彼女は美しい夢を見る。 プロローグ(4)

                          


一応今回がプロローグ最終話です(^^)



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人生にこんな漫画のような波瀾万丈な出来事が起こりうるものかしら?

2年間片想いし続けた相手に告白し、瞬殺で振られたその日に、新築したばかりの家が手抜き工事のため震度2の地震で崩壊。
そして、父の親友の家にお世話になることとなり、行って見たらなんと振られた彼の家だった――なんて。
そんな。
まさか。
あり得ない。
でも、紛れもない現実………だよね?
今でも時々思うもの。長い長い醒めない夢を見ているのか、それとも壮大なドッキリを仕掛けられているのか、って!

どんなに近づきたくても近づけなかった、内側の世界。
教室の内側よりも、フェンスの内側よりも遥かに近しいこの位置。
彼と同じ家に住むという奇跡。

あたしの運命は思いがけず大きく廻り始め――。
けれど、振られたばかりの彼との距離がすぐに縮まった訳ではなかった。
同居して理解かったのは、彼が噂に違わず冷たいブリザードのようなサイアクな性格だということ。
冷血感で毒舌でイジワルで思いやりの欠片もなくて――。
でも。
あたしの馬鹿みたいな脅迫を受けてではあったけど、すっごく丁寧に勉強を見てくれた。
試験の前に「頑張って」と言ってくれた。
試験結果をあたしより先に見てくれて「やったじゃん」と言ってくれた。

あんな性格なヤツ、嫌いになってやる! と思ったりしたのに、微かに感じる彼の優しさに、嫌いになることが出来ないでいた。

そんな時、あたしたちの同居が全校中にばれてしまった――。

渦中の人となったあたしたち。
それから卒業まで、いろいろな噂は常にあたしたちの周囲に纏わりついていた。


「……相原センパイ…」

久しぶりに速川さんがあたしの前に現れた。以前みたいに人懐っこい笑みは携えていなかった。ただ妙に挑戦的な眼差しであたしをじっと見ていた。

「噂、本当なんですか? 入江さんと一緒に住んでるって」

「う…うん…」

「父親同士が親友って噂も?」

「そ、そうなの、実は…」

なんだか尋問されてるみたい。

「……そんな隠し玉があったんだ。親が親友同士って、もしかしたらずっと前から入江さんとも知り合いだったんじゃないですか?
そんな素振りも見せずに、わざとらしく片隅からこっそり入江さんのこと見つめる一途な片想い少女演じてきたわけですか?」

「ええ!」

あたしは彼女の言葉に声を失う。そんなふうに思われるなんて、考えもしなくて――。

「そ、そんなこと! ほんとに父親同士親友なのも、この間まで全然知らなかったし!」

何言い訳してんだ、あたし!
でも、知ってたらなー。もっと前から入江くんと知り合うこと出来てたのかも……。幼馴染み同士で、小さな恋のメロディー……なーんて……
いやいや、今はそんなことはどうでもよくって!

「で、でもあなたにそんなこと問い詰められる意味がわからない」

彼女はあたしの言葉にキッと顔を上げた。

「意味、わからないですか?」

挑むような…何処か哀れむような瞳――。

「少し前までこっち側にいたのに…」

「…え…」

「センパイ、想像してみて下さいよ。あのポスター……」

「ポスター?」

「センパイと入江さん二人が、枕並べて眠ってるイラスト付きの同棲報告の…」

理美とじんこのちょっとしたイタズラで貼り出されてしまって、同居がばれたあの貼り紙のこと?
同居を同棲って書かれて、入江くんにも『迷惑だ、これ以上おれのペースを狂わされるのはまっぴらだ』と、いわれて――あのときは流石に少し二人を恨んだな………

「想像してみて下さい。2年も片想いしていた相手が、自分以外の女子と同居してるって知って、どんな気持ちになるかって。
想像してみて下さい。入江さんとその娘が同じ部屋で一晩勉強して、一緒に転た寝なんかして、そんな写真が出回ってるなんて知ったら……どんな気持ちになるのか。入江さんのことずっと好きだった女子たちが今、どんな気持ちでいるのか」

