Zutto Mottoのkiss

イタズラなkiss期間2015










「いよいよ、明日なんだよね………」

琴子の顔はもう半泣きになっていた。

居間で催されていた壮行会と称する家族だけの送別パーティでは、妙にテンションが高くて、ひとりでカラオケを歌いまくり、ゲームを仕切りと、ヤケにはしゃぎ回っていたが、家族全員がその様に何処か痛々しさを感じとっていたに違いない。

ゲームが一段落したところで、直樹が張り出し窓の向こうのベランダに出ているのを見て、琴子も後を追うように外に出た。
3月末のまだ肌寒い夜の空気は、セーターを着ていてもひんやりと冷たかった。

あっという間の4日間。
卒業式からまだたったの4日だ。
なのにもう明日には神戸に行ってしまうなんて、何処か冗談のようで未だに信じられない。

その貴重な4日のうちの2日間、直樹は一人で神戸に行き、引っ越しの準備その他もろもろの手続きを行ってきた。
無論琴子も付いて行くつもりだったのだ。
妻としては単身赴任する夫の準備を手伝うのは当たり前だ。
残ると決めたからには、もう拗ねたりせずきっちり夫を送り出さねばと闘志を燃やしていたのに、肝心の夫からは、
「おれ一人十分だから。おまえが来ると仕事が倍になる」と、つれない返事。

実際、このあと数日しか一緒にいられない、という時に限って琴子もゼミ研の教授から頼まれた学会準備のバイトが入っていたのだーーそれを知っての直樹のセリフである。つまり一度引き受けたバイトをキャンセルしてまで来るなよ、と言いたかったのである。

そして、泣く泣く直樹にくっついて神戸で引っ越し準備をするのを諦めた。

「ねぇねぇ、入江くん、この部屋なんてどう? 日当たりもいいし、キッチンも
使いやすそうよ。 あたしがこっちに来た時に腕をふるうからね」

寂しさを紛らわす為に、神戸で仲良く新生活の準備を手伝う様子を妄想していた脳内劇場はうやむやにたち消えた。

ーー不動産屋をめぐって物件探し。なんか新婚カップルみたいじゃない?

必死にそちらへ思考をシフトしていたのに。

「………マンションはもう決まってる。アメリカに留学するドクターの部屋をそのまま借り受けるんだ。病院から近くて便利だし。家具も家電も要らないし、殆どの備品も揃ってる。明日は鍵の引き渡しと病院に挨拶に行くだけだ」

つい最近神戸行きを聞かされたばかりなのに、もう住むとこまで決まってるとはどういうことなのかーーその辺りはもう突っ込まない琴子なのである。

でも、揃いのカップとか、クッションとか枕とかシーツカバーとか、そーゆーの、一緒に買いに行ったりとか…………ね? ね?
神戸にならお洒落な雑貨屋さん、たくさんありそうよねーー

しっかりガイドブックを眺めてチェックをしていた琴子のささやかな夢をばっさり絶ち切って、直樹は一人で準備を何もかも済ませ、そして、残り数日の東京での日々も出発の支度であわただしく過ぎた。

少しは妻らしく手伝いたいと、ダンボール箱にいそいそと、衣服とかタオルとか詰め込んで、それすらも「嵩張るものは向こうで買うからいい」と必要最低限に絞られて、琴子チョイスのものは大半箱の外に戻された。
確かに琴子に任せると下着ひとつ選ぶのにも時間がかかる。さらにどの自分の写真を荷物に忍ばせるかで、半日近く悩んでいて、一向に作業は進まない。

結局手早い直樹の手によってあっという間に荷造りは終わり、宅配便で送る手配も完了。

明日持っていく手持ちのバッグだけが寝室に置かれてあった。


何だかそんな準備万端な寝室に戻るのがイヤで、いつまでも直樹とこのベランダで二人で話していたいと思ってしまう。

「それでね、お義母さんが宝塚友の会に入会してね、これからちょくちょく宝塚まで見に行きましょうって」

「三宮のこのお店がとっても有名らしいの。ぜひ行ってきてね」

「そーいえば、この間北海道に遊びに行った真里奈がすっかり関西弁になって帰ってきたのよ。なんでも旅行中に仲良くなった人が関西人らしくて。ほら、関西弁ってうつるじゃない。入江くんも関西弁になっちゃったりするのかしら?」

