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2015.05.28 / Top↑






「ーーはい、退職された篠崎先生からのビデオレターでした。ではこのあとは暫く高校時代のアルバムをスライド上映致しますので、皆様懐かしんでご覧になって下さいね。
なお、制作編集は、現在CMクリエーターをされている元E組の金澤くんが…………」

おおーっという歓声が上がり、司会者の声が掻き消される。
どうやらE組集団の方で、とうの金澤くんらしき男が照れて笑っている。

「みんな、だいぶ出来上がってきたわねー」

司会者の話も右から左に受け流され、クリエイター作の凝りに凝ったスライド上映もみんな殆ど注視することなく、あちこちで幾つもの集団をつくり、酒を酌み交わし盛り上がっている。
時折発せられる奇声や爆笑の声から、酒の勢いの速さが伺われた。

「急性アルコール中毒で倒れる人がいても安心よねー。ナースやドクターがゴロゴロいて」

理美の言葉に琴子が困ったように、
「 笑い事じゃないわよー。去年、医局の新人歓迎会で研修医の子が急性アルコール中毒でぶっ倒れちゃって大変だったんだから。医療従事者って普段ストレス溜まってる分、飲み会とか結構はっちゃけちゃうのよねー」と、溜め息をひとつく。

「まあ、あんたの旦那は平然としてるけどね」

直樹は琴子から少し離れたテーブル脇で恩師たちに取り囲まれていた。
琴子の取ってきた料理で軽く腹拵えしたあとは、渡辺や元テニス部の面々と話し込んでいたが、いつの間にか元教師たちに掴まったようだ。
どんな会話をしているのだろう、もしや未だにT大に行かなかった恨み辛みでも愚痴られてるのではと、こそこそっと耳を傍立てに近寄ったら、どうも話は健康相談のようだった。
かつての恩師たち、みんな身体のそこかしこにガタが来ているお年頃らしい。



「………入江くん、あまり飲んでないよ。いつもそう。いつ何時、呼ばれるか分からないからって、一杯以上飲まないの。西垣先生ーーあ、外科の上司ねーーなんて、今飲んじゃったからーって、しょっちゅう呼び出し断ってるのに!」

元々アルコールは強い方だし嫌いではない筈なのに、いつも乾杯の一杯くらいしか飲まない。
こんなときくらい羽目を外してもいいのに、と思うのだけれど。もっとも学生時代どんなに飲んでも潰れたことはなかったし、羽目を外す直樹というのも想像がつかない。

「まあ、酔っ払った入江くんっての見てみたいかも」

じんこが想像したようでぷぷっと笑いながら云う。

「多分、少し笑い上戸になるくらいだよ」

「えー笑い上戸の入江くん? やだ、どんなのー!」

楽しそうに酒を飲んでいた光景ーーそれは、以前秋田の母の実家を訪れた時、父、重雄と酒を酌み交わし、昔の母の話を聴いて腹を抱えて笑っていた直樹を思い出す。
懐かしくも幸せなひとときだったな、とふふっと微笑む。

医師になってからは旅行にでも行かない限りは殆ど飲んでいないのが少し可哀想に思えてしまう。すべての医師がオフの時までそこまでストイックになっているとも思えないのに、直樹の責任感は誰よりも強い。
それが誇らしくもあるけれど、オンオフを区別しないと直樹の身体が持たないと、琴子の心配の種でもある。


「琴子ーねぇ、ちょっと話聴いてよー」

F組の同級生たちが、思い出したように三人の前に集まっては近況を語りだしている。

「真弓ってば、B組の佐竹くんと付き合ってるんだってー」

「へえーそうなんだ!」

「そうなの。しかも初めはお互い同じ学校の同級生なんて知らなくって。高校時代、B組の人と知り合う機会なんてなかったじゃない。バイトで知り合ったんだけど、あたしの方が先輩で、しかもアイツ全然仕事できなくってさー面倒みているうちについ母性本能くすぐられちゃって」

「真弓って姉御肌だもんねー」

「で、琴子に相談なんだけど、格差恋愛って、どうなの? 」

「格差!? ……ど、どうって?」

「バイト時代はあたしの方が先輩だったから、何も思ってなかったけど、BとFでもとてつもない格差を時々感じるのよ。なんといっても彼はM大から外資系証券会社に入ったし、あたしなんか、斗南の文学部から就職浪人で結局勤めてたバイトにそのままの非正規雇用なんだよねー。彼は気にしないっていうのに、彼の親がね……」

「うわー親が差別するパターンね。それ、うちと一緒だー」

「え? 理美んとこも?」

「琴子に相談しても無駄よ。この子んちは全然嫁姑問題もないし、第一入江くんの親が家柄や格式とか全く気にしてないもん」

「うらやましい……」

「あ、結婚式やるなら漏れなく琴子貸し出すわよ。祝辞読ませると盛大にがつんとやらかしてくれて、小気味いいわよー」

「理美っ!」

18歳から28歳の10年というのは、人生で一番生活環境が激変する10年だろう。
学生から社会人へ。
家族との生活から独り暮らしへ。
あるいは結婚という儀式を経て新しい家族を作った者もいれば、既に破綻した者もいる。

「理央の離婚の理由も、義実家との確執だったわよねー」

「ええっ理央、離婚したの!? って、一体いつ結婚したのよ!」

「結婚したの、24の時よ。もう、意地でもイブまでに結婚したいって焦ってたのよね。そんなとき、旅行先で知り合った彼と大恋愛で半年で結婚しちゃったのよ。でもねー彼とは大恋愛でも親とはね……しかも初めは別居だったのに、義父が腰痛めて動けなくなったからって、泣きつかれて結局同居。そりゃ大好きな彼の親と思ってずっと頑張ってきたけれど……。いい加減、あたし、家政婦?って気分になってきてさ。そのうえ、大恋愛の末の恋人だって、3年たてばもう、ただの家族よ。なんかあの時のトキメキは何? みたいな感じでさ。子供生んでからは、旦那というより、ただのパパよ。あたしのことだって、ママ、ママって呼ぶしさー。あたし、あなたを生んだ覚えはありませんっていっちゃったわ。
とにかく育児と介護で疲れた上に旦那との愛情も冷めちゃうと、もう耐えられなくって。子供連れて3ヶ月前、出てきちゃったの」

からからと明るく笑う理央だが、みんなは笑っていいんだか、とにかく複雑な笑みを浮かべる。
理美は育児と介護という単語に自分の未来を思い浮かべ、まだ結婚してないものたちは、結婚というものの憧れがかなり打ち砕かれたようだった。

「まあねー、琴子みたいに永遠に恋する少女みたいのって稀少価値なんだろうけれど」

「琴子って、結婚して何年?」

理央の問いに「えーと、今年で8年……かな?」と、指を折って数える琴子。

「えー、それでまだ入江くんに恋してるの?」

「うん。好きの重さは高校時代と全然変わらないけど」

「うっそー」

「いや、やっぱり相手が入江くんだからこそ、そう思えるんじゃない?」

「えー、でも、うちの旦那も入江くんとはタイプ違うけどまあまあのイケメンだったのよー。それなのに、3年で恋愛感情喪失よ。ほら、美人は3日で飽きると同じ理論ね」

「入江くんは ……確かにカッコいいけど……別に顔だけじゃないのよ?」

そこは琴子ははっきりと宣言する。
確かにそのキレイな顔に惚れた琴子の面食いっぷりから始まった恋だけど。入江家に同居して、冷たいけれど優しい不器用な人となりを知ることがなければ多分持続しなかったかもしれない。
クールな鉄面皮に隠された、家族愛や思いやりに満ちた優しさ。意地悪だったり厳しかったりして泣きそうになったこともあるけれど、時折くれる優しさがかけがえのない宝物のように光るのだ。
直樹のことをただの家族としか思えなくなるなんて、琴美の父親にしか過ぎないとか考えるようになるなんて、そんな日がいつか来るなんてーー全く思えない。

そう、みんなに切々と訴えようとしたら。

「へえー入江くん顔だけじゃないんだー」

「つまり、あっちの方っも完璧ってことよね?」

皆の顔がにんまりと笑い、邪な眼差しを琴子に向ける。

「へ?」

一瞬意味が分からなかった琴子だが、「さあ、みんなー、ほら、特に独身の子達、ちゃんと聴いときなさいよー。これが結婚生活で一番重要なのよ! 性の不一致は性格の不一致より破壊力があるのよ」の、言葉にはっと気が付く。

「ちょっと……」

何だか話の流れがおかしなほうに行ってませんか?
琴子は慌ててみんなの顔を見回す。

「で、どんだけスゴいの? 入江くんのエッチ」

きゃー、やだ、理央ってばド直球!

えー、でもそれが一番聴きたいわよねー。

うんうん。みーんな知りたいことよねー。入江くんの謎。高校時代のあの硬派なイメージで、一体どんなえっちしてんのかしらー

「み、みんな酔ってるでしょう!? そんなこと云えるわけないじゃないっ」

真っ赤になる琴子に更に理央がふふふっと迫る。

「あたしなんて、子供産んでからはずっとセックスレスだったのよ。それも離婚理由の1つなの。あんたたちはどーなの? 8年も経っても変わらないわけ?」

「そ、そりゃ………」

言い淀む琴子の替わりに答えたのはじんこと理美であった。

「変わらないわよ! だって、今夜だってこのホテルであまーい夜を過ごす予定なんだもんねー」

「そうそう。42F、角部屋。ベッドはキングサイズよ」

きゃーと歓声が響く。

「何よ、それー。都内に住んでてお泊まりー!?」

「やだー」

「なんでいまだにそんなにラブラブなのっ!?」

その歓声やら嬌声やらに引き寄せられるように、F組の他の男子たちまでやって来た。

「なになに?」

「何の話?」

酔っ払いたちが更に集合。

「ふふ。琴子と入江くんのぉーどんな甘い夜を過ごしているのかって話ぃ」

「さあ、白状してもらうわよー。微に入り細に入り。まずは始まりの手順から……」

迫り来る集団に後退りながら、「この酔っ払い~~」と叫ぶ。いや、職場での飲み会でも酒が深まってくれば大抵下ネタになってくるのはお約束だし、琴子も酒が入っていればつい舌が調子よく回りだし、誘導尋問に引っ掛かって話さなくていいことまで話してしまうことはままあることなのだが、(そして後から直樹に怒られるのだ)流石に今は素面なので、そうぺらぺらと喋れない。

「まあ、これでも飲んでちょっと舌の滑りを良くしなよ」

F組の桐田が琥珀色とピンクとクリーム色の三色に分かれた不思議な飲み物のグラスを琴子に渡す。

「お酒は飲まないわよ……え? 何これ? キレイ」

「酒じゃないよー。パインのスムージーの上にラズベリージュース、その上にアイスティー……酒じゃないよな……?」

かなり酔っているらしい桐田は、自分の持っているものがアルコールかノンアルコールかの区別も付かないらしく、自分でストローから一口飲んで「大丈夫、ノンアルコールだー」とにっこり琴子に渡す。

「ちょっと美味しそうかも」

琴子は綺麗に三色に分かれたその飲み物に心引かれたようで、ふっと何も考えずに同じストローを口に付けたーー。

じんこが「あ、琴子! そのストロー、桐田くんが使った奴」と叫んだ時にはもう時既に遅し。ごくんと一口飲んでしまった後だったーーそして同時に。

「琴子!」

突然、ぺしっと頭をはたかれる。

「いたっ」

ーー一体いつの間に琴子の背後にいたというのだろう。

「変なもん、飲むな」

「い、い、入江くんっ どうして……。でも、これジュースだよ」

「わかんねーだろ、そんなの。ちょっとくらい入っててもおまえ気付かないって。そっちの酔っ払いも」

ぎろっと桐田の方を睨み付ける。

「え……いや、多分大丈夫だと……」

「こんなコジャレたソフトドリンク、出すかよ。カフェじゃあるまいし」

直樹が琴子から奪ったグラスのストローに口をつける。
少し固いプラスチックで出来ている使い捨てではないタイプの珍しいストローだ。スムージーやシェイク用の太めのもので、白とブルーの綺麗な斑になっている。その白い部分の先端に、しっかりと琴子の紅い口紅の跡が付いていたが、構わずそのまま一口飲む。

「……ラズベリー果汁部分にジンが入ってるな。約3%の濃度だか……」

なんでわかる~~~!?

みんなそう叫びたい気分だったに違いない。

「おまえ……こいつにわざと酒飲まそうとしたのか……?」

直樹の瞳が突き刺すように桐田の瞳を射抜く。

「め、め、滅相もない……おれもただのジュースだと……」

こわい……こわいぞ。何だかわからないが、凄くこわいぞ………
哀れな桐田は何故だか一辺に酔いが冷めていくのを感じていた。

「入江くん、大丈夫だよー。ちょっと飲んだだけだし」

と、慌てて弁解する琴子に、直樹は持っていたグラスをだんっ!とテーブルに置くと、「ちょっとこっち来い」とずるずると手を引っ張ってホールの外に連れ出していった。

「あーあ。琴子、拉致 られちゃったよ」

「えーおれのせい?」

「 そうだよ、桐田。あんたのせい」

理美に云われ、「酒飲ましたのがそんなに罪なのか~~?」と嘆く。

「ばっかねぇ。酒飲ましたことじゃなくて、自分の使ったストローそのまま琴子に使わせたことよ」

「そうそう。間接キスを入江くんが見逃す筈ないわね」

「間接キスー! そんなつもりじゃ……でも、それっくらいで~~?」

桐田の叫びに、「そう、それっくらいで」と、理美とじんこが軽くため息をつく。

「でも今のは琴子もうかつだったからねーこりゃお仕置きね……」






「入江くん、どうしたの?」

会場から連れ出された琴子は、ロビーを横切ってトイレに近い方の角を曲がり、片隅にあったソファの上に直樹によって座らされた。

「足」

「え?」

「痛いんじゃないのか?」

「あ……」

座っている琴子の前にひざまづき、琴子の左足からパンプスを脱がせた。
ストッキングの上からも、親指が真っ赤になっているのが分かる。

「久しぶりに履いたら、少し合わなくなってたみたい」

実はさっきから少し辛かったのだけれど、そんなに変な歩き方はしてなかったと思う。なのにどうして直樹にバレてしまったのだろう?
琴子は不思議そうに自分の足の指をなぞっている直樹を見つめる。

「靴、もう一足あるんだろ? 部屋に取りに行けば?」

「えーあれは、このワンピには合わないもん」

パンツスーツ用に合わせたローファだ。

「カッコより、身体だろうが。血を滲ませて無理して履くことないだろ」

「ダメよ。女の子は身体張ってオシャレするのよ。暑かろうが寒かろうが、痛かろうがキツかろうが……綺麗になるためにはどんなことも我慢できるの」

「おれにはわかんねーな」

「あと、一時間くらい大丈夫よ。なるべく理美と座ってるから……ねえ、離して、足先汚いよ」

いつまでも琴子のかかとを手で支えたまま赤く腫れた親指を撫でている直樹の行為に、妙な恥ずかしさを覚えて顔が熱くなる。

「とりあえず、消毒しなきゃ、な」

「ええー? いいよ、同窓会終わった後でー。ストッキング脱ぐの面倒だし」

琴子が手を振ってお断りしようとした途端に、その手を掴まれて、不意打ちのようにキスされた。

ええええっっ

琴子の頭は一瞬真っ白になった。

いくら人気の少ないロビーの片隅とはいえ、誰が通るかわからない場所である。

しかも、割りと長い。
何だか随分と丹念に上唇と下唇を順番にきつく吸われる。

ちゅっと離れる音がして、
「消毒終わり」と直樹がにやっと笑った。

「な、な、な、なんで~~~」

琴子の顔は見事に真っ赤に染まっていた。

「雑菌のついたストローであんなカクテル飲むからだ」

「雑菌~~?? 何~?」

直樹以外の男と間接キスをしたという自覚がまるでない琴子は、意味が分からないまま、直樹の胸に顔を寄せる。
その耳元に、直樹がぼそっと囁いた。

「このまま部屋に戻っちゃうか?」

「えええっー」

直樹の囁き声とは対照的に、琴子は大きな声で叫んで、思わずのけぞる。

「ばか、声でかい」

「で、で、で、でも、まだ同窓会終わってないし、あたし、幹事だし、理美とじんこもいるし……えっと、あ、あの最後にビンゴゲームあるの。一等賞品が、TDLのペア招待券なのよー」

