病院のカイダン 2


“納涼祭り2016”



再びあの方、登場ですf(^^;





※※※※※※※※※※※※※



入江琴子には飛んでもない霊力があるらしい。

ここ斗南大学付属病院では、まことしやかにそんな噂が流れている。

そもそも彼女が見えざるものを視てしまうというのは、もう半ば伝説化している。なのに全く害はないのはその守護霊さまが絶大な力を持っているらしい、さらにはその守護霊様を式神として使役して、日夜斗南病院を跋扈している魑魅魍魎と戦っているーーなどという、どこのラノベのヒロインかっ……な噂まで蔓延している。(題してナース戦士 陰陽姫コトリン)

元々斗南の七不思議といわれる怪奇現象の数々も入江琴子に起因するものらしいという噂が流れているのもまた事実だったりする。(ある意味それは間違いではないのだか)

そして、この夏、また新たな伝説が院内を席巻していたーー。

3A西の階段には入江琴子の呪いがかかっているーー。



「はあ~~? なんであたしが呪ってるのよ!」

琴子は食堂でランチを食べながら、幹から聞かされた寝耳に水な都市伝説に思わず頓狂な声をあげた。
弾みで箸からAランチの鶏の竜田揚げがぼろりと落ちる。

「ほら……去年のあんたが階段から転けて入江先生の上に落下して負傷させてしまった事件……あれ以来、あの階段で事故がちょいちょい多発してるらしいのよ」

「それがなんで、あたしの呪い!?」

琴子は心外だ、とばかりに頬を膨らませる。

「あたしと同じドジな人が多いだけってことでしょっ」

いやいや、あんた程の天然爆裂Gレベルのドジはそうそういないってば。

そうそう、おんなじ場所でみんな転けるなんて、偶然にしてもちょっとおかしいのよ!

あそこだけ老朽化してる訳もないと思いますよー。別にここは増改築とかしてない筈ですし。

幹に真里奈に智子にと次々と申し立てられる。

「いったいあたしが何を呪うというのよー」

琴子の叫びに、

「呪うというより……残留思念?」

幹がふっとおどろおどろしい表情を見せた。

「ざんりゅー……?」

「あんたが入江先生の上に落っこちて足を骨折させちゃったじゃない。それが大きな後悔となってあの階段に負の思念としてとぐろ巻いて漂ってるのよ。そして、女の足をひっかけて次々と階段で転ばせてる」

「おんな限定なの?」

「階段からコケた子、みんな女よ。しかもディープな入江先生ファン」

「ええ~~」

「だから、余計そんな噂がたったのよ」

ナース、事務員、検査技師。職業は違えど、皆が皆、「あたしの方が絶対入江先生の妻として相応しいわ」と豪語する、自信過剰女たちらしい。
一様にそんな女たちばかり立て続けに階段から落ちたために、偶然とは思えないと、いつの間にか院内がざわめきだしたのだ。


「とりあえずあんたのアリバイがある時ばっかだから、実力行使であんたが危害を加えたなんて話になってないから安心して」

「あっあったりまえよ。あたしがそんなことするわけないじゃない!」

琴子が顔を真っ赤にして憤慨する。

「わかってるわよ」

いくら直樹に横恋慕する女たちが彼の周りをうろついたとしても、琴子がそのような攻撃的な行動に出るなど有り得ないことは、周知している。
だが、琴子のアリバイが確認されたらしい、ということは、疑う人もいたということなのだろう。
それを聞いた時は琴子以上に腹立たしく感じた幹であった。

「だいたい、あんたがいつまでもしつこく昔のことをグチグチ後悔してるタイプではないこと、よく知ってるから」

過去の嫌なことをいつまでも引きずる性質ではない。というか、鳥頭だから、すっきり忘れて爽やかに次に進めるポジティブ女なのだ。

「……そもそも残留思念がどうとかってこじつけ過ぎる~~」

「ほんと、ホラーなのか超常現象なのかよくわからないわよね」

「超常現象って、超能力?エスパー琴子? やだー笑えるー」

ナース戦士エスパー琴子よーーっサイコキネシスで夫に横恋慕する女たちを転ばせる……いやーんもうちょっと建設的なことに超能力使いなさいよねーっ

ケタケタと妙に受けている仲間たちに愛想笑いを返しながらも、今一つ『残留思念』 も『サイコキネシス』も理解できない琴子であった。

えーと、あたしって何できる人……?



