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個別記事の管理2017-04-24 (Mon)

前回のお話でいつもよりたくさん拍手をいただいて、あんな立ち回りでも良かったのかしらとちょっとほっとしております(((^^;)
気をよくした勢いで週一アップを目指したのだけど、結局月曜日にずれ込みました………f(^^;






※※※※※※※※※※※※※






「………だいぶ青くなってるな」

直樹はベッドの上で琴子のパジャマのズボンの裾を捲って、青紫の皮下出血のある左足の膝下を優しく触れていた。

「大丈夫だよ、これくらい。ちっちゃい頃なんてこんな青タン、しょっちゅう作ってたし」

確かに、そそっかしい琴子は知らぬうちによくぶつけることが多く、夜ベッドの上でじっくり(隅から隅まで微に入り細にわたり)検分していると、直樹が付けた覚えのない痣が膝だの肘だのにあったりする。付けたのが人間でないとしてもいまひとつ不愉快な気分になる直樹である。
ましてや今回は人間で、しかも男だ。



「もう痛みもなくて普通に歩けるなら骨がどうこうってことはないだろうが」

「これくらいで病院は大袈裟だよ。退院したばっかで今度は整形外科なんて」

琴子が上目遣いで訴える。

ーーーこれくらい?

冗談じゃない。こんな鬱血を琴子の身体につけていいのは自分だけである。
はっきりいってあれくらいの制裁では気がすまないくらいだ。
あの時は命の危険や逼迫した状況から琴子を守るために必死で、無我夢中で男を投げ飛ばしていた。
今改めてこの痛々しい痣を見ると、怒りが新たに沸々と沸き起こってくる。


「警察から診断書は求められると思うからな。傷害に関しては起訴されるかどうかはわからないし、裁判とかにおまえを
出廷させるのも面倒だから、告訴しなくてもいいとは思ってる。ただ広大くんを誘拐しようとした略取未遂や他にも余罪があれこれありそうだしな。厄介なのはあいつが名の知れた企業の経営者だってことだ。今日以上のマスコミが明日から病院に押し掛ける可能性がある」

「え? そうなの?」

そーいえば、テレビ局の車がいっぱい駐車場にあったよねー、と呑気に琴子は思い出していた。

「……入江くん……今日はもう病院戻らなくていいの?」

「ああ。さすがに呼び出されないだろ。今夜は傍に付いててやれとみんなに云われたからな」

くるみからの内線を受け取ったのは偶然直樹本人で、「はい、私ですが…」と云った後、みるみる顔色が変わる様を見た周囲のものたちは、「……また嫁か……!!」と鋭く察してしまったようであった。

その後の騒ぎも耳に入ったのか、一度荷物を取りに医局に戻った時も、立て続けに起きるトラブル三昧に対して、驚嘆やら憐れみやら気遣いやら苦笑やらーーどう反応していいのか戸惑っているのが明らかな、微妙な空気が漂っていたのは確かだ。

「ファイトだ、入江先生。神は耐えられない試練は与えたりしないものなのだよ」という、姫子からの意味不明なエールを背に医局を後にしたのだが、とりあえず呼び出ししないでいてくれたらありがたいものだと思う。


「……やん……くすぐったい……」

直樹が琴子の膝下の鬱血痕にキスをした。
半径三センチくらいの赤黒い濃淡のある痣となり、少し腫れもあり痛々しい。

「いっい……いりえくんっ/////」

消毒のつもりでキスをしているのかな、と思ったらかなり執拗に舐めるように口づけてくる。
さらにパジャマの裾をたくしあげ、白い大腿の方に直樹の唇が移動していた。手もさわさわと琴子の脚を撫で回している。 医師の手技というよりは完全に下心満載の妖しい手の動きであった。
琴子の細くて白い脚は神戸に来たばかりの夜にはそれこそ直樹の付けた鬱血痕だらけであったのに。
痛ましくも忌々しい打撲の痣以外はすでに全てが消えて真っ白になっている。それだけ琴子に触れていないという事実に、神はなんでこんな試練をあたえるのだと天を恨みたくなる。

とはいえ、病み上がりの琴子にこれ以上のことは今夜はまだするつもりはないのだがーー触れていると抑えが効かなくなりそうだった。

ひとしきり脚にキスをしたあと「今日は疲れたろ、もう寝な」と身体を離すと、真っ赤な顔の琴子が、少し拍子抜けしたように「え? い、いいの?」と直樹を見つめた。
高揚して潤んだ瞳を見ると、箍が外れそうになるが、最近大活躍の理性を総動員させてグッと堪える。
意識を反らす為に、ベッドから離れて室内を見回した時、ふと目に入った、ヴィトンのキャリーバッグ。

