少しお休みしますm(__)m


お久しぶりです。

お話の更新でなくてごめんなさいm(._.)m

いったいどうしたことでしょう。このイタキス月間、何かの呪いがイタキスサイトマスター様たちに様々な体調不良をもたらしているような。
せっかくのお祭り、その分頑張ってお話更新して少しでも盛り上げねば、と思っていた所なのですがーーとうとううちにも………(T.T)

これはやっぱり大蛇森の呪い!?



私の体調不良とかではないのです。

いつか来ることだと覚悟はしていたけれど、ちょっと不意討ち過ぎて、全然覚悟は足りなかったな、と思い知らされています。
そして、なんで今なんだよ、と。

時折、現実逃避の手段としてつらつらお話書きかけたり、よそ様のブログチェックしたりはしているのです。なんとか何事もないフリしてアップ出来ないかなと模索してましたが、さすがに更新までに至りそうにはないです。

というわけでお休み宣言です。浮上まで今しばらくお待ちください。




ののの











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絶え間ないkiss

イタズラなkiss期間2015



もう絶対

死ぬまで離れないからね



覚悟してるよ






手を繋いで歩いた。
大学の門を通り抜け、桜並木のプロムナードを(いや、桜は咲いてないけど、何だか満開の気分)二人並んで歩くのも本当に久しぶり。
しっかり指を絡めあったまま繋いでこの道を歩くのなんて、もしかして初めてかも?

どきどきする。

ちらりと横目で隣の入江くんの顔を見上げる。

すぐにあたしの視線に気付いて、「何?」と訊いてきた。

「う、ううん。何でもない」

真っ赤になって俯くあたし。
何だかふわふわしてまだ信じられない気分。

だって、だって、今朝、二日酔いの頭を抱えながらこの道を通って大学に向かっていたあたしはーー世界で一番サイテーサイアクな不幸のどん底にいたんだよ?



入江くんはあたしのこと好きじゃないのよ

あたしのこと好きじゃなくなったんでしょ

ううん、最初からあたしのこと好きじゃなかったんでしょ?

なんであたしなんかと結婚したの

あたしばっかり好きで もう もう いやだ




言ってしまった言葉は取り戻せない。
もうおしまい。
多分もう、無理。
夢だったんだ。この2年間の出来事なんて。
そう思って忘れてしまった方がいい。
きっとあたしは長い長い幸せな夢を見ていただけ。
そして、今、夢から覚めてしまったんだーー。
そう、結局あたしはずっと片想いだった。永遠に片想いのまんまだったんだ。
泣いてわめいてクリスや金ちゃんに管を巻いて、それでもどうにもならないってわかってた。
人の気持ちなんてどうこうすることは出来ない。
入江くんがあたしのこと好きじゃなくなったのなら、もうどうしようもないんだって………

だから、もう。
入江くんと並んで歩くなんて、二度とないと思っていたーー。


けれども。
今のあたしは朝のあたしと真逆で、世界で一番幸せな女になってる。
もうあたしのことなんて嫌いになったんだと思い込んでいた旦那様が、みんなの前で大胆な愛の告白してくれて。

あたしが必要なのだと云ってくれてーー

みんなの前で強く抱き締めてくれてーー

もう、それだけであたしの頭の中は沸騰しそうになっちゃったわ。

それからもうずっとふわふわ夢心地で。

二人で家に帰る道すがら、黙々と歩く入江くんをうっとり見つめるだけーー何だか2年前のあの雨の日を思い出す。

あの時もこんな風に、もしかして夢を見てるのかしらーーなんて、ひどく非現実で地面に足が付いてないような不思議な気分で入江くんと手を繋いで歩いてた。

2年前のあの時もーーそして今も、ほんの少し前まで、息をするのも苦しいくらいの絶望的な闇の中にいたあたし。
でもあの時も今も、結局、その闇からあたしを引っ張り出してくれたのは、この入江くんの手なんだよね。




あたしたちが二人一緒に帰ってきて、手を繋いだままの状態でリビングに入っていくと、みんながあたしたちの方を注目した。

あれ、やっぱりデジャブ?
何だか本当にあの雨の日をやり直しているみたい。

「仲直りしたのねっ?」

そういって両手を組んで泣き出さんばかりのお義母さん。
裕樹くんも驚いた顔からぱっと花が咲いたように笑顔になる。
お義父さんも凄くほっとした顔。
チビまで尻尾振りまくって!
ごめんね、みんな心配かけて。

そして、お父さんもーー

すると、入江くんがつかつかとお父さんの方に向かってーー

やだ、ほんと、あのプロポーズの夜みたいじゃない?

「お義父さん、ご心配おかけしてすみませんでした」

入江くんがお父さんに向かって深々と頭を下げる。
ええっ!入江くん……!?

「もう、大丈夫なんだな?」

「はい」

そしてあたしの顔を見て、入江くんはもう一度しっかり手を握りしめてくれた。あったかい、大きな手。

「もう、絶対琴子を泣かせません」

お父さんに向かって毅然と誓う入江くん。
やだ、そんな嬉しいこと云ってくれるとそれだけでもう涙が出ちゃうよ。

「それは無理だな」

お父さんがあたしの顔をチラッと見て笑った。

「こいつは泣き虫だから。嬉しい言葉でもすぐに泣くだろ」

ほら、もうほろっと涙が零れ落ちる。

「琴子。昨日お前が家を飛び出した後、直樹くん、すぐに店に電話をしてくれたんだ。多分店に来るからって。その時は冷静そうな口調だったけど、お前が来たことを伝える為におれが電話した時は、物凄く安堵した感じだったよな」

「……………」

ちょっと複雑そうな、照れくさそうな顔の入江くん。
へへ……嬉しいよ。
やっぱり涙が止まらない。

そのあとは、みんなでちょっとしたパーティ。
あっという間に沢山のお料理を作ってくれたお義母さんって本当に凄い。
何だか久しぶりに食べ物に味があることを感じられて、心から美味しいって思うことが出来た。
みんなの弾けるような笑顔が心地よい。
家族の食卓がこんなに明るく賑やかになったのって、いつ以来だろう?
ごめんね、みんな。あたしたちのせいで、ずっと陰鬱な雰囲気にさせてしまっていたんだよね。

入江くんもずっと優しく微笑んでる。
ただそれだけのことであたしはこんなにも幸せで心が温かい。
へへ。
やだ、嬉しくてやっぱり涙が出ちゃいそう。





食事を終えて、少しリビングでみんなとゆっくり過ごして……でもちょっと時計をちらりと見てしまう。
早く……二人っきりになりたいな……なんて。

「風呂、行ってくれば?」

「………うん」

入江くんに促されて、先にお風呂に向かう。
ちょっと長湯になっちゃうかもよ?
ぴっかぴかに磨きたいもん。
………ってなんかあたし、めっちゃ期待してるみたいなんだけど。……してるか……うん。してる………。してますとも!

