立志式……そして。

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彼女は美しい夢を見る。 (9)




前回のお話に沢山の拍手、ありがとうございます。これも理美とじんこが入江くんにギャフン(笑)と言わせたお陰でしょうか? グッジョブ、理美&じんこ(^^)

でも、今回のお話でドン引きされないか心配です……ドキドキ(^^;






※※※※※※※※※※※※※









ザー……ザー……

雨の音がする。

ああ、またあの日に戻ったの?



ーー琴子、起きろよ……琴子……

入江くんの声だ。
どうしたの? すごく優しい声……

………キスが……ふわりと唇に落ちてくる。






ーー優しいキスを受ける感触で、ぼんやりと意識が戻る。でも瞼が重くて目を開けることができない。

はじめは唇。ちゅっと音をたてて、啄むように。
次は鼻先。
そして、頬に耳元に…縦横無尽に這い回る唇が、もう一度あたしの唇に戻ってきて。
上唇を吸い上げられ、下唇をペロリと舐められる。
やがてその舌があたしの歯列を割って、咥内に侵入してきた。
息もつかせないような、深い深いキス。あたしはおずおずとその舌に応えるように自分のそれを絡ませた。

甘くて、激しいキスにくらくらしてくる。

瞳を開けて早く顔を見たいのに、どうしても瞼が開かない。

唇からふっと離れた瞬間に、大好きな低い声がずんっと耳元に響いてくる。


ーー琴子、早く起きて……


うん、待って。
すぐ起きるから。
起きて、朝御飯の仕度しなくっちゃ……
ーー起きたいのに……どうしても目が開かない。
なんでだろう。
早く、入江くんの顔を見つめたいのに。




ザー……ザー……

ああ、雨。
やっぱりあの夜に戻ったのかしら……?


シャッとカーテンを引く音がして、漸く重かった瞼が開いた。

ーー夜……じゃない?

窓の外は雨が降って仄暗いけれど、かすかに朝の気配が感じられる。


「琴子ちゃん、おはよう。そろそろ起きた方がいいわよ」


おばさん……。
にっこりと笑って窓際に立っているのは、いつもと変わらない優しいおばさん。ううん、お義母さん。

お義母さん?
お義母さんって、呼んでいいの?
あたしーー入江くんと結婚したんだっけ?
えーと、ただの夢だったのかな?

頭が混乱してる。


「やっぱり、雨になっちゃったわね。あんなに沢山てるてる坊主作ったのにねぇ。折角のジューンブライドなのに、日本じゃ梅雨なんですもの」


梅雨?
ジューンブライド?

えーと、6月の結婚式……それって……



部屋をぐるりと見回すと、そこはあたしたちが選んだ北欧風のブルーグリーンの家具にアイボリーとグリーンの壁紙の、落ち着いた二人の寝室。キングサイズのベッドは、チャコールグレイのボックスカバーが掛けられている。全部二人で選んだものだ。

あたしたちが選んだ………?

これって……『四度目』の続き?

ああ、そうか。これは夢の続きなんだ。極上に甘くて優しい入江くん。
あたしたち、先に入籍して、そして二人で決めた式場、二人で決めた式のプラン――。

あたしは今日、6月の花嫁となる……らしい?

どうも入籍した日あたりから記憶が曖昧。確かバレンタインに入籍したんだよね……?

入籍ーー入籍したの? あたし。本当に? 『入江琴子』になったの?
何となく区役所まで行ったことまでは覚えているのだけれど……

どうして結婚式まで時間がとんじゃったんだろう?

相変わらず体感はリアル。確か入籍の時はまだ寒い季節だったのに、今は部屋の中のじっとりとした湿り気を帯びた空気が随分と重く感じられる。
あたしたちをくるんでいた毛布は、薄い肌掛けに変わっていた。


そして、あたしは今……。ベッドの上で……
ハダカ………!?

「一応、デコルテラインとか衣装から露出する部分には跡はつけてないようね。流石計算してるわ、お兄ちゃん」

にやりと笑いながら、お義母さんがあたしの身体を確認する。

シーツにくるまっているあたしは下着ひとつ着けていない生まれたままの姿で、その格好をお義母さんにじろじろ見られてるわけで……。

うっうそーー!