「……行かないだろ……そんなの。琴美だってまだ早いし」

「えー、赤ちゃんベビーカーに乗せて楽しんでる人、いっぱいいるよ」

「おまえは人混みの中、わかりもしないのに連れてきたいの?」

怒ってる訳でもなく、心底不思議そうにそう琴子に問う。

「………そうだよね」

琴子も、確かにそう思う。
別に人それぞれの考えがあるから、乳飲み子連れて夢の国へ行くのは構わないと思うけれど、どうせなら子供がもっと楽しめる年齢になった方が親も楽しいと思う。
なんとなく琴美をダシにして、一度も直樹と行ったことのない場所にいけるチャンスだーと、あの賞品を見たときに思ったことがひどく浅ましく思えて、少し恥ずかしくなる。

「もう少し大きくなったら、連れてってやるよ」

「ほ、ほんと?」

直樹の信じられない大盤振る舞いなセリフに、琴子は目を丸くする。

「女の子だから、どうせ絶対行きたがるだろうし……」

「うん。嬉しい!」

琴子は直樹の首にぎゅっとしがみつく。

「と、いうわけでビンゴ大会はどうでもいいってことで、このままーー」

と、言い掛けたところに。

「琴子ー! 日比野くんが捜してたわよー。あんた、ビンゴのグッズ、何処にやっちゃったのー?」

じんこが琴子を捜してたやって来た。

「あら……お邪魔だった?」

ソファの上で直樹にしがみついている琴子ーー二人の様子に、思わずにたっと笑い、くるりと引き返すフリをする。

「あー待って! じんこ! ビンゴマシンとカード、隣の控え室に置かせてもらってたんだったー」

慌てて立ち上がる琴子に、直樹は諦めたようにパンプスを返して履かせてやる。

その様子を見たじんこが「シンデレラにガラスの靴を履かせる王子さまだね」と笑った。

「やだっじんこってば」

もう一度赤くなった琴子はちらりと一瞬直樹の方を振り返った後、会場の中に戻って行く。

そんな琴子をとりあえず見送った直樹も、仕方なく(何にしろ、琴子から目を離すことなどできるものかと)会場に戻ろうとした時にーー。

「い、入江くん」

背後から、おそるおそると言った感じで呼び止める女の声がした。

「あの……あたしA組の佐藤美智子だけど……覚えてる?」

直樹は思いっきり眉間に皺を寄せて、特に明確な記憶が甦って来ないクラスメートを自称する女の姿を見たーー。










※※※※※※※※※※※※




二人目の犠牲者は、ただのモブキャラ扱いの桐田くんでした……(-.-)


女たちの阿鼻叫喚はまた次回に♪(←意味もなく引っ張る)



2015.05.28 / Top↑




さて。場所は移り、ここは大日本ホテル、天翔の間。
斗南大学付属高校、第25回生同窓会の会場である。司会者の紹介により、恩師の近況報告及び花束贈呈や、各クラスの代表者の挨拶などが行われた後、乾杯の音頭がとられ、宴は始まった。


「で、結局、入江くん遅刻なの?」

「うん。さっきメールあったの。タクシーで向かったら、何だか滅茶苦茶道路が混んでるって」

琴子はいそいそと料理を皿に盛りながらも理美とじんこに話す口は止まらない。

「出掛けに、みーちゃんがぐずっちゃって、時間もギリギリだったみたいで………」

「いやーん、ぐずった琴美ちゃんあやす入江くんってどんな~?」

「ってか、琴美ちゃんパパっ子~?」

二人にニタニタとからかわれ、琴子も「まあね」と少し困ったように答える。
自分が朝出掛ける時には、大して泣きもしないのに、直樹が出掛ける時には必ずといっていいくらいこの世の終わりのような大泣きをする。
なので、いつもはこっそりと出掛けるのに、今日は二人揃って外泊するからと(ささやかな罪悪感から)少し相手をしていたら、出掛ける空気を察してなかなか離さなかったという。
とにかく父親に対する独占欲は半端ない。琴子ちゃん譲りね~~と、紀子は喜ぶが、将来もっとも怖い恋敵になりそうな気配を醸し出している0歳児だ。


「でも、そのワンピ可愛いわね」

理美がオレンジジュースを飲みながら琴子のコーデを誉めた。

「ありがとー」

気に入ってた服を誉められて、笑顔になった琴子ににやにやと含み笑いをしながらじんこが突っ込む。

「琴子だけ、衣装替えだもんなー」

「うっ」

総会会場であった高校から、このホテルへの移動は、チャーターバスが用意されていたが、琴子とじんこは自分で車を運転してきた理美に同乗させてもらい、このホテルへとやって来た。
ホテルに泊まることは二人に言っていなかったものの、チェックインして部屋で搾乳と着替えをすることを隠すことも出来ない為、結局直樹が部屋を予約してここに一泊することを伝えた。
二人は驚いて、そしてにまにまと笑い結局部屋まで付いてきたのだ。

スイートではないが、高層階の角部屋で、キングサイズのベッドが鎮座したその部屋を見るなり、琴子は真っ赤になり、理美とじんこは肩を震わせ笑いを堪えていた。

「ツインでもダブルでもなく、キングサイズってあたり……」

「 いやー頑張ってね、琴子」

「いいわよねーいつまでもラブラブで」

「ってか、この部屋写真撮ってみんなに見せよーか? 誰もあんたたちが離婚するなんて思わないわよ。この部屋とったの入江くんだよーって注釈つけて」

「や、やめてー」

せっかく直った機嫌がまた悪化したらどうしてくれよう。



総会の途中あたりからずっと張って痛かった胸は、否応なく義母に預けた娘のことを思い出す。一度家に電話をして、琴美の様子を訊いてから、搾乳して少し胸を落ち着かせる。その後同窓会用に準備していたワンピースに着替えて、靴も少しヒールの高めのパンプスに履き替える。久し振りに履いたら少し世界が高く見えた。……でも何となくキツいのは1日立ちっぱで浮腫んだせいだろうか。

仕度を終えてから、3Fの天翔の間に向かい、三人で受付係を担当した。会場の入口で、いちいち「あら、まだ入江なの?」とか、「本当に結婚したんだー」と声をかけられたが、高階優梨子のお陰で多少の耐性は出来ていた。尤も殆どが彼女のような嫌味ではなく、単純な驚きから出た言葉だと分かっていたから、顔を引きつらせつつも軽く受け流すのは簡単だったが。




同窓会は段取り通りに進行され、今はとにかく腹拵えしようと三人で料理を取り合っている所だ。さすがに大日本ホテル、どれも美味しそうでついつい皿の上はてんこ盛りだった。
もっとも一口食べる毎に、誰か(無論、女)が「入江くんまだ来ないの?」と、やってくる。

「 いちいち説明するの面倒だから、司会に言ってもらえば? 入江直樹、ただいまこの辺りです、とか」

じんこの提案に苦笑するしかない。
皆さん、今日の同窓会の目的は入江くんに会うことだけ?ーーと思わずにはいられない。


「でも、懐かしいわよね。ここ。本当なら何年か前、あんたたちの結婚二周年祝いする筈だったのよね」

「そうそう。飛天の間。ここの上の階だっけ? 確か千人収容出来るホールだよね。一体どんなパーティやるつもりだったんだか」

「そうだね……」記憶を辿るように思い出そうとする琴子。
いったい、なんでパーティ中止になったんだっけ?
ああ、そうだ。

「あの時も理美、お腹に赤ちゃんいたんだよね。切迫流産で入江くんに助けてもらって……」

「そうよ。入江くんに何度も『俺はまだ医者じゃねぇ!』って云われたっけ。でも、入江くんのお陰で助かった気がするの」

予定外の妊娠で、良もあたしも親になる覚悟なんて全然なくって………

懐かしそうにお腹を撫でる理美の横顔は、しっかりと母親の顔だった。

「今は? 大丈夫? 調子悪くなったらすぐに云ってよ」

「ああ、うん。全然大丈夫よ。今回は悪阻も全くないし。食べ過ぎちゃって困っちゃう」

「悪阻がないっていいことよー。羨ましいわ」

「はは、琴子、悪阻には苦労したもんねー」

入院までして凄く辛かったけれど、笑って思い出せる幸せをほんのり噛みしめる。
一年前のこの季節、琴美はまだお腹の中でささやかな胎動を感じさせていただけのに、今は表情豊かに笑って泣いてハイハイして、いたずらし放題、天使と小悪魔の繰り返しの日々だ。

「ふふ。もしまた切迫流産になりそうになっても、ちゃんと国家資格持ったドクターもナースも揃ってるんだから大丈夫でしょ」

「入江くんは産婦人科医じゃないわよ?」

「入江くんだけじゃなくて、同窓生にも何人か医者になった人たちいるって話だから、なんとかなるでしょ」

じんこの言葉に、「うーん、同級生に産婦人科で診てもらうのってよくよく考えたらめっちゃイヤかも……」と、理美が呻く。

「「確かに」」

じんこと琴子が激しく同意する。

「まあとりあえずは、この子はとってもいい子だから大丈夫よ」

お腹に手を当てた理美が妙に自信有り気に云うので、琴子も不思議と大丈夫なのだろうと思えた。
けれどなるべく座っていた方がいいと、壁際に並んでいる椅子を勧める。
結局三人で椅子に座って喋っていると、ビールを持った同窓生たちが次から次へとやって来た。

「理美は妊婦だし、琴子は授乳中だから」と、アルコールお断りの二人に替わって、じんこが一手に引き受けている。
もっとも彼女はザルなので、けろっとしたものだ。


「授乳って……ひえー本当に琴子、赤ちゃん生んだんだ?」

「やだ、琴子の胸ってそんなに大きかったっけー?ってさっきみんなで話してたんだ。なるほど、そーゆーことか」

「ん、もぉー、本当に入江くんの子供なのー? あ、写真ある? 見せて見せてー」

「いやーん可愛い! 琴子そっくりだけど、鼻筋は入江くんに似てるかな?」

いつの間にか琴子たちの回りにはF組の面々が集まっていた。
去年から携帯電話に写真機能が付いて、琴美の写真を待ち受けにしたいからと新しいものに買い換えてしまった。携帯の中の写真にみんな興味津々で食いついてくる。

みんなが回して見ていた携帯電話を誰かがさっと横取りした。

「本当に入江くんの子供なの?」

………同じことばをF組のクラスメートが云っていたが、何故単語は一緒なのにこうも彼女が話すとニュアンスが違うのだろう。
琴子は取り上げて携帯電話の写真をじろじろ見ている高階優梨子に手を差し出して、「高階さん、返して」と軽く睨む。

「入江くん以外の誰の子供だってぇの?」

「 そうだよ。琴子は入江くん以外キスもしたことなければエッチも入江くんが初めてで入江くん以外知らないんだから」

理美とじんこの援護に、嬉しいが思わず赤面する。
事実だが、こんなところでそんな話を公にするのはやめてーと密かに思ってしまう。
ってか、二人だって今のパートナー以外知らないでしょうが!

「こわーい。冗談よ。でも、全然入江くんに似てないじゃない」

携帯電話を返しながら優梨子はすました顔で笑う。

「何みてんのよ」

その後ろから顔を出したのは木暮ありすこと佐藤美智子だ。

「自称入江くんの赤ちゃんの写真よ」

優梨子の答えに美智子のこめかみがひくひくと震える。

「ほんとに……ほんとに……アナタ入江くんと結婚したの?」

未だに衝撃の事実から立ち直っていないらしい佐藤美智子の背後からは沢山の疑問符が立ち上っているのが見えるようだ。

なんでアンタなんかと。
なんでアンタなんかと。
なんでアンタなんかと。

「そうよ。いくらあんたがテレビに出てる有名人だろうが、入江くんには琴子がいるんですからね。ちょっかいかけても無駄よ」

息巻くじんこに、鼻で笑うように「さあ? どうかしら?」と自信ありげに答える。

「……あたしはねー、入江くんのためだけに努力し続けてここまで変わったのよ。全然昔のあたしと違うんだから。あなたなんて高校ン時と全然変わってないじゃない? 結婚相手があなたなら余計に諦める必要なんてなさそうよね。
………ふふ、早く入江くん来ないかしら。今のあたしなら自信を持って彼にアプローチ出来るわ。結婚してたって関係ないわよ」

そう琴子の鼻先に指を突きつける美智子に、
「他人の夫を略奪するのは立派な不法行為だよ」と声をかけたのは渡辺だった。

「だいたいマスコミに出てる人が人の旦那にちょっかいかけるの、不味いでしょ」

「うっ」

渡辺の正論にぐうの音も出ない。

「あ、あたしがちょっかいかけなくても入江くんの方からちょっかいかけてくるのは仕方ないわよ?」

そう吐き捨てるように云って美智子はそそくさと行ってしまった。

「あの娘ってば、芸能界入って、自信だけは天に届きそうなくらい高くなっちゃって。妄想壁も相変わらずだし」

そう肩を竦めたのは高階優梨子だった。
何故か彼女はその場に残っていて、今度は仲のよい筈の友人にまで毒付いている。

「高階さん、佐藤さんの友だちじゃないの?」

不思議そうに琴子が訊ねた。

「腐れ縁よ。幼馴染みだけど、友だちじゃないわ」

「うーん、よくわからないけど」

どうにもこの二人の関係性がよくわからない。
キライなら幼馴染みだからって、縁はいつの間にか切れるものだろう。


けほっけほっ

優梨子が胸を押さえて少し咳き込む。

「あら、風邪?」

琴子が気になったようで優梨子の顔色を見た。

「ちょっとむせっただけよ。なあに? ナース気取り?」

気取ってなくて本職ですが。
いちいち返答する気力さえなくなる。

「あなた以外にもナースは何人かいるのよ。知ってる? 高校から普通に斗南大の看護科に進学した娘たち。あなたが看護科に転科した時にはみんな卒業しちゃってたけど」

「知ってるわよ……」

ため息混じりに琴子は答える。
琴子の3年先輩となった同級生たちは、病院実習の時に何人かは出会っていた。
看護科は、本来C組レベルの偏差値がないと進学できない。元F組の琴子が転科出来たということはC組レベルの成績を取れたと云うことなのに、あからさまに「F組のあんたがなんで?」といった顔をされた。直樹と結婚したことのやっかみから、ちょっとしたイジメのようなこともあった。他の先輩たちより、高校時代の琴子を知っている分、どうも風当たりはきつかった気がする。
色々な領域を回る実習期間中は嫌な思いもしたが、一時期のことといつもの前向きさで乗り切った。正式な看護婦となり、配属された外科には元同級生は一人もいなくて、少しほっとしたことを思い出す。

「病院でのあなたの評判散々だっていうじゃない。ドジでそそっかしくて注射も下手くそ。そんな人に看護されるのは絶対いやだわー」

「……じゃあ、くれぐれもうちの外科にかからないよう気を付けてね」

「そこが困りどころなのよねー。入江くんも外科にいるんでしょ? なんで夫婦揃って同じ部所にいるの? 普通の企業なら有り得ないわ」

ーー病院の人事課に訊いて下さい……。





「大丈夫? 琴子ちゃん。何かされたら相談してね。安くしとくよ」

ウェイターのところに行ってカクテルを注文している高階優梨子の背中を、呆れたように見つめる渡辺に、琴子は首を竦めて、
「……はは、大丈夫ですよ、渡辺さん。もう、大概のことは慣れっこです。入江くんの妻を8年もやってるんだから」と、舌を出す。

「ま、どんなにちょっかい掛けたってあいつが琴子ちゃん以外に目を向けることはないのになー。そうそう、琴子ちゃん、さっき入江からメールがあって」

「え?」

「琴子が酒飲まないように気を付けてくれって」

「やだ、飲まないよー」

手に持っているグラスはウーロン茶だ。

「いや、ジュースと間違えてカクテル飲むのがお約束だから、グラスの中味だけはきちっと目を光らせといてくれと」

その渡辺の言葉に、(どんだけ過保護ー)と肩を震わせる理美とじんこである。

「ん、もう。流石にカクテルグラスに入ってるの間違って飲んだりしないのに」

「妊娠してから1年半以上アルコール摂取してないだろ? ただでさえ弱いのに。少し飲んだだけでも回っちゃうからって」

(せっかく、部屋とって準備万端なのに潰れちゃったらね)
(そりゃ、入江くんにとって最も大きな懸念事項だわ)

理美とじんこは後ろでこそこそと囁き合う。

「僕としては、せっかく今日は授乳しなくていいのに、少しくらい飲んでもいいだろって気はするんだけどね」

「お酒好きな人には飲めない期間って辛いだろうけど、あたしそんなにお酒の味が分かる訳じゃないんで……」

へへっと頭をかく琴子に、渡辺はにっこりと微笑みかける。

「いや、本当琴子ちゃん、昔と変わらないなー。こうやって10年ぶりに同級生たちと会すると、余計にそう思うよ」

ほんっと、癒されるよなーと言葉にしようとした瞬間に。

ぞくり、と妙な寒気が背すじを走った。

「………まさか」






「ああっ 入江だー」

「入江くん、来たー‼」

会場の入口あたりでざわめきが聴こえた。

ーー入江くんっ!

