病院のカイダン








入江琴子は視えるヒトらしい。

そんな噂は斗南大病院のスタッフの間でまことしやかに流れていた。

何処の病院でも怪談話のひとつやふたつはあるだろう。

誰もいない部屋からナースコールが何度も鳴るとか。

ナースステーションの前を足音だけがぱたぱた行ったり来たりしているのが聴こえるとか。

病室の天井の染みがどんどん拡がって顔のようになってきたとか。

実のところ斗南大学病院はそんな背筋がぞわっとするような怪談話はたいしてない。尤もネタになるようなインパクトのある話がないというだけで、ゼロではないのだが。

例えば斗南の七不思議。
リネン室の呻き声、カンファレンスルームの啜り泣き、真夜中の外科外来の怪しい診察の声、資料室の本が全てひっくり返されていた怪異、中庭のナンジャモンジャの木のふたつの白い影と、屋上庭園の奇妙な声、空き病室の叫び声ーー

誰が聴いたとかも曖昧で、その由縁もはっきりしない為に、こそこそと囁かれるだけで大きな盛り上がりもない。

特に外科のナースたちは皆視えない体質らしく、逆に怪談話は大好物だったりもする。同期が他所の病院で出会ったという恐怖体験をネタにした後に夜勤の見回りもへっちゃらだ。少し不可解な体験をしようものなら尾ひれを付けて増大させもする。
視たいとは思わないが、まるで視えないのもつまらないらしい。

その中で唯一視えるーーらしいのが、斗南イチオシのどじっ子ナース、鈍感でどんくさい天然娘と評判の入江琴子なのだ。

鈍感なくせに視えてしまうらしい。いや。視えてるのに、鈍感だから気付いていない、というべきか。



「あんた、何さっき、502号室でペラペラ喋ってたのよ」

「ああ、田島のおばあちゃんがねぇ、昨日息子さんが来て、蜜柑をこんなに持ってきたのよって見せてくれて。で、田舎のフルーツ談義を色々と話してたの~~無花果や柿を使った料理のレシピも教わっちゃって」

満面の笑みで楽しそうに話す琴子に、同僚たちは顔を見合せ……そして背中にイヤな寒気を感じたのである。

「何いってんの? 田島さんは一昨日亡くなられたのよ。あんたが連休の間に……」

「うっそぉー! またまたぁ。あんなリアルなのに、幽霊だったとでもいうの? んなわけないじゃない」

けらけらと笑って、幹の背中をばんばんと叩く。

「502号室は今は誰もいないのよ? だから、あんたが誰と喋っていたか、不思議で……」

「だから、田島のおばあちゃんだって! ほら、あたしも蜜柑を一つもらって……」

そしてポケットから琴子が取り出したのは、1枚のーーハンカチ。

「あれ? おかしいなーーちょっと小さめな蜜柑が入ってたはずなのに。ハンカチに変わっちゃった」

蜜柑の絵柄のはいったガーゼのハンカチは、田島さんのだと、皆はすぐわかったが。

「うわっ、すごいマジック! 一体どうやったんだろうーーあ!」

そしてはっと気がついたようにニヤニヤ笑いながら皆の顔をぐるりと見回すと、人差指を一本立ててチッチッチッと得意顔である。

「もう、みんなであたしをかつごうったってそうはいかないんだから
~~おばあちゃんに手品まで教えてご苦労様ーー!」

そう言って琴子は微塵も信じることなく仕事に戻っていった。

琴子が腰を抜かさんばかりに驚いたのは、その後に田島のおばあちゃんの息子さんが本当に蜜柑を持って「お世話になりました」と挨拶に来た時。

琴子は初めは蒼白になっていたが、「母が、あなたを本当の孫娘のようだと、よくこんなババァによくしてくれたと喜んでいましたので」と個人的にたくさんの蜜柑を貰ってしまった時、「こちらこそ……あたしにも本当のおばあちゃんみたいに話してくれて……」と感極まって涙ぐむ。