「………そういえば」

すっかり忘れていた。

「………おふくろって、どこ行った?」

「あーーっ ほんとだっ!!」

琴子もすっかり忘れていたらしい。

「こっちにいるお友達に会ってくるって……まさかこんな時間まで帰ってこないなんて……」

琴子が少し青ざめる。

「……留守電、点滅してるな」

「あ、ホントだ」

電話機の留守電機能のランプが点滅していた。琴子が神戸に来て以来、殆ど点滅することのなかった赤いランプである。
再生ボタンを押すと、甲高い紀子の声が響き渡った。

『あらー、琴子ちゃんいないのかしら。だめよーちゃんと寝てなきゃ。あ、あたしねぇ、今夜はお友だちのところに泊まるから、心配しなくていいわよー。明日の朝にはそっちに顔出すわね。
お兄ちゃんも帰ってるわよね? よもや病み上がりの嫁を放って赤の他人のケアをしてるんじゃないわよね?
ちゃんと琴子ちゃんを労ってあげなきゃダメよ。とはいえ、可愛がりすぎてもダメよ。ほどほどにね。お兄ちゃんたら加減を知らないものねぇ。
じゃ、ま、今夜は二人でまったりしてちょうだいな。おやすみー』

「……なんなんだ、このひとは」

思わず呆れ返る直樹とは逆に、「お義母さん、本当に神戸にお友だちいるのかしら。もしかして、あたしたちに気を使って……」と、琴子は申し訳無さげな表情をする。

「 あのひと、顔は広いから恐らく日本中に友だちいるんじゃねぇの?」

「そ、そう?」

「そう。だから気にせず今夜はしっかり休め。色々有りすぎて疲れたろ」

「うん……。なんか、ほんと、あたしって入江くんに迷惑かけてばっかで ……」

しゅんと打ちひしがれる琴子に、「なんだよ、またもういっぺんその話に巻き戻る?」苦笑して、琴子の顔を引き寄せて、唇を塞ぐ。

この部屋で、このベッドの上で久しぶりのキス。
啄むようなキスからゆっくりと絡めあうものにかわり、やがて食らいつくようなキスに変わっていきーー

「じゃあ、ちゃんと寝ろよ」

ひとしきり濡れそぼった唇やら美味しそうな首筋やらを堪能したあと、唐突に離れてベッドから降りる。

「え……あ、入江くんはまだ寝ないの?」

「少し調べることがあるから。おまえはしっかり身体を休めろよ」

昨夜と同じで、身体を労ってくれているのだなーと、琴子も察する。
その優しさがすごく嬉しいが、すこしばかり悶々としている琴子であった。無論、直樹はその10倍くらい悶々としているわけなのだが。

「入江くん、おやすみ」

「ああ、おやすみ」

寝室の隣のリビングで直樹がパソコンを操作する音を聞きながら、いつの間にか琴子はぐっすりと寝入ってしまっていた。




8月21日(木)




「いっ、入江くんごめんねーーっまた寝坊しちゃって」

翌朝、琴子が目覚めると、既に直樹が朝食の準備をしていて、慌てて跳ね起きる。

「別にいいよ。おまえはまだ寝てて。昨日退院したばっかだし」

「も、もう、大丈夫だよっ。あ、コーヒーあたし淹れるねっ」

バタバタとパジャマのままキッチンに駆け寄って、豆の準備を始める。

「トーストと目玉焼きしかねーぞ」

「うん、全然大丈夫。それより入江くん、ちゃんと寝たの?」

豆を曳きながら琴子は心配になる。
しっかり熟睡していたようで直樹がベッドに入ってきたかどうか全く気がつかなかった。

「寝たよ。ど真ん中占領してるおまえをどかすの苦心したが、なんとかね」

「う。ご、ごめん……」

「いいよ。慣れてる。蹴られるのも」

「ええー!? また蹴っちゃった~~?」

「いつものことじゃん」

昨日の非日常が嘘のような日常感に、琴子は得も言えぬ幸福を感じつつ二人で久しぶりの朝食をとる。

「………美味しい」

直樹の焼いたトーストもサニーサイドアップの半熟加減も絶妙である。琴子が作るとたかがトーストが何故あんなに真っ黒になり、目玉焼きもカチカチになるのだろう。

「コーヒーも美味いよ」

「……ありがと」

な、なんか、やっと二人っきりの新婚生活ちっくな感じじゃない? と琴子は新聞を読みながらコーヒーカップを片手に持つ直樹をうっとりと眺める。
随分しかめっ面で新聞を読んでいるが……

