ぴんく★りぼん (後)



すみません、長いです。中編にすれば良かったと後悔…………(._.)


※※※※※※※※※※※※※※※※※


「………しこり?」

直樹は茫然と、傍らで少し不安気に自分を見つめる琴子を凝視した。

--馬鹿な……!

一昨夜抱いた時には全く気がつかなかった。しっかり触診したのは1ヶ月も前だが、胸はいつも丹念に愛するので、しこりがあって違和感を感じない筈はない--そう思っていたのに。

「……右胸になんだけど…小さいからね…気のせいかなぁとも思ったんだけど」

「…見せてみろ」

直樹の手が琴子のパジャマの釦に伸びる。
いつもはあっという間に外されてしまうそれが、今はなかなかに手間取っている。指先が少し震えているようである。

漸く釦を外すと、淡い花柄のキャミソール姿が露になった。いつもならここで押し倒してキスするところだが、今はそれどころではない。キャミソールの右の肩紐を外すと、右の胸だけはだける。

「……ここだけど…」

琴子の指し示す箇所を指でぎゅっと圧す。
つんとたった赤い実の少し右上のあたり。

指先に硬い何かがぐりっと当たった。

「……………!」

背筋がぞわっとした。

「…あるな」

「……でしょ?」

「……一センチはないな」

「うん……」

自分の心拍数が跳ね上がるのを感じる。嫌な汗が腋を伝う。

皮膚に近い位置だ。それに圧せば動く。
実際に乳癌患者の腫瘍に触れたのは研修医時代の一度だけだ。進行もひどく大きさも随分あった。今触れているものとは随分違っている。

「良性のものだと思うが……」
専門ではないから、自信はない。そう思いたいだけかもしれない。

左の胸や、リンパに沿った腋下も入念に触診し、他にはないことに安堵する。

「とりあえず、明日朝一で乳腺外科に行くぞ」

「……うん」

まだ少し不安気な琴子の髪を撫でてから、パジャマの釦をゆっくりと留めてやる。

「大丈夫だよ」

そう云ったのは琴子のほうだった。
さっきまで不安気だった琴子の顔は、直樹に診てもらったことで安心したのか、パジャマの釦がきっちり留め終わった頃には妙にスッキリしていた。

「ほら、胸の小さい方がガンになりにくいって云うじゃない?」

「脂肪部が少ない分パーセンテージが、減るだけで、ゼロじゃない」
どんな病だって発症率がゼロということはないのだから。

「でも入江くんはガンじゃないって思ったんでしょう?」

「…専門外だからな。断定は出来ない……」

「大丈夫!」

琴子がぎゅっと抱きついてくる。

「……ガンでもガンじゃなくても入江くんが傍にいてくれれば、あたしは大丈夫だから……」

心から大丈夫と思っているのか、琴子は直樹の腕の中であっさり寝入ってしまった。
しかし直樹はなかなか寝付けない。
もしも。万が一。
そんな想いがぐるぐると巡り、経験のないような緊張感が全身を包んでいた。
心拍数が上がり、咥内がカラカラに渇いていた。

これが自分だったら案外冷静でいられるのだろうと思った。
逆に琴子の方が激しく取り乱すだろう、とも。

………自分よりも大切な者がいるということは、こういうことなのだと改めて思い知る。相手を守るためには自分の命を投げ出すことすら厭わないくらい強くなれるのに、失うかもしれないという恐怖は自分の弱さを露呈させる。
小さな不確定なしこり一つで、自分がここまで不安に苛まれるとは思ってもみなかった。明日になれば判ることなのに……。

--俺は、今まで患者やその家族の気持ちをきちんと慮って告知や治療をしていただろうか。

相手は子供だったりその母親だったりするから、努めて冷静に穏やかに、そして優しい口調で、命に関わる病の告知をしてきた。
泣き叫ぶ親の痛みや辛さを頭では理解していても、本当の痛みは分かっていなかった。いや、分かっていないことは分かっていたのだ。自分の身に振りかからない限り、その痛みは所詮想像に過ぎないのだから。真の痛みを理解している訳ではないのだと。