思わず琴子が立ち上がった時には彼の周囲にはアイドルスター来場よろしくファンが取り囲んでいる状態だった。

「ほら、琴子も行かなくていいの?」

じんこにつんつんと突かれる。

「う、うん」

いつもなら、あの群れに果敢に飛び込んで両手を広げてがっちりとガードするところなのだが、なんといってもここは同窓会会場。
直樹だって同級生や恩師とゆっくり話もあるだろう。あんまりべったり張り付いて牽制しまくるのも、何だか全然余裕のない嫉妬深い悪妻そのものではないか。

などなどと余計なことを考えてしまって、直樹に近付くことを少し躊躇していた。

直樹が来ただけで会場の視線が一瞬にして彼の方に向かった気がする。
取り囲まれても頭ひとつ飛び出した彼の姿はすぐに分かる。その存在感の圧倒的な強さ。

気が付くかなー。
気が付かないだろーなー。

200人ほどいる会場で、部屋の壁際に陣取っている琴子のことなどすぐに捜し出すのは難しいだろう。
いや、そもそも捜すだろうか?

彼の周りには女たちだけじゃなく、男子や恩師たちまでも話し掛けようと間合いを計ってるかのように見える。

ーーま、まあ落ち着いたら話しに行けばいいよね。

琴子はもう一度座り直して、ふう、とウーロン茶を一口飲む。

「あれ、入江くん、真っ直ぐこっちに来るよ?」

「え?」

直樹はキョロキョロと特に琴子を捜す様子もなかったのに、一直線に琴子たちの方に向かっていた。……ゾロゾロと女たちを引き連れて。

「入江くんー、ほら、まず駆けつけ一杯」

「あら、こっちの飲んでよ」

ビールやタンブラーを差し出す女たちを無視して、直樹はカツカツカツと素早い速度で琴子の前に立ち、琴子が手に持っていたグラスを指し、「それ、何?」と訊いた。

「え? ウーロン茶だけど」

「貰うぞ」

と、そのまま琴子のグラスを奪い取り、イッキ飲みした。

ビール瓶やグラスを持ったままの女たちが一瞬、硬直する。

「の、喉乾いてたんだね」

「ああ。渋滞でタクシー殆ど停まっちまって、結局、途中で降りて歩いてきた」

「えー? そうなの?」

「どうもこの近くでトレーラーの横転事故があって、完全に道路が通行止めになったみたいだ。ありゃ復旧に時間がかかるな」

「え、ケガ人は? 大丈夫かな」

「巻き込まれた負傷者は居なさそうだな。トレーラーの運転手も軽傷だって話だし」

「そう、よかったー」

「この辺りは斗南から離れてるから、万一救急で運ばれてもうちに来ることもおれが呼び出されることもないぞ」

「え……そーゆー心配してたわけじゃなくて、純粋にケガ人いなくてよかったなーと……」

あたふたと言い訳する琴子に「分かってるよ」とくしゃっと髪を撫でる。

「入江……」

「ああ、渡辺。悪かったな、琴子のお目付け役頼んで」

「……いや。いいけどさ、別に」

でも、おまえ、人にお目付け役頼んどいたクセに、ちょっと微笑みかけたくらいで氷殺ビーム出してなかったか?
ーーと、内心思ったりしたがとりあえず言わないでおく。

っつーか、一瞬で琴子ちゃんの居場所を見つけるって、どんな探知機内蔵してんだよ……


「腹へった。何かある?」

直樹のその言葉を待っていたかのように、「入江くんっどうぞー」と女たちがそれぞれ皿を差し出した。
皿の上にはオードブルが綺麗に盛り付けられている。

「入江くん良かったら食べてみて。このきゅうりと海老とイクラのカクテルジュレ、美味しいわよ」

直樹の目の前にお皿にのった前菜を差し出したのは佐藤美智子だった。

「あ、あたしのこと覚えてるかしら? 3年で最後だけA組になったんだけど……」

けれど、直樹は一度も美智子の顔は見ずに、その皿の上のカクテルグラスを禍々しいものでも見るように一瞥すると、すぐに琴子の方を見て、「おまえのその皿でいいや」と、琴子の膝の上に置かれた皿を指差して、琴子が使っていたフォークをそのまま使い、琴子の食べ掛けていた料理をつつき始めた。

「え。それ、盛り付けぐちゃぐちゃ……」

慌てる琴子に、「いいよ、別に」と全く意に介していないように綺麗に平らげる。

「あ、もっとお料理取ってこようか? あと、何飲む? ビール?」

「酒はいいや。どうせ後で少しは返杯で飲まなきゃなんないだろうし。おまえと一緒のウーロンでいい」

「はあい。じゃあ、取ってくるねー」

いそいそと立ち上がって料理の用意されたテーブルに向かう琴子を見計らうように、また女たちが直樹の前にあれこれ差し出そうとするが、直樹はまるで無視して隣の渡辺と話し出していた。



「………なによ、全然、入江くん、あんたのこと見てないじゃない」

高階優梨子が佐藤美智子の肩に肘を掛けて嘲笑うように話し掛ける。

「うるさいわね。あんたも全然グラス受け取ってもらってないでしょっ」

ーーというか、グラスやビールや皿を持って所在無げにうろうろしている女たちの虚しい姿があちこちに………






「入江くん」

渡辺と話し込んでいた直樹のもとにやって来たのは日比野だった。

「良かったら、後で少し挨拶してくれないか? みんな君を待ってたみたいだし」

「は? 何の名目で? 意味わかんないけど」

その玲瓏な瞳でぎろっと睨まれて、日比野は一瞬後退さる。
さっきまで琴子と話していた柔らかな顔と全く違うことに、かなり驚いていた。

「えーと……名目と云われると困るけど……でも、君は卒業式でも学年代表で答辞を読んでたし」

「そんなの、この席で関係ないだろ? っていうか、あんた誰だ?」

「ほら、B組の日比野だよ。幹事の……」

渡辺に耳打ちされ、「ああ」と、直樹の表情がまた少し変わる。

「琴子が世話になったようだな」

にやっと笑っているようだが、瞳は何となく剣呑だ。

「いえ……僕のほうこそ彼女にあれこれ頼んでしまって……色々お世話になってありがとう」

ペコリと頭を下げた日比野に、「あいつに頼んで余計に仕事が増えたんじゃないのか?」とまたまた剣呑な言い草をする。

「そ、そんなことないよ! 本当にさくさくとはいかなくても、なんでも嫌がらずに引き受けてくれて……」

思わず前のめりになって訴える日比野の肩に手を掛けて、直樹はふっと笑う。

「出来ればお人好しにつけこんであれこれ頼むのはもう無しにしてくれ……って、どうせ幹事の仕事はこれで終了だよな……」

「つ、つけこんだつもりは……まあ、今度幹事だけの打ち上げがあるので、その時は充分慰労します!」

「打ち上げ?」

「はい、来月の中旬くらいの土曜日に…」

「悪い。多分その頃、メチャクチャ忙しい筈だ。琴子は欠席かもな」

「えーそうなんだっ」

「まあそういうことだから。あ、あと、おれ挨拶なんかしねーぞ、ってことでよろしく」

日比野の肩をぎゅっと掴むとにやりと笑う。

「 芸能人だかなんだかがいるんだろ?
そいつに頼めば?」

「あー木暮ありす……急遽総会のあとに講演頼んじゃって……それにここだけの話……」

小さな声で、「あまり講演上手じゃなかったもんなー」と呟く。

「そんなの、知るかよ。とにかくおれは挨拶なんかしねーから」

「わかったよ……」

「じゃあな」

早く行けとばかりに肩をばんばん叩かれて、日比野はすごすごと退散する。

ーー何だろう? 入江に叩かれた肩が妙に重い……それに妙な寒気が………

首を捻りながらその場を離れていった日比野の背中を見て、(だから近付くなって云ったのに)と、思わず心の中で合掌する渡辺であったーー。














※※※※※※※※※※※※※




とりあえず、まず『見せつけレベル1』です(^^)軽くジャブを。
もうちょい、見せつける為にだらだらと同窓会は続きます………^-^;
(こんなもんじゃ終わりませんぜ、お客さん)




2015.05.24 / Top↑




木暮ありすーーこと、佐藤美智子は、10年ぶりに訪れる母校へ向かうタクシーの中で、あれこれと思考を巡らせていた。


……しまった………優梨子の唐突な……いや、唐突というよりはかなり図々しい依頼にあっさりとOKしてしまったのは早計だったかしら?

いや、あっさりというわけじゃない。返事を出すまでに10秒くらいは逡巡していたかと思う。

………一応TVでレギュラー番組持ってるMCなのよ。キャスターなのよ。講演してくれ、しかも一時間後に、って言われて、はい、いいわよなんて、私どれだけ暇な芸能人なの?

まあね。
つい、優梨子に訊いちゃったのよね。

ーー入江くん、もう来ているの?

そしたら、「いるわよ」 っていうじゃない。これはもう、行くしかないわよね。
入江くんのことだから、多分テレビなんて見ないだろうし、一見すると経済問題扱ってる硬派な番組なようだけど、所詮マイナーな局の、突っ込み処満載の深夜枠的な演出が売りの番組だ。
だからきっと私がキャスターやってることなんて知らないと思うのよね。
そこで経済問題かなんかをテーマに理知的に語ってしまったら、お? とか少しは印象付けることできるんじゃないかしらーなんて。ふふふ。




木暮ありすことーー(面倒だから、以下、佐藤美智子)は、幼稚園からの腐れ縁、高階優梨子とともに初等部からずっと斗南の付属にいた。二人ともB組とC組を行ったり来たりという、常に真ん中より少し上の微妙な位置である。顔も普通、成績も普通。揃って取り立てて目立つ存在ではなかった。
初等部入学時から光り輝いていた憧れの王子さま入江直樹については、ほぼ学校中の女子と同様に揃ってはまりこんで、恋ばなトークにきゃあきゃあ騒いでいたものだ。
中学まではずっと彼と同じA組になることはなく、二人の位置は常に一緒だった。
ところが高校に入って2年間は二人揃ってB組だったのに、3年になってから初めて美智子一人がA組に昇格。
無論、優梨子を出し抜く為に死ぬほど勉強したのである。「勉強? 全然してないわよー今年もCかBね」などと云っておいて、クラス発表の折りにはまさかのA組。

ーーあのときの優梨子の間の抜けたような驚いた顔。忘れられないわー。
あたしはね、やるときはやる女なのよ。
ーー運動以外は。

運動は昔からからきしダメで、優梨子とともに直樹を追っかけてテニス部に入ったものの、全く才能のないことを思い知って半年でやめてしまった。
けれど運動だけは美智子より自信のあった優梨子は、2年の地区予選で初めて直樹とダブルスを組んだのである。

ーーちょー自慢気な優梨子の得意満面な顔と云ったら! おめでとうーすごーい、やったわねーと言いつつ、あの時真剣に藁人形購入しようかと思ったわね!


よくよく聞いたらレギュラーの選手が体調不良で欠場して、急遽繰り上げて選手になれただけだという。

ーー優梨子、まさかレギュラーの娘に毒でも持ってないでしょうね。

本気で思ってるわけではないが、毒を盛らなくても毒は吐きまくるから、精神的攻撃で再起不能にした可能性は十分にあり得る。
長年の付き合いだから、彼女の人を不愉快にさせる言葉のチョイスが絶妙なことはよーく知っている。

ーーそんな女となんで付き合って来たのかって?
それはもう、腐れ縁としか云いようがない。

悪口や嫌味三昧に人が離れていっても、妙に世話焼きだったり、おだてたりするのも上手だったりして、つい自分だけは見捨てずに来てしまった。
腹が立つことも少なからずある。
お互い抜け駆けしようと足を引っ張りあってる感もありありだった。
見返してやりたい、追い抜いてやりたいと思うことが、全ての奮起の源なのだ。


そう。ことある毎に直樹とコートに立ったことを自慢し続ける(結局、試合に出られたのはその時一度きりのくせに)優梨子への怒りが原動力となって、見事初めてA組になることが出来たのだ。
憧れのA組。
憧れの入江直樹と同じクラス。
これで、これで近づける、優梨子を出し抜けるチャンスよーーと燃え上がっていたあの頃。


とはいえ、いくら頑張ってもA組の中じゃ常に下位の成績。顔も地味だったし、アピールポイントも特にはなかった。
席が近くなってラッキーと喜んでも、中々話しかける機会もない。直樹は、常に男子、(主に渡辺)としか休み時間会話をしていなかった。女子には近づくなオーラを放っちまくっていた気がする。
そしてA組女子、がっついてない。いや、みんなあのオーラを鋭敏に感じとってたのだろう。とりあえずごり押しして近づいて嫌われたくない、という共通認識があって、まるで密かに協定を組んでいるのではないかと思うくらい、女子全員、彼に対して一定の距離を持っていたのだ。
他のクラスの無謀な女子たちが見事に薙ぎ倒されていく様をみんな知っていたから、きっと本能的な自己防衛の一種だってのだろう。

しかし、せっかく一緒のクラスになれたのに、優梨子にザマーミロとほくそえむことが出来たのに、一向に直樹との距離は縮められないまま、高3の光の矢のような時間は駆け抜けて行った。


ーー何? みんなこの教室に、この空間に、共に居られるだけで既に満足なの?
クラスメートとという地位を勝ち取れただけで満足なわけね。


心のなかでクラスメートのA組女子をなじりながらも、自分だって決して抜け駆けして一歩近付くための努力もしなかったし、勇気もなかったのだ。
ただひたすら妄想するだけの1年間だった。

ーー球技大会で応援してたらボールが私に当たって、入江くんが抱き抱えて保健室に連れてってくれてーーとか。
ーー図書室で本を選んでいたら偶然入江くんと同じ本をとってしまって、「お先にどうぞ」「あら、入江くんこそお先に」なんて……そこから始まる本談義に図書館デートーーとか。

席が入江くんの前になった時なんて、ついついチラチラ後ろ見てばっかりで……そうそう、初めて話しかけられたのよね、「気が散るからそんなに後ろ振り返るな」って…………………………………

もしかしたらちゃんと話しかけられたのって1年間でそれだけかも!?

………そのことに気がついた時、愕然としたものだ。

いや、自分からは幾度か話し掛けはしたのだ。
他愛ない世間話はスルーされ、解らない問題を訊いた時だけは一応答えてくれた。ただあまり質問しまくりなのも、馬鹿な女と思われるのがイヤで、その加減が難しかったことを思い出す。

とはいえ別にA組女子の中で、取り分け仲がよい女が居たわけでもないことが、そんなにがっついて近付こうなんて思わせなかった所以だろう。

ーーそれだけ彼が冷たいから、みんな
遠巻きにしか見つめられなかったってことよね。

上位の成績の女たちはさも特権を得られたように、小難しい話題を彼に持ちかけ会話をしようと試みてはいたようだが、彼の対処は容赦なく、相手が誰であれ、どんな話題も膨らませることなくばっさりと打ち切られていた。

ーーでも、つんと澄ましたA組女子だって、頭の中は私と同じ妄想だらけだったと思うのよね。

ちょっとした切っ掛けでクラスメート以上の関係になれるかもしれない。
みんな常にそんな妄想を持っていたに違いない。
自分だけじゃない筈。

特別な女なんて、いないからーーだからみんな安心しててーー

………いや、なんか鬱陶しいのが一人いたっけーー

そうよ、あたしの妄想を地でいっちゃうような飛んでもないことしでかしてくれる女がーー
本当に、体育大会で入江くんが彼女を背負ってったのには驚いたわ……何よ、このシチュエーション……!?あたしが想像してた憧れパターンじゃないのってーー。
ふ、ふん。私の妄想じゃ、おんぶなんかじゃなくでお姫様だっこなんだからねっ

ぶるぶると思い出したくないシーンを頭から払いのけるように首を振る。



ーー1年。
クラスメートだったのはたった1年。
でも、3年の時に一緒のクラスになれたというのは本当にラッキーだった。
卒業アルバムで同じ枠の中に収まっている写真が沢山あったのだからーー。




大学の選択も、T大なんて絶対無理だから、少しでも直樹に相応しい女になるべく、わざわざアメリカに留学したのだ。たいしたランクの大学ではないけれど、アメリカの大学卒ってだけで、行動力がありグローバルな視野を持った聡明な女っぽく見えるだろう、という計算をしての留学だった。
まったく。直樹が斗南に上がるんだったら自分もエスカレーターに乗ればよかったと、どれだけ後悔したことか。

遠い異国で直樹を思い、なんとか卒業した。でも、それが仇になった。日本の就活を舐めていた。留学経験あり、って言えば何処でも潜り込めると思いきや。
どうせならちゃんとテレビ局に就職してきちんとアナウンサーになりたかった。女子アナというモノに密かな憧れを抱いていたのだ。なのにぜーんぶ見事に落っこちて。ったく、見る目のない。
結局、地方の地味なテレビ局に就職できたものの、おバカなローカルバラエティこなしてなんとかやって来た。


ーーそれもこれも目立ちたいからよ!目立って一目置かれて、入江くんに気付いて欲しいからよ! 高校時代の全然目立たなかったダメダメな女はもう卒業なのよ!
いえ、ただ目立ちたいだけじゃダメなの。モデルとかタレントとか頭の軽そうなのはダメ。だって入江くんって頭の悪い女はキライですもの。
目立って、入江くんに少しでも私の存在に気付いて欲しいというこの乙女心!
でもね。はたと気づいたわよ。
このまま地方にいたら永遠に入江くんには気がついてもらえないってね。
だから、思いきって会社やめて東京に戻ってきたのよ。そして、フリーで頑張って仕事とって。
それがようやく認められてきたの。

10年もそんな風に頑張ってきたのよ?
思い続けてきたのよ!
我ながら健気だわ。
健気すぎる!
見てて、入江くん! 私、今からあなたの前で、あなたの為に颯爽とスピーチしちゃうわ!
まあ、人生初の講演だけど。なんとかなるわよね、きっと!