………入江くんも……だよね?





お風呂から出た後、あたしたちの部屋に戻ると、入江くんは窓辺に腰かけてた。

窓の外には煌々と耀くまんまるお月さま。
今日は満月?

「満月じゃなくて、立待月だな。月齢14日。満月の一歩手前」

「ふうん。そういえば、ちょっと歪(いびつ)かも」

「正しくは満月イコール十五夜って訳じゃないんだけどね。月の公転速度は一定じゃないから」

「そ、そうなんだ」

よく、わからないけどーー。

よくわからないけれど、今日の完全無欠じゃないちょっとだけ欠けた月もとっても綺麗だよ。
少なくとも豆球の灯りも要らないくらい室内は仄かな白光に映し出されていた。

窓辺にぴったりと顔をよせて月を見つめていると、あたしの背後の入江くんが手を伸ばして、いつのまにかパジャマの釦を外し始めてる。

あたしの視線は月に向かったままだけど、意識はもう鮮やかな所作の入江くんの手の感触に掴まっちゃってた。
あっという間に釦は全て外されて、パジャマの上着は床に落とされる。
パジャマの下は花柄レースのオレンジのキャミソール。

そのまま入江くんの方に身体を向けると、ふわっと抱き締められて。
思わずうっとりと瞳を閉じてその入江くんの胸に引き寄せられた感触を味わう。
入江くんはあたしの頭を優しく撫でてくれる。



とびっきりのkissをしようね

たくさんたくさんしようね


ねえ、あたしたち今までどれくらいkissをしなかったと思う?

夏から秋に季節が変わって。
リップの色も少し変わったの、知ってた?

もし、1日3回kissしてたとして、3ヶ月くらいしてなかったならーーその分を取り戻すなら、あたしたちーー

「270回」

そう、270回はkissしなきゃ。

「えっちは月23回として(←生理を抜いたほぼ毎日計算)だいたい69回か。さすがに一晩に69回は無理だな」

……計算はやっ
ってか、何の計算してるのぉーー

「………kissだけで、いいです。取り戻すのは……」

「遠慮しなくていいのに」

「遠慮……なんて……あん」

あまやかなkissがあちこちに落とされる。

額に。頬に。唇に。鼻の頭に。もう一度唇にーー。


例えようもなく優しいkiss

堪らなく心を震わせるkiss

ただただ一途に追い求めてくるkiss

絶え間なく降り注がれるkissの雨ーー

あたしはもう訳が分からなくなって、受け止めるだけで精一杯でーー


とびっきりのkiss

たくさんのkiss

絶え間ないkissに翻弄されて、あたしは月の光に照らされたベッドの上で、あられもない肢体を泳がせていた。
シーツの海のなかで啼いて喘いで、溺れてしまいそうな身体を何度も入江くんに繋ぎ止められて、そのまま意識は深い海の底に堕ちていく。


「琴子………」

まるで波の音のさざめきのように、優しい入江くんの声が耳元に響く。


「琴子……ごめんな」


どうしたの? ごめん、なんて入江くんらしからぬセリフーー


ああ、あたし夢を見ているのね?

「叩いて……悪かった」

えーと……?
あ、そういえば本とか投げつけたとき、入江くんに叩かれたっけ。
ふと、記憶が2年前の雨の日と混濁する。あの日もひっぱたかれたよね。あたしってば2度もはたかれてるのね……
不思議。あの日と妙にシンクロしてるのは何故かしら。

でもズルいよね。叩かれた時は頭ぐちゃぐちゃであたしが一番混乱してる時ばっかだから、結局今となったら何にも覚えてないの。悲しくて腹立たしくてどうしようもなかった想いは、入江くんの驚きの告白にいっつもあっという間にかき消されちゃうから。
ーーだから、もう、忘れちゃったよ。叩かれた頬の痛みも、あの時の心の痛みも。


ーー琴子、苦しませてごめん

ーー悩ませてごめん

ーー泣かせてごめん


どことなく入江くんの顔こそ辛そうで苦しそうに見える。
ねぇ、そんな顔しないで。

いいの、もう。
謝らなくていいから。
入江くんがみんなの前で、あたしが必要だって、云ってくれただけで十分なの。あたしはもうその瞬間に何もかも許してしまってる。
それだけで数ヵ月の涙も悲しみも一瞬で消えてしまったから。

だからーー謝らなくていいから。



このまま永遠にあたしの傍にいてねーー







十三夜の月は悲しい涙しか知らないけど
十四夜の月は幸せな笑みしか知らない
十五夜の月は多分もっと幸せな二人を映してくれるだろうーー









※※※※※※※※※※※※※※


謝れよ。

と、いつもこのエピを読み返す度に思ってしまうわけですよ。
食堂での愛の告白も、感動もんだけど偉そうだし(ま、啓太にたいしてだからね)

なので謝らせてみた(笑)

ここで謝らないのがこの頃の入江くんの入江くんたるところなんだろうけれど。(まだまだ発展途上中)だから、ぼんやり夢だか現だかの感じで。
それでもね、重雄さんにはきっちり謝ってほしい。(台キスでは重雄さん殴ってたからね。それが当たり前の父としての感情です。嫉妬だろうがなんだろうが三ヶ月近く無視はやっぱりあんまりだーー!)

