19960229 ~時間×速度=距離





ある意味、よくある『裕樹はみた!』的なお話だったりします……(^^;
直接的な表現はないので、限定にはしませんでしたが、何気にえろい……かも?






※※※※※※※※※※※※※※







「何? まだ喧嘩してんの? あの二人」

宿題を終えて2階から降りてきた裕樹は、キッチンでジュースを飲みながら、明日の弁当の下ごしらえをしている紀子に話しかけた。

キッチンからはソファに腰掛けてTVを眺めている兄夫婦の姿が後ろから見えていた。違和感を感じたのはいつもと違う二人の距離のせいだ。
二人でソファに並んで座る時は、必ず琴子が直樹にぴたりと張り付いている。
なのに、今日はソファの端と端。

ことの始まりは大学の後期試験の結果が芳しくなかったこと。今日が大学の年度最終日で、成績通知を受け取りに行っていたのだ。
明日から春休みと朝はハイテンションで浮かれていたのに、帰ってからは若干浮かない顔の義理の姉を散々揶揄したのは裕樹である。
いつも通り裕樹が琴子をからかい、琴子が顔を真っ赤にして言い訳し………

曰く、あの教授は前期は教科書持ち込みOKだったのに後期から駄目になったとか。
曰く、前期はレポートオンリーだった講義が、突然筆記試験に変わったとかーー

「前期は、前期は、って云ったところで今回は違うんだから仕方ないだろう? みんな条件一緒なんだし。そんなこと言い訳になるかよ」

直樹の全くの正論だが、ぐうの音もでない冷たい一言に食卓は静まり返り……紀子だけが「もう、もっと他に言い方はないの? だいたいあなたがきちんと琴子ちゃんの勉強見てあげないからでしょう」と的外れに怒りだし、琴子が宥め、相変わらず直樹は素知らぬ顔で……と、散々な食卓風景だったのだ。

それを引きずっているのかソファに座っている二人は妙に離れている。
TVの画面は、9時から始まる洋画だった。
朝、新聞のテレビ欄を見て、
「えー、これテレビでやるんだ。あたし映画館行ったのにあまりちゃんと観てなくて……入江くん、一緒に観よっ」と、はしゃいでいたのだ。

「おれは観たけど」

「松本姉とでしょ? あたしとは観てないじゃない!」

「おまえも居たじゃん」

「後ろにでしょーっ隣に座って観たいのぉー」

そう云って騒いでいたのを思い出す。いったいなんでそんな変な座席配置だったのだろうと首をかしげた裕樹だった。


「別に喧嘩ってほどのものじゃないでしょ。大丈夫よ。映画見終わる頃にはぴったりくっついてラブラブになってるから。なんといっても二人の想い出の映画ですもの」

紀子はさして心配している様子もなく、コロコロと笑う。

……想い出の映画なのか?

朝の会話からはどういう状況なのが全くもってよく分からないが。



食卓では随分と雰囲気が悪かったから、てっきり直樹は書斎で勉強してるかと思いきや、それでも一緒に観るんだ、と少し驚く裕樹である。
気まずさもあるのか琴子がいつもより遠慮がちにソファの端にいる感じで。
二人は何も話さないまま始まったばかりの画面を見ていた。


「風呂行ってくる」

裕樹はそのまま浴室に向かった。








「ふう………」

30分ほどして風呂から戻ってきた裕樹が再びキッチンで水を飲もうと入ってきた。
母、紀子はもう居ない。こんな時間に自室に撤退するのは珍しいから、直樹たちに気を使ったのだろうと推察した。
二人は裕樹が入ってきたことに気づいているのかいないのか、一度も振り返らない。

相変わらず黙ったまま、テレビ画面を凝視していた。

あれ……?