「三面記事だけど、載ってるな」

「え?」

直樹が新聞を机の上に広げて指さした。

『Kコーポレーション取締役逮捕』
と、大きな見出しで半面くらいスペースを割いて記事が書かれてあった。
しっかり顔写真も載っている。

「わー……あのひと本当に社長さんだったんだー」

「支度できたら出掛けるぞ」

新聞記事を斜め読みしていた琴子に、皿を片付けながら直樹が声をかけた。

「え? 何処に?」

「病院。おまえも整形受診しろっていっただろ?」

「もう、なんともないよー」

「診断書もらうだけでも診察は必要だからな。予約してねーから初診は待ち時間がかかるが、おれと同じ時間に行けば一時間待ちくらいですむだろ?」

「……うん」

診断書なんて大袈裟だと思うし、昨日はドキドキしたけれど喉元過ぎればなんとやらで、みんな無事だったんだし、ま、いいじゃん? という気分なのだが、警察が介入している以上そうもいかないのだろう。





出掛ける仕度が済んで二人して玄関から出ると、丁度隣の扉も開いた。

「あ、おはようございます。琴子さん、ちゃんと眠れた?」

「かをる子さん、昨日は色々ありがとうございました~~」

事務員の制服である白のブラウスに黒のタイトスカートを身につけたかをる子にペコリと頭を下げる。

「いえいえ。それより朝からすごい騒ぎになってるわね。病院、大丈夫かしら」

「え?」

「あら。テレビ観てない? ーーあ、テレビなかったっけ。朝から情報番組やらニュースやらでうちの病院がバンバン撮されちゃってるわよ。それとあの男の会社とーー」



かをる子の言う通り、病院の前には昨夜以上の報道陣が周囲を彷徨いていた。
何やらマイクを向けられている職員もいる。
琴子も直樹も彼らを避けるように職員通用口へ足早に駆け込んだ。朝から面倒なことを訊かれたくはない。

かをる子の話によると、朝のワイドショーでセンセーショナルに騒ぎ立てられていた要因は、昨夜病院で子供を連れ去ろうと騒ぎを起こした男が、Kコーポーションの社長であったことが大きいようだ。
しかも粉飾に脱税に不正取引の嫌疑をもたれて大阪地検の特捜から内偵を受けていたこと、そして、今朝会社に強制捜査が行われるということが大きく取り上げられていたようだ。
新聞記事よりも随分と詳細な情報が放送されていたらしい。

「ふ、ふんしょく?」

「赤字なのに儲かってるように誤魔化してること」

「ふ、ふーん。???」

なんだかよくわかっていない琴子にざっくりと説明して、直樹は難しい顔をしてかをる子と話をしている。

「圭子さんが心配ね。マスコミはもう色々嗅ぎ付けてるみたい。あの男が拐おうとした少年が、震災で亡くなった兄の子で、高額な遺産を相続していること。そして、遺産管理をしている弁護士とグルになってどうやらその甥の遺産を横領していたこと。今回の事件は特捜のガサ入れが入ることを予感して、甥を引き取って後見人として遺産を正当に手に入れようと焦って暴走したみたいね」

「……多分、圭子さんのこともすぐ取り沙汰されるだろうな。警察が震災時の誘拐の件を知っているなら尚更ーー」

「そうね。震災の時、その甥っ子が離婚した母の元にいて無事だった、なんてこともニュースで流れてたから。全く一晩でよくもまあそんなことまで調べるわよね」

「え? 圭子さん、どうなっちゃうの?」

難しくて半分くらい意味不明だった琴子だが、圭子のこととなるとばっと食い付いてくる。

「退院後に警察で事情聴取はされるかもな。彼女が誘拐を認めたら逮捕勾留の可能性は否定できない」

「……遺産も叔父にネコババされてお母さんも逮捕されたら広大くんがかわいそすぎるわ」

「圭子さん、やっぱり捕まっちゃうの?」

琴子が真っ青になる。

「警察にとっちゃ些末な事案だろうが、あの男の罪を暴く過程で避けられないだろうな」

「なんとかしてあげて! 入江くん、なんとかならない?」

「琴子さん、いくら入江先生が天才でも弁護士じゃないんだから………」

かをる子が驚いて諌める。

「おれは弁護士じゃないけど、知り合いに見習いは何人かいるんで紹介することくらいはできるかな」

「あー、渡辺さんとか武人くんとか!!」

琴子の顔がぱっと輝く。

「もっとも、おれよりフットワークの軽い人が何やら暗躍してるかもな……」

「へ…………?」




その後、直樹とかをる子はそれぞれ職場に行き、琴子は整形外科で診察の受付をした。
受付番号からかなりの待ち時間が予想されたので、琴子はその間に圭子の部屋に向かった。
広大は結局一晩圭子の部屋で過ごしたらしい。怖い想いをしたのだから仕方ないだろう。

