20010513 ~10年目の同窓会 6




本日、2話分アップしてます。未読の方は前話からお読みくださいませ。






※※※※※※※※※※※※※



さて。こちらは琴子の方である。
じんこに連れられて、ビンゴのグッズを控え室に探しに行き、それらを持って会場に入った途端ーーー


きゃああああーーーっ


女たちの耳をつんざくような悲鳴が聴こえた。

「な、何!?」

琴子とじんこがお互いしがみつくように抱き合って、きょろきょろと辺りを見回す。

「琴子、あれ……」

じんこが先に気がついて、正面ステージのスクリーンを指差した。
スクリーンには、ずっと高校時代のアルバムが編集されてエンドレスに流されていた筈だか、いつのまにか今日の会場の様子の写真に変わっていたらしい。
そういえば、プロのカメラマンをしているというE組の富樫が、みんなの写真を撮影していた。最後に各クラスで集合写真を撮るとか云っていたっけーー
いや、そんなことより。

何が映っていたのか。
スクリーンの写真は数秒毎に変わっていくから、みんなが楽しく歓談したりふざけたりしている写真が流れているだけだ。

なのに、たくさんの女たちが腑抜けたようにスクリーンを見つめたままフリーズしている。

「琴子…………あんた、さっきロビーで入江くんとキスしてたでしょ」

「え? えええーっ?」

琴子の素頓狂な声が辺りに響いて、スクリーンを見つめていたみんなの視線が琴子に集まった。

「どうもばっちり撮られてたみたいで今、流れてたみたいね。変わる瞬間、ちらっと見えたんだけれど」

と、じんこはスクリーンを指す。

「な、な、な、なんでっ! 今撮ったばかりのをそんなすぐに見せられるの!?」

「そりぁもう。時代は進化しているのよ」

達観したようなじんこのセリフも上の空で、琴子はただ口をぱくぱくしながら、どうやら一身に注目を集めているらしい我が身をどこぞに隠そうかと視線をあちこちに泳がせる。

「あ、また映った」

「え……」

きゃああああーーー

再び、阿鼻叫喚。

どうやら、たまたま男子トイレから出てきたところを見かけて、ばっちり撮ってしまいました、という感じのアングルだった。

ソファに腰掛けている琴子に覆い被さるようにキスをしている直樹ーー二人の横顔がしっかり映っていた。

「ちょっとおおーー」

琴子は慌てて投影している所を探して見つけると、そちらに向かって駆け出す。

「何映してんのよーー!」

投影機にタックルしようとしたが「入江さん!」と、日比野に手を掴まえられ止められる。

「こ、これ、ここの備品だから壊さないで~~」

「日比野くんっ! 何であんな写真!」

真っ赤になって強烈な剣幕で怒る琴子にびびりながら、「ごめん、富樫が勝手に……」と、後ろでパソコンを弄っているエディターをにらんだ。

「えー、だっていい写真じゃん。めっちゃ綺麗で。二人ともすごくいい感じだし。なあ?」

と、一眼レフのデジカメを抱えて、日比野に同意を求める。

「うん、まあ。でも流石に、前もって知ってたら……」

日比野は困ったように言い淀む。

「でも、まあ相手が違ってたらマズイけど、夫婦なんだからいーじゃん。あんなとこで大胆にキスしてたんだから、別に見られてもいいってことじゃ………」

よくなーい!

そう叫びたかったが後の祭りである。
とりあえず直樹は見てないだろうか、と会場を見回すが、まだ中に入っていないようだ。ほっとする。絶対機嫌が悪くなる。
写真のデータは後で富樫から返してもらう約束を取り付けた。
見せてもらったけれど確かに抹消するには惜しいくらいいい写真だ。……いやいや。

背中に……視線がーー。
視線が痛い…。

何だかあっちこちで、ひそひそ囁かれているような気がする。

入江直樹と結婚したというだけで嫉妬と羨望を常に集める注目の我が身なのに、余計な視線をさらに集めてしまったと、琴子はこめかみを押さえながらふらふらと理美たちの方に戻ろうとしていた。