そこにーー

「 ねぇねぇ聞いた~~? 風子が例の階段から落ちたって!」

同じ外科のナースが血相変えて食堂に飛び込んできた。

「ええっ……?」

風子は外科の中でも入江直樹狙いのナースであることはみんな知っていた。昨年の慰安旅行の琴子の男子風呂突入事件の黒幕が彼女たち一派であろうことは、一部では知られている。
もっとも慰安旅行の翌朝に、直樹にもたれ掛かりヨレヨレだった琴子の首筋にぴっしりとキスマークが付いていたことから、思いっきりあてつけられ毒気を抜かれた風子たち一派は、それ以来あからさまに琴子を目の敵にすることはなくなった。

「ふ、風子が………」

思いがけない一報に、さすがに皆、少し青ざめて顔を見合わせた。





「……確かに、ちょっと足を引っ張られた気はしたんだけど………気のせいかなって感じで」

軽い打ち身だけですんだ風子は手当てを受けたあと、外科のナースステーションで、みんなに取り囲まれて尋問を受けていた。

「でも誰も周りにいなかったし、別にお化けがでたとかそういう訳じゃ……」

本人もよくわからないらしい。

「ただちょっとバランス失ってうっかり足を踏み外しただけのような気もするし」

とりあえず生霊も幽霊も何も見ていないということで、なーんだ、結局ただのドジ?と、みんな肩を竦めて、何となくすっきりしないまま、事態はうやむやとなった。







「ただの偶然だろ?」

その夜、皆から聞いた話を直樹に伝えると、噂だけは直樹も知っていたようだった。なんといっても彼の上司はその手の噂話が大好きなようで、嬉々として話して聞かせたらしい。

「……でも、なんで入江くんのこと好きなひとばっかり……あんっ」

「あの階段はオペ室に近いし、1階下の検査室からエレベーター使わずに来る人も、1階上のナースステーションから来る人も多い。急いでいたら踏み外すこともあるだろう。スタッフの割合は女性の方が多いし、階段の使用率も女性の方が多い。ついでにこの病院でオレに関心のある女も割合としては多いだろう? だから偶然にすぎない」

「そ、そうなのかなぁ……あ、やん。そこダメ……」

いつもの日常の夜が、そこにある。

「でも入江くんって結構、ナルシーちゃん……?」

「なんだよ、そのナルシーって」

「ナルシストってことだよ。自分で自分のこと関心持ってる女性の割合が多いってさらっと言ってのけちゃって……あ……あっあっ」

「……事実だろ?」

「ああんっ ……そりゃそうだけど……」

「世界中の女がオレに興味を持って、色目使ってきたって、オレが興味がある女はこの世界の中でおまえ一人なんだから……」

「いやん……入江くん、嬉し……ん、んん」

「……ま、みんな軽傷で誰も重篤な状態になった人はいないが、今後のためにも、色々調べてもらう、って事務長が言ってたから……すぐに原因が分かるんじゃないのか?」

「そうなんだ……誰に調べてもらうの? んっ……あっああああ~~~~!!!」

「……さあ? 建築士か設計士なんかじゃねぇの? 階段が歪んでないか調べるんだろ。………おい、琴子。何、意識とばしてんだよ。まだまだこれからだってのに………」

琴子の耳に直樹の最後の答えは、果たして届いていたのかいないのかーー。




翌週のことである。

「あら、原さんじゃなーい。お久しぶり。最近貧血はどうなの?」

事務長に連れられ、ナースステーションの前を通りかかったのは、市松人形のように綺麗に黒髪をおかっぱに切り揃えた超絶美少女だった。

「ご無沙汰しております。今のところつつがなく過ごしております」

気安く声をかけた幹に丁寧に頭を下げた彼女は、この場所には違和感アリアリの和服姿だった。夏だが浴衣ではない。白っぽい着物は遠くから見たら死装束のようにも見えるが、薄い利休鼠のグラデーションの訪問着だった。
テレビの心霊番組によく出ているそのままの容姿は、やはり生きた日本人形のようで見るものをぞくっとさせる妖しい美しさだった。

「今日は……なぜ……」

そう言いかけて、幹ははっとする。
高校生である筈の彼女の、本業はーー。


「ほら、例の階段で妙なことがよく起きるから、一度ちゃんと見てもらった方がいいと思ってね。大きな事故が起きないうちに……」

「ああ」

原真砂子。この美少女の肩書きは霊媒師である。
かなり優秀な霊能力を持ち、こんな暑い時期にはテレビの特番に引っ張りだこの存在だった。なんといってもテレビ映えもする容姿だ。
そして、彼女は去年この病院の特別室に入院したことがある。その縁もあって、多忙な筈の彼女を呼んだのだろうか。

いや、でもーーこれは本当に霊媒が必要な話なのだろうかーー?

