彼女は美しい夢を見る。 プロローグ(2)


                             



「なんか今年の新入生たち、妙に可愛い娘多くない?」

あたしの溜め息混じりの問いかけに、理美とじん子は「そう?」と、あまり関心無さげに応えた。

2年に進級し、クラスのメンバーはほぼ1年時と一緒。担任の先生も同じ。
入江くんとの距離もなにひとつ変わらず、あたしはA組の教室の外から、あるいはテニスコートのフェンスの外からしか彼のことを窺い見るしかない。

そんな外側メンバーたちには新顔が増えた。
新入生たちだ。
「チョーカッコいい先輩がいる」という話はあっという間に1年生の間で拡がって、入学式の翌日には既に2Aの教室の廊下には新しい入江ファンが行ったり来たりしていた。なかには結構可愛い娘もいる。
いっこ年下ってだけで随分とピチピチきゃぴきゃぴして見えるのは単なる僻みかしら?

「でも、入江って別に面食いじゃないでしょ? あんたみたいに」

「そうそう、去年1年間でアイツに告ったのって、自分に自信のある名だたる美女若しくは美少女ばっかだったじゃん」

「顔が良かろーが悪かろーが、女に興味ないんだから関係ないでしょ」

「マジでアイツ、ゲイかもよ?」

「そういや、親友の渡辺くんと出来てるって話も…」

「やだあ~もう止めてよ~! そんなことないって~」

際限ない理美たちの冗談にあたしはささやかに抗議する。

「やだ、マジで怒らないでよ、琴子ってば」

「そう、少なくともアイツは顔で心を動かされるわけじゃないんだからさ、いくらうちらより若いきゃぴきゃぴした新入生が何も知らずに入江に告ったって一緒だよ」

「そうだよ、焦ることないって」

……どうやら彼女たちはあたしを励まそうとしてくれたらしい。

「…ありがと」

うん、そうだよね。
彼の周りに女の子たちが増えたって、あたしには関係ない。あたしはあたしで、ただ彼を見つめ続けるだけ――。


やがて1年女子たちも何人かが入江くんに告白して玉砕した、なんて話を何度となく耳にした。
そのせいか、1学期も半ばを過ぎた頃には4月当初よりも入江くんの周囲をうろつく女子の数は落ちついてきた。
そんな中で、あたしはしょっちゅう見掛ける常連の1年女子の娘と時折話をするようになった。

「入江さんって髪の長い女の子が好きって本当ですか?」

そんなことを訊かれたのがきっかけだったと思う。

「うん、あたしもそんな噂を聞いて髪を伸ばし始めたの」

入学当時は肩につくかつかないかって長さだったけど、今は肩甲骨あたりまである。

「でもそもそも女嫌いな入江くんが、女子の容姿の好みなんて口にするのかなぁって後から思ったんだ。だからただの都市伝説かも」

ただあたしは思いの外ロングが似合っていたらしく、理美たちに絶賛され気を良くして、そのまま伸ばしてる。

「あなたは、その髪型すごく似合ってる。無理してロングにすることないよ」

「そうですかぁ? ふふっあたしも今の髪型気に入ってるんです。あたしひどいクセっ毛だから伸ばすとうざったくて。ストパーかけるのも傷むし、お金かかるし。センパイいいですね~さらさらなストレートヘア。すっごく綺麗で羨ましい」

「へへっありがとう」

それから彼女とはよく話すようになった。
彼女――1年D組速川萌未(はやかわめぐみ)――子猫を思わせる人懐っこい瞳をした、ショートカットの似合う女の子。
牽制しあってる同学年の娘たちと思うと、屈託なく話し掛けてきた速川さんにちょっと好感を持っていた。それに部活に在籍していないあたしは「センパイ」って呼ばれることは滅多になくて、彼女の可愛い声で「センパイ」と呼ばれる度に妙なくすぐったさを感じていた。