すこしばかり迷って、漸く辿り着いた圭子の部屋をノックするとーー

「あれ? お義母さん!?」

圭子の傍らで、何故か紀子がころころと笑いながらリンゴを剥いていたのである。








※※※※※※※※※※※


フットワークの軽いひとに全てを任せてしまおう……… (((^^;)さぁご都合主義パワー全開だー(^_^)v


ところで、なんだか琴子ちゃんの身に何かある度に忍の一字でお預けくらってる入江くんが不憫になってきた今日この頃………
待ってて~~もうすぐだよっ(多分)





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* Category : 1日で終わらない西暦シリーズ
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* by なおちゃん
紀子ママも、ハイライトみたいに出てくるね?でも、琴子ちゃんと入江君二人だけで過ごせて、甘い甘い一夜とはいかないけど?とりあえず、二人で過ごせて、ママはきっとホテルで過ごしたのよね。v-86

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個別記事の管理2017-04-15 (Sat)

やっと終わりの道筋が見えてきたような……?
新年度初更新。
桜、もう散りはじめてます………(ーー;)






※※※※※※※※※※※※







「……………疲れた」

あたしは自分の部屋に入ると、そのまま靴を脱ぎ捨てて、着替えもせずにどさっとソファの上に倒れこんだ。

部屋の片隅には、昨日宅配で届いた〇ミケの戦利品の数々が詰まった段ボール箱が、開封もされずに放置されている。
いつもならこの時期はこの薄い本たちをじっくり読み漁る至福の夜を過ごしているというのにーー。

東京のイベントから帰ってからの日々があまりに怒濤のドタバタで、フィクションの世界よりも遥かに刺激的過ぎて、どうも妄想と虚構の世界に興味が持てなくなっている。
ーーなんてこったい。





今日も朝から琴子さんの噂やら広大くんの行方不明やらなんだかばたばたとして忙しなかった。
そのうえ、今度は病院に刑事二人がやってきた。

ーーそもそも。
病院に警察が来るのは珍しいことではない。
主に交通事故関係が殆どだけど、うちのような総合病院じゃ傷害や虐待などで捜査にくることもまあまああるわけで。
けれど、さすがに未成年者略取の件については初めてだった。

被疑者が患者、ということで主治医の許可が必要ですからと二人組の刑事を待たせたけれど、指示を仰ぐまでもなく術後二日目でやっと一般病棟に戻れたばっかりの患者の心身に負担を与えるということで、主治医でもないのに入江先生が弁舌巧みにさっさと追い返した。きっとあの刑事たち、入江先生が研修医なんて思いもしなかったろうなー。最初は威圧的な態度だったのに、最後は入江先生に言い負かされてすごすごと帰っていったもの。

けれど、動転して興奮し、過呼吸に陥った圭子さんはそのまま絶対安静の面会謝絶となってしまったのだ。
琴子さんと一緒に広大くんをつぼみルームに連れていき、院内の託児施設に預けてたりしていたら、あたしは自分が仕事中であったことをすっかり忘れていて事務長に叱られ、琴子さんも退院の時間に戻ることをすっかり忘れて内科病棟から捜索されていた。





あたしはその後は5時まで仕事だったので、マンションに帰ったら後で部屋に様子を見に行くわね、といって琴子さんと別れた。
てっきりちゃんと退院して家に帰ってるものばかりだと思ってたのに。

帰り際に圭子さんの様子を見に行って、結局まだ薬で眠っているということで会うことなく、今度は広大くんの様子を見に行く。
全くあたしってばこんなにお節介だっけ? と思わず自問自答しちゃったわよ。

そして、広大くんが預けられている5階のつぼみルームに行くと………何故か退院した筈の琴子さんがいた。

「な、な、なんでぇ~~~!?」

思わず叫んじゃったじゃない。



「入江くんが来てくれて、無事退院手続きが終わって、お義母さんと一緒にマンションに帰れって云われたんだけど、ほら、圭子さんも気になるし、広大くんもほっとけないから、あたしがしばらく付き添うっていったら、入江くんにめっちゃ怒られて」

そりゃそうでしょ。
二日前死にかけた人が何いってんだか。
熱中症は予後が肝心。退院したものの自宅で絶対安静が必要なのは琴子さんも同じなのだ。

「で、結局あたしはお義母さんと一緒に入江くんに送り届けられて、今夜はちゃんと帰るからそれまで二人とも部屋から一歩も外を出るなと命じられて」

まるで監禁を命じられてるようだけど、ま、仕方ない。

「でもね、お義母さんが『ちょっと色々用事をすませてくるわね!』と出掛けていっちゃって」

あら。
…… この見知らぬ街で何のご用事が……??