ーー佐藤……いや、木暮さん。素晴らしかったよ、君の講演。大変勉強になったよ。

ーーまあ、入江くんありがとう。あたしのこと覚えてる?

ーーあたりまえだよ。実は高校時代もずっと気になってたんだ。今度、二人で日本の経済について語り合おう……

ーー嬉しいわ、入江くん……







妄想劇場がまさにクライマックスを迎えていたところでタクシーが停まった。
佐藤美智子は、懐かしい母校の講堂に向かうと、出迎えた腐れ縁の優梨子に「やだー! ひっさしぶり~~今日はよろしくぅ」とかなり軽い挨拶をされ、生まれて初めて講堂の壇上に立った。高校時代は全く縁のない場所だった。
ーーそして、多少噛んだり、最後にカッコつけて英語のスピーチ入れたりしたら妙にぐだぐたになってしまったり……微妙な処はあったものの、彼女はなんとか講演を終え、すぐに駆けつけた幼馴染みの親友に、開口一番訊いてみる。

「ねえ? 入江くん、何処? 壇上から捜したんだけど全然見つからなくて。おかしいわよねーあれだけオーラがある人、見つけられないなんて……」

そう言うに、高階優梨子は実にあっさりと、「あ、ごめん、嘘。実はまだ入江くん来てないから。夕方の同窓会から来るらしいわよー」と首を竦めて答える。

「はあ? なんですってっ? どーゆーつもりよ?」

久しぶりに会った幼馴染みの襟首を掴んで睨み付ける美智子である。

「えーだって、美智子、入江くんが居るって云わないと来てくれないでしょ?」

「あったり前じゃない! 何が悲しくてボランティアで講演なんてしなくちゃならないのよ」

「だから、云わなかったんじゃない」

ああ、まったくこの女、平気で嘘つくクセ、ちっとも治らないわね!

悪びれずに平然という優梨子に、さらに食ってかかろうと思ったら、
「いやー佐藤さん、ありがとう!」
と、前から駆けつけた男に突然がしっと手を掴まれた。

何よ、このおじさん。

手を握ったまま離さない男に怪訝な顔を見せて「 木暮です」ととりあえず訂正する。
とにかく、佐藤美智子という名まえが嫌いだった。名字に最も多い佐藤って名まえが想像の欠片もなくてキライだった。
美智子だって、なんて平凡な……

「僕は今回の同窓会の幹事会リーダーで15回生の恒松です。T大医学部の助教授です」

「あら、T大……」

よく見ると顔はイケメン。おっさんだけど。顔はシュッとしてる……でも腹は微妙に出てるわね。

物凄い速度で値踏みする。

15回生。10コ上ね。指輪はしてないけど、独身? いやいや待って、私には入江くんが………

「君のお陰でタイムテーブルに穴を開けずに済んだ。いやーこんな美人の後輩がいて嬉しいよ。このお礼に後でごちそうさせてください。僕たち15回生も同じホテルで同窓会やりますので。終わった後、最上階のバーで二人きりで二次会など……」

ふっとニヒルな笑みを浮かべていつまでも彼女の手を握ったままの助教授の手を振り払い、
「写真を撮られると面倒ですので、そういうお誘いはお断りをしてるんです」と、ほほほと笑う。

軽い!
……ないな。

美智子はそそくさと逃げ去った優梨子を捕まえようとその場を離れ、キョロキョロと講堂の中を探し始めた。

ったく、あの女、昔から変わらない。
適当にその場しのぎの嘘をつくし、あっちこっちで調子を合わせて他人のことをあれこれと。
もっとも人の噂話は蜜の味ってね、入江くんに近づいては玉砕する女たちを二人で小馬鹿にするのは楽しかったけれど。
その辺りでは意気投合したのよね、私たち。
3年になって、私が万年B組から脱して、A組に昇格した時、おめでとーって云ってくれた優梨子。(瞳は全然笑ってなかったけど)
ねえ、これで入江くんに近づけたらあたしにも紹介してねって。
ほんと、ちゃっかりしてんだからっ!



ーーああ、過去のあれこれを思い出してたら腹立ってきたわ。
ったく、私がテレビに出だしてきた時、「おめでとー美智子なら絶対成功すると思ったわー」なんて猫撫で声ですり寄って、合コンやりましょーっ芸能人や業界人呼んでよーって、見え見えなのよっ!
んっとに変わらない、あの女!


ぷんぷんと憤りながら優梨子の姿を求めて会場を探し回る。

講演を終えた後は、各回生ごとで行われる同窓会会場へと移る為に、皆が立ち上がりざわめき始めている。

……あら?

玄関先で、案内している女性に見覚えがあった。

確か、昔、入江くんちに居候してた、鬱陶しいF組の……そう、あの女………

名まえはーー。なんだっけ。


「相原さん、日比野くんが捜してたわよ」

ああ、そうそう。相原。
ったく、あの娘に全部もってかれたのよね、体育大会の時も…………
それに謝恩会の時だって………
ってーー、優梨子!

美智子は優梨子に気が付いてつかつかとにじりよる。

「あ、佐藤美智子さん! 講演お疲れさまです」

にっこり笑う高校時代の苛々の根源を一瞬睨み付けると「木暮ありすよ」と訂正し、今度は優梨子に向かって「あんた、なんで入江くんが来てるなんて嘘ついたのよっ」と食ってかかる。

「え……入江くん……?」

「だって、美智子のことだから、入江くんが来てると言えば、何の条件もつけずに引き受けてくれるだろうと……ね、ほら、ほいほいと引き受けてくれたでしょう?」

ふふっと笑う優梨子に、美智子は「だからって嘘ついていい理由にはならないでしょっ」と鬼の形相を見せる。

「ふふ、ほんとに美智子ってばまだ入江くんのこと好きなのねー。一途よね、高校の時から入江くん一筋で」

「だから、何よっ。あんたなんて入江くんのこときゃあきゃあ云ってるわりには、ちゃっかりB組の永瀬くんと付き合ったり、そのあとは年上の三流私大の大学生とデートしてたわよね……結局ハードル下げてる女にとやかく云われたくないわ!」

「まあ、確かに、美智子はハードル下げずに頑張ってるわよね。留学したり、夢叶えてテレビに出たり。根性あるのよ、パワフルなのよー。ガチだからね、この娘」

と、目の前に何とも言い様のない複雑な顔をして立ち尽くしている琴子に向かって、優梨子は美智子を差し出した。

「は?」

「入江さーん、悪いけど、あっちにホテル行きのバスが来てるから、誘導してもらえるかなー?」

日比野が琴子に向かって声をかける。

「入江……?」

美智子は怪訝な顔をして琴子の胸に掛かったネームプレートを見つめた。

「入江琴子? なんでー!?」

「えーと………」

困った顔の琴子を尻目に、優梨子に返答を求める。

「彼女、入江くんと結婚したのよ。大学生の頃に」

「嘘………嘘でしょ?」

「信じられないのは無理はないけど。っていうか、いまだに半信半疑の同級生たちがどれだけ多いことか……」

額に指をあて、わざとらしく苦渋の色を見せる優梨子。

「はあ~~? なんで? なんで、こんなのと!?」

思いっきり琴子の鼻先に指を突きつける美智子は、かなりのパニック状態である。

あり得ない!
そんな馬鹿な!
地球がひっくり返ってもそんなの信じられない!



「あーごめんなさい、あたしバスの誘導に行かないと」

目を丸くしてそのやり取りを聴いていた日比野と連れだって、呆然と立ち尽くす(ほぼフリーズ状態の)美智子を置いておいて、そそくさとその場を離れる琴子。



「………驚いた。女同士って、なんか怖いなー。大丈夫? 『こんなの』ってなんなんだ? テレビに出てる時は理知的なイメージだったけどがっかりだな」

日比野の呆れた様子に、共に手伝っていたらしい渡辺も口を挟む。

「彼女、3年の時しか同じクラスじゃないけど、あんまり記憶はないんだよねー。キャスターとかピンと来ないな」

渡辺も少し後ろを振り返り、未だに何か言い合いをしている女二人を呆れた瞳で見つめた。



「うん、まあ。……慣れてるよ。いつものことだし」

少し引きつったような微笑みを浮かべて、琴子は日比野や渡辺と共に裏門前の駐車場へと向かう。
総会と懇親会が終わり、漸く同窓会の行われるホテルへと会場を移すのだ。
本番はいよいよ。



けれど、まあ。
想像していたとはいえ。
きっと同窓会の会場でもそんな声はあっちこっち聞かれるのだろうなーと、自分の、『入江琴子』と書かれたネームプレートを眺めて先行きに不安を感じ、軽くため息をつく琴子であった。









※※※※※※※※※※※※※


何だか妙に、毒女と妄想女のコンビをノリノリで書いていたら、ふと、あたしなんでこんなウザい女たちの話をうだうだと書き連ねてんだ~~と気がついて、書き直そうか真剣に悩みました^-^;
つい、A組の女たちの気分に同化していました(?)

イリコト殆ど出てなくてごめんなさい。
総会から懇親会って、前降り長すぎですね(すいません、そーゆー同窓会を去年やったんですよ……)
今度こそ本番の同窓会です。
直樹さんも早く出さなくっちゃ。


たいしたことじゃありませんが、前話で恒松氏を准教授と書きましたが、この名称、制定されたの2007年からでした。なので、助教授にこっそり訂正。
看護師の名称はこの翌年(2002年3月)から。だからその年までは看護婦で統一してるつもりですが、多分たまに間違ってます(^^;すでに看護師さんって言い方の方に馴染んでるんですね……(^^)
読んでる方にはどうでもいいようなことですが、なんとなくきっちりさせたい変な拘りがあったりするんですf(^_^)
でもきっと多分細かいところで時代考証、間違ってると思いますので、気になった方はこっそり教えて下さいね……(^^;


2015.05.19 / Top↑



「25回生の方、こちらで受付お願いします」

「えーと、何組でした? はい、D組の上田さんですね。では、ネームプレートと、こちらの封筒お持ちください。席は封筒の中に座席表が入ってますので」

「あ、すみません、5回生の方はあちらで……」



斗南高校の講堂の玄関先には長机が置かれ、琴子たち幹事は総会開始時刻の一時間前から、ぞろぞろとやってくる参加者たちの対応をしていた。
開始30分前は長蛇の列で、ドニーズでもこんなに忙しくなかったわ、と琴子はぼそりと隣の理美に愚痴ってみる。

卒業から10年、20年、30年の三世代が招待される同窓会総会及び懇親会の参加者は、総勢400名ほどいる。
琴子たち25回生の総会参加者は100名くらいだが、夕方からホテルで開催される25回生だけの同窓会は200名参加予定だというから、8割強の出席率だ。
すでに総会の開始時刻となり、中では同窓会長が開会の挨拶をしている頃だろう。
そのあとは、会計報告や活動報告などがされる予定だ。
それでも琴子たちは、まだ遅れて到着してくる人たちの為に、会場に入らずに受付場所から離れることは出来なかった。

「まだ、何人か来てないね」

退屈そうにじんこが自分の肩をこりこりと揉みほぐす。

「うん。あと、10人くらいかなー」

25回生の余っているネームプレートの数を数えて琴子が答える。

「琴子ってば、15回生の人を5回生の方に案内しちゃうんだもんねー」

理美が思い出したようにくっくっと笑う。

「う………で、でも、38歳の人と48歳の人の区別って微妙じゃない?」

「まあ、確かに年相応の人もいれば、若く見える人もいるし、まー苦労しちゃったのね?って人もいるもんね」

意外に受付で大変なのは、外見で何回生か勝手に判断してハズレていた時の、何ともいえないバツの悪さ……

「そういや、金ちゃんとこ、大丈夫なの?」

じんこがふと思い出したように琴子に訊ねる。

「クリスが熱出して寝込んでるの。育児疲れかなー。金ちゃんがアンジーの面倒みてるわ」

琴美より3ヶ月あとに生まれた金之助とクリスの娘、アンジェリカに金之助はメロメロだ。目のなかに入れてそのまま閉じ込めてしまいたそうなくらいの可愛がりようであった。

「じゃあ、金ちゃん来れないんだね。残念。元F組、出席率100%だったのに」

「うん………」

「F組結構、既婚率高いよね」

既婚率の低いA組とは真逆の位置である。
琴子の周りの理美やじんこも金之助も結婚している。
理美のお腹の中には、まだ目立たないが4ヶ月になる赤ちゃんもいた。夕希を生んで5年、待望の二人目だ。

「ま、そんな中でも琴子がダントツ一番だけどね」

この25回生で誰よりも早く結婚したのが琴子と直樹だった。
それから8年。
卒業から10年。
直樹に恋をして13年。
長いようで、あっという間な奇跡のような日々ーー。

でも、全部此処から始まったんだよね……
琴子は懐かしむように、改めてこの斗南高校の講堂を見つめる。



「御苦労様。もう、みんな揃った?」

「あ、日比野くんも御苦労様。まだ、10
人来てないんです」

幹事リーダーの日比野が、外でイベント業者と打ち合わせを終えて、琴子たちの処にやって来た。

元B組の彼とは、高校時代は全く面識はなく、名前も顔もその存在すらも知らなかったが、幹事会の打ち合わせで話すうちにその人となりを知るようになった。気さくて快活で、現在小学校の教師をしているというのも納得の好青年だ。

「僕は君のこと知ってたけどね」

初めて会った時、彼はそう云って琴子に声をかけた。

「入江と同居してるってだけで、もうめちゃ有名人だったじゃん」

「そりゃそうね。3年になってから琴子、知らないものはないくらいの時の人だったもんね」

にやにやと笑う理美とじんこに、
「元はといえばあんたたちが、掲示板にあたしが入江くんと同棲とか書いたせいでしょ?」と、琴子は鼻をふくらました。
いやいや、人目のあるところで入江くんにラブレター渡したあの日から、地震で家が倒壊したり、何か入江くんとこそこそしてたり、テストで100番以内に入ったり、加速度的に注目されてたわよ、あんたはーーと突っ込まれる。

「でも、本当に二人、結婚しちゃうんだもんなー。驚いたよ」

その台詞は幹事会で会う人会う人に言われたものだ。
もっとも、その台詞の後に「で、まだ離婚しないの?」真顔で訊いてくる女もいて、流石にカチンと切れたこともあった。

「あら、相原さん、入江くんって今日、本当に来るの?」

あ。

琴子の顔が若干ひきつる。

元B組の高階優梨子だ。テニス部で直樹とダブルスを組んだことがあるというのが人生で最高の自慢だというこの女が「まだ離婚しないの」発言の張本人である。

名札は女子はカッコ付きで旧姓も書かれてあるが、ちゃんと琴子の胸には「入江琴子」と書かれたネームプレートがぶら下がっている。それでもずっと彼女は「相原さん」と呼んでいた。
彼女もB組の幹事で、会場内での案内係をしていたが、退屈で外に出てきたようだった。

