My Do根性 Girl (1)



新シリーズを始めておいて、いきなり中断でごめんなさい^-^;

えーと、『彼の瞳の向こうには』を書いた後に、琴子ちゃんの悪阻時代の話を、というリクエストいただきまして。
確かにかなり辛い妊娠初期だった風に書いてしまったもんなーっと、(特に深く考えていたわけではなかったのですが)色々皆さまの妄想を誘ってしまったようなので、私もちょっと妄想してみました(^^)

というわけで、琴子ちゃんのマタニティライフ&マタニティブルー編です。
2000年2月~3月くらいのお話です。


ちょっと変なプロローグから始まりますが………^-^;





※※※※※※※※※※※※※※






むかしむかし ある王国に王子さまとお姫さまがおりました。

お姫さまは王子さまが大好きです。

「ダイスキ ダイスキ ダイスキ」

毎日呪文を唱えます。

はじめは逃げ回っていた王子さまもお姫さまのたぐいまれな努力と根性とパワーに気圧されて、気がついたらお姫さまの呪文にかかっておりました。

王子さまも

「オマエハオレ以外スキニナレナインダヨ」

と呪文をかけます。

そして二人はとうとう結ばれました。

二人はとても幸せに暮らしていましたーーが。

王子さまはお姫さまにもうひとつ呪文をかけておりました。

「オマエカラヤル気ヤ根性抜イタラ何モ残ラナイ」

なので、お姫さまはいつもパワー全開、ヤル気に満ち満ちて、努力と根性を怠らず前向きに過ごしておりました。


難しい国の儀式も作法も覚えろと言われれば頭は良くないのに頑張って覚え、

王国の民が困っていればいつも駆けつけ解決し、

みんなが幸せに暮らせるように頑張っていました。


ある日のことです。
王子さまは隣の国へ訪問しており留守でした。
王国は何日もの間、雨が降りやまず、皆不安な思いを抱いておりました。
そんな時、雨のせいで堰が決壊しそうだと報告があり、お姫さまは家臣たちが止めるのも聞かず現場に駆けつけました。


今にも溢れそうな堰を見て、お姫さまは堰の近くの村人たちとともに必死に土嚢を積み上げます。
降り続く雨の中、「大丈夫、ヤル気と根性さえがあれば何でもできるのよ!」と皆を励まし、泥まみれになって土嚢を積み続けます。
それでもいよいよ堰が決壊しそうになった時、お姫さまは村人たちに避難するようにいいました。
村人たちはお姫さまも一緒に逃げるようにいいましたが、お姫さまは首を横にふりました。

「大丈夫! 私は努力と根性でここを守ってみせるから。逃げたらおしまいよ! 諦めてはダメなの!」

堰が決壊したらお姫さまの大切な王子さまの王国が沈んでしまいます。沢山の大切な命が水の底に沈んでしまいます。
お姫さまは一人で土嚢を積み続けます。

すると、漸く雨が止んで、土嚢ギリギリの所で水かさが止まりました。
お姫さまはほっとして、ああ、諦めなくてよかった、と思いました。

しかし。

ふと見ると、土嚢の隙間から水がちょろちょろと出ているのに気がつきました。
だんだん水の勢いが強くなっていきます。このままだとこの隙間から土嚢が崩れて、あっという間に王国を飲み込んでしまうでしょう。
お姫さまはその隙間に手を差し込んで、水が流れないようにしました。

そして、そのまま一昼夜自分の腕を栓にした状態で、お姫さまは独りぼっちでそこにずっといたのです。

翌日ーー急いで帰国し、家臣や案内する村人たちと現場に駆けつけた王子さまはーー
自らの身体で堰の決壊を防いだお姫さまが、その場で息絶えて冷たくなっているのを見つけたのでしたーー。







