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バカップルはBarにいる。(むじかく様より)

2015.11.30(22:22) 191


きゃー♪
前の記事でむじかく様のお話のパロディを書きましたら、なんと!! むじかく様からソッコー「『木婚式の夜に』の第三者目線のお話書いていいですか?」と、まさかのパロディ返し!
しかも相変わらず早い!
メールやりとりした2~3時間後には送られてました(真夜中丑三つ時に)

気になりつつもすっ飛ばしたバーでの他のお客さんの様子……むじかく様得意の第三者目線での突っ込み炸裂です♪
こんな拙作に妄想していただいてめっちゃ嬉しいです(^o^)

アップしてOKと許可を頂きましたので、アップさせていただきます(^w^)
これを一人で楽しむのは勿体ない♪

というわけで、むじかく流『木婚式の夜に』サイドストーリィを続きからどうぞ。





※※※※※※※※※※※※※※








昨年、このホテルで挙式をして今日が1年目の結婚記念日・・・の前夜。

偶然にも21日の今日が土曜日、22日の結婚記念日が日曜日、その翌日も勤労感謝の日で祝日と3連休なので、少し奮発してこのホテルに泊まりに来た俺達。

まだ1年目という事もあって、目の前の妻ともラブラブ。

このまま来年も再来年も10年後だって、こういう風にいつまでも過ごせたらいいねなんて甘い事を語って居た時に、一人の女性がこのバーを訪れた。

そんな事を言いながら早ければ来年には子供が欲しいかな・・・なんて、今日励んじゃおうかという心の声をその女性に聞かれたくなくて、口を閉ざした俺。

妻からはテーブルの下で足を蹴られ「あの女性に浮気しないでよ」なんて可愛い嫉妬を受ける。

「こんなに綺麗な奥さんが居るのに、浮気なんかしないよ」と歯が浮くセリフを口にしながらもあの女性の視線を感じてやはり見てしまう。

妻も気にしている様で、二人で彼女を見ると「いいえっ 後から連れが来ます」と割と大きな声で言っているのが聞こえてきた。

なんだ、相手がいるじゃん。

少し安心して妻とまた会話を始める。

「そろそろ結婚記念日に相応しいカクテルでも飲もうか」

俺がそう声をかけると妻も喜んでメニュー表に目を通す。

このメニュー表に乗っているのは代表的なカクテルだけで、今日の自分達の気分やイメージを伝えると、そのイメージに沿ったバーテンオリジナルのカクテルを作ってくれるのがここの売りだ。

結婚式の打ち合わせの後とか、何度かここのバーを利用しているのでその説明は既に受けている。

でもそんなにカクテルに詳しい訳じゃなく、バーテンと会話できる様な席でもないから、一般的な日本人としてはメニュー表から頼みたいと思ってしまうけど。

「ねぇ、やっぱり結婚記念日に相応しいカクテルだからピンク色のが飲みたくない!?」

そう妻に問われるが、俺は特に甘い飲み物は好きではなく、酒ならグビグビと飲めるビールみたいのが好きだ。

なかなか、そうだねと相槌を打つ勇気がない。

そうこうしている内に、件の彼女も結婚記念日らしくバーテンに結婚記念日だと明るい声で語っているのが聞こえて来た。

成程な、だから『連れ』で後から来るのか。

妻と二人でそっちに注目していたら、優しそうな色合いのカクテルを提供されているのが見えた。

俺が「あれ、良さそうじゃない!?」と妻に言うと、妻も頷く。

近くのボーイを呼んで「あそこの彼女が飲んでいるカクテルの名前を知りたいんですが・・・」と俺が頼むと、妻が「あの人が飲んでいるカクテルを2つください。主人と乾杯したいので」とあっさり注文してしまった。

「全く・・・君には敵わないよ」

俺は自嘲的に妻にそう告白した。


しかし時計はまだ23時。俺達の結婚記念日には後1時間ある。

「まだ結婚記念日には1時間早いよ」と苦笑しながら言うと、妻も「あら、本当だわ」と困った顔をする。

カクテルは度数が高いから酔いやすい。

あれを飲んで帰ろうと言うならいいけど、そうじゃないならもう1杯は必要そうだった。

妻はまた近くのボーイを呼んで「さっきのカクテル取り消し」と堂々と頼んでいる。

思わず「おいおいっ」ってツッコミしてしまった。

「だって、やっぱり記念日に乾杯したいんだもの」と言われて後1時間粘る事にした。

そしてそのカクテルの名前は「ホワイトローズ」で、意外と度数が高い事も分かった。

今飲むと1時間も粘れなさそうだ。

取り消す代わりに別な注文として、妻にシンデレラというノンアルコールカクテルと、俺にクーニャンという桃の酒のウーロン茶割を頼む。

クーニャンというのは中国語で『娘』という意味。

俺は目の前にいる綺麗な妻よりも、カウンターで一人飲んでいる彼女に似合いそうな酒をつい注文していた。

そして俺達の注文のカクテルがテーブルに届いた頃、事態は急展開してて、彼女は酔っ払ってある男性に暴言を吐いていた。

さっきから彼女の声が聞こえてくるから、こういう場には慣れてないんだろうとは思っていたけど・・・正直酔っ払って男の人に噛みつく彼女に幻滅してしまう。

それでも彼女の良いところは、ご主人を悪く言わない・・・事??

ひりえくん??

待ってるのは確か主人って言ってたよな。

ひりえくんって・・・あだ名か??

急に何かなぞなぞめいて、しかも大声で怒鳴っているから注目しない方が無理だ。

「ひりえくんわーめっちゃつまる男なんですぅーー」

それを聞いた瞬間、妻と噴いた。

二人して咳き込む。

つまる男ってなんだよっ

そんな事を思ってたら、ドアがパーンと開いてキラッキラの美形が登場した。

うわっ ドラマの様な展開か!?

その男がわき目も振らずに彼女の元へ猛スピードで行く。

この先はどうなるのかと固唾を飲んで見守ったら、またとんでもない光景が目に飛び込んできた。

「あにすんのよぉーー!!」

「ぎええええっ」

正直、何が起こったのか分からなかった。

俺の目が・・・脳が・・・今の光景を言葉にする事を拒否している。

ただ茫然と・・・あの男、痛そうだなと思って自分の大事なところを隠した。

彼女に手を出さなくて良かった。

じゃないとこれから妻を抱けそうにないから。

何となく頭でそう考えたが、この壮絶な顛末を見ずに席を立つなんて考えられない。

俺達は椅子に縫い付けられた様にそこから動けなかった。


彼女は自分にkissするんじゃないと怒って『ひりえくん』しかダメなんだと言う。

俺はその『ひりえくん』とやらを見つめた。

するとまた彼女がその男以外とkissしていたと叫びだす。

さっきまで無表情に彼女と間男を見つめていた男の眉間にしわが寄った。

美形なだけにそれだけで迫力がある。

「琴子」と、その男は奥さんを呼ぶ。

奥さんはその男を見つけて嬉しそうにほほ笑んだかと思ったら、すぐに泣きだし男の胸を叩きながら懺悔(?)した。

「理加ひゃんとキスしてたぁーああ、なんてことなの~~~」

「はあ??」

思わず声を上げてしまい、慌てて口を閉ざす。

旦那も慰めている様で「ノーカウント」という言葉を聞いて、俺はホッとすると同時に緊張が解けて噴きそうになってしまった。

グッと歯を食いしばり耐えると、机が揺れている。

ん!?と思って妻を見ると机に突っ伏して声を殺して笑っていた。

そしてまたそのバカップルは「ひりえくんも理加ひゃんとのキスはノーカウントだよーー?」「ああ」なるやり取りをしている。

何なんだよ、この罰ゲームは!!

笑いたい、笑えない・・・机に置いているクーニャンまで俺らの振動でカタカタと震えている。

どーでもいいが、リカひゃんとやら。二人とkissしてんのな。

5歳くらいの子供か!? それともやっぱり人形なのか??

なんて考えてたら、その奥さん脱ぎそうになってて、さすがに旦那さんが止めて・・・うわっ凄んでいる。

「貴様……琴子に、何を飲ませた?」

そんなセリフ・・・ドラマ、そうドラマだよ。

笑って悪かった。カメラはどこだ??