「………入江くんは同窓会から参加するから」

何度も話した筈である。
というか、ほんとに彼女を含め他の幹事女子たちは、今日直樹が来るかどうかが死活問題のように、飽きることなく琴子に確認に来るのだ。

「だって、ほら、お医者さまでしょう? 当日にならないとわからないってあなた云ってたじゃない」

「夕べ急変があって、今日は明け方に帰ってきたの。多分、昼過ぎまで寝て、夕方には間に合うと思うわ」

「そう。じゃあ来れるのね? 絶対よね?
嘘ついたら承知しないわよ?」

「……………」

なんで、あんたにそんなこと云われなきゃならないのよ、と内心毒づくが、
「……もしかしたら又急患があるかも知れないし」と、差し障りなく答えて、口を閉じる。

直樹が来れないならそれならそれで良かったのだけれど。
もしかしたら、25回生の殆どの女子がそんな風に直樹と琴子の離婚を望んで、必死にアプローチしてくるかもしれない。
これをガードするのは大変だ。

年を重ねてさらにかっこよくなった旦那様を見せびらかしたい気持ちと、ここでまた新たに高校時代の想いを再燃させる女たちを増やしたくない気持ちと半々である。

ーーほら、同窓会って不倫の切っ掛けになりやすいっていうじゃない。

直樹が来れないならそれも有りかもと思いつつも、せっかくホテルの部屋まで取っていてくれたなら、やっぱり来てほしいなーなどと悩ましい。

……そう、今夜はホテルで……久しぶりの……二人っきりで……/////
昨夜はせっかくいいムードになったのに……

「琴子……何、赤くなってるのよ?」

「あーなんかエロいこと想像してるでしょ?」

理美とじんこに速攻突っ込まれる。

「べ、べ、べつに……」

高階優梨子は、会場に入らずにそのまま日比野と話し込んでいた。そういえば同じB組同士だ。

琴子たちは、彼らに聴こえないようぼそぽそと話す。

「そういえば、昨日、最近入江くんの様子がおかしいってぼやいてたじゃない? どうなったの?」

昨日、会場設営準備の為にここに集まった時に、ついつい二人に愚痴ってしまったことを思い出す。
理美に訊かれ、「えーと、あたしのただの勘違いみたい。別に怒ってないし、疲れてただけだって……」と、あたふたと答える琴子。
実は今夜ホテルに泊まることは二人にいっていない。からかわれることは必至だから。
義母紀子は、「まあ素敵! 大丈夫よ、みーちゃんは任しておいて!」と俄然張り切って、今朝は琴子を車でここまで送ってくれた。その前にホテルに寄って荷物を預けなければならなかったので、つい甘えてしまったのだ。


「 あら、結局何事もなかったわけ? なんだ、つまんない」

「つまんないって何よー」

「冗談よー」

二人の掛け合いに、じんこがにやっと笑って、「まあとにかく仲直りできたならいいじゃん」と、琴子の胸元をさす。

え? と琴子は自分の胸元を覗き込むと、ブラウスで見えるか見えないかギリギリの処に赤い痕が付いていた。

「ああーっ 付けちゃダメって云ったのにー」

琴子が思いっきり大きな声で叫び、慌てて理美が口を塞ぐ。

少し離れた処にいた高階と日比野が一瞬、怪訝そうな顔で琴子を見た。

顔を真っ赤にして、でもぷりぷり怒っている琴子の後ろで、理美とじんこは、
(わざとだよね?)
(きっとそうだよねー。今時キスマークつけるってどれだけ独占欲強いんだろ?)
(ってか、結婚してもう8年だよ? ありえねー)
(まあ、今日は急患こよーが嵐がこよーが何があっても来るよね。琴子一人を同窓会というキケンな場所に放置しておく筈がないもの)
と、手で口元を覆ってこそこそ話している。

琴子は二人の会話をよそに、ブラウスを後ろに引っ張ったりして、なんとか痕が見えないように模索していたーーところに。


「遅れてすみません。あ、琴子ちゃん、久しぶり」

「渡辺さん!」

走ってきたのか少し息せきって琴子の前に立ったのは、直樹の親友の渡辺だった。

「入江は来てる?」

「あ、ううん。入江くんはホテルの同窓会から参加で……」

「ああ、そう言ってたっけ。まあ総会なんてわざわざ参加しなくてもね」

「でも、渡辺さん来たんですね」

「いや、なんかA組の幹事、誰も手伝いに来なかったんだって? なんか責任感じちゃって。っても遅刻だけど」

「仕方ないですよ。A組の人は全国に散らばってる人が多いし、都内に居てもかなりハードワークな人が多いって……渡辺さんも3月末まで大阪だったんですよね」

弁護士になってすぐに大手の法律事務所に就職した渡辺は、初任地からずっと関西支部勤務だったのだが、そこをすっぱり辞めてこの春から東京に戻り、職員3名の小さな町の弁護士事務所に転職したのだ。

「大きな事務所辞めちゃったんですよね? 香世子さん、何も云わなかったんですか?」

渡辺は夏に結婚式を控えている。
琴子が琴美を生んだ一ヶ月後に、出産祝いを持って駆けつけた時、伴っていたのは婚約者の香世子だった。大阪の事務所での職場恋愛で、ほんわかと笑顔の素敵な可愛い女性だった。

「どっちかっていうと、あそこ辞めるの背中押してくれたの、あいつだったんだ。俺が意に添わない仕事で潰されそうになってるの、分かってくれててね」

「へー素敵ですね」

照れ臭そうに、でも幸せそうに話す渡辺に、琴子も思わず笑顔がこぼれる。

「もう、入籍も済ませて一緒に暮らしてるんだ。良かったら入江と遊びに来てよ」

「はい、ぜひ!」

「結婚式も二人揃って出て欲しいんだ」

「もちろん!」

「……ところで………」

渡辺が話しかけたところで、「おー、渡辺!」と、日比野が駆け寄って来た。

「あ……」

一瞬、気まずそうに渡辺は顔をひきつらせた。

「久しぶりじゃん! 元気か?」

日比野が近付くと、開口一番、渡辺が手を合わせて「日比野! ごめん!」と謝った。
日比野はぽかん、と首を傾げる。

「な、なんだよ」

「おれ、つい口を滑らせて……」

きょとんとしている琴子に気付いて、少し離れた処に日比野を連れていき、小声でぼそっと話す。

「おまえが高校時代、琴子ちゃんのこと気に入ってたって、入江に言っちまったんだ」

「ええ? なんでそんな昔の話……」

「いや、こっち帰って久々にあいつに会って、なんか知らないけど、おまえのこと訊かれて……つい言っちゃって……」

「いや、でも、昔の話だし。さすがにおれ、いまさら人妻にどうとか思ってないぜー。いや、やっぱ変わらず可愛いし、全然年食ってない感じ、やべぇとは思ったけど……」

「おまえ、結構、ちょいちょい琴子ちゃんに連絡してるだろ……」

「それは幹事の仕事で……ついつい色々頼んじゃって……本当に頼みやすいんだーあの娘。何でもにこにこ引き受けてくれて」

渡辺は、日比野の肩をばんばん叩くと、「まあ半分くらいは俺のせいだ。とにかく同窓会では入江に近づくな……忠告しておくよ。一瞬で氷殺されるから」

「 ??????」



渡辺と日比野がこそこそと話だしてからは、今度は再び高階優梨子が琴子の前にやって来た。
思わず(暇なら中に入れば?)と言いたくなってしまう。

「知ってる? 相原さん。25回生のA組は入江君を含めて3人、お医者さんになってるの」

「そうですか」

そりゃ成績優秀で理系選択の多いA組だ。医者も歯医者も薬剤師もいると聞いたことがある。
だから何だというのだろう?

「万年二番だった池沢理男なんて、T大医学部で、今は病理学の研究室にいるって。久瀬くんはK大の医学部で今は実家の病院継いでるらしいわよ」

「……そうなんだ」

だから、何よ?

「入江くんはずっと斗南にいるの? 斗南大病院じゃ箔がつかないんじゃない?
同じ教授とかなるにしろ、やっぱりT大の方が権威はあるだろうし」

「『箔』とか『権威』とか、意味わかんないけど。何処の大学だろうが、何処の病院だろうが、関係ないよ。目の前の患者さん、助けるだけなんだから」

どうにも毒を含んだような高階優梨子の言動に、流石に琴子も受け流すことが出来なかった。

「やだ、入江くん、ずっと臨床やるの? イメージじゃないなー。彼なら研究者になった方が、世のため人のためじゃない? 1人を救うより、1つの治験の効果で何万人もの患者さんを救ったり出来るかもしれないし。もったいなーい」

揶揄するような口調に、かちんとくるものの、高階優梨子の云うことは一理あった。
入江くんがお医者さんになれば沢山の患者さんが救えるーーそう事もなく云ってのけたのはかつての琴子だった。

「クールな入江くんが、随分変わったものね。誰かさんの影響かしら」

小馬鹿にしたような眼差しに、琴子はぐっと言葉につまる。

常に研究よりは臨床をやっていきたい、と云っている直樹だか、具体的にどんな未来を想定しているのかは知らなかった。
斗南でそのまま上に上っていくつもりなのか、開業医を目指すのか。
ただ琴子は直樹が何処に行ったとしても、ただひたすら付いていくのみだった。

「入江くんはいい論文を書いているよ。臨床を続けながらも外科医として新しい術式や治療法の研究に余念がない。T大でも彼の論文もオペの腕もかなりの評判なんだ。各方面で注目されてる若手外科医だよ」

ふっと後ろから突然声を駆けてきたのは。

「恒松さん!」

「えーと……」

幹事会で何度か顔をみたけど誰だっけ、と琴子は一瞬、悩んだ。25回生ではない、上の学年だ。
直樹と同じくらいの長身で、直樹とは違ったタイプの、彫りの深い端整な容貌をしている男性であった。

「恒松さん……ほら、15回生の幹事リーダー。T大医学部の助教授よ」

ああ、そういえば、と琴子は思い出した。
10年前に直樹同様、不世出の天才と騒がれたイケメンがいたという話。

確かにアラフォーの中年男性とは思えないくらい若々しく自信に満ちた顔をしていた。がっしりとした体躯で威風堂々といった感じだ。

もっともーー
入江くんの方が断然、洗練されててカッコイイ……
琴子の瞳は数秒でそう評価していた。

「 まあ、僕は精神科医なんで、メスは握らないけどね。でも、今日は噂の入江くんに会えるのを楽しみにしていたんだ」

そう言って笑う恒松に、高階は「彼女入江くんの奥さんなんですよ」と紹介する。

「うん、話を少し聞いてたからね。ナースなんでしょう? いや、なかなか可愛らしい奥さんだ。ぜひ、日本の医学会の期待の星を支えてほしいなあ。頑張って」

ポンポンと琴子の肩を擦る。触り方が何となくいやらしい。

………なんか、西垣先生と風味が似てる……

思わず密かに顔をしかめる琴子であった。



「あ、恒松さん。何かありました?」

日比野が先輩に気付いて、駆け寄る。

「ああ、日比野くん。実をいうと少し不味いことになって……」

の、割りにはかなり呑気そうに恒松は云った。

「懇親会の最後にお願いしていたOB講演会。今年はJAXAの研究員の長谷川くんに頼んでたろ? どうも高速の事故で間に合いそうもないんだ」

「ええ? どうするんですか? もう講演無しにしますか?」

「うーん。誰か急遽呼べそうな有名人、有識者いないかなーOB、OGで」

「いや……突然には……」

悩み始めた二人を前に、高階が「一人いますけど」と手を挙げた。

「木暮ありす。ほら、今彼女『ジャパンビジネスパーク』のキャスターに抜擢されて、注目度アップのフリーアナウンサーですよ。彼女、25回生A組の佐藤美智子なんです」

「今日、来るの?」

興味深かそうに恒松が訊ねる。

「同窓会から参加予定ですけど、多分、都内にいると思うので、呼べばすぐ来れるんじゃないかしら?」

「頼める?」

「はい。あたし、彼女と幼馴染みなんです」

そして、鞄から携帯を出してすぐに電話をかけ始める。

そういえば。
自慢げに木暮ありすの話をしていたのは、高階さんだっけ。
琴子は何となく思い出す。
A組から芸能人。
ちょっと好奇心でテレビを見てみたが、まあなかなか綺麗な娘だな、とは思った。
直樹がなんか記憶と顔が違う、というので卒アルで確かめたら確かに微妙に顔が変わっていたっけ。
化粧のせいか、いじったのかは分からないが、芸能人ってそんなもんだろう。


「大丈夫です。一時間くらいで来れます! 講演もやってくれるそうです」

高階優梨子が誇らしげに話す。

「そうか! よかった!」

ほっと胸を撫で下ろす男たちを尻目に、琴子、じんこ、理美の3人は「芸能人なのに、すぐに来れるってどうよ」とか「キャスターってもレポーター上がりじゃん? 結構カミカミだったよね、この間の放送」と、かなり辛口である。
幹事会の時、高階が幾度となく木暮ありすの話を自慢気に持ち出すので、若干食傷気味なのだ。

それに。

「美智子、大学はアメリカに留学してて、クラス会とか1度も来たことないから知らないのよ。ーー入江くんが結婚したこと。………あたしも教えてないし」

教えてあげよーよ、ちゃんと。
友達なんでしょ?
ってか、面白がってる?

「あの娘、入江くんのこと、かなりマジだったから。もう、今回の同窓会、かなり気合いが入ってるわよ」

楽しそうに、くすくすと笑う、高階優梨子の様子を思い出して、琴子は軽くため息をついた。


ーーーなんか。
すごくいやーな予感がする。














※※※※※※※※※※※※



なんだか、オリキャラわさわさ出してご免なさい。
かなり行き当たりばったりでキャラ作ってます……収拾つくかなー(^^;
高階優梨子、木暮ありすよりウザそうな……予想より上を行くヤな女っぷりです(-.-)
そして金ちゃんは欠席。いえ、別に関西弁がめんどくさいってわけでは……(^^;


『20th anniversary』で、渡辺くんや金ちゃんの子供たちを出してたせいで、設定とか考えると、そろそろ生まれてなきゃ、とか結婚してなきゃ、とか慌てて確認していました。しまった、ノートとかに整理しておけばよかったと後悔 ……


2015.05.14 / Top↑



「うーん……どっちにしよう……」

あたしは二種類のコーディネートの洋服をベッドの上に並べて、先刻から何度もクローゼットの姿見の前に立って自分に当ててみてはため息をついていた。

ひとつはビタミンカラーの明るいワンピ。襟元はリボンがあしらわれ、ウエストから少し下のラインは膝丈のアコーディオンプリーツ。中々可愛いのだけれど、問題は後ろファスナーだから、もしおっぱいが張ってきた時にこっそり抜けて搾乳するのが難しそうってこと。それにこれに合う靴が、少しヒールの高いベージュのパンプスしかない。最近高いヒールを履いていないし、昼の総会の受付から夜のホテルでの同窓会の立食のパーティまで耐えられる自信がない。

もうひとつは、シックな紺のパンツスーツ。でも地味になりすぎないようにブラウスは衿ぐりに三段フリルが施され少し華やかなものをチョイスした。ブラウスは前開きだから搾乳はしやすい。ジャケット羽織っていれば、母乳パットの入った授乳ブラをつけて、人生最大級に大きくなったものの決して美しいとはいえないバストラインを誤魔化せそうではある。

「………見映えを取るか、利便性を取るか……」

パンツスーツならローファでもいいから、足も疲れないし、幹事の仕事でバタバタと動き回ることも出来る。搾乳もできる。
でも、でも、折角の同窓会なのに、あまりに堅くないだろうか? フォーマルというよりビジネススタイルな感じ。あたしが身に付けてたってキャリアウーマンには到底見えないから、なんだかそぐわない。

やだ、入江くんの奥さん、あんな冴えない格好してんのー? ダサー……なんて云われたらどうしよう?
こっちのワンピの方が可愛いし、断然あたしらしいけれど……


一応明日の同窓会の為に買ったのだけれど、一目惚れで勢いで購入した為に、自分のおっぱい事情も1日立ちっぱなしの幹事の仕事があることもすっかり忘れていた。

お義母さんにに相談したら、あっさりもう一度買い直しましょう!と云われ、それはやっぱりどうだろうと思う。あたしの失敗のせいで余計な買い物はしたくなかった。服がないわけじゃない、有るものでコーデしようと思ったものの……


ーー入江くんはどっちがいいって云うかな……

ぼんやりと想像する。

んなの、なに着ても同じだろ? 何だっていいよ。

興味なさ気にそんな風に云われたらさすがにへこんじゃうかも。

実はここの処、入江くんの機嫌は余りよろしくない。
何故だかあまり理由がわからないけど、もしかしたら同窓会の準備でここ1ヶ月は何度も打ち合わせで集まっていたせいかも?
始めの頃は1ヶ月に1度だった集まりも本番が近づくにつれ、具体的な仕事が増えてきたせいで、ほぼ毎週高校に集まっていた。
出欠の集計に、一人一人に手渡す配布物の封筒詰め。ネームプレートも全部手作り。
いつも2時間くらいで、そんなに家を空けている訳ではないけれど、その間まだ7ヶ月の琴美をお義母さんに任せっきりなのも確かで……

「育休明けたらどうせ1日見てるんだから、今からみーちゃんには慣れてもらわなきゃね」と、お義母さんは笑っていってくれるけど。

最近話す会話も同窓会のことばかりで
浮かれ過ぎている、と思われているかもしれない。

喧嘩、という程のものではないと思う。
二人の夫婦年表最大の危機だった結婚2年目のあの時と、入江くんから醸し出す空気が何となく似ている気がするけれど、あの時ほどはっきり無視されてる訳じゃない。
話しかければ応えてくれるし、みーちゃんの話は熱心に訊いてくれるし………
そこまで考えてふっと気づいてしまった。

もしかしてみーちゃんがいるから大丈夫だけど、いなかったら………!