日キスドラマじゃ「とびきりのキスをしようね」のあまーいシーンがばっさりカットで少々残念だったので、きっちり入れてみました(笑)
原作じゃ入江くんは大学行ったままの格好なのに、琴子ちゃんはキャミ1枚。いつのまに脱がせたんだ! 時期的に風呂上がりでもキャミ1枚ってことはないわな~~なんてことを思いながら原作片手に書いてたお話です。

偶然導き出された数字に、思わずえろスイッチが入りそうになって、まずい! この話はリリカル目指してるのよ~~と必死に舵を切り直した……というウラもあったりして。
同じく妙な期待をしたソコのあなた! 私と一緒に反省しましょうf(^_^)


※10/20 加筆修正しました。(皆様からのコメントを読んで、ひっぱたいたことへの謝罪を忘れてたことに気付いて! いやーあれはアカンでしょーが!……てことで^-^;)




1997年の夏休み (6)




お久しぶりの『夏休み』です^-^;
祭りと交互に……とは思っているのですが……f(^_^)



※※※※※※※※※※※※※※





8月8日(金)



「で、出来た~~!」


ひっくり返ったボウルに、粉だらけの調理スペース。
シンクはフライパンやら鍋やらで溢れ返っていた。
琴子は地震の後のようにとっ散らかったキッチンからよろよろと倒れそうに出てきて、思わず一人で感嘆の声を漏らした。
たった一人で、3日間、この直樹のいない部屋で過ごし、ついつい独り言を言う癖がついてしまっている。

「完璧だわ、この3段重! これで入江くんの疲れも吹っ飛ぶわね。琴子特製スタミナバッチリ弁当ですもん」

これだけの量なら医局の皆さんにも分けてあげられるわね、と不穏なことを思う。

昨日、一昨日と帰れないという直樹の為に着替えと弁当を持って病院まで届けた。
けれどいつもタイミングが悪く、一昨日はちょうどオペの最中だったし、昨日は合同カンファレンスに呼ばれているということだった。
結局、3日前呼び出しを受けてバタバタと家を出ていって以来、直樹と会っていない。

2日前にお弁当を届けるついでに医局にお土産の菓子折を持っていったら、思いの外喜ばれた。
直樹には会えなくて残念だったけど、気安く弁当を「渡しておいてあげるよ」と云ってくれたのはハンサムな女医さんだった。てっきり男の人かと思ったら、声が女性でびっくりした。
(ぎゃ、逆モトちゃん!?)
と、思ったら、まるで琴子の心を読んだように、「あたし、別に女の子が好きってわけじゃないよ。もっともあなた、結構好みだけど」とにやっと笑われた。

「姫子センセ……あんまりからかうと入江に睨まれまっせ」

「そーお? あたしが入江先生のことめっちゃタイプ~って云うよりいいよね?」

そう訊かれて琴子は思わずこくこくと首を縦に振った。男っぽいけど、こんなさばさばした綺麗なひとに言い寄られたら、もしかして………などと心配してしまう。

他にも顔のよく似たようなメガネの研修医が二人。
親しげに話しかけられて、ついつい昨日も一昨日も居心地よく直樹の居ない医局で呑気に過ごしてしまった。

ハンサム女医は鬼頭先生。
メガネの二人は神谷先生にブツエン先生(←区別はつかない。ついでに音で聞いて漢字の変換もできていない)。
なんとか名前も覚えた。
親しみやすそうな人たちで安心した。
ただみんなげっそり窶れているのが気になる。お医者さまがそんな不健康そうでどうするの? と思ったので、今日は朝から早起きしてずっと大量の弁当を作っていたのだ。医局の皆様にも食べて頂くようにと。

「ふ……これで妻としての株も上がるわよね!」

この3日、掃除(主に自分の汚したキッチンの)と弁当作りに明け暮れている。
無論、勉強もしなきゃ、とは思っているのだが過去問集を解き始めるといつの間にか「今、入江くん、何してるのかなー」とか「お弁当食べてくれたかなー」とかそんなことばかり考えている。(そして気がついたら寝ている)
身体を動かして家事をしている方がまだ何も考えなくていいからマシだった。
入江家では紀子が完璧なハウスキーピングをしていたから、琴子はアシスタント的な立場でこれまで過ごしてしまった。こんな風に自分の仕切りで家事をするのも少し新鮮で楽しい。本当の『主婦』になった気がする。

今日はお弁当を届けてから、午後には来週から始まるボランティアの、チャイルドライフ部門の主任チーフに会うアポイントを取っている。見学と挨拶を兼ねてだ。

ーーさて、今日こそ入江くんに会えるかな~~

琴子は気合いを入れて三段重箱と着替えを大きなバッグに入れて抱えた。






「えー? 今日も入江くんいないんですか?」

琴子のあからさまな失意の声に、医局にいた者たちは少々憐憫の情を向ける。

「ごめんね、奥さん。今日は各務先生と消防センター主催の救命講習会の指導に行っててーー帰るのは昼過ぎるかも」

鬼頭姫子の言葉に意気消沈は隠せないが、でもここに来るとみんなが「奥さん」と呼んでくれるのがちょっと嬉しかったりする。旦那様の職場の方々から「奥さん」!……つい、頬が緩み、もっと云って!……などと思ってしまう。


「じゃあ、これ皆さんで食べて下さいね」

琴子がテーブルの上に置いた重箱に、みんながわあっと寄ってくる。

「凄い、三段重だね! 一人で作ったの?」

「入江先生、いっつも一人でこそこそと食べてるんよ、昨日もその前も!よっぽどみんなに奥さんの弁当見せとうない、取られとうないんやろうなーって興味津々だったんや」

「あ、そうなんですかあ~~お口に合うかどうか分かりませんけど、遠慮なく食べて下さいね!」

さっきの意気消沈は忘れてウキウキ顔で薦める。

「まだちょっと早いから、後からいただくね」

「そうですね」

室内の掛時計をちらりと横目で見るとまだ11時前だった。
直樹がいたら出来れば一緒に食べたいなーと思っていたのだが。
琴子はかをる子とランチでもしようかなーーそれまでちょっと院内の探検でもしようなどと思いつつ救命センターの医局を後にした。

無論、一時間後に医局で阿鼻叫喚の雄叫びが響きわたることなど、少しも知らずにーー









「………何の騒ぎですか?」

「……というか、何の臭いだ?」


医局の扉を開けたとたん、鼻についた異臭に直樹とその後ろの各務が顔をしかめた。

中では、冷房がしっかり効いている部屋なのに、みんなバタバタと忙しなく窓を開けて空気を入れ替えている。

今はやりの異臭騒ぎか!?