* * * *





「うぇぇぇ~~~」

「こ、琴子ちゃん、大丈夫?」

朝からトイレの住人になっている琴子の背中を擦りながら、紀子は心配気に問い掛ける。

「だ、大丈夫です。もう落ち着きましたから……ごめんなさい、お義母さん」

漸く立ち上がった琴子の顔は、大丈夫とは程遠く青ざめて窶れている。

「今日はお仕事休んだ方がよくない? ご飯も全然食べれてないでしょう?」

「大丈夫ですよー! ひどいのは朝と夕方だけで。仕事中はどっちかというと忘れられているんです。それに今月、かなり休んだからこれ以上職場に迷惑かけられないですよ」

そう言ってにっこり笑う琴子だが、顔色はかなり悪い。

「迷惑なんて……今は仕方ないでしょう? 皆さん看護師さんだからちゃんと状況はわかってるわよ。誰も迷惑なんて思わないわよ」

「それはそうですけど………でも、大丈夫ですから」



大丈夫です。
大丈夫ですから。
大丈夫なんで。

いったい、1日何度琴子からこのセリフを聞いているだろうか。

「おにいちゃんは? 夕べは帰らなかったの?」

「はい。以前より下火になったもののまだインフルエンザの流行収まらなくて。また内科の救急の応援に入っているのだと」

「そんな、インフルの菌が蔓延してる病院なんて行っちゃダメよ」

「あ、大丈夫です。あたしは流石に外来の応援は行かなくなりましたから」

また、大丈夫ーー

紀子は軽くため息をついて、諦めたように琴子に小さな包みを渡す。

「これ、タッパの中にフルーツとか、小さなおにぎりとか入っているから、お腹空いてきたらこっそり食べてね。匂いのないものなら食べれるでしょう? 空腹は吐き気を誘うから、二時間おきくらいにちょこちょこ食べるといいわ」

「ありがとうございます。助かります」

笑顔で受けとる琴子だが、仕事の最中に思うように摘まむことは出来ないだろうと予想していた。

「………おにいちゃんももう少し琴子ちゃんを気遣えばいいのに」

忌々しいといった風に、直樹のことを毒ずく紀子に、
「入江くん、優しいですよ。入江くんも無理するなって言ってくれてるし。無理は全然してないつもりなんですけど」

そして、琴子はいつも通りに出勤していく。朝御飯はヨーグルト一口だけ。そんなことで身体が持つのか、紀子は不安に思う。
自分も通った道だけど、悪阻には個人差があるし、どちらかというと直樹の時も裕樹の時もひどい方ではなかった気がする。





琴子の妊娠発覚に、皆が狂喜乱舞したのはほんの2週間前のこと。
自分では全く妊娠に気付いてなかったのだから、その時点では悪阻は全くなかったのだが。
唐突にそれがやってきたのはバレンタインの前日。
その日、紀子の教えを乞いながら初挑戦のザッハトルテを作っている真っ最中に突然のリバース。
チョコレートの甘い香りが耐えられなくて、結局バレンタインは何も渡せなかった。


それからは最悪の日々である。
仕事中は気を張っていて大丈夫なのだが、朝と夕方は吐きっぱなしだ。殆ど食事も摂れない。食欲もないが少し空腹を感じると嘔吐感がやって来る。
食べてもすぐに吐く。食べなくても胃液を吐く。嘔吐するだけで激しく体力も消耗する。

ーー悪阻がこんなに辛いなんて思わなかったーー

内心、初めの3日でかなり挫けそうになっていたが、お腹にいるのは愛する夫との初めての赤ちゃんなのだ。何が何でも守らねば、と気力だけで乗り越えようとしていた。

とりあえず有り難いのは直樹も今の時期大変忙しくて家にいる時間が少ないことだ。その分職場で顔を見ているから直樹不足は解消できるし、吐き気で苦しんでいる姿を見せずに済む。

会うたびに具合を訊いてくるし、少しずつ顔色が悪くなっていることも気にしてくれている。
それだけで十分嬉しかった。

「大丈夫だよ! 悪阻は殆どの妊婦さんが通る道でしょ? 今はあまり食べられないけど、ほら、この時期は栄養は赤ちゃんはそんなに必要ないから食べれるものだけ食べればいいって」

空元気のつもりはなかった。
直樹の顔を見ていると悪阻も吹き飛ぶのだから、きっと精神的な部分だけで乗り切って、彼に心配かけずにやり過ごせる筈だと思う。
そう思ってた。