ーーと、結局、何となくゾッとはするものの、ほっこりもしたりして。しかも「世の中には不思議なこともあるもんねぇ」の一言で終わり、琴子自身特に引きずることもなく。


他にも、小児科のプレイルームで毎日遊んであげていた子供が、実はもう何年も前に亡くなっていた、なんてこともあった。毎日のようにその少女と対等の喧嘩を繰り返して最終的に仲良くなった琴子は、未だにその少女が幽霊とは信じていない。

そんな例が2、3あったことで入江琴子霊感説が囁かれるようになったわけである。
実際彼女が視えるのははっきり実体化したものらしく、彼女自身が幽霊だと認識することはない。認識してないから怖がらない。ある意味おめでたい。(周りだけが何となくぞわっとしている……)

具体的な怪異現象(ベッドの下から子供が覗いていたとか、テレビからズルズル髪の長い女が這いずり出てきたとか)はまず聞いたことがない。
みんなが、あの部屋、何か気持ち悪いよね、とか。
やだちょっと、変な音が聞こえない?
ーーなーんてことがあったとしても、絶対琴子が居るときにはそんな片鱗すら起こらない。
だから、ある意味彼女は最強の霊能力者なのではないかという噂までたつ始末だった。


そんなある日。
一人の少女がナースステーションから出てきた琴子を呼び止めた。
パジャマを着ているから入院患者だろう。前髪を綺麗に切り揃え、肩先までの黒髪は艶やかなストレート。髪型もさることながら白磁のような肌もそれは美しく生きた市松人形がそこにいるようであった。
綺麗過ぎてちょっとホラーちっくな美少女だわ、などと内心失礼なことを考える琴子である。
高校生くらいに見えるが、見知らぬ患者だ。こんな美少女、一度見たら忘れられない。
何処の病棟の娘だろう? と思っていると、少女は琴子に向かってくすっと小馬鹿にしたような笑みを返しこう言い放った。

「あなたが入江琴子さんね? あの入江先生の奥さんの」

こ、これはいつもの入江くんファンの患者ね? ーーと、身構える琴子である。

こういった宣戦布告にはもう慣れたものだ。
そして次に来る台詞だって予想できる。

ーーあなたみたいな冴えない女(あるいはどじな女、どんくさい女、馬鹿な女ーーなど幾つかバリエーションは異なるが)が入江先生の奥さんなんて信じられないわ。私の方がずっと相応しいわーー

患者さん相手ならにっこり笑って、入江先生、物好きなんですよーへへっーーといってそそくさと背中を向けてトラブルを回避する術も身に付けた。

こんな綺麗な娘にはついつい臆してしまうが、大丈夫、彼は面食いではないのだーーふっ。あたしは妻なんだものーーと、ちょっと余裕をもってあしらわないとね……などと思っていると。


美少女は、予想外の言葉を琴子に向けた。

「あなたーー 本当に霊感あるの? だったらなんで入江先生に女の幽霊が憑いているの、気がつかないの?」

はい?

凛とした口調で不穏なことを言い出す少女に、琴子は一瞬にして虚をつかれた。

「………な、何いってるのよっ」

「入江先生の後ろに常に一人の女がくっついているのよ。ショートカットで背が高く、水玉の若草色のワンピースを着ているわ」

それって。
琴子の顔がさーっと青ざめる。

「ーーーそ、それって……ス……ストーカー……?」

次の仕事のことなどすっかり忘れ去り、手にしていた回診用のナースカートを放り出して、慌てて踵を返して駆け出していく。

「い、入江くーーんっ! 待ってて! あたしが守るから~~」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