「い、入江せんせ~~~あんたの嫁は何もんでっか~~?」

「は?」

直樹ははっとして、部屋の片隅に不審物のように置かれていた見覚えのある重箱を見た。確かに実家にあった、蝶の紋様のある蒔絵の重箱だーー。

つかつかと歩みよって蓋を開けた途端に、強烈な臭気が立ち上る。

「なんだ……これは……!」


弁当に、納豆とか、キムチとか、入れるなーーー!!!!

思わず頭を抱えて叫びたくなった。

いつもの定番の玉子焼き(多分カラ入り)、唐揚げ(例の如く真っ黒)には、何故かにんにく臭がぷんぷんする。
こっちの黒いレバーらしきものはレバニラ炒めのつもりだろうか。茶色くなったニラがしっかりニラ臭を放ち、そのうえにんにくもたっぷり入ってる模様。

いや、そういえばこの2日ほど持ってきた弁当も結構にんにく料理が多かった。
単純に忙しいからスタミナつけてね、という意味だろうが、もっと(夜)がんばってね、と叱咤激励されてる気分だった。おまえ、帰れたら覚えていろよと思ったが中々帰宅できず、ただ精力だけ増強させられて若干苛々な日々であった。
臭いもキツいが見た目も何だかな、という感じだったのでなるべく周りに悟られないよう人気のない屋上でこっそり食べた。お陰で午後からブレスケアのガムが手離せなかったものだ。
とりあえず臭いさえ我慢すれば味はいつも通りの琴子の味で、これならまだ食べられる許容範囲内だった。
無論、自分なら、である。他人は恐らく無理だ。視覚的にも味覚的にも消化器的にも耐えられないだろう。

しかも今回はまず嗅覚を劇烈に刺激してくれたようだ。
そのにんにく臭だけでもかなり危険を感じてはいたが、それにキムチだの納豆だのの相乗効果でバイオテロを疑われる域に達していた。

「………あの馬鹿……人に食わそうなんぞ百年早い」


はじめは呆れ顔でそのドタバタを眺めていた各務が、そのうち肩を震わせて笑いを噛み殺していた。
その様子を見て直樹の眉間の皺がより一層深くなる。

「危険物、処理してきます」

直樹は重箱の蓋をきっちり閉めて、それを抱えて医局を後にした。

ーーあいつ、また無駄な話題を提供してしまったなーー

と、溜め息ひとつ。

入江直樹の妻の新たな噂がきっと速効院内を駆け巡ることだろう。
おそらく。
確実に。








さて、無論琴子は医局でそんな異臭騒ぎが巻き起こっていることなど露知らず、和気あいあいとかをる子と院内のカフェでランチをした後に、ボランティアを行うチャイルドライフ部門室を訪ねていた。


「川嶋先生から聞いているわ。宜しくね」

主任チーフの片瀬は40歳前後のきびきびとしたナースだった。川嶋教授の教え子だという。

「あのひと怖いでしょー。卒論、単語の一文字までうるさいから気を付けなさいね。文学部じゃないんだから、助詞だの形容詞だの何使おうといいじゃないってよく思ったわー」

「………わかります」

元文学部(しかも国文)なのに既に盛大に添削されている琴子である。

そのあと片瀬に案内されて、病児保育ルームと職員の託児ルームに向かった。

「基本的には病児保育ルーム担当ね。ただ、日によって人数の差があるし、ゼロの日もあるからそのときは託児ルームや、院内学級の補佐を頼むかもしれないから」

「はい」



5階のB棟の1ブロックが『つぼみクラブ』と称したこどもの為のフロアだった。
病児保育ルームと院内学級だけは間仕切りがあるが、それ以外は保育園の遊戯室のような広い空間だった。
ベビーベッドの上の赤ん坊から、小学生低学年児童まで20人近い子供たちがそれぞれ遊んでいる。

「こっちは主にうちの職員の託児所ね。夏休みだから小学生もいるから賑やかでしょ」

「安心ですよね。こうして職場で子供預けられると」

「出産でナース辞めちゃう人、多いからね。離職の歯止めになればいいけど、さすがに夜勤までは預かれないから、どうしても常勤のまま働くのは難しいのよね。今は核家族世帯が多いから、じじばばに見てもらえる人も少ないもの」

「そうなんですよね」

その点、うちは何の問題もないだろうな、と紀子の顔を思い浮かべる。
絶大なる支援を受けて出産しても安心して働けるに違いない。

あ、でも。
もし神戸で就職して、ここで妊娠しちゃったらどうしよう。
うーん、きっとお義母さん、こっちに来ちゃうよね。
お義父さんと裕樹くん、ほっぽって、一緒に住みそう。
ーー大丈夫よ、琴子ちゃん。お仕事辞めなくってもあたしがちゃんと見ていてあげるから。
ーーおかあさんっありがとうございます!

と、するとあのマンションだと手狭だよね。
もう少し広めのマンションに引っ越さなきゃ。
病院から少し離れるけど海の見えるところとかいいなぁ………

いや、待てよ、琴子。
そんな、最初からお義母さんをあてにしてどうするの?
此処に赤ちゃんを預けているママたちはきっと、周囲の支援がなくて孤軍奮闘しているのよ! 病気でも熱があっても誰にも頼れずに働かなくてはならない大変なママたちがいるのよ!
あたしだって、あたしだって、頑張ればお義母さんに頼らなくても、ちゃんと出来るわよ!
だってあたしには入江くんが付いているんだもの!