ーーが。

「相原さーん」

彼女らのところに辿り着く前に、再び琴子の方にも障害が立ちふさがる。
唐突に声を掛けてきた女を見て、一瞬身構えた。

「ちょっとこっち来ない? 医療関係者グループで集まってんのー」

そう云って琴子一人を連れ去っていったのは元C組の塩谷芽衣子だった。
斗南の看護科卒の先輩でもある。実習時代は内科にいて、結構きっつく虐められたのを思い出していた。
外科病棟に正式に配属されたあとは、一度も芽衣子と仕事上の接点はなかったが、院内ですれ違うことは何度か会った。同期でもある元同級生たちとヒソヒソ何やらこちらをみて囁かれてイヤな気分になったこともある。

そして、彼女に引っ張られて行った先には10人程の同級生たちが輪を作って話し込んでいた。

「でさードラマみたいに放送が入ったわけだよ。『お客様の中に、医師もしくは看護婦の方はお見えになりませんか?』ーーって奴」

「 えーマジ? あたし、1度も飛行機や新幹線でそんなアナウンス聞いたことないよ」

「で、池沢くん、結局どうしたの? ちゃんと私は医者です、って、手を挙げたの?」

「そんなの当たり前だよ。まあ、ただの過呼吸でたいしたことなくてね。飛行機引き返すとかしなくて済んで良かったよ。……っていうか、そんな判断おれに任されても困るし……」

そんな自信なさげな医者でどうすんのよーーと呆れながらも、どうやら真面目に仕事について語っているようだと少しほっとする。
悪いけど、突然救急患者にぶち当たるのはあたしの得意技よーーと妙な自慢を心の中で思ったりする。


「ほらーみんな。相原さん、連れてきたわよ。斗南の看護婦の中でもっとも有名なナースなんだから」

芽衣子がにやにやと笑いながら琴子を前に押し出す。

「相原さんじゃなくて、入江さんでしょ? 芽衣子、わざとらしく間違えないでよ」

そう云ったのは、やはり斗南の看護科卒の同級生だ。確か、皮膚科。

「ああ、ごめんなさい。あんなに入江くんと仲がいいなんて、本当に羨ましいわー」

「おかしいわよね。病院じゃ入江くん奥さんに冷たいって評判なのに」

「えーそうなのー?」

驚いたように訊ねたのは、確かにA組の女子。

「陽子は、薬学部を出て、製薬会社の研究員をしてるのよ」

ぽそっと芽衣子が琴子に耳打ちする。
そうそう、後藤陽子! 毎年高校時代の同級生からの直樹宛の年賀状は減ってきているのに、10年欠かさず送り続けてる女だ。
どうやら彼女に病院での夫婦の様子を説明しているらしい。

「奥さんがどじばっかりで、迷惑かけられっぱなしで、本当入江くん可哀想って話……」

「もう、注射はまともにできない、点滴のルート確保も失敗ばかり、病院の中でしょっちゅう迷子になっては患者さんを変なところに連れていき……もう、彼女の噂は内科まで響き渡っていたわよね」

「やだっそんなんでよく看護婦やってるわねー」

うーん、これは……。
つるし上げ?
流石に鈍い琴子でも分かる。
さっきの衝撃スライド上映のショックから、琴子にあれこれ云いたくなってしまったってヤツだろう。
ちょっとした鬱憤の捌け口だ。

「医者の旦那さん掴まえてるんだから、もう看護婦やめちゃえば?」

「あーあたしも早く医者をゲットしたーい」

「あ、おれはどう? まだフリーだけど」

「えー池沢くん、病理でしょ? ずっと大学病院だよね? 出世コース乗れるのー?」

「いーじゃん。おれ、T大理Ⅲだぜ? 入江より格は上だろ?」

「格はともかく、顔はねー」

ぎゃはははと笑いが起きる。

「久瀬くんはナースと結婚したんだよねー?」

「親の病院継いで安泰だよな」

「小さな耳鼻咽喉科クリニックだぜ? まあ今、アレルギー患者が多くてそこそこ儲かっているけど」

「えー? 儲かってるってどれくらいー?」


みんな、酒が入っているにしろ、明け透けに本音を吐露しすぎている。
琴子は話を聴いてるだけで胸焼けしそうにだった。

「あ、あたし……理美たちの方へ」

こそっと立ち去ろうとした琴子の腕を、芽衣子ががしっと掴まえる。

「いいじゃない、同じ医療者同志なんだしー。病院じゃ滅多に会わないんだから。ゆっくり話しましょ」

「そうそう、彼女、オペで先生の手を傷つけたって凄い武勇伝があるのよねー」

「やだあ、先生の手をオペしちゃったのー?」

いったいいつの話を持ち出してんだか……
弁解する気力も沸き起こらない。
けらけら笑っている人たちの前で深くため息をつく。
斗南に勤めている者もいれば、他所の病院にいる者もいる。事情を知らない者たちに面白可笑しく琴子の失敗列伝を語ってくれている。
皆事実だから否定はできないが、殆どナース1年目の出来事だ。
ストレスが溜まる仕事だと分かっているけれど、人を話の肴にされては堪らない。


