1997年の夏休み (1)








お待たせしました。そろそろ夏休みも終わろうというこの時期に(終わってるところもありますよね……^-^;)、やっと『神戸の夏休み』です。……といっても、まだプロローグ的な感じで神戸に着いてません(笑)
そして短いです(-.-)







※※※※※※※※※※※※※※※








7月31日(木)




「……お待たせ~~外、暑いよ~~」

琴子が手でぱたぱたと扇ぎながら、大学の学食のいつもの指定席に向かうと、啓太以外のお馴染みの3人が顔を揃えていた。

「ほんっと、毎日暑いわね。汗で化粧が落ちちゃう」

幹もハンカチで額の汗をぬぐっている。学食のエアコンは夏休みのせいか、いつもより温度設定が節電モードな気がする。じっとりと暑い。

「あれ? 啓太は?」

「インターンシップよ。区の保健センターに行ってるわ」

「あ、そっかー」

何しろ四年生の夏休みは忙しい。他の科のように就活はないが、卒論にインターンシップに、ボランティア実習、国家試験の勉強に模試に……。

「ゼミ旅行、無事終わった?」

「うん、まあねー」

若干疲れた顔の琴子は、みんなの前にどさりと紙袋を置く。

「あら、お土産?」

「そう」

「何処に行ったんだっけ?」

「館山……っても、ずっと大学の研修所に籠りっきりで……海にはちょっと散歩したくらいなの。折角水着もってたのに……」

「ああ。それで、八犬伝まんじゅう」

袋から箱菓子を取り出した幹は、中味を見て怪訝な顔をしていたのだ。

「有名なの?」

買ってきた琴子が逆に訊ねている。

「元文学部でしょ? 『南総里見八犬伝』知らないの? 安房の国ーー今の館山辺りが舞台なのよ」

「へー。まあ、どうでもいいや。食べてね」

どうでもいいのかい、そりゃそうだろ、滝沢馬琴なんざ耳にしたこともないわね、きっと、と思いつつ、皆で箱を開封する。深く考えることなく見た目で選んだのだろう。八種類の可愛い饅頭が入っていた。

「で、卒論進んだわけ?」

真里奈が饅頭を一つつまみながら問い掛ける。

「うん、まあね。夏休みに色々調査しないといけないのだけれど」

そう言った時の琴子の顔が妙ににんまりしているのをみんな見逃さなかった。
卒論のリサーチーーそんなに楽しい作業ではない筈。何故ーー?

「あんたの卒論って、確かーー」

「『小児病棟のチャイルドライフシステムーー保育士・HPS(ホスピタルプレイスペシャリスト)との連携』………になったわ」

思わず、がさごそと手帳を取り出して読み上げる琴子である。見ないと言えないのかい! と内心突っ込むが、そのタイトルなら琴子にはムリだな、とも思う。

「まあ、琴子さんにしては長いタイトル! 何だか難しそう!」

智子がさらっと本当のことを云う。誰も気にしてはいないが。

「うん。小児科テーマとは思ったけど、タイトルにすると私もワケわかんなくなりそうだった」

ははは、と琴子が頭をかきながら笑う。

「つまりね、小児科病棟には、長期入院の子供やその兄弟が遊べるプレイルームや病児保育室があるじゃない。そこは看護婦じゃなくて、ボランティアスタッフさんや、プロの保育士さんたちがいるわけでしょ。そこでどれくらい看護婦と連携とれているかという点をね、調査してまとめて改善案を出そうと」

「確かにコメディカルスタッフとの連携は重要ね。中々いいとこ、付いてるんじゃない?」

因みに、幹の卒論のテーマは『ナース服の機能性とデザイン性について』である。そんなのあり?とみんな思ったが、通ったらしい。

「……川嶋先生と相談して、決まったのだけど。シンプルな筈なのにタイトルはちっとも覚えられなくて」

雑談の中で幾つか出た小児科病棟の問題点。難しいことを話していたつもりはないが、気がついたらそんなテーマになっていた。タイトルもほぼ教授の添削によるもので、なんか、あたしめちゃめちゃ高尚なことテーマにしてない?と一人で感動していたが、結局覚えきれてない。

「川嶋教授は、うちの小児科でチャイルドライフ部門を立ち上げた人でしょ。その道のプロじゃん」

病児とその兄弟、家族にまでケアを尽くすべきであると提案し、それが早期の治癒に繋がるのだと実証して、幾つかの小児ケアの為のシステムを作った元看護婦長出身の教授だという。
家庭の内情には関わらないという鉄則に真っ向から立ち向かって、医療行為以外でもフォローが出来るような、多岐に渡るシステムを構築した人だ。