「でも、一人で待ってるのも退屈でーー」

いや、退屈って。あなた病人だから安静にしておかなきゃ。

「で、やっぱり、圭子さんの様子が気になるから病院に戻ってーー」

はあ。………入江先生に叱られたこと、ぜんっぜん、懲りてないんかいっ
そして病院にいたら入江先生に見つかってまた自宅に強制送還間違いないでしょ!

「大丈夫。救命には近寄らないよう、こそっと外科病棟と小児科のつぼみルームに」

いやー、こそっといっても、あなた結構この病院で有名人になっちゃってて、いろんなところで面は割れてると思うのよねー。
しっかし、この嫁はやっぱり首に縄付けとかなきゃダメかもよ、入江先生………
首輪に手錠………妙に合いそう………あかん、思考が変な方にいってしまう………

「それに、なんだかんだ云っても入江くんはあたしがこーゆー行動するの、お見通しな気がするのよね~~。何もするなといいつつ、何もしないときっと拍子抜けしてしまうのではないかと。そんなようなこと言われちゃったし。これはちょこっとご期待に添わなくては、とか思ったりして」

てへっと舌を出して笑う。

…………そうなん?

いやいやいや、家で安静に寝ていてくれ、ってのは、切実な願望だと思うのだけど。さすがに心臓止まりかけたんだし。


「結局、圭子さんは薬で眠ってたから、本当に傍にしばらくついてただけなんだけどねっ。で、まあその後ここに来てーーほら、ボランティア突然お休みすることになっちゃったし、アンケートとか頼んでたのに回収することも出来ずにうやむやになっちゃってるから、片瀬主任にはしっかり謝っておきたかったのよーー。そして、久しぶりにくるみちゃんとおしゃべりしつつ広大くんとも遊んで……」


「まったく、あなたって人は……」

あたしは呆れつつもこのまま琴子さんを回収してマンションまで連れて帰ろうと、彼女を促した時だったーー事件が起きたのは。

琴子さん……
あなたの引きの強さ(トラブル限定の)……って、いったいなんなの!?


一昨日、ベランダの壁ぶち抜いて人命救助したのも、あたしにとっちゃ人生最大の滅多にない劇的な事件とは思ったけど、今日のはまたそれ以上だったわけで。
ああ、あなたが来て以来、なんて刺激的な毎日!

何が起きたかというとーー

まるでドラマのような怒濤のサスペンスハードボイルドアクションが目の前で展開されたのだ。




「じゃあね、広大くん」

後ろ髪を引かれつつも託児ルームを後にしようとした時だった。

「待ってください! 勝手に入らないで!」

片瀬主任の叫び声が前室から響き渡った。
そして唐突にドアが勢いよく開かれ、若い男がこの託児ルームに闖入してきたのだ。

「広大!」

その男は広大くんの方に向かって駆け寄り、がしっと抱き抱えた。

「こないなところに預けられて、なんて可哀想なんや! おっちゃんとこいくで!」

「え? おっちゃんち?」

突然のことに目を白黒させている広大くんに、「そうや。昔よく来たやろ」といって、すぐさま連れだそうとしている。

「ちょっと待ってください! たとえ知人でも保護者の許可なく連れていくことは許可できませんから」

片瀬主任が男の前に立ち塞がる。あたりまえだ。たとえ親類縁者だろうが保護者の了承のない人間に引き渡すわけにはいかない。

「どけや。あの女が保護者なんて聞いて呆れるわ。あの女は兄貴からこの子を拐ったんや。親権は兄貴にある。兄貴が死んだから親権はおれのもんや。だから替わりにおれが取り返してやるんや」

やばいっ
なんか、この男、目が血走ってる。
殺気だってるというか、追い詰められているというか………とにかく尋常じゃない!