少女が声をかけた時にはもう遅い。琴子の姿は、既に視界から綺麗さっぱり消え去っていた。




「い、入江くーん」

息せきって駆けてきた琴子が医局にいた直樹の姿を見つけると、がしっと飛び付く。

「うわっ琴子! なんだっ唐突に! ってか、院内を走るな!」

「だって、だって入江くん! ストーカーに付きまとわれていたなら何故あたしに言ってくれないの?」

「は? ストーカー?」

琴子は直樹にしがみついたまま、ぐるりと周囲を見回す。

「そうよ。ショートカットで背が高くて若草色のワンピースの女よ!」

「しらねーし。ストーカーなんていねえぞ」

「え? え? え? そうなの? ほんとに? 大丈夫よね?」

とにかくキョロキョロと周囲を見回す。異変はない。

やだ、あの娘に担がれたのね、あたし、と、簡単に信じてしまう自分に対して自嘲気味にため息をつく琴子である。

「ショートカットで背が高い女性って言えば、第三外科に入院してた粕谷さんがそんな感じじゃなかったか? 入江にご執心で、わざわざこっちの病棟まで見学に来てただろ」

西垣医師が通りがかりついでに話に割り込んできた。
なんで、別の科の患者まできっちり名前を覚えているのか? などと突っ込こんではいけない。とりあえず彼が名前を知ってるからにはそのショートカットは美人なのだ、恐らくきっと。
物凄い形相で廊下を走っていく琴子を見掛け、何か面白いことがありそうだと付いてきていた桔梗幹はそう予測する。(仕事はどうなっているのか、気にしてはいけない)

「やっぱりいるんですか? ストーカー!」

琴子が西垣の胸ぐらを掴まんばかりに食いついてくる。

「そういえは、転院時には若草色のワンピース来てたな」

顔色悪いんだから、もう少しビビッドな色を選べばいいのに、とちょっと思ったんだよなーとしみじみと語る西垣の言葉にその場の全員が怪訝な顔をする。

「転院って………」

「ああ、ホスピスに……末期癌だったから……確かもう………」

その場にいた誰もが一瞬凍りつく。

そういえば、あの美少女、幽霊がどうのと言っていたっけ。
改めて思い出した琴子は、もう一度直樹にしがみついて、ぐるりと周りを見回す。

悪霊退散!

幽霊だろうがストーカーだろうが入江くんの周りを彷徨く女は一刀両断! あたしの眼力で追い払うっ! とばかりに天空を睨み付け、威嚇する琴子である。

「天井じゃないわよ! あなたが来たとたんに萎縮して10メートルくらい離れた廊下の影にいるわ」

先程の美少女がいつの間にか近くに来ていて、医局から病棟に繋がる廊下の片隅を指差している。
無論、何も見えない。

「 ……本当に何も…… 気配も感じなかったんですか? かなり背後にくっついてましたけど。肩とか重くなかったですか?」

美少女は、直樹の方を真正面からその澄んだ美しい瞳で見据えて問い掛けた。
共に冷然と美しい二人が対峙している姿は妙に絵になる。

「入江くんは慢性的な肩こりなのよ! あたしが毎晩マッサージしてるから大丈夫よっ」

美少女と直樹の間にさっと割り込んで、何故か琴子が替わりに微妙にズレた回答をした。

「どうせ、なしくずし的にいつの間にか琴子ちゃんの方がマッサージされてるんだろ?」

「へ? 」

一瞬きょとんとしたが、すぐに気がついて顔を赤らめる琴子ーーその様子に西垣の云う通りなのね、と皆は一瞬にして悟ってしまったが、美少女一人、怪訝な顔をしていた。

「………に、しても鈍感すぎるわ。幽霊以外にも、女の生霊がかなりの数、うろうろしているわ ………魂になっても、近づくなオーラが強すぎて、実体化を伴って傍に寄ることは出来ないようですが……」

「い、生霊!?」

「強い恋慕が思念となって、入江先生の周りを浮遊してます」

「いやーん」

琴子の方が青くなるが「……べつに今まで何の実害もないんだからどーでもよくね?」と、信じているのかいないのか、直樹はさして気にする様子もなく、そして美少女を見つめる。