急に笑いが収まり、酔いも冷めてキョロキョロと挙動不審にカメラを目で探す。

ボーイは俺が呼んでいると勘違いしたのか側に寄ってきた。

仕方がないので「撮影ですか!?」と聞いたら、声を出さずに首を横に振って返事をした。

じゃあ・・・目の前で行われているこれって・・・本当の事か!?

け、け、け、警察?? ちょ・・・ヤバいんじゃね??

急ぎで帰りたかったけれど、今度は恐怖で足が動かない。

何かあの奥さんクスリ盛られたって・・・そりゃヤバイよな。

そう思いつつも、目が離せなくて見て居たら相手の男が這うように逃げ出した。

名前は知らないけど悪役の方。ひりえくんじゃない方って事だけど。

奥さんは解決したと分かったのか部屋へ行こうと旦那を誘う。

「お部屋いってぇーーえっちしよーー」

それを聞いた俺の方が赤くなった。

それって・・・と思ったら、更に旦那が輪をかけて凄かった。

「あたりまえだ。せっかくの記念日、しないでどーする」

当たり前・・・当たり前・・・当たり前・・・俺の頭の中でセリフがグルグル回ってる。

しかも俵担ぎで奥さん引き取って帰っていった。

強者だ。。。

これから・・・いっぱいエッチするんだろうなー。

そう思いつつも、決して羨ましいという感想は湧かないのだけど。

ふと時計を見るとその騒ぎで日付を更新し、更に1時間ほど時計の針が進んでしまっていた。

「か、乾杯・・・しよ」

俺がそう声をかけると妻も「そ、そ・・・うね」とぎこちなく手元にあるカクテルグラスを手に持つ。

俺もすっかり氷が解けてしまって水嵩が増したクーニャンのグラスをかかげて静かにグラスを合わせた。

チッと微かな音がすると同時に誰かが噴き出し、俺達もグラスを持ったまま噴き出した。

もちろんグラスの中身が笑いの振動でこぼれ、笑っているから口にも運べない。

結局グラスを置いて、気のすむまで妻と爆笑するしかなかった。

そして乾杯から10分後、喉の渇きを潤す為だけに飲み残していたカクテルを飲んだのだった。


とんだ結婚記念日の思い出・・・しかし、一生忘れそうもない思い出にもなった。

それがきっかけで俺達に子供が出来たのだから。

いっぱいエッチしたお陰・・・とは、子供には言えないけどな。







※※※※※※※※※※※※※



むじかく様、本当にありがとうございました♪
むじかく様からのコメントにもあったのですが、この夫婦が斗南の小児科にかかって再びバカップルに再会~~ってのもありそうですね(^w^)



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Snow Blossom


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19941128 ~今日は幸せのハカリ記念日

2015.11.29(01:09) 190


むじかく様、二周年おめでとうございます!(大遅刻ですが)

無事に、むじかく様宅のハネムーンが完結! 初夜もアップされ、琴子ちゃんがロストバージン出来たことを祝して\(^o^)/

短いですが、あのお話のパロディなのです。
(あの洋書の行方が気になったそこのアナタ。私もその一人です)

なので、出来ればむじかく様宅の『最悪な旅行 最愛の思い出』を読んでから見ていただきたいのですが……f(^_^)アメ限なのでアメンバーでない方には申し訳ないですがm(__)m
(※2016年11月現在むじかくさま宅ブログ整理の為、アメブロに掲載されておりませんので、あしからず)

むじかく様からリクエストいただいたものとは別なので、これは一応二周年記念第一弾っていうことで。
むじかく様、こんなの送り付けてごめんなさい! いっつも楽しい話を送ってもらってばかりで何も返せない私です~~m(__)m








※※※※※※※※※※※※※※






それは二人の結婚一周年が無事(ラブホテルで)終了し、一週間ほどたったある日のことである。
琴子は卒論の追い込みに忙しい日々を送っていたのだが、借りてきた資料の中に必要な文献が見つからず、直樹にコーヒーを持っていく以外は滅多に訪れることのない書斎の書棚を漁っていた。
この部屋の蔵書は、重樹が揃えたものから直樹のものまで、タイトルを見ただけで目眩が起きそうな経済、理系、医学など専門的な学術書に、辞書や百科事典の類いばかりだが、それでも一部は日本文学の全集や古典の希覯本など、琴子の卒論に役立ちそうなものも埃を被った片隅にあった筈だ。

「うーん…… 古くて背表紙が読めないかも……」

何気に一冊の本を取り出す。

少しきつくて無理に引っ張り出すと、隣にあった一冊の厚い本が一緒に引っ張りだされ、ばさりと床に落ちた。

「あちゃー」

琴子は慌ててその本を拾った。

「ん? 何の本?」

洋書のようだが、ちらりと見えた写真が気になって、思わずパラパラと捲って見る。

「え? え? えーー?」

よくはわからないがなんとなくアダルトな薫りがするのは、気のせいではないと思う。
載っている写真は全部男女が裸で絡み合ってる。だがどうにも色めいているというよりは図解っぽい。
イラストも幾つかあってーー色々な体位の説明図のようだ。

うーん、この格好、この間試されたような……?/////

何だかとってもアクロバティックな技を試されて、腰砕けと筋肉痛がひどかったのは確か直樹のバースディの夜のことだ。


エロ本にしては文章も多い気がするが、何分英語なのでさっぱりわからない。

産婦人科の医学書………って感じじゃないわよね。

もしかして義父重樹のものかもしれない。
少なくとも直樹のものではない、と琴子は自信をもって云えた。

そうそう、まさか入江くんがねー。
こんな本なんて。

結婚するまえだってエロ本の一冊もないって、お義母さん心配してたものね。男として欠陥あるんじゃないかって。

もう、お義母さん、そんな心配は全く無用だったのですよー
入江くんってば、それはもう……///////

どうも思考が変な風に飛びそうで、琴子はその本を机の上に置いて、しばらく別の資料を探すことに没頭して、お目当てのものを見つけると、すっかりその謎の洋書のことは忘れ去って部屋から出ていってしまったのだった。



「はあー疲れたー」

集中して卒論に取り組んでいたものの、少し休憩しようとリビングに行くと、紀子がアルバムを見てうっとりとしていた。

「早いものねーもうあれから1年なんて」

にまにまとアルバムのページを繰り、思い出を辿るように写真を眺めていた。

「あ、あたしたちのハネムーンの」

「そうよー。素敵よね、この写真」

紀子が激写した、ビーチでキスを交わしている二人の写真だった。

そっかあ………あのハネムーンから1年かあ……

お邪魔虫夫婦に散々引っ掻き回されて、邪魔されて、挙げ句に喧嘩して飛び出して……
色々あったけれど、それでもやっぱり楽しかったなー

結局、旅行らしい旅行はあれから行っていない。
夏に行った九州はただの帰省みたいなものだし。二人きりになれなかったのだから旅行のうちには入らない。

もう一回くらい何処か行きたいなー卒業旅行とか。海外はもう無理かなー……

因みにこの時点では春には直樹と共に卒業とすると信じて疑わない琴子である。


1年……か。
本当にちょうど1年なんだ。

琴子は写真に刻印された日付とリビングのカレンダーを見て、ぼんやり思う。





「入江くーん。今日は何の日か知ってる?」

琴子はベッドの中でヘッドボードに背を凭れさせて本を読み耽っている直樹の隣に潜り込むと、ふふふっと楽しそうに問いかけた。

「税関記念日。もしくは太平洋記念日」

読書を邪魔されたせいか軽く眉を潜めて、琴子の方には目もくれず、あっさりと豆知識を披露する。

「マゼランがマゼラン海峡通過して初めて太平洋に出た日だ」

しれっと答える直樹に単純に感心する琴子。

「ええっそうなんだぁー。(マゼランって、誰?) えーと、でもそーゆーのじゃなくってぇ、あたしたちの特別な記念日よ! 覚えてないの?」

「……ああ。何の日だよ?」

にやっと笑って琴子を見つめる直樹。

「……あ。本当は覚えてるでしょ?」

「さあ?」

「だって……だって……あたしたちが……」

言いかけて、はっと気がついて、頬を赤く染める。

「あたしたちが、何だよ?」

「うん、もう、入江くんのイジワルっ分かってるクセに~~~」

「ほら、云ってみ」

「だから~~あたしたちが、………初めて結ばれた……日じゃない……」

初めて、の辺りからかなりな小声である。

自分で話題を振っておいて、自分で恥ずかしがってりゃ世話ねぇな、と内心吹き出す直樹だった。

「めでたくおまえが処女喪失した日だな」

「うん、もう! そーゆー身も蓋もない言い方はやめてよねー」

「だってそうだろ? 」

「それを言うなら入江くんもチェリーボーイ卒業の……」

皆まで言わすかとべしっと頭をはたかれる。

「誰がチェリーボーイって?」

思いっきり剣呑な目付きで睨まれる。

「えっ? えっ? 違うの? まさか……」

今度はたちまち真っ青になる琴子の顔色。

「さてね」

「う、うそ………でも……そうよね。あんなにモテモテだった入江くんが経験なかったなんて、そんな筈ないものね。うん、いいの。大丈夫よ。ハタチ過ぎて経験ない方がおかしいんだもんね。大丈夫。大丈夫よ、あたし……」