「子供相手にはほんわかして、優しいおばさんなのに、あたしたち学生相手には鬼なのよー」

確かにほんの数日前に会った時と比べると少しげんなりしている琴子である。ゼミ研修はかなりハードだったらしい。

「あたしたちのゼミ研は殆ど遊んでばっかだったのにねぇ」

憐れむように真里奈が笑う。

「でも、どうせ琴子さん、すぐに神戸に向かうのでしょ?」

智子の問いに琴子の顔がぱっと明るくなる。

「そう! 4日のレポート提出が終わったら、ソッコー神戸に行くの!」

少しお疲れモードの顔が一瞬のうちに蕩けそうな表情になったのは、直樹と二人の神戸の日々を妄想しているせいだろう。

「あっという間に締まりのない顔になったわね」

「無理もないわ。久々の再会だもんねー」

「そうなのよっ 聞いてよ! 入江くんてば、今月の半ばくらいから救命に研修に入っちゃって……もう、それからまともに連絡とれないの! 留守電も聴いてないくらい家に帰れてないみたいだし……やっと電話くれたーと思ったら電話しながら寝てるのよ?」

息巻いて日頃の鬱憤を晴らすように語り始める。

「入江さんが寝落ちなんて、相当疲れてるのね」

「う、うん……」

「そりゃ琴子も神戸に行って、奥さま業頑張り甲斐があるわねー? しっかり入江さんのお世話してあげなさいな」

珍しく真里奈がエールを送る。
噂に違わぬ研修医の超過密スケジュールに、流石に同情を感じたようだ。

「あ、あったりまえよ! 入江くんに毎日ご飯作ってあげて……お弁当作ってあげて……」

花柄のエプロン着けて新婚さんのように「お風呂にする? それともご飯?」なんてきいてる自分を妄想する。なんといっても二人だけで暮らすのはほぼ初めてだ。前回1週間来たときは、直樹は半分くらいしかマンションに帰らなかったし、琴子も奈美の説得に全神経が向いていて、奥さんらしいことをまともにしていなかったのだ。

「やめた方がいいんじゃない? あんたの手料理じゃ逆に体調崩すかも……」

「そーいえは、あの学食のサル顔の人がそんなこと言ってたわね、あんたの弁当、食べられる部分が少ないって」

「あら、入江さんは耐性ができてるんじゃ?」

「疲労時には厳しいんじゃない? 疲れてると免疫低下するし」

みんなボロクソである。

「ひ、ひどーい。大丈夫よ! お義母さんからレシピ沢山教えてもらったし。魔法の鍋とか送っちゃったのよー」

琴子の抗議も何処吹く風である。

「……っていうか、まず入江さん、家に帰れてないのよね? 行っても琴子さん、寂しいだけじゃないのかしら?」

智子は少し真面目に心配しているようであった。

「確かにここ一週間は特に殆ど帰れてないみたいだけどね、でもあたしが神戸に行く日は行けたら駅まで迎えに来てくれるって言ってくれたし」

「行けたら、ね」

「期待はしない方が………」

「し、してないわよ」

期待はするな、って散々念押しされたのだ。

たまたま休みの予定だったと言っていたが、最愛の妻を駅まで迎えに来てくれようとする心意気か嬉しいじゃないっ! と琴子は自慢気である。

……いや、それフツーだから……

普通の旦那なら仕事が休みなら迎えにくらい来るだろう。

「まあせいぜい充電してきてちょうだい」

「くれぐれも入江さんの仕事増やさないように……」

「仕事増やすって、何を!?」

「家電製品の一つや二つぶち壊しそうだし…料理しながらボヤとか出しそうだし……」

「あ、それもう6月に行った時にやったから! 学習したから大丈夫よ」

にっこりそう告げる琴子に、ちょっとした冗談のつもりだったのに……と幹は力なく笑う。

ああ、どうか入江さんが無事に過ごせますように。

皆は心のなかで密かに祈る。

尤もーー琴子も果たして無事でいられるのだろうか?

幹と真里奈は軽く目配せして、能天気な友人を窺いみる。

久しぶりに直樹に会って、抱き潰されるんじゃないだろーか?


初めにこの夫婦を見たときは、琴子だけがひたすら夫を追っかけていて、直樹の方は冷たく素っ気なく、妻に関心がないのかと思っていた。
だから啓太はいらぬ勘違いをする羽目になり痛い目をみたし、幹たちもチャンスはあると半ば本気で思いもしたのだが。

いやいや、関心ないなんて飛んでもない。
この食堂で大胆な愛の告白をしたかと思ったら(もっとも、好きだの愛してるだの直球の言葉をひとつも発していないのがいかにも彼らしい)去年の熱海旅行なんて、かなり大胆に見せつけられたのだ。
……いや、あてつけられたと言っていい。
琴子に対する相当な執着は十分認識できた。そして、かなりがっついている。ついでに羞恥心があまりない。
今年の直樹の卒業式の日に、講義室で琴子と直樹が延々とキスをしていたという噂はもう伝説となって伝えられている。
その日あっという間に学内に知れ渡って、続々と講義室にみんなが覗きにきたのに、全く動じず濃厚なキスをし続けたらしい。幹たちが聞き付けて駆けつけた時には流石にもういなかったが、毒気を抜かれたように動けなくなっていたギャラリーがちらほらとさまよっていた。
その後の琴子の唇がタラコだったとか、直樹が謝恩会で飲んだグラスに口紅付いていたとか……情報は、直樹が神戸に旅立ち、春休みが明けてからもいろいろと飛び交っていた。