「琴子、痩せたんじゃない? 大丈夫?」

ロッカールームで着替えていると、真理奈が驚いたように琴子の身体をまじまじと見つめる。

「もともと貧相なのに、真っ先に胸がなくなったんじゃない?」

「ふ、ふん! 半年後には驚くような爆乳になってるから見てなさいよ」

とりあえずこんな風にやり取りしているだけで何とか気が晴れるというものだ。

白衣に着替えてナースステーションに行くと、直樹がそこに立っていた。

「入江くん!」

満面の笑みで直樹に駆け寄る琴子に、「走るな」と毎度のセリフで制する。

「仮眠室に泊まったの? ちゃんと眠れた?」

「ああ。おまえこそ。また痩せたんじゃないか? 顔色もまだ悪いし」

「大丈夫だよ! ぜんっぜん平気! 悪阻が終わったら一気に食欲倍増して太っちゃうって云うじゃない? それまでは少し痩せたって心配ないって」

そう言って明るく笑う琴子に、直樹はひとつため息をついて口を開こうとした時ーー

「入江さん、早く! 申し送り始めますよ」

「はーい、入江くん、じゃあね」

清水主任に呼ばれた琴子の背中を、直樹はしばらく黙って見つめていた。






「うえー…………」

休憩時間に吐き気を覚え、トイレに籠っていた時だった。

「ねぇねぇ、入江先生の話、聞いたーー?」

鏡の前でナースたちが何やら噂話を始めたようだった。

「何? 嫁が孕んだこと? はあ……ほんとショックよね」

「そうじゃなくて……まあ、それはショックだけどさ。教授秘書の橋下さんから聞いたんだけど、入江先生、アメリカからまた猛烈ラヴコール受けてるんだって」

ーーえ?

「いつものこどじゃん。確か前にもあったよね」

「そう。学会の為の短期出張は行っても、長期の共同研究はずっと断ってるって。でも今回の話は入江先生の抱えてる患者さんの症例に関わっていて、平松教授も熱心に勧めてたらしいの。ボストンの研究チームによる新しい術式の公開オペもあるらしいし、入江先生も少しその気になって、2月末には1ヶ月くらい行く予定だったんだって。でも結局、琴子さんの妊娠がわかってキャンセルしたらしいわよ」

「えーそうなの? 琴子さんがキャンセルさせたのかな? 臨月期は流石に嫌だろうけど、初期のうちくらいいいじゃない。旦那が何か出来る訳じゃないもの」

「でも、1ヶ月行ったらもっと長く居たくなるんじゃない? 再生医療の研究は一朝一夕で済むものじゃないし。それにもしその研究に成果が出たら臓器移植を待ってる子供たちを救えるし、下手すりゃノーベル賞ものの研究だって話じゃない。本当は長期で行きたいんじゃないかしら」

「でもやっぱり子供が生まれるのに置いてはいけないでしょ?」

「そーぉ? あたしの友だちの旦那なんて、子供生まれても海外出張ばっかよ。ほぼ母子家庭。家を買ったとたんに5年の海外赴任。そーゆーのって結構『あるある』よね、日本のサラリーマンの………」

話し声は段々遠のいていったが、琴子はしばらく茫然として、そこから動けなかった。

ーー入江くん、なんで………?








「へえー入江さん優しいじゃない。琴子の為にアメリカ行きを断ったんでしょ」

「なんやかんや、あんた愛されてるよねー」

ランチタイムの時間に、明らかに落ち込んでいた琴子を突っついて、幹と真理奈はその原因を白状させた。

二人はしっかり定食を食べているが、琴子の前には紀子から渡されたタッパだけ。それも少し摘まんだだけであまり口にしていない。

「……そこは嬉しいけど、でも何だかもやもやしてきちゃって……」

「 何がもやもやよ? 仕事より妻を選んだってことでしょう? やーん素敵」

「 ……でも、ほんとは入江くん、行きたいんじゃないのかなぁ。初めは行くつもりだったみたいだし。本当はもっと色々勉強したいのに、なんだかあたしのせいで入江くんを縛りつけているんじゃないかって………」