「仮に君が本当に視えていて、おれの周りに何かがいるとしてもーー」

「……やはり、信じてはいただけませんのね?」

美少女は特に困った風でもなくふっと笑ってそう云った。

「微妙なところだな。君が思春期特有の自己顕示欲によって虚言を繰り返しているタイプなのか、思春期の精神不安定状態からヒステリーを起こし幻覚妄想を見ているのかーーもしくは本当に視えているのか」

「まあ、最後の選択もありなんですのね?」

理系の方にしては珍しい、と少し嬉しそうである。

「完全に霊的なモノを認めているわけじゃないが、否定もしないな。こいつが妙な体験をした事実は、かなりあれこれ検証しても科学的な解答が得られなかったものでね」

九州の母の実家で起きた不可解な出来事は、未だにしっくりとした科学的立証が出来ない。天才にも決して解くことが出来ない領域があるのだと思い知らされた経験だった。

「私はちゃんと視えてます。奥さまが体験された不思議な事って、頭の禿げ上がったおじいさまにお会いになったことですか? 貴方のご先祖の」

「ええーっあなた、菊之助じいちゃん、知ってるのぉ?」

軽く眉を潜めた直樹と違って、琴子はオーバーアクションで少女に食らいつく。

「時々お二人を見にいらしてます。守護霊ですね」

「や、やだーっおじいちゃん、東京まで付いてきてるのー?」

思わず琴子はぐるりと周囲を見回す。

「今は姿を見せてませんけど……時々空に浮かんでます。気になるんですね、あなた方ご夫婦が」

ああ、でも、と。
美少女は何だか一人で得心したように、ふっと微笑む。

「入江先生にはかなりの数の女の妄念が生霊となって、周囲に渦巻いてます。生霊の場合って、結構奥さんや彼女に危害を加えることが多いんですけど、何にもなかったんですよね?」

「へ? あたし? ううん? 何にも?」

「 ベッドの上で金縛りにあって、女にのし掛かられる夢を見るとか、鏡を見ると背後に女が立っていたりとか……誰かに車道に突き倒されそうになってりとかは?」

源氏物語でも、光源氏の妻の葵の上は六条御息所の生き霊に取り殺されている。遥か昔から女の嫉妬は怖いのだ。しかも恋する相手ではなくて、恋敵の方に憎悪が向けられるのは定石(セオリー)というものだ。

「……そういえば……金縛りにあって、何かにのし掛かられてる! 身動きできなーいっ!助けてっ!……って思ったら………入江くんだった………ってオチなら何度か……」

きゃん、と頬を染める琴子に、いつの間にか集まったギャラリーたちは、また墓穴を掘ったな、と琴子と直樹の顔を見比べる。
直樹は思いっきり眉間に皺を寄せていた。

「あれだけの数の生霊と、未練たっぷりの幽霊にまとわりつかれて、何の霊障もないというのが不思議でしたけど、二人並んでいるところを見て少し納得しましたわ」

「へ………?」

「物凄く強力なサポーターに守られていますもの」

「お、おじいちゃん?」

「それと、あなたのお母さまね」

「ーーー! お母さん………いるの?」

琴子は目を瞠はる。

「とっても優しくて暖かくて強いオーラです。そのお陰で二人には何の霊障もないんでしょうね」

「……今もいるの……?」

「はっきりした姿はわからないけれど、いつもお近くにいます」

その言葉に、「い、入江くーん、お母さんが……」と、絶句してそのまま直樹にしがみついて泣き出した。直樹は黙って妻の背中をさする。

「……あのーそれで、入江先生に憑いてる幽霊だの生霊だのはどうすれば……」

恐る恐る幹が訊ねる。
とりあえずみんなその美少女の云うことをすっかり信じるモードに入っていた。

「別に実害がないようですので、そのままでいいんじゃないですか? どうせ、この場にいる誰にも見えないのだし、見えなきゃ居ないと同じですもの」

とはいえ、居ると云われれば気になるのが、人間の心理というもので。

「いわゆる除霊とか浄霊とか…は?」

「ごめんなさい、あたくし、視えるというだけで払うことは出来ないんです。ここにいる霊たちはこのご夫婦の守護霊のお陰で悪さをすることはないとは思いますが、どうしても気になるのでしたら、払える人をご紹介いたしますわ」