ふと、さっきより二人の距離が縮まったような気がしたのだ。
まだいつもより離れているけれど、10センチくらいは琴子が直樹に寄ってきている気がする。

なんだよ、あいつ。じわじわと近づいてく作戦かよ。

結婚して丸2年はとうに過ぎた。去年の夏から秋にかけて、ちょっとぎくしゃくしてどうかなるんじゃないかと心配したが、何とか元に収まったようだ。
昨日英国の皇太子と皇太子妃が離婚したと騒いでいたが、うちはそんなことにならずによかったと、内心ほっとしたものだ。

そんなこともあって、琴子は直樹に遠慮してるのだろうか?
直樹が不機嫌になることを怯えているかもしれない。
ーー確かに、もうあんな雰囲気はごめんだが。

30分で、10センチ。
時速20センチってことか。
二人の距離はまだ40センチほどあるから、あと残り1時間20分程のこの映画が終わっても0にならないってことか?

途中、スピードアップしねえと終っちまうぞ、琴子。

内心そんなことを思いながら、裕樹は2階に向かった。







次に階下に降りたのは、それから一時間程経ってから。
勉強をしていて少し眠くなったので、珈琲でも飲もうかと思ったのだ。

二人の距離は縮まったのか、それも実は気になったりしていた。
なんといっても兄夫婦の距離感が、この家全体の明るさに関わってくるのだから。


「………あれ?」

そおっとドアを開けてキッチンの方から入ると、ソファの後方から見える姿は琴子の頭しかなかった。

なんだ、お兄ちゃん、上に行ったんだ。

一瞬はそう思ったものの、自分の部屋の前を通った気配はなかったよなーと記憶を辿ってみる。


「ふ………う…ん」

何だか琴子の頭が揺れて、変な声が漏れた。

ーー泣いているのか……?

映画のシーンはクライマックスが近いようだけれど、泣く場面ではない気がする。
手がハサミになってるという人造人間の主人公が、城に逃げ込んで、追いかけてきたヤツを殺してしまうというところだった。

裕樹はコーヒーを入れようと、食器棚からカップを取り出そうとして、ガチャンと音を立ててしまった。

「ひゃあっ」

琴子の頭がびくんと飛びはね、慌ててキッチンの方を振り返った。

「ゆ、ゆ、ゆ、裕樹くんっいつからそこにっ?」

妙に顔が真っ赤で上気していた。
やはり泣いていたのか?
瞳が潤んでいる。

「いつからって今さっきだけど。コーヒー飲みたくなって。お兄ちゃんは?」

「いっいっいっ入江くんっ?」

何を焦って、どもっているんだか。

「えっと……えっとね。ね、寝ちゃって…」

「寝たの? いつの間に上に来たんだろ?」

「え? あ、えーとね。ここで……」

「ここ? ああ、そこで寝てんの?」

ソファでうたた寝なんて、珍しい。
確か1度観た映画だから、記憶力のいい兄のこと、隅々まで覚えていてつまらなかったのだろう。
姿が見えないということは、横になってるってことか。
つまりは琴子の膝の上に頭か足かを乗せているということだ。

琴子が真っ赤になるってことは、きっと膝枕だろうな。
もうそのシチュエーションでテンション上がっておかしな妄想でもしてたのだろう。

裕樹はもしかしたら琴子がコーヒーを入れてくれるのではと期待していたが、膝枕をしている状態なら動けないだろう。
諦めて棚のインスタントコーヒーを取り出してスプーンで粉をカップに入れる。
あまりこの家族はインスタントは好まないが、面倒な時はお歳暮で貰ったコーヒーセットが役に立った。

そのまま湯気の立ち上るカップを持ってキッチンを後にする。









裕樹がもう一度キッチンに来たのは飲み終わったカップを下げるためだった。
もう11時半だ。
足音はなかったから、まだ二人とも下にいるのだろうか。映画はとっくに終わってる筈だった。
琴子のことだから、眠ってる兄を起こせずに、ずっと膝枕させたままなのかもしれない。

足が痺れて動けなくなるんじゃねぇ?

そんなことを思いつつ、キッチンのドアを開けて静かにシンクに向かう。

……あれ?