「入江さん?」

「あ、は、は、はいっ」

神戸での新生活、新しい未来を盛大に妄想していて、つい現実を忘れていた。

「こっちが、病児保育ルーム。託児の子供で熱があったらこっちに来てもらうし、一般の登録しているお子さんも預かるの。ナースが常駐している訳ではないけれど、隣のC棟が小児科病棟だから、何かあればすぐに来てもらえるわ」

「………………」

本当なら、直樹はそこにいた筈なのに、と思うと、随分神様にイジワルされている気分になる。
何もあたしが来ている間に他の部所に行かされなくっても、と思わずにいられない。

ベッドが3つほどある20畳くらいの空間だった。
幼児が二人いたが、割りと元気そうにプレイマットの上に転がってテレビを見ていた。

「子供は多少お熱があっても元気だものね。でも、保育園じゃ預かってもらえないから。37.5度で即お迎えなの」

片瀬が二人の面倒を見ていたエプロン姿の女性に声をかける。

「こちらが、病児保育ルームの専任保育士、枝元さん。枝元さん、彼女が来週から一週間、ボランティアで来る入江さんよ」

「宜しくお願いします!」

「枝元くるみです。こちらこそ宜しゅうね」

保育士にしては妙にばっちりメイクしている枝元は琴子と大して年は変わらないようだった。

「東京の大学の看護学生さんやって? なんでわざわざうちで……?」

初対面でいきなりずけずけ訊いてくる。

「その辺は来週、じっくりとね。多分、枝元さんにも色々協力してもらうから」

「えーなんやろ?」

「あー卒論の調査でアンケートを……」

「ああ、そういうこと。いいよ、ここ、付属の学生さんもよく来はるから、そういうん慣れてるし」

「すみません」

いーの、いーの、とニコニコと答える枝元くるみは、化粧は濃くてどこぞのギャルかといった感じだが、人は良さそうだ。

「入江さんかー……」

枝元が琴子をみてポツリと云う。

「うちの王子さまと同じ苗字や。東京に多いなまえなん? 入江って」

「え?」

「小児科の研修医で入江先生っていてはってね。とーってもカッコいいんや。ここにもちょいちょい顔見せてくれてて、一目惚れしたん。でも、今は救命センターに出向してもうて……もう、戻ってくるまで楽しみなくっておもろないの。ついついメイクもおざなりや」

そ、そのばっちりメイクで?
いや、それよりも、やっぱり毎度毎度のこのパターンですか?

琴子は思わず口元に張り付いた微笑みがひくひくと引きつるのを感じた。
これは、一週間の安寧の為に明かさない方がいいのかーー

「そーいや、枝元さん、いつもより睫毛のボリューム少ないわね」

「そーやろ? 入江先生に見てもらえないと思うとちょっくら手抜きにもなるってもんや。でも、もし院内でばったり会うてまうかもと思うと、完全には気ぃ抜けへん、この乙女心……」

「どうでもいいけど、入江先生奥さんいるでしょ」

「大丈夫! うち、愛人でも全然かまへんし」


ええええーー!!!
大丈夫じゃありませんっ!


どうしたもんだろうか。
早々と明かすべきか。
明かさない方がいいのかーー。
琴子はひきつり笑いを浮かべながら、前途多難な気配を早々に感じていた。









さて、一方危険物処理に走っていた直樹は。
結局、3日振りに家に戻ることにした。その辺に廃棄するわけにもいかないので、自宅で処理をしますというわけだ。
夜間の救急外来のシフトが入っていたから、夜までに戻ればいいと云われ、久しぶりに帰宅出来ることとなった。

そして、マンションに戻った直樹は、微かに部屋の中にも異臭が残存しているのを感じて、窓を開けて空気を入れ替える。

てっきり家にいるかと思った琴子が居ないので、微妙に顔がしかめっ面になっているが、本人は気がつかない。
三日間一度も会っていなかった為、今日彼女がボランティアの挨拶の為にまだ病院に残っていることを知らなかった。

ーーったく。

異臭弁当の食べられる部分だけ選んで食べて、残りを廃棄し、それから汚れたままの雑然としたキッチンを猛然と片付け始めた。

まだ琴子は戻らない。

シャワーを浴びてから、外に干してあった洗濯物を取り込む。
洗濯物が外に干されている光景は実に久しぶりだな、などと思いつつ。

しかしまだ琴子は戻らない。

タイマーを3時間くらいにセットして、ベッドに入り、仮眠をとる。

帰ってきた琴子に起こされることもなく、3時間後には目覚ましによって、睡眠は覚醒された。

さっと身仕度を済ませてから、ふと電話機を見る。

琴子が今此処にいる以上、当たり前なのだがーー留守電が全く琴子の声を録音していないという状態に、何だか妙な物足りなさを感じた。

そして、再び病院へと戻っていく。

途中の道筋でもしかしたら琴子と行き合わないかと思ったが、結局一度も会わなかった。


既に青かった空はオレンジと紫のグラデーションに染まり始め、陽は西の果てに向かってゆっくりと傾いていったーー。






※※※※※※※※※※※※※※


あと2場面くらい加えたかったのですが、長くなりそうなので諦めます……(-.-)





『図書館戦争』観てまいりました♪


お話の更新でなくて申し訳ありませんm(__)m

今日、実は映画図書館戦争2、初日に観てきまして。

それをまあ、わざわざなんでこっちのブログで報告したかといいますと。

なんと、一緒に行ったのが、イタキス二次界の重鎮、尊敬する大・大・大先輩の雪月野原のソウ様だったのでーー!

これって、オフ会?って奴ですか?

とにかく、もう、一緒に行くって決まってから楽しみで楽しみで。いや、トショセンも楽しみだけど、どっちかというとソウ様に会えるのが楽しみ! リアルな世界でイタキスの話をしたことなかったし(周りに誰もいないので)、ブログ関係の方と会うのも初めてで!

楽しみにし過ぎたせいか、昨夜はせっかく買った前売りを忘れて大慌て、なんて夢みちゃいましたよ。


ことの始まりは、ソウ様がご自分のブログで、「図書館戦争、なんならうち方面に来られる方、一緒に観ますよ」と呟いておられたので、思わず私の頭の中には「もしかしてだけど~もしかしてだけど~これってあたしのこと、誘ってるんじゃないの~?」というフレーズがわき起こったりして(笑)
ソウ様のお住まいが、うちのお隣CITYということは分かってましたので、御用達だろう映画館を幾つかあげてみたら、うちから一番近い所でして……いや、そこならうちから30分で行けますって。日常行動範囲内です!
というわけでちょいちょいやり取りしながら今日のこの日を待ってました。

因みに初対面なので分かるかどうか……と思って念の為、持っていったのが↓




目印としてカバンに入江くん人形(笑)
まあ、結局、必要なく、映画館の入口に立っているソウ様をみて、一目で「あ、この方だわ」、と分かってしまいましたが(^^)

