彼女は美しい夢を見る。 (11)





ごめんなさいm(__)m…………(とりあえず先に謝っておこう^-^)







※※※※※※※※※※※※※






ザーザーザー………

ああ、また雨の音。
しーんと静まり返った世界に雨音だけが響きわたる。

ここは何処なの? またあの雨の夜? それとも結婚式の朝……?


「う~ん……」


あたしは目を開けると、ゆっくりと身体を起こして周囲を見渡した。

そこはあたしの部屋だった。
窓の外は雨。
薄暗さから、今が何時なのか見当もつかない。朝なのかしら……それとも夕方……?

おばさんが選んでくれたとってもメルヘンな、天蓋付きシングルベッドに勉強机。猫足の可愛い家具たち。
あたしが三年半慣れ親しんだ、懐かしい部屋。

そしてベッドの回りには幾つもの段ボールが無造作に置かれていた。

「えーっと……」

あたしは寝起きのよく回らない頭で、状況をよく思いだそうとしていた。

何だかとても恐い夢を見ていた気がする。

ーー夢…ゆめ…?

そう凄く変な夢。
なんだか奈落の底に突き落とされたようなイヤな感じが心の片隅に残っている。

どんな夢だったのかしら?
初めは凄く幸せな夢だった気がするの。
あたしが入江くんと結婚する、なんて絶対有り得ないような素敵な夢。

そう、そうだよね。
そんなことある筈ないのに。



あたしがぼうっとしていると、
「琴子、入っていいか?」
と、お父さんの声がノックの音と共に飛び込んできた。

「どうだ?  荷物、少しは片付いたか?」

お父さんは段ボールを眺めながらベッドに腰を下ろした。
何だか記憶が薄ぼんやりして、何処か心許ない顔をしているのだろうあたしの頭に手を置いて、申し訳なさそうにお父さんか呟く。

「すまねぇなぁ、琴子。もう少し早くこの家出られりゃよかったんだか…。契約の関係で新しい借家に越せるのがまだ1週間かかるんだ。本当に直樹くんの結婚式のギリギリで……。オメエも辛いだろうが、あと少しの辛抱だからな」

え……?  入江くんの結婚式?

何?  それ…。

「しかし、驚いたよなぁ。見合いからたった数ヵ月で結婚式なんてなぁ。なんでも北英社の会長さんが体調崩して、すぐにでもひ孫の顔が見たいとか言い出したって話だが…」

結婚……入江くんが…?
あの女性…沙穂子さんと…?

ああ…そうか。
そうだっけ……

そう――これが現実なんだ。
入江くんは沙穂子さんと結婚する。
それが揺るがない確かな現実ーー。

入江くんが突然あたしのこと迎えに来るとか。
あたしにプロポーズするとか。
結婚式挙げて、新婚旅行まで行っちゃうとか。
全部…全部、あたしの妄想。
あたしの夢だったんだ。

「あっ琴子、すまないっまた思い出しちまったな」

つーっと頬を伝うあたしの涙を見て、お父さんが慌てる。
あたしは何も喋ることも出来なくて、ただ顔を伏せ肩を震わす。

「奥さんは、直樹くんたちは二人でマンション住まいをするらしいから、いつまでも居てくれて構わないって引き留めてくださったが、それじゃあ、嫁さんが旦那の実家に行き辛くなっちまうからなぁ……とりあえず結婚式前日には新しい家に入れるから、それまでに少しずつでいいから荷物まとめとくんだぞ」

そう云って部屋から出ていくお父さん。
あたしはただ茫然とその姿を見送った。

そう……入江くんは結婚するんだ。あたしじゃなくて、あのひとと。
当たり前じゃない。
誰がどう見たって、あたしより彼女の方が入江くんに相応しい。

あたしは……ただのお邪魔虫だ。
早く…早く消えなきゃ…。

下に降りて行くと、おばさんが朝御飯を並べていてくれた。この美味しい手料理を食べられるのも、あと僅かなんだ……。

「琴子ちゃん、目が腫れてるわ」

おばさんが申し訳なさそうにあたしを見る。

「あ、いえ、これは昨日めっちゃ泣ける漫画読んじゃって…」

白々しい嘘。

あまりに白々しくて続けることも出来ずに、ただ黙々とご飯を食べる。美味しい筈のご飯、何の味もしない。
入江くんがいないことだけがほっとする。
入江くんにはこんな顔見られたくない。

ふと、サイドボードの上の卓上カレンダーに目をやる。
飛び込んできたのは、11月21日の処につけられた赤い丸印。下に結婚式――と、記されていた。
なんだかその日付に妙なひっかかりを感じたけれど思い出せない。
ただあたしにとってもその日は永遠に忘れることが出来ない日になるのだろうと予感していた――。




ありがたいことに、それから入江くんに会うことはなかった。
結婚式をあと1週間後に控え、恐らく凄まじく忙しいのだろう。
きっと仕事も手を抜かずに頑張ってるに違いない。そのうえ結婚式の準備まで。

――入江くん、ちゃんと、寝てるかな?  身体壊してないかな?