首を傾げつつもその後を付いて件(くだん)の階段に向かう。さしあたり手の空いていたらしいナースがゾロゾロとついてきていた。
その中にはミーハーの琴子も混じっていて、「ねぇねぇ、モトちゃん何が始まるのぉ~~」と、何だか楽しそうである。


そしてその階段の下に立ち、美少女はじっとその階段を見つめーー
おもむろに口を開く。

「何もいませんわ、ここには」

彼女はきっぱりと云った。

「ああ、そうですか。そうですよねー。ええ、そうだと思いました」

事務長はほっとしたように何度も首を振る。

「で、じゃあ一体原因は……?」

事務長は改めて彼女に問いかける。

「それはわかりません。亡霊、生霊の類いではないことは確かです」

「いや、わからないと困るんですが」

「そんなこと云われても困ります。私は霊を視ることしかできません。居ないものに関してはどうすることもできませんから。もっとも居たとしても何もできないですけど」

「………出来ないんですか?」

「だから私は視るだけです。ただの霊媒ですから。払うことは出来ません」

出来ないのにかなり尊大な口調できっぱりと宣言する。
たしかにテレビ番組では、口寄せをして霊の言葉を伝えている。本人しか知り得ない話をして驚嘆の声を浴びているが、浄霊をするのは別の坊主だったりする。

「えーと、では……どうすれば」

「ちゃんと調べたいのなら、この建物を造った施工会社か設計事務所に問い合わせるのが一番かと思います」

「あ、入江くんとおんなじこと云ってる~~」

琴子が、人垣の中から叫んだ。(一応直樹の云ったことは耳にはいっていたらしい)

琴子の声に、一瞬視線をそちらに向けた美少女は、少し考えてから
「メジャーと差し金、水平器があれば簡易的に調べることはできますが」と、軽くため息をついてそう云った。

いったい何処にあったのか、美少女の云ったグッズが目の前に取り揃えられた。
そして自分のマネージャーらしきスーツ姿の女性にあれこれと指示して階段の踏み板の幅やタチの長さを計測させた。

「私は普段このようなことはしませんが……建物の測定は心霊調査の基本ですので。度々フォローに入る調査会社のチームで、先日は毎日ひたすら幽霊屋敷の測量してましたわ」

「 ゆ ーれいやしきっ」

琴子がワクワクしてるようなテンションで身を乗り出す。
それをあっさりスルーして、何段か測定したあと、事務長に測定道具を返却し、そしてきっぱりと云った。

「原因は明解ですね。この階段この部分、蹴上の高さが他と違ってます。この僅かな狂いが、人の感覚を鈍らせ、踏み外させているのだと」
「でも、何で、女性ばっかり? しかも入江先生狙いのひとばっかりコケるんですか?」

外野の声に、「確率の問題でしょう。通る人が女性が多い。そしてその女性の殆どがあのイケメンドクターに関心がある。つまりはそれだけのことです」という真砂子の凛とした声が答えた。

「やだーやっぱり入江くんと同じ答え~~」

愛するダーリンの解答がプロの見解と同じなのが嬉しいらしい。
幹の肩先からぬっと顔を出し、自慢そうに叫ぶ。

「それまでもきっと軽く踏み外しそうになったことは何度もあったのでしょう。ただ一年前の事件が取り沙汰されることで、妙に尾ひれがついてクローズアップされただけのことでは?」

なーんだ。
そーなのか。

みんなは特におもしろいオチでもなかった為に、あっさりと三々五々と散っていった。

「モトちゃん、いこー」

主任に怒鳴られないうちに仕事に戻らねば、と琴子は幹を呼び掛けて促す。

「ああ、うん…………」

幹がふと気になったのは、真砂子がじっと一点を見つめていたからだ。階段ではなく、階段の下のタイル張りの床。

幹はふと思い出した。
そこは落ちてくる琴子を受け止められず直樹が倒れていた場所。
幹が騒ぎをきいて駆けつけた時、お弁当の中身がばらまかれた中で、琴子は直樹にとりすがってひたすら「入江くん! 入江くん!」と呼び続けていた。