ちょっと青くなる。

いや、何となくおかしいかな? と思ったのはここ2週間全然エッチがなくてーーキスもしてなくて………でも仕事が忙しくて泊まり込みも多かったから、疲れてるだけだよね、きっと、と、頑張ってスタミナばっちりの食事を作ってみたり。
(お義母さんにはちょっとからかわれたけれど)
ご飯は普通に食べてくれたし、「入江くんも同窓会出れるよね?」と訊いた時も、「今のところは大丈夫」と、ちゃんと答えてくれた。

でもでも……なんかおかしい……
何がどうと云うわけではないけれど、何となく……(いや、やっぱりエッチの回数が……)そうなのよね、忙しい時ほど今までは帰って来れた夜は、パワー全開というか……(えーと……/////)

心当たりは……どうも明日の同窓会の為に出歩き過ぎたのだろうかということくらいで。
今日も、結局明日の準備で昼から夕方までかかった。
こんなんじゃ母親失格とか思われてるのかもしれない。

そ、それとも、単にこの母親仕様のカラダに飽きた……?


はあ、ともう一度ため息をついていると、机の上の携帯が鳴った。
着信の相手の名前を見て(何だろう?)と、電話に出ようとした時に、丁度がちゃりと音がしてドアが開き、仕事から帰ったばかりの入江くんが部屋に入ってきた。

「あ、おかえり」

あたしはにこっと笑って飛びつきそうになる衝動を押さえて、とりあえず受信ボタンを押してしまった電話に出た。

「あ、日比野くん? 今日はお疲れ様。どうしたのーーー?」

相手は、あたしたち25回生の幹事役員のリーダーで、元B組の日比野くんだった。日比野くんは斗南附属小学校で教師をしている。だいたい、リーダーは都内で先生をしているヤツに振られるんだ、って苦笑してた。そういえば、ほかのサブリーダーの人たちも都立高校の先生とか、教師ばっかりだった。先生をやってる以上断れないし、恩師とも繋がりがあって出席を頼みやすいんだって。

「えー? 先生一人増えるの? じゃあ花束がもう1つ必要だね」

日比野くんの話は、欠席の連絡をもらっていた恩師の先生が前日の今になって、やっぱり出席したいと連絡があったという。5回生の恩師だから、もうとっくに勇退している先生だ。
………に、してもワガママだなー………。

今回総会に参加するのは、5回生、15回生、25回生の三世代。
総会の後の懇親会で花束をそれぞれの恩師に渡す段取りになっているから、もうひとつ花束を増やさなければならない。
実は、今回のお花は全部、花束からテーブルのアレンジフラワー、壇上の大きな生け花まで、華道の教室に通って師範の免状を持っているお義母さんにお願いして、懇意の花屋さんに安く融通してもらったのだ。そしてアレンジと生け花はお義母さん作。午前中家でずっと活けてもらい、アレンジはあたしも手伝って、お店をやってる幹事の男の子が軽トラで受け取りにきて会場に運んだ。
そんな面倒なことになったのは、本来総会も懇親会も学年別の同窓会もみんな同じホテルでやる予定だったのに、やっぱり5回生の誰かが、折角集まるなら母校でやりたいと言い出して、総会と懇親会は斗南高校の講堂でやることになったのだ。
なので急遽イベント業者に頼んで講堂での会場設営準備をしなくてはならなくて、今日あたりかなりのお手伝いが学校に集まったことだろう。
ホテルに頼んでいればお金はかかるけれど、アレンジも花束も全部やってくれただろうけれど。
でも、お義母さんのお陰で随分安く、しかもかなりなクオリティの花を提供できたと思う。
恩師贈呈用の花束は花屋に依頼したけれど、多分、花束1つ追加くらいは今からでもきっと大丈夫だ。



「うん。うん、大丈夫。お義母さんにお願いしてみるから。いいよ、気にしないで。明日ちゃんと会場に届く筈だから………」

そんな風になんでもあたしがあれこれ安請け合いしてしまうせいか、ここの処、日比野くんと連絡を取り合うことが多かった。

電話を切った後、ふっと振り返ると、入江くんはいつの間にか、もう部屋から居なかった。

クローゼットを見ると今日着ていたスーツが掛かっていたから、着替えてお風呂に行ったのだろう。

今は午後8時。今夜は早い方だ。当直でなくても帰りが午前様になることは多々ある。

……せっかく早く帰ってきてくれたのに……
少し顔を向けて「おかえり」の一言だけしか話してない。しかも入江くんは「ただいま」と言っただろうか? それすらも覚えてなくて、電話の方に気が逸れていた。

ーーああ。
だから?
ちゃんと目を見て「おかえり」って云ってあげれてないから……
最近同窓会の準備で忙しないのもあるけれど、琴美もハイハイが達者になってあっちこっち動き回って目が離せなくて、何だか精神的に落ち着いてない。
かといって入江くんが一番じゃなくなった訳ではないけれど、日がな1日中入江くんのことばかり考えている訳でもない。
入江くんを中心にあたしの世界が回っているのは変わりないけれど、その回りには色んな衛星が生まれているのだと思うの。

ああ、でも、そんなの言い訳だ。
多分入江くんは、あたしが同窓会のことしか頭にないのが気に入らないかもしれない。
それなのに入江くんに服のコーディネートを選んでもらおうなんてきっと無理。
ううん、もしかしたら同窓会の出席も断られるかも。当日どうなるか分からないってのは覚悟はしているのだけれど。
基本、入江くんはそういう集まりが好きじゃない。A組のクラス会も、卒業以来何度かやっているらしいけど、(今回の同窓会で他のクラスの幹事たちから聴いた情報)入江くんが参加したのは、結婚後に一度きり。しかも少し顔を出しただけ。
そして、何故だかその時あたしも一緒だったのだけれど。あれ? なんで、一緒にいたんだっけ? 何かの用事のついでに待ち合わせて、そのまま訳も分からず店に連れて行かれ、「結婚したから」と紹介された記憶がある。
今でも思い出す。A組の人ちたちの驚愕の眼差し。はあ?なんで?という納得いかないという感じの空気が充満して息苦しかったっけ。
入江くんは渡辺くんと少し話してすぐに「行くぞ」と帰った。30分も居なかったんじゃないかな。
ああ、やっぱり、同窓会とかキライなんだー。
それなのに、あたしったら、今回は学年全部集まるからとか、あたしも一緒だからとかあれこれ云って気乗りしないのに無理にOKさせちゃったのかも。
そのうえ子供小さいのに幹事なんか引き受けて、あたし一人はしゃいじゃって……
ああ、どうしよう。
あたしって馬鹿だわーー。
もう、呆れ返って嫌われちゃったのかもーー。

離婚……は、されないよね。
みーちゃんがいるから。
子はかすがい……。
でも、それはそれで……どうなんだろう?
子供のせいで無理して一緒にいるなんて……良くないよね?
ああ、でも、でも………







* * *





風呂からあがって部屋の前に立つと、琴子が一人でぶつぶつと何やら不穏なことを呟いている。

離婚がどーとか、子はかすがいだからどーとか……

ったく、また一人で妙な世界に旅立っているな、とおれは嘆息して、部屋の扉を開けた。

ーーまあ、おれの態度のせいだろうけどね………


「何絶望的な顔をして独り言呟いてるんだよ?」

「ひ、ひえっ?」

琴子がおれの声にびくっと肩を震わせてこちらを向いた。

「い、い、入江くん…!」

何だかひどく焦ったようにつっかえまくってる。

「えーと、おかえり」

「さっき、聴いたけど」

的はずれな挨拶に、ちょっと呆れる。そうだよな。おまえ、おれが帰ってきた時、電話に出ようとしてたもんな。

日比野って奴の。

おれのこめかみが少しひくついたのに気がついたのか、琴子はびくっと身構える。

これでもなるべく態度に出さないように気を付けていたつもりなのだ。
日比野、日比野、日比野。
最近やたら琴子から出てくる名前。
無論、こいつが全く含むところがないから普通に名前が出るのだとわかっている。幹事役員だけの付き合いってことも。
久しぶりに連絡のあった渡辺から、「日比野って、おれと同じ放送部でさー。高校時代から琴子ちゃんのこと気に入ってたんだぜ」などと余計な情報を吹き込まれるまでは、とりあえず態度に出さないだけの余裕はあった。

自分でも自覚はしてたんだ。
あ、この感覚、むやみにイライラして琴子に当たりたくなってしまうこの感じ。
あの時と一緒だと。6年近くの前のことだ。
日比野の名前を聞くたびにざわつくイヤな感覚。
原因はわかってる。琴子のせいじゃない。琴子に当たってはいけない。
そう言い聞かせて何とか普通にやり過ごしているつもりだったのだが。
あれから6年たっておれも成長したはずだった。
琴子に2度と同じ涙は流させない。
そう自戒していたのに。

たとえば病院で琴子にちょっかいを掛ける奴がいても、それが上司だろうが患者だろうが、目の届く範囲ならしっかりと牽制することで何とか黒々とした感情を抑え込むことが出来たのだ。

なのに今回は相手が見えない。
そして、妙に琴子が楽しそう。

ーー自分の狭量さに苛立っているんだ、きっと。


なのに、おまえときたらーー

「ご、ごめんね。あたし、最近全然入江くんのことお世話してあげれなくて。同窓会のことばっかりで。イヤだったんだよね? あの、明日も行きたくなければ断っていいからね。仕事が忙しいって云えば大丈夫だから!」

「は? おれ、行く気満々なんだけと。おまえおれに来てほしくないの?」

「え……?」

おれがどれだけ日比野って奴の顔を拝むのを楽しみにしているか……
それに、渡辺の話じゃ琴子を狙ってた奴は結構多かったって話だし。特にA組に!
そんな中におまえを一人行かせられるか!

「来てくれるの?」

「ああ。それともおまえ来てほしくないの?」

「そんなことない! 嬉しい!」

首をぶるんぶるん振りながらおれの首に巻き付いてくる琴子。少しご無沙汰だった感触に思わずそのまま抱き締める。

「それでね、あのね」

「何?」

必殺上目遣いでおれを見上げる。
久しぶりなせいか今日は自制が利かないかもとぼんやり思う。
嫉妬に駆られておまえに無理なことを強いてしまうのではないのかと、触れるのが怖かったーーなんて、絶対云わないけれど。

「服が……明日着ていく服が決まらないの~~!」

半泣きで琴子が訴える。
確かに。
ベッドの上には衣服が散乱していた。
おまえ、思いっきり踏みつけて、皺になるぞ?


琴子から服のコーディネートのどこを悩んでいるか訊いて、少し考えてみる。

つまり、搾乳しやすくて動きやすくて尚且つ同窓会コーデとして遜色ない服がいいってことだろ?

「両方着れば?」

「え?」

「 総会は動きやすいのがいいんだろ? 家を出るときはこっちのパンツスーツ着て、総会と懇親会終わってホテルに会場を移した時、こっちのワンピースに着替えれば? 着替える時間くらいにちょうど胸が張ってくるんじゃない? そのとき搾乳して着替えればいい」

「えー何処で?」

あっさり云うおれに琴子が目を丸くして訪ねる。

「ホテルの部屋で。一応、部屋を取ってあるから。3時にはチェックイン出来る」

「へ? な、なんで~~!?」

なんで、と云われても。
そんなもん、こーゆー時でもないとなかなか外に泊まる口実、見つからねーだろ?

「念のため。おまえ、酔っばらって帰れないかもしれないし」

いや、そんなにへべれけになるまで飲ませたりしないが。

「それに、こういうこともあるかと思って」

いや、別に搾乳のことまで考えてたわけじゃないけれど。

「す、すごーい、入江くん!」

無邪気に感動してる琴子に、おれの邪な思惑など伝える筈もない。

「ホテル、同窓会事務局で予約受付てたけれど、そっちで頼んだの?」

「いや。どうせなら高層階がいいから自分で頼んだ」

事務局で用意してたのは遠方から来る人たちのための部屋。なんで都内在住のおれたちが泊まるんだと変に勘繰られるだけだ。だから、個人的に予約をいれた。
とにかく、この日は何がなんでも休むつもりでここ2週間は相当無理して仕事をこなしてきた。あとは急患急変がないことを祈るばかりだ。
別に同窓会で旧交を暖めたいわけじゃない。琴子を一人で参加させられるか!ってだけのことだが。

「ジャケットはこの紺のでいいけれど、パンツはこっちの白い方がいいんじゃないか? 初夏らしく爽やかで。バッグはこれだな」

てきぱきと決めていくおれに、琴子がうるうると感動している。

「う、うれしいよー。入江くんのコーデ………」

まあ、さっさと決めて、ベッドの上を空けて欲しいのが本音だが。
それにせっかく早く帰れたのだ。同窓会の前までに琴子の不安を払拭しておきたかった。
昔みたいに長引かせるつもりはない。これでも少しは学習してるんだ、おれだって。


だいたいコーディネートが決まって、アクセサリーやバッグまで準備して、明日の泊まりの用意まで済ませる。一度ぐずった琴美に授乳とオムツ替えをしてベビーベッドに寝かしつけたあと、漸く琴子と共にベッドの上に横たわった。

「よかった……」

琴子がぎゅっとおれのパジャマの胸元を握りしめ、しがみついてくる。

「あたし、入江くんが何か怒ってるって思ってた」

「……別に……怒ってないし。怒らせるようなことしたのかよ?」

「ううん。でもあたし、また知らないうちに何かやらかしたのかと」

「何も………少し疲れてただけ」

ごめん、と心のなかで謝る。いまだに素直に謝れない自分に少し腹が立つのだが。

「ご、こめんね。あたし、奧さんなのに全然体調管理とかしてあげれなくて……」

あっさりと謝る琴子に、罪悪感が募る。

「おまえが謝らなくていいよ」

そのまま唇を塞ぐ。
なしくずしに会話を打ち切って、何も考えないようにさせてしまう卑怯なおれ。
とりあえず久し振りの琴子の愛らしい唇を堪能する。
舌を咥内に侵入させるとおずおずと自分から絡ませてきた。
背中に回っている手に力が入るのがわかる。琴子も欲しがっているんだ、と思うと思わず身体の中心が熱くなる。
明日の為にも、今夜はとにかく琴子の不安を払拭する程度に軽く……と思っていたけれど止められないな。

「……入江くん……痕、つけちゃダメだよ」

「わかってる。見えるところはつけねぇよ」

本当は1ヶ所くらいはいいよな、と思ってる。
琴子は明日の為につけるなと言いたいんだろうけれど、こっちは明日の為にひとつくらい見せつけてやれ、と思ってんだけど。

丹念に琴子の白い肌に唇を這わせながら、パジャマの釦を外していく。

「あ……入江くん……」

琴子の潤んだ瞳が、がっついているおれを映していた。
パジャマの袖を抜いて、あらわになった2カップサイズアップした胸に顔を埋めてーー

RRRRRR………

そして、まさかの病院用の携帯からの呼び出しコール………
嘘だろ?