なんなのこのしっかり『いたしました』感は! そしてこそっとシーツの隙間を覗くと見えない部分には朱い跡がくっきり。うん……心なしか身体も重く腰も微妙に痛い。

「もう、お兄ちゃんてば、結婚式前夜までそんなにがっつかなくてもねえ? でも、孫の顔は早く拝めそうね」

にまっと笑うお義母さん。


あたしたち、結婚式の前夜に…したの……ね?
顔が真っ赤になっているのが分かる。
あー熱いっ!

そして、その張本人はーーいない?

「あ、あの。入江くんは……?」

「もう、式場へ行っちゃったわよ」

ベッドの、あたしの隣には確かにそこに人が居たような暖かさがあった。

「もう、花嫁置いてくなんてねえ。こっちの方が時間がかかるのに。さあ琴子ちゃん、あたしたちも仕度しないとね」




しとしとと降る雨は、『あの』雨の日を思い出させた。
あたしたちの始まりの雨。
そして再びのスタートの日も雨。

「折角のガーデンウェディング、残念ね」

ウェディングドレスに着替えたあたしの傍らでお義母さんが、雨に濡れてぼやけた窓の外の景色を眺めながら言った。

「お庭での式も楽しみだったけど、ここのチャペルもオシャレで素敵なんです」

そういってあたしは微笑む。
晴れたら庭で開かれる筈だった、人前挙式。薔薇のアーチは、盛りは過ぎたけれど、遅咲きの花々が緑の中に華やかな彩を添えている。

夢の中、これで四度目の結婚式。
入江くんと二人で色々と企画を考えていた日々が少しずつ思い出されていた。


何度着ても素敵。
純白のウェディングドレスは貝パールを縫い付けたマーメイドライン。入江くんと一緒に考えてデザインしたオーダーメイドだ。

ーーでも。また結局あの雨の日に戻っちゃうのかな?
あたしはどこかで分かってる。結婚式のあとに平穏な日常が存在しないことを。

「あら、でも少し小降りになってきたかしら。もしかしたら、お式の時間までにやむかも…」

「あ、本当」

昼に近い時間なのに薄暗かった空が、ぼんやりと白く光りだした。銀の糸のような雨は降っているけれど、雲の狭間に青い空も垣間見える。

「やまない雨はないものね。幸せなスタートの象徴のようだわ」

「そうですね」

あたしはお義母さんに微笑みを返す。
幸せ…そう、本当に幸せだ。
入江くんは優しくて、あたしのことを一番に考えてくれる。
現実の入江くんには有り得ないくらい、あたしだけを見てくれる。
あたしは、片想いじゃないって、実感できる。
――幸せなのに、あたしは訳の分からない不安が拭いきれないのを感じていた。
あたしは何を怯えているのだろう。
これが夢だと分かってるから?
夢はいつか醒めると知っているから?
夢の入江くんが本当の入江くんじゃないって、分かってるから?

じゃあ、あたしは一体誰と結婚するのだろう…?

「そろそろお時間です」

気がついたら、雨はすっかり止んでいた。

お父さんに手を引かれ、薔薇のアーチをくぐって入江くんの待つ数メートル先を見る。
赤い絨毯の向こうに立つ入江くんはシルバーグレイのタキシードを身に着けて、あたしが来るのを待っている。
両脇には椅子が並べられ、お義母さんやお義父さん、裕樹くんがカメラやビデオを構えて待っていた。理美やじんこもデジカメや携帯を構えてにこにこ笑ってる。

凄く幸せな風景なのに、妙に世界が歪んでみえるのは何故だろう?
みんなの顔がぼやけて見える。
そして入江くんの顔も――。

差しのばされた手に自分の手を乗せる。
でも、変だな。入江くんの顔がぼやけて見えない。

そういえばあたし、朝起きてから一度もちゃんと入江くんの顔を見ていないことに気がついた。

「琴子……х$*++>=#×」

あれ? 声までくぐもって聴こえにくい。

それなのに。

「直樹さん…!」

やけにはっきりと聴こえる、女性の声。
――誰?どこかで聴いたことのある声…。

振り返ったら。
そこに――。

あの女性がいた。

「沙穂子さん……!」

「どうしてあなたがそこに居るの?」

真っ白いワンピースを身に着けた沙穂子さんが、あたしの方を見て云った。

「そこに居るのは、あたしの筈だったのに」

彼女の手の中に……光るものは何……?