広大くんを取り返そうとした片瀬主任が、男に突き飛ばされて、オモチャの入った箱の上に倒れかかる。

「片瀬さんっ」

思わずあたしが駆け寄って、助け起こしている間に、今度は琴子さんが奴に追いすがった。

「ことこぉったすけてっ」

男に抱き抱えられた広大くんもジタバタしながら琴子さんの方に手を伸ばそうといた。

「どけっ」

男が琴子さんを振り払い、足蹴りにした。革靴を履いたままの踵が琴子さんの膝に直撃し、そのままぐらりと崩れ落ちる。

「琴子さんっ」

こいつーーっか弱き女になんてことをっ! それにこの部屋、土禁なんだけどっ
カーペットの上を土足でずかずかと侵入していたのだ。

あたしは何か武器になるものはないかと、きょろきょろしていた。とはいいつつ、保育室だから危険なものは何もない。オモチャとか散らばってるけど、投げつけて広大くんに当たったら大変だし……と躊躇している間に男は背中を向けて出ていこうとする。

「ことこーっ!! ことこーっ!! 離せっこのどあほーーっ」

広大くんが泣き叫びながらジタバタと暴れる。ずり落ちそうになり、そのまま俵担ぎに肩の上に乗せた。

「おとなしくしろっこのクソガキっ!」

「琴子さん、大丈夫?」

あたしは床に踞ってる琴子さんに近寄る。

「うん。大丈夫………」

顔をしかめつつも、なんとか立ち上がろうとしているのを手を貸して助け起こす。スカートの裾から覗いた膝の下が赤く痕になっていた。そのうち青紫に変わるだろう。
だーーっ、こいつ、こんなの入江先生に見られたら殺されるわよっ

男は手足をバタバタとさせる広大くんを担いだままドアの方に走ろうとする。
誘拐はどっちだ!
これは完全に暴力による拉致じゃないっ

「待って……! 広大くんを連れていかないでっっ」

琴子さんが手を差し伸ばして叫んだ。
蹴られたところが痛むのか、うまく動けず、虚しく空を切る。
あたしは思わず手近にあったぬいぐるみを投げつけた。
男の背中にあたって簡単に落ちる。振り返って睨み付けられたけれど、なんのダメージも与えられなかったようだ。
ちっ。
しょせん文科系オタク作家なので武闘は苦手なのよ。

すると琴子さんが今度は机の上においてあったプラモデルーーあれはペガサスレッドねーーを投げつけた。
ペガサスの羽が男の背中に当たり、これはダメージ1くらいなようで、思わず男がよろける。

「あーーペガサス~~」

広大くんが余計に泣き出した。
うるさいくらいのぎゃん泣きだ。

「泣くな、クソガキ!」

もう、完全に甥を心配する叔父さんの仮面は剥がれてる。何故こんなに広大くんに執着するのかよくわからないけれどーー。とにかく、血縁者としての使命感や愛情から広大くんを引き取ろうとしている訳ではないことは間違いない。


あたしはふと、前室の硝子窓の向こうーー病児保育室の事務机の陰で、保育士のくるみちゃんが携帯で電話をしているのが見えた。
ぐっじょぶ!! きっと警察に連絡してるのね!

でも男は広大くんを担ぎ上げたままもう扉の外に出てしまった。
このままじゃ連れ去られてしまう!
警察来るまでなんとしても広大くんを守らねば……!

あたしは給湯室に入って、粉ミルクの缶を手に持つと蓋を開けて男に投げつけた。調乳ポットにお湯もあったけれど、これは広大くんにかかったらマズイと咄嗟の判断で粉ミルクを選んだ。

「うわっ」

運動能力ゼロのあたしは、思いっきり外してしまった。でも壁にぶち当たった缶は上手いこと跳ね返って、男の頭に見事に降りかかる。

「ナイス! かをる子さんっ」

琴子さんの声援に思わずあたしも指を立てる。
男は粉ミルクにまみれて膝をついた。乳臭い赤ちゃんの香りが部屋に充満する。
目に入ったらしく、顔を歪ませて目を擦る。広大くんを抱える手を離してしまった為に、その隙をついて広大くんはするっと男の脇をすり抜けて琴子さんの元に一直線に走っていく。

「ことこーーっ」

「広大くん!!」

琴子さんは飛び付く広大くんを両手を広げて受け止め、思わず抱き締めた。

「このクソアマどもがぁ」

振り返った男はさらに凶悪な顔をしていた。怒りで興奮しているのだろう、鼻息が荒い。
そして琴子さんに掴みかかり、広大くんを取り返そうとした。琴子さんは身体全体で庇うようにしゃがみこんで背中を向けた。
その琴子さんの襟首を掴み、引き倒そうとする。