「い、入江くん……」

琴子の顔が少し情なげな困惑の色をなしていた。

「……早く……出ないと」

「ああ……」

ため息ひとつついてから仕方なく携帯に手を伸ばし、電話に出る。

「はい」

出た途端に、『あーっ入江先生、いたーっよかったー!』と歓喜の声が……

どうやら、西垣先生の担当の患者が急変したらしいが、西垣に連絡が付かないらしい。
当直の研修医はパニックを起こすは、もう一人の当直は別の処置をしていて、と成すすべがなく、片端から医師に電話をしていて、やっとおれが出たらしい。

「……わかった。すぐに行く」

西垣の野郎……ただじゃおかねぇぞ!

「入江くん、病院?」

「ああ。………悪い、琴子。続きは明日な」

頬に手をやり、啄むようなキスを落としてから服を着替える。

「うん、仕方ないよ。でも、明日……」

「西垣先生の担当患者だから、先生に連絡ついたらすぐに戻れるよ。どのみちおれは夕方からの同窓会にしか参加しねぇし。琴子は総会は昼からだっけ?」

「うん。準備もあるから昼前には家をでるけど」

「……じゃあ、もしかしたら夕方まで会えねーかも。忘れ物するなよ?」

「……う、うん。気を付ける」

「明日の夜は手加減しねぇから」

「うん。………え?」

目を見開いた後、はぐはぐと言葉を紡げない口唇をもう一度味わってから、部屋を後にする。

ーーああ。これは天罰だな。
下らない嫉妬で、また琴子を不安にさせたちっちゃいおれへの。


とにかく何がなんでも同窓会には出るつもりだから安心しろ。
同窓会本番より、その後の二人きりの夜の方が楽しみなんだけどな。
琴美に邪魔されない、二人っきりの夜の方がーーー。










※※※※※※※※※※※※



ふ………また、入江くん寸止め~~。
最近どうも寸止めづいてます^-^;
お預けくったちっちゃい直樹に哀れみを……^-^;
でも、翌日は色々頑張ってもらう予定です(^w^)

同窓会本番は平成13年5月13日(日)ですが、多分13日に本編をあげるのはむりな気がします……(T.T)
帰着点は決まってるのに(ほら、ホテル、部屋取っちゃったからね)なかなか出発点が定まらなくて、三回くらい書き直してアップが遅くなりました^-^;

本番……何話になるかわかりませんが、しばしお待ち下さいね(*^.^*)




2015.05.11 / Top↑




「い……入江くん……?」

突然、何者かに生徒会室に引っ張り込まれて、部屋の片隅の壁際に押し付けられた。
嵐のような一瞬の出来事に、琴子の頭は状況を把握しきれずに茫然として、ただただ流されるままだ。
目の前にはずっと連絡を待ち焦がれていた愛しい顔がある。
ずっと会いたかったひと。

その綺麗な貌が鼻先まで迫っていた。

思わずうっとりと目を閉じそうになって………
ーーはたと気付く。

「ス、ストップ! 待って………」

唇が触れそうになった直前で、我に返った琴子は、がしっと直樹の唇を手で押さえてはねのける。

「なんだよ? 久しぶりに会ったのにつれねーな」

鷲掴みにされた唇を覆いながら、不満げに琴子の顎を長い指で捉える。

「そーよ! すっごい久しぶりね! まっさかこんなトコで会うなんて思いもよらなかったわよ」

精一杯強がって琴子は眼前の直樹を睨み付ける。

ほんの2ヶ月前に最後に会ったときと、少しも変わらないその端麗な容姿。
目の前に存在するその顔は、切れ長の瞳、長い睫毛、高い鼻筋、薄い唇ーーどれをとっても整って美しい。完全な形に完全な配置。初めて見たとき、世の中に芸能人以外でこんな綺麗な容貌が存在するんだと感動したことを思い出した。

そしてその人が自分とーーーあんなことやこんなことやそんなこと………////

「………何ゆでダコになってんの? 色々思い出しちゃった?」

にやっと笑う。そうそう、こんないたずらっ子の笑みをよく見せてくれたっけーーなんて。
でも。
目の前の彼は紛れもなく高校生の制服を着ている。

「……コスプレ……してる訳じゃないよね?」

「何? コスプレして高校に潜入? おれ、いったい何モンだよ?」

「そうよ! いったい何者なの?」

「斗南高校、2年A組、入江直樹」

「………誕生日はいつ?」

睨みつけながら、思わず訊いてしまう。

「11月12日」

「………じゃあ、まだ16……」

「そう。sixteen」

くらくらする。

「……どうして嘘ついたのよ!」

「嘘? ついた覚えなんてないけど。おまえが勝手におれのこと大学生と思い込んでただけで」

再び壁に手をついたままの状態で琴子に顔を近付ける。

「話、合わせてたでしょ! 違うならなんで否定しなかったのよ! 隠してたってことでしょ?」

琴子は顔を反らして必死に食い下がる。目を合わせるとその瞳に吸い込まれそうで怖い。

「だって……高校生って知ったらおまえどうしてた?」

どうしてた? どうしただろう?
5才も年下の男の子だと知っていたら……ちゃんとブレーキかけていられただろうか?

「それは………」

東京から遠く離れた清里でのこと。もしかしたら勢いに流されてしまっていたかもしれないけれど。
でも、自分が実習に行く先の高校生だと知っていたら、確実にーー。絶対にーー。

「それは、勿論……」

「勿論? 好きにならなかった?」

「それは……もう先に好きになっちゃってたし……でも、斗南の高校生って知ってたらとりあえず気持ちを押さえ込むことぐらいは……」

してたと思う。
ーーそう答える前に。

「……なんだ、やっぱり良かったじゃん。バラさなくて」

ふっと笑った顔は意地悪なものではなくて、ちょっとほっとしたような優しい笑顔……ああ、素敵……ーーそう思った瞬間、既に唇は塞がれていた。


「んんっ………」

啄むようなキスがだんだん食らいつくすような激しいものに変わる頃、ついうっかりと久しぶりのキスに酔いしれていた琴子は、侵入してきた舌の感触にはっと我にかえる。

「いてっ」

軽く舌を噛んでやったら、慌てて離れる直樹の顔を睨みつける。

「おまえ……!」

「いったいどーゆーつもりよ!」

とりあえず怒らなければ。
ドキドキしてるけれど。
心臓は爆発しそうなくらい激しく波打ってるけれど!
こいつはーー年下で、生徒なんだから!
琴子は壁に押し付けられて行く手を塞いでいる直樹の腕をくぐり抜けて、窓際の方へと逃げた。

「どーゆーつもりって……」

軽く口元を拭いながらにやりと笑いながら、自分の腕からすり抜けた琴子の腕を簡単に掴み、そして今度は机の上に押し倒しのし掛かる。

生徒会室は他の教室の半分ほどしかない狭い部屋だ。
会議用のためか、机はコの字型に配置されていた。

「こーゆーつもりに決まってるだろう?」

二つ分の机の上に押し倒された状態で、しっかり肩を押さえ込まれて身動きがとれない。
グレーのサマースーツに真っ白なブラウス。スカートは勿論膝までのタイトだ。スーツは量販店の三点セット物だが、2着を着回ししてるので、皺になったら困るなーと頭の片隅でそんなことを思う。
机の上は……背中も痛い。
ってゆーかこの状況は……何なの?

「こーゆーつもりって……有り得ない……でしょ? 早く退いてよ」

とにかく、この状況はマズイ! それくらいは琴子にだって分かる。
先生の威厳を持って睨み付けなければーーと、精一杯眼光鋭くしてみる。

「何、百面相してんの?」

ぷぷぷっと妙に楽しげに吹き出す直樹。

「早く退いてって云ってるでしょっ」

「……前はそんな命令口調で話しかけてきたことなんてなかったのに。年下って思うとそうなっちゃうんだ」

少し哀しげな表情を見せる直樹に、琴子も一瞬ぐっと言葉を失う。

「それは………」

そう言いかけて、はっと気づく。

「……もしかして年下って下に見られるのがイヤで隠してたの?」

「はん?」

哀しげな顔から一転不愉快そうな顔に変わる。

「年なんて関係ないじゃん? あんたはおれより馬鹿だし、とろいし」

「はあーー? 何よっそれ!」

「関係なく、おれのこと好きだったんだろ?」

あんなに毎日好きだ好きだと纏わりついてたクセにーー
唐突に真面目な顔して間近に迫る。

「それとも年下だとわかったらーー生徒だとわかったら好きなのやめるのか?」

「そ……それは…」

何と答えていいのかわからない。
年下だろうが生徒だろうが好きなものは好きだし止められないし。
かと云って……ここで……これはマズイでしょう!

「なんだ、やっぱ、好きなの止められないんだ。なら問題ない。安心しろ、ちゃんと鍵はかけた」

どうやら言葉にしてしまっていたらしく、直樹は嬉しそうに微笑むと琴子の首筋に唇を這わせた。
しかし琴子は触れた寸前に顔を背けて、直樹の身体を押し退けようとみじろぐ。

「か、鍵って! そーゆー問題じゃないでしょっ! ここ何処だと思ってるのよ!」

「生徒会室。大丈夫。この時間は誰も来ないよ。あ、おれ生徒会長だから。昼休み、たまにここで昼寝してんの。他の役員が来たことなんてないから安心していいぞ」

首筋からゆっくりと鎖骨の窪みに舌を這わせ、そして胸元に降りていく直樹の唇に、ぞくっとしながらも懸命に抗う。

「だからそーゆー問題じゃなくて! あなたとあたしは生徒と先生なの! ダメでしょう! 少なくとも学校じゃ、絶対!」

「あ、もしかして学校の外ならOK?」

にやっと笑う直樹の言葉に一瞬、えーといいのかなぁ?と迷ったが、いやいやいいわけないだろう、と自分で突っ込む。

「実習期間中は絶対ダメよ」

「ぷ。実習終わればいいってことか?」

「…………………」

まっすぐ見つめられて一瞬悩む琴子である。これが、2年後なら何の問題もないのだろうけれど。
年下っていうより、16才ってのがものすごく問題のような。確か……青少年保護なんちゃら条例……ってあったよね。

そういえばそんなドラマがあった。
愛し合ってしまった女教師と男子生徒。
二人は図書室で愛し合うけれど、男子生徒の親にバレて駆け落ちしてーーでも捕まってしまって、女教師は逮捕。
彼女は警察で屈辱的な尋問を受けて………

「なんだ。図書室でやりたかったんだ。じゃあそれは次回で」

直樹の指がブラウスの釦を器用にはずしていく。

「ち、ちがーうっ」

必死で直樹の胸を押し退けようとする琴子の腕を掴み、ぐっと机の上に押さえつける。

「暴れると釦が外せないんだけど……」

「外さなくていいからー!」

「都の条例なら気にしなくていい。おれの親は訴えたりしないから」

「だからそうじゃなくてぇ~~」

どうして頭がいいクセにこんなに言葉が通じないのだろう?
琴子は泣きたくなる。
通じてるのに敢えて知らんふりを決め込んでいるとは思いもよらない。

外された釦の狭間から少し垣間見える琴子の残念な胸の谷間に顔を埋められ、きつく吸われて「やぁ……ん」と思わず艶めいた声を出してしまう。
もう片方の手がタイトスカートの中に差し込まれ太股を撫で上げた。

「タイトスカート、きっついなー。フレアスカートにしなよ。先週事前説明会に着てたようなヤツ。スッ転ぶとパンツ丸見えだけど、脱がせやすそうだ」

「せ、先週って……?」

「くまぱんつ穿いてた日。で、今日は何パン? 安易に転んでおれ以外のヤツに見せるなよ」

「ええーっ見てたのぉ!」

真っ赤になった琴子が馬鹿力で起き上がろうとして、がんっと直樹の顎に頭を激突させてしまった。

「いてっ!」

「あ、ごめ……」

謝ろうとした寸前に再び机に縫い付けられ、激しく唇を貪りつかれる。
手はブラウスの上から琴子のこじんまりとした胸の上をさまよっていた。
ぎゅっと強く揉みしだかれて「あん」とのけぞる琴子の首に食らいつく。
突っ張って抵抗しようとしている力が、少しずつ弱まって弛緩していくのが分かる。直樹はくすっと笑ってからタイトスカートを無理矢理たくしあげようと裾をまくった。




「あれ? 閉まってる? どうして?」

入口の扉がカタカタと揺れ、磨りガラスの向こうの人影が呟いた。

「おかしいわね。鍵はなかったと思うんだけど」

人影がぶつぶつ言いながら去っていく。

「え?」

琴子の顔が一瞬にして青ざめた。

「ちっ。松本か………」

直樹は舌打ちして、琴子の上から退く。
琴子の手を掴むとぐいっと引っ張りあげると「すぐに服を直せ。職員室のキーボックスを確認したら多分あいつ、また戻ってくる」そういって自分が外したブラウスの釦をさっさと器用に嵌めてやる。早業である。

「な、なに……?」

「……あいつ、副会長なんだ。ったく、今日に限ってなんで……」

忌々しげに舌打ちする直樹を横目に、言われるがまま乱れた衣服を整えると、琴子は直樹に腕を捕まれて、鍵を開けた扉から追い出すように外に出された。
その間際に耳元で「続きは放課後に」と囁かれて、また体温が顔を中心に上昇する。


あれよあれよという間の出来事に、琴子は何が何だかわからないまま、隣の職員トイレに駆け込む。

トイレから覗くと、職員室から出てきた女子生徒が再び生徒会室の扉の前に立ち止まった処だった。

生徒会室の扉がガラッと開く。

「え……? やだ、入江くん居たの?」

「ああ。ちょっと先週の会議の資料置いてきたの思い出してね」

「そうなの? 今、内側から鍵をかけてた?」

「いや? 何で?」

「私も生徒会室に用事があって、職員室に鍵を取りに行ったら無いじゃない。だから誰か先客がいるのかと思ったら扉が開かないから……私が鍵を見間違えたのかと、もう一度職員室に確認しにいったのよ」

「鍵なんてかけてないよ。古くて建て付け悪くて開けヅラくなってただけじゃない?」

「……そうかしら?」

しれっと平然と嘘をついて、彼女を部屋に招き入れていた。

「……ウソつき」

彼は大嘘つきだ。
簡単に嘘をつく。
ーー全部嘘だったのだろうか。あの清里での出来事すべて。
囁いた睦言も、なにもかも。

綺麗な女の子だな……と、トイレの鏡の前で乱れた髪を結い直しながら琴子はぼんやり思う。
確か同じA組の女子だ。彼の隣の席に座っていた娘。授業でも指されたら的確な答えを堂々と答えていた。なんて自信に満ち溢れてるのだろう。自信の欠片もないまま教壇に立とうとしていた自分が恥ずかしくなるくらいだ。才色兼備ってあんな娘のことを云うのだろう……

クラスメイトにあんなにお似合いのガールフレンドがいるのに。
どうして、あたしなんか……。

さっき彼が触れた唇や首筋が未だ痺れたように熱い。

朝、驚愕の再会を果たした時からどう対応すべきか考えあぐねていた。
話をして確認したいという想い。
あるいは2週間、何事もなかったように素知らぬ振りをして、やり過ごしてしまった方がいいのか………そんなことも考えた。

まさかこんな風に彼の方から来るなんて思いもしなかった。

どうしよう。
どうしたらいいのだろう。

琴子は午後の授業の予鈴が鳴るまで、赤くなったり青くなったりしながら、思考能力のあまり高くない頭をフル回転させて悩み続けていた。








※※※※※※※※※※※※※※




野獣寸止め(笑)


そして寸止めの挙げ句、次は別の話をアップするかもです……(^^;このお話の更新を待っているとおっしゃっていただいた奇特な読者の皆様(&入江くん)。ごめんねーと、やはり先に謝っておこうf(^_^)




GW……残すところあと1日……私も旦那も6日から仕事なので。子供らはもう1日ありますが。
予想通りあっという間でした。
何って……してないなー(-.-)
掃除して、ぷちDIYして、病院行って、買い物行って、ランチして。あ、近場で潮干狩り行きました(^^)
家から25キロ以上の移動はしてないかも。
遠出の予定も色々あって取り止めに。旦那、めっちゃ綿密に計画練ってたのにな……


とにかく! 外食三昧だったので体重が恐ろしいですっ……(>_<)



2015.05.05 / Top↑


3 実習1日目


「はー緊張した~~」

体育館での全校集会を終え、職員室に向かう廊下で、教生5人はひとかたまりになってぞろぞろと歩いていた。
朝から緊張で若干青ざめている琴子に、
「何緊張してんのよ、ただ名前を云うだけで」と、幹は素っ気ない。