「おまえ、大丈夫って、完全涙目」

おかしくって悪かったな、と突っ込む心の声は、決して気取らせない。

「ま、まさか……入江くんの初めてって……沙穂子さん?」

どどどっと涙が滂沱 のようにこぼれ落ちる琴子に、

「んなわけあるかよっ」

ど、怒鳴ってから、ため息をつく。

「じゃ、じゃあ……もっと昔に……」

「おまえ、高校時代からずっとおれを見てたんだろうが! そんな相手いたかよ」

「そ、そうだけど……でも、男の人って別に彼女じゃなくても……できるんだよね?」

いまだに涙目の琴子は疑わしげな瞳をちろりと直樹に向けた。

「……ったく」

直樹は諦めのため息をひとつつくと、「ばあか。おれも初めてだったよ。一年前の今日が……」観念したようにそう言った。

「ほ、ほんと? 」

必殺上目遣い、涙目バージョン。

ーー撃沈。
気がついたら両手を挙げて降参だ。
ベッドに沈みこませ、これ以上ご託を並べないようその唇を塞ぐ。

「この1年で何回キスして、何回……」

愛し合ったのかしら?
それとも身体を重ねたのかしら?
紡ごうとした言葉は多分そんなものだろうが、それ以上は云わせない。

あのねあのねあのね、入江くん………

喘ぎながらもたどたどしく語る言葉は何処か夢見る乙女のようで。

「結婚式あげたあの日も、入籍してくれたあの日も、あたしにとってはどれも夢のようで、世界で一番幸せだと思えた日だけど……一年前の今日の夜はまた格別な日なの」

結婚式をあげた日には「お嫁さん」になれて
入籍した日には「妻」になれて

そして、入江くんに初めて抱かれた日に、あたしは「入江くんの女」になれた

どれも大切な記念日なのよ


記念日なんて、どうでもいい。でも、その日が直樹にしても、大切な極上の日だったのは間違いない。
人生で初めて欲しくて欲しくて渇望したものを漸く手にいれることができた日なのだから。


あたしが世界で一番幸せだってことを計れたハカリは、今夜も最高に振り切れてるかも。

直樹の腕の中で、琴子は微睡みながらそう囁いたーー。





*********




「えーと、確か英英辞典がここにあったよなー」

琴子と直樹が甘い夜を過ごしている頃、裕樹は書斎を訪れていた。

「あれ? なんだ、これ?」

裕樹は机の上に置かれた一冊の洋書を手に取ってパラパラとめくる。

「………こ、これって……////////」

まだ中1だがしっかり英文を読める裕樹は、その本が何なのか一瞬で分かってしまった。
いや、本のタイトルの中にしっかり『SEX』の文字が堂々と鎮座している。
少し顔を赤らめつつ、ついぱらぱらと斜め読みし、「やべ……」と、鼻血が出そうなのを押さえる。

思わずキョロキョロしてからスウェットの裾の中にその本を押し込む。
そおっと部屋から出ようとした時、

「あ……あ、だめぇ……」

という義姉の、普段からは考えられないような妖艶な声が聞こえてきて思わずびくりと立ち止まった。

この書斎の隣は兄夫婦の寝室であった。

一瞬、しばらく此処にいようか、さっさと逃げ出すか逡巡する裕樹だったが、そろそろ母が夜食を持ってくる時間だと思い出して、壁の向こうを気にしつつ部屋を後にした。

大丈夫、僕には今夜、これがある。

スウェットの下に隠した本を、大事そうに抱えながら、裕樹は兄の結婚によって漸く手にいれた自分一人の部屋へと戻って行ったのだった。


ガンバレ少年(^w^)






※※※※※※※※※※※※※


むじかく様ファンの方、申し訳ないです。
快くアップを許可して下さったむじかく様も本当にありがとうございました。
あのハネムーンのお話は、実は1ヶ月前くらいに読ませていただいて、プライベートで一番しんどい時だったので、本当に笑わせてもらって癒されたのです。
いやーまさかハネムーン中に購入していた$26.39の本がエロ本とはーー目から鱗の新事実。びっくりぽんでしたわ(^w^)
ぜひ、アップして皆様にも読んでもらいたかったので、琴子ちゃん処女喪失記念日の11月28日の無事アップで嬉しいです♪(うちのは結局また少し日付またいで遅刻ですが)

さて……リクエストの方も……頑張ります(^_^;)でも、その前に……結構手を挙げていただいたので『媚薬えろ』いっちゃおうかなーー?







Snow Blossom


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19981122 ~木婚式の夜に (終)

2015.11.27(00:26) 189








「…………いったい……何があったの? あたし………」

琴子は呆然としたまま、シーツをひっかぶってキョロキョロと辺りを見回した。


全く記憶の欠片もない。
見覚えのない部屋。
ベッドサイドの時計は午前4時を示していた。
不夜城東京の街灯りが、もう夜明け前というのに宝石箱のように数多く瞬いていた。
こんなに大きな出窓は、琴子たちの部屋にはなかったものだ。
窓からはとうにライトアップはされていないが、東京タワーの陰影がくっきりと見えた。琴子たちの部屋からはまるで見えなかった筈なのにーー。


必死で記憶を辿ろうとするが、バーで飲んでからの記憶があまりに薄ぼんやりとしていた。

鶴だか亀だかのナンパ男がしきりに話し掛けてきたのは覚えていたが、その男の顔も思い出せない。

思い出せないが………まさか………

真っ青になる。

どうしよう、あたし、入江くんに二度と会えないかも………

目の前が真っ暗になる。

入江くん、入江くん………


がたっと音がした。

びくっと琴子の肩が震える。

バスルームの方から人の気配がしたのだ。

慌てて逃げ出そうとして、シーツにくるまったままベッドから降りたーー途端に、腰が砕けて床の上にへたりこむ。

こっこっ腰が立たない~~~なんでっ?

焦ってパニックってる琴子に向かって、バスルームから出てきた足音が、次第に近づいてくる。

きゃーきゃーきゃー

「何、そんなところに座ってんだよ」

「いっ入江くんっ」

目の前にはバスローブ姿で、髪をがしがしとタオルで拭いている愛するマイダーリンの姿が…………

「入江くんっごめんなさーいっ」

「は?」

「ごめんなさいっ許して……!」

「何を?」

「あたっあたっあたし浮気しちゃったかもなの! 全然覚えてないのだけどっ ひどく酔っぱらったみたいで……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーーっ でもあたしが愛してるのは入江くんだけだから! 例え入江くんがあたしのこと見限っても、あたしは遠い空の下で永遠に入江くんのこと愛し続けるからぁーー」