「なーんで、そんな人が入江くんの奥さんやってられるのかしら。彼は入局4年目にして年間手術回数は外科のトップなのよ。学会から注目される難易度の高いオペも成功させてるの。なのに、彼女は……」

はいはい、どうせ入江くんに相応しいビシバシ出来るナースじゃありませんよ。

余計なことは云うまい、どうせ酔っ払いだーーと琴子は耳に栓をしてやりすごそうと決めた。ーーが。

「塩谷さん、情報古い。琴子さんの失敗話、それかなり昔の話でしょ。ナースになりたての頃の。みんな、1年目2年目は色んな失敗するのは当たり前よ」

そう云ったのはーー誰だろう。
琴子の知らない女性だった。

「ああ、あたし元C組の北見です。斗南大学医学部の作業療法科を出て、斗南のリハビリテーション科で言語聴覚士をしているの」

「あ、そうなんだ。ごめんなさい、知らなかった」

「何度か会ったことはあるのよ? 外科の患者さんが、うちにリハビリに来ることもあったから」

「あーそういえば、何となく。あ、でも、なんで同級生って教えてくれなかったんですか?」

病院で出会う元同級生の看護婦たちは必ずそれをアピールして直樹のことをあれこれ訊いてきたのに。

「別に、同級生とかどうとかなんて仕事にはなんの関係もないでしょ?」

眼鏡をかけて少しキツそうな顔立ちはしているが、きっぱりした言い方は妙に清々しい。

「産休とるまでの琴子さんの評判、そんなに悪くないわよ。どちらかというと、患者さんにはとっても人気があるわ。
注射や点滴のミスなんて最近訊いたこともないし。いったいいつの時代の話よ、って云ってやれば?」

北見の言葉に、琴子を馬鹿にしていた看護婦たちは、少しバツが悪そうな顔をして唇を噛む。

「北見さん、ありがとう」

にこっと微笑む琴子に、特に表情も変えることもなく「別に。あなたを庇ったわけではないわよ。事実を歪曲した話を目の前で展開されるのがイヤなだけ」と、あっさり言う。

そういえば、と思い出した。
事故のショックで失声症となった琴子の担当の患者を彼女に預けたことがあった。
一見無愛想で怖いと感じたが、面と向かって話始めると、真っ直ぐ目を見て優しく語りかけてくると、言葉を取り戻した患者が嬉しそうに話していたっけ。

「外科の清水主任は、私の中学の時からの先輩で、尊敬してるの。その彼女があなたのこと、誉めてたから」

「えー? そうなの? 知らなかった。うれしい」

「……病院に働いていれば、入江先生が奥さんのこと溺愛してるのはみんなわかっているよのね。ただ認めたくないだけ。あなたが妊娠したこと知ってショックで早退した職員、うちの科にもいるのよ」

「ははは………」

「だいたい、あなたたち、割と病院で平気でいちゃいちゃしてるでしょ。キスの目撃談なんて、今更って気がするんだけど」

平気でいちゃいちゃ………
そうか、そう見られていたのか。
いや、確かに直樹は、全く見られていることに無頓着なキライはあるけれど……
琴子は思わず引きつった笑いを返す。

「どうせ、この酔っ払いたち、医療従事者として参考になる話題はたいしてないから、さっさと友達のとこ行けば?」

「ありがとう」

北見に促されて琴子は、そそくさとその輪から抜け出して、ようやく理美たちの方に戻る。
どっと疲れを感じつつ。


「おかえり。大丈夫だった? 変な集団に捕まってたけど」

理美に云われて「まあね」と、琴子は肩を竦めて苦笑いを返す。

「そのうえ、素敵な写真もアップされていたわね」

「…………………」

にやにやと理美に笑われて、返す言葉もない。

「 そろそろ締めのビンゴだね。……あれ? そういえば入江くんは?」

「あれ?……いない……?」

琴子はぐるりと会場中を見渡して、愛する夫の姿を探していた。






その頃直樹は。
いまだに鬱陶しい、T大助教授に掴まったままだったーー。









※※※※※※※※※※※※



何だか同窓会狂想曲……といった様相で、あっちゃこっちゃでドタバタしております(^.^) 何じゃこりゃ……?