そして、今。
直面したこの恐怖に近い不安。
医師であるがゆえに、もしこれが悪性だった場合の今後の展開も治療方針も全て予測しシュミレート出来ているのに、胸の奥に重い塊が鎮座して、理性では抑えようのない不安に支配されていた。

………大丈夫。

琴子の声を思い出す。

そう、きっと大丈夫。明日の夜はきっとぐっすり眠れる筈--。


直樹は、いつも通りの穏やかな寝息をたてる琴子を抱き締めたまま、まんじりともしない夜を過ごした。





--そして、翌日。
直樹は斗南大学附属病院の、乳腺・内分泌外科の外来受付の前で少々悩んでいた。

「入江くん、どうしたの?」

琴子は初診受付の横のベンチに座って問診票を記入していたが、外来担当医師のシフト一覧の前でしかめっ面をして動かない直樹の様子を訝しんだ。

「……いや」

そう言いつつも、直樹は己れのリサーチ不足を悔やんでいた。
乳腺外科の外来担当は毎日二人ずつ、四人の医師が曜日ごとにローテーションしている。今日火曜日は二人とも男性医師
だった。
女性医師で斗南の中でもっとも乳癌のオペの経験値が高い三田村は、明日水曜日の担当だった。

明日まで待てば良かったか--いや。
確かに1日2日で状況が変わるものではないが、もう1日あんな思いをするのは真っ平である。さっさと診てもらって安心したい、というのが本音だった。

とりあえずどっちにするかだが。
まだ研修1年目の田神は問題外だ。仕方ない。専門は内分泌だし非常勤ではあるが、30代後半でキャリアもそこそこある笹木医師の方がマシだろう。

直樹は琴子の書いた問診票を受け取って
そのまま勝手に診察室に入っていく。
半休を取っているのに、わざわざ白衣を着てきたのはその為だった。まさか妻の付き添いにきた夫が、診察医師と順番をごり押しして変更させる為に医者の格好をしているとは思うまい。
だが大学病院の診察は、予約をしないと順番が来るのは半日がかりだ。担当医師もたまたま最初に当たった医師がそのまま主治医となることが多い。
乳腺外来の患者は、数も多いが一人の診察に意外と時間がかかる。診察時間の一時間前だが、もう多くの患者が待合室にひしめいていた。
正当な順番を待っている患者に申し訳ないとは思うが、自分自身も患者を抱えていて、待っていられないのが実情である。

「入江琴子さん、先にマンモグラフィ検査しますね。こちらの放射線科に来てください」
看護師が呼びにきた。

「げっ! 噂のマンモ!」

琴子が嫌そうな顔をする。
乳癌検診では40歳以上にならないとマンモグラフィ--乳房画像検査は行わない為に、マメに検診を受けている琴子も未体験だった。
ただ話にはよく聞いている。乳房をガラス板で相当キツく--万力で押し潰すかのように挟み込みエックス線撮影するのだが、かなり痛いと評判である。
「デカイ胸の人は痛いっていうけどな……お前の場合は大変なのは検査技師の方だな」

「…え?」
振り返った琴子に、
「いいからさっさと行ってこい」
と、手をはたはたと振る。




「うー痛かったよ~」

琴子か半泣きで戻ってきた。

「それに、検査のお姉さんに凄く申し訳なくなっちゃって……」

がっくしと頭を垂れる。
案の定小さな胸を挟み込むのに悪戦苦闘したようだった。

「腋の肉まで引っ張られて無理矢理板に挟もうとするんだけれど、なかなか挟めなくて……」

はぁ、とため息を一つついてから、
「Aカップの弊害がこんなとこにもあるなんて。……お姉さんに、大丈夫ですよ、もっと小さな人もちゃんと測れますからね、なんて励まされちゃって」と、項垂れる。
普段なら、失礼しちゃうわね、などと云って剥れてしまうのだろうが、そこで申し訳なく思うあたり同じ医療従事者であるが所以だろう。自分の細い血管が針が刺しにくい為に健康診断で採血する度、自分に当たった看護師に果てしなく申し訳なく感じてしまうのと同じである。

