行きの新幹線の中でも富士山見えたんだーー。なんか二度も見ちゃってお得な気分~~」

「ああ。おれも見たぞ。今日は朝方は雲ひとつなくて、裾野までくっきり見えて綺麗だったな」

「ええ~~! 入江くんも新幹線の中で?」

「ああ」

「きっとどっかですれ違ってたんだよねー」

「そりゃそうだろ」

「どうせなら同じ場所で一緒に綺麗な富士山見たかったなー」

「今見てるじゃん」

「そうだけど。目を凝らさないと……あれ? 消えた……」

「少し雲が多くなってきたからな」

「あーん、残念……」

こんな時間に僅かでも見えたことこそラッキーだったのだが。
一周するのにそんなに大して時間もかからない回廊を、ぐるりと廻ったが、出会う人影は疎らだった。
たしかに箱庭のような景色は非日常であるが、見飽きないという程でもない。
ハーモニカ型のお洒落なタワーはこの都市のシンボルタワーのようであるが、さすがに東京タワーのような混雑さはない。地方都市のタワーはどこもこんな感じだろう。
だが、琴子にとっては直樹と居られる場所は何処であろうとも特別なところなのだ。
東京タワーより遥かに低くてもシチュエーションだけで天国に近い場所と思えるのだから。

「そろそろ降りるか」

「うん……」

富士山がもう一度見えないかとガラス窓に張り付いていた琴子は、名残り惜しげにその場から離れた。




下りのエレベーターは程なく到着し、乗降客は他には誰も居なかった。
普通のエレベーターよりは少し広めの箱の中で、短い間でも直樹と二人きりなのが嬉しいのか、ぴたりと直樹に張り付いていた。

「今度、神戸にいったらポートタワー上ってみたいなーー」

「こっちの方が高さはあるぞ」

ポートタワーは100メートルそこそこくらいだった。

「でもどうせなら入江くんの住んでる街を見下ろしたい」

「なんだよ、それ」

「考えてみればあたし、東京タワーも上ったことないかも」

「そーいやーおれもないなー」

「ええ? そうなの? うん、でもそーゆーもんだよねぇ」

なんとなく、東京タワーは観光客が行くもの、というイメージがあるせいか、今さら行こうとは誰も言い出さない。

「いつか二人で東京タワー行こうねー」

「…………『いつか』ね。いつまで東京タワーが日本一の電波搭でいられるのかわからんが………」

と、いいかけた時ーー
がくん、とエレベーターが揺れて、照明がぱちぱちと点滅し、そして、がくんと不自然に止まったーーー

「え………?」

「ウソだろ……」

点滅を繰り返していた照明が落ちて常夜灯に替わる。

エレベーターはそのまま扉が開かれることはなく、二人は仄暗い薄闇の箱に閉じ込められたのだったーー。







※※※※※※※※※※※※



一気にラストまで行っちゃう予定でしたけど、続きなかなか書けなくて……(((^^;)

次で終われると思います、はいf(^_^;



あー、浜松、実は全く駅に降りたことないので(車でしか行かない……)、かなり適当な描写です……アクトタワーも……違うぞーーと思った地元の方いらっしゃいましたらこっそり教えてくださいませ……(((^^;)



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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

夏休みに引き続きどんだけ色々あるんや、と自分で突っ込みつつも、相も変わらずのトラブル尽くしです。
一応誕生日なんで、琴子の願いを叶えてあげてる直樹さん……ちょいと優しすぎかしら(((^^;)
エレベーターって有りがちなんですが、とりあえず二人っきりになれるところってここしか思い付かなかったんですねー。丁度浜松駅の隣に高いビルがあったんでf(^_^;
ウナギ、これ書いてる時は無駄になる予定だったんですが……色々と書きながら変わっていったという……f(^_^;
でも、誕生日ですからねー♪ ついサービスしちゃいました笑

Re.ちびぞう様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

はい、なんとか会えましたよ。琴子はあまり状況は見えてないですね。とりあえず会えただけでもうけもん、みたいな感じでしょうか笑
直樹の方は目まぐるしく算段してますけどね。予定通りに行かないのが琴子なんですがね〜〜
ふふ、スリリングですか? エレベーターネタって有りがちかなーと思いつつ。ま、ちょっとドキドキしてもらえたかしら(^-^)v



個別記事の管理2017-10-08 (Sun)

すみません、誕生日のお話が完結してないとゆーのに……(((^^;)