えーと、あと1話か2話で終わる予定です……






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20010513 ~10年目の同窓会 5

更新遅くなってすみません。切りどころを見失ってだらだらと書き綴っておりました。長くなってしまったので2話にわけます。





※※※※※※※※※※※※※




「……二学期の前半、おれの席の前にそういう名前の人が居た記憶はあるが、目の前の君とはどうも合致しないな」

「覚えてる?」と少しばかり顔を赤らめて訊いてきた女に対する直樹の返答は、実に歯に衣きせぬストレートな物云いだった。
佐藤美智子はぐっと言葉に詰まる。

「お、女の子は変わるのよ。化粧とかで全然……!」

実のところ目元は弄っているが、これくらいは許容範囲だろう。

「まあ、確かに。元A組と称する女たちが次から次へと挨拶に来たけど、半分近く記憶の顔と合致しなかった。女性ってのはそういうもんなんだろうな」


恐らくはみんな、綺麗になったなーとか、変われば変わるもんだなーとなどと、感嘆の想いを込めた言葉を期待して彼に近付いたに違いない。だが、綺麗になったとか美しくなったとか主観的で曖昧な言葉が彼の口から出ることはただの一度もなくーー。
勉強一筋でオシャレとか全く気にしなかったA組女子はきっとどのクラスの女子より容姿の変化率が高いだろう。特にこの同窓会に向けてどれ程多くの女子が気合いを入れて自分を磨いてきたことか!
ーーー自分も含めて。
彼の嫁のように、高校時代とほぼ変わらぬ容姿をしているなんて、妻の座を手に入れたことによって女磨きを怠っているとしか思えない。

そう、一体今日、あたしが何人の同級生の男子たちに驚嘆されたと思ってるのよ。

ーーびっくりしたよ、こんな美人になってるなんて。

ーーテレビ見たよ、佐藤さんとは気がつかなかった。あまりに見違えちゃって……

ーーよかったらアドレス教えてよ……

教えてあげるわけないじゃない、入江くんに比べてあんたたち、劣化率半端ないんですけど! いい大学、いい会社に就職したからって安穏な生活に溺れきっていたでしょう? 何? 30前にしてその腹は? って奴ばっか!
けれど、目の前の憧れの王子はーー高校時代よりもさらにグレードアップして大人の色気も感じさせる美しさと風格! 想像通りの進化具合だったーーのに。

「それで? 用がないなら行くけど」

まるで興味無さげに云われて、美智子は焦って話し始める。

「え、えーとね。知ってるかしら? 私、今、トーキョーテレビで経済番組のMCやってて」

経済番組、と言い切るには若干語弊のあるバラエティー要素の強いプログラムだが、その辺はさらっと誤魔化す。

「ああ、そういえば琴子がそんなこと云ってたな。一度見せられた気がする」

「み、見てくれたの?」

思いもかけない直樹の言葉に、美智子の顔はぱっと輝いた。

「ああ、悪い。子供あやしながら見せられてたんであまり覚えてない」

そしてやはりあまりに正直すぎる答えに、美智子は思わず脱力する。
しかもーー子供あやしながら……?
あの入江直樹が!?
なんて、所帯じみた……

「い、入江くんが赤ちゃんあやしてる姿、何だか想像出来ないな……」

「そうか? 別に無理して想像してもらう必要もないがーーで、話って?」

用があるならさっさと言えーーと、鋭い目つきで訴えられている気がして、美智子は怯んで少し後ずさる。

「えーと、その番組で、色々な業界の人たちに出演してもらってるの。最近医療関係者のコメンテーターも多いでしょ? 医療と経済についてぜひ入江くんに語ってもらいたいと……」

嘘ではない。
とにかく直樹と今後接点を結ぶために、この企画を通したのだ。いや、企画というより、医療雑誌に載っていた直樹の写真をプロデューサーに見せただけで「いいねえ、華があるよ」と一発OKだったのだが。