電話で声だけ聴いた時も、「あ、可愛い声」と思いましたが、ご本人も可愛いです(ちっちゃくて^-^;)実はかなり人見知りな私なんですが、とりあえず子供ネタのママ友トークで馴染んでから、まずは映画。ソウ様のホームなのでお任せします♪
封切り初日ですが2回目だったせいか人は疎らでした。

実は私、ひっさびさの映画でして。(1はレンタルで借りて観たのです)わりとまあレンタルでいいや、とかテレビでやるまで待とうという出不精タイプなんですね。ソウ様が付き合って下さらなかったら、やっぱりレンタルまで待ってました、多分。
アクションが多いので映画館だと迫力ありますね。音がすぐ隣で聴こえる。いやー最近の映画館はハイテクだね、ってウラシマさんの気分です。(最後に観た映画って、やっぱ岡田くんの『SP』だったかも)

テレビ放映の映画やらドラマ版やらで気分を高めていましたので、すっかりトショセンウィークだったこの週。
内容については………
是非、ソウ様のブログでレビューを御覧下さい!恐らく近日公開されるかと。(←丸投げ^-^;)
ソウ様HPのdiary『雪月野原日記』の中に、映画レビュー、読書記録など有りまして、私結構コアなファンです。(ローカルネタについ反応してしまう、というのも有りますが……)
ソウ様のレビュー、かなり細かく書いてらっしゃいますので、これから観に行く方でネタバレはいや、という方は見ない方がいいかもですが、気になる方はオススメです。





私は原作をかなり昔に読んだきりなので、話は結構うろ覚えだったのですが、ソウ様はかなりしっかり頭に入ってらして、原作との展開の違いを色々説明して下さいました。

とりあえず私は教官と郁の胸きゅんシーンが見られりゃ良かったんですがね。
キャラとしては柴崎好きなんで、柴崎×手塚カップル進展あるかーー?と期待したけどそっちは余り(-.-)
小牧とまりえちゃん、ドラマでいい感じにくっついたのにね。年の差カップル好きです。

トショセンは実写化聞いた時、ビジュアル的にイメージぴったりで、おおっと思いましたが、岡田くんと榮倉さん、二人バストショットで並ぶと遠近感がわからねー(笑)
いや、楽しかったです。

映画のあとは二人でお茶して、ずっと喋ってました。
子供が同じ年の受験生(実は受験エリアも一緒)で、娘が医療系志望なんで、相談にのってもらったり。
映画の話から本の話。本の話は尽きない~~かなり読書傾向似てます。いや、グインサーガ80巻持ってる人初めて会いました!(私は132巻まで持ってますが……作者栗本薫さんが亡くなってから、他の方が数人で続きを書いてますが……やっぱり何か違うと結局読めてないのですよ(-.-)イタキスの未完もキツいけど、栗本さんの逝去も悲しかった……)
ああ、もちろん、すっかり話すこと忘れてたイタキスの話も(映画版や、初代日キスの、あれ、なにさ~~~!!なこととか)、いや、もっと話したかったです(^w^)

あっという間の時間でした。
ぜひ、またお会いしたいです♪


ソウ様も体調整ったらお祭り恒例のチャットも……考えて下さっているようです(あ、でも無理はなさらないで下さいませ。どうしてもチャットすると夜更かしさんになってしまいますので……)

そんな素敵な1日でした。

さて、まだお題もひとつしか書いてませんが、一応次は『夏休み』書きかけてます。三連休中に更新できたらいいな~~(←希望)




↑パンフレットより
こするとカミツレの香りがするのです。カモミール茶、実は苦手なんですがf(^_^)



ぺろりでコラボ♪


イタズラなkiss期間2015


ema様宅に、コラボ作品をアップさせていただきました♪

ema様のとーってもむふふな入江くんのイラストに妄想掻き立てられて、勢いで書いたものですが………(//∇//)
むじかく様も同じイラストでお話を書かれています♪
3人のコラボですね(^w^)

よろしければ、覗いてみてやって下さいませ♪
(あ、えろなんで、鍵つきです。ema様宅の鍵をご用意くださいね)

こちらからどうぞ♪






ema様、ありがとうございました♪

イジワルなkiss

イタズラなkiss期間2015








「ふーん、忘れちゃうんだ おれのこと」


「じゃ 忘れてみろよ」


「ザマアミロ」






何が何だか分からなくて、しばらくぼーっと路地裏の壁に凭れたまま座り込んでいた。
まだ3月も初旬のこの季節。日も落ちて空気も冷えきった夜の8時過ぎ。
コートをカラオケ会場に置いてきてしまって、流石にブレザー1枚では寒いことに、くしゃみをひとつして気が付いた。

「さぶ………」

少しずつ頭が冷えてくると、薄汚れた路地裏の、すえた臭いが鼻についてくる。


「琴子ーー? 何処なの?」

心配したじんこと理美が捜しにきてくれるまで、もしかしたらそのままずっとそこで固まってしまっていたかもしれない。

それくらい衝撃的な出来事。

ーー夢?

ーーそれともあたしの妄想?

に、してもまだ残ってる唇の感触が生々しい。
かちんと歯が当たった気がする。
あまりに唐突に、嵐のように目の前に近付いた直樹の顔ーー。



「どうしたの? 入江くんは? 」

「びっくりしたわよ、突然入江くんに引っ張られてーー何かあったの?」

ぱたぱたとスカートの汚れを払って路地裏から出ていくと、理美とじんこが矢継ぎ早に質問してきた。

「何でもないよ。あたし、もう帰るね。なんか、疲れちゃった」

薄暗くて顔が赤いのは気がつかれなかった。察しのよい悪友に根掘り葉掘り訊かれずに済みそうだ。問い質されたらきっと事の経緯を話してしまうだろう。いや、話したいという思いもあるのだが。今はまだダメだ。ちゃんと説明できない。自分が全く理解できてないのだから。

「ちょっと凄まれただけだよ。大丈夫。入江くん、怒って帰っちゃった」

そう言って適当に誤魔化し、二人から逃げるように慌てて会場に戻って、金之助に気付かれないよう(いまだに熱唱中)こそこそと鞄とコートを持ってから、その場をそおっと離れた。