あたしは今更ながらそんなことを思う。あたしは入江くんの身体を気遣うような立場でもないのに。

「琴子ちゃん、申し訳ないけど…」
おばさんがひどく辛そうな顔で1枚の封筒を渡してくれた。

艶やかな光沢を放った上質の紙に記されたあたしの名前。

「相原琴子様」

手書きの文字が入江くんの筆跡じゃないことに少し安心する。
後ろには印刷で、入江重樹、大泉宗一の名前。

「……無理して出席しなくてもいいのよ?  三年近く同居していたんだから、呼ばないわけにはいかないでしょうって、大泉さん側が気を利かして親族席に相原さんと琴子ちゃんを招待しましょうって」

おばさんは苦し気にため息をつく。

「あたしだって出たくないのに……こんな結婚式……」

「あたし、出席します」

「え?」

おばさんは心底驚いたようで、あたしの顔を凝視する。そして、慌てて、
「い、いいのよ、琴子ちゃん! 無理しないでちょうだい」といってあたしを抱き締める。

……優しいお母さんの匂い。
もう、二度とこの人に甘えることも出来なくなるのかと思うと、胸に突き刺すような痛みを感じた。

「大丈夫です。あたし、入江くんの幸せをちゃんと見届けて自分の片想いに区切りをつけます。心の底から二人をお祝いするのは難しいかもしれないけれど、入江くんに幸せになって欲しいという気持ちは本当だから……」

そのあと二人でさめざめと泣き合った。
おばさんは「ごめんね、ごめんね」といつまでもあたしに謝っていた。

おばさんのせいじゃないのに。
入江くんの心を掴まえられなかったのはあたしが至らなかったせいだ。
入江くんの好みが沙穂子さんみたいなタイプである以上、あたしがどうあがいたって入江くんの隣にいるのは無理だったということ。

あたしはちゃんと自分の気持ちに幕を引かなきゃ……。
でないとここから一歩も進めない。
式に出ることはあたしにとっても必要な儀式なんだ――。
そう思うことで、結婚式のことを考えると重く沈む想いを奮い立たせるしか、今のあたしには成す術がなかった。





ルルルルルルルル――

いつまでも鳴っている電話のベルの音に気づいて、自分の部屋で引っ越しの準備をしていたあたしは、ぱたぱたと階段をかけ下りた。
おばさん、居ないのかしら?

「はい、入江です」

「あ、あの、大泉ですけど」

沙穂子さん――!

「あ、い、今、入江くん家に居なくてっ」

彼女の優しそうな声を聞くだけで心臓がバクバクしてきた。

「あ、そうですか……携帯かけても通じなくて……留守電には伝言残したんですけど、もしかして家に居るのかと…」

沙穂子さん、あたしに言い訳してるみたい。でもこの間のようににあたしが電話に出る可能性を考えると、家電にはかけにくいよね。

「あまり携帯に触らないって仰ってたから、留守電に気がつかないかもしれないわ。あの……伝言頼んでも宜しいでしょうか?」

「あ、は、はい」



あたしは電話を切った後、その伝言を書いたメモを見て暫く立ち尽くしていた。

『予定が変わりました。
明日6時式場で待っています』

最初の予定が何だったかわからない。違う場所か、時間だったんだろう。二人だけが知る約束。

もしあたしがこれを入江くんに伝えなければ?
明日二人は会えないまま擦れ違うのかしら?

そんなことを考えて――考えた自分に激しい自己嫌悪を感じた。
あたしってばなんて嫌な子なの!   
なんて意地悪な女なの?