そして、直樹に腕にしがみついて泣き伏す。

「……で、いったい誰と浮気したんだよ」

直樹はため息をついて、琴子に問いかける。

「………えーと……亀なんとかさん?」

と、言いかけた琴子のほっぺをぐにゅっと両手で引っ張って、「アホか、おまえは!」と耳元で怒鳴る。

「この状況でなんで浮気したと思えるんだ」

「え?………あ……? え? ええっ」

琴子は頬っぺを擦りながら直樹を見上げた。
バスローブ姿の直樹の首筋にも赤い痕がある。

「えーと、これもしかして?」

「おまえがつけた」

「じゃ、あたしのこれも?」

シーツの中の自分の身体の痕を指差して。

「おれだが、何か?」

「よがっだあぁぁぁーー」

直樹の前でおいおいと泣き出した。

「よくない! なんで自分がまるで覚えてないのか、その状況をよーく思い出せ! まずはここに座れ!」

ベッドを指差され、「は、はい」とシーツにくるまったままでベッドの端にちょこんと座る。


「だいたいおまえはうかつ過ぎる。飲めないくせしてムードに流されて勧められるままにかぽかぽカクテル飲んだんだろうが。
なんで、おれを待ってられないんだ!」

「だ、だ、だって、どうせなら素敵なシチュエーションで待っていたかったんだもん」

言い訳にもならない言い訳を小さな声で訴える。

「そのうえ、隙がありすぎ! あんなところで声かける男なんてみんな下心だらけなんだ。おれがもし来るのが遅かったらどうなってたと思う?」

「………どうなってた……の?」

おそるおそる訊ねる。
とりあえず、直樹が来てくれたお陰で貞操の危機は脱したらしいーーというのは想像がついた。
全く覚えていないのが、もどかしい。

「ーーーおまえ、多分、過剰防衛で訴えられてたかもな」

「へ………?」














さて、今から数時間前ーー。
まだ日付が結婚記念日の当日だった、バーでの出来事に話を戻すと。




琴子の隣に座っていた男が、琴子にさらに身体を寄せて、キスをしようと迫ってきたその瞬間ーー

「あにすんのよぉーー!!」

琴子ががしっと男の唇を掴み、そのまま胸にヘディングを食らわせ、後ろに倒れかかった男の股間を蹴りあげたのだ。

「ぎええええっ」

男の悶絶の叫びが響き渡り、静かなジャズの流れる店内が騒然とする。

「勝手にぃこの琴子ちゃんの唇にキスするんじゃないのぉーーー! ばぁかーー琴子ちゃんの唇はぁひりえくんしかキスしちゃだめなの! いい? この唇はねーーひりえくんとしかキスしたことないだからねーーこれからだってひりえくん以外とはずぇーったいキスしないのおぉぉ」

完全に据わった目で男に啖呵をきっている。

そして、ふっと我に返ったように両頬に手を当てて叫んだ。

「あーー思い出した‼ どうしよーあたし、ひりえくん以外とキスしてたぁ!!」

はあ?

一瞬、呆然と事の顛末を窺っていた直樹の眉間に皺が寄る。

「……琴子………」

直樹の声に、琴子がはっと振り向き、満面の笑顔を見せたかと思うと、あっという間に泣き顔になる。

「ひりえくんだーーひりえくん、どーしよーあたし、ひりえくん以外にはキスしたことないーーってぇ思ってたのに、理加ひゃんとキスしてたぁーああ、なんてことなの~~~」

と、直樹にしがみついて、何故だか胸をバンバン叩きながら泣き出す。

理加かよ………

内心ほっとしつつ「理加はノーカウントでいーから」と、琴子の背中に手を回して、ぎゅっと抱き締める。

「ほんとぉ? よかったぁ。じゃあ、ひりえくんも理加ひゃんとのキスはノーカウントだよーー?」

「ああ」

そんなのは最初からノーカウントだが、なんで、今ここで、そこに拘るんだか。

直樹は苦笑しつつも、どんなに酔っぱらっていても、しっかり唇を死守する琴子の防御本能に内心かなり感銘を受けていたのだが。


「………ひりえくん………なんか……身体が熱いよ……」

唐突に琴子の身体がくたっとなり、直樹の胸にしなだれかかる。

「琴子?」

目がとろんとしている。
熱っぽい瞳は、何処か媚びているような妙な色香が漂っている。

「ひりえくうぅん……服、脱いじゃって、いいかなぁ……? すんごくあっづいのぉ」

そういって、前開きのワンピースのボタンを外そうとしだす。

「わ、馬鹿! 琴子! 待て!」

直樹は琴子の手を抑え、そのまま羽交い締める。
その一方で、今だ床に這いつくばってのたうち回ってる男の尻を一回蹴飛ばすと、その胸ぐらを掴んで、睨み付けた。


「貴様……琴子に、何を飲ませた?」

「いてぇなあ………ちくしょう……うわーっ血が出てる…… なんて暴力女だ! 訴えてやる」

男は頭と股間を抑えながら、涙目でわめきたてる。

「訴えてみろ。おまえ、常習犯だろ? そのカクテルの中身、分析させてもらう」

「えっ………」

「さあ、云えよ。何を混ぜた?」

「な、な、な……何も……」

「これは立派な犯罪だ。警察付き出すぞ? いいな」

なまじ容貌が美しいだけに、激怒している表情は凄絶に迫力があって怖い。
胸ぐらを捕まれた男は、逃れようとじりじりと後ずさる。

「わー待って! これだよ! 変なクスリじゃないって。少し気持ち良くなるだけの………」

ポケットから小さな小瓶を出して、震える手で直樹に渡す。
瓶には何種類かの配合薬品の名前が小さく書かれてあった。

「……それに一滴入れただけだし」

「それでも立派な犯罪だ」

どうやら危険なドラッグの類いではないようで安心するが、証拠品としてモノは押収する。

「申し訳ありません、お客様……カクテルにそのようなものを入れられたことに気付かずに……」

ずっと琴子の相手をしていたバーテンダーが狼狽して深々と頭を下げる。
プロとして、目の前で自分の作ったもにそのような仕掛けが施されたことを見抜けなかったのは忸怩たる想いがあるのだろう。

「妻の状態次第では明日警察に被害届を出すかもしれません。ご了承下さい」

「仕方ないでしょう」

淡々と言葉を交わす二人に、「ま、待って……それだけは……金なら出すから!」男は真っ青になって懇願したが、直樹はそれを無視して、男の胸ポケットから名刺入れを取り出して一枚抜き取る。

「ふん。随分御大層な会社にお勤めだな。何かあったら連絡するから首洗って待ってろ! さっさと行けよ」

どかっと尻を蹴られて男は脱兎の如く逃げ出した。

直樹の腕には琴子がしがみついたままである。
ほっておいたらそこでそのままストリップでも始めそうな勢いじたばたもがいているので、身動きできないようきつく抱き止めている。

「……ひりえくーーん。はやくお部屋いこーー」

とろーんとした眼差しで舌足らずに訴えると、直樹の首に腕を回してぎゅっとしがみつく。

「お部屋いってぇーーえっちしよーー」

大音声での大胆発言だが直樹はしれっと「あたりまえだ。せっかくの記念日、しないでどーする」と平然と返すと、「やったあー! いっぱい、えっちしよーね……むぐっ」喚き続ける琴子の口を手で塞いで、そのまま俵担ぎにする。
呆気に取られる店内の人々の視線を一身に受けて、その場を立ち去ったのであった。


部屋に戻った後、飲み過ぎと怪しいクスリのせいで琴子は一度吐いた。
しかも、ベッドに、盛大に。
直樹がシーツの交換をしてほしいとフロントに電話をすると、どうやらバーラウンジでの顛末を聞いたらしいホテルの支配人が自らやって来て、ホテル内での不祥事を陳謝し、部屋を交換させていただきたいと申し出てきた。
警察沙汰になってホテルの名前が出ることを恐れての牽制だろう。しかもどうやらあの鶴ヶ峰という男、このホテルのオーナーの親戚筋らしい。
スイートルームを差し出すのも納得というものだ。
恐らくはこのホテルで一番ランクの高いだろう最上階スイートに案内された時、直樹は不愉快そうに顔をしかめて固辞したが、「他に空いていませんので」と白々しい嘘で押しきられた。

「……妻に何か異常があったら、警察に届ける心積もりに変わりはありませんが」と念押しして、カードキーを受け取ったのだ。








「……そ、そんなことがあったのね……あたし、全然覚えてなくて」

頬を両手で挟み込みながら、赤くなったり青くなったり忙しい琴子である。

「だろーな」

記憶がないのはアルコールのせいというより、恐らくあの怪しげなクスリのせいだろう。
何度か吐かせて、水を飲ませたが、瞳を潤ませ懇願するように直樹にすがる琴子の様子は、普段とはまるで違うものだった。