にっこり笑いながら「どうなさいます?」と伺う美少女に、「別にいいです」と直樹はきっぱり云った。

「……何の問題もないわけだし」

「……そうですわね。賢明です」

未だに直樹の胸に顔を伏せている琴子の背中を見つめて「……素敵な一対ですこと」と呟いた。

羨ましそうに聴こえたのか、泣いていた筈の琴子がばっと振り返り、「だ、ダメよ! 入江くんのこと好きになっちゃ!」と叫んだ。

美少女は一瞬呆気に取られたがすぐに目を伏せてクスッと笑う。

「……大丈夫。わたくしも好きな殿方がいますもの。入江先生とかなりいい勝負の壮絶な美しい顔立ちの方です」

「そ、そうなの? でも入江くんより綺麗な顔の人なんて……それにあなたも綺麗だからきっとお似合いの美男美女……」

「生憎、あたくしの好きな方は、生きてる人間には全く興味がないんですの」

「へ?」

「そのうえ、傍若無人の冷血漢……プライドが天より高いというナルシストで、吐く言葉は一々刺があって周囲を凍りつかせるのが得意なんです」

「……なんで、そんな人を~~~」

おまえが、それを云うのか、とつい周りは突っ込みたくなる。

「そうですわね。何であんな人を、と自分でも思いますけど……態度に出すのが苦手なだけで、実はさりげなく思いやってくれていたり……分かりづらい優しさが垣間見えてしまったりすると、思いきれないんです」