「琴子さんっ」

あたしは給湯室にモップが立て掛けてあったのを思い出して、それを取りに行こうとした。
いや、それを使ってどうにかできる程いいアクションする自信はさっぱりないのだけど、何もないよりマシってもんで。

するとーー

うわあああっ

と、絶叫のような男の声が部屋に谺した。

あたしがモップを持って給湯室から出るとーー

琴子さんに掴みかかっていた腕をねじり曲げられ、激痛のためか悶絶している男の姿があったのだ。

「入江先生!?」

あたしの叫びに、広大くんを抱き抱えながら背を向けていた琴子さんが振り返る。

「え? 入江くん?」

大きな瞳をさらに見開いて、まさにドラマのクライマックスに登場したヒーローの如く唐突に現れた愛しいダーリンの姿を見つめる。
入江先生は、なんとか抵抗して逃れようとする男をさらに羽交い締めにして、妻から簡単に引き剥がすと、部屋の外にずるずると引っ張って連れ出した。

その表情はーーー………怖い。なんとも言えず怖い。こんなに怒ってる入江先生見たことない。
ただでさえ綺麗な容貌をしているのに、怒りという要素が加わると、凄絶に玲瓏で美しく、そして眼力で射殺せそうなくらいの迫力がある。

「おれの妻に何をした?」

静かにーーそして地の底から沸き上がってきたような低くて凄みのある声。
うわーぞぞっとする。
地獄の魔王のような声だよっ入江先生!

「膝を蹴った上に衿元つかんで引き倒そうとしてましたよっ、入江先生」

あたしは思わず入江先生の怒りにさらに油を注いであげる。その暴漢野郎の悪行はきちんと伝えなきゃね、やっぱり。

そして、案の定怒りの沸点は静かに上昇したようで、入江先生は一言も喋ることなく、肘で腹を打ちすえ、さらに踞りかけた男の向こう脛を払い落とした。床に這いつくばって逃げようとした男の襟首を掴むとそのまま、ものの見事に背負い投げで男を床に沈めて足でその背中を踏みつける。
手足が長いと技も綺麗だなーー。
時間にしてわずか数秒。
いやー喧嘩なんて全くしなさそうなのに(手を出さなくても口で十分闘える)意外と肉体派だったのね。いや、ほんと何でもできるんだ。
うーん、さすがに絵になる男は闘い方もスマートで美しい。


「きゃー入江くんっカッコイイ!! え? 入江くん、柔道習ってたの?」

ほんと、黒帯有段者のような綺麗な一本背負いだったな。

「いや。高校の体育の授業でやっただけ」

体育の授業って、せいぜい受け身くらいしかやらないでしょーー!
………なんて、突っ込んでる場合ではない。

床の上にのびている男を後ろ手に梱包用ビニールテープで巻き付ける。

「入江先生、どうしてここにーー」

あたしが疑問に思ったことを口にすると、「彼女が救命に電話をくれた」と、隣でひっそり身を潜めていたくるみちゃんの方に視線を向ける。

警察じゃなくて救命に電話したんだ。
いや、ナイスな選択。
にしても、来るの速いなー。救命から結構離れてるんだけど、ここ。嫁の危機を聞いて超猛ダッシュで駆けつけたのね。

すると遠くで微かにパトカーのサイレンの音が響いて来るのが聞こえた。救急車のサイレンの音は慢性的に聞きなれているので、パトカーのそれは妙に違和感を感じる。
どうやらこの騒ぎに気付いて誰か110番したらしい。そういえばこの部屋の周りにはいつのまにか人だかりが出来ていた。

「それで、琴子」

入江先生が振り返る。

「なんで、おまえがここに居るんだ?」

そう訊ねた時、琴子さんはあたしの背中の裏にちゃっかり隠れていた。






ーーさて、その後のドタバタをさくっと説明するとね。
警察が来てから事態はなんだかとっても大変なことになってしまっていた。

男は傷害と未成年者略取の現行犯ですぐさま逮捕された。いや、どっちかというと入江先生にのされた男の方がダメージ激しくて入江先生の方が傷害の現行犯に間違われないかと心配になったけれど、みんなが証言して入江先生は暴漢から子供を守っただけということが認められた。後々に事情聴取させてくれ、ということだったけれどね。そしてあたしたちにも事情を聞きたいからと警察に同行するように頼まれたのだけれど、入江先生が「妻は今日退院したばかりなので」ときっぱり断っていた。

