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彼女は美しい夢を見る。 (14)

2015.01.30(00:16) 96












ーーどういうことだ?

直樹は呆然と自分の携帯画面に表示された文字を見つめた。

『琴子』

そして、ちらりとサイドテーブルに置かれたままの琴子の携帯を見つめる。
琴子の携帯は、ここにある。
誰も触れていないし、今、目の前にただ置かれているだけだ。

恐る恐る琴子の携帯を手に取り、開いてみるが発信状態にはなっていない。

トゥルルルルル………

なのに何故、直樹の携帯に琴子からの電話が鳴るのか? 電話番号も、紛れもなく琴子のこの携帯の番号である。いったい何処から発信されているというのか?

直樹は瞬時にこの不可解な現象に対する物理的原因を幾つか検証してみる。
だが正答と思えるものが何一つ導き出せない。

トゥルルルルル………

そして直樹は携帯の応答ボタンに触れた。

「もしもし……?」

『い……入江くん?』

それは間違いなく。
今、自分の傍らで眠っているーー懐かしい琴子の声だった。

「琴子……?」

そんな、ばかな……琴子の寝顔を見ながら震える声を絞り出す。

『入江くん! 入江くん!』

少し甘えたような琴子の愛らしい声。

「琴子……本当に琴子なのか?」

『入江くんも……本当に入江くんなの?』

ああ、間違いない。間違いなく琴子の声だ。

「琴子……おまえいったい何処にいるんだ? ーー何処から掛けているんだ?」

『何処って……入江くんちだよ……今、入江くんと裕樹くんの部屋にいるの』

「おれの……?」

直樹と裕樹の部屋はもうない筈だった。
新婚部屋の改装と同時に、兄弟で使っていた部屋は裕樹だけのものとなって、部屋のレイアウトも大分変わっていた。

『うん。だって、誰もいなくなっちゃって。あたし、寂しくて寂しくて死にそうなの。みんな何処にいったんだろ?  世の中にあたし一人しかいないみたいなの』

「誰もいないって…」

『本当に誰もいないの。お父さんもおばさんもみんないないし、街中ひとっこひとりいないの。あたしもう、ずっと誰とも喋ってなくて……会いたいよ!  会いたい!
入江くんに会いたい!  入江くんは何処にいるの?』

琴子の悲痛な声に、胸が抉られるような気がした。
傍らに眠っている琴子の寝顔もどこかしら顔を歪ませているような悲しげな表情だった。

「ーーおれはおまえの隣にいる」

眠っている琴子の頬をそっとなぞる。

『え?』

「ここは病院。おまえ、ずっと眠り続けているんだ。おまえ、おれのすぐ傍で眠ってる」

『えーっうそ!  だって!  あたし、ここに……』

ここ、というのはーーいったい何処なのだろう?
何もかもが非現実的だ。
もしかして自分自身が琴子に会いたくて、琴子の声が聴きたくてそんな夢を見ているのだろうかとも思う。
にしては、あまりにもリアルだ。
電話を通して聴こえる琴子の声が、どうしても夢や幻聴とは思えない。
そして目の前の琴子の苦しげな顔も……

「おまえ、一人ぼっちになって寂しくて泣いていた?  おまえの寝顔がなんかすっげえ辛そうだった」

『うん…』

一人ぼっちってどういうことなのだろう?
はじめは琴子の言葉の意味がすんなり頭に入ってこなかったが、よくよく考えると物凄い恐怖を感じた。

ーーまわりにも誰もいない。
この世界にたった一人。人好きで寂しがりやの琴子が?
それはーー怖い。想像しただけでも足がすくみそうになる。

「でも、何故だーー? 少し前まで凄く幸せそうだったのに……… おまえ、幸せな夢を見ていたんじゃないのか?」

現実に戻りたくないと思うくらい。

『………見てたよ。幸せな夢。ふふっ驚かないでね? っていうか、嫌がらないでね?  なんと、あたしと入江くんが結婚してしまうという、とーってもステキな夢をみてしまってたの!』

「………………」

『あ、やっぱり今眉間に皺寄せて嫌な顔してるでしょ?』

ーー何が夢で、何が現実なのか……

「夢じゃないよ。忘れたのかよ。おれとおまえは結婚した。
11月21日に結婚式をあげた。ど派手な披露宴にハワイへの新婚旅行…全部現実だ」

『え?……みんな夢じゃないの?』

「覚えてないのかよ?  結婚式でゴンドラ乗ったことや、新婚旅行でウザイ夫婦に邪魔されたことも、ハワイで迷子になって保護されたことも……」

全部夢だと思うのか?
何もかもが………

『じゃあ、じゃあ……ジューンブライドは?   結婚式のプランも自分たちで決めたり、あたしたちの部屋、あたしたちでコーディネイトして、入籍をバレンタインにして……』

「……?  それは……多分夢だな……」

琴子が不思議なことを言い出した。そんな夢を見ていたのかと思う。
入籍………バレンタインに…?

『じゃあ、じゃあ、入江くん、沙穂子さんは? 沙穂子さんと結婚式挙げたのは……』

「なんだよ? それ。沙穂子さんとの婚約はきちんと断っただろ?」

そんな夢まで見ていたのか?
どうして?

『そっちが夢だったんだね。本当だよね? 本当に沙穂子さんとじゃなくて、あたしと結婚式したんだよね?』

切ないような悲しい声。

「そうだよ。おれとおまえは結婚した。ちゃんと夫婦になったんだ。忘れたのかよ、ハワイの夜を……」

『……わ、忘れてない………』

声が少し焦ってる。
琴子があの夜を思い出して顔を沸騰させているのでは、と想像して、直樹の顔にも少し笑みが浮かんだ。
眠っている琴子の頬が少し赤くなっているのは気のせいだろうか?


『ーーでも、入江くん云ったよね?
結婚やめるか?って……運よく籍も入れてないことだしって…………ねぇそれも夢なの? 悪い夢の続きなの?』


琴子の声が怯えたようにか細くなる。

ねぇ教えてよ。
何が夢で。
何が現実なのか。
何処までが真実で。
何処までが嘘っぱちなのか。
あなたの気持ちがどこまで真実(ほんと)なのかーー

琴子が叫んでいる気がした。









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少し短くてごめんなさい。
次は一気に駆け抜けたいと思っているので長くなります(^^;

テーマは『以心電信』?(←古い……byオレン●レンジ)某携帯会社のCM曲でしたね^-^;






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Snow Blossom


2015年01月30日
  1. 彼女は美しい夢を見る。 (14)(01/30)