もし入江くんが目を覚まさなくて、一生動けない身体になってもあたしがずっとお世話するからーー

眠ったまま中々意識が回復しなかった直樹のそばでそう泣きながら誓っていた琴子が、何故か脳裏によぎる。


「………何か、いるんですか?」

幹は真砂子に訊ねた。

「………いいえ……霊とかではないと思うのです。生霊ほどの強い思念でもない。実際階段の事故は先程の見解で間違いないと自信はあるのです………
思念というよりは雑念。しかも生物の……」

「生物?」

「 ………白い蛇……のようなもの……? ウラヤマシイ……オチタイ……羨望、嫉妬……妄想。なにかしら、これ」

やだ、気持ち悪っと真砂子は首を竦めて肩を抱いた。

「なんだか普通の幽霊のほうがマシだわ。ある特定の人物の上に落ちて絡み付きたいと願ってる白い蛇の妄執のようなものが、一瞬ちらりと見えたのです。人に害を成すほどのものではないですが、ただなんとなく気色悪いんです」

思わずその話をきいて、とある人物の顔が思い浮かんだ幹であるが、
「……害はないんですよね? ソレが今までも此処で何か悪さをしていたというわけじゃないんですよね?」と念を押す。「はい。そんな力はないです。それを上回る浄化の力がこの辺りは強いので」

「……浄化の力?」

「さっきの琴子さん……でしたっけ? 彼女の守護霊の強さも並々ならぬものがありますけど、彼女自身もかなり特殊なオーラを持っているんです。悪意や憎悪といった負の想いを簡単に浄化してしまう不思議な力。……ほんと、彼女は霊的に面白い素材だわ。ちょっと私の知り合いのゴーストハンターに紹介したいくらい」

思わぬ返答に、どう返していいかわからず面食らった表情を顔に張り付かせている幹に、原真砂子はふわりと微笑んで、「では……」と軽く会釈をして去っていった。





「…………どうしたの? 幹ちゃん?」

あの美少女霊媒師と話し込んでいて遅れてきた幹に、琴子が怪訝そうに声をかけた。

「ううん。なんでもないわよ。どんなに蛇がねちっこくうじうじ想ってても、あんたのゴジラ並のパワーにゃ敵わないって話」

「……ゴジラ? なんでゴジラなのよっ」

話は全く見えないが、とにかく憤慨する琴子に、「同じ爬虫類でも一応最強かと思っただけよ」と幹は簡単に答える。

「だから、なんで、爬虫類~~~」

琴子の雄叫びを背に、幹はにやっと笑って何も語らず仕事に戻っていった。

ーーやっぱり斗南の平和を守っているのは琴子なのかしら?

この際ゴジラが東京を破壊する輩であるというのは置いといて、そんなことを思ってしまう幹であったーー。

なんだかんだ、今日も斗南大学付属病院は平和であるーー。






※※※※※※※※※※※※※※


すみません。長いことお待たせした挙げ句にこんなしょーもない話で……f(^^;

えーと、真砂子さんもまた出しちゃいました。去年、この美少女霊媒師出した時、数名の方が元の原作をご存知で、申告して下さって嬉しかったです(^w^)
ご存じでない方も、ただのオリキャラモドキとして優しく受け入れてもらえれば嬉しいですけど。階段の測量にあのチームの面々を出そうか一瞬迷いましたが、いや、それはちよっと収拾つかんだろうと、とりあえず真砂子さんだけに食い止めましたわよーf(^^;

さて、多分納涼祭りネタはこれで一旦おしまいにしようかと。あとひとつ『こっくりさん』で書こうとか考えてましたが、帰着点が想いつかなくて、今のとこお蔵入りかな~~な気配濃厚(._.) 納涼祭りの終わる8月末までに思い付いたら、書くかも……?


えーと、ようやく私も一週間の夏休みに入りまして、また今年も恒例の西日本縦断の旅が待ってます。誰も迎えてくれない実家の整理に帰るだけなのて、疲れること必至です(ーー;)

また更新空くかもしれませんがご心配なさらずに(^_^)
気長にお待ちくださいませ ♪



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管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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