「………」

あたしは何も云えなかった。
想像したら――。
想像したら、切なくて悲しくて胸の奥がきゅうっとして堪らなくなった。
速川さんはあたしのそんな様子を見て、ふっと蔑むような笑みを浮かべた。

「センパイもセンパイの家族も、入江さんの家族も……みんな無神経だわ。いくら親友同士でも同い年の男の子がいるのに同居なんて信じられない! 入江さんにとってすっごく迷惑なだけじゃないの?」

そう言って呆然と立ち尽くすあたしの前から、いつの間にか彼女はいなくなっていた。

迷惑――。

このワードは今のあたしには結構キツいかも。
そのまま暫く動けないくらいには凹んでいたかもしれない。


その頃からだった。
あたしの机や下駄箱に時折手紙が入れられるようになったのは。
初めはラブレター? と、どきりとした。
でも、その封筒は真っ赤だったりファンシーな花柄だったり――とても男の人からとは思えず……

中を開けてみると。

『死ね。ブス』

『早く入江家から出ていけ』

『入江さんのお母様に取り入ってんじゃねぇよ』

目を塞ぎたくなるような罵詈雑言の数々――。

それは一人だけからじゃなく、何人かが送りつけてくるようだった。
来るタイミングはだいたい、理美とじんこのイタズラだったり、おばさま手作りのビラが掲示板に貼り出された後が多い。

例えば、入江くんが「今日嫌いでも、明日は好きになってるかもしれない」と金ちゃんに話した翌日に、理美たちのの拡大解釈によって盛り付けられた、入江くんとあたしが結婚を誓いあったなどという貼り紙が全校を賑わした後とか。

例えば体育大会のあと、足を挫いて入江くんに背負われて保健室に行った日の翌日とか。

例えばF組のみんなが入江家に押し掛けて試験勉強みてもらった後に、お礼を兼ねたサプライズクリスマスパーティー仕込んだ後とか。(おばさまが撮ってくれたツーショット写真が翌日掲示板に貼られたんだよね……)

例えば入江くんがあたしのためにT大受験をやめたらしいという噂がたった後とか。

手紙は思い出したように時折あたしの元に舞い込んで来る。

「琴子、その手紙どうしてるの? お父さんとかに相談した方が良くない?」

理美とじんこに手紙のことを話したらひどく心配された。

「話さないよ。心配させたくないもん。手紙は夜こっそり台所で燃やしてる。なんか燃やすと浄化される気がして……ほら、きっとこんな手紙出しちゃうくらいだからこの人たちの心は暗くて重くてどろどろしてるんだろうなぁって。なんかただの勘違いであたしと入江くんは何もないのに、不安になってるんだろうなぁって思うと申し訳ない気もしてくるし。その心が少しでも軽くなりますように、って手を合わせて祈りながらね……」

「何アンタ、こんなの寄越すバカ女の気持ちに同情してんのよ」

理美が真剣に怒ってる。

「別に同情してる訳じゃ…」

「じゃあ同調?」

「同調ってわけでも……ただ…やっぱり、気持ちわかるっていうか……あたしだってすごくショックだよ、もし入江くんとA組女子の誰かと噂になったり、写真撮られたり、その子が入江くんのお母さんに気に入られてるとか知ったら…もう立ち直れないかも」

「立ち直れなくても、琴子は絶対その相手の女を傷つけるような真似しないでしょ?」

「ていうか、そんなこと考えもしないよね?」

妙に毅然と二人が迫って来る。

「……そんなことわかんないよ……もしかしたらあたしだって……」

どうしようもなく相手を憎んでしまう一瞬があるかもしれない。
そんなのその時が来ないとわからない。
今は入江くんが誰にも関心がないって知ってるから普通でいられるだけ。
もし入江くんに誰か特別な人が現れたら?
あたしはその人を妬まずにいられるだろうか?