ーーそうそう、卒業式の翌日に琴子と会う約束してたのに、腰がどうの………ってキャンセルされたのよね……。
理由は明白だったけど。


人前でも二人きりでも冷たい時は冷たいし、厳しいのは変わらないらしい。そして人前でも二人きりの時でもスイッチが入ると執着心を全く隠さない。
はっきりいって直樹を知れば知るほど、そのツンデレと称される二面性に、面倒くさい男だなと幹は思う。

顔だけはもう永遠に眺めていたいけど……一緒に暮らすのは……あの義母を含めても大変だろうなーと……

この二年近くの付き合いで、ただ見ているだけの偶像入江直樹の姿が、少しずつ人間臭いものになった。
嫉妬したり、独占欲が何気に強かったり。特に琴子への執着は、琴子の直樹への執着以上ではないかと思える時もある。


だから、幹は不思議な気もしたのだ。

直樹が琴子と離れる選択をしたことに。

自分に厳しい直樹のことだから、琴子の涙も自分の琴子への執着も封じ込めての選択だったのだろうが………

そして、今回久々に会うだろう琴子に対してーー直樹の箍(たが)が外れないかと余計なお世話な心配をしてしまう。

そうそう、6月に会いに行った時も、かなり痕が付いていたわよね……ほら、もう半袖に替わる時期だったから、モロばれだったのよ………


「それにね、さっき云ってた卒論のリサーチ、入江くんのいる神戸医大の病児保育ルームでやらせてもらうことになったの!」

琴子は幹の心配など気がつく様子もなく、嬉しそうに報告している。

「へえーよかったじゃない。一石二鳥ってやつね」

「そうなの。夏休みのインターンシップも兼ねて10日間だけだけど、職場体験しながらリサーチできるのー。川嶋先生、神戸医大につてがあるらしくて」

「単位も貰えてラッキーじゃない」

「そうそう、入江くんと同じ職場だし~~」

「病児保育ルームとERじゃ、場所、すっごく離れてない?」

病院によって施設配置は違うだろうが、あまり接点はなさそうだ。

「同じ病院内ってだけでもシアワセじゃないっ! やっぱりマンションでただ待ってるだけよりも、ちょっとでも近くににいたいなーって……」

会えなかった時間の分を埋め合わせるように、少しでも近い距離にいたいという想いが溢れている。
琴子のいじらしさにみんなほだされてしまったようだ。
何だかんだこの年上の(筈の)同級生から目が離せない。


「 さあ、じゃあ琴子がさっさと神戸に行けるように課題を済ましてしまいましょ! 締めきりまであと4日よ!」



ーー無事に琴子が毎日その病児保育ルームに通えることが出来ればいいけどね。

ーーいやいや、そこまで入江さんも鬼畜じゃないでしょ。
だいたい毎日疲れてたらそんなに……

ーーううん、疲れてる時こそ癒しを求めて頑張っちゃうってことも………なんといっても二人っきりだし……

ーー二人っきりじゃなくっても気にしないのは熱海の夜でも実証済みよ!

ーーそうね……

ーーそうなの?(←智子)


そんな会話が琴子のいない場で密かに交わされていたなど、無論彼女は知らないーー。










※※※※※※※※※※※※


ガールズ(?)トークだけしか進みませんでした(-.-)神戸の直樹側の話も1話目に入れるつもりだったのが、構成の問題で次回に回すことに……しばし、お待ちをm(__)m


9ヶ月前に書いた神戸の話を読み返していたら、え? 直樹さん、こんな人だっけ?と少し昔の自分に驚愕。
めっちゃアマアマな直樹さんじゃん。しまった、この直樹さんで今書こうと思ってる神戸の話をかけるのだろうか? と、ちょっと逡巡してしまいましたが……もう強行です^-^;
さらに、96年の夏休みの変な話を書いてしまったばっかりに(サマーリベンジ)、幹たちが妙な心配をしてしまってます……^-^;
あの話、別次元のただの野獣と割りきればいいのにねぇ?と自分に突っ込んでみる(-.-)


ちなみにタイトル……ど直球なタイトルですが、実は、80年代の映画、『1999年の夏休み』からもじってます。『トーマの心臓』を日本を舞台に、さらに少年役を全て女優さんが演じるという斬新な設定でした。深〇絵里さんのデビュー作じゃなかったかなー? 芸名が違うけど。
話には全く関係ないですが(^^)
多分、云わないと誰も分からない気がするので、一応申告(笑)
前回の『病院のカイダン』もですが、タイトルもじるの好きですねf(^_^)






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