とりとめなく喋り続ける琴子。
明日から直樹が神戸に行ってしまうことなんて気にもしていないように。


暫くただ黙って琴子のお喋りを聞いていた直樹だが、ふと、突然静かになって夜空を見上げていた琴子が、うるうるとし始めたのに気づいた。

「いよいよ、明日なんだね」

星を見て堪えきれなくなったのか。
今夜は東京にしては星がまだ綺麗に見えるのは、月が夜空を照らしていないせいだろう。

明日はもう、この場所には直樹はいない。

考えまいとしていたけれど、ふとした瞬間に思い出してしまう。

「今、新月なの? 明日は同じ時間に一緒にひとつの月を見ようと思ってたのに」

「星なら見えるだろ」

「星だと東京じゃあまり見えないし、ってか鳥目であまりよく見えないし……星座を探す自信もないし」

離れていても見ている月は同じよね、という乙女なことを考えていたようだが、乙女のクセに星座は自信がないらしい。尤も果たして神戸でゆっくり夜空を眺めている余裕があるものなのか。

「……多分今日は、月齢23日くらいかな。二十三夜は月の出が真夜中0時過ぎだから、月が出るのはこれからだ」

「そっか……でも、今は新月に向かっているんだね。どんどん細くなって消えてなくなっちゃう」

「太陽と地球と月の位置関係が変わるだけで、宇宙から月の存在が消える訳じゃない」

「そりゃそうだけど」

同じ月を見て、なんてロマンチックなことを言っていられるのも初めのうちだけだろう。
四月になれば互いに日々に忙殺されてくるのは目に見えている。


「……琴子……最後の夜を一晩中ここで喋り倒して終わるつもりかよ?」

そういって、琴子の唇をむぎゅっと指で摘まむ。

「ふがっ」

「風邪引くぞ。中に入ろう」


リビングはすっかり片付けられ、もう誰も居なくてしんと静まりかえっていた。
あとは二人で最後の夜をまったり過ごしてね、と言わんばかりに早々と撤収した感がある。

「お風呂、先に入って」

「おまえの方が身体冷えてたぞ。先に入れよ」

お互いそう言ってから顔を見合せ、「一緒に入る?」という直樹の問いに、珍しく琴子は恥ずかしがらずに頷いた。

家人が居るときに一緒に入るのは滅多にないことだけど、さすがに今日は紀子もそっとしておいてくれるだろう。







そして、1時間後。
お風呂ですっかり逆上せてしまった琴子にバスローブを着せて抱え上げると、直樹はそおっと二人の寝室に戻った。

「大丈夫か?」

冷たいミネラルウォーターのペットボトルを頬に当てられ、「……わー冷たくて気持ちいい……」と琴子はそれを受けとる。一口飲んで喉を潤してから、「………大丈夫じゃない」と恨みがましく呟いた。

「じゃあ、今日はもう寝る?」

久しぶりに一緒に入浴したせいか、家人は一階にいないと分かっていたせいか、浴室で妙なテンションになってしまったのは否めない。
琴子もいつもより羞恥を忘れて素直に直樹の求めに応じて、普段以上に乱れてしまった気がする。

「……それはイヤ」

ベッドに横たわったまま少し切なそうに直樹を見上げる。
いつもなら「……もう、無理」と及び腰になるところなのに。

「……大丈夫じゃないんだろ?」

意地悪そうに琴子の頬を擦りながら問いかけると、

「とりあえずキスはいっぱいしておきたいの」

ーー出来れば一晩中。

「キスしたら、キスだけじゃすまなくなるけど?」

浴室でたくさん愛し合ったけど、まだ足りないのはお互い同じ。

「………いいもん」

また、泣き出しそうな顔になり、自分の顔を枕で隠す。
直樹には出来るだけ笑顔だけを覚えてもらって行ってほしいのに。

顔に押し付けた枕をあっさり直樹の手によって取り払われると、涙に濡れた目尻に優しく唇を這わせてきた。

「じゃあ、まずはキスだけ」

水を飲んだせいか少し濡れそぼった桜色の唇をちゅっと啄んでから、直樹は解きほぐすように琴子の唇を押し開いていく。
侵入してくる舌をあっさりと受け入れて、激しく追い回してくるそれを自らも大胆に絡めとってくる琴子。
長い長いキス。