「入江さん、入江琴子さん、1番の部屋にどうぞ」
検査から20分ほどで、まだ診察時間前だが笹木医師の声がアナウンスで流れた。

「あれ? 早いね」

不思議がる琴子を尻目に自分の方がさっさと中に入る直樹。



「……しこりがあるそうで」

椅子に座っている琴子の背後に妙に威圧感を持って立っている直樹の姿に少々圧倒されながら、笹木医師は問診票を眺めていた。
デスクには先程の画像検査の写真が貼り出されている。一見して直樹はそれが悪性でないと確認出来、密かに安堵した。

「じゃあ上半身脱いでベッドに横になってください」

「あ、はい…」

ベッドの周りのカーテンを引いた看護師に促されて、琴子はその中に入り、あたふたとブラウスを脱ぎ始める。
そして当たり前のようにカーテンの内に入り込んだ直樹に医師と看護師は一瞬目を瞠った。
小さな子供や介助の必要な者でもない限り、身内といえどわざわざこの狭いカーテンの内に入らない。

「ほら、もたもたすんな」

「あん、だって入江くんが焦らせるから……あっ!」

脱いだ服を篭に入れ、肩にケープを羽織っているらしい彼女から小さな叫び声が聞こえた。

「…どうしました?」

看護師が覗き込むと、琴子は肩のケープがずり落ちないように胸を隠しながら手で押さえてベッドに腰掛けていた。俯いている顔がどうやら真っ赤になっている。

「もう……入江くんの馬鹿ぁ。……夕べ気がついていたんでしょ?」

「…仕方ねぇだろ? どうせ直ぐに消えねぇし。消えるの待ってから来るのも落ち着かないし……っていうか、おまえ、さっきマンモやった時に気が付かなかったのかよ?」

「初マンモに怯えて気が付かなかった……」

「技師は気がついていたろうな、きっと……」

「…こんなに付ける方が…」

小声でボソボソと話している二人の会話に、?マークを乗せながら、
「仕度が出来たらベッドに寝てくださいね~」と、看護師は努めて気にしないように琴子を促す。


「じゃあまず触診しますね」

ベッドの横に立った笹木医師がケープを外す。琴子の上半身にいくつも付いている赤い花びらに一瞬手を止めかかったが、素知らぬ振りでそのまま続ける。
真っ赤になっている琴子に、
--可愛いなぁ、入江先生の奥さん。……にしても、入江先生って意外と……
などと微かに思ったりしていたが、思った瞬間に恐ろしい程の殺気を感じて、思わずベッドの傍らに立つ年若い同僚医師の顔を見た。

「さっさとお願いします、笹木先生」

--睨み付けられている気がする………無心になろう、無心に!

彼は自分自身にそう言い聞かせて淡々と触診を行う。仰向けに寝ている状態だとほとんど無いに等しい膨らみだが、間違っても乳輪の色が綺麗とか小振りだが形は綺麗とか--思ってはいけないのだ……(いや、普段、そんなこと思わないんだっ 誰の胸でもただの患部だっ ただ入江先生の奥さんであんな痕がいっぱい付いているから~)

落ち着けっおれっ

動揺を押し隠して笹木医師は触診を終え、「じゃあ次はエコー撮ります。少し冷たいですけど」と、ゼリーを胸に塗る。
すぐ横のPC画面に写し出された超音波画像を見ながら、直樹と笹木医師が何やら会話している。
ドイツ語だか英語だかの単語が飛び交っているが、二人の様子からどうやら悪性ではないと感じられ、琴子は少しほっとした。

「…胸に出来るしこりの殆どが良性の場合が多いんですよ」
笹木医師の説明に、
「良かった。ガンじゃないんですね」と、嬉しそうに傍らの直樹を見る。

「…?」

直樹も先程までの緊張した面持ちが解けてはいるが、どことなく不機嫌な感じがする。

「…一応しこりの成分を調べる為に細胞検査をしましょう」

「細胞検査………ってことは」
びくっと琴子が震える。

「ええ、針で細胞を採ります。ちょっと痛いですけど、すぐ終わりますよ」

「……入江く~ん」

琴子は泣きそうな顔で直樹の方を伺い見る。いや、見たって助けてくれる訳じゃないことは分かっているのだ。「看護師のクセして針刺されことなんかにビビるな」と、叱られることも分かっている。
でもとりあえずそう言って叱られないと前に進めないあたりすっかりM体質になっているのかもしれないが……。