「あれ? 入江は?」

間の悪いことに、トイレにでも行っていたらしい渡辺と廊下ですれ違ってしまった。

「……さ、さあ。多分、もう帰ったんじゃないかと」

ぎこちなく答える。

「 ふうん。入江と何か話したの?」

「 え? う? な、な、何もっ? ただ怒ってただけ」

声が上擦ってる。
何かあったと丸分かりなくらいに明らかな挙動不審。

「さっきは、悪かったね」

「え?」

「A組の連中、よってたかって君を馬鹿にして」

「あ、う……うん」

漸く琴子はことの発端がそこから始まったことを思い出した。

「でも、別に渡辺さんのせいじゃ……」

そもそもはA組とF組の担任教師の下らないいがみ合いのせいだ。

「いや、おれもあのお守りの事とか面白半分に言っちゃったし。バレンタインのチョコのこと訊いたり……」

ああ、そうそう。
その辺りの成り行きをリピートされるとまた怒りがこみ上げてくる。
渡辺にではなく、鼻で笑うように小バカにしていた直樹の態度に。

そーよ。
あんなに人のこと馬鹿にして!
せせら笑って!

なのに。
なのに、どーしてキスなんてすんのよー!

「琴子ちゃん?」

突然怒りの形相になったり赤くなったりしている琴子を、不思議そうに渡辺が窺い見る。

「ううん、何でもない。あたし、帰りますねっ」

あの後あたし入江くんにキスされたんですけどっ!

そう言ったら渡辺はどう思うだろう?

信じないよね……多分。
あたしも信じられないもん。

「琴子ちゃん。あいつ、あんな言い方してたけど、そもそもはT大受験しなかったのが、琴子ちゃんのせいって集中砲火浴びてたの助けたかったからじゃないかな」

「え?」

意外な渡辺の言葉に帰りかけた足を止める。

「ま、なんとなくだけどね」

「で、でも、入江くんはあたしなんかのせいで、人生変えられたなんて思われるのが我慢ならなかったんだと……」

「……あいつは自分が他人にどう思われるかなんて、ほんとは気にしてないと思うよ」

「……………そうですか……? でも、あの写真はスゴく見られるの嫌がってたケド」

幼い頃の黒歴史をつい腹いせにみんなに暴露してしまった。
弱点のないように見える直樹の、唯一の弱味だ。

「うん、あれには驚いた。どうせ、あいつのオフクロさんの仕業だろ? 気にすることないとは思うけど、自分ではどうしようもなくて抗うことができなかった頃のトラウマって大きいのかな?」

確かに、いつも冷静で腹立たしいくらいの直樹が、あの写真を見せた時、ひどく慌てて狼狽していたのを思い出した。そして、ついつい面白がったし、それを盾にして脅迫めいたことまでしてしまった。
そのうえ、今日は白日の元に晒してしまったし。
お陰で最大級に怒らせた。

「あんな写真ひとつでみんなのアイツへの評価が変わるわけでもないのにね」

少し反省気味の琴子に、渡辺がくすっと笑いかける。

「……でも、あいつが慌てたり怒ったりあんなに感情的になるのってスゲーなってそのことにちょっと感動した……琴子ちゃんと同居しはじめてから随分変わったと思うよ」

なんだか感心するような眼差しで渡辺から見つめられて、それに少し戸惑う。

「……これから大学違って君たちの様子を見られないのはちょっと残念かも」

屈託なく、渡辺が笑った。





渡辺と別れた後、ぼんやりと考え事をしながら家路を辿る。
電車の中でも、駅からの道筋も、ただひとつ、今日の出来事と直樹のキスだけが頭から離れない。
家に着いてから紀子にあれこれ話しかけられた気がするが、どんな受け答えをしたのかさっぱり覚えていない。
お風呂に入って、髪を乾かして、ベッドに入ってーーいつも通りの夜は更けていく。
違うのは、もう女子高生ではなくなったこと。
そしてーーキスをしてしまったこと。




電車の中で窓ガラスに映る自分の顔を見つめながら、つい唇に触ってしまっていた。
お風呂の中でもそう。
鏡に映った自分の顔、唇ーー何か変わったのかひとつひとつ確かめたくなる。

時間が経つにつれ、唇の感触が薄れていくと、どんどん記憶に自信がなくなってくる。
夢なのか、現実なのか、わからないくらいに。


ーーううん、夢じゃない。

確かに直樹の唇は、自分の唇と重なった。
ほんの一瞬だったけれど。
冷たい唇だった。

初めてのキス。

自分は大きく目を見開いていた。
直樹はしっかり瞳を閉じていたこともちゃんと覚えている。

ザマアミロ、の言葉も耳にずっと残っている。

夢じゃない。
夢じゃない。
夢じゃない。

じゃあ、なんで?
なんで、入江くんはあたしにキスしたの?

怒ってたよね?
すっごく怒らせちゃったよね?
それが、なんでキスになるの?
いや、怒ってたの、あたしもだよ?
だって、あたしのこと散々馬鹿にしてさ……
もう、入江くんのこと、好きなの止めるって、ほんとに思ったんだから。
なんであんなサイテーな性格の人、好きなまんまでいられるの? って真剣に自分に問い掛けちゃったわよ。
そうよ、もう止めるって、止めるって、止めるってーー。

なのに、なんで、なんで、キスなんてするのよーー!

思考はどうどう巡り。
答は永遠に出てこない。
布団の中で悶々と過ごす夜は長い。

眠れなくてふとベッドから起きて窓の外を見つめる。

少し半月よりふっくらした月が、完全な漆黒にはならない仄昏い東京の夜を微かに照らしていた。

「お月さまもあたしたちのキスを見てないってことか……」

深夜2時を回ってもまだ少し低めの位置にいる月は、ほんの数時間前に 夜空に現れたばかりのようだった。
更待月と呼ばれるその月は、夜もかなり更けてからの月の出となる。

証人はいない。
知っているのは二人だけーー。


直樹は起きているだろうか。
結局、帰ってから1度も会ってない。
明日会ったらどんな顔をすればいいのだろう?
何を話せばいいのだろう?


ぐるぐると思考は巡る。

初めてのキスが直樹で嬉しいのか。

あんな路地裏で腹いせのようなキスが悲しいのか。

ザマアミロなんて捨て台詞が腹立たしいのか。

怒っていいのか、笑っていいのか、泣いていいのか、喜んでいいのか、わからない。
何がなんだかーーもう。
もう、ぐっちゃぐちゃだよ!