鼻から抜けるようなくぐもった声、時折息を継ぐ音、唾液が行きつ戻りつする水音が室内に響く。

舌が痺れて麻痺するくらいキスを交わして、それでも足りないと思う。
無論キスだけじゃすまなくなるという宣言通り、いつの間にかバスローブの紐はほどかれ、既に赤い花びらのいっぱい散った肌の上にもう一度刻印が付けられていく。

もっと、キスして。
ずっと、キスして。

うわ言のようにキスをせがむ琴子の唇を何度も絡めとり吸い付いて追い回す。細胞のひとつひとつが溶け合うくらいに。
火のついた身体は熱に浮かされどんどんお互いを求め合う。

今日の夜は何故こんなに時間が過ぎるのが早いの?

寝室に戻った時、漸く窓から見えるくらいの位置にあった下弦の月は、少しばかり高く昇っていた。

このまま時間が止まればいいのに。

この月が永遠にこの位置にとどまってくれれば。

太陽なんて昇らなくていい。

朝なんて来なければいい。

直樹の腕の中で、何度も快楽の世界に意識を飛ばされそうになりながらも、望んでも空しいことを心の片隅で切望する。


ずっと、キスして。
もっと、キスして。
たくさん、キスして。

一晩中キスしてても全然足りない。これからの一年を埋め合わせることなんて、全然無理。



どんなに望んだって、明けない夜はない。


それまでに。
あとほんの数時間の間に。
この部屋にいっぱい残して。入江くんの薫りを。
この身体にいっぱい刻みつけて。入江くんの痕跡を。

ずっとーー

もっとーー



そして、やっぱり無情にも朝は来るのだ。 朝焼けの紫とオレンジのグラデーションの空がうっすらと街を覆い始め、太陽がそろそろと昇り始めていた。
明け方の半月は、もうこの窓から見えないくらい高い位置に移動してしまったが、直樹が云った通り、月が世界から消えることはない。
直樹が旅立つということ以外、何一つ変わらない1日が始まる。



切ない今日の始まり。
そして試練の一年の始まる日。

それでもきっと大丈夫。
入江くんを好きって気持ちがあたしを強くするの。

一睡も出来なかった琴子は、直樹の寝顔をしばらく眺めてから、ちゅっとキスをする。



「おはよう、入江くん。早く起きないと新幹線の時間になっちゃうよ」


にっこりと微笑みながらーー





欠けていく月は、まるで欠けていく心を象徴しているよう。
でも今までの幸せな時間と記憶が、きっと欠けた部分を埋め合わせてくれるーー







※※※※※※※※※※※※※※

更新空いてすみません(..)

媚薬えろを書きかけてて、もっとさくさく行けるかと思ったのに、色々ありましてちょっと中断(/。\)少々お待ち下さいませ。

なので、こちらも書きかけて止まってたイタキス期間の続きです。
まあ、これも不調ですが(^_^;

入江くんが神戸に旅立つ前夜。
琴子ちゃん、切ないだろーなー。
ってか、2ヶ月後に会いに行くまで住んでるところすら知らなかったんだよね。結婚前の一人暮らしの時みたいに………(..)普通旦那が単身赴任するとなれば引っ越しの日ぐらい手伝いに行くよね………それすらさせてもらえなかったんだろうな~~
と、まあそんな突っ込みしつつ思い付いたお話でした(^_^)

この時期の話は、翌年の琴子の看護婦合格も含めて、西暦シリーズで書きにくくて。
なるべく現実と融合させたいのに原作の日程、矛盾がいっぱいだから、日にち設定しづらいのですよ~~(^_^;









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管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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