実をいうとこのお話は病院本用に書いたものなのですが、手違いやら勘違いやらの、諸事情がありまして、ブログアップすることになりましたf(^_^;







※※※※※※※※※※※※※※※







昨夜は都内で大規模な停電があった。

しかも完全復旧に5時間もかかったというのだから近年には珍しい緊急事態である。

夜の10時という時間帯だったのは、経済活動への影響は日中に比べれば少なかったのかもしれない。

だがやはり不夜城東京から灯りが消え、交通機関も麻痺して、都民の日常が混乱を極めたのは間違いない。

原因は航空事故による送電線の寸断であったが、サイバーテロによる送電ストップではないかというまことしやかな噂が流れたりもした。

幸い多くの病院内は自家発電でなんとか補え、医療行為に大きな支障をきたすことはなかった。

たが停電による事故が多発して、ここ斗南大学病院の救急外来は昨夜から患者が引きも切らなかった。

直樹たち研修医も昨夜から診療科を問わず当直要員として駆り出され、眠る暇はなかった。


「やっと終わった………」

長い夜が明けて、交代の時間となった。隣の診察室からぐったりと疲弊しきった表情で出てきたのは同期の船津だった。


「お疲れ」


ちょうど最後の患者の入院手続きを終え、病棟へと送り出した直樹も診察室から出てきたところだった。


「救急の応援は何度か入ったことあったんですが………意外と単純な外傷だけじゃなくて、驚きましたよ」

「そうか?」

停電が始まったばかりの時は、暗闇で転んだとか頭をぶつけたとか、警察が誘導するまでに起きた交通事故やら、外傷患者が多かったのだが、後半は暗闇が怖くて過呼吸起こしたとか、蝋燭で火事を起こして火傷を負ったとたか、テレビが見れなくてイラついて夫婦喧嘩で怪我をしたとか…………

「暗闇で風呂に入って肛門にペットボトルが突き刺さって取れなくなったって……噂のアレに遭遇しちゃいましたよ」

直腸異物はちょいちょい救命に出現するなかなかコアな症例である。救命にいるとよく話題に出る下ネタトップ1にとうとう当たったらしい。

「なんでペットボトルが風呂にあったのか訊ねても、シャンプー入れてたって……本当ですかね」

「嘘だろ?。確か炭酸飲料だったな……他人の趣味嗜好にけちをつけるつもりはないが」

なんだかよく分からない世界ですねぇ~~と船津が呆れていた。

幸い麻酔ゼリーで肛門を拡げて取り出すことが出来たらしい。時には開腹オペになるし、腸管破裂にでもなれば人工肛門となることもあるから侮れない症例である。

「あと、暗闇でペットが逃げたと大騒ぎ。それが毒蛇で……」

「血清があってよかったな」

ちなみにハムスターに鼻をかじられた、というのもきた。停電中にペットを構うな、と云いたくなる。

「暗闇で薬を間違って飲んだとか。何故か大量に……」

ショック症状で運ばれてきたが、胃を洗浄して事なきを得た。

「明け方になって、あの症状、多くなかったか?」

「ああ。アレね」

「そう、あれ」

「神経麻痺」

腕が麻痺して動かない、という患者が夜が明けてから実に3名ほどいた。

若い男性ばかりだったが、脳梗塞を疑ってパートナーに連れられて慌てて駆け込んできたようだった。

「まあ、脳梗塞なら腕だけじゃなくて足や顔や言語にも麻痺は出るからな」

救急車を呼びつけて、麻痺が腕だけなのを聞いた救急隊員から「脳梗塞の疑いは低い」と云われても信じなかったらしい。

「脳梗塞じゃなくて、橈骨神経麻痺……でしたね」

とりあえず救急では何もできないので改めて整形外科を受診するように助言しただけである。

「でも、外国人が2名でしたね。やっぱ日本人は少ないのかなー?」

「まあ、あんな別名があっても、実際ソレが原因でかかる患者は日本人は少ないっていうな。たいてい電車や車で変な寝かたをして腕を圧迫したとかが主な原因」


正式名称は橈骨神経麻痺ーー別名『ハネムーン症候群』または『サタディーナイト症候群』もしくは『腕枕症候群』ーー。

「停電の夜は、他にすることないってことですかね……」

「1ヶ月くらいしたら産科の来院が増えるかもな」

あの大停電は少子化対策の為の政府の策略か?と一瞬疑ってしまうような症例が余りに多い夜だった。


「そういえばホテルからの心筋梗塞の救急搬送も二件ほどあったらしいです……」

ともに患者は60代男性ということである。ある意味元気である。

「両方とも一命は取りとめたらしいから良かったな」

「………全くです。みんな停電に乗じて何やってんだか」

顔を赤らめて憤慨する船津であるが、別に停電でなくてもパートナーが傍に居れば営まれる自然の摂理だ。他人があれこれ云うことではない。
直樹も当直でなければ間違いなく暗闇を怖がる琴子を抱きすくめ、がっつりいただいていたに違いないだろう。
もっとも、搬送された二人とも相手は若い愛人で正式なパートナーではないようだったが。