「わかるっ! わかるわー」

年の離れた女二人は奇妙な親近感を感じてついついがしっと手を取り合う。

「………にしても、どうしてそういうタイプの殿方は、あなたみたいな……勢いと本能だけで生きてるような直情径行型の女に惹かれるのかしら……」

「へ?」

彼女が少し寂しげに呟いた言葉は聞き取れず、直樹がガールズトークに呆れて「仕事中だろ、もう行くぞ」という言葉に反応して振り返っていた。

「あーん、入江くーん」

琴子も直樹を追いかけていく。


「ところで君は何処の科の患者さん? この僕がこんな美しいお嬢さんの存在を知らなかったなんて……」

主役二人が退場したところで、西垣がすかさず美少女の手を取り、ふっとニヒルに微笑みかける。

「先生にもいっぱい憑いてますわよ。水子を抱えた女の霊が………」

ええーーっとギャラリーがどよめいた。

まあ、やっぱり。
ありそうよね。
うんうん。

「そ、そんな馬鹿な。僕はそんな失敗絶対しないぞー」

焦る西垣に、美少女は「嘘です」とあっさり応えた。

「こ、こ、こらっ大人をからかうんじゃない! だから君は一体何処のーー」

そして、ふっと西垣は思い付く。
この僕がこんな美人の情報知らないなんて可笑しくないか?ーーしかも浮世離れしたぞっとするような美しさ。これはもしやーー

「まさか……君こそが幽霊なんじゃーー」

青冷めて彼女を凝視する西垣に、美少女はふっと艶然とした笑みを浮かべ「だったらどうします?」と笑いーー

「ちょっと、皆さん何を集まってるんですか?」

細井婦長がその巨体を震わせて一喝する。

遠巻きに見ていた患者やナースはたちまち消えていった。

「原さん。どうしてここに? あなたはこちらの病棟では………」

婦長が美少女に問い掛けた。

「すみません。どうにも病院は色々なものの気配を感じてしまって」

ふっと、大人びた笑みを返して頭を下げる少女に、「確か重度の貧血で入院でしたね。もう体調は宜しいんですか?」と、婦長が訊ねる。

「 えっ?」

西垣が目を点にして少女を見つめると、彼女は「オホホホ」 と漫画のように笑った。

「入院する程ではなかったんです。周りのものたちに大事をとれと無理矢理……」

貧血なら第一内科ねーーでも、この美少女、何処かで見たことあるようなーーそんなことを考えていた桔梗幹は、婦長から唐突に声を掛けられた。

「桔梗さん、原さんを7階の特別室まで連れていって差し上げて」

「あ、はい」

特別室! どっかのお嬢様? まあ、確かにこの時代がかったしゃべり方ーー何処の姫君なんだか………いやーー確か。

「よく、TVに出てます?」

「……不本意ながら」

微笑む少女はぞっとするほど美しいが、妙に老成している。
確か夏になるとよく心霊特番のゲストととして露出が多くなっている気がする。
原真砂子ーー美少女霊媒師として有名な娘だ。
いかがわしい霊媒師が多くいる中で、まだ高校生ながら最も信頼できる霊力を持っている為、国の中枢を担うものからの相談を受けたこともあるという噂を聴いたことがある。

「マジで視えるんですか?」

「 信じなくて結構ですわ。視えない方に無理して信じてもらおうとは思いませんもの」

幹は興味津々で彼女に訊ねたが、その答えはあっさりだった。

「この病院にも沢山いますか?」

「病院ですからね。でも、他の病院ほどではないかも………わりと浄化されてますね、ここで亡くなられた方たちの魂は」

「そうなんだーー」

それでその手の話を聴かないワケね、などと妙に納得する。

「彼女………入江琴子さんのお陰ですね」

「へ?」

「彼女の守護霊方の力が強くて、ここでは何の悪さもできません」

「………はあ」

「守護霊の力だけでなく、お二人とも元々持ってるオーラがとても変わっているというか、強烈で、凄く気になってしまって。
………周囲は巻き込まれて大変でしょう?」

凄く年下の患者に、憐れむように顔を窺われて、「ははは……、そうですねぇ」と引きつり笑いを浮かべるしかない幹であった。

「実は……斗南病院には七不思議と言われる都市伝説めいた噂はあるのですけど」

「リネン室や、カンファレンスルームや、屋上庭園や……?」

「よくご存知ですね」

「担当の看護師さんから雑談めいた感じで伺ったのです。専門の範疇なので院内散歩のつもりで各室に行ってみましたが、何もいませんねーー霊的なものは」

「なんだ、やっぱり。ただの噂ですよねー」

「……霊的なものはありませんが、桃色な残留思念があちこちに残っていて胸焼けしそうでした」

「へ?」

「高校生のあたくしには刺激が強すぎて。ちょっと言葉には出来ないような残像が色々と………」

ぽっと顔を赤らめて口元を覆う彼女の方をガン見して、「ええーー」と一呼吸おいて叫ぶ幹である。

「まあ、だから余計にあのご夫婦のことが気になって……結婚されてるのに、何故わざわざ……あ、いえ……」

慌てて口をつぐむ彼女に全てを察してしまう。

ーーつまりはあの夫婦が七不思議の元だとーー?