しかし。

「いえ、細胞診は結構です」

「……そうだよね、痛いのくらい我慢しないと………って、え? え? え? 今なんて?」

「へっ? 受けないんですか? やっぱりいくら良性とはいえ、どんな種類の腫瘍かは確認した方が……それによって摘出するか放置するか決められますから」

笹木医師も驚いたようだ。

「細胞診の結果が何であれ、摘出します。摘出した腫瘍はどうせ病理検査に回すんだから、忙しい病理に二度手間させることもないでしょう」

「取っちゃいますか? でも良性ならそのまま放置でと石灰化して消えることも多いですよ? まあ、取る取らないは患者さんの判断次第ですが」

いくら旦那でも本人に訊かずに即決とは、どーなんだ? と言いたげに直樹の顔を見て、それから琴子の顔を見る。

「摘出」イコール「オペ」という図式が看護師らしく直ぐに思い至ったらしい琴子は少々青ざめている。

「エコー、マンモ、細胞診で良性と出ても摘出したら悪性だった、という症例もあります。良性の腫瘍の裏に悪性のものが隠れていたという例も。無論それらは稀なケースですが、腫瘍という身体に不必要なものを残しておく必要はないでしょう」

キッパリ宣言する直樹に、
「摘出ってことは傷が出来るんだよね? ………胸に…」不安そうに見つめ、けれど、
「やだっ あたしったら……悪性だったら小さな傷一つじゃすまなかったかもしれないのに……!」と、乳房全摘の恐怖を思ったらどうってことないのに、と反省する。

「しこりの大きさは1センチくらいですから、大した傷は残りませんよ。多分数年で消えます」

「俺に任せれば、半年で傷痕が消えるくらい綺麗に切ってやるぞ」

直樹の言葉に、
「ええっ入江くん、切ってくれるの?」
と、琴子が嬉しそうに叫ぶと、笹木医師が慌てて立ち上がる。

「え? ちょっと、冗談ですよね?」

「割りと本気ですが」

「でも身内のオペはここでは禁止ですよね?」

「オペなんて大層なもんじゃないでしょう? こんなの隣の処置室で20分もあれば、ちゃちゃっと取れる」

「でも小児外科の入江先生に乳腺外科の処置をしてもらう訳には……」

「うちに琴子のカルテを回してもらってもいいんですが、さすがに小児ではないので……。出来れば俺がここの応援って形で」

「そんなの許可が出るわけないでしょう! 私は非常勤だからそんなこと頼めませんよ!」

笹木医師の悲痛な叫びに直樹はあっさりと宣(のたま)う。

「大丈夫です。こういう時の為に、外科部長の弱味握ってますから」

--もう、何も言えません………。

「それに」追い討ちをかけるような一言に完全に打ちのめされる。

「……笹木先生。俺より綺麗に取れる自信ありますか? 俺、こいつの胸に下手な傷痕残したら絶対に許しませんよ?」

--どうぞ好きにしてください………。


「じゃあ、いいな? 琴子。俺が切るぞ」

「わーっ 本当に入江くんがやってくれるの? だったら全然怖くないよ!」

「おまえ、俺じゃなくてもこれくらいでビビるなよ。奈美ちゃんやノンちゃんに大手術薦めといて」

「はは……そうだねっ」
すっかり安心しきった表情の琴子に直樹も穏やかな顔になる。

「……で、午後から隣の処置室空いてますか? あと、ナースを一人貸してください」

「今日やるんですか!?」

何なんだこいつはっ

医師としてのキャリアは自分のほうが断然上の筈だ。なのにこの圧倒的な自信を持った男を前にして何も異論を挟めない。

「こんなもの、さっさと取ってしまった方がいいでしょう?」

平然と答える直樹の言外に、妻の身体に異物が1分1秒でも入っているのが嫌なのだということが感じられ、妙な脱力感を覚える笹木医師であった--。



「ああ、それと」
処置室の確認や段取りを終えた後、直樹は最後に、まだ正規の患者を一人も見ないうちにすっかり疲れきっていた哀れな非常勤医師に声をかけた。

「ここで見た琴子の身体は、綺麗さっぱり忘れて脳内記憶を消去してください。それから触診の感触も」

……こいつは~!

