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月下の一族 ~第二夜~ マイ・リトル 1

2014.10.29(00:16) 34


とりあえず第二夜明治編、続けます。二話くらいでさくさくっと終わらせたいのですが……


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時は明治。
まだご維新から僅か数年しか経っておらず、政情は不安定で、内乱や暗殺があちこちに蔓延っていた時代に私は生まれたようです。
無論赤ん坊の頃のことなど覚えていませんし、私はそうした浮き世とは隔絶したところで幼少時代を過ごしていました。

私が育ったところ――今となっては其処が何処だっだのかさっぱりわかりません。
森の中の一軒家。
周囲には家もなく、集落も有りませんでした。

恐らく元は木こりか杣人(そまびと)の山小屋あたりだったのでしょうか。炭を焼く大きな窯もあったので、炭焼き小屋かもしれません。

私はそこで、父と母と三人で暮らしておりました。
当時の年代を考えますと恐らく世間の庶民たちはまだ、髷に和装という姿が一般的であったのだろうと、今になって思うのですが、父は西洋の人のように衿もとの長さ程の短髪で、母は長い髪を結うこともなく、風にたなびかせておりました。共に衣服は粗末な木綿の和装でしたが、背の高い父はそれは美しい顔立ちで、どのような衣服を纏っていてもその美しさが損なわれることはありませんでしたし、母は母で、それは愛らしい人で父が選んで来たらしい何枚かの着物や浴衣を喜んで身に付けておりました。

私はそれこそ物心ついてから、父と母以外の人間を見たことがありませんでした。私の友達は山のなかの鳥や鹿や栗鼠や猿たちだけでした。
山には熊や狼など危険な獣の遠吠えなど聞こえましたが、私たちの山小屋が襲われることはありませんでした。どういうわけかあの周囲は何かの力で守られているように思いました。

私は父から様々なことを教わりました。文字や言葉だけではありません。空を見ながら星や月や太陽の動きの理(ことわり)を学び、風や雨や雲の流れを見て自然の営みの理を学びました。
あらゆる草や樹木の名前を教わり、その薬性や毒性についても学びました。
物の数え方から数学の知識を身に付けて、必要だからと、英語やオランダ語も教わったのです。

母からはここにはいない人間の暮らしについて教わりました。教わった――というよりは、ただ絶え間なくおしゃべりをしていただけと思います。
くるくると表情を変えて、笑ったり泣いたり本当に忙しなかったのですが、母の話す物語は本当に楽しくて、私たち三人以外の人々がどこか別の世界に住んでいるということはすんなりと受け入れられました。
神社のお祭りの夜店の楽しかったことや、隅田川の花火の話、京でお花見をしたことや、長崎で西洋の方にかすてらやパンの焼き方を教わったことなど、話はとりとめもなくあちこちに移りました。この山の麓の村の田畑を耕す人の話も聞きました。農家の人たちがそれはそれは汗水流してこのお米や野菜を作っているのよ、と。どうやら私の食べるものはその農村で分けて貰っていたようです。
おそらく焼いた炭や、薪、山菜や茸などと交換していたのでしょう。
ただ、そうした食事をしていたのは私だけで、父と母は初めは私に物を食べるということを教える為に食べ物を口にしているだけでした。私が食べる楽しみを知るようになると、全く食事に手をつけることなく、ただ調理をして私に出すだけなのです。

「どうして父様と母様はごはんを食べないの?」そう訊ねると、

「父様と母様は食べなくても生きていけるのよ。でも、あなたはちゃんと食べるのよ。食べないと大きくなれないから!」
そう言っていたので、私は大人になったらもうごはんを食べなくてもいいのだと思っていました。

もっぱら料理するのは父の方でした。
お米を炊くのも野菜を煮るのも父の方が断然上手だったのです。
母も時々作っていましたが、大抵材料を駄目にしてしまうので、よく父から怒られていました。
焦げたり煮崩したり、御飯はたいていお粥になっていたり。それでも母が一生懸命作ってくれた料理も私は好きでした。しょっぱかったり薄かったりしましたが二人が喧嘩をしながらも一緒に料理をしている様を見るのも好きだったのです。

二人はそれは仲のよい夫婦でした。
喧嘩もしましたが、たいてい二人一緒にいることが多かったのです。
太陽が苦手で余り外に出るのことはなかったのですが、子供はお日さまの下で遊んだ方がいいと、なるべく自分たちは木陰にいて、私が外で遊ぶのを見守っていました。
満月の時期なら外に出ても大丈夫だと、母は一緒に鬼ごっこや石蹴りにも付き合ってくれました。
後々思えば二人とも本当は昼間は眠り、夜に起きる生活が合っていたのに、私を育ててる間は無理をして、昼に起きている生活をしていたようでした。

私が少し大きくなって夜遅くに起きていられるようになると、月光浴を楽しむようになりました。
二人は月の光が好きなようでした。

満月の下で、父は本当に美しく、私はいつもうっとりと眺めていました。
すると母が、「だめよ、みーちゃん、父様は母様の旦那様なんですからね」と、茶目っ気たっぷりに笑うのです。

本当に――仲のよい夫婦でした。



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短くてスミマセン。しかも淡々とした琴美ちゃん語り。これでは二話では終わらないかな~?

ハロウィンまでに終わらせられるのか? このシリーズ……(._.)




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Snow Blossom


2014年10月29日
  1. 月下の一族 ~第二夜~ マイ・リトル 1(10/29)