「そのことは、前にアメリカ行き断った時に話したんでしょ?」

「うん」

ーー研究は日本でも出来るし、おれがやりたいのは今目の前の患者を助けること。あくまでも臨床だ。海外に行くつもりはないーー

何度も何度も涌いて出てくる直樹のアメリカH大からの招聘の噂。
落ち込んでいた琴子にきっぱりと言ってくれたのは去年の5月の話だ。

「でも………」

ーー今回は入江先生の抱えている患者さんの症例にも関わっていて………

「入江くん、もしかしたら凄く迷って、悩んでいたかもしれない……」

「琴子……」

「 でも、入江くんは私には何一つ話してくれないの。相談してくれないの。神戸の時もそうだったけど、いつも最初から最後まで自分だけで悩んで決めて、あたしに話すときはもう決定済みなの。いつも事後報告。今回だって、一度は受けたっていうのに、あたしそんな話があることすら知らなかった……」

「そりゃあんたに話したって、離れたくなーいって喚くだけだからでしょ?」

「 ……そりゃ神戸の時はそうだったけど……今はそんなことしないもん」

あのときは直樹が自分のことなんか何一つ考えずに決めてしまったと思って、悲しくてたまらなかった。でもそれは誤解で、直樹がどれだけ自分のことを考えて悩んで迷っていたのかを知って、琴子は直樹と離れる決意をしたのだ。

「今はちゃんと、見送ることできるもん」

ーーそれでもやっぱりちゃんと話して欲しい。相談してほしい。

「……いいよね?」

「は? 何? 琴子」

「入江くん、いつも一人で決めちゃうんだもの、あたしだって勝手に決めてもいいよね?」

「ちょっと……琴子?」

「平松教授のところ、行ってくる!」

「ええー?」








その日の夜ーー。

「琴子っ! おまえ、何、勝手に!」

直樹は帰ってくるなり青筋をたてて琴子を睨み付ける。

「うん、アメリカ行きのキャンセル、キャンセルしといたから。平松教授から感謝されちゃったよ。教授は何が何でも入江くん連れていきたかったみたいだね」

「琴子、勝手なことを!」

「勝手なのは入江くんじゃない! なんでいつも話してくれないの? 勝手に決めて勝手に断って!」

「それは………」

いつになく真剣な琴子に、直樹は珍しく言い淀む。

「夫婦なんだから、そーゆー話が出た時点でちゃんと話して欲しい」

「………………」

「本当は行きたいんでしょ?」

「……何が何でも行きたいわけじゃない」

「でもあたしの妊娠がなかったら行ってたんでしょ?」

「………それは」

「 あたしは、大丈夫だから。1ヶ月くらい、全然大丈夫。神戸の1年に比べたら全然平気。だから、入江くん、行ってきて」

そう言って無敵な笑顔で直樹の首にがしっと腕を巻き付かせた。

直樹は琴子を抱き締めながら、
「 琴子。おれが断ったのは、まだ妊娠初期だからだ。これがせめて安定期に入ってたら多分断らなかったと思うが………」
そう告げる。

「やあだーっ入江くんってば意外に心配症! 大丈夫だって! 妊娠は病気じゃないんだよ! やーんっでも嬉しいよー。入江くんがそんなにあたしのこと心配してくれるなんてっ」

そう言って目に星をキラキラさせて喜びに浸っている琴子に、直樹は軽くため息をつくと、
「………いいか? 絶対無理するなよ?」
そう言って琴子の頬を両手で包む。

「しないよー。あたしのお腹には入江くんの赤ちゃんがいるんだよ? するわけないよ!」

「……約束できるか?」

「はーい!」

そうにこやかに宣言する琴子の唇を捉えて。
二人の寝室はしばらく言葉もなく、甘く唇を啄みあう水音が響き合っていたーー。



そして、1週間後、直樹は1ヶ月の予定でアメリカに旅立って行きーー
その5日後だった。
琴子が重度の妊娠悪阻(にんしんおそ)で入院治療を余儀なくされたのはーー。






※※※※※※※※※※※※


えーと、何やらアンハッピーな、どこぞの伝説だか神話だかをパクったような導入部の寓話は、とりあえずエピローグでオチをつけますので御心配なく……^-^;

(前)とつけたものの、前後編で終わるかどうか微妙です。前中後編……くらいの予定ですが、私の予測は当たったことがないので(-.-)たいてい長くなる……(^^;
教生琴子ちゃんが予想外に好評のようで、そっちも早く書きたいっ……とは思っているのですよー(^^;

とりあえず頑張ってこっち先に終わらせますっf(^_^)


ちなみにうちの旦那も事後報告ヤローなのでたまにムカつきます(-.-)



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管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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