「まあ、たまにはあれくらい積極的に求めてくれるのもいいもんだな」

「ええっ?」

「何度抱いても満足してくれないのには参ったが………おれも遠慮なく挑めたし。ある意味刺激的な夜になったな」

「え……うそ」

「おまえ、声、少しガラガラだろ。ずっと絶叫してたもんな。まあ、中々家じゃあんな声は聴けないし、おれも堪能させてもらったよ」

確かに、喉がいがいがとしている。

「あたし、あたし………いったい……ぜんっぜんっ覚えてない………」

半泣きの琴子に、「これに懲りたら2度とあんなとこに一人で行くんじゃない」と囁いて、くしゃっと髪を撫で付けやさしくキスをする。

蕩けるような甘いキスにうっとりした琴子は、素直に「……色々迷惑かけてごめんね」と謝った。

「……毎度のこと過ぎて、今更って感じだな」

苦笑する直樹に、しゅんとする琴子。

「……でも、おまえがどんなに酩酊しても、どんな状況に陥っても、おれ以外の男に対しては徹底的に拒絶する強固な貞操観念の持ち主だってのはよーくわかったよ」

「??? よ、よくわかんないけど、あたしは入江くん以外の人となんて絶対イヤだもん」

「知ってる。いや、あらためて思い知った」

昨夜のことを思い出してくすっと笑う直樹に、首を軽く傾げる琴子。
琴子の頬を軽く擦って、もう一度キスを落とす。

そして、シーツごと琴子を抱えあげるとそのままベッドに押し倒した。

「え? 入江くん……」

「せっかくの記念日なのに、全く覚えてないのは残念だろう?」

「それはそうだけど……で、……でも、あたし、腰が………それに頭もまだちょっと……」

迫ってくる直樹の顔に狼狽えた琴子は、じりじりとベッドヘッドの方にずり上がる。

「本当ならお仕置きタイムといいたいところだが、今からは勘弁してやるよ。記念日の大サービスでやさしくいたわってやるから」

「記念日はもう過ぎちゃったよ~~」

「今日はいい夫婦の日だろ?」

にやっと笑い、シーツにくるまった琴子を少しずつ剥いていく。

「い、入江くーーんっ」




夜明けまであと2時間半。
窓越しの東京タワーが朝焼けの陽射しに彩られるまで、琴子はそれはそれは丁寧かつ丹念に、結婚記念日&いい夫婦の日バージョンの極上大サービスを受けたのだった。




木婚式ーー夫婦が五年目にして漸く一本の木のように一体化して、夫婦としての形を為していくこと。



しっかり一体化出来て満足な直樹が、「6年目もよろしくな、奥さん」とチェックアウトギリギリまで起きられなかった琴子に、とびきり優しく囁くのはお約束なのであるーー。










※※※※※※※※※※※※




なんとか、3話で終わりました。
よかったぁ~~去年の20年目の話のように長くなったらどうしようかと(^^;

えーと、二人の熱い夜の詳細はすっ飛ばしましたが、誰か媚薬えろ読みたい人いますかーー(笑)
あちこちで媚薬えろ見かけた気がしたので今更と思って敢えて書きませんでしたが……(読みたい方、挙手を……(^-^)/)
しかし、あのクスリ、入江くん持って帰ってるんだよね(^w^)どうすんだ?


とりあえず結婚記念日をクリアしたので、頓挫していたイタキス期間のお題を達成したいと思ってます。本家が延長決定で、密かに安心している私なのです。でも一応きっちり終えたいと思っているのですよ。
いやー早くしないと年越しちゃいそうだわーf(^_^)






Snow Blossom


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19981121 ~木婚式の夜に 2

2015.11.24(21:17) 188




前の記事に、沢山の拍手コメントありがとうございました。
とっても嬉しかったです。
なんか不気味で気色悪いっ~~と思ったもののそんなに気にしてはいないので、(まあ、世の中には色んな人がいるもんだ、くらいの)大丈夫ですよ(^-^)v
励まして下さった皆様、感謝感謝です。


そして、お話の続きです。

先に謝っておこう。
今回は………直樹サイドです。
前回の琴子ちゃんの状況は………まだ引っ張るドSな私(へへっ)




※※※※※※※※※※※※※





「お兄ちゃん! 今年は結婚5周年よ! 何かプランは考えているんでしょうね?」

そんな話題を母紀子が食卓で振ってきたのは、 琴子の盛大な誕生パーティが終わった数日後 、彼女が夜勤で不在の夕食時のことだった。

「んなわけないだろ」

食後のコーヒーを飲みながら、しかめっ面で答える息子に、紀子は大きくため息をつく。

「去年は神戸に行ってて離ればなれだったんですもの。今年こそ、きちんと結婚記念日をお祝いしないと! しかもせっかくのキリの年よ?」

何しろ結婚2年目でホテルを貸しきって結婚記念パーティを仕切ろうとする母である。5年目の今年、何か言い出すだろうとはある程度予測はしていたが。

「別に5年がキリって決めなくてもいいだろ? この世は五進法で回ってる訳じゃない」

実際には5進法は10進法の中に内包されている。(そろばんやローマ数字など)5年もキリとして考えるのもそれ故と分かってはいるが、この際5年だろうが9年だろうがーーたとえ10年であってさえーーはっきりいってどうでもいい。
1年が過ぎればひとつ歳もとる。当然結婚年数も増える。それだけのことだ。


息子が誕生日も記念日も一切関心がないことを熟知している母は、
「なーによ、そのひねくれた言い方! 結婚記念日の少し前のお兄ちゃんの誕生日、いっつも琴子ちゃんが愛のあるプレゼントを捧げているのに、あなたってば、まーったく無頓着! 今年だって琴子ちゃんのバースディに何もあげてないじゃない!」

全くなんて酷い夫かしら、と額に手をやり沈痛な面持ちで再び盛大にため息をつく。

「プレゼントは形あるものばかりじゃないだろ?」

と、数年前に語った言葉を再び返す。

「 どうせ看護計画みてあげたとか、そんな類いのことでしょ?」

二十歳のバースディのときは騙されたけど、お兄ちゃんの考えてることなんてもうまるわかりよ! ーーと、息巻いている紀子である。
どうやら二十歳の誕生日に部屋に籠って試験勉強をみていたことはばれていたらしい。

少なくとも結婚して以来、琴子へのバースディプレゼントは、紀子が二十歳の誕生日に期待していたことそのままである。
もっとも誕生日以外も日夜励んでいることだから、特別なものという訳ではないが、誕生日は特に念入りに、微にいり細にいり、至れり尽くせり、頭の先から足の先まで余すことなく可愛がっているのだ。特別大サービスで、砂吐きそうな甘い言葉だって(琴子が朦朧としている時を狙って)囁いている。これ以上のプレゼントなんてないだろ? ……と、密かに思う直樹であった。
恐らく紀子に云ったら、「それは誰が得しているのかしら? 」 と突っ込まれそうだ。
確かにーー琴子へのプレゼントと称して、何だかんだ一番直樹が琴子を味わって、至福の時を堪能しているのだから。


「本当は五周年記念パーティを例のホテルでやろうと思っていたのだけど」

「おふくろ!」

「……わかってるわよ、あなたたちが今は病院勤めで自由に休みを取れる身分じゃないってことは」

まだ神戸から斗南に戻って半年足らずの直樹と、看護婦になって半年の琴子が、揃って休みをとるのはなかなか難しい。そして特に直樹の方は休みはないも同然とも言われる超多忙な研修医だ。

「ホテルの優待券があったから、とりあえず一泊予約しておいたわ。今ならまだシフト調整出来るでしょ? なるべく休みを合わせて二人でいってらっしゃい」


中々子供に恵まれない息子夫婦には、これが一番のプレゼントと思ったのか、あるいは、下手に大袈裟なパーティを開けば天邪気な息子の機嫌がすこぶる悪くなり、可愛い嫁に被害が被るとやっと悟ったのかもしれない。

確かに共に医療従事者である二人の仕事は多忙な上に、シフトがずれれば一週間スレ違いということもある。旅行などほぼ諦めているが、都内のホテルなら何があっても緊急に病院に戻れるため、直樹は今回は特に異存なく受け入れた。
無論、当日何かあってキャンセルになる可能性は高いと釘は刺しておいたが。

「まあ、記憶に留めておくよ。でも、琴子にはまだ言うなよ。そんなこと知ったらあと一ヶ月半以上、浮き足だってまともに仕事出来なくなる」

長い間楽しみにして指折り数えた挙げ句にキャンセルとなったら、反動で地の底まで沈みそうで怖い、というのが本音であった。
無論仕事でキャンセルになった時には文句も云わず笑って送り出してくれるだろう。絶対顔に出さないよう努力はしているけれど、心の奥底で寂しがっているのは手に取るように分かってしまう。