馬鹿みたい。
そんなことしたってお互い携帯を持っていれば会うのは時間の問題。少し出会う時間を遅らせるだけに過ぎない。

あたしはため息をひとつついてから、そのメモを入江くんの部屋の扉に貼った。
もし入江くんが帰ってこなくて、このメモを見なくてもそれはあたしのせいじゃない。
……あたしは知らない……。

あたしは自分の部屋に急いで戻ると、扉を閉めて鍵をかけ、そしてそのまま布団を被って号泣した。

自分がひどく惨めだった。
嫉妬に苛まれて、下らない意地悪を思いつく自分を消してしまいたかった。
そしてこのまま此処にいれば、どんどん自分が嫌な女になっていくのだろう、という恐怖もあった。
きっと二人の邪魔をする。昔入江くんと松本姉のデートを邪魔しようとしたように――ううん、もしかしてそれ以上のことをしてしまうかもしれない。
あたしは恐くて、辛くて、悲しくて、一晩中泣いていた。

翌朝、入江くんの部屋の扉を見たらメモはなかった。入江くんの姿はもうなく、いつ帰ってきていつ出ていったかも分からない。
もう、あたしはこのまま独身の入江くんに会うことはないのかもしれないーー
そして。そんな予感は見事に的中して。

入江くんに会うことのないまま、あたしは入江家を出ていきーー
そして運命の11月21日。

入江くんと沙穂子さんの結婚式の日がやって来た――。

あたしは気がつくと、白いチャペルの前にぼんやりと立っていた。
どうやってここまで来たのか。
どうやってこの日までの時間をやり過ごしてきたのか………

しかもあたし、真っ白いワンピース着ている。結婚式の参列に白?
いったいなんであたし、こんなチョイス?
やだ、早く着替えなきゃ、こんな格好。

あたしは慌てて振り返る。

振り返った先に立っていた彼女に、あたしはドキッとした。

「速川さん!」

高校時代とは違う、あたしと同じような髪形の彼女。
痩せて無表情な姿に少しゾッとする。
彼女は黙ったままあたしに一本のナイフを差し出す。

「な…何?」

「これでひと突きにすればいいのよ」

彼女が視線をふっとあたしの肩越しに持っていく。

ーーその先には。

チャペルの扉の前で、父親らしき人に手を携え、扉が開くのを待つ美しい花嫁――。

「これで刺しちゃえばいいのよ」

うっすらと笑う速川さん…。

「何馬鹿なこと…!」

「どうして?  そうすればあなたがあそこに立てれるのよ。あなたから入江さんを奪った憎い女を消してしまいたくないの?」

「思わない!  思わないよ、そんなこと!」

あたしは叫ぶ。そんなこと、望む筈がない。

「沙穂子さんを傷つけたって誰も幸せになれない!  入江くんも悲しむし、あたしだって、あたしのお父さんだって!  みんな苦しむだけだよ!  そんなこと考えちゃだめだよ!」

「相変わらずの偽善者ね」

忌々しげに彼女が舌打ちをする。

「本当なら自分があそこにいた筈なのにって思わないの?」

「思わないっ!」

……あそこにいたいとは思ってた。いつだって入江くんの傍にいたいって。

思いがけず入江くんと一緒に住むようになって……でも、結局は二人の距離は縮まらなかった。

入江くんは意地悪で冷たくて……

(それでも、ときどき苦しくなる程優しくて)

「つまんない女!」

彼女が吐き捨てる。

と、同時にチャペルのドアが開き、定番のウェディングソングが流れ始めた。

赤い絨毯の先に入江くんが立っていた。
顔は全然見えない。ぼんやりと霞がかかっているみたい。
笑っているのかな。
美しい花嫁をドキドキしながら待っているのかな?

後ろ姿の沙穂子さん。
長いヴェールを引き摺りながら、一歩一歩入江くんに近付いて行く。
顔は見えないけれどきっと幸せそうに微笑んでいるのだろう。

「…いや…」

イヤだイヤだイヤだイヤだ!

二人の幸せを見届けるなんて!
気持ちに区切りをつけるなんて!
出来ない!
そんなこと出来ないよ――!

速川さんがクスッと笑う。

そしてもう一度差し出す。
一本のナイフ………。

あたしは恐る恐る手を伸ばし……。
それに触れた――。


ほら、いらっしゃい……
あなたもこちら側に……


あたしははっとして、触れたナイフを払いのけ、そして叫んだ。

「いや――っ!」

耳を塞ぎ、目を塞ぎ、あたしはしゃがみこんで、叫び続ける。

イヤだイヤだイヤだイヤだ!
こんなあたし、こんなあたし!
もう全部消えてなくなってしまえ!




――そう思ったら。
消えたのはあたしじゃなくて。
あたしの周りの世界が全部消えてなくなってしまっていた。

                                             









※※※※※※※※※※※※※




ーーだ、大丈夫ですか?
どんどん悪夢ちゃんになってますが……(^^;
(拍手は間違いなく減るだろうと覚悟はしてますとも!)






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管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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