「………そんな気はしてたけどね……」

「え?」

「いえいえ。出来れば病院の評判の為にも忘れていただいた方が…」

「まあ、もちろん口外は致しません。職業柄、守秘義務もありますので」

口元をふっと覆う所作は、普段和装で慎ましやかな立ち居振舞いをしていたな、ということを思い出していた。

にしてもーー。
結局この病院の怪異譚は全て琴子に起因するのだとわかって、全くあのトラブルメーカーは……!とため息を禁じ得ない。

ーーそうね、七不思議の噂の後っていつも琴子の身体に怪しい……いや、妖しい痣が浮かび上がっていたものね。
何となく予想はついていたのよね、ええ、何となく。


そして、二人は7階の特別室直行のエレベーターに乗り込んで行くーー。










* * *


〈おまけ〉



「まあ、入江くん! 自分のお部屋を貰えたのね~~素敵~~!!」

「ああ、琴子。これからはわざわざ他の部屋を使わなくても ………」

「へ?」

「ソファもここを倒せばベッドになるタイプで………」

「わー凄いねっ 割と広いんだ~~」

「寝心地もいいぞ」

「ほ、ほんと。すっごいクッションいいねー。あ、ちょっと待って入江くん」

「なんだ、それは?」

「盛り塩よ。念の為。生霊だろうが幽霊だろうが、入江くんにまとわりつく女はあたしが撃退するからねっ」

「頼りにしてるよ、奥さん」

「いやんっ 入江くん、突然引っ張っちゃ………あ、あれ………? 今から寝るの?」

「そう。ソファのクッション性とこの部屋の防音性を確認しなきゃな………」

「防音………? なんで~~?」

「防音壁は特注でこっそり頼んだ。だから、少しは声を出しても大丈夫だぞ」

「えーと、ダメ……だよ。だって、菊之助おじいちゃんやお母さんが見てるかも……」

「四六時中見られてるんだったら、家でも同じだろ?」

「そ、そうか……」

家でも同じなら家でやりゃあいいだろうがっ!

ーーと、彼らを取り巻く視えないモノたちがあっさり納得している琴子に突っ込んでいるかどうかは知らないがーー。

「あ、ダメ……入江くん…………あ、あ……ん//////」



入江医師に個室が与えられてから、斗南の七不思議の噂はぴたりと止んだ……というのも、これもまたまことしやかに流れる噂……かもしれない。

真夏の夜は不思議で満ちているーー。







※※※※※※※※※※※※※※




……久しぶりのお話がこんなんでスミマセンm(__)m

少しは涼しくなったでしょうか? なんじゃこりゃ? とさぶくなってしまったかも………^-^;

えー、私は全く視えないヒトです。スプラッタなホラーは苦手ですが、最近流行りの恐怖映像特集とか見て、絶対これ作りもんだろーって突っ込むのが好きです^-^;


琴子は佐賀で菊之助じーさんの幽霊を視てる時点できっと霊感はあるんだろうなーと思ってました。でも、病院で何事もなく過ごしているのはきっと悦子さんとじーさんのお陰だと(笑)
そんなことを前々から思ってたので、ちょっと書いてみました。

M様の学校七不思議に便乗して、病院七不思議……すみません、勝手に遊んでます^-^;S様も仰ってましたが、病院でやるならやっぱり一番の穴場は夜の外来診察室だな、と。最近、休日の閑散とした外来待合室にぼおっと座っていた時に思いました……^-^;


さらに……謎の美少女霊能者。オリキャラじゃないんです……某ホラー小説から勝手に出演させてしまいました。(脇キャラですが^-^;)それゆえカテゴリー、パロディに分類してしまいましたがf(^_^)マニアックなコラボですね……^-^;

漫画化もアニメ化もしてるし、ご存知の方もいるかもしれませんが……わからなくって何だよ、このキャラ!と不快に思われた方がいたらスミマセンm(__)m
(S様以外でどれだけ分かった方がいるのでしょうか……?)
でも、実はこの作品にはイタキスよりも遥か昔からハマってたんですよー。(四半世紀以上……)しかも、かなりの数の二次サイトも存在していることを知り、(でも、ピークは過ぎてるようで、なんで今更、な感じですが)ちょっと渡り歩いてしまいました。
『ナル×麻衣』……いいですよ……(^w^)








さて、盆休みも終わり明日からお仕事です。妄想も通常に復活するかなー(^^)
暑さも少しは落ち着くといいですね♪









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