「ねぇセンパイ! もうすぐ修学旅行ですよね~! いいなあっーあたしもセンパイの鞄の中にでも入ってついていきたいなぁ~」

速川さんは本当に羨ましそうだ。
確かに学年が1つ違うって凄く大きいよね。どんなに勉強頑張っても決して同じクラスにはなれないのだから。そう思うとチャンスがあるのに生かしきれないあたしって何なの? と自分に憤りすら感じてしまう。


「……ああ、修学旅行ね…」

あたしは低めのテンションを隠しきれずに呟いた。そう、修学旅行。同学年の特権。
なのに。

「ええ~楽しみじゃないんですかぁ?」

驚いたような速川さんの表情。

「うーん、旅行自体は楽しみなんだけどね」

今年の修学旅行は沖縄。家が自営で、滅多に旅行に行ったことのないあたしは当然沖縄も初めてで、理美とじん子とも同じ班になってスッゴく楽しみだ。
でもね。

「…実はAからC組までが第1グループで、DからF組が第2グループって感じにばっさり分けられちゃってね、行動もホテルも別々なの」

2つのグループはまるっきり逆ルートから進むので一緒になることはない。

「ええ~!   じゃあ入江さんとはまったく接点なし?」

「そうなの……」

ほんとにそれを知った時ショックで暫く立ち直れなかったわ。
たとえクラスが違っても、もしかしたら修学旅行で知り合うチャンスがあるかもしれないって、1年の頃から期待してたのに。
そうと知っていたら、せめてC組になれるくらいには死ぬ気で勉強したのに!

「……残念ですぅ……もしかしたら入江さんの写真とかセンパイからもらえないかな~って……ちょっと期待しちゃってました」

「……うっゴメンね…役に立てなくて」

ああ、ほんとに不甲斐ないったら……

そして修学旅行は、無事に滞りなく終わり。ええ、勿論楽しかったわよ。理美にじんこに金ちゃん。気心の知れたメンバーたちと沖縄を満喫したわ。
青い海に美ら海水族館に首里城に……。
でも入江くんと会うことは全くなく。
旅行のどさくさで何人かの女子が告白して、やっぱり玉砕したって噂だけが耳に入ってきた――。

旅行中の入江くんのエピソードなんか訊けないかな~って顔馴染み追っかけメンバーに話し掛けて見たけどあっさり無視された。
まあ男子から漏れ聞いた話によると、やっぱり渡辺くんとかとずっと一緒で、グループ行動でも一度も女子たちとは行動を共にしなかったらしい。
男子たちは、入江と一緒なら女子が寄ってきて仲良くなれるかも、なんて甘い期待してたらしいけど、入江くんが女子たちの誘いを全てぶったぎったんだって!
それを聞いて、ちょっとだけ胸がすっとしたかな。




「ねぇセンパイ! 入江さんの誕生日って今月の12日ですよね? 何かあげるんですか?」

速川さんがにっこりと云う。

「え? 11日じゃないの?」

去年みんなが11日にプレゼント攻撃しているのを見て、てっきりその日が誕生日だとばかり思ってメモってたんだけど。

「去年は、12日が土曜日だったんじゃないですかぁ?」

「ああ……」

「相原センパイってば、面白すぎ。あれだけ熱心に追っかけしてて誕生日も知らないなんて」

……ううっ
返す言葉もないです。

「……でも……誕生日だからって特に何もしないよ。どうせ受け取ってもらえないし」

――いつか……ちゃんと知り合えたら……その時はきっと。



「ねぇセンパイ!」

速川さんがいつものように明るく話し掛けてくる。

「あたし、とっても素敵なこと思いついちゃいました」

とても楽しそうに、いたずらっ子みたいな瞳をして。

「……入江さんのファンクラブつくりませんか?  センパイ、会長になってください!」

ーーはい?

                                             







※※※※※※※※※※※※※※※


オリキャラ登場(^^;
割りとキーパーソンだったりします……。



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管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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