はじめは身体のあちこちに付いていたキスマークのことかと思いきや、どうやら診察時に見た上半身のことを言っているのだと気がついた。

「守秘義務がありますから喋りませんよ、そんなこと」
心外だとばかりにそう言い放つと、
「そんなの当たり前です。口外するしないの問題じゃなくて、先生の頭から琴子の画像を消してくれ、と言ってるんですが」

「「………………!!」」

「じゃあよろしくお願いします」

そしてこのとんでもない夫婦は彼の前から去って行ったのである………。

「驚いた……入江先生って噂と大分イメージ違いますね~」

看護師が呆れたように呟いた。
最近育休が空けて、久しぶりに復職したばかりであった。
あまり科内の裏事情に詳しくはないが、超イケメンで優秀と名高い医師の評判と、どじでトラブルメーカーな看護師であるというその妻の評判は、入って早々耳にしたくらい有名である。

「……噂って、入江先生が妻に冷たくて、蔑ろにしてて、妻は旦那を片想いの如く追っかけて……ってやつ?」

「今の二人見る限り、そんな感じじゃないですよね? 噂って、周りの女性たちのそうあって欲しいって願望ってことかしら?」

「……だろうな…。公私混同の意識の欠片もない、奥さんに対する偏愛っぷり……あれは間違いなく……」

「「バカップル………」」」
二人は毒気を抜かれたようにため息をついた。

「…で、先生。入江琴子さんのカルテ、どういう事務処理にすればよいでしょうか?」

「知らないよ………外科部長に聞いてくれ……」



さて。
直樹の予定通り、その日の午後には、彼は妻の腫瘍をちゃちゃっと摘出し、病理室に軽く睨みを効かして病理検査の結果をかなり迅速に出させたところ、特に問題のない脂肪腫だということが判明した。





そして1ヶ月後。

「本当に凄いね、入江くん! 痕がもう殆ど残っていないよ!」

ベッドの上で琴子のパジャマを脱がしに掛かっていた直樹に、自分からキャミソールをずらして、すっかり綺麗になった傷痕を見せた。

「当たり前だ。俺の処置は完璧だ」

「ふふっ本当入江くんって天才!」

琴子の絶賛ぶりに気をよくしながら、直樹はそのまま傷のあった筈の箇所に唇を落とす。

「…でも、やっぱり麻酔注射は痛かったなぁ……痛くない注射発明してくれたら、あたしもっと尊敬しちゃう!」

「おまえ、少しは痛みに慣れた方がいいんだよ」

「えー?」

「出産の痛みに耐えられるのか? そんなんで」

にやっと笑う直樹に顔を赤らめる琴子。

「入江くんの赤ちゃんなら痛くないもん」

看護師の仕事にも慣れてきて、本格的に子供のことを考え始めていたところだった。

「……じゃあ、そういうことで」

部屋の灯りが消え、室内には濃密な甘い空気が漂い始めた--。






その数ヵ月後。琴子の胸を夫以外で初めて見て、触った男、笹木医師は非常勤の任期を終え、斗南病院から去って行った。

王様の耳はロバの耳--

言いたくて言いたくて堪らない秘密を抱え、彼は内心ほっとして斗南を去った。

「…いったい外科部長の弱味って何だったのだろう?」
無論その答えは永遠に分からないまま。
ただ、その後乳腺外科と産婦人科の医師は女性医師だけになり、それが女性にとって気安く検診を受けやすい環境になったと評判になり--斗南病院の売りとなる訳だが--それが入江直樹が握る外科部長の弱味と関係あるかないかは定かではない。


--------了------ー



※※※※※※※※※※※※※※※※※

金曜日中にアップしたかったのですが……土曜になってしまいました(T.T)

10月の第三金曜日。
アメリカでピンクリボン運動の日とされているそうで。

実体験半分くらい入ってるお話です。あとがきは、また明日にでも。



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管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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