「は?」

直樹は思いっきり眉間に皺を寄せて美智子を凝視した。

「医療と経済? おれはただの外科医だが。そういうのは病院の経営者にでも訊いてくれ」

まるで興味も関心の欠片も無いようで、すっと背中を見せて会場へと顔を向ける。

「あ、待って! 入江くん。外科手術にもやっぱり医療格差って存在するでしょう? 富裕層は高度な先端医療を受けられるけれど、一般庶民や貧困層は選択の余地がなかったりとか。新薬の開発でも日本では承認に時間がかかったり、研究費の助成も各大学の序列や厚労省との関係性が絡んでたりーーお金にまつわる問題点は常に存在しているわよね? うちの番組ではそういうことを解りやすく視聴者に伝えていくのをベースとしていて……」

必死で食らいついて説明する美智子を暫く見ていた直樹だが、ふっと軽く鼻で笑い、
「確かに医療業界も幾つかの問題が内在しているのは事実だが、それをおれがメディアに出て語る必然性は何処にもないな。もっと専門家は沢山いる筈だ。きっちりリサーチして相応しい人選をしてくれ。じゃあ頑張って」と軽く手を挙げて踵を反す。

「入江くん、待って……」

美智子の声に立ち止まることなく、直樹はさっさと歩き去る。


「……あん、もう……」

「何やってんのよ」

全く彼を留めて置くことができず、軽く舌打ちをしていた美智子の肩をぽんと叩いて、後ろから唐突に現れたのは高階優梨子だった。

「入江くん、あんたに全然興味の欠片もないじゃない」

「うるさいわね」

「あんたのことだから、ちょっとテレビに出て自信過剰になっちゃって馬鹿みたいに突進して、告白でもするんじゃないかと思ったわ」

「優梨子! い、いくらなんでも妻帯者に告白なんかしないわよ」

あんたが隠してた衝撃の事実を知るまではね!
一体あたしが夕べ何時まで告白のシュミレーションしてきたと思ってんのよ!
心の中で毒を吐く。

「そうなの? つまんない」

「あんたねー。人のことばっか面白がってないで自分はどうなのよ」

「あんたに堕ちるくらいなら、次はあたしも行けるかなーとかは思ったけど自分からわざわざ玉砕しに行かないわよ」

しれっという優梨子に「はあ?」と睨み付ける。

「あんた、ほんとにサイテーね。あたしのものになったら奪い取るつもりだったってこと? ほんと、昔っから人のもの欲しがるし、真似するし……ああ、思い出したら頭きた!」

「いつも真似してるのそっちでしょ? そのクセいつだってあたしより上に行こうと馬鹿みたいに努力しちゃってさ。相原さんもそうだけど、努力や根性ウリにする人って大嫌いなの。あんたってそんなにあたしに勝ちたいわけ?」

「はー? あんたが何もせずにいいとこ取りだけしようとするから、こっちはあんたよりはマシな人生を歩もうと努力してきたのよ。それの何処が悪いのよ」

「別に。だからそーゆー頑張る人間がウザいだけよ。入江くんみたいに努力せずにさらっと何でも出来る人が一番カッコいいわよね、スマートでクールで。だいたいあんた頑張ってアナウンサーになったって云っても、実際今日、あんたのこと知ってる人なんて大していないじゃない。テレビに出てるからって有名人になれたと思うのはあんたの大いなる勘違いみたいね」

「う、う、うるさいわねー」

それはかなり美智子にはキツい一言だった。今日此処にきて、自分はもっと周りから取り囲まれるのではと少々期待してたのだがーー声を掛けてくる男たちはいるにはいるが、入江直樹ほど視線を集めているわけではない。
所詮芸能人名鑑にすら載っていない自分の知名度なんてこんなものなのか、と思い知ったりもしたのだがーーこいつに云われると腹が立つ。

「口だけ達者で、結局、丸の内のOLやってんのよとか言いながらずっといつ切られるかびくびくしてる派遣社員のあんたに云われたくないないわよ」

「はー? あんたそのセリフ自分の番組で云ってごらんなさいよ! 全国の派遣の女を敵に回すわよー!」

「何よ……」

取っ組みあいでも始まるかのような険悪な雰囲気が二人の間に漂う。優梨子が美智子のジャケットの襟を掴んでキッと睨みつける。これがマンガなら二人のバックにキングギドラとゴジラでも火を吹きあっていることだろうーー。