「沙穂子さん!」

「直樹さんを返して!」

彼女の手の中のナイフの切っ先があたしの方を向いていた。
悲痛な顔をして涙をぼろぼろ流しながら、一歩ずつあたしの方にやってくる。

気がついたらあたしの横の入江くんも、周りの人たちの姿も、ゆらゆらと揺れる影になっていた。

はっきりとした人の姿を成しているのは、目の前の沙穂子さんだけ。

ああ、夢だから。
これは、夢だから。

もしかしてあたしもそんな風に思ってたから、こんな夢、見たのかな?

――なんで沙穂子さんじゃなくて、あたしがここにいるの? って……

もしかしたら、ちょっとした何かの掛け違いで、あたしと沙穂子さんが入れ替わってしまったのかな、って…。

本当に入江くんが選ぶべきなのはこの女性で……


ゆっくりと、ゆっくりと沙穂子さんはあたしの処にやってくる。
あたしはぴくりとも動けない。

沙穂子さんのナイフを持っている手が大きくかざされた。

そして、彼女のナイフは――あたしに、ではなくて。
自分の左手の手首に押し付けて……

「ダメ! 止めて!」

赤い筋がつうっと手首から溢れていく。


ぼたぼたぼた……

止めどなく手首から血が流れ続ける。


ーー好きなのに。こんなに好きなのに。
ーーどうして……?


スローモーションのように、ゆっくりと、彼女が崩れ落ちていく。
真っ白なワンピースが赤く染められていく。
血だ――そう思ったら、それは赤い薔薇の花びらだった。
深紅の花びらが彼女の胸からこぼれ落ちて、床一面に広がっていく。

あたしはただ、足元に広がっていく赤い花びらを見詰めて、立ち尽くすだけ。

そしていつの間にか、赤い花びらと思ったものが真っ赤な封筒に変わっているのに気がついた。
無数の深紅の封筒が、床一面に散らばる。

そして。

「え………?」

真っ赤に染まった床の上に倒れていた筈の沙穂子さんが、別の人に替わっていた。

「速川さん…」

どうして、貴女がそこに?

彼女はやっぱり血に染まった真っ白いワンピースを着ていて、一面に敷き詰められた赤い封筒の上でぼんやりと横たわっていた。彼女の左手首からどくどくと血が流れ続けている。
早くーー早く、止血しないと!

彼女の瞳は開いていて……あたしを見つめてる。

「どうして、センパイが此処にいるの?」

「え……?」

「どうしてセンパイがあたしの夢の中にいるの?」

「あなたの夢?」

「凄く幸せな夢だったのに。入江さんと同居して、入江さんがあたしのこと好きになってくれて、入江さんがプロポーズしてくれて……もう少しで入江さんと結婚するところだったのに……」

え……?

「なんで邪魔するんですか……? 相原センパイ……」

虚ろな瞳でじっとあたしを見る速川さん。
あたしは、恐くて恐くて、堪らなく恐くなって………

「もしかして、センパイも同じ夢を見ていたんですか?」

青ざめた表情に、薄い笑みが浮かぶ。
ゾッとするような闇に引き込まれそうな昏い微笑み。

「……あたしと同じ、入江さんと結婚する夢……」


これはーー誰の夢?

夢ーーなんだよね?

だったら、早く…目覚めなきゃ。
これは、夢だから。

本当に?

本当に、夢なの?

何処から何処までが?
何が現実で何が夢だったの?

あたしは今ーー何処にいるの?











※※※※※※※※※※※※※※




「♪引かないで~ 引かないで~♪」
もも●ロの「サ●バ、愛しき悲しみたちよ」の替え歌が頭の中で渦巻いてます。因みにドラマ『悪夢●ゃん』の主題歌だったりします……(^^;







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管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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