リビングの方に視線をやり、ソファに座る二人を無意識に探していた。
今度はさっきと逆で直樹の頭が見えて、琴子の姿が見えない。

例の映画はやはりとっくに終わったようで、今テレビ画面は夜のニュースを流していた。
直樹は画面を見ているわけでもなく、何だか妙に頭を反らして、微かに揺れていた。

「………琴子……もう……」

直樹の呻くような声が微かに聴こえた時、裕樹はカップを洗おうとシンクに置いて、蛇口から水を出した時だった。

突然の水音に直樹がキッチンの方を振り返る。

「ふっふぐっ……! げほっ」

琴子の姿は見えないが、変にむせってるような声がした。

寝てたわけじゃないのかな?
いや、寝てて突然喉が掠れてむせることもあるよな。

そんな風に思いはしたが、振り返った兄の顔が妙にいつもより美しいというか、婉然とした感じで、何だかドギマギする。

「……まだ起きてたのか、裕樹…」

直樹が少し気だるげな表情で裕樹に問い掛けた。

「う、うん。カップを置きにきただけ。歯を磨いてもう寝るよ」

「そうか。おやすみ」

「………うん。そういえば琴子は?」

「……寝てるよ」

「今、声しなかった?」

「寝言だろ?」

「……そう?」

「ニュースを観てから琴子はおれが部屋まで運ぶよ」

なんだか含みのあるような笑みを浮かべる兄に、ちょっと引っ掛かりを感じたのは、訊いてもいないことを応えたからだろう。だがそれ以上は何も訊けない気がして、さっさとカップを水洗いし、ラックの上に伏せて置いた。

「……じゃあ、おやすみ」

「ああ」

「……結局琴子は最後まで映画観れたの?」

ふと思いついて、ドアに手を掛けながら訊ねた。

「……多分観れてないんじゃないの?」

「なんだ、やっぱり」

笑いながら裕樹は部屋を出ていった。

………まあ、お互いに膝枕しあってるんだから、時速20センチよりは速い速度で距離は0になったってことかな?

母の予言は当たったってことか。

多少の違和感は感じつつもそれ以上は追及してはいけない気がして、とにかくそう思うことにした。
まあ、仲が良いのはそれに越したことはない。去年の夏のようなことは二度とごめんだとーーそんなことを考えながら裕樹は歯を磨くために洗面所に向かったーー。












「………い、入江くん、もう寝室いこ……」

「ひどい奥さんだな。自分だけイっといておれはこのまま?」

「え……で、でも。また裕樹くんが戻ってくるかも……」

「大丈夫……もう来ないよ。ちょっとしたスリルとサスペンスだったろう?」

「そ、そんなの、いらない~~あたし結局殆ど映画観れてないしーっ………入江くんのばかぁ」

「さ、琴子、続けて」

「ひーん」




ーー二人の距離が、0どころか意外に早くマイナス(?)になっていたことを、裕樹は知らないーー。






※※※※※※※※※※※※


はい、何気にえろでした(^^)
裕樹くんは分からなくても大人な皆様は分かりましたよね……?
二人が映画も見ずに何してたか……(//∇//)


更新……連載終わってから随分開いちゃいました。やっと娘の期末テストが終わりなんとか落ち着いて書けそうです。
タイトルは……絶賛期末テスト中だった娘の数学を少し見てあげていたからでしょうか。メインは図形の証明で、割りと得意な分野なので任せとけな感じで教え始め、結局答え見ないと分からなかったパターンです(-.-)中学数学くらいはいけると思ったんですが……
速さと距離の問題は二次方程式の文章題で、まとめ問題の中にありまして。何となく今回のタイトルになりました♪

家庭教師やってくれると思ってた兄はフラフラ遊び歩いてなかなか勉強みてくれませんでした。くそぉー!
塾に放り込むべきか真剣に考えねば、なんですが、塾にいきたくない娘と、金銭問題と送り迎えが面倒な母と利害は一致してるのであった……^-^;
なるべく自力でよろしくと娘には伝えてありますf(^_^)

あと日付に特に意味はないのですが……嫉妬事件の翌年の今くらいの時期、と思ったらこの年は閏年で2月29日があったんですね。ので、この日にしちゃっただけです(^^;






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管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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