「離しなさいよ!」

ジャケットの襟を掴む優梨子の胸をどんとついて叫ぶ。
優梨子は一瞬顔をしかめて胸を押さえると、そのまま美智子の腕を掴み、バランスを失って二人して近くのソファの上に倒れ込んだ。

「「きゃあ……」」

美智子の上に優梨子がのし掛かるような体勢でソファに収まってしまった二人を、トイレから出てきた人がぎょっとしたような顔になり、あわてて目を反らして足早に立ち去っていく。

「あー待って~~誤解~~」

美智子の叫びに慌てて優梨子が上から退く。

「はあーまったく、どーしてくれるのよ、妙な噂がたったら……」

嘆く美智子に、優梨子は「は?」という顔をして、
「全力で否定して回ってちょうだい!」と、訴える。

それには答えず、美智子はふっと自分の座っているソファを見た。

「さっき……見ちゃったのよね。このソファで」

「え?」

何を唐突に言い出すのかと、優梨子は幼馴染みの顔を覗きこむ。

「入江くんと、あの相原琴子がキスしてるとこ」

「はー?! こんなとこで?」

「そーよ! こんなとこでよ!トイレから出たら思いっきり目に入ってしまうここでよ? 一体なんなのよ、あの二人!」

「……夫婦でしょ」

「そうね。夫婦だから別にキスなんてたいしたこっちゃないのかもしれないけど……ここ日本よね? 公衆の場でそうそう、しないわよね? 夫婦だからって!」

「……まあ……普通はね」

「あたしのショーゲキがどんなもんだったか……そうよ、あわよくば告白してやろうかとか思ってたわよ。それっくらいの自信今のあたしにはあったわよ。それが、目の前のいちゃこらで木っ端微塵でぶっ飛んだわ。
お陰で告白ぶっ飛ばして仕事の話にもってくしかなかったのよー」

嘆き始めた美智子を見下ろしたままで、「ふーん。妻一筋なんて、つまらない男になったもんね、入江直樹も」そう言い捨てる優梨子。

「また、そーやって、自分の思い通りにならない人は『つまらない奴』でばっさり捨てて、自分を守るのよね、あんたは」

呆れたように美智子はソファから立ち上がり、優梨子を蔑むように一瞥する。

「何よ?」

「あんたこそ、つまらない女だわ。もう付き合ってられない。今度こそもう、縁を切るから。あーだこーだ云うくらいなら自分で入江くん落としてみたら? じゃあね」

「美智子! あんたもう、入江くんのこと諦めたの?」

「あんたには関係ない!」

そうキッパリ言い切ると、美智子は会場の中へ入っていく。
後に残された優梨子は「ふんっ!」と顔を歪ませるとトイレの方に消えていった。






さて、一方直樹は。
美智子から解放された後、とにかく琴子の方へ戻らねばと、会場へ入る扉に手を掛けた瞬間に、また新たな障害が待ち受けていた。

「入江くん。君が斗南大病院の外科のエース、入江直樹くんだね?」

そう、声を掛けてきたのは40歳前後の妙ににやけた顔のおっさんだった。

「はい。あなたは?」

そう問うと同時に彼の手に名刺が押し付けられた。

「僕はT大医学部精神科助教授の恒松と言います。斗南高校の15回生でね、この君たちの隣の会場、高砂の間て僕たちも同窓会をやってるんだよ。いやー、良かった。ぜひ、君に会いたいと思っていたんだ。君の噂は我がT大医学部にも届いているんでね。特に先月の『医療ジャーナル』見たよ! まだ生後半年の赤ん坊の生体肝移植のオペは素晴らしかったと聞き及んでいるよ」

直樹の肩を叩いて、親しげに話しかけてくるこの男に思わず胡散臭さを感じたが、同業で先輩ともなると無下には出来ない。
ちらりと自分たちの会場の中に視線をやったが琴子の姿は死角になっているのか見えなかった。
直樹は軽くため息をつくと、「それで、何か私に話でも?」と、T大助教授の顔を真っ直ぐに見つめた。






※※※※※※※※※※※※※



続けて6をアップします。





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