「しかも、男も女もきっちり服着てて……女はばっちり化粧もしてて。準備万端で救急隊員迎えるより、心臓マッサージしてて欲しいですよね」

「………愛人の心得だな」

直樹も苦笑するしかない。

「入江さんはたとえ相手が琴子さんでも心臓マッサージくらいはできるでしょうから安心ですね!」

………できるだろう………多分。おそらく。きっと。………せめて、それくらいは。

いや、その前に年をとってもコトの最中に心筋梗塞なぞならないよう、生活習慣だけは規則正しくしておこう。
例え還暦すぎても相手は琴子しかいないが。

「僕も真里奈さんと結婚できれば、老後も安心ですっ」

「老後のためにナースと結婚したいのかよ」と、呆れたように呟いた直樹の声は耳に届かなかったようで、

「………真里奈さんに会いたいな…………彼女とならハネムーン症候群にだって耐えられる。というか、ぜひなってみたい」と、うっとりと空をみつめる。

「重症化したら腕が動かなくなって日常生活に支障をきたすぞ。メスが握れなくなったら困るだろうが」

「そ、それは困りますけど………」 

「コツがあるんだよ」

「ええっ?  ど、どんなコツが………って、入江さん、いつも琴子さんに腕枕してあげてるんですかっ?」

「さあな」

「ああ、ボクも早く真里奈さんと…………あんなことやこんなことや……」

妄想の世界に旅立った船津をおいて、直樹はさっさと帰り自宅を始めた。

無論、直樹も琴子の顔が見たくなったなどと、微塵にもそんな気配を船津に悟らせることはないのである。





*     *     *






「入江くーん、お帰り~~~」


昨日は日勤で、今日は準夜で夕方出勤の琴子が満面の笑みで出迎えてくれた。

「病院、大丈夫だった?」

昨夜、停電になった時点で家族に安否確認の電話をした。一番心配なのは鳥目の妻である。琴子が救急搬送されてくるのでは、と変な心配が頭をよぎったのも事実だ。

琴子には携帯を持たせてなかったが、両親が持っていて助かった。電話機がデジタルなので停電だと固定電話が繋がらないのだ。

こういう不測の事態を考慮するなら携帯を持たせることも考えなければならないな、と少し悩む。

琴子に持たせてもすぐに失くすし携帯しない予感がひしひしとするので無用の長物と思っているのだが。

「とりあえず問題はなかったよ。救急外来は満員御礼だったけどね」

「そっかぁ。お疲れさま」

ふんわりと微笑む琴子の表情に、疲れも吹っ飛ぶ。そんなことは一言も口には出さないが。

「おまえ、どうしたんだよ、腕」

直樹の鞄を受け取ろうとした左手がぎこちない。
利き手の右はだらんと下がったままだ。

「うん。なんか、朝から右手が痺れて上がらなくって」

「見せてみろ」

「大丈夫。ちょっと変な寝方しちゃっててーー」

「変なって……」

「実はね、昨日ソファで寝ちゃって…」

へへっと舌をだす。
琴子の右手は軽く痺れているが、全く感覚がないわけではないようだ。

「なんで………ソファなんかで?」

「だって。停電になって中々電気復活しないから怖くなっちゃって」

ーーと、呟いたら、紀子が「じゃあ、キャンドル灯してリビングで暗闇パーティしましょう!」などと言い出したらしい。

「暗闇パーティって、おまえ鳥目で見づらいだろ?」

「うん。でもお母さんがあちこちにキャンドルやランタンや置いてくれて、そこそこ明るいし、ちょっとした非日常的な感じがして、なんかわくわくしちゃった」

そして、リビングで夜更けまでみんなで薄明かりの中でボードゲームに興じていたのだがーー

「いつの間にかソファの上で寝ちゃってて……しかもチビを抱えて腕枕にしてたみたいで………」

ーーチビかよっ!