ーーという、琴子限定でその心情を理解するくらいには成長した直樹のお陰で、琴子は直樹の誕生日を過ぎてから初めて、結婚記念日の計画を紀子から聞かされた。
そしてその日から当然のように、浮き足だった琴子の妄想の日々が始まったのだ。

直樹も自分のシフトは、当日どうなるのか分からないとは思いつつ、とりあえず21日は日勤で翌日は休みを入れておいた。
琴子の予定は、シフトが決まる前の月に、桔梗幹に然り気無く休みの日を誘導するように示唆した。
露骨に云わなくても察しのよい幹は、わかりましたと言わんばかりに、見事に、琴子にも21日日勤の翌日休みというシフトを取らせた。
まあすっかり結婚記念日のことを忘れていた琴子にちゃんと思い出させただけの話だが。


去年は遠距離中の結婚記念日で、寂しい想いをさせたから、たまにはお膳立てに乗るのも悪くはないだろう。

母の思惑に乗ってしまったことに、心のなかで言い訳をして、琴子ほどではないものの、当日何もないことを密かに祈っていた直樹であった。


ーーそして。
前日までは何事もなかったのだ。
急変しそうな担当患者もなく、このままなら計画通りに行けそうだーーと思ったところに、当日の昼前になって、外来で担当していた心臓病の患児が、突然の発作で救急車で運ばれてきたのである。
救命から連絡を受け、すぐに緊急オペとなった。研修医の直樹も第一助手としてオペに加わることとなる。

オペ室の前で不安そうにしていた琴子に、「先にホテルに行ってろ」と、言ったのは、真夜中過ぎても駆けつけるつもりでいたからだ。

そして無事にオペも終わり、一度琴子に、経過を見てからホテルに行くとメールをしたら「よかった! 助かったのね、その子!」と、記念日に間に合うことよりも、まず子供の無事を心から喜んでいるのが文面からすぐに分かり、直樹の心もじんわりと癒される。
その後、術後の安定を確認した時は、もう午後10時半を回っていた。

ーーとりあえず、記念日中には間に合いそうだ。

直樹は安心して、着替え終わったところで、ふとメールの着信があったことに気がついた。

『バーで0時まで待ってます』

はーー?

途端に直樹の眉間に皺が寄る。
そして、即メールを返信した。

『一人で行くな。間に合うから、ちゃんと部屋で待ってろ』

しかし、琴子からの返信はない。
さっさと出掛けてしまっていてメールを見ていない可能性が高い。

あの馬鹿!

直樹は焦って病院を駆け出し、タクシーに飛び乗った。

確かに、琴子は夜景の美しいというそのバーラウンジに行くことをとても楽しみにしていた。

ーーねぇねぇ、二人のイメージにあったカクテルをサービスしてくれるんだって。

ーーおまえ、カクテル一杯でどうせ撃沈だろ。カクテルって、結構アルコール度数強いんだぜ?

ーー大丈夫だもん、入江くんが傍にいてくれれば。


そう、自分が傍にいればどんなに飲んでも構わない。

だが、一人で飲んで……酔っぱらうだけではなく、まるで無防備になった琴子に、ちょっかいをかけてくる輩がいるのではないのか、という心配が真っ先に浮かんだ。


直樹はイライラと落ち着かない気分で、タクシーのシートに身を置きつつ携帯を何度となく確認する。
こんな時に限って、やたらに信号に引っ掛かる。赤く光るブレーキランプが連なる様に苛立ちはさらに募る。

ホテルに着くとほぼ同時に運転手に札を渡し、直ぐ様飛び降りて、玄関の回転扉を潜り抜けた。
そのまま一気にエレベーターホールに向かい、中々来ないエレベーターにまたもやイライラしながら降りてくる数字を眺めていた。


漸く最上階にたどり着き、すぐに目についた扉を躊躇いもせずに、バーンと開けた。

薄暗い店内だが、ざっと見回しただけで、琴子がカウンターに座っているのを確認した。一瞬の琴子探知能力である。
そして危惧した通り、横に見知らぬ男が座っているではないか!
しかもかなり馴れ馴れしくパーソナルスペースを乗り越えて接近し、今にもベタベタと触りそうな距離感である。

直樹の眉間の皺が、そのまま取れなくなるのではないかと思える程、深く寄っていた。傍(はた)から見ればかなり怖い形相をしていたかもしれない。

無論周りの視線など気にするべくもなく、つかつかとカウンターの方へと歩んでいく。

ーーーーー!!

歩みが駆け足になる。
男が琴子の頤(おとがい)に指をかけたのだ。

「触るなーー俺の妻にーー」

言いかけたところで、パタリと足が止まった。

目の前でーー呆気に取られるような光景が広がったのだった。









※※※※※※※※※※※※※※





すいません、毎度毎度引っ張りまして(^^;
次こそは前回の続きが明らかになりますので(^-^ゞ


リコメも滞ってまして申し訳ありません。とりあえず話の方をさくさくと進めていこうかと。あと、今リコメしたら自分でネタバレしちゃいそうな気もしたりして。なにげにうっかりな喋りたがりなもんでf(^_^)てへっ




Snow Blossom


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ちょっと、お知らせ。

2015.11.22(23:30) 187



何のお知らせかともうしますと。

既出の記事の『幸せのLapis lazuli』と、『幸せのBlue Tpuz』の2つのお話を限定記事に変更しました、というお知らせです。

なんで突然そうしたかと言いますと、先程『幸せのBlue Tpuz』にちょっと謎なコメントがありまして。
無記名でもなく公開コメントで、誹謗中傷な内容というわけではないのですが…… どうにも意味不明で。少なくともお話の内容には一切触れていません。
ドキッとしたのは、一瞬テロのことに触れたせいなのかと思わせる単語がちらついた為。とはいっても、そのことにも触れてはいず、散文的で思想的、政治的、かつ何だか不安を煽るような言葉の羅列で、何を言いたいのか今一つ分からない内容でした。ちょっと不気味さを感じました。
何にしろお話の感想ではないのでさくっと削除させていただきました。

パリの事に触れた為に何かの検索に引っ掛かり訪問されたのかな、とも思いました。
安直に時事ネタや、政治に関わることに触れたことを少し後悔しています。
色々悲しい記憶を想起させてしまった方もいるかもしれません。
ブログというのは不特定多数の方が見るということを肝に銘じなければ、と反省しています。

折角の、琴子ちゃんと直樹さんのバースディストーリィ、削除はしたくありませんでしたので、限定にするという形にさせていただきました。

色々お手数をかけさせてしまいますが、よろしくお願いします。

『幸せのBlue Tpuz』まではコメント返信、完了しました。コメント下さった方々には申し訳ありませんが、鍵を開けてご確認下さいませ。


ののの





Snow Blossom


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19981121 ~木婚式の夜に 1

2015.11.22(01:08) 186




惜しい!
結局、結婚記念日に、僅かに間に合いませんでした(>_<)
仕方なく、いい夫婦の日にアップです。
まあ、いいか、このお話も結婚記念日からいい夫婦の日にかけてのお話です。
そして、一話で終わらなかった………多分前後編くらいの予定ですが、目算が当たったことはないので数字を振っておこう(^^;


大遅刻ですが、一応。
直樹さん、琴子ちゃん、結婚記念日おめでとう\(^o^)/





※※※※※※※※※※※※







うわー、緊張するー………

琴子はエレベーターで最上階のフロアに降り立つと、目の前に現れたシックな木製の扉の前で少し躊躇しながらその取っ手に手を掛けた。

きゃー綺麗!