全校集会の際に校長から実習生の紹介を受け、体育館の壇上で実習生一人一人挨拶するのかと思っていたらそうではなく、前方に並んで順番にマイクを回し、名前と教科と担当クラスを話すだけだった。
それだけのことなのに、琴子はお約束のように噛みまくるわ、マイクはハウリングを起こすわでかなりテンパってしまっていたのだ。

朝の職員朝礼での自己紹介でも、やっぱり噛みまくっていた。
こんなことでちゃんと授業が出来るのか不安である。いや、実習前の模擬授業ではかなり教官に突っ込まれたっけ、とさらに自信喪失を促す記憶が甦る。
昨日からずっと緊張しっぱなしであまり眠れていない。遅刻しなかったのも、目覚ましを5個かけておいたお陰である。
うつらうつらしては、教壇で頭が真っ白になり、でくの坊のように立ち尽くして生徒に笑われる夢ばかり見ては、飛び起きていた。意外とセンシティブである。



いや、待て、何を朝から凹んでいるの、琴子! 実習はまだ始まったばかりよ!
まだあたしの可愛い生徒たちに会ってもいないじゃないのー!
さあ、もうすぐあたしの初めての生徒たち35名が待っているのよっ 頑張れっあたしっ

ぶるぶると首を振って、キッと空を見据える琴子の一人百面相を見て、他の4人は
顔を見合わせて吹き出している。


「相原さん、急いで下さい。HRが始まります」

職員室から出てきた指導教諭の清水に少しきつめの声色で告げられた。

「あ、は、はい」

琴子は慌てて職員室に飛び込み、清水の机の端に置かせてもらっている自分のファイルや教科書を持って、清水の後を追う。
朝の打ち合わせでは、HRの後はそのままA組で現国の授業だと言っていた。
とりあえずしばらくは『観察』の筈だから、直ぐに授業をするわけではないけれど、指導教諭の授業をしっかり見ておかないといけない。研究授業は自分の担任クラスで行うから、クラス特性も早めに掴まなくてはならないしーー
でも、まあ、A組は授業しやすいし、問題もないからラッキーじゃん、と皆からの前評判をきき、そっかあ、良かった~と素直に思う琴子である。

「相原さん、何処に行くつもりなの?」

清水が3階の教室に向かったのに、まだそのまま階段を上がって行こうとした琴子に気がついて、慌てて呼び止める。

「あーっスミマセン!」

「全く、自分のクラスの教室も把握してないの? 校内の見取り図渡してたわよね?」

「すみません……」

「……あなた、担当授業の割り振りの時間割りも覚えてなかったものね。やる気あるのかしら?」

「………すみません……」

うー、かなりキッついぞーこの先生!
美人で口数も少ないが、たまに口から出る言葉はかなり厳しい。
琴子は項垂れつつも内心はぁーとため息を付いていた。
月曜の1限目は2のAだと覚えていたが、それ以外は覚えていなかった。
空き時間少ないなー。先生大変だなー。美術の先生とかいいよなーなどと思っただけで。
現国はかなりコマ数が多いから、授業数は半端ない。しまった、古文にすればよかっただろうかと思ったけれど、古文は自分が赤点ばっかりでちんぷんかんぷんだから(国文科のくせに)教える自信はさっぱりなかったのだ。

眉間に皺をよせている清水教諭の後ろをとぼとぼと付いていくと、2のAの教室の前に辿り着いていた。

がらっと扉を引いて教室に入る清水教諭の後に続いて、再び襲ってきた緊張感に、顔を紅潮させて琴子も教室に入っていく。

わー、しーんとしてる。みんなきっちり席ついてるし。
あたしのいた都立高なんて、先生が教室入っても、がやがやいつまでも席から離れて喋ってたもんなー。
さすが斗南! さすがA組!

琴子は緊張しつつも、担任するクラスの生徒の顔を見ようと教室内を見回した。
とりあえず座席表と名前は頭に入れた。後はそれに『顔』の情報をインプットをさせれば良いだけのこと。

顔をーー。
あれ? なんか一人、とっても綺麗な顔が……

「……全校集会でもお知らせした通り、このクラスの担当となり、教育実習を行う実習生の相原琴子先生です……では、相原先生、挨拶を。……………相原さん? 相原さん!」

何度呼んでも固まったまま動かない琴子を怪訝そうに覗きこむ。

「……う、うそ……」

「何が嘘なの!? 始めの挨拶は当たり前でしょう!」

清水教諭の叱責に我に返り、「は、はい……」と震える声で返事をし、黒板の方に向かい、チョークを持つ。

手がガタガタ震えて名前が書けない。

落ち着け、あたし。
落ち着け!
気のせいよ。
会いたいと思ったから幻影見ちゃったのよ。

生徒たちに背中を向けて、その中から、特に一人からかなりの熱視線を受けているような気がするが、気の迷いと思うことにしよう。
そうよ、あの、あたしと目が合った瞬間に、意地悪そうににやっと笑った端麗な顔なんて、もう、妄想よ。幻覚よ! 重症だわーー朝っぱらからそんな………
そんなことよりっ!
今はっ
今は自分の名前をきちんと書かねばーー!


「相原先生……国語教師目指すなら自分の名前くらい書き順間違えないで下さい」

そう清水から注意を受けた琴子の名前は震えて黒板の中央で踊っていた。
その文字を見て、生徒たちも軽く失笑していたようだった。

「……す、すみませんっ! えっと! あ、あ、 あたしの名前は相原琴子です。現国担当です。に、2週間という短い間ですが、よろしくお願いします!」

本当ならもっと熱い心震わす長文の挨拶を考えていた筈なのに、全てふっとんでしまっていた。
話している間、生徒の顔を一人一人見ながらにこやかに挨拶する練習をしていたのに、生徒の顔を全然見ずに、後ろの黒板に神経を集中しながら話していた。

いやーーしっかりと目の端に入っていたのだが。
窓際の前から四番目、頬杖をついてじーっと自分を見つめている彼のことを。

窓際の四番目………ああ、確かに『入江直樹』だったわね……

今更ながらにそのことに気づく。同姓同名だと思い込んでいたその名前ーー。

ちょうどいいタイミングで1限目の始業のチャイムが鳴り、「それでは、1限目の現国の授業を始めます。相原先生はこの椅子を持って一番後ろで見学していてください」と、清水に告げられ、琴子は教生用に用意されていた椅子を抱えて教室の後ろに行った。


授業が始める。
何の私語もなく、生徒たち全員清水の授業に集中していた。

しかし残念ながら琴子は全く集中出来ない。
後ろに座った琴子の方へ、1度だけちらっと顔を向けて舌を出した彼のことが気になって仕方ない。
背中と脇に変な汗が湧いてくる。


ーーなんで?
なんで、入江くんがここにいるの!?
ってか、高校生!?
高校生だったの? しかも2年生……
わーー年下……嘘……!!!
ダメ、やっぱり信じられない……


そういえば何度学年や学部を訊いても誤魔化されて教えてくれなかったっけ。
まああたしも話の流れ的に彼が大学生って思い込んでいたけれど。
でも、でも、高校生なんて!
5コも年下なんて……!

しかも………生徒なんてぇぇーー!!


脳内がパニくっている間に、気がついたら1限目は終了していた。

はっしまった!
観察記録全然書いてないっ

琴子は真っ白な記録用紙を見て一瞬にして我にかえる。清水の授業を全く聴いていなかった。

授業が終わり、多少なりともざわめき始めた教室の中で、次の授業までに職員室に戻って準備しなくてはと思いつつ、窓際の彼の方をつい見てしまう。

彼は隣の女子に話しかけられ、問題集らしきものを見せて説明していた。結構な美女である。
そのうちに友人らしき男子生徒が近づいてそちらと話し出す。
表情はよく分からないが楽しげな雰囲気である。

ーーほんとに……高校生なんだぁ……

話しかけることも出来ずに、琴子はとりあえず教室からすごすごと出ていく。
実習生って日常の中のちょっとした非日常なゲストで、物珍しいわけではないけれど、年の近い話しやすい存在として、休み時間には取り囲んで先生の情報を得よう、短い間でもちょっとでも仲良くなろうと必死になった記憶がある。
でもこの教室の生徒は実習生なんてたいして興味もないようだ。

彼以外はーー。





「彼女じゃないの?」

にやにやと声をかけてきた渡辺に、「何が?」と直樹はさっきからつい口角が上がりそうになる顔をいつものポーカーフェイスに戻して応えた。

「この間、おまえが窓から覗きこんでいた教生。髪の長さがちょうどあんな感じだった。知り合い?」

全く、本当にこいつは抜け目がない。
先週見かけたのは一瞬だった筈なのに。

「え? 何? 入江くん、あの頭悪そうそうな教生と知り合いなの?」

隣の席の松本裕子が眉を潜めて話に加わってくる。

「……別に」

直樹は素っ気なく返した。
常に学年で首席の直樹に続いて、松本は常に2位をキープし、テニス部でも去年の新人戦で直樹とともに優勝していた。文武共に長けたクールビューティである。
さっぱりしていて機知にも飛んで女子の中では一番話をしやすい方はであるが、ここで余りこの話題に加わって欲しくはなかった。

「頭悪そうって……キッついなー松本さん」

渡辺が苦笑する。

「だって、あの話し方といい、自分の名前の書き方といい……馬鹿でしょ?」

歯に衣着せぬ物言いは彼女の気質だが、全くもって容赦ない。

「でも、可愛いよ。おれ、今回の教生の中でも一番タイプかも」

渡辺のその台詞に、直樹のこめかみがぴくりと動いたことに松本は気づかないまま、渡辺に驚嘆の言葉を投げつける。

「やだ。渡辺くんってあんなのが好み?
中学生にでも間違えられそうなベビーフェイスじゃない」

「まあ確かに子供っぽい顔立ちだけど……普通に可愛いじゃん」

「今回の実習生、割りとみんなそこそこの容姿をしているとは思うけど……あのトランスジェンダーの彼も含めてね……その中でも彼女は一番下のランクだわ」

松本らしい辛辣な評価に苦笑しつつも、「男と女じゃ、やっぱり外見上の嗜好って全然違うんだろうなー特に同性を見る目は」と渡辺は肩を竦める。

「入江はどうなんだよ。今回の実習生の中で誰がタイプ?」

素知らぬ顔で話に入ろうとしない親友に、とりあえず振ってみる。

「容姿なんて皮一枚の造作、どうだっていい」

「あら、皮一枚ってこともないわよ。骨格やパーツの大きさ、配置、それぞれが絶妙な加減で整ってこその容姿よ。入江くんみたいにね」

「それこそ、本人の意図しない遺伝子のイタズラだ」

「ま、入江くんは確かにどんな美貌の先生が来ようと惑わされないわよね。あのエロ教師撃退したんだもの」

思い出したように松本がくっくっと笑う。
去年の秋の実習生が、あからさまに直樹に対して色目を使っていたのは、クラス全員が感じ取っていた。美人だったがそれを鼻にかけているようで、男子も女子も鼻白むほどだった。
保健室に連れ込んで自分で服を脱いで直樹を誘惑しようとしたが、直樹は平然とはねのけて、自分のネクタイで彼女の腕を縛り、ベッドにくくりつけ、そのまま職員室に通報したのである。
彼女は自分が彼に乱暴されかかったのだと訴えたが、誰も彼女の言い分は信じなかった。

「まあこれでどんな美女が手練手管でおまえを誘っても、決して籠絡されないってことは証明された訳だ」

「……そのかわりおれが不能だの男が好きだの妙な噂も流れたがな」

他人事のように嬉しくもない過去の出来事を語る直樹に、松本が慌ててフォローする。

「そんなの入江くんがストイックで潔癖なだけよねぇ」

自分がこれだけ熱い視線を送っているのに、勘のいい彼が気づかない筈はないのにーー実にさりげなく、見事とというくらいすっぱりかわされ続けている松本裕子は、高校生である間はきっと自制しているに違いないのだと自分に良いように解釈しているのだ。

「ああ、もう次の授業が始まるわ」

自分の席に座った松本に聴こえないように、渡辺は直樹の耳元に囁いた。

「で、ほんとはどうなの? 相原センセ。知り合いじゃないのかーー?」

にっと笑って自分の席に戻っていく渡辺の背中を見て、「ふん……」と、眉間に皺を寄せる直樹であった。








「はあ……駄目だ。全然清水先生の授業が頭に入らない」

午前中のカリキュラムを終えて職員室に戻った琴子は、2のC、2のFの授業を観察したものの、ほぼ真っ白な観察記録用紙をどうしようと頭を悩ませた。
それに、さっき清水から恐ろしいことを告げられてしまった。

「相原先生。先生には明日から授業をお願いします。午後の空き時間には指導案の作成に取り掛かって下さい」

「ええーっ もう、ですか!!」

「今までの授業でわかる通り各クラスで全然レベルが違いますから。それに見あった指導案、クラス毎に作成してください」

「ううっ」

さすがに二日目から授業をすることはないと思っていたので、少し狼狽える。
何にせよ厳しいのはすべての授業に指導案を作成しなければならないことーー。
琴子は頭を抱えた。





「ええっもう授業やるのー? 凄いじゃん」

弁当タイムは、高校ともなると教師が生徒と食べることはないので、教員は皆職員室で食べる。実習生は自分の机がないので応接室を借りての昼食である。

「あたしなんか3日は観察だって云われたわよ」

品川真理奈が幼稚園児のような小さなお弁当箱をつつきながらつまらなそうに呟いた。

「 アタシなんか今週いっぱい観察よ。明らかに西垣先生、めんどくさがってるわ。っつーか、ケッコーイケメンでラッキーとか思ってたのに、アタシの扱いにあからさまに困惑してんの。そのうえ授業は可愛い女の子にはハチャメチャに甘いのよ」

とんでもないのに当たっちゃったわ、と桔梗幹もため息がちだ。

実習生に授業を任せるということはいちいち指導案をチェックし、授業毎に講評しなくてはならない。教師たちは只でさえオーバーワーク気味なのに余計な仕事が増えるということだろう。

「はやく授業したいのに」

小倉智子もふっと憂い気味に呟く。

「今まさに、解剖の授業の真最中なのよ。早くやらせてもらわないと、単元終わってしまうわーー」

「ったく、みんな何をぐだぐだと。授業やりたきゃおれみたく指導教諭に交渉すりゃいいんだよ。おれなんかもう午後から教えるぞー!」

一人熱く燃えたぎっている啓太をみんなテンション低い目で見て、ため息をつく。


食事を終えた後、皆はそれぞれの担任クラスに顔を出すという。教科授業しか受け持たないから、朝と帰りのHRと、週1時間の学級活動くらいしか担任クラスと接する機会がない。
昼休みくらいしか生徒と会話が出来る時間がないのだ。

ーーあー。あたしも行こうかな……

しかし、あのA組でそんな風に和気あいあいと楽しくお喋りして触れあうなんて雰囲気が想像できない。

それに。

ーー入江くんがいるんだよね。

どんな顔をして話をすれば……

いや、訊きたいことは山のようにあるのだけれど。
学校では訊けないことばかりだ。

そう思いながらも、みんなと同じようにとりあえず教室に向かおうと、少し遅れて職員室を出た。

職員室の隣に放送室。
そしてその隣に生徒会室。
その前をさっさと通り過ぎて行こうとした時ーー。

いきなり生徒会室の扉が開き、腕がすっと伸びて琴子の腕を掴んだ。

「へっ 何!?」

琴子は何がなんだか分からないまま、その教室に引っ張り込まれていた。

がちゃりと内側から鍵が掛けられる。

「な………」

そのまま強い力で教室の奥まで引き摺られてーー。

「よぉ」

会いたくて会いたくてたまらなかった愛しい彼の姿がそこにあったーー。








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あれ? 最初『生徒会室』ですか?
と、自分でも意外だったりして(^^;

昼休みって20分くらいかなー?
っていうか、昼休みを『昼放課』と書きそうになり、慌てて訂正。『放課』が授業と授業の間の休憩時間を指すのはうちの地域限定だということを思い出しました(笑)

松本姉を斗南の同級生にしてしまったので、松本姉と渡辺くんの会話が妙に新鮮……


色々調べたり昔を思い出したりしながら書いてますが、高校に教生が来たの一回だけであまり記憶になかったりするので、かなり捏造入ってます。適当に読み流して下さいませ。

とうとう5月に入ってしまいました。
GWですねー。
私もお仕事は1週間のお休みです。
が。
更新は……どうなるのか?
多分いつもと変わらないペースのような気がしますf(^_^)
いえ、停滞しちゃったらごめんなさい。と、先に謝っておこう。

皆さま楽しい連休をお過ごし下さいませ(^^)





2015.05.01 / Top↑