思わず琴子の後ろで同じく直樹を出迎えて嬉しそうに尻尾を振るチビを、少々眉間に皺寄せて見つめた。

「おまえ、チビは体重、おれと変わらないくらいあるんだぞ?」

そのチビを一晩腕枕したというのなら、そりゃ橈骨神経麻痺にもなるだろう。

「腕はどれくらい上がる?」

琴子をリビングに連れていき、ソファに座らせ、手首を取る。

「手首を上げられるか? げんこつは握れるか?」

「ちょっと痺れてるけど、なんとか……」

とりあえず軽度なようで、直樹はほっとため息をついた。

「おまえ、気を付けろよ。下手すりゃ1ヶ月くらい痺れが取れにくくなるときもあるんだ」

「ええっ」

青ざめる琴子に、「ま、これくらいならわざわざ整形受診しなくても時間薬で治るだろ」と、軽く手首を揉みほぐす。

「よかったー」と、安心したように直樹を見上げる琴子。

停電に怯える琴子の傍にいたと、少し自慢げに横にちょこんと座って尻尾を振って直樹を見上げるチビの頭を撫でつつも、手放しで褒めてやることが出来ない狭量な直樹である。

「でも、入江くん、あたしのことよく一晩中腕枕してくれることあるよね? いつも大丈夫なの? 痺れてない?」

笑ってた顔がすぐに不安そうに翳る。

「この症状は、同一部位が長時間圧迫されて橈骨神経がダメージを負うために起こるんだ。おまえ、寝相悪くてころころ頭を動かしてくれるから、基本、大丈夫」

「え、そ、そうなのーー?」

この病の別名なんて教えてやらない。
病気の名前なのに、きっと琴子は『なんかロマンチック~~』と、テンション高く喜んでしまいそうだから。

(………ハネムーンの時には色々と慣れてなくて……そのうえおまえも緊張と疲れのせいか珍しく寝相がよくって……朝、ちょっと焦ったっけ)

一瞬だけ、あのハワイのハネムーンの朝にーー記憶が翔んだ。

やっと手に入れた宝物を手放したくなくて一晩中抱え込んでいたら、朝、手首に違和感を感じ、腕が自分の腕じゃないような感覚に戸惑ったのを思い出した。

まだ軽い方でよかった。重症化すると手首と腕が上がらなくなり、握力も低下し生活に支障が出るし、治療が長期化することもあるのだ。

「ーーあ、お風呂入るよね?  それともご飯先にする?  みんなの朝御飯の残りだけど……」と、キッチンに向かおうとした琴子の手を掴んで制止する。
とりあえずこれくらい軽症なら、なんやかんやしても支障はないだろう。

「まず風呂でいい。で、そのあとは寝室」

「あ、そうだよね。当直明けだもんね。そりゃ眠いよねーー」

 「いや、どちらかといえば目は冴えてる」

にやっと笑って妻を眺める。

「へ?」

「おまえ、夕方まで暇なんだろ?」

「え。あ、うん………」

「じゃあ、後で寝室に来いよな。時間はたっぷりあるし」

何の時間?  とは言わずもがなでーー。

直樹の『琴子欠乏症』は、琴子の『ハネムーン症候群』よりも重篤なのである。










※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


えーと……病院本のうらあんないをお買いになられた方で、もし私のお話で、んん???と思われた方がいたら、まあ、そーゆーことなのです(((^^;)

まだ手元に届いてない方、読まれてない方、このお話を先に読んでからお読みくださるとありがたいのですf(^_^;




追記 10/9 現在、うらあんないとのセット頒布はあと残り2冊のようです。手に入れるなら今ですよー(^-^)v

追記2 セット販売、完売したようです♪
あとは診療所案内一冊のみの販売になるようなので、emaさんのブログをcheckしてくださいませ(^_^)

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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

色々お騒がせしました(((^^;)
マロンさんには初稿だけお見せして、全年齢向けに書き直したのはお見せしてなかったよなーと……(((^^;)
私も戴いてからなかなか中身を開いてなかったので、マロンさんから裏の感想いただいた時、ちょっと、あれ?と思ったのですよ……

ふふ、そうですね〜〜
もし琴子の腕に支障があったら……ちび、どうなっていたことやらf(^_^;

* by なおなお
アハハ!やっぱり入江君は心が狭い相手がたとえちびでも!琴子ちゃんに関して肉食系な入江君ですもんね?v-8

Re.なおなお様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

ほんと、チビにも焼きもちやく直樹さん、ちっちゃいですよねーー笑