仄暗い店内の奥に広がる窓辺の向こうには、東京タワーを中央に据えた見事な夜景が一望できた。
内心、少しばかり気分があがる。

お義母さんやモトちゃんの云ってた通り、ホント、見事な夜景だわっ


そのホテルの最上階のバーラウンジは、宝石箱のような夜景がウリで、記念日にはカクテルサービスをしてくれるから是非お兄ちゃんといってらっしゃい、と、義母からのお勧めを受けていた。


ホント、素敵………入江くんさえいてくれたら。


琴子が店内に入るのを躊躇っていたのは、女性一人で入店する場ではないように思われたからだ。
だいたい、バーというところに足を踏み入れたことがない。
ホテルのお洒落なカクテルバーなんて、カップルて訪れるのが当たり前という雰囲気がある。こんなところに女一人なんて、失恋でもした寂しい女というイメージだった。

それでもどうしても来てみたかったのは、もしかしたら直樹が来てくれるのではないかという20%くらいの期待があるからだ。
この素敵な夜景を二人で眺めながら、色鮮やかなカクテルのグラスを重ね、この幸せな記念日をお祝いしたい。

ーー入江くん、五周年おめでとう。

ーーおめでとう、琴子。

ーーこのカクテルは二人をイメージしたものなんですって。可愛いピンクで幸せのイメージよね。

ーーおまえみたいに可憐な感じだな。

ーー素敵な夜景ね。

ーーこれを全部おまえにプレゼントするよ。

ーーまあ、嬉しい! これからも宜しくね、入江くん。

ーーああ、宜しくな、奥さん。


琴子は数日前から何度もその様子を妄想して脳内再生を繰り返し、ついつい仕事に障りが生じ、周囲を呆れさせていた。



うーん、何処の席に座ったらいいの?

バー初心者の琴子には何をどうしたらいいのかわからない。
夜景の見える窓際に座りたいが、そこはやはりカップルで満席だった。

「お一人様ですか?」

ボーイに訪ねられ「は……はい!」と答えてから慌てて「いいえっ 後から連れが来ます」と訂正する。
「………来る……予定です」さらに小さな声で呟く。
(術後に何も問題さえなければ!)


結婚記念日の今日、ホテルを予約してくれたのは、例の如く手回しの良い紀子であった。

「琴子ちゃん、ホテルの優待券を貰ったから、結婚記念日に予約しておいたわよ!」

直樹の誕生日を過ぎてから唐突に云われ、思わず「きゃーお義母さん嬉しいですぅ」と抱きついたものの、果たして直樹がそれに乗ってくれるのか、かなり不安であったのだが。
とりあえずすぐにシフトを確認し、お互い夜勤も当直もないことを確かめた。そしてラッキーなことに共に翌日が休みであることを知って内心狂喜乱舞しながらも、一応恐る恐るとお伺いをたてた。
母の手によるお仕着せのお祝いを一番嫌う直樹である。

だが意外にあっさり「別にいいけど」という返事だった。

「但し! 当日何があるかは分からないからな!」

それについては声を大にして宣言された。


わかってる。
わかってますとも。
これでもあたし、医者の妻ですからっ

そう思いつつも何事もないことを神にも仏にも月にも星にも祈り続けた10日間だったがーー

多分、いろいろなものに祈り過ぎたせいねーーと琴子の反省も時既に遅く、当日直樹に緊急オペが入ってしまったのだ。
午後から始まったオペは6時間に及び、術後安定するまでは当然帰れない。

それでも何時になるか分からないけれど、ホテルで待ってろ、と云ってくれたので、琴子は仕事を終えた後、一度家に荷物を取りに帰り、着替えてからホテルに向かう。はじめは気合いの入ったカクテルドレスを準備していたが、カジュアルエレガンスなワンピースに変更した。
オペが入って時点で、予約していたディナーはキャンセルしたのだ。
一人ぼっちでレストランに入る気にもなれず、コンビニでお弁当を買って、ホテルの部屋で一人寂しくテレビを見ながら結婚記念日の夕食を済ませた。

むなしい。
むなしいけど、仕方ないのよ。
だって、入江くんは今、一生懸命病気と闘っている子供の命を救おうとしているのよ!
あたしが応援せずにして、誰が応援するっていうのよ!

ため息をつきそうになる自分を一生懸命鼓舞する。


ーー夕食は一緒にとれなかったけれど、せめて、バーで夜景を見ながらお祝いすることくらい叶わないかしら。

手術を終えた直樹とメールをやり取りした感触では、予後は安定しているらしく、思ったより早くホテルへ向かえそうとのことだった。
せっかく紀子が手配してくれたのだ。
なるべくなら、カクテルでもシャンパンでも、少しはお祝いチックなことをしたい。
ホテルで寝るだけなんて、折角の高級ホテルなのにまるでただのラブホ………いやいやーー琴子は首をブンブン振って思考を無理矢理停止させた。

ある意味ラブホとして利用できるならまだマシだ。もしかしたらこのまま、広いダブルベッドで独り寝になったとしたら余りに寂しすぎる。

予約してくれた部屋はかなり高層階のシックな調度の置かれた素敵な部屋だった。ダブルベッドがバーンと鎮座し、この部屋からの夜景も十分美しい。ただ方角的に東京タワーは見えなかった。


しばらく部屋で直樹の連絡を待っていたが、どうしてもその夜景の綺麗なバーに行ってみたくて、直樹にメールを送った。

『バーで0時まで待ってるから』


お洒落なバーで恋人を待つという構図もちょっと切なげでドラマチックじゃない? (恋人じゃないけど)
ーーと、なんとか自分に言い聞かせる。
結婚記念日のギリギリまで待って間に合わなかったら仕方ない。

そして、ちょっとドキドキしながら、案内されたカウンターに今座っているところである。

窓際ではないので、夜景は見えないと思っていたら、カウンターの奥の壁面が鏡となって、夜景を映し出してくれていた。
バーテンダーの背後に夜景が広がっているような不思議な錯覚をもたらしてくれる。


「何にいたしましょう?」

30代半ばくらいの落ち着いた雰囲気のバーテンダーがメニューを差し出しながら訊ねた。

「実は今日、結婚記念日なんです。主人が遅れてくるので、それまで何か適当に見繕ってください。あたし、カクテルとかよくわからないので」

「それはおめでとうございます。わかりました、お任せください」

琴子はそのバーテンダーと他愛もない会話をしながらカクテルが出来上がる過程を見つめていた。
会話も世間話から雑学から、機知に飛んで面白い。
バーテンダーって、頭のいい人なんだな、と少し感心する。
そして話ながらもシェイカーを振る所作は流麗だ。

「どうぞ」

カクテルグラスに注がれたそれは、少しふんわりした卵色だった。

「わー、なんかふわふわしてる」

「『ホワイトローズ』です。ドライジンベースで、オレンジジュース、レモンジュース、卵白とシェイクしてます」

「卵白? それでふわふわしてるのね」

「ホワイトローズ……白い薔薇の花言葉は『永久の愛』。結婚記念日の方にお勧めしているカクテルなんです」

「まあロマンチック! ありがとうございます」

入江くんと一緒に飲みたいなー

そう思いつつも少しずつちびちびと飲む。

「わ! 甘くて美味しい。口当たりも柔らかで」

「ありがとうございます」

その後もバーテンダーと会話を楽しみながら、ゆったりと時間が経つのを待った。
しかし23時を回っても直樹が来る気配はない。
琴子は時折入り口の扉と腕の時計を交互交互にちらちらと窺いながら、ゆっくりと一杯のカクテルを飲んでいた。

グラスが空になってまもなく、バーテンダーがまたひとつグラスを差し出す。
重厚な取っ手のついたジョッキに、明るい蜂蜜色の液体がきらきらと輝き、くし切りレモンとシナモンスティックが添えられていた。ふんわりと湯気がたち、リンゴとレモンとシナモンの薫りが立ち上る。温かいカクテルのようだった。

「え? あたし何も」

「結婚記念日のサービスですよ。五年めと伺いましたので、『ホットブイ』を。ドランブイというヒースの花の蜂蜜やハーブから作られたリキュールにホットアップルジュースを加えています。シナモンスティックを添えているでしょう? 結婚五年目は木婚式ですから、木に関わるものを、と。シナモンはクスノキ科の常緑樹の樹皮から作られてますからね」

「わー嬉しいです。あたし五年目が木婚式っていうのも知らなかった。あ、あったかーい」

「ハーブが色々入っているので、風邪引きの時にいいんですよ。特に喉に」

「うん、そんな気がする。あったまるし、身体に良さそう。薬っぽいわけじゃなくて林檎味で飲みやすいし」

くるくるとシナモンスティックをかき回しながら、琴子はナースらしくバーテンダーと薬や風邪やハーブの話で盛り上がる。

「このまま、結婚記念日、過ぎちゃいそうだなー」

がっかりした面持ちでいつまでもシナモンスティックを弄んでいる琴子に、
「0時過ぎたら、『いい夫婦の日』ですよ。それはそれでいいんじゃないでしょうか」とバーテンダーが慰める。