「ううん、琴子は絶対にしないよ」

「うん、例え入江くんに本命が現れたって、そりゃ嫉妬はするだろうけどさ、人間だもん。だからって琴子は絶対その相手を傷つけようなんて思わないよ」

「あたしたちは、アンタがそんな娘じゃないと知ってるから」

「そんな手紙出すオンナの気持ちなんて解ろうとしなくてもいいんだからね!」

「……ありがとう」

一生懸命あたしを励ます二人の気持ちが嬉しくて、涙が止まらなかった…。


その後も。
高校を卒業して、大学に入った後も。
時折だけれど手紙はやって来た。前ほどたくさんではないけれど、やっぱりあたしと入江くんの噂が大学で流れたり、掲示板に貼られたりする度に、手紙はあたしの元にやって来る。
中でも一番頻繁に届けられる真っ赤な封筒は、何故だか速川さんの挑戦的な顔を思い起こさせた。
彼女も、斗南大の英文科に入学したらしいというのは理美から聞いたけれど、広い大学のこと、会うことはなかった。

そして怒濤の大学3年の夏。休学中の入江くんがお見合いをして、婚約したらしい、という噂が大学中に駆け巡った時。

届けられた真っ赤な封筒。
中には――

『ザマアミロ』

あたしは流石に手紙を焼いて浄化しようなんて気持ちになれずに、びりびりに破り棄てた。



多分あたし史上最悪の夏が過ぎようとしていた。
いっぱい泣いた。涙が枯れ果ててしまうんじゃないかと思うくらい泣いて泣いて。入江くんを忘れる為に苦しいくらいの努力をして。

どうして同居なんてしたんだろ?
一緒に住んでいなければきっとただの憧れだけで終わっていた筈。こんなに入江くんのことを諦めきれないくらい好きになることなかったかもしれない。
こんなに苦しい想いをしなくてもすんだのかもしれない。
考えたって仕方のないことばかり、堂々巡りで考え続けてた。



それから季節はいつの間にか秋に変わった。暑くて苦しかった夏の気配がすっかり消え去り、ただもの悲しい切なさを際立たせている冷たい風が心を突き刺して通り抜けていく頃――。

あたしの運命は再び大きく廻りだした。



入江くんとあたしは結婚することになったのだ。

夢のようなkiss。
夢のようなプロポーズ。
夢のような結婚式。
夢のようなハネムーン。

あの雨の夜のまるでドラマのようなキス、そしてプロポーズ……あたしはあの瞬間からずっと夢の中をたゆたっているようだった。

そして……夢のようにあたしたちは結ばれた。あたしは紛れもなくあのハネムーン最後の夜、世界一幸せな花嫁だった……はず。


でも夢のように幸せだったのはハネムーンから帰ってきた翌日までだった。
家に帰ったとたん入江くんは入籍もしてくれず、会社に行ったまま、全く帰って来なくなってしまったのだ。

大学ではまた様々な噂や憶測が乱れとんだ。

ソッコー愛想尽かされて成田離婚だとか、しょせんゲイを隠す為の偽装結婚とか。
みんなあたしに同情してくれたけれど、あたしの心はーー。
なにが何だかわからないまま、皆から云われる言葉ひとつに青くなったり不安になったりして宙に浮いたままのよう。
あまりにも急転直下の展開の速さに心も身体も全然付いていけていない。




そんな時、久しぶりに例の手紙が届いた。
あたしは憂鬱な気分のまま、その赤い封筒に鋏を入れた。



『夢から醒めた気分はいかが? もうあなたの夢はおしまい。これがあなたの現実よ』



                                         
           ――本編に続く。



※※※※※※※※※※※※※



と、いうわけで入江くん不在のプロローグはこれにて終了(^^;次からやっと本編です。世にも奇妙な世界(?)へようこそです……(^^;
我ながら手紙って(しかも真紅の封筒!)ベタというかアナログだなぁと思いつつ……(笑)でも重要なアイテムだったりするんですよ、これが(^^;




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管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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