イジワルなキス

いい加減なキス

意味不明なキス

それでも
いちばん大好きな人からの初めてのキス



ねえ、あたしはこの日のことを一生覚えていても、いいの?


無論、月は何もこたえないーー。







* * *




何度も寝返りをうって、それでも寝付けなくて、直樹はふっと窓の外を見た。
月齢20日程の半月が、天頂よりまだ大分低い地点で深夜の空を冴え冴えと照らしていた。




やめるっ もう入江くんのこと 好きなの
やめる


そ、そうよ
入江くんの性格なんて よーくわかったもの

すぐに忘れて、大学でカッコイイ人を見つけて…………





わからない。
なんで、突然あんなことをしたのか。
全ての行動を理路整然と統括するだけの理性を持ち合わせていた筈だ。
無意味なことも、衝動に任せるようなことも、自分の世界の中にはない筈だった。

自分のしたことが、理解できないなんてーー。

琴子が現れてからそんなことばかりだ。
声を荒げたり、羞恥に震えたり、馬鹿みたいに笑ったりーー思いもよらぬ自分の感情の起伏に、何度戸惑ったことだろう。



極めつけがーー。

他人と唇を合わす行為の意味もよくわからなかった。
別に潔癖症ではないが、わざわざ他人の粘膜部位と重ね合わせて、ミュータンス菌やピロリ菌のあるかもしれない唾液を交換する行為の不合理さを感じていた。
性衝動も人並みにあるし、生殖行為の必要性は種の本能として当然なものだと理解しているが、キスの意味は全くわからなかった。


ただ、イライラした。

腹が立った。

人の生活をあれだけ引っ掻き回して、挙げ句に「好きなのやめる」などと宣言する琴子に、無性に苛立った。

だからといって、何故それがキスに繋がるのか、理解不能だった。

導きだせない答えなんてない筈だった。

例えば小説の中で登場人物が恋情によって全く理解できない行動をとったとしても、恋愛とはそういものなのだという解釈は出来た。理解しているつもりだった。それは現国の設問で答を想像し、読み解くレベルの理解だった。

琴子と出会ってから、そんなことばかりだ。
理解不能の未知なるものに振り回されてーー

好きなの止めるなら止めればいい。
全くありがたいね。
清々するさ。

何故そう言い返さなかった?
今なら確実にそう言うのに。

わからない。
自分のしたことの意味が、全くわからないーー。

思いもよらぬ程柔らかかった唇の感触。
許容量の多い記憶倉庫の中心に、今どっかりと居座って睡眠を阻害する甘やかな感触。
押し倒したり、背負ったりと接触自体は多々あったから、その髪の甘い香りも、華奢な身体も知らない訳ではなかったがーー


こんな風に理性を凌駕した情動と衝動が自分の中に存在することが、不可解で気持ちが悪い。しっくりしない。
わからない問題が存在することが妙に恐ろしい。


綺麗に半分ではなく中途半端な半月が、曖昧模糊な感情の象徴のような気がして、シャっとカーテンを閉めて再びベッドに入る。



あいつはさぞ悶々と眠れぬ夜を過ごしていることだろう。いい気味だ。
いや、もしかしたらあっさり爆睡しているかも。
有り得る。
もしかしたら、ちょっと得しちゃったー♪ なんて、ルンルン気分で浮かれてるかも。
それはそれで腹が立つ。
ふん。
どうせ、2度とあいつとキスすることなんてないんだし。最初で最後だ。噛み締めてろ。


ぐるぐると、思考は巡る。



彼は知らない。


一途なキス。

可憐(いじら)しいキス。

いっぱいの愛溢れるキスを彼女から与えられ。
そして、幾千幾万ものキスを未来永劫、彼女に与え続けるーーそのはじまりの日だったことを。



知っているのはーー月だけかも知れない。





※※※※※※※※※※※※



渡辺くんと廊下ですれ違ってしまった時点で、予想外に長くなりました…f(^_^)



イタkiss期間2015


イタズラなkiss期間2015


さて。
10月に入りすっかり秋も深まってきた今日このごろ。
なかなか、『夏休み』の続きが書けなくて申し訳ないのですが……f(^_^)
ソウ様の企画されている『イタkiss期間2015』に参加させていただきます♪

初参戦です。
去年の今頃はブログ開設したばかりで、訪問者の少ない僻地で、ひっそりとお祭り気分を楽しんでいました。(去年お祭り期間に流行ってた黒猫だしてみたり……^-^;)
へっへっへー今年は堂々と参加できます♪

とは言いつつ、連載も進めたいのでそんなに大したものは書けないと思いますが。

一応定番のお題で。
どうしても過去のものとお題も丸かぶりのような気もしますが、(やはり選ぶ言葉も限界が……)そのへんは平にご容赦を^-^;



イ ・・・ イジワルなkiss

タ ・・・ 絶え間ないkiss

ズ ・・・ Zutto Mottoのkiss

ラ ・・・ ラブレターから始まるkiss


イタズラで4題ーーkissのある風景ーー


と、こんな感じで予定しています。
(もしかしたらタイトル変わるかも、ですが)
つまるところkissしまくってるだけの話なのか!?f(^_^)
そうですね、きっといちゃこらしてるだけかもしれません……漠然としか決まってませんがそんな気がします……^-^;


あまりお題とかリクエストとかで話を作ったことがないので心配ですが、ちょっとチャレンジです(*^^*)

短めの小品ばかりになるとは思いますが……

というわけで、宜しくお願いします♪


追記 ソウ様~~!!やっとバナー貼れました~~(感涙)四時間かかったこのPC音痴、笑って下さいませ……f(^_^)
ソウ様がわざわざバナー貼り方教室という長文メール送って下さいまして(本当にわかりやすかったのです!ありがとうございます!)やっとこれで貼れた~~!!と思ったのに、何故だか記事に反映されていず、ずっと悩んでPCとスマホ片手にごちゃごちゃやってました。最終的に、何故ダメだったか漸く分かり……すっごい馬鹿な理由で画像URLアドレス間違えてただけでした~~( ´△`)
ソウ様、本当にありがとうございました♪♪


プロフィール

ののの

Author:ののの
管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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