「いい夫婦? ああ、11月22日だから? 面白い語呂合わせね」

「今年から制定されたそうですよ」

「へぇ~~そうなんだ。あたしたちもいい夫婦かしら?」

ふふっと笑いながら、少し冷めてしまったホットブイを飲み干す。
寂しいけれど、身体はほかほかと温かくなってきた。





「すみません」

カウンターの端で一人の男性客と話をしていたもう一人の若いバーテンダーが琴子の所に来て、
「あちらのお客様が、これを、と」
一杯のカクテルを目の前に差し出す。
蘭の花とフルーツがグラスに添えられただけでも美味しそうなのに、ルビー色とオレンジ色の二層に別れた色鮮やかさが目にも美しい。

「『マイタイ』です。トロピカルカクテルの女王と言われています。あちらのお客様が太陽のように輝いて見えるあなたに是非、と」

「え? え? えーー?」

カウンターの端を見ると、琴子と同じくらいの年の男が、ふっと軽く目配せして
きた。高級そうなスーツを身につけた、そこそこ見映えのいい顔立ちの青年である。まあ直樹より遥かに下のランクだが。
とはいえ、そうそう滅多にないシチュエーションである。

な、なんかドラマみたいじゃなーい?

ちょっとどぎまぎしたが、貰ってしまっていいものか分からない。

だいたい、こーゆーのって、ナンパの常套手段だよね?
あたし、既婚者だし、今、旦那様を待ってるわけだし、受け取るわけには……
いや、でも太陽のようにって……いやーん……あたしも満更じゃないってことよね?

困惑もありつつ、密かにテンションもあがる。

グラスに口を付けるのを躊躇っていると、いつの間にか、端にいた男が琴子の隣にちゃっかり移動していた。

「待ち人は来ないようだね。どう? 寂しい者同志で僕と一緒に飲みましょう」

琴子の相手をしていてくれたバーテンダーが、男に「こちらのお客様は結婚されていますよ」と伝えてくれた。

「そうなんだ。待ってるのは旦那さん? でも、別にいいんじゃない? 一緒に飲むくらい。これも一期一会の縁ってもんですよ」

どうも斗南の西垣医師と同じ匂いを感じつつも、「……多分主人は間もなく来ると思いますので」やんわり断ると、「じゃあ、来るまでってことで。あ、僕にはドライマティーニを。で、ご主人何してる方?」
などなどと、ぐいぐい話し掛けてくる。

「へぇ君はナースで、旦那さんはドクターなんだー! いいねぇ」

話してみると気さくで話しやすく、基本誰にでもすぐ打ち解けてしまう琴子は、ついついその鶴ヶ峰という男に、自分の結婚五周年の歴史を語って聞かせていた。

「なんかさー話聞けば聞くほど、君の旦那って酷い奴じゃない? 誕生日に何もくれない、結婚記念日も親任せ、その上仕事優先で嫁をほったらかし、なんてさぁ。どう? どうせもう今夜旦那、来そうにないだろ? 僕の部屋においでよ。最上階のスイートに泊まってるんだ」

ずずすいっと、鶴ヶ峰が琴子にすり寄り、いよいよその本性を垣間見せはじめた。
けれど、琴子は最後の二言を聴いていない。

「らによー! ひりえくんはねぇー ひどくなんかないのー ! 冷たいけどぉ、実はぁとってもぉーやさひーのぉーだよーっだ! 」

実は、カクテル二杯の段階で、すっかり酔いが回ってしまった琴子は、ほぼ鶴ヶ峰と噛み合わない会話を続けていた。

「ナースっていいなあ。スッチーとモデルはあるんだけど、ナースって初めてかも。顔もまあ可愛いしね。ね、そんなつまんない旦那より絶対僕の方がいいよ」

「なにをーー! 全然つまんなくないのぉーー! ひりえくんわーめっちゃつまる男なんですぅーーい、い、今だってぇーひりえくんはーー病気と闘う子供たちの為に頑張ってるんですぅーーせーぎのヒーローなんですぅ」

「僕なら君を守る為だけに闘うのになーー」

そういって、鶴ヶ峰はさらに琴子と距離を縮める。
そして琴子の頤に手を掛けて、振り向かせる。

「へ?」

ぼんやりした琴子がはっとした時には、男の顔が眼前に迫っていたーー












「…………あれ?」

琴子が肌寒さにぼんやりと目を覚ますと、そこはベッドの上だった。

「いた……っ」

頭がいたい。
この感じ、どうやら二日酔いだ。飲み過ぎたらしい。
飲み過ぎたーーそう、飲み過ぎたのだ。でも、何処で?
記憶が混濁している。

えーっと……確か、ホテルのバーで……入江くん待ってて……そしたら鶴だか亀だかが話し掛けて来て………

はっと起き上がる。
そして、自分の姿を見て、愕然とする。

あたし、ハダカ!?

な、な、な、な、なんでぇーー!

布団の中の自分は一糸纏わぬ姿であった。
隣を見ると誰もいない。
だが、シーツは寝乱れた痕跡がある。

それに。

ここ、何処の部屋?

自分達の部屋ではない。あきらかに。
ずっと広くて、調度品も豪華でーーここは多分、スイートルームとかいう場所ではなかろうか。

な、なんで、あたしこんなとこに?

さっぱり記憶がない。
ないが、鶴だか亀だかが最上階のスイートルーム取っててどうのこうの、という話は耳に残っていた。


ま、ま、まさかーーあたし……


自分の身体を恐る恐る覗きみる。
記憶にない場所のあちこちに赤い痕があった。ここ数日、シフトのスレ違いのせいで直樹とは身体を重ねていなくて、すっかり痕はなくなっていた筈なのに。
何となく、下腹にも違和感がある気がする。ぬるりとするものが脚の間から流れていく感触に真っ青になる。



あたし、あたし、あたし、もしかしてーー

不倫しちゃったのぉーーー!?







※※※※※※※※※※※


ここで終わるかよ?
………って結婚記念日ストーリィに、また変な展開でごめんなさーい(^^;
(直樹さん、全く出てこないし……)
なるべく早く、続きアップしますねー(^^;






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20011112 ~幸せのBlue Tpuz

2015.11.17(00:21) 183

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とある1日のお話(西暦シリーズ) トラックバック(-) | コメント(-) | [EDIT]
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バースディイブですが………

2015.11.11(23:28) 182



ご無沙汰してます。

嵐のような10月が過ぎ、もう直樹さんのバースデーじゃありませんか!!

一応こそこそと、この日に向けて復活準備をしてはいたのですが……
挫折宣言しておきます。
当日は無理です………でも、そのうちに、必ず、きっと(^-^ゞ

前回の記事にあたたかい拍手コメント下さった皆様、過去記事にコメント下さった皆様、ありがとうございました。色々心配おかけしてすみません。なんとか過ごしてます。返信、今暫くお待ち下さいませ。


プライベートであれこれあったうえに、さらには唯一の創作アイテムのスマホが壊れ(ただいま代替品)、そのうえ仕事で突然の配置転換、引き継ぎで残業続き………ついでに右足の親指に金庫の扉が激突し、ポンポンに腫れて紫色になったりとか。やっとびっこひかずに歩けるようになりました。
踏んだり蹴ったりの2015年秋。何の祟りだろう? 大蛇森、恐るべし。

今日はポッキーの日。幾つかのブログでそのネタを拝見し、そういえば去年、私もポッキーゲームに興じるバースデーイブの二人の話を書いたなーと思いだしまして。
(19991111 ~今日は何の日?)



話を書く時間が作れないものでお絵描きだけ。すみません、15分もかかってない落書きです……(^^;





(代替のスマホ、性能がいいせいか、写真が超アップになってしまった……恥ずいかも(*_*)何にしろ、自由にサイズ調整の出来ない機械音痴です)



さて、ポッキーを食べた後、ベッドになだれ込むのはお約束なのです(^w^)気がついたらもうバースデーなのです。ええ、勿論プレゼントは琴子ちゃん(笑)




あと少しで直樹さんのバースデー。
これを読んでる方の殆どはきっと、バースデー過ぎてからでしょうから、フライングで一応。

Happy Birthday ! 直樹さん♪







Snow Blossom


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