警察官たちの中に、圭子さんのところにきていた二人組の刑事もいて、訝しんでいたら、どうやら刑事の目的は圭子さんの罪ではなく別のところにあったようだった。

それを知ったのは翌日のテレビ報道や新聞記事で得た情報からだけど。

とりあえずやっと解放されて病院を後にするとき、テレビ局のカメラとか取材の車とかがわしゃわしゃいて、何だか物々しい雰囲気に包まれていた。
なんか、すっごい大事になってんなー、と自分がリアルに巻き込まれたせいか逆に他人事のように感じてしまっている。



膝に打撲を負った琴子さんの足の状態を見て、明らかに軽傷なのに(一応診断書取るから、明日整形に受診させるらしい)横抱きに抱えあげ、お姫様抱っこ状態で、マンションまで歩いて帰った。
いや、マンションまではきついって。いくら近いからってーーと思ったけれど、平然とマンションまで抱き抱えていったわね。

そしてマンションの部屋の前で、入江先生に改めて何度も頭を下げられ、そしてそれぞれの部屋に戻りーー

あたしは自宅のソファにダイブしーー
漸く長い長い一日が終わったのだったーー。










※※※※※※※※※※※※※※




トラブルは三度でおしまいのつもりだったのに、だめ押しの四度目…………f(^^;
入江くんにちょっと立ち回りしてほしかっただけなんですがね……でも私の描写が下手くそであまりかっこよく書けなかったなーと密かに反省(T_T)







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* Category : 1日で終わらない西暦シリーズ
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面白い * by なおちゃん
ブログを、読むだけでなくぜひ、映像化してみたいです、お願いします、トラブルメイカー琴子ちゃんのドタバタ劇と、巻き込まれた琴子ちゃんに、何かあったら、それこそ黙っちゃいないぐらい、入江君の怖いぐらいに、怒る入江君、怒った顔もセクシーでさぞかしきれいなんだろうな?入江君の部屋に、帰ったからて、おとなしく寝てるような琴子ちゃんじゃないよね?ところで紀子ママは何処に行っちゃったかな、v-30

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Re. マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

大人しくさせたかったのですが、やはり最大の難問を解決させるためにはゆっくり休むことすらできない琴子です。

あとから、やっぱり空手や剣道の方が凛としてスマートかな、と思ったけど体育の授業だとせいぜい柔道くらいしか思い付けませんでした。一を聞いて十を知る男はきっと授業で基礎を習えば応用もきくと……^_^; しかし筆力のなさからアクションシーン、まだまだですわー。直樹さんはもっとかっこよいのよーと頭をかいております。

確かに琴子は自分が巻き込まれてるけど、そこに居合わせなければ、いろんな人が大変なことになってますもんね。救われた人たちにとっては幸運の女神です(^_^)

さて次は一気に解決!……と行きたいところなんですが……(((^^;)

Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

かをる子さんも琴子ちゃんに相当感化されてます。この夫婦が隣にいたせいで、このままオタクな生活から少しは抜け出るかも……? 誰かとくっつけてあげたいなーと思いつつ未定でございます笑
入江くん、カッコいいといっていただきありがとうございました。なにぶん自分が詳しくないので、上手く書けなくて〜〜(((^^;)

サイテー叔父もきっちりケリつけておかないとねー。
かをる子さんは見せつけられるために存在してるようなキャラでしたが、客観視できる人ですので、つい話が進みづらいとかをる子さん目線に頼ってしまうのでした(((^^;)


Re.heorakim様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました♪

ドキドキしていただけたなら良かったです。見ただけ聞いただけで身に付いてしまう入江くん、ほんと羨ましい。

桜、すっかり散ってしまいましたね。でも、庭の芝桜やムスカリが咲きだしてそろそろ庭いじりしなくては、という気分になってます^_^;

Re.なおちゃん様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

映像化ですか? そんな風に思っていただけてうれしいです(いえ、お願いされても無理ですけどねっ^_^;)
そりゃ、怒った顔もきっとぞぞっとするくらい格好いいでしょうねぇ。

さーて、紀子ママ……どうしたんでしょうね?

Re.るなたま様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

一時期に比べて仕事もだいぶ落ち着いたのですが、なかなか書く時間がとれなくて、ラストスパートが遅々と進まず申し訳ないです。
いやいや、案外私の方が年かもですよー笑イタキス二次書きの中で一番年上のような気がしてます(イタキス歴は浅いですが)
色々なければ素直になれない入江くんですが、あとはひたすらラブラブ一直線で行けれたらなー(^_^;)